説明

水溶液の精製方法

【課題】クロマトグラフィーにより水溶液に含まれる塩類を効果的に脱塩精製し、且つ脱塩精製能力の低下がない精製方法を提供する。
【解決手段】水溶液の精製方法であって、該水溶液が2価以上のカチオンを含有し、且つアニオン交換樹脂を分離剤として、クロマトグラフィーにより無機塩類を分離することを特徴とする水溶液の精製方法。好ましくは、前記強塩基性アニオン交換樹脂の重量平均粒子径が200μm以上500μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水溶液の精製方法に関する。詳しくは、水溶液に含まれる塩類をクロマトグラフィーにより効果的に脱塩精製しうる水溶液の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖類等の水溶液を精製する場合、該水溶液に含まれる塩類を、カチオン交換樹脂を用いたクロマトグラフィーにより脱塩精製することは広く知られている(特許文献1等)。
クロマトグラフィーによる脱塩精製は、用いるイオン交換樹脂を再生する必要がないため、塩酸やNaOH等の薬剤が不要であり、薬剤廃液の排出がないことから、経済面、及び環境汚染防止の面から有効な手法である。
【0003】
一般に脱塩精製にはNa形、又はK形カチオン交換樹脂が用いられるが、精製前の原料となる水溶液に、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等の2価以上のカチオンが含まれていると用いるイオン交換樹脂が2価イオン形になり脱塩能力が著しく低下する。このため2価以上のカチオンが含まれている原料の場合は、原料水溶液を軟化処理又は薬剤処理することにより、2価以上のカチオンを除去した後、クロマトグラフィーによる脱塩精製を行っているのが現状である。
【0004】
なお、強塩基アニオン交換樹脂をクロマト分離に用いる技術としては、蛋白質分解液を、強塩基性陰イオン交換樹脂を分離剤としてクロマトグラフィーにより有価物含有溶液と酸水溶液とに分離する蛋白質分解液からの酸除去方法が開示されている(特許文献2)。しかしながら、この技術は水溶液の脱塩技術に関するものではなく、特に2価以上のカチオンを含む水溶液の脱塩精製を効果的に行うことの示唆もなく、本発明の技術分野に転用することは当業者において全く想到されるものではなかった。
【特許文献1】特開昭63−251100号公報
【特許文献2】特開平7−24209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、脱塩精製の前に、上記軟化処理を行う場合は、弱酸性カチオン交換樹脂の使用が、薬剤処理を行う場合は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム等の薬剤の使用が必要となるため、経済面、及び環境汚染防止の面からこれら前処理の省略が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、従来のカチオン交換樹脂を用いたクロマトグラフィーによる精製方法の脱塩精製能力が著しく低下する原因に着目し、本発明に至った。即ち、カチオン交換樹脂の脱塩精製能力が著しく低下するのは、原料となる水溶液に含まれるカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の2価以上のカチオンによって該カチオン交換樹脂が2価以上のイオン形となることが原因である。そこで、本発明者等は、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等の2価以上のカチオンを吸着しないアニオン交換樹脂を用いることを見出し、さらに、クロマトグラフィーによる脱塩精製能力に優れたアニオン交換樹脂を見出すことにより、従来のカチオン交換樹脂と同様の脱塩精製能力を有しながら、脱塩精製能力の低下がない水溶液の精製方法を発明するに至った。
【0007】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)水溶液の精製方法であって、該水溶液が2価以上のカチオンを含有し、且つアニオン交換樹脂を分離剤として、クロマトグラフィーにより塩類を分離することを特徴とする水溶液の精製方法。
