説明

水溶性高分子と低分子化合物を含む試料中の低分子化合物の分析方法

【課題】 水溶性高分子と低分子化合物の分離が良く、たんぱく質などの影響を受けずに、イソクラティック条件下で水溶性高分子と低分子化合物を含む試料中の低分子化合物の分析を迅速に行うことのできる分析法を提供する。
【解決手段】 原料モノマーとして2個のエチレン性炭素−炭素二重結合と1個の水酸基を有する化合物(グリセリンジメタクリレート等)を90質量%以上使用して得られた架橋有機高分子からなり、プルランによる排除限界分子量が30000以下3000以上であり、質量平均粒子径が0.1〜100μmである充填剤を用いたカラムを用い、高速液体クロマトグラフィーによる分析を行うことを特徴とする水溶性高分子と低分子化合物を含む試料中の低分子化合物の分析方法、その分析方法に用いる充填剤を使用した水溶性高分子と低分子化合物を含む試料中の低分子化合物分析用液体クロマトグラフィー用カラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水溶性高分子と低分子化合物を含む試料中の低分子化合物を高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCということがある。)分析する方法に関する。詳しくは、生体試料などに含まれる生体高分子化合物(たんぱく質など)を含む試料中の微量の低分子化合物(特に極性低分子化合物)を分離、分析する方法に関する。さらに詳しくは、生体成分に多く含まれる血清アルブミンのようなたんぱく質が含まれた試料において、質量分析装置(以下「MS(マススペクトログラフ)」と表記することもある。)を検出器に用いた場合でも、イオンサプレッション等の影響を受けずに、そこに含まれる薬物代謝物のような低分子化合物の分析を行うことのできる分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性高分子、特に、血清アルブミン等のたんぱく質と、低分子化合物、例えば、薬物の生体内代謝物を含有する試料中の低分子化合物を分析する場合には、予め有機溶媒の添加、固相抽出等によって、妨害成分となるたんぱく質の大部分を除去した後に分析することが行われている。しかし、この際にすべてのたんぱく質の除去は難しく、微量のたんぱく質は除去できずに残ってしまうことがあった。
【0003】
こうした試料を従来のODS(オクタデシル基を結合させたシリカゲル充填剤)で分析すると、微量に存在するたんぱく質が不可逆的にカラムに吸着し、このため、カラムの劣化を早めたり分離パターンに変化を生じたりするといった問題があった。これらを回避する方法として、カラムスイッチング法や浸透制限充填剤と呼ばれる充填剤を用いたカラムを用いる方法が開発されている。
【0004】
これらシリカゲル系の充填剤の欠点を補うために、充填剤の基材に多孔性有機高分子を用いたものが開発されている。例えば、ポリビニルアルコール基材の充填剤を用いたカラムは親水性であるために、たんぱく質等の吸着が少なく、たんぱく質は吸着されずに先にカラムから溶出する。ところが、当該基材自身はわずかに疎水性の部分を有しているために、低分子化合物を疎水性相互作用により保持することができる。このため、低分子化合物をたんぱく質等と分離して、分析することができる。
【0005】
特開2003−93801号公報(特許文献1)には、細孔容積や表面積に特徴を有する、表面に親水層を持つ多孔性重合体粒子が記載されている。特開2001−66295号公報(特許文献2)、特開2003−194793号公報(特許文献3)には、架橋性モノマーとしてポリエチレングリコール骨格を含む化合物を用い合成した充填剤について述べられている。この充填剤は、カラムスイッチング法の濃縮用カラムとしての性能が紹介されている。
【0006】
これらの有機高分子を充填剤として用いたカラムは親水性高分子(特にこの場合生体試料に多く含まれる血清アルブミン)の吸着が起きないような性質を有している。しかし、これらのカラムを用いて、水溶性高分子と低分子化合物を含む試料を分析する場合、問題となるのが、高い極性を有する低分子化合物を分析する場合であった。こうした化合物は疎水性が小さいので、通常の疎水性を有する充填剤では水溶性高分子との分離が十分でなかった。また、逆に、極性の高い低分子物質を良く保持するような充填剤では、疎水性が強すぎ、全体に低分子化合物の保持が大きすぎ、イソクラティック条件(溶離液組成が一定の条件)では分析に時間がかかりすぎ、分析用カラムとしては不都合であるという問題があった。
【0007】
これらの問題は溶離液にグラジエント条件を用いることにより回避することができる場合もあるが、グラジエント条件には別の問題点があった。すなわち、グラジエントに伴う溶離液組成の変化、ポンプ切り替わりによる圧力変動の影響により、配管やカラムハウジングなどに吸着していたアルブミンなどの水溶性高分子が少しずつ溶出すると、MSなどで低分子を分析する場合に低分子薬物のイオン化を妨げ、検出感度を低下させるイオンサプレッションが起き、定量の妨げになるということである。
【0008】
こうした背景の下、高い極性を有した低分子化合物に対する保持が強く、水溶性高分子と低分子化合物の良い分離を与える一方で、迅速分析が可能であり、しかもイソクラティック条件下で用いることができる充填剤とそれを用いた分析法が望まれていた。
