説明

水溶性防錆液組成物

【課題】良好な防錆性能を有し、金属が積み重ねられた状態にあるなどの過酷な環境下においても、錆の発生を抑制することができる水溶性防錆液組成物を提供すること。
【解決手段】 水に、(A)下記の一般式(1)
(X)m−Ar−(COOH)n ・・・(1)
〔式中、Xは、NO2−,RO−,又はR−(但し、Rは、炭素数1〜10の炭化水素基)、Arは2〜4の結合手を有する芳香族炭化水素基、m及びnは1又は2の整数を示し、mが2の場合、Xは同一でも異なっていてもよい。〕
で表される芳香族カルボン酸を0.001モル/L以上、(B)炭素数8〜24の脂肪族カルボン酸を0〜1モル/L、及び(C)アルカリ金属の水酸化物及びアルカノールアミンから選ばれる少なくとも1種の塩基性化合物を配合してなる水溶性防錆液組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水溶性防錆液組成物に関し、より詳しくは、優れた防錆性能を有し、積み重ねられた状態など過酷な環境下においても錆の発生を抑制することができる水溶性防錆液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性防錆液は、油系の防錆油より取扱いが容易であり、また引火、発火の恐れが低く安全性が高いことなどから、冷延鋼板から成型品を製造する過程などの金属加工工程における防錆油剤として利用されることが期待されている。
しかしながら、金属加工における防錆油剤には、種々の環境下における防錆性能が要求される。例えば、冷延鋼板や表面処理鋼板などの鋼板は、コイルの状態で梱包されて製鉄所から出荷される。この際、鋼板には防錆油剤(いわゆる出荷防錆油剤)が塗布される。したがって、鋼板は、積み重ねられた状態、すなわち、密着積層状態で包装された状態におかれていて、錆の抑制にとっては過酷な環境下におかれている。出荷防錆油剤にはこのような苛酷な環境下における錆の発生をも抑制することを要求される。
密着積層状態で包装された状態におかれたコイル状鋼板は、その後、出荷先である自動車工場や電気製品工場などで、開梱され、洗浄され、プレスなどの成型加工後保管される。この行程では、洗浄油、金属加工油とともに、各金属成型行程間で一時的に防錆処理をするために防錆油剤(いわゆる行程間防錆油剤)を塗布する。そして、塗装部品の場合は、最終工程で脱脂化成処理が施され、その後塗装される。この行程間防錆油剤の場合は、大気曝露下での防錆性能を有することが必要である。
このように鋼板などの金属は、その成型工程で、種々の環境下で性能を発揮する防錆油剤を必要とし、例えば、積み重ねられた状態などの苛酷な環境下でも錆の発生を抑制することが要求される。また、防錆油剤には、洗浄性能や脱脂性能も要求される。
【0003】
従来、水溶性防錆液は、防錆性を有する水溶性切削液を流用することが一般的に行われていた。しかしながら、水溶性防錆液として流用された水溶性切削液は、防錆性を有するものの、積み重ねられた状態などの過酷な環境下における防錆性能を十分に有していないため、それが利用される範囲は限られた環境下におけるものに限定されていた。
また、近年提案された防錆性を有する水溶性切削液としては、例えば、アミノスルホン酸系化合物又はその塩を含有する水溶性金属加工油剤(特許文献1、参照)、芳香族性ヒドロキシル基を有するアミド系化合物又はその塩を含有する水溶性金属加工油剤(特許文献2、参照)などが挙げられる。しかし、いずれの水溶性金属加工油剤も従来の水溶性切削液と同様に、積み重ねられた状態などの過酷な環境下における防錆性能はいまだ充分なものではない。
したがって、水溶性液であって、良好な防錆性能を有し、積み重ねられた状態などの過酷な環境下においても錆の発生を抑制することができる防錆液が要望されていた。
【0004】
【特許文献1】特開2004−196830号公報
【特許文献2】特開2004−175872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下において、良好な防錆性能を有し、金属が積み重ねられた状態にあるなどの過酷な環境下においても、錆の発生を抑制することができる水溶性防錆液組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の芳香族カルボン酸、特定の脂肪族カルボン酸及び塩基性化合物を配合してなる水溶性防錆液がその目的を達成できることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、
