説明

水溶性高分子架橋剤、それを用いて製造される水溶性重合体、およびこれらの製造方法

【課題】
重量平均分子量が10万〜200万であり、ヨウ素価が0.18〜17.9である水溶性高分子架橋剤及びその製造方法を提供する。この水溶性高分子架橋剤を用いて重合させることによる、水溶性で且つ高分子量の重合体組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
水溶性単量体組成物と、(メタ)アリルスルホン酸組成物と、架橋剤組成物とを含んで成る単量体水溶液に重合開始剤を添加して重合させることにより水溶性高分子架橋剤が得られる。この水溶性高分子架橋剤は、重量平均分子量及びヨウ素価が所定範囲にあるため、従来にない水溶性重合体を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性高分子架橋剤とその製造方法、及びこの水溶性高分子架橋剤を用いて製造される水溶性重合体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアクリルアミド、アクリルアミドとアクリル酸中和物やジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの塩化メチル4級塩などとの共重合体、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの塩化メチル4級塩などのカチオン性単量体の重合体、アクリル酸中和物などアニオン性単量体の重合体等に代表されるノニオン、アニオン、カチオンあるいは両性の水溶性重合体は、凝集剤、製紙工程用薬剤(例えば抄紙用粘剤、歩留向上剤、紙力増強剤)、石油三次回収用薬剤、凝結剤などの工業用薬剤として各種産業で広く使用されている。
【0003】
これらの重合体は、一般に上記単量体をラジカル重合開始剤により重合させて製造される。この従来の方法で製造される重合体の分子構造は図3に示すような線状構造である。そのため、重合体の性能向上には限界があり、近年の要求性能の高まりに対応し難い。重合体の性能を向上させるために各種の試みがなされている。
【0004】
そのひとつとして、分子構造を分岐構造や架橋構造に変える試みが行われている。分子構造を分岐構造又は架橋構造にする為には架橋剤が使用される。架橋剤のうち、水溶性架橋剤はその種類が限定されており、分子量が数百未満で、1分子当りの不飽和結合含有量が2〜3個である化合物が多い。この水溶性架橋剤は僅かな量で重合体を架橋させて不溶化させる。重合体の可溶化状態を保つためには、この水溶性架橋剤の添加量は極微量に限られる。その結果、得られる重合体は殆ど架橋されず、その分子構造はほぼ線状構造である。よって、重合体の可溶化状態を保ったままその分子構造を分岐構造や架橋構造に変えることは困難となっている。
【0005】
特許文献1には、ジメチルアミンとエピクロルヒドリンの反応物の両末端に二重結合を付加した架橋剤が開示されている。この架橋剤は従来の架橋剤に比べれば、分子量が大きくなっているが、1分子当りの不飽和結合基が2個であり、架橋剤としての機能は従来のものと変わらない。また、架橋剤自身が高カチオン性であるので、用途が限定される。
【0006】
特許文献2には、メチレンビスアクリルアミドを架橋剤として使用して重合を行い、不溶性の架橋ゲルを調製した後、この架橋ゲルを微粉砕して可溶化させる試みが開示されている。しかし、この重合体は微粉砕に伴う分子鎖の切断により低分子化しているため、十分な性能が得られない。
【0007】
特許文献3には、不飽和二重結合を含有する疎水性高分子粒子の存在下、水溶液中で水溶性単量体を重合させて、疎水性高分子粒子に水溶性高分子が結合する分岐重合体を得る試みが開示されている。しかし、疎水性物質と親水性物質との反応であるために反応性が悪く、水溶性高分子が疎水性高分子粒子に結合する量は僅かである。
【0008】
特許文献4には、無機塩を溶解した塩水中で水溶性単量体を重合して、重合体を析出させて水溶性重合体分散液を製造する方法において、析出した重合体を安定に分散するため、分岐構造を有する高分子分散剤を使用することが開示されている。特許文献5及び6には、その分散剤としてカチオン性単量体と複数の重合性二重結合を有する単量体とを必須成分として重合してなるカチオン性高分子が好適である旨が開示されている。複数の重合性二重結合を有する単量体を重合するので、重合反応に預からない残存二重結合の存在が想定され、カチオン性水溶性架橋剤の生成が示唆される。しかし、複数の重合性二重結合を有する単量体の添加量が極めて些少であり、また、その存在を示唆する記述及び実験結果も示されてなく、二重結合は本来目的の分岐構造形成に関与して消費され、残存しないと考えられる。
【0009】
特許文献7には、単量体水溶液中にメタリルスルホン酸ナトリウムとメチレンビスアクリルアミドとを添加して、アクリルアミドと各種イオン性単量体との重合を行い、分岐架橋重合体を得る試みが開示されている。しかし、分岐架橋重合体を水溶液状とするためには分子量に上限があり、高分子量の重合体の製造は困難である。また、そのものが架橋剤として有用との記述もない。
【0010】
特許文献8には、ポリカルボン酸マクロマーの製造方法が開示されている。これはラジカル重合成長鎖の開裂により、末端に二重結合を導入する方法である。この方法によれば、1分子当りに導入される不飽和結合は最大で1個である。また、分子量が大きいとマクロマーと共重合する単量体との反応性が悪くなるため、分子量は重量平均分子量80000以下が好ましいとされている。
【0011】
特許文献9には、ポリビニルアルコール系マクロマーが開示されている。このポリビニルアルコール系マクロマーは、高分子反応により不飽和二重結合が導入されるが、1分子当りに導入される不飽和結合は最大で1個である。また、分子量は2〜3万以下である。この特許文献9によれば、高分子の分子構造を変えることではなく、グラフト反応でポリビニルアルコール基を導入することによって高分子の極性を変えることを目的としている。
【0012】
以上の特許文献1−9に開示されるように、ノニオン性で水溶性で且つ高分子量の架橋剤は得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−25094号公報
【特許文献2】再公表WO2006−126674号公報
【特許文献3】特開2008−6408号公報
【特許文献4】特開2008−56752号公報
【特許文献5】特開2008−297654号公報
【特許文献6】特開2010−24441号公報
【特許文献7】特開2004−124353号公報
【特許文献8】特開2005−272553号公報
【特許文献9】特開平5−239163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、重量平均分子量が10万〜200万であり、ヨウ素価が0.18〜17.9である水溶性高分子架橋剤及びその製造方法を提供することである。
【0015】
また、本発明が解決しようとする他の課題は、この水溶性高分子架橋剤を用いて重合させた、水溶性で且つ高分子量の重合体組成物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、水溶性単量体組成物と、(メタ)アリルスルホン酸組成物と、架橋剤組成物とを所定の配合割合で含んで成る単量体水溶液に重合開始剤を添加して重合させることにより、上記課題を解決できることを見出した。そして、このようにして得られる水溶性高分子架橋剤は、重量平均分子量、及びヨウ素価即ち不飽和二重結合含有量が、所定範囲にあるため、この架橋剤を添加して水溶性単量体を重合させることにより新規な化学構造の重合体を形成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
上記課題を解決する本発明は以下に記載するものである。
【0018】
〔1〕