(2)アニオン交換樹脂の重量平均粒子径が100μm以上500μm以下である前記(1)に記載の水溶液の精製方法。
(3)水溶液が、有価物を含有する前記(1)又は(2)に記載の水溶液の精製方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、クロマトグラフィーにより水溶液に含まれる塩類を効果的に脱塩精製し、且つ脱塩精製能力の低下がない精製方法を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これらは本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
[1]アニオン交換樹脂
[1−1]重量平均粒子径
本発明に用いられるアニオン交換樹脂は、重量平均粒子径が、通常100μm以上、好ましくは150μm以上、更に好ましくは200μm以上、特に好ましくは220μmであり、通常500μm以下、好ましくは400μm以下、更に好ましくは360μm以下である。重量平均粒子径が小さすぎると圧力損失が増大するため流速を下げざるを得ず生産性が低下する。また、大きすぎると分離性能が低下するため十分な脱塩精製が行われない。
【0010】
上記重量平均粒子径を有する本発明のアニオン交換樹脂は、例えばMA100SS(三菱化学社製が好適であるが、同等の特性を有するアニオン交換樹脂であればその効果は特に制限されるものではない。
本発明の粒径の重量平均粒子径を得るためには、重合時の攪拌速度により調整する事が出来る。又、例えば特願昭63−0116916に記載の均一粒径製造法においては、モノマー流速、分散媒中の分散安定剤の種類や濃度により調整する事が出来るので好適である。
[1−2]粒度分布
本発明に用いられるアニオン交換樹脂は、粒度分布がシャープであることが好ましく、下記算出法により示される均一係数が通常1.6以下、好ましくは1.3以下、更に好ましくは1.1以下である。
<均一係数算出法>
篩目の径が1180μm、850μm、710μm、600μm、425μm、300μmの篩を、下方になる程、篩目の径が小さくなる様に積み重ねる。この積み重ねた篩をバットの上に置き、最上段に積み重ねられた1180μmの篩の中にアニオン交換樹脂を約100mL入れる。
【0011】
水道水につないだゴム管から樹脂上にゆるやかに水を注ぎ小粒を下の方へ篩別する。1180μmの篩の中に残ったアニオン交換樹脂は、さらに以下の方法により、厳密に小粒を識別する。即ち、別のバットの1/2位の深さまで水を満たし、1180μmの篩を前記バットの中で上下及び回転運動を与えて動揺させることを繰り返し、小粒を識別する。
前記バットの中の小粒は次の850μmの篩の上へ戻し、また1180μmの篩の上に残ったアニオン交換樹脂はさらに別のバットに採取する。篩の目にアニオン交換樹脂が詰まっていれば、篩をバットに逆に置き、水道水につないだゴム管に密着させ、水を強く流して篩の目に詰まったアニオン交換樹脂を取り出す。取り出したアニオン交換樹脂は、1180μmの篩上に残ったアニオン交換樹脂を採取したバットに移し、合計をメスシリンダーで容積を測定する。この容積をa(mL)とする。1180μmの篩を通ったアニオン交換樹脂は850μm、710μm、600μm、425μm、300μmの篩についてそれぞれ同様の操作を行いメスシリンダーを用いて容積bmL、cmL、dmL、emL、fmLを求め、最後に300μmの篩を通った樹脂の容積をメスシリンダーで測定しgmLとする。
【0012】
V=a+b+c+d+e+f+gとし、a/V×100=a’(%)、b/V×100=b’(%)、c/V×100=c’(%)、d/V×100=d’(%)、e/V×100=e’(%)、f/V×100=f’(%)、g/V×100=g’(%)を算出する。
前記a’〜g’より片軸に各篩の残留分累計(%)、他の軸に篩目の径(mm)をとり、これを対数確率紙上にプロットする。残留分の多い順に3点を取り、この3点を出来るだけ満足するような線を引きこの線から残留分累計が90%に相当する篩目の径(mm)を求めこれを有効径とする。