1.水に、(A)下記の一般式(1)
(X)m−Ar−(COOH)n ・・・(1)
〔式中、Xは、NO2−,RO−,又はR−(但し、Rは、炭素数1〜10の炭化水素基)、Arは2〜4の結合手を有する芳香族炭化水素基、m及びnは1又は2の整数を示し、mが2の場合、Xは同一でも異なっていてもよい。〕
で表される芳香族カルボン酸を0.001モル/L以上、(B)炭素数8〜24の脂肪族カルボン酸を0〜1モル/L、及び(C)アルカリ金属の水酸化物及びアルカノールアミンから選ばれる少なくとも1種の塩基性化合物を配合してなる水溶性防錆液組成物、
2.(B)炭素数8〜24の脂肪族カルボン酸を0.005モル/L以上配合した前記1に記載の水溶性防錆液組成物、
3.(C)の塩基性化合物の配合量が、(A)の芳香族カルボン酸及び(B)の脂肪族カルボン酸の中和当量以上である前記1又は2に記載の水溶性防錆液組成物、
4.(A)の芳香族カルボン酸が、アルキル(アルキル基の炭素数1〜4)ニトロ安息香酸、アルコキシ(アルキル基の炭素数1〜4)安息香酸、及びフェノキシ安息香酸から選ばれる少なくとも1種である前記1〜3のいずれかに記載の水溶性防錆液組成物、
5.請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性防錆液組成物を希釈水で10〜50倍に希釈した水溶性防錆液組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水溶性防錆液は、良好な防錆性能を有し、特に金属が積み重ねられた状態にあるなどの過酷な環境下においても、錆の発生を抑制することができる水溶性防錆液組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、以下の条件を満たすものである。すなわち、水に、(A)下記の一般式(1)
(X)m−Ar−(COOH)n ・・・(1)
〔式中、Xは、NO2−,RO−,又はR−(但し、Rは、炭素数1〜10の炭化水素基)、Arは、2〜4の結合手を有する芳香族炭化水素基、m及びnは1又は2の整数を示し、mが2の場合、Xは同一でも異なっていてもよい。〕
で表される芳香族カルボン酸を0.001モル/L以上、(B)炭素数8〜24の脂肪族カルボン酸を0〜1モル/L、及び(C)アルカリ金属の水酸化物及びアルカノールアミンから選ばれる少なくとも1種の塩基性化合物を配合してなる水溶性防錆液組成物である。
【0010】
前記(A)成分の一般式(1)において、Rで示される炭素数1〜10の炭化水素基としては、直鎖若しくは分岐鎖を有するアルキル基、アルケニル基、アリール基が好ましい。好ましい具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基,各種(n‐,sec‐,tert‐,及びiso‐)ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基及びこれらのアルキル基(メチル基を除く)に対応するアルケニル基、及びフェニル基、アルキルフェニル基、フェニルアルキル基などを挙げることができる。中でも炭素数1〜8、さらには炭素数1〜6、特に炭素数1〜4のアルキル基、及びフェニル基が好ましい。
【0011】
Arの2〜4の結合手を有する芳香族炭化水素基としては、いずれも芳香環に1又は2の結合手を有する安息香酸残基、フタル酸残基、イソフタル酸残基、テレフタル酸残基などの芳香族のモノカルボン酸残基やジカルボン酸残基が好ましく、中でも入手が容易である点で、安息香酸残基やフタル酸残基が好ましく、特に安息香酸残基が好ましい。
【0012】