【0009】
なお、本発明で好適に使用されるグリセリンジメタクリレートを90%以上使用して得られる有機高分子を用いた多孔性分離剤は特開昭58−32164号公報(特許文献4)に記載されているが、この充填剤を用いて、水溶性高分子と低分子化合物を含む試料中の低分子化合物を分析する方法についての記載はない。
【0010】
【特許文献1】特開2003−93801号公報
【特許文献2】特開2001−66295号公報
【特許文献3】特開2003−194793号公報
【特許文献4】特開昭58−32164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。すなわち、水溶性高分子と低分子化合物の分離が良く、たんぱく質などの影響を受けずに、溶離液組成が一定であるイソクラティック条件下で水溶性高分子と低分子化合物を含む試料中の低分子化合物の分析を迅速に行うことのできる分析法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決できる充填剤としての必須条件は、水溶性高分子として生体内試料に多く含まれ吸着しやすいため分析の妨げとなりやすい血清アルブミンが吸着等の問題を起こさないよう、疎水性の大きな基(例えばオクタデシル基)を有さないこと、及び同じ試料に含まれている極性の低分子化合物を水溶性高分子と分離するためには水素結合性を有することが同時に必要であると考えて鋭意検討を行い、上記課題を解決することに成功し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の1〜10の水溶性高分子と低分子化合物を含む試料中の低分子化合物の分析方法、11の分析用液体クロマトグラフィー用充填剤、及び12の水溶性高分子と低分子化合物を含む試料中の低分子化合物分析用液体クロマトグラフィー用カラムに関する。
【0013】
1.原料モノマーとして2個のエチレン性炭素−炭素二重結合と1個の水酸基を有する化合物を90質量%以上使用して得られた架橋有機高分子からなる充填剤を用いたカラムを用い、高速液体クロマトグラフィーによる分析を行うことを特徴とする水溶性高分子と低分子化合物を含む試料中の低分子化合物の分析方法。
2.2個のエチレン性炭素−炭素二重結合と1個の水酸基を有する化合物がグリセリンジメタクリレートである前記1に記載の分析方法。
3.前記充填剤が、プルランによる排除限界分子量が30000以下である前記1または2に記載の分析方法。
4.水と相溶する有機溶媒15〜40質量%および水性緩衝液85〜60質量%を含有する溶離液を使用し、イソクラティック条件下で高速液体クロマトグラフィー分析を行う前記1〜3のいずれかに記載の分析方法。
5.水と相溶する有機溶媒がメタノールおよび/またはアセトニトリルである前記4に記載の分析方法。
6.水と相溶する有機溶媒がアセトニトリルである前記5に記載の分析方法。
7.水溶性高分子が生体成分に含まれる生体由来の水溶性高分子である前記1〜6のいずれかに記載の分析方法。
8.水溶性高分子が、血清アルブミンである前記1〜6のいずれかに記載の分析方法。
9.前記分析法において使用する充填剤の質量平均粒子径が0.1〜100μmである多孔性の球状粒子である前記1〜8のいずれかに記載の分析方法。
10.高速液体クロマトグラフィーにより分離された低分子化合物を質量分析装置で分析する前記1〜9のいずれかに記載の分析方法。
11.原料モノマーとしてグリセリンジメタクリレートを90質量%以上使用して得られた架橋有機高分子からなり、プルランによる排除限界分子量が30000以下3000以上であり、質量平均粒子径が0.1〜100μmである、水溶性高分子と低分子化合物を含む試料中の低分子化合物の分析用液体クロマトグラフィー用充填剤。
12.前記11に記載の充填剤を使用した水溶性高分子と低分子化合物を含む試料中の低分子化合物分析用液体クロマトグラフィー用カラム。
【発明の効果】
【0014】
本発明による方法を用いれば、水溶性高分子と低分子化合物を含む試料中の低分子化合物を、イソクラティック条件下で迅速に測定できる。特に、検出器に質量分析装置(MS)を用いた場合にも、微量溶出するたんぱく質成分によるイオンサプレッション等の妨害にあうことなく、測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
充填剤:
本発明の充填剤は2個のエチレン性炭素−炭素二重結合と1個の水酸基を有する化合物を90質量%以上有する原料モノマー混合液を重合して得られた架橋有機高分子である。モノマー混合液を懸濁重合すれば微粒子状の充填剤を得ることができる。
【0016】