重量平均分子量が10万〜200万で、ヨウ素価が0.18〜17.9であることを特徴とする水溶性高分子架橋剤。
【0019】
上記〔1〕に記載の発明には、以下の〔2〕〜〔4〕に記載の発明も含まれる。
【0020】
〔2〕
重量平均分子量が20万〜150万である〔1〕に記載の水溶性高分子架橋剤。
【0021】
〔3〕
ヨウ素価が0.36〜14.3である〔1〕に記載の水溶性高分子架橋剤。
【0022】
〔4〕
ラジカル重合によって生成する水溶性単量体単位構造を有する分子鎖が架橋且つ分岐されてなり、前記分子鎖の末端に(メタ)アリルスルホン酸に起因して生成する二重結合を有する〔1〕に記載の水溶性高分子架橋剤。
【0023】
〔5〕
水溶性単量体組成物と、(メタ)アリルスルホン酸組成物と、架橋剤組成物とを含んで成る単量体水溶液に重合開始剤を添加して重合する水溶性高分子架橋剤の製造方法であって、
単量体水溶液における水溶性単量体組成物(aモル)と、(メタ)アリルスルホン酸組成物(bモル)と、架橋剤組成物(cモル)とのモル分率が下記不等式(1)、(2)
【数1】

を満たすことを特徴とする〔1〕に記載の水溶性高分子架橋剤の製造方法。
【0024】
上記〔5〕に記載の発明には、以下の〔6〕―〔10〕に記載の発明も含まれる。
【0025】
〔6〕
単量体水溶液中における水溶性単量体組成物と(メタ)アリルスルホン酸組成物と架橋剤組成物との合計含有量が5〜50質量%である〔5〕に記載の水溶性高分子架橋剤の製造方法。
【0026】
〔7〕
単量体水溶液中における水溶性単量体組成物と(メタ)アリルスルホン酸組成物と架橋剤組成物との合計含有量が10〜40質量%である〔5〕に記載の水溶性高分子架橋剤の製造方法。
【0027】
〔8〕
水溶性単量体組成物が
アクリルアミド、メタクリルアミド、N、N−ジメチルアクリルアミド、N、N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、
及び、
アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びこれらの中和塩、
及び、
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート並びにジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート並びにジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの三級塩、又は、ハロゲン化アルキル、ジメチル硫酸、ベンジルハライド等による四級塩、
及び、
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、
からなる群より選択される1又は2種以上の組合わせである〔5〕に記載の水溶性高分子架橋剤の製造方法。
【0028】
〔9〕
水溶性単量体組成物中にアクリルアミドを50モル%以上含む〔5〕に記載の水溶性高分子架橋剤の製造方法。
【0029】
〔10〕
〔1〕に記載の水溶性高分子架橋剤と、
〔1〕に記載の水溶性高分子架橋剤と共重合可能な単量体と、
を重合してなることを特徴とする重合体組成物。
【発明の効果】
【0030】
本発明の水溶性高分子架橋剤(以下、本水溶性高分子架橋剤ともいう。)を用いて製造される重合体は水溶性を保ったまま分子量を高くすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は本水溶性高分子架橋剤を用いて製造した本水溶性重合体の分子構造を示す模式図である。
【図2】図2は従来の架橋剤を用いて製造した重合体の分子構造を示す模式図である。
【図3】図3は線状高分子重合体の分子構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を詳細に説明する。
本水溶性高分子架橋剤は、以下の単量体を共重合することによって製造される。
【0033】
(水溶性単量体)
水溶性単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N、N−ジメチルアクリルアミド、N、N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、アクリル酸およびその中和塩、メタクリル酸およびその中和塩、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびその中和塩、イタコン酸およびその中和塩、マレイン酸およびその中和塩、フマル酸およびその中和塩、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートあるいはジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの三級塩あるいはハロゲン化アルキル、ジメチル硫酸、ベンジルハライド等による四級塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドが例示される。これらは単独で用いても、2種以上を組合わせて用いても良い(以下、これを「水溶性単量体組成物」ともいう。)。
【0034】
得られる高分子架橋剤の水溶性を損ねない程度であれば、他の単量体、例えば、スチレン、アクリルニトリル、(メタ)アクリル酸エステルを配合しても良い。この水溶性単量体組成物はアクリルアミドを主成分とすることが好ましい。水溶性単量体組成物におけるアクリルアミドの含有量は50モル%以上が好ましい。
【0035】
((メタ)アリルスルホン酸及びその塩)
(メタ)アリルスルホン酸及びその塩としては、アリルスルホン酸又はメタリルスルホン酸、及びこれらのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、更には、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩が例示される。これらは単独で用いても、2種以上を組合わせて用いても良い(以下、これを「(メタ)アリルスルホン酸組成物」ともいう。)。
【0036】
(一分子中に二個以上の不飽和二重結合を有する水溶性単量体)
一分子中に二個以上の不飽和二重結合を有する水溶性単量体としては、メチレンビスアクリルアミド、エチレンまたはポリエチレンジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の、アルキレンビス(メタ)アクリルアミド、モノ及びポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリメチロールアルカンポリ(メタ)アクリレートが例示される。これらは単独で用いても、2種以上を組合わせて用いても良い(以下、これを「架橋剤組成物」ともいう。)。不飽和二重結合は、一分子中に2以上有し、好ましくは2〜5、より好ましくは2〜3有する。
【0037】
本発明の水溶性高分子架橋剤は、上記単量体を以下に記載する割合で重合させることにより製造される。
【0038】
水溶性単量体組成物(aモル)、(メタ)アリルスルホン酸組成物(bモル)、架橋剤組成物(cモル)の合計量(a+b+c)に対する、(メタ)アリルスルホン酸組成物(bモル)と架橋剤組成物(cモル)との合計量(b+c)のモル分率、即ち下記式(3)で示される値は0.05〜0.50で、0.06〜0.40が好ましい。
【0039】
【数2】

【0040】
この値が0.05未満の場合は、得られる高分子架橋剤の不飽和二重結合含有量が低下する。一方、この値が0.50を超える場合は、得られる高分子架橋剤の重量平均分子量が低下する。その結果、本水溶性高分子架橋剤が得られなくなる。
【0041】
更に、(メタ)アリルスルホン酸組成物(bモル)に対する架橋剤組成物(cモル)のモル比率、即ちc/bは0.05〜5.0で、0.10〜4.0が好ましい。
【0042】