前記一般式(1)で表される芳香族カルボン酸の好適な例としては、例えば安息香酸又はフタル酸の、(ジ)ニトロ化物(ニトロ化物又はジニトロ化物の意味である。)、(ジ)アルコキシ(アルキル基の炭素数1〜4)化物、(ジ)アルキル(アルキル基の炭素数1〜4)化物、(ジ)フェノキシ化物、アルキル(アルキル基の炭素数1〜4)ニトロ化物、アルコキシ(アルキル基の炭素数1〜4)ニトロ化物、フェノキシニトロ化物、アルコキシ(アルキル基の炭素数1〜4)アルキル(アルキル基の炭素数1〜4)化物が好ましく、具体的には、例えばp‐ニトロ安息香酸、p‐メトキシ安息香酸、p‐エトキシ安息香酸、p‐n-プロポキシ安息香酸、p‐iso-プロポキシ安息香酸、p‐n-ブトキシ安息香酸、p‐sec-ブトキシ安息香酸、p‐tert-ブトキシ安息香酸、p‐iso-ブトキシ安息香酸、p‐メチル安息香酸、p‐エチル安息香酸、p‐n-プロピル安息香酸、p‐iso-プロピル安息香酸、p‐n-ブチル安息香酸、p‐sec-ブチル安息香酸、p‐tert-ブチル安息香酸、p‐iso-ブチル安息香酸、4−メチル−3−ニトロ安息香酸、3−ニトロフタル酸、フェノキシ安息香酸などが挙げられる。これらの中でも、特にアルキル(アルキル基の炭素数1〜4)ニトロ安息香酸、アルコキシ(アルキル基の炭素数1〜4)安息香酸、及びフェノキシ安息香酸が好ましい。
【0013】
本発明においては、これら芳香族カルボン酸を1種単独で、又は2種以上を混合して用いる。その配合量は0.001モル/L以上であり、好ましくは0.005モル/L以上、特に好ましくは、0.01モル/L以上である。芳香族カルボン酸の配合量が0.001モル/L以上であれば、芳香族カルボン酸が(C)成分の塩基性化合物と良好な塩を形成して、組成物の防錆性を高め、積み重ねられた状態における錆の発生を抑制することができる。
一方、芳香族カルボン酸の配合量の上限については、特に制限はないが、さらなる増量による著しい効果の上昇が期待できないことから通常1モル/L以下が好ましく、0.5モル/L、さらには0.3モル/Lが好ましい。
【0014】
本発明の水溶性防錆液においては、(B)成分として炭素数8〜24、好ましくは炭素数10〜18の脂肪族カルボン酸を用いることが好ましい。この炭素数8〜24の脂肪族カルボン酸としては、直鎖若しくは分岐鎖を有する飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸が含まれる。
【0015】
前記炭素数8〜24の脂肪族カルボン酸の具体例としては、各種オクタン酸、各種ノナン酸、各種デカン酸、各種ウンデカン酸、各種ドデカン酸、各種テトラデカン酸、各種ヘキサデカン酸、各種オクタデカン酸、各種エイコサン酸、各種ドコサン酸などの脂肪族モノカルボン酸、オクタン二酸(スベリン酸)、ノナン二酸(アゼライン酸)、デカン二酸(セバシン酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
これら(B)の脂肪族カルボン酸の中でも、防錆性能の点で、分岐鎖を有する飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボン酸や脂肪族ジカルボン酸がより好ましい。
【0016】
本発明においては、(B)成分として炭素数8〜24、好ましくは炭素数10〜18の脂肪族カルボン酸を配合する場合には、これら脂肪族カルボン酸は1種を単独で、又は2種以上を混合して用いる。その配合量は0.005モル/L以上が好ましく、0.01モル/L以上がより好ましい。(B)成分の脂肪族カルボン酸の配合量が0.005モル/L以上であれば、防錆性能、特に大気曝露下での防錆性能を向上させることができる。一方、(B)成分の脂肪族カルボン酸の配合量の上限については、特に制限はないが、通常1モル/Lであり、さらには0.5モル/Lである。脂肪族カルボン酸の配合量が1モル/L以下であれば、積み重ねられた状態における防錆性能やその他の性能を低下させる恐れもない。
したがって、(B)成分の脂肪族カルボン酸の配合量は0〜1モル/Lであり、0.005〜1モル/Lが好ましい。
【0017】
本発明においては、(C)成分としてアルカリ金属の水酸化物、及びアルカノールアミンから選ばれる少なくとも1種の塩基性化合物を用いる。
前記アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムを例示することができる。また、アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノn−プロパノールアミン、ジ(n−プロパノール)アミン、トリ(n−プロパノール)アミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、メチルイソプロパノールアミンなどが挙げられる。
これらの塩基性化合物の中でも、アルカノールアミンが好ましく、特に、総炭素数2〜4の一級又は二級のアルカノールアミン、さらには総炭素数2〜4の一級又は二級のモノアルカノールアミンが好ましい。