本発明の分析対象となる試料は水溶性高分子と低分子化合物を含むものであるが、水溶性高分子自体は解析の対象とはしないので、低分子化合物と分離され、早く溶出しさえすればよい。本発明の試料は生体由来のものを主体としているため、分析対象の低分子化合物は極性の高いものが多い。極性の高い低分子化合物の充填剤での保持の程度は、充填剤との静電的相互作用(水素結合性や双極子相互作用)と疎水性相互作用の両方の合計によって決まる。疎水性相互作用で保持を大きくする場合は、試料中に共存する疎水性の強い他の低分子化合物の溶出がさらに遅くなるために迅速な分析の妨げになる。このため、迅速分析に適し、極性の高い低分子化合物を水溶性高分子から分離できる充填剤としては、主に水素結合性によって極性の高い低分子化合物を良く保持するものが好ましい。これらの低分子物質を分離するには適度の水素結合性を有することが好ましく、そのために本発明では水酸基を導入した。水酸基が多くなりすぎると、結果として充填剤の極性が高くなりすぎて、疎水性相互作用が弱くなりすぎる。本発明の充填剤には疎水性と水素結合性とが極めて微妙にバランスしていることが求められる。
【0017】
原料モノマー:
このような条件を満たす充填剤としては、原料モノマーとして2個のエチレン性炭素−炭素二重結合と1個の水酸基を有する化合物を90質量%以上使用して得られる架橋有機高分子が挙げられる。2個のエチレン性炭素−炭素二重結合は重合時に架橋構造を導入するのに必要である。2個のエチレン性炭素−炭素二重結合の間は適切な間隔が必要であるが、あまり長すぎると充填剤の架橋が疎になり、膨潤収縮が大きくなり、充填剤の強度が低下する問題が生じるため好ましくない。炭素−炭素二重結合間の共有結合数は6〜10が好ましい。水酸基は充填剤に水素結合性を付与するが、多すぎると充填剤の疎水性が小さくなり分析に使用できなくなる。従って、原料モノマーに1個の水酸基が適当である。
【0018】
2個のエチレン性炭素−炭素二重結合と1個の水酸基を有する化合物としては、3個以上の水酸基を有する多価アルコールのジ(エチレン性不飽和カルボン酸)エステル、またはこうしたジエステルのエステル結合をエーテル結合もしくは単結合に置き換えた化合物が挙げられ、例えばグリセリンジ−1,3−(メタ)アクリレート、グリセリンジ−1,2−(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジアリロキシプロパン、2−ヒドロキシ−1,3−ジビニロキシ プロパンなどが挙げられる。なお、ここで「(メタ)アクリレート」は「メタクリレート」または「アクリレート」を意味する。これらの中で特に好ましいのは、グリセリンジメタクリレート(2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン)である。以下、グリセリンジメタクリレートを例として説明する。
グリセリンジメタクリレートよりも疎水性の低いモノマー、例えば、アクリルアミドと架橋剤(多官能モノマー)等を使用すると、充填剤の疎水性が低くなりすぎるので、好ましくない。また、疎水性の高いモノマー、例えばジビニルベンゼン等を使用すると疎水性が大きくなってしまい、疎水性の低分子化合物の溶出が大きく遅れ分析時間が長くなってしまうので好ましくない。
【0019】
グリセリンジメタクリレートは架橋性のモノマーなので、得られた充填剤は、架橋度が高く、強度の高いものとなる。このため充填剤粒子の径を小さくできるので、高性能な液体クロマトグラフィー用充填剤を得ることができる。逆に、グリセリンジメタクリレート以外の架橋性でないモノマーを使用するとそれだけ充填剤の強度が失われてしまうため、好ましくない。架橋剤であり、疎水性の程度が似ているモノマーに、ポリエチレングリコールジメタクリレートのような架橋部の分子の鎖が長いものがあるが、これを使用すると、膨潤収縮が大きくなり、充填剤の強度が低下するので好ましくない。
【0020】
原料モノマー混合液中のグリセリンジメタクリレートの濃度は90質量%以上が必要である。より好ましくは、95質量%、さらに好ましくは99質量%以上含有していることが好ましい。90質量%未満では水素結合性が小さくなり、極性の高い低分子化合物の分離が悪くなったりするので好ましくない。90質量%以上使用した場合に、十分な強度を持ち、水素結合性が高く、疎水性の小さい充填剤を得ることができる。
【0021】
本発明の充填剤の分離性能、特性はグリセリンジメタクリレートが90質量%未満にならない範囲で、他のモノマーを混合することによって微調節することができる。グリセリンジメタクリレート以外に加えることのできるモノマーとしては、通常の充填剤を製造するときに使用されるラジカル重合性モノマーが殆ど使用できる。例えば、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルアクリレート、ビス(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、グリセリンモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
重合:
重合は、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合などの通常のラジカル重合により実施することができる。以下に代表例として水性懸濁重合で球状粒子を作る場合について説明するが、この方法に限定されるものではない。
水性懸濁重合に用いる油相の調製は、原料モノマー混合液と希釈剤(溶媒または分散媒、モノマーの希釈剤として使用)との混合物に、重合開始剤を添加して行う。
【0023】