この値が0.05未満の場合は、得られる架橋剤の重量平均分子量が低下する。一方、この値が5.0を超える場合は、得られる高分子架橋剤が不溶化する。その結果、本水溶性高分子架橋剤が得られなくなる。
【0043】
(水溶性高分子架橋剤の重合方法)
本水溶性高分子架橋剤は以下の方法で製造することが好ましい。
【0044】
(水溶液重合)
先ず、上記水溶性単量体組成物、(メタ)アリルスルホン酸組成物、架橋剤組成物を水に溶解して単量体水溶液を調製する。単量体水溶液には、必要に応じて、連鎖移動剤、pH調整剤を加えてもよい。その後、単量体水溶液に重合開始剤を添加して、重合を開始させる。
【0045】
単量体水溶液中の上記水溶性単量体組成物、(メタ)アリルスルホン酸組成物、架橋剤組成物の濃度は合計で5〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。
【0046】
水溶液重合に使用する水は、水道水、イオン交換水、河川の表流水、地下水等が使用できる。イオン交換水以外の水は、溶解する重金属の捕捉用にキレート剤のような重金属捕捉剤を使用しても良い。また、単量体水溶液中に水溶性の低い単量体を配合する場合には、メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン等の水性有機溶剤を水と併用しても良い。
【0047】
重合開始時の温度は0〜100℃であり、10〜90℃が好ましい。
【0048】
重合にあたっては、重合を開始する前に、単量体水溶液に窒素ガスを通じて溶存酸素を除去しておくことが好ましい。特に、重合開始温度が比較的低い(例えば、50℃未満)場合には、速やかに重合が始まるように、溶存酸素を除去することが好ましい。
【0049】
重合開始剤としては、酸化剤のみからなる開始剤や、酸化剤と還元剤との組合わせからなるレドックス系開始剤、アゾ系開始剤が使用できる。これらの開始剤は単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0050】
レドックス系開始剤は、公知の酸化剤と還元剤との組み合わせを用いることが出来る。酸化剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリ、過酸化水素、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイドが例示される。還元剤としては、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミンが例示される。レドックス系開始剤の添加量は、酸化剤、還元剤ともに単量体水溶液の質量に対し1〜2000ppmが好ましい。
【0051】
比較的高温(例えば、50℃以上)で重合を開始させる場合には、上記酸化剤のみで重合を行うこともできる。
【0052】
同様にアゾ系開始剤のみでも、重合を開始することができる。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシルエチル]−プロピオンアミド、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]が例示される。これらは単独で用いても、2種以上を併用しても良い。アゾ系開始剤の添加量は、単量体の質量に対して合計で100〜10000ppmが好ましい。また、レドックス開始剤や酸化剤を併用しても良い。
【0053】
重合開始剤の添加の方法は特に制限されないが、例えば以下のように行われる。
【0054】
重合開始温度が比較的低い場合(例えば、50℃未満)、予め単量体水溶液に酸化剤又は還元剤の一方と、必要に応じてアゾ系開始剤を添加しておく。その後、酸化剤又は還元剤の他方を添加することによって重合を開始させることが出来る。
【0055】
重合開始温度が比較的高い場合(例えば、50℃以上)、単量体水溶液に酸化剤又はアゾ系開始剤を添加しておき、昇温することによって重合を開始させることが出来る。昇温操作に加えて、上記の場合と同様に還元剤を添加しても良い。
【0056】
重合開始温度が比較的低い場合、重合時間は長くなるが、重合の制御はし易くなる。一方、重合開始温度が比較的高い場合、重合時間は短くなるが、重合の制御はし難くなる。
【0057】
また、開始剤の添加は逐次添加でも一括添加でも良い。一括添加の場合、操作は簡単であるが重合反応の制御は煩雑になる。一方、逐次添加の場合、操作は煩雑になるが重合反応の制御はし易い。
【0058】
更に、重合開始温度が比較的高い場合には、単量体水溶液の全量を一時に反応させずに、分割して反応系に添加しても良いし、連続的に添加しても良い。これらを組み合わせて、単量体水溶液の一部を一時に添加しておき、残部を連続的に反応系に添加してもよい。このような方法は、発熱による温度上昇を抑制できるので、重合反応を制御しやすい。
【0059】
重合反応の進行状態は、発熱状態または残存単量体量の測定などで追跡することが出来る。重合は通常、1〜10時間で完結する。重合停止の方法は反応液を冷却するだけでも良いし、還元剤を添加して酸化剤を消失させてもよい。このとき用いる還元剤は、重合開始に使用したものでも良いし、アスコルビン酸のように還元力の強いものでもよい。但し、得られる本水溶性高分子架橋剤を引き続き重合体の重合反応に供する場合は、重合を阻害する場合があるので還元剤は添加しないことが好ましい。
【0060】
反応終了後の反応液に含まれる本水溶性高分子架橋剤の濃度は5〜50質量%であり、好ましい条件下で反応を行った場合は10〜40質量%である。また、その反応液の粘度(25℃)は10〜50000 mPa・sである。
【0061】
本水溶性高分子架橋剤の水溶性とは、本水溶性高分子架橋剤を水に溶解させた場合にゲル化した不溶分を含まず、上記濃度(5〜50質量%)において均一な溶解状態にあり、室温(25℃)において流動性があり、水希釈しても均一な水溶液状態を保っていることをいう。
【0062】
反応終了後の反応液中には、少量(通常、1質量%以下)の不飽和の単量体が残存している。これを除去するために、この反応液を、限外濾過法、分子篩法、精密濾過法等の分子サイズの違いによって分離を行う分離法等によって精製しても良い。
【0063】
本水溶性高分子架橋剤の重量平均分子量は10万〜200万であり、20万〜150万が好ましい。重量平均分子量が10万未満である場合は、この水溶性高分子架橋剤を使用して製造される重合体の性質は、従来の低分子架橋剤を使用して製造される重合体の性質と比べて大差がなく、ゲル化が生じる。一方、重量平均分子量が200万を超える場合は、この水溶性高分子架橋剤を使用して重合体を製造する際に、重合液の粘度が高くなる。そのため、重合液における水溶性高分子架橋剤の濃度を低くせざるを得なくなり、重合の条件が制限される。
【0064】
本水溶性高分子架橋剤のヨウ素価は0.18〜17.9である。ヨウ素価は不飽和二重結合含有量の指標として用いる。ヨウ素価が上記範囲の場合、不飽和二重結合含有量は、アクリルアミド換算で0.05〜5.0mol%である。本水溶性高分子架橋剤のヨウ素価は0.36〜14.3が好ましい。ヨウ素価が上記範囲の場合、不飽和二重結合含有量は、アクリルアミド換算で0.10〜4.0mol%である。ヨウ素価が0.18未満である場合は、水溶性高分子架橋剤に結合する分子鎖が少ない。そのため、得られる水溶性重合体の性質は、従来の低分子架橋剤を使用して製造される水溶性重合体の性質と大差がない。一方、ヨウ素価が17.9を超える場合は、水溶性高分子架橋剤に結合する分子鎖が多くなり、かつ各分子鎖は互いに近接する分子鎖を介して架橋剤同士が結合し易くなり、更に分子鎖の末端同士が結合し易くなる。
【0065】
ヨウ素滴定法による不飽和二重結合含有量の測定は、以下のように行われる。
【0066】