【0018】
本発明においては、(C)成分である塩基性化合物の配合量は、前記(A)及び(B)成分の中和当量以上含有することが好ましい。(C)成分のアルカリ金属の水酸化物及びアルカノールアミンから選ばれる少なくとも1種の塩基性化合物の含有量が、前記(A)及び(B)成分の中和当量以上であれば、(A)及び(B)の各カルボン酸が(C)成分と良好な塩を形成し、優れた防錆性を発現する。(C)成分の配合量の上限については、特に制限はないが、防錆液のpHを適性に保つ観点から通常(A)及び(B)成分の2当量、好ましくは1.5当量以下である。したがって、(C)成分である塩基性化合物の配合量は前記(A)及び(B)成分の1.0〜1.5当量がより好ましく、1.0〜1.2当量がさらに好ましい。
【0019】
本発明の水溶性防錆液組成は、水に、上記(A)、(B)及び(C)の各成分を配合してなる水溶性防錆液組成物である。したがって、(A)、(B)及び(C)の各成分をそれぞれ配合してもよく、あらかじめ(A)、(B)成分の一方又は両方を(C)各成分と反応させて得られた反応物(塩)を配合してもよい。
また、本発明に用いる水については、特に制限はなく、例えば脱イオン水、純水、水道水、工業用水(特に、Ca含有量が200質量ppm以下の工業用水)などが使用できる。これらの中でも性能の点で、脱イオン水や純水が好ましい。
【0020】
本発明の水溶性防錆液組成物は、上記の組成を有するものであるが、さらに必要に応じて公知の添加剤を配合することができる。そのような添加剤としては、水溶性ポリマー、金属腐食防止剤などが挙げられる。
該水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、ポリアルキレングリコールのモノ又はジアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールのエチレンオキサイド(EO)、プロピレンオキサイド(PO)等のアルキレンオキサイド付加物、メチルセルロース類などが挙げられる。このような水溶性ポリマーは、水溶性防錆液の粘度を調整し、かつ防錆皮膜の膜厚を厚くして防錆性能を高める効果を有するものであり、通常水溶性防錆液組成物を基準にして、およそ0.5〜50質量%配合する。
【0021】
また、水溶性金属腐食防止剤としては、ほう酸、タングステン酸、モリブデン酸、リン酸、炭酸、硫酸、珪酸、硝酸、亜硝酸等の無機酸のナトリウム塩、及びカリウム塩;ベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ヒドロカルビルトリアゾール等のトリアゾール類及びその塩;メルカプトベンゾチアゾール等のチアゾール類およびその塩;脂肪酸アルカノールアミド類;イミダゾリン類;オキサゾリン類などが挙げられる。
【0022】
本発明の水溶性防錆液組成物は、さらに必要に応じて、殺菌剤や消泡剤、界面活性剤などを配合してもよい。
【0023】
本発明の水溶性防錆液組成物は、以上のような構成を有するが、その組成物のpHが7〜10であることが好ましく、8〜9であることがより好ましい。pHが7〜10であれば、防錆性能や濡れ性を良好に保つ効果がある。
【0024】
上記本発明の水溶性防錆液組成物は、いわゆる水溶性防錆液の原液であり、その原液をそのまま使用してもよいが、これを希釈水で10〜50倍に希釈しその希釈液を防錆液として使用してもよい。
【実施例】
【0025】
次に実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。なお、水溶性防錆液組成物の性能は次の方法に従って評価した。
(1)DIN法防錆試験
DIN 51360−12−Aに準拠し、鋳物切粉(Fc−250)をシャーレ内のろ紙上に2g入れ、各水溶性防錆液2mL滴下し、シャーレの蓋をして2時間放置した。2時間経過後ろ紙に転写された錆の状態を下記の判定基準によって5段階で表示した。
(判定基準)
0: 錆なし(錆は全く認められない)
1: 錆の痕跡(最大3つの錆(直径1mmを超えない))
2: 僅かに錆(面積の1%未満の変色(錆程度1よりは、もっと大きい錆))
3: 適度な錆(面積の1%以上5%未満)
4: 重度な錆(面積の5%以上の変色)
【0026】
(2)室内暴露防錆試験