希釈剤は、生成する球状架橋有機高分子粒子(充填剤)を多孔性にする目的でモノマー混合物に添加される。その種類は、塊状重合などのように水を媒体に用いない場合には特に限定されないが、水性懸濁重合などのように水を媒体に用いる場合には、水に難溶性の有機化合物が好ましい。具体例としては、トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、ヘプタン、オクタン、ドデカン、酢酸ブチル、フタル酸ジブチル、イソアミルアルコール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、2−エチルヘキサノール、1−ドデカノール、非架橋ポリスチレンなどが挙げられる。これらの溶媒または分散媒は、単独でまたは2種以上組み合わせたそれらの混合物として使用することができる。
【0024】
また、これらの希釈剤の添加量は、原料モノマーと希釈剤の総量を基準として10〜90質量%、好ましくは20〜80質量%、より好ましくは25〜60質量%である。添加量が10質量%未満だと、充填剤の多孔性が不十分になるため好ましくない。希釈剤を多く使用すると充填剤の細孔容積が大きくなり好ましいが、90質量%を超えた場合は充填剤の物理的強度が不足し、カラムとしての耐圧性が低下する。
【0025】
重合開始剤の例としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)のようなアゾ系化合物;過酸化ベンゾイル、過酸化ジクミル、過酸化ジ−t−ブチル、過安息香酸−t−ブチル、メチルエチルケトンペルオキシドのような有機過酸化物など一般に使用される重合開始剤が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用する。用いる重合開始剤の濃度は、単量体の種類などにより適宜決められるものであり一概に規定できないが、モノマーの総量100質量部に対して0.1〜5質量部が好ましく用いられる。
【0026】
水相には油相の分散安定剤を添加する。用いる分散安定剤として、ポリビニルアルコール、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ゼラチンなどの水溶性高分子化合物が挙げられる。分散安定剤の濃度は、特に限定はないが、水100質量部に対して0.1〜5質量部が好ましい。またモノマーの一部が水相へ溶解するのを防ぐため、水相に塩類を添加するのが好ましい。添加する塩類の例としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウムなどが挙げられ、これら塩類は単独でまたは2種以上組み合わせて使用する。用いる塩類の濃度に特に限定はないが、溶解度の許す範囲で、可能な限り高い濃度が好ましい。例えば、水に対して、塩化ナトリウムであれば1〜15質量部、塩化カルシウムであれば1〜40質量部である。
【0027】
油相に対する水相の比率が大きすぎると、単量体の一部が水相へ溶解する量が増えてしまい、小さすぎると油滴の合一が起こりやすくなる。そのため、使用する水の質量は、モノマーおよび希釈剤の総量100質量部に対して200〜1000質量部が好ましい。
【0028】
水性懸濁重合を始める前に油相と水相を混合し、油滴が目的とする粒子径(粒子の直径)になるように分散させる。分散には、微粒子化用の撹拌翼を付けた撹拌装置、または高速分散機(ホモジナイザー)などを用いることができる。粒子径が比較的大きい吸着剤(例えば固相抽出用)を作るには微粒子化用の撹拌翼を付けた撹拌装置を用い、粒子径の小さい吸着剤(例えば、液体クロマトグラフィー用の吸着剤)を作るには高速分散機(ホモジナイザー)を用いるのがよい。
【0029】
重合反応は、通常の撹拌下において40〜100℃の温度範囲で5〜16時間行なわれる。
このようにして得られた充填剤微粒子は熱水、有機溶媒などで十分洗浄し、粒子に含有されている、あるいは付着している分散安定剤、溶媒、残存モノマー、希釈剤などを除去する。さらに、必要に応じて粒子を分級して、クロマトグラフィー用充填剤が得られる。
【0030】
充填剤の粒子径:
HPLCにおいて、十分な理論段数を有するように、粒子が細かいものを使用する必要がある。充填剤の質量平均粒子径は0.1〜100μmが好ましく、1〜10μmがより好ましく、3〜5μmがさらに好ましい。粒子径が0.1μm未満であるとカラムの圧力が高くなりすぎ、機器に負担を与えるという問題が生ずる。100μmを超えると分析カラムとしての性能が低くなり都合が悪い。所望の粒子径を得るのには重合における分散剤の量や撹拌速度を調節する。最終的に得られた充填剤の大きさとこれらの条件の相関を求めることで、最適な条件を決めることができる。また、重合の粒子を分級してもよい。分級操作としては篩による分級、風力分級等が挙げられる。
【0031】
質量平均粒子径はコールターカウンター(登録商標)、光学顕微鏡などで測定できる。
以上は充填剤が多孔性の粒子である場合について説明したが、多孔性であれば、モノリスのような一体型の充填剤であっても良い。
【0032】
充填剤の排除限界分子量:
本発明の充填剤の排除限界分子量は30000以下であることが好ましい。排除限界分子量が30000を超えると、血清アルブミンのような水溶性高分子の溶出が遅れるため、低分子化合物との分離が悪くなる。また、排除限界分子量が、3000未満であると、分析対象の低分子化合物自体の保持が低下したり、分離が悪化したりするため好ましくない。
【0033】