【0013】
前記有効径と同一要領により、残留分累計40%に対応する篩目の径(mm)を求め、次式(I)によって均一係数を求める。
均一係数={残留分累計が40%に相当する篩目の径(mm)}/{有効径(mm)}・・・(I)
なお、上記均一粒係数の算出法は、例えば三菱化学株式会社イオン交換樹脂事業部発行「ダイヤイオンI基礎編」第14版(平成11年9月1日)第139〜141頁に記載される公知の算出法である。
【0014】
上記均一係数を有する本発明のアニオン交換樹脂は、例えば既知の分級方法により得られる。分級法としては、篩による分別、水流を用いる水篩、気流を用いる風篩などが利用できる。又、特願昭63−0116916に記載されている均一粒径製造技術によっても、上記均一係数を有する本発明のアニオン交換樹脂を得ることが出来る。
[1−3]その他物性
その他、本発明に用いられるアニオン交換樹脂は、水分含有率が、通常40重量%以上、好ましくは45重量%以上であり、通常60重量%以下、好ましくは55重量%以下である。水分含有率が少なすぎると、クロマト分離性が不十分であり、水分含有率が多すぎると樹脂の強度が低くなるため、寿命が短くなる。
[1−4]アニオン交換樹脂
本発明に用いられるアニオン交換樹脂は、通常アンモニウム基を交換基とする樹脂であり、強塩基性アニオン交換樹脂、及び弱塩基性アニオン交換樹脂のいずれのアニオン交換樹脂も使用できる。また、その交換基の種類としては、トリメチルアンモニウム基等を交換基に有するI型、及びジメチルエタノールアンモニウム基交換基を有するII型のいずれのアニオン交換樹脂も使用できる。
【0015】
また、本発明に用いられるアニオン交換樹脂は、Cl形、SO形のいずれのイオン形のものも使用できる。この場合、アニオンの交換によるイオン排除効果を乱さないことやアニオンの転換による樹脂容積の変化を起こさない観点から、脱塩精製の対象となる水溶液中の酸根イオンの種類に対応したイオン形を使用するか、またはそのイオン形に調整して使用するのが好ましい。
【0016】
また、本発明に用いられるアニオン交換樹脂は、ゲル型、ポーラス型のいずれの樹脂構造のものも使用できる。
また、本発明に用いられるアニオン交換樹脂は、樹脂骨格が種々の化学構造を有するものを使用できる。具体的には、例えばジビニルベンゼン等で架橋されたポリスチレン、及びポリアクリル酸、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル、フェノール樹脂等の合成高分子や、セルロース等の天然に生産される多糖類の架橋体等が挙げられる。
【0017】
また、本発明においては、原料水溶液の腐敗、雑菌繁殖等を防止することを目的として操作温度を高温にする場合は、耐熱性を有するアニオン交換樹脂を用いることが出来、このようなアニオン交換樹脂としては、例えば特開平7−42105号公報に記載の、下記一般式(I)で表される構成単位と不飽和炭化水素基含有架橋性単量体から誘導される構成単位とを含有する架橋性アニオン交換樹脂を用いることが出来る。
【0018】
【化1】

【0019】
(一般式(I)中、Aは炭素数1から4の直鎖状又は分岐状アルキレン基を表わし、Bは炭素数4から8の直鎖状のアルキレン基を表わし、R 、R 、R は同じか又は異
なっていてもよい炭素数1から4のアルキル基、或いはアルカノール基を示し、Xはアンモニウム基に配位した対イオンを示し、ベンゼン環Dは、アルキル基或いはハロゲン原子で置換されていてもよい。)
上記アニオン交換樹脂は、一般式(I)で示される構成単位を、通常5〜99.9モル%、好ましくは10〜99モル%含有する。また、不飽和炭化水素基含有架橋性単量体から誘導される構成単位を、通常0.1〜50モル%、好ましくは0.2%〜25モル%含有する。さらに必要に応じて前記構成単位とは異なる不飽和炭化水素基含有単量体を0〜50モル%、好ましくは0%〜20モル%含有する。
【0020】