但し、前述のように重合反応により製造される水溶性高分子架橋剤溶液中には、不飽和の単量体が残存している。従って、そのままヨウ素滴定法によって水溶性高分子架橋剤の不飽和二重結合含有量を測定することが出来ない。即ち、高分子架橋剤中の不飽和二重結合以外に、水溶性高分子架橋剤溶液中に残存する単量体の不飽和二重結合が加味されるためである。従って、正確なヨウ素価の測定を行うには、高分子架橋剤水溶液中に残存する不飽和の単量体を除去する必要がある。具体的には、前述の限外濾過法、分子篩法、精密濾過法等の分子サイズの違いによって分離を行う分離法等を利用して、残存する不飽和の単量体を除去する。その後、ヨウ素滴定法を行うことにより、水溶性高分子架橋剤のヨウ素価を正確に測定できる。
【0067】
なお、実際にこの水溶性高分子架橋剤を使って、新規な水溶性重合体を製造するに当っては、前記した方法で残存単量体を分離して使用してもよいし、分離しないでそのまま使用することもできる。
【0068】
本水溶性高分子架橋剤のイオン性はノニオン、アニオン、カチオンあるいは両性の何れも取りうる。
【0069】
上記方法で製造する本水溶性高分子架橋剤の化学構造は、現在完全には解明されていない。しかし、原料単量体として(メタ)アリルスルホン酸及びアクリルアミドを主成分とする他の水溶性単量体を用いてこれらをラジカル重合させていることから、(メタ)アリルスルホン酸が重合する毎に、生成する高分子鎖の成長端に二重結合を生成していると考えられる。従って、本水溶性高分子架橋剤は、ラジカル重合によって生成する分子鎖の末端に(メタ)アリルスルホン酸に起因して生じる二重結合を有する少量の水溶性高分子鎖と、分子鎖の末端に二重結合を有さない水溶性単量体が共重合して生成する多量の水溶性高分子鎖と、前記両水溶性高分子鎖を連結する低分子の架橋部分とからなる化学構造を有していると推定している。
【0070】
(本水溶性高分子架橋剤を用いて製造する水溶性重合体)
上記のようにして得られる本水溶性高分子架橋剤は、従来の低分子量の架橋剤と比較して、その化学構造及び分子量が大きく異なる。従って、本水溶性高分子架橋剤は、共重合可能な単量体と共重合させることにより、従来にない分子構造をもつ本発明の水溶性重合体(以下、本水溶性重合体ともいう。)を製造できる。
【0071】
本水溶性重合体の分子構造について、以下に詳述する。
【0072】
従来から、重合体の分子構造を線状構造から分岐或は架橋構造へと変える試みがなされている。分岐或は架橋構造を形成するには架橋剤が使用される。従来の架橋剤は、分子量が数百以下であり、不飽和二重結合基が2或いは3個結合している。これらの架橋剤を使用して得られる重合体の分子構造は図2に示すように、分子鎖21が分子量の小さい架橋剤22によって固定されるため、分子鎖21同士が近接する状態で結合され、全体として分子鎖の運動性が低いものとなる。そのため、ゲル化しやすい等、各用途において機能発現に制約を受ける。
【0073】
一方、本水溶性高分子架橋剤を使用して得られる本水溶性重合体の分子構造は図1に示すように、重合体分子鎖11の片末端が高分子量の本水溶性高分子架橋剤12に結合することによって束縛を受けている。この構造は星型、又は毬栗状である。これにより高分子量の重合体を製造できる。水溶性高分子鎖11の他方の末端は、本水溶性高分子架橋剤12の束縛を受けていない。更に、本水溶性高分子架橋剤12は高分子であるので、本水溶性高分子架橋剤12に結合する水溶性高分子鎖11同士は、十分に離れて本水溶性高分子架橋剤12に結合している。その結果、本水溶性高分子架橋剤12に結合する水溶性高分子鎖11同士は相互に干渉し難い。そのため、水溶性高分子鎖11は自由運動性が高い。これらの理由で、本水溶性高分子架橋剤を用いることにより水溶性が高く、且つ高分子量の水溶性重合体を製造できる。この水溶性重合体は各種用途に対して優れた性能の発現が期待できる。
【0074】
また、線状構造(図3)の水溶性高分子重合体と比べた場合、本水溶性重合体は分子鎖の一端が束縛されているので、高分子架橋体を中心とした空間の連鎖密度が高くなり、線状構造にはない機能が期待される。
【0075】
即ち、本水溶性高分子架橋剤を使用して製造する本水溶性重合体の分子構造は、従来の低分子架橋剤を用いて製造される水溶性高分子の構造とは本質的に異なる。本水溶性重合体の構造は、架橋された重合体という概念を超えたものであり、星型多分岐構造と呼称することができ、これは従来にない新規な構造である。星型多分岐構造特有の機能は現在のところ確認出来ていない。
【0076】
本水溶性重合体の製造方法を以下に説明する。
【0077】
本水溶性高分子架橋剤と共重合可能な単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N、N−ジメチルアクリルアミド、N、N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、アクリル酸およびその中和塩、メタクリル酸およびその中和塩、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびその中和塩、イタコン酸およびその中和塩、マレイン酸およびその中和塩、フマル酸およびその中和塩、アクリル酸およびその中和塩、メタクリル酸およびその中和塩、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびその中和塩、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートあるいはジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの三級塩あるいはハロゲン化アルキル、ジメチル硫酸、ベンジルハライド等による四級塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド等の水溶性単量体が例示される。これらは単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0078】
重合体の水溶性を損ねない程度であれば、他の単量体、例えば、スチレン、アクリルニトリル、(メタ)アクリル酸エステル等の単量体を適宜配合してもよい。
【0079】
上記共重合可能な単量体に対する本水溶性高分子架橋剤の配合量は、水溶性高分子架橋剤の分子量および不飽和二重結合含有量(ヨウ素価)に応じて変わるが、共重合可能な単量体の0.01〜50質量%で、0.02〜30質量%が好ましい。配合量が0.01質量%未満の場合は、架橋剤の添加効果が現れず、得られる重合体は略線状構造となる。一方、配合量が50質量%を超える場合は、得られる重合体の不溶化が顕著となる。
【0080】
本水溶性高分子架橋剤と、本水溶性高分子架橋剤と共重合可能な単量体とを用いて本水溶性重合体を製造する方法は、得られる重合体の用途により適宜選択される。凝集剤、抄紙用粘剤、歩留向上剤、石油三次回収用薬剤等の高分子量の重合体を製造する場合は、断熱的重合法、エマルション重合法が好適に採用される。一方、凝結剤、紙力増強剤等の比較的低分子量の重合体を製造する場合は、水溶液重合法、エマルション重合法が採用される。以下に詳述する。
【0081】
(断熱重合)
断熱的重合法とは、重合反応中に外部からの人為的な加熱や除熱を行わずに、重合反応を進行させる方法である。重合容器が断熱処理されているか否か、又は重合容器が温度制御されているか否かを表すものではない。断熱的重合法においては、重合反応開始とともに反応熱により反応温度(反応液の温度)は上昇し、重合反応がほぼ完結するに伴い温度上昇は停止し最高温度に達する。
【0082】
重合反応後の重合液はゲル状となっている。これを必要に応じ、70〜100℃の温水中で1〜5時間熱処理して残存単量体を除去した後、常法により細断、乾燥、粉砕して粉末状の本水溶性高分子重合体を得る。
【0083】
より具体的には、先ず、本水溶性高分子架橋剤と、本水溶性高分子架橋剤と共重合可能な単量体と、の水溶液(以下、「架橋剤/単量体水溶液」ともいう)を調製する。単量体濃度は15〜50質量%が好ましい。重合開始温度は−5〜30℃が好ましい。次いで、この架橋剤/単量体水溶液に重合開始剤を添加する。重合開始剤としては、レドックス重合開始剤又は光重合開始剤が好ましい。