排除限界分子量は充填剤を内径4.6mm、長さ150mmのステンレスカラムに充填し、純水を溶離液にして、分子量既知のプルラン(昭和電工(株)製)を標準サンプルとして、較正曲線を作成して求める。排除限界分子量が、30000以下である場合、生体内等に多く含まれる水溶性たんぱく質の多くは、排除限界(Vo)に近いところに溶出する。一方、低分子化合物は、浸透限界以降(Vt)にその疎水性の強さに従って順次溶出するため、水溶性高分子と低分子化合物との分離が改善する。このことから、排除限界分子量の値は水溶性高分子と低分子化合物の分離を良くするために重要である。
【0034】
本発明の充填剤を通常の懸濁重合等によって製造する場合、充填剤の排除限界分子量は、モノマーと共に加えられる希釈剤の量と種類によってコントロールできる。一般に希釈剤の量を増やすことにより、充填剤粒子の細孔が大きくなる為排除限界分子量は大きくなる。希釈剤に、モノマーの重合により生成する高分子に対する貧溶媒のものを用いれば排除限界分子量は大きくなり、良溶媒のものを用いれば排除限界分子量は小さくなる。
【0035】
分析対象物質:
水溶性高分子とは、分子量が10000程度以上のたんぱく質や有機高分子、天然高分子を呼ぶ。特に、生体由来の水溶性高分子が挙げられ、さらに、生体由来の試料に、一般に多く含まれ、分析において妨害になりやすい化合物である血清アルブミン、アルブミン2量体等が挙げられる。
【0036】
本明細書において低分子化合物とは、分子量4000以下の有機化合物を表す。特に、生体試料が分析目的試料などのときは、その中に含有される薬物や薬物の代謝物などが挙げられる。具体的にはカフェイン、テオブロミン、テオフィリン、バルビタール類などが挙げられる。
本発明の充填剤は、疎水性が低いにもかかわらず、水素結合性がこれまでに使われてきた逆相系の分析カラムに比べて際立って高い。このため、カフェインなどの極性の強い低分子化合物の保持が大きい特性を有する。この性質が、本発明における分析方法を可能にするひとつの要因になっている。この水素結合性の高さの理由は、粒子表面のみならず細孔内面にも点在する水酸基の影響であると推測されるが、詳しくはわからない。
本発明のカラムは次式で示されるα:
【数1】

caffeine:カフェインの保持係数,ktoluene:トルエンの保持係数,kr:(tr−t0)/t0,tr:サンプルの保持時間(ピーク位置の時間,rはカフェインまたはトルエンを示す。),t0:非保持時間。
が、0.05〜1.0が好ましく、0.08〜0.5がより好ましい。αが下限値未満では水溶性高分子と低分子化合物の分離が悪くなり、上限値を超えると低分子化合物同士の分離が悪くなる。
【0037】
高速液体クロマトグラフィーによる分析条件:
<溶離液>
本発明の分析方法ではHPLCの溶離液として水と相溶する有機溶媒15〜40質量%と水性緩衝液85〜60質量%を含有するものを使用することが好ましい。
【0038】
水と相溶する有機溶媒とは常温〜HPLCの分析温度の範囲で水(水性緩衝液を含む)に25質量%以上溶解する有機溶媒である。このような有機溶媒としては通常の液体クロマトグラフィーで用いることのできる溶媒であれば、特に限定されないが、例を挙げれば、メタノール、エタノール、アセトニトリルなどが挙げられ、特にアセトニトリルが好ましい。これらの有機溶媒は数種類を混合して使用することもできる。
【0039】
水性緩衝液としては分析時のpHを安定化するために使用する様々な緩衝液が使用できる。また、緩衝液を使用しないで、純水を用いることもできる。MSを検出器として使用する場合には、揮発性の緩衝液が望まれる。これには、ギ酸アンモニウムや酢酸アンモニウムが好ましい。一般的に用いられるのは、5〜10mMの酢酸アンモニウム水溶液である。
【0040】
水と相溶する有機溶媒と水性緩衝液との混合比率は15〜40質量%:85〜60質量%が好ましく、20〜35質量%:80〜65質量%がより好ましく、20〜30質量%:80〜70質量%が最も好ましい。
本発明の充填剤は、血清アルブミン等のたんぱく質の吸着が、まったくないわけではない。しかし、本充填剤が好適に使用できるところの、有機溶剤が15〜40質量%の溶離液条件下では、血清アルブミン等のたんぱく質との疎水性相互作用が最小になり、ほとんど吸着を起こさない。このため、この溶離液範囲で分析を行うと、アルブミンの回収率は90%以上であり、さらにこのとき、親水性の低分子化合物の保持も十分に大きく、疎水性の強い化合物も遅れることなく溶出する。このため、イソクラティック条件で好適にHPLC分析できる。有機溶媒濃度が15質量%未満の条件では、血清アルブミン等のたんぱく質の吸着が若干見られるばかりでなく、疎水性の強い化合物の溶出が遅くなりすぎてしまう。さらに、有機溶媒濃度が40質量%を超える条件下では、極性の高い低分子化合物の保持が小さくなり、浸透限界に近づくために、分離が悪くなる。さらに、この条件では、血清アルブミン等のたんぱく質も溶解性が悪く析出の危険もあることから好ましくない。
【0041】
本発明のHPLC分析では溶離液をイソクラティック条件で行うことが好ましい。これはカラムハウジングや配管などに吸着した親水性高分子の溶出を最低限に抑え、MSでの検出や、低分子化合物の定量を安定に行うためである。MSで観測していないときや、カラムや分析装置の洗浄等の場合には、グラジエント条件を適応しても問題はない。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0043】