不飽和炭化水素基含有架橋性単量体は、水不溶性架橋共重合体を製造するために必要であり、例えばジビニルベンゼン、ポリビニルベンゼン、アルキルジビニルベンゼン、ジアルキルジビニルベンゼン、エチレングリコール(ポリ)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレンビス(メタ)アクリルアミド等が挙げられ、好ましくはジビニルベンゼンである。
【0021】
前記構成単位とは異なる不飽和炭化水素基含有単量体は、前記アニオン交換樹脂の耐熱性等の機能を低減させない範囲において用いることができ、例えばスチレン、アルキルスチレン、ポリアルキルスチレン、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、アクリロニトリル等が挙げられる。
また、本発明に用いられるアニオン交換樹脂としては、市販のものを使用することができる。以下に、強塩基性アニオン交換樹脂の具体例を示す。
【0022】
三菱化学社製:DIAION SA10A、DIAION SA11A、DIAION
SA12A、DIAION SA20A、DIAION SA21A、DIAION PA306、DIAION PA308、DIAION PA312、DIAION PA316、DIAION PA318、DIAION PA406、DIAION PA408、DIAION PA412、DIAION PA416、DIAION PA418、HPA25、HPA75。
【0023】
ロームアンドハース社製:AMBERLITE IRA400J、AMBERLITE
IRA401、AMBERLITE IRA402J、AMBERLITE IRA402BL、AMBERLITE IRA404J、AMBERLITE IRA410J、AMBERLITE IRA411、AMBERLITE IRA458RF、AMBERLITE IRA478RF、AMBERLITE IRA900J、AMBERLITE IRA904、AMBERLITE IRA958、AMBERLITE FPA40、AMBERLITE FPA90、AMBERLITE FPA91、AMBERLITE FPA97、AMBERLITE FPA98、AMBERJET 4200、AMBERJET 4400、AMBERJET 4600。
【0024】
ランクセス社製:LEWATIT MonoPlus M500、LEWATIT MonoPlus M504、LEWATIT MonoPlus M600、LEWATIT MonoPlus MP500、LEWATIT MonoPlus MP500A、LEWATIT MP600、LEWATIT S6368、LEWATIT S6328A、LEWATIT S7268、LEWATIT VPOC1074、LEWATIT MonoPlus M800。
【0025】
ダウ社製:DOWEX 22、DOWEX MARATHON A、DOWEX MARATHON A2、DOWEX MARATHON MSA、DOWEX MARATHON MSA−2、DOWEX MONOSPHERE 550A、DOWEX SBR C、DOWEX SBR−P C、DOWEX 1×2、DOWEX 1×2、DOWEX 1×4、DOWEX 1×8。
【0026】
室町ケミカル社製:ムロマック 1×2、ムロマック 1×4、ムロマック 1×8
ピューロライト社製:A200、A300、A400、A420S、A500、A500P、A505、A510、A600、SGA400、SGA600、A555、A850、A860、A870。
以下に、弱塩基性アニオン交換樹脂の具体例を示す。
【0027】
三菱化学社製:DIAION WA10、DIAION WA11、DIAION WA20、DIAION WA21、DIAION WA30。
ロームアンドハース社製:AMBERLITE IRA67、AMBERLITE IRA 743、AMBERLITE IRA96SB、AMBERLITE FPA51、AMBERLITE FPA53、AMBERLITE FPA54、AMBERLITE FPA55、AMBERJET 4002、AMBERJET 4002、AMBERJET 4002、DUOLITE A7。
【0028】