【0084】
レドックス開始剤は、公知の酸化剤と還元剤とを組み合わせることにより調製できる。酸化剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイドが例示される。還元剤としては、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミンが例示される。レドックス開始剤の添加量は、酸化剤、還元剤ともに架橋剤/単量体水溶液の質量に対して1〜200ppmが好ましい。酸化剤、還元剤の各水溶液を重合開始の直前に架橋剤/単量体水溶液に加えることにより重合を開始させることができる。
【0085】
光重合開始剤による方法は、公知の方法が採用できる。光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、アンスラキノン、アシルホスフィンオキサイド化合物、アゾ化合物が例示される。光重合開始剤の添加量は、単量体の質量に対して200〜5000ppmである。光重合開始剤を架橋剤/単量体水溶液に加え、光重合開始剤の最大吸収波長の光を含む光を照射することにより重合を開始させることができる。光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯等が挙げられる。
【0086】
重合反応の後半、即ち高温時の重合促進を目的として、架橋剤/単量体水溶液に前述のアゾ系重合開始剤を添加しておいても良い。アゾ系重合開始剤の添加量は、前述のアゾ系重合開始剤の中から少なくとも一種を、単量体の質量に対して合計で100ppm以上であり、200〜10000ppmが好ましい。アゾ系重合開始剤の添加方法は、架橋剤/単量体水溶液にアゾ系重合開始剤を直接添加してもよい。または、アゾ系重合開始剤水溶液を架橋剤/単量体水溶液に添加してもよい。アゾ系重合開始剤が非水溶性である場合には、架橋剤/単量体水溶液に直接添加しても重合が開始し難い場合がある。この場合には、連鎖移動性が比較的小さく且つ水に混合しやすいメタノール等の極性有機溶剤に予めアゾ系重合開始剤を溶解し、この溶液を架橋剤/単量体水溶液に添加すればよい。
【0087】
架橋剤/単量体水溶液には、前述の単量体、アゾ系重合開始剤の他、必要に応じて連鎖移動剤、pH調整剤等を加えてもよい。
【0088】
窒素ガス等を用いて架橋剤/単量体水溶液中の溶存酸素を除去後、重合反応を開始させる。
【0089】
重合を効率的に行うためには、重合反応は断熱的に行うことが好ましい。この場合、通常、重合反応は重合開始後30分〜5時間で50〜100℃の最高温度に達してほぼ完結する。得られる重合体を含む水溶液は、常温でゲル状である(以下、これを「重合体ゲル」ともいう)。
【0090】
重合反応は、適当な反応容器中で回分的に行うこともできるし、ベルトコンベア等のベルトの上に架橋剤/単量体水溶液を連続的に流し込み、連続的に重合反応を行うこともできる。
【0091】
上記重合反応によって得られる重合体ゲルは残留するアクリルアミド等の単量体含有量の低減を目的として、熱処理を行ってもよい。熱処理は、反応容器内やベルトコンベア上で重合体ゲルの加熱を行ってもよい。又は、重合体ゲルを適当な大きさに切断してビニル袋などに密着包装後、湯浴等の加熱浴中で加熱を行ってもよい。熱処理条件は前述した通りである。
【0092】
熱処理後の重合体ゲルを、公知の方法で、乾燥、粉砕することにより、粉末状の本水溶性重合体を得ることができる。
【0093】
(エマルション重合)
以下、エマルション重合法による本水溶性重合体の製造方法について具体的に説明する。
【0094】
エマルション重合法とは、前記した架橋剤/単量体水溶液とHLBが3〜6である疎水性界面活性剤を含む有機分散媒とを混合して乳化させた後、ラジカル重合触媒の存在下、温度30〜100℃で重合させる重合方法である。
【0095】
エマルション重合法においては、重合反応過程において反応液がゲル化(高粘度化)し難いため、重合熱の除去が容易である。そのため、架橋剤/単量体水溶液は前述のものをそのまま使用してもよいが、架橋剤及び単量体の濃度をより高濃度とすることも出来る。具体的には、架橋剤/単量体水溶液における架橋剤及び単量体の濃度を5.0〜80質量%とすることが出来る。架橋剤/単量体水溶液には、連鎖移動剤、pH調整剤等を加えてもよい。
【0096】
有機分散媒としては、脂肪族、脂環族又は芳香族の炭化水素を単独又は併用して用いる。その添加量はエマルション総量に対して5.0〜50質量%であり、10〜40質量%が好ましい。5.0質量%未満の場合は、得られるエマルションが不安定となる。50質量%を超える場合は、得られる水溶性重合体の量が相対的に減少し、更に界面活性剤使用量の増加等が生じ、経済的に不利になる。
【0097】
疎水性界面活性剤としては、HLBが3〜6であるソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコ−ルの脂肪酸エステル、高級アルコ−ルのEO付加物、グリセリン脂肪酸等の非イオン系界面活性剤が好ましい。疎水性界面活性剤の添加量はエマルション総量に対して0.5〜5質量%で、1〜3質量%が好ましい。0.5質量%未満の場合は、乳化する架橋剤/単量体水溶液の粒子の分散が不十分となる。5質量%を超える場合は、乳化する架橋剤/単量体水溶液の粒子径が細かくなり過ぎるほか、経済性にも不利である。
【0098】
上記の架橋剤/単量体水溶液、有機分散媒及び界面活性剤からなる混合液を乳化機により、エマルションとし、必要に応じて脱気或いは窒素ガス置換によって溶存酸素を除去した後、重合開始剤を添加して重合を開始する。
【0099】
重合温度は30〜100℃であり、35〜80℃が好ましい。30℃未満では重合反応が遅く生産効率が悪い。また、水溶性部分が多くなる。100℃を超える場合は、エマルションが不安定となる。
【0100】
重合開始剤としては、一般的なラジカル重合開始剤が用いられ、例えばレドックス系、アゾ系、有機及び無機過酸化物触媒があげられる。
【0101】
重合時間は通常3〜6時間程度である。
【0102】
このようにして製造される重合体エマルションは、平均粒子径10μm以下(測定方法アコースティック法による平均粒子径をいう、以下同じ。)で、安定でしかも低粘度であるためポンプ移送が容易となり、取り扱いが簡便になる。
【0103】
エマルション重合法は有機分散媒中に分散している架橋剤/単量体水溶液が重合して、そのまま製品になるので、分子量の制御が行い易い。そのため、連鎖移動剤等の添加量を制御することにより、凝集剤のように高分子量が求められるものから、凝結剤のように低分子量で十分機能を発現するものまで、多様な分子量の重合体を製造できる。
【0104】
エマルション重合法により製造した水溶性重合体エマルションを凝集剤等の用途に用いる場合は、予め水溶性重合体のエマルションを油中水型から水中油型に転相して使用する必要がある。そのため、親水性界面活性剤を水溶性重合体のエマルションの製造時或いは製造後に加える。
【0105】
親水性界面活性剤としてはHLBが10以上であるポリオキシエチレンアルキルエ−テル、ポリオキシエチレンアルキルフェノ−ルエ−テル等の非イオン系界面活性剤が好ましい。これらの中でもポリオキシエチレンラウリルエ−テル及びポリオキシエチレンノニルフェノ−ルエ−テルが好ましい。親水性界面活性剤の添加量はエマルション総量に対して0.5〜5質量%であり、1〜3質量%が好ましい。添加量が0.5質量%未満の場合は、エマルションの転相が不十分になる。添加量が5質量%を超える場合は、エマルションの発泡が激しくなるほか、経済性にも不利である。
【0106】
(水溶液重合法)
水溶液重合法は基本的には、水溶性高分子架橋剤の製造法に準じて行える。具体的には、必要に応じ、連鎖移動剤、pH調整剤等を添加した単量体調合液にレドックス開始剤、酸化剤、アゾ開始剤の一種以上を添加して重合を行えばよい。重合開始剤の添加方法、重合温度、重合時間は前記した条件に従って行えばよい。