実施例1:
1.グリセリンジメタクリレート充填剤の合成
グリセリンジメタクリレート(NKエステル701、新中村化学工業(株))2000gとシクロヘキサノール(純正化学(株))1340gの混合液に、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(和光純薬工業(株))30gを溶解させ、油相を調製した。一方、ポリビニルアルコール(クラレ(株)製クラレポバールPVA−224)120gを水3リットルに溶解させ、そこへ水7リットル、次いで塩化ナトリウム240gの水(2リットル)溶液を加えて混合し、水相を調製した。20Lのステンレス製容器内で上記油相と上記水相を混合し、高速分散機(ホモジナイザー)にかけ、回転数と分散時間を調節することにより、油滴の最大粒子径が5μmになるように調整した。
【0044】
次いで、通常の撹拌翼を使用し、150rpmで撹拌しながら、60℃で7時間反応を行った。生成した架橋重合体粒子を遠心分離(2000rpm、10分間)して上澄みを捨て、沈澱を70℃の温水12リットルに分散(超音波洗浄器使用)後、70℃で3時間撹拌した。これを吸引ろ過し、漏斗上のケーキを70℃の温水60リットル、次いでアセトン18リットルで洗浄した後、ステンレス製バットに広げて風乾し、さらに60℃で24時間減圧乾燥した。これを風力分級装置で分級した。コールターカウンター(ベックマン・コールター Multisizer 3)で測定したところ、質量平均粒子径5.1μmの架橋重合体粒子1300gを得た。
上記で得られた架橋重合体粒子50gに純水500mlを加え、60℃で5時間加熱撹拌した後、粒子をろ取し、70℃の温水2000ml、メタノール300mlで順次洗浄した。これをステンレス製バットに広げて風乾後、さらに70℃で24時間減圧乾燥し、充填剤48gを得た。
【0045】
2.カラムの性能評価
この充填剤約3gを、内径4.6mmで長さ150mmのステンレス製カラムに湿式充填法によって充填した。
溶離液:純水、
流量:0.33ml/分、
標準試料:プルラン0.1質量%、
プルランの分子量:758000、338000、194000、95400、46700、20800、12000、5300(全て、Shodex STANDARD P-82,昭和電工(株)製)、
分子量:2930(昭和電工(株)製)、
分子量:1330(昭和電工(株)製)、
検出器:RI、
注入量:100μl。
各分子量のプルランの溶出位置を測定、そのリテンションタイムから、溶出容量を計算し較正曲線を作成した。すなわち、分子量の対数値を縦軸に、溶出容量を横軸にとったグラフに各点をプロットし曲線でつないだ(図1)。図1において傾斜した直線の延長と縦軸に平行な線の延長が交わる点の縦軸の値を排除限界分子量として求めたところ、この充填剤の排除限界分子量は、20000であった。
【0046】
3.BSA(牛血清アルブミン)の回収率評価
この充填剤を、直径4.6mmで長さ50mmのカラムに充填した。
このカラムに牛血清アルブミン(SIGMA社製、以下BSAと表記することがある。)を注入したときのBSAの回収率を、カラムを付けない時(カラムの代わりにポリテトラフルオロエチレン製のチューブ(内径0.5mm、長さ10m)を取り付けて測定した。)のBSAのピーク面積を100%として求めた。
溶離液:10mM酢酸アンモニウム/アセトニトリル=850g/150g、
流量:1ml/分、
カラム温度:30℃、
試料:BSA7mg/ml、
注入量:10μl、
検出器:UV(220nm)。
BSAは排除限界に1本のピークとして観測され、ピーク面積から、98%のBSAが溶出していることが観測された。
【0047】
4.カラムの分離性能の評価
それぞれの充填剤の持つ静電的相互作用の大きさを疎水性も考慮したうえで比較するために、相対的な静電的相互作用の強さを次式で求めた。
【数1】

caffeine:カフェインの保持係数,ktoluene:トルエンの保持係数,kr:(tr−t0)/t0,tr:サンプルの保持時間(ピーク位置の時間),t0:非保持時間。
この値は、疎水性相互作用と静電的相互作用の比を表しており、この値が大きいほど、極性の高い低分子化合物の保持が大きく、かつ、疎水性の低分子化合物の溶出も遅くなりすぎないということを示す。つまり、この値が(ある程度までは)大きいほど、始めに溶出する親水性高分子と極性の高い低分子化合物の分離が好調であり、かつ疎水性の強い低分子化合物の溶出に長い時間待つ必要がないカラムを与えることを示す。
【0048】
分析条件:
溶離液10mM酢酸アンモニウム/アセトニトリル=750g/250g、
流量:1ml/分、
カラム温度:40℃、
検出器:UV(254nm)、
注入量:10μl、
サンプル:BSA700mg/L、カフェイン10mg/L、トルエン150mg/L、
結果:α=0.086。
【0049】
図2にクロマトグラムを示した。ピーク1:BSA、ピーク2:カフェイン、ピーク3:トルエンのピークを示す。BSAが排除限界(0.39分)に溶出した後、カフェイン0.97分、トルエン4.45分に溶出した。BSAとカフェインの分離は良好で、トルエンの溶出も遅くないので、イソクラティック条件下での迅速分析が可能であった。