ランクセス社製:LEWATIT MonoPlus MP 62、LEWATIT MonoPlus MP 64、LEWATIT S4228、LEWATIT S4328、LEWATIT S4428、LEWATIT S4528、LEWATIT S4268、LEWATIT VPOC1072。
ダウ社製:DOWEX 66、DOWEX MARATHON WBA、DOWEX MARATHON WBA2、DOWEX MONOSPHERE 77。
【0029】
ピューロライト社製:A100、A103S、A105、A830、A835、A845。
[2]水溶液
本発明において、脱塩精製の対象となる水溶液は、有価物、塩類及びその他の夾雑物(アミノ酸、有機酸塩、タンパク質)を含有する水溶液をいい、例えば食品分野における廃糖蜜の砂糖回収、及び圧搾果汁等に含まれる糖液の精製、発酵分野における生成物の精製、バイオ分野等における酸分解物の中和液等が挙げられる。
[2−1]有価物
ここで、有価物としては、製品として取得する目的物のことをいい、例えば砂糖、果糖、ぶどう糖等の糖類、メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセリン、キシロース、エリスリトール等の糖アルコール類、および発酵生成物等が挙げられる。
[2−2]塩類
また、塩類は、特に2価以上のカチオンを含む無機又は有機の塩類である場合が本発明にとって有効である。
【0030】
2価のカチオンとしては、例えばマグネシウムイオン、カルシウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオン、銅イオン、バリウムイオン、ニッケルイオン等が挙げられる。
3価のカチオンとしては、鉄イオン、アルミニウムイオン、クロムイオン、マンガンイオン等が挙げられる。
以上のような塩類の具体例としては、無機塩類としては、例えば塩化カルシウム、水酸化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムが挙げられる。また、有機塩類としては、カルシウム及びマグネシウムのアミノ酸塩及びその他の有機酸塩等が挙げられる。[3]水溶液の精製方法
本発明の水溶液の精製方法は、上記[1]章にて詳述したアニオン交換樹脂を分離剤として、上記[2]章にて詳述した水溶液をクロマトグラフィーにより塩類及びその他の夾雑物を分離精製することを特徴とする。
【0031】
具体的には、上記[1]章にて詳述したアニオン交換樹脂をカラムに充填し、上記[2]章にて詳述した水溶液及び展開液をカラムに通液することによりクロマト分離を行う。クロマトグラフィー展開液(溶離液)としては通常水が用いられる。
カラムへの水溶液の供給量及び展開液である水の通液量は使用する分離剤の種類及び粒度並びに水溶液の組成等によって異なるが、単カラムでバッチ操作のクロマトグラフィーを行う場合は、良好な精製液を得る観点から、水溶液供給量は通常0.05L/L樹脂以上、0.3L/L樹脂以下である。また、生産性及び分離性の観点から、水の通液速度は面積速度(SV)として通常0.5((L/時間)/L樹脂)以上、3((L/時間)/L樹脂)以下である。
【0032】
操作温度は高い方が分離には好適であるが、アニオン交換樹脂の耐熱温度範囲内において適宜選択される。本発明においては、樹脂の性能安定性の観点から、通常55℃以上、好ましくは60℃以上であり、通常85℃以下、好ましくは70℃以下である。
尚、温度調整のため加温若しくは冷却する場合、カラムを恒温水槽に浸漬するか、若しくは加温又は冷却のための装置をカラムに設置する。
【0033】
カラムとしては通常の耐圧クロマトカラムが用いられ、例えばステンレス製金属管や内面をゴムライニングした鉄管や肉厚のガラス管等が用いられる。
カラム管の太さは、内径が通常0.3m以上、好ましくは0.5m以上であり、通常5
m以下、好ましくは3m以下である。また、カラム管の長さは、通常0.5m以上、好ましくは1m以上であり、通常3m以下、好ましくは2m以下である。
【0034】
本発明は所定量毎にクロマト分離を行なう回分法にも或いは連続的に大量のクロマト分離を行なう連続法(移動床法、擬似移動床法等)にも適用することができる。