【0107】
高分子架橋剤のイオン性とそれを重合してなる重合体とのイオン性との組合せに制約はなく、どのような組合せでも取りうる。重合体の使用される目的に応じて、適宜選択すればよい。
【0108】
従来の架橋剤を使用して製造される重合体の分子構造は剛直な構造であり、水溶性が低く、各種性能発現に制約を受ける。
【0109】
本水溶性重合体は上述のように特殊な分子構造を有する。特殊な分子構造を有する本水溶性重合体と、従来の水溶性重合体とは分子構造の相違に基づく物性の相違が存在すると本発明者らは考えた。そして重合体の分子構造の相違を確認する手法を鋭意検討した。その結果、重合体溶解液の粘度を無機塩が存在する場合と存在しない場合とで測定して、これらの粘度を比較することにより、構造上の相違を確認できることを見出した。その考え方を以下に記載する。
【0110】
イオン性重合体の溶解液に無機塩を添加すると、溶解している無機イオンの影響でイオン性重合体の分子鎖は収縮する。通常、水溶性重合体の分子量を算出するために用いる水溶性重合体の水溶液の粘度は、無機塩共存下で測定される。一方、無機塩が存在しない水溶性重合体の水溶液中では、分子鎖は伸びており、分子鎖間の相互作用が大きくなる。その結果、水溶液の粘度は高くなる。線状重合体は分子鎖両末端が自由であるので、運動性が高く、分子鎖間で相互作用していても、シェアがかかると相互に移動してしまう。そのため、上記3種の分子構造の高分子の中で線状水溶性高分子は、無機塩の共存する水溶液の粘度と比較して無機塩の存在しない水溶液の粘度の増加割合は最も小さい。
【0111】
一方、通常の架橋構造を持つ水溶性高分子は、分子鎖が架橋構造により束縛されているので、シェアによる分子相互の移動性は低くなるが、分子鎖間の相互作用も小さくなる。
【0112】
星型多分岐構造を持つ本水溶性高分子は鎖状分子の片末端が束縛されているので、シェアによる分子相互の移動性は低くなる。しかし、同時に片末端は自由であるので、分子鎖間の相互作用は大きくなり、結果的に粘度の増加割合が最も大きくなる。これらの分子鎖構造と粘度の関係を計数化するために、発明者らは無機塩存在下の水溶性重合体の水溶液の粘度で、無機塩不存下の水溶性重合体の水溶液の粘度を除した値を粘度指数と呼称することを提案する。そして粘度指数を比較することにより、線状重合体及び低分子架橋剤で架橋される重合体と星型多分岐構造の本水溶性重合体とを識別できると考えている。
【0113】
但し、それらの指数は重合体のイオン性により、大きく異なるので、一概に星型多分岐構造の水溶性重合体を共通の指数で表現することはできず、相対比較により確認する。以上のことは、以下の実施例で具体的に説明する。
【実施例】
【0114】
次に、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0115】
<重量平均分子量測定>
重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。測定条件を以下に示す。
カラム:TSK−GEL GMPWxl×2本連結
溶離液:0.3Mの塩化ナトリウムを含む0.1Mりん酸緩衝液(pH7)とアセトニトリルとを8:2で混合した溶媒
検出器:RI(示差屈折計)
流速:0.5ml/min
カラム温度:40℃
リファレンス:重量平均分子量100万までのプルランと重量平均分子量550万のポリアクリルアミド
【0116】
<不飽和二重結合含有量の定量>
架橋剤の不飽和二重結合含有量は、不飽和結合に臭素を結合させてこの臭素を定量することにより測定した。
【0117】
具体的な測定方法は次の通りである。先ず、高分子架橋剤水溶液約10gをヨウ素フラスコに精秤し、イオン交換水30gで希釈した。これを攪拌しながら、0.1Nの臭素水溶液25mlを加えた後、硫酸5mlをすばやく添加し密栓後、ヨウ素フラスコのつばに少量のイオン交換水を入れ、3分間攪拌を続けた。次いで、冷蔵庫で30分放置することによって、不飽和結合に臭素を十分に結合させた。その後、40質量%よう化カリウム10mlをヨウ素フラスコにすばやく入れて栓をし、残留臭素をヨウ素と置換させた。直ちに、0.1Nチオ硫酸ナトリウムでヨウ素を滴定した。溶液が単黄色になったら、1質量%デンプン水溶液を2ml添加し、溶液が無色になるまで滴定した。同様の方法でブランクの滴定を行い、ブランクの滴定量からサンプルの滴定量を差し引いた値を用いて結合臭素量を計算し、ヨウ素価として算出した。
【0118】
(実施例1)<高分子架橋剤の製造>
フラスコ(ガラス製セパラブルフラスコ)に1次イオン交換水270gを添加し、攪拌しながら80℃に昇温した。脱酸素後、窒素雰囲気下でアゾ系開始剤4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)(以下、V501と略す。(和光純薬株式会社製))0.5gを、9.5gのメタノールに溶解してフラスコに添加した。予め調製しておいた、50%質量アクリルアミド水溶液314g、N,N−メチレンビスアクリルアミド13.4g、メタリルスルホン酸ナトリウム29.5g及び2次イオン交換水333gから成る単量体水溶液をpH5.0に調整し、この単量体水溶液を2時間かけてフラスコに添加し重合を開始させた。単量体水溶液の添加終了後、さらに80℃で4時間保ち重合を完了させた。重合終了後、イオン交換水を添加し、20質量%の高分子架橋剤水溶液を得た。高分子架橋剤水溶液のB型粘度計測定(25℃)による粘度は、4400mPa・sであった。ガスクロマトグラフィーによる残留アクリルアミドの測定値から算出した重合率は99.6%であった。この高分子架橋剤の重量平均分子量は63万であった。この溶液中の不飽和二重結合含有量は、ヨウ素価で10.7であった。
【0119】
上記で製造した高分子架橋剤水溶液200gを、分画分子量10000のウルトラフィルター膜(アドバンテック社製ポリサルホン膜Q0100)をセットした容量2Lの限外ろ過器に入れ、7000gのイオン交換水を追加供給しながら限外ろ過を行うことによって精製し、11.7質量%の精製高分子架橋剤水溶液を得た。精製高分子架橋剤の重量平均分子量は68万であり、不飽和二重結合含有量はヨウ素価で1.68であった。なお、このヨウ素価の値は、アクリルアミド換算で0.47mol%である。
【0120】
(実施例2〜4及び比較例1、2)<高分子架橋剤の製造>
表1−1に示す重合仕込み表に基づき、実施例1と同様にして、高分子架橋剤の製造を行った。得られた高分子架橋剤水溶液を分析し、結果を表1−2に示した。但し、実施例2及び3では、開始剤としてV501の変わりに、過硫酸カリウム(以下、KPSと略す。)を5質量%水溶液として、実施例2では24g、実施例3では32gを脱酸素した後に添加して、重合を開始させた。次いで得られた重合体水溶液を実施例1と同様にして限外ろ過を行い、得られた高分子架橋剤水溶液を分析し、結果を表1−2に示した。
【0121】
(実施例5)<高分子架橋剤の製造>
湯煎器内に浸漬されたフラスコ(ガラス製セパラブルフラスコ)に、1次イオン交換水200gを添加し、窒素ガスを流して脱酸素した。予め調製しておいた、50質量%アクリルアミド水溶液142g、30質量%アクリル酸ナトリウム水溶液31g、79質量%DAC水溶液37g、N,N−メチレンビスアクリルアミド5.0g、メタリルスルホン酸ナトリウム20.0gおよび2次イオン交換水300gから成る単量体水溶液をpH3に調整した後、フラスコに投入し、湯煎器を30℃にセットし、引き続き窒素ガスを流して脱酸素した。単量体水溶液の投入後30分脱酸素した後、予め脱酸素した5質量%過硫酸カリウム水溶液30gを添加した。引き続き、窒素を流しながら、予め脱酸素した亜硫酸ナトリウム0.53gを5.0gのイオン交換水に溶解した水溶液を1時間かけて添加した。
【0122】