【0050】
実施例2(共重合タイプの充填剤)
グリセリンジメタクリレート2000gのかわりにグリセリンジメタクリレート1880g、グリシジルメタクリレート120gを使用した以外は実施例1と同様にして重合、風力分級し、架橋重合体粒子1200gを得た。当該架橋重合体粒子の質量平均粒子径は5.1μmであった。
上記で得られた架橋重合体粒子30gに0.3Mギ酸水溶液(1N水酸化ナトリウム水溶液でpH3.0に調整したもの。)500mlを加え、60℃で5時間過熱攪拌した後、粒子をろ取し、70℃の温水2000ml、メタノール300mlで順次洗浄した。これをステンレス製バットに広げて風乾後、さらに70℃で24時間減圧乾燥し、充填剤30gを得た。
2.排除限界分子量(分析条件は実施例1と同じ)は20000であった。
3.BSAの回収率評価(分析条件は実施例1と同じ):
93%のBSAを回収した。
4.カラムの分離性能(分析条件は実施例1と同じ):
α=0.087
実施例1と同様な充填剤が得られた。
【0051】
比較例1:
1.充填剤の製造
グリセリンジメタクリレート2000gの代わりに、エチレンジメタクリレート2000gを用いたほかは、実施例1と同じようにして、質量平均粒子径4.9μmの充填剤を得た。
2.排除限界分子量(分析条件は実施例1の2に同じ)は30000であった。
3.BSAの回収率評価(分析条件は実施例1の3に同じ):
90%のBSAを回収した。
4.カラムの分離性能の評価(分析条件は実施例1の4に同じ):
α=0.028。
αの値は実施例1の充填剤より小さかった。図3にクロマトグラムを示した。ピーク1:BSA、ピーク2:カフェイン、ピーク3:トルエンのピークを示す。クロマトグラムは、図2と比べるためにBSAのピークとトルエンのピークの間の距離がほぼ同じになるように、時間軸を縮小して示している。トルエンの溶出時間が約12分と実施例1の約5分と比較してかなり遅く、イソクラティック条件での迅速分析に向いていないことがわかる。
【0052】
比較例2:
1.充填剤の製造
グリセリンジメタクリレート2000gの代わりに、エチレンジメタクリレート1000gとグリセリンジメタクリレート1000gを用いたほかは、実施例1と同じようにして、質量平均粒子径5.1μmの充填剤を得た。
2.排除限界分子量(分析条件は実施例1と同じ)は50000であった。
3.BSAの回収率評価(分析条件は実施例1と同じ):
93%のBSAを回収した。
4.カラムの分離性能の評価(分析条件は実施例1と同じ):
α=0.044。
αの値は実施例1の充填剤より小さかった。図4にクロマトグラムを示した。ピーク1:BSA、ピーク2:カフェイン、ピーク3:トルエンのピークを示す。クロマトグラムは、図2と比べるためにBSAのピークとトルエンのピークの間の距離がほぼ同じになるように、時間軸を拡大して示している。
トルエンの溶出時間は遅すぎず、適切な位置であったが、カフェインの分離は実施例1に劣った。
【0053】
比較例3:
1.充填剤は市販のカラム:GF−310 4B(昭和電工(株)製、ポリビニルアルコール系充填剤,質量平均粒子径5μm)を使用した。
2.排除限界分子量:
カタログ値 40000。
3.BSAの回収率評価(分析条件は実施例1と同じ):
BSAが98%回収された。
4.カラムの分離性能の評価(分析条件は実施例1と同じ):
α=0.019。
αの値は実施例1の充填剤より小さかった。図5にクロマトグラムを示した。ピーク1:BSA、ピーク2:カフェイン、ピーク3:トルエンのピークを示す。クロマトグラムは、図2と比べるためにBSAのピークとトルエンのピークの間の距離がほぼ同じになるように、時間軸を縮小して示している。BSAとカフェインの分離が劣っている。
【0054】
実施例3:MSを検出器に用いた分析
カラムとして実施例1の充填剤を直径2.0mm,長さ50mmのステンレスカラムに湿式充填により、充填したものを用いた。低分子化合物の試料として3種の薬物、すなわち、下記式で示されるバルビタール(barbital)、フェノバルビタール(phenobarbital)、ヘキソバルビタール(hexobarbital)、
【化1】

水溶性高分子マトリックスとして牛血清アルブミン(BSA、分子量:約67,000)を選んだ。LC−MSシステムとしては、Agilent 1100シリーズHPLCシステム(アジレントテクノロジー製)にLCQ Advantage (サーモエレクトロン社製)を連結し、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法で使用した。カラム温度30℃、(10mM酢酸アンモニウム)/アセトニトリル=70ml/30mlを移動相とする5分間のイソクラティック溶出(0.20ml/min、スプリットなし)で分析を行った。
まず、薬物(各5μg/ml)のみをイオン交換水に溶かした試料10μlを注入し、UV検出(220nm)およびESI−負イオンモードによる選択イオンモニタリング(SIM)にて測定した(イオン化電圧:5kV)。次に、3種の薬物(各5μg/ml)とBSA(0.7mg/ml)をイオン交換水に溶かした試料10μlを注入し、同様に測定した。ただし、後者ではBSAが高濃度で溶出している部分(1.2minまで)の溶出液はMSへ導入しなかった。