JIS G 3141に規定する鋼板(SPCC−SD 60×80×1mm)を脱脂後、各水溶性防錆液組成物に浸漬し、24時間油きりして試験片を準備した。その試験片をJIS K2246に規定される格納箱内で14日間暴露した。14日後の試験片について、錆、ステインの有無とその程度を、JIS K2246に規定する錆の判定方法に基づいて、錆発生度(%)をA〜Eの5段階で表示した。
(判定基準)
A: 0
B: 1〜10
C: 11〜25
D: 26〜50
E: 51以上
(3)スタック防錆試験
前記(2)と同様にして試験片を各試料につき2枚準備した。この試験片を
2枚重ねた状態で2つのクリップで挟んで留め、それをスタック試験用試験片セットとした。スタック試験用試験片セットを厚さ0.05mmのテフロンシートで梱包し、室温(RT)で14日間放置した。
14日経過後に、試験片の重ね合わせた面の錆、ステインの程度を、上記(2)と同様に、JIS K2246に規定する錆の判定方法に基づいて、A〜Eの5段階で表示した。
【0027】
実施例1〜5及び比較例1〜3
第1表に示す成分を用いて水溶性防錆液組成物を調整した。それら調整
した組成物及び市販の水溶性防錆油剤について、各防錆性能を評価した。その結果を第1表に示した。第1表中、その他の成分とは、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ベンゾトリアゾール、及び殺菌剤の混合物である。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
第1表によれば、本発明の水溶性防錆液組成物(実施例1〜5)は、スタック防錆試験において錆の発生を抑制することができる。また(A)及び(B)成分を配合した実施例2〜5の水溶性防錆液組成物は、DIN法防錆試験、室内暴露防錆試験でも錆の発生を防止できる。これに対し(A)の芳香族カルボン酸を配合しない水溶性防錆液組成物(比較例1,2)はスタック防錆試験で錆が多い。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、良好な防錆性能を有し、金属が積み重ねられた状態にあるなどの過酷な環境下においても、錆の発生を抑制することができる水溶性防錆液組成物を提供することができる。したがって、金属加工の各工程に用いる防錆油剤としては勿論、金属加工による成型加工品やその成型加工品を用いた機器などの防錆油剤、自動車エンジンのラジエーターや建築物の冷暖房システム用熱媒体などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に、(A)下記の一般式(1)
(X)m−Ar−(COOH)n ・・・(1)
〔式中、Xは、NO2−,RO−,又はR−(但し、Rは、炭素数1〜10の炭化水素基)、Arは2〜4の結合手を有する芳香族炭化水素基、m及びnは1又は2の整数を示し、mが2の場合、Xは同一でも異なっていてもよい。〕
で表される芳香族カルボン酸を0.001モル/L以上、(B)炭素数8〜24の脂肪族カルボン酸を0〜1モル/L、及び(C)アルカリ金属の水酸化物及びアルカノールアミンから選ばれる少なくとも1種の塩基性化合物を配合してなる水溶性防錆液組成物。
【請求項2】
(B)炭素数8〜24の脂肪族カルボン酸を0.005モル/L以上配合した請求項1に記載の水溶性防錆液組成物。
【請求項3】
(C)の塩基性化合物の配合量が、(A)の芳香族カルボン酸及び(B)の脂肪族カルボン酸の中和当量以上である請求項1又は2に記載の水溶性防錆液組成物。
【請求項4】
(A)の芳香族カルボン酸が、アルキル(アルキル基の炭素数1〜4)ニトロ安息香酸、アルコキシ(アルキル基の炭素数1〜4)安息香酸、及びフェノキシ安息香酸から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性防錆液組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性防錆液組成物を希釈水で10〜50倍に希釈した水溶性防錆液組成物。

【公開番号】特開2009−7497(P2009−7497A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171234(P2007−171234)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】