亜硫酸ナトリウム水溶液の添加とともに、フラスコを湯煎器から外し、重合の進行に伴い、発熱するに任せ放置した。亜硫酸ナトリウム水溶液の添加後、1時間放置した。フラスコ内の温度は46℃まで上昇していた。次いで、80℃にセットした湯煎器にフラスコを浸漬し、2時間反応させた。その後、反応液を冷却し、イオン交換水を添加して15質量%の高分子架橋剤水溶液を得た。高分子架橋剤水溶液のB型粘度計測定(25℃)による粘度は、6700mPa・sであった。ガスクロマトグラフィーによる残留アクリルアミドの測定値から算出した重合率は99.5%であった。上記で製造した高分子架橋剤水溶液200gを実施例1と同様にして、限外ろ過して精製し、8.6質量%の精製高分子架橋剤水溶液を得た。精製高分子架橋体の重量平均分子量は50万であり、不飽和二重結合量はヨウ素価で0.89であった。なお、このヨウ素価の値は、アクリルアミド換算で0.25mol%である。
【0123】
(実施例6)<高分子架橋剤の製造>
フラスコ(ガラス製セパラブルフラスコ)に1次イオン交換水250gを添加し、窒素ガスを流して脱酸素した。予め調製しておいた、50質量%アクリルアミド水溶液240g、30質量%アクリル酸ナトリウム水溶液80g、N,N−メチレンビスアクリルアミド15.0g、メタリルスルホン酸ナトリウム25.0gおよび2次イオン交換水300gから成る単量体水溶液をpH7.0に調整した後にフラスコに投入した以外は実施例5と全く同様にして重合を行った。
【0124】
重合終了後、反応液を冷却し、イオン交換水を添加して20質量%の高分子架橋剤水溶液を得た。高分子架橋剤水溶液のB型粘度計測定(25℃)による粘度は、10600mPa・sであった。ガスクロマトグラフィーによる残留アクリルアミドの測定値から算出した重合率は99.3%であった。上記で製造した高分子架橋剤水溶液200gを実施例1と同様にして、限外ろ過して精製し、12.6質量%の精製高分子架橋剤水溶液を得た。精製高分子架橋体の重量平均分子量は74万であり、不飽和二重結合量はヨウ素価で0.75であった。なお、このヨウ素価の値は、アクリルアミド換算で0.21mol%である。
【0125】
(実施例7)<高分子架橋剤の製造>
フラスコ(ガラス製セパラブルフラスコ)にイオン交換水270gを添加し、攪拌しながら80℃に昇温した。これを脱酸素後、窒素雰囲気下で5質量%過硫酸カリウム水溶液30gをフラスコ内に添加した。予め調製しておいた、50質量%アクリルアミド水溶液63g、メタリルスルホン酸ナトリウム15.0g及びイオン交換水から成る単量体水溶液をpH5に調整した後、2時間かけてフラスコ内に添加し重合を開始させた。単量体水溶液の添加終了後、80℃で1時間放置し重合させた。
【0126】
次いで、フラスコ内に5質量%過硫酸カリウム水溶液60gを添加した。引き続き、予め調製しておいた、50質量%アクリルアミド水溶液252g、N,N−メチレンビスアクリルアミド10.0g及びメタリルスルホン酸ナトリウム10.0gから成る単量体水溶液をpH5に調整した後、2時間かけてフラスコに添加し重合を開始した。単量体水溶液の添加終了後、80℃で1時間重合した。重合終了後、フラスコ内にイオン交換水を添加し、25.0質量%の高分子架橋剤水溶液を得た。
【0127】
高分子架橋剤水溶液のB型粘度計測定(25℃)による粘度は、26800mPa・sであった。ガスクロマトグラフィーによる残留アクリルアミドの測定値から算出した重合率は99.6%であった。上記で製造した高分子架橋剤水溶液200gを実施例1と同様にして、限外ろ過して精製し、21.3質量%の精製高分子架橋剤水溶液を得た。精製高分子架橋体の重量平均分子量は110万であり、不飽和二重結合量はヨウ素価で1.25であった。なお、このヨウ素価の値は、アクリルアミド換算で0.35mol%である。
【0128】
【表1】

【0129】
【表2】

【0130】
比較例1は、(b+c)/(a+b+c)が本発明の範囲外の割合であるため、ヨウ素価が低い。即ち、水溶性高分子架橋剤中の不飽和二重結合が少ない。そのため、架橋剤としての性質は従来の架橋剤と大差がない。比較例2は、c/bが本発明の範囲外の割合であるため、重合の途中でゲル化した。即ち、架橋剤組成物が(メタ)アリルスルホン酸組成物に対して多すぎるため、通常の架橋剤を用いる重合の場合と同様の架橋構造を採ったと考えられる。
【0131】
(実施例8) <ゲル重合による重合体の製造>
50質量%アクリルアミド水溶液612gと30質量%アクリル酸ナトリウム水溶液560gに実施例1の精製高分子架橋剤溶液を上記単量体質量(純分換算)の4質量%(純分で18.96g、架橋剤水溶液としては162.05g)添加し、全体量が1400gとなるようにイオン交換水を加え、希塩酸及び苛性ソーダ溶液を用いてpHを8とした。これに2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(以下、V−50と略す。)を上記単量体質量に対して700ppm(0.3318g)添加し、その後冷却して0℃とした。
【0132】
この水溶液をステンレス製のジュワー瓶に投入して、窒素を5L/minの速度でジュワー瓶内に導入して十分脱酸素した。その後、過硫酸アンモニウム(1質量%溶液としたもの)を上記単量体に対し5ppm(2.37mg)、硫酸第一鉄(1質量%溶液としたもの)を上記単量体に対し3ppm(1.422mg)それぞれシリンジに取り、これらを同時にジュワー瓶内に投入し、素早く攪拌して反応を開始させた。反応液の温度をモニターしたところ、反応開始68分間後に反応最高温度96℃を記録した。反応最高温度においてそのまま60分間放置した。
【0133】
その後、ジュワー瓶からゲル重合物を取り出し、ゲル中心部を細断し、肉挽器を用いて約2〜3mm径の粒状に粉砕した。このうち約50gをシャーレにとって温風循環式乾燥機にて70℃で2時間乾燥させた後、高速回転刃式粉砕機にて1分間粉砕し、20〜60メッシュ(20メッシュを通過し、60メッシュを通過しないもの、以下同じ。)を分取してサンプルとした。このサンプルの溶解性試験を以下の方法で行った結果、0.10%塩粘度は3.6mPa・s、0.10%溶液粘度は550mPa・sであった。指標として、(0.10%溶液粘度)/(0.10%塩粘度)を粘度指数として示すと、その値は153であった。
【0134】
[溶解性試験]
500mlビーカーに400gの蒸留水を入れ、スクリュー型撹拌羽を400rpmで撹拌しながら、サンプル約0.44g(純分0.40g)を添加し、90分間撹拌して溶解させた。この溶液を使用し、次の2種の粘度を測定した。一つは、1mol%塩化ナトリウム水溶液中におけるサンプル0.10質量%溶液粘度(25℃)(以下0.10%塩粘度と略する)であり、もう一つは、塩化ナトリウムを添加しない水溶液中におけるサンプル0.10質量%溶液粘度(25℃)(以下0.10%溶液粘度と略する)である。この粘度はブルックフィールド粘度計を使用し測定した。
【0135】
(実施例9〜13および比較例3〜7) <ゲル重合による重合体の製造>
表2に示す重合条件により、実施例8に記載の方法に準じて重合を行い、得られた重合体の測定結果を表2に示した。
【0136】
【表3】

【0137】
比較例3−5は、本発明の水溶性高分子架橋剤を使用していないため、本発明の水溶性高分子架橋剤を使用する実施例8−12と比べて粘度指数が低い。同様に比較例6−7は、実施例13と比べて粘度指数が低い。
【0138】
(実施例14)<ゲル重合による重合体の製造>
50質量%アクリルアミド水溶液325.1g、79質量%ジメチルアミノエチルアクリレートメチルクロライド水溶液838.6g、実施例3の精製高分子架橋剤水溶液9.6g(単量体に対して純分換算で0.25質量%)および蒸留水を混合し、pH4に調整した1450gの架橋剤/単量体水溶液にアゾ系開始剤V−50を2.3g含む50gの水溶液を添加し、3℃に冷却した。
【0139】