結果:
薬物試料の分析結果を図6に、BSA含有薬物試料の分析結果を図7に示す。UV検出クロマトグラムの縦軸最大値は、BSAのピークトップに合わせてある。また、SIMクロマトグラムの縦軸最大値は、同じm/zにおける測定では合わせてある。
初めに行った薬物試料の分析結果から、各薬物は脱プロトン化した負の分子イオン[M−H]-として感度よく検出され、バルビタール(m/z 183.2)、フェノバルビタール(m/z 231.1)、ヘキソバルビタール(m/z 235.2)が保持時間1.3〜4.5minの間によく分離して溶出することがわかった。
次に行ったBSA含有薬物試料の分析では、BSAが保持時間0.4〜0.9minに集中して溶出したので、バルビタール溶出の直前で流路を切り替える瞬間(1.2min)まで充分な余裕があった。得られた各薬物のSIMクロマトグラムは、ピークの形状・高さともに、BSAを含まない場合の結果と非常によく一致した。フェノバルビタールの感度は他の2種に比べて低かったが、BSAの有無による差は認められなかった。
充填剤の排除限界より大きいBSAの場合は、サイズ排除モードが働くため逆相的な相互作用は無視できるほど小さくなり、その結果、先端にまとまって溶出されたと考えられる。それに対し、低分子のバルビタール類は細孔内に入って逆相モードで分離されるが、細孔内面に点在する水酸基との水素結合により保持が若干増加するので、BSAとの分離がさらに促進されたと推定される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】サイズ排除クロマトグラフィーにおける被分析物質の分子量と溶離液の溶出容量との関係を表す較正曲線、および排除限界分子量を示す。
【図2】実施例1のクロマトグラム。ピーク1:BSA、ピーク2:カフェイン、ピーク3:トルエン。
【図3】比較例1のクロマトグラム。ピーク1:BSA、ピーク2:カフェイン、ピーク3:トルエン。
【図4】比較例2のクロマトグラム。ピーク1:BSA、ピーク2:カフェイン、ピーク3:トルエン。
【図5】比較例3のクロマトグラム。ピーク1:BSA、ピーク2:カフェイン、ピーク3:トルエン。
【図6】実施例3のクロマトグラム。UV検出器(BSAなし)、MS(BSAなし)。
【図7】実施例3のクロマトグラム。UV検出器(BSAあり)、MS(BSAあり)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料モノマーとして2個のエチレン性炭素−炭素二重結合と1個の水酸基を有する化合物を90質量%以上使用して得られた架橋有機高分子からなる充填剤を用いたカラムを用い、高速液体クロマトグラフィーによる分析を行うことを特徴とする水溶性高分子と低分子化合物を含む試料中の低分子化合物の分析方法。
【請求項2】
2個のエチレン性炭素−炭素二重結合と1個の水酸基を有する化合物がグリセリンジメタクリレートである請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記充填剤が、プルランによる排除限界分子量が30000以下である請求項1または2に記載の分析方法。
【請求項4】
水と相溶する有機溶媒15〜40質量%および水性緩衝液85〜60質量%を含有する溶離液を使用し、イソクラティック条件下で高速液体クロマトグラフィー分析を行う請求項1〜3のいずれかに記載の分析方法。
【請求項5】
水と相溶する有機溶媒がメタノールおよび/またはアセトニトリルである請求項4に記載の分析方法。
【請求項6】
水と相溶する有機溶媒がアセトニトリルである請求項5に記載の分析方法。
【請求項7】
水溶性高分子が生体成分に含まれる生体由来の水溶性高分子である請求項1〜6のいずれかに記載の分析方法。
【請求項8】
水溶性高分子が、血清アルブミンである請求項1〜6のいずれかに記載の分析方法。
【請求項9】
前記分析法において使用する充填剤の質量平均粒子径が0.1〜100μmである多孔性の球状粒子である請求項1〜8のいずれかに記載の分析方法。
【請求項10】
高速液体クロマトグラフィーにより分離された低分子化合物を質量分析装置で分析する請求項1〜9のいずれかに記載の分析方法。
【請求項11】
原料モノマーとしてグリセリンジメタクリレートを90質量%以上使用して得られた架橋有機高分子からなり、プルランによる排除限界分子量が30000以下3000以上であり、質量平均粒子径が0.1〜100μmである、水溶性高分子と低分子化合物を含む試料中の低分子化合物の分析用液体クロマトグラフィー用充填剤。
【請求項12】
請求項11に記載の充填剤を使用した水溶性高分子と低分子化合物を含む試料中の低分子化合物分析用液体クロマトグラフィー用カラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−57526(P2007−57526A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−201696(P2006−201696)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】