温度を維持して窒素置換により脱酸素後、ジュワービンに移液し、更に脱酸素を行った。その後、ジュワービンを窒素雰囲気下のボックスに入れ、UVランプを0.4mW/cmでジュワー瓶に向けて均一に照射し断熱重合を開始させた。80分間この状態を維持し、ゲル状重合物を得た。
【0140】
ジュワー瓶からゲル重合物を取り出して中心部を細断し、肉挽器を用いて約2〜3mm径の粒状に粉砕した。このうち約50gをシャーレにとって温風循環式乾燥機にて70℃条件下2時間乾燥させ、高速回転刃式粉砕機にて1分間粉砕し、20〜60メッシュのものを分取してサンプルとした。
【0141】
実施例8に示す溶解性試験に準じて、0.10%溶液粘度および0.10%塩粘度を測定して、粘度指数を算出し、表3に示した。
【0142】
(比較例8〜9)<ゲル重合による重合体の製造>
表3に示す重合条件により、実施例14に記載の方法に準じて重合を行い、得られた重合体の測定結果を表3に示した。
【0143】
【表4】

【0144】
(実施例15および比較例10〜11) <エマルション重合による重合体の製造>
1000mlフラスコ(四つ口セパラブルフラスコ)に50質量%アクリルアミド水溶液138.0g、79質量%ジメチルアミノエチルアクリレートメチルクロライド水溶液128.1g、実施例5の精製高分子架橋剤水溶液1.73g(単量体に対し純分換算で0.25質量%)及び蒸留水を投入し、架橋剤/単量体水溶液を調製した。この架橋剤/単量体水溶液をpH4に調整した後、アゾ系開始剤V50を1.1g含む20gの水溶液を添加し、イオン交換水を加えて全量400gとした。
【0145】
この水溶液をHLB=4.2のノニオン性界面活性剤9.9gを溶解したパラフィン油160gに加え、ホモジナイザーにて高速攪拌して乳化した。攪拌機を通常の化学反応用の攪拌機に代え、攪拌しながらこの乳化液中に30分間窒素ガスを通して脱気した後、50℃に昇温して、窒素ガス雰囲気下で重合を行った。重合終了後、HLBが18.0のノニオン性界面活性剤10.5gを加えて溶解し、サンプルとした。
【0146】
実施例8に示す溶解性試験に準じて、0.10%溶液粘度および0.10%塩粘度を測定して、粘度指数を算出し、表4に示した。
【0147】
(実施例16および比較例12〜13)
表4に示す重合条件により、実施例14に記載の方法に準じて重合を行い、得られた重合体の測定結果を表4に示した。
【0148】
【表5】

【0149】
比較例8−9は、本発明の水溶性高分子架橋剤を使用していないため、本発明の水溶性高分子架橋剤を使用する実施例14と比べて粘度指数が低い。同様に比較例10−11は、実施例15と比べて粘度指数が低い。比較例12−13は、実施例16と比べて粘度指数が低い。
【0150】
〔凝集性能試験〕
化学工場から採取した汚泥(固形物濃度0.8%、pH6.3)150mlを300mlビーカーに取り、これに表5に示すカチオン性高分子を0.2質量%の水溶液として表5に示す量添加し、英国トライトン社製CSTミキサーで1000rpm、30秒間攪拌した。生成したフロックのサイズを目視にて判定し、次に60メッシュのステンレス製濾過管上に注ぎ、30秒後の濾水量をメスシリンダーにて測定した。ステンレス製濾過管上に残った汚泥を、60メッシュのナイロン布に包み、円沈管式遠心分離器で2000rpm、5分間脱水することにより、脱水ケーキを得た。この脱水ケーキは常法によりケーキ含水率を測定した。得られた結果を表5に示す。
【0151】
【表6】

【0152】
実験例1では本発明の水溶性高分子架橋剤を用いて製造した水溶性重合体を用いている。実験例1は実験例2、3と比較して ろ水量が大きく、ケーキ含水率も低いため、フロックの形成能が優れている。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本水溶性高分子架橋剤を共重合してなる本水溶性重合体は、水溶液中で連鎖同士が強く相互作用し、星型多分岐構造を形成していることが示された。形成される星型多分岐構造は凝集剤、製紙工程用薬剤(例えば抄紙用粘剤、歩留向上剤、紙力増強剤等)、石油三次回収用薬剤、凝結剤等の分野で広く利用されることが期待される。
【符号の説明】
【0154】
10・・・本水溶性重合体組成物
11・・・単量体又は線状重合体
12・・・本水溶性高分子架橋剤
20・・・従来の重合体組成物
21・・・単量体又は線状重合体
22・・・従来の架橋剤
31・・・線状重合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が10万〜200万で、ヨウ素価が0.18〜17.9であることを特徴とする水溶性高分子架橋剤。
【請求項2】
重量平均分子量20万〜150万である請求項1に記載の水溶性高分子架橋剤。
【請求項3】
ヨウ素価が0.36〜14.3である請求項1に記載の水溶性高分子架橋剤。
【請求項4】
ラジカル重合によって生成する水溶性単量体単位構造を有する分子鎖が架橋且つ分岐されてなり、前記分子鎖の末端に(メタ)アリルスルホン酸に起因して生成する二重結合を有する請求項1に記載の水溶性高分子架橋剤。
【請求項5】
水溶性単量体組成物と、(メタ)アリルスルホン酸組成物と、架橋剤組成物とを含んで成る単量体水溶液に重合開始剤を添加して重合する水溶性高分子架橋剤の製造方法であって、
単量体水溶液における水溶性単量体組成物(aモル)と、(メタ)アリルスルホン酸組成物(bモル)と、架橋剤組成物(cモル)とのモル分率が下記不等式(4)、(5)
【数3】

を満たすことを特徴とする請求項1に記載の水溶性高分子架橋剤の製造方法。
【請求項6】
単量体水溶液中における水溶性単量体組成物と(メタ)アリルスルホン酸組成物と架橋剤組成物との合計含有量が5〜50質量%である請求項5に記載の水溶性高分子架橋剤の製造方法。
【請求項7】
単量体水溶液中における水溶性単量体組成物と(メタ)アリルスルホン酸組成物と架橋剤組成物との合計含有量が10〜40質量%である請求項5に記載の水溶性高分子架橋剤の製造方法。
【請求項8】
水溶性単量体組成物が
アクリルアミド、メタクリルアミド、N、N−ジメチルアクリルアミド、N、N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、
及び、
アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びこれらの中和塩、
及び、
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート並びにジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート並びにジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの三級塩、又は、ハロゲン化アルキル、ジメチル硫酸、ベンジルハライド等による四級塩、
及び、
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド
からなる群より選択される1又は2種以上の組合わせである請求項5に記載の水溶性高分子架橋剤の製造方法。
【請求項9】
水溶性単量体組成物中にアクリルアミドを50モル%以上含む請求項5に記載の水溶性高分子架橋剤の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の水溶性高分子架橋剤と、
請求項1に記載の水溶性高分子架橋剤と共重合可能な単量体と、
を重合してなることを特徴とする重合体組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−178818(P2011−178818A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41297(P2010−41297)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(306048535)MTアクアポリマー株式会社 (6)
【Fターム(参考)】