図2に擬似移動床法クロマト分離に用いる装置の一例を示す。
図中、1〜8は分離塔、10は有価物含有溶液抜出し管、11〜18は有価物含有溶液抜出し弁、20は塩類水溶液抜出し管、21〜28は塩類水溶液抜出し弁、30は溶離水供給管、31〜38は溶離水供給弁、40は原料水溶液供給管、41〜48は原料水溶液供給弁、51〜58はポンプをそれぞれ示す。
【0035】
次に、回分法を用いた場合の本発明の作用を説明する。まず、分離剤としてのアニオン交換樹脂を充填したカラムの入口には原液供給タンクと展開液供給タンクが接続管を通して接続され、またカラムの出口には複数の溶出液取出し容器が接続される。分離剤には予め水が供給されている。
上記装置において、まず原液供給タンクより所定量の水溶液がカラム入口を通してカラム内に注入される。次に弁を切換え、供給タンクより溶離水としての水をカラム内に注入する。吸着力の差によって塩類と有価物との間において分離が行われる。この場合、吸着力の小さい塩類が先にカラム出口より溶出し、次いで有価物が遅れて溶出してくるので、それぞれの取出し容器に取出せば、分離された塩類と有価物とをそれぞれ得ることができる。
【0036】
このような分離操作におけるクロマトグラムとしては、例えば図1に示すようなものが
得られる。図1において横軸は溶出液量(mL)、縦軸は各成分の濃度(g/L)を表わ
す。図1において、溶出液量120mL〜165mLの区分は塩類の濃度が高い部分であるからこれらを塩類区分として分取し、また溶出液量215mL〜270mLの区分は糖類の濃度が高い部分であるからこれを糖類区分として分取する。
尚、溶出液量165mL〜215mLの区分においては塩類水溶液中にかなりの量の糖類が含有されている。そのため、上記溶出液量(165mL〜215mL)の区分で分取を行ない、この採取した溶出液を濃縮し原料水溶液に戻してもよい。
【0037】
以上の操作により原料水溶液区分に含有されている糖類を有効に回収でき、回収率を上昇することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
参考例1(1価カチオンの分離)
食塩30.0g、及びぶどう糖70.0gを脱塩水100.0gに溶解し全固形分濃度が50wt%(食塩30%、ぶどう糖70%)の水溶液を得た。
上記の水溶液を原液とし、この原液30mLを強塩基性陰イオン交換樹脂MA01SS(三菱化学社製)の塩化物イオン形312mLを充填し(内径2cm×長さ100cm)、恒温水槽に浸漬して60℃に維持したカラムに156mL/時間の流速で注入した、次いで溶離水を注入し原液の展開分離を行った。その結果、図1に示したと同様にまずカラム内に存在した水が押し出され、次いで食塩が溶出し、最後にぶどう糖が溶出した。
溶出液量0ml〜120mlは固形分がなく、120ml〜186mlを塩類区分、186mlから270mlを糖類区分としてそれぞれ採取した。各区分における成分の濃度及び回収率を測定した結果を表1に示す。
【0039】
〔表1〕
固形分濃度(wt%) 塩類含量(%) ぶどう糖含量(%) ぶどう糖回収率(%)
塩類区分 13.1 59.6 40.4 28.4
糖類区分 11.0 4.8 95.2 71.6

この結果、純度95%のぶどう糖が71.6%の回収率で得られことがわかる。
【0040】
また塩類とぶどう糖の混合区分を濃縮して原料水溶液に戻す場合として、120ml〜168mlを塩類区分、168ml〜198mlを混合区分、198ml〜270mlを糖類区分としてそれぞれ採取した。
各区分における成分の濃度及び回収率を測定した結果を表2に示す。
【0041】
〔表2〕
固形分濃度(wt%) 塩類含量(%) ぶどう糖含量(%) ぶどう糖回収率(%)
塩類区分 8.2 83.8 16.3 5.0
混合区分 26.2 28.0 72.0 48.8
糖類区分 8.1 0.9 99.1 46.2
この場合、糖類区分はぶどう糖純度99%以上の高純度が得られた。また混合区分は原料に戻され回収されるため、実質的な回収率は95%程度になる。
実施例1
(2価カチオンの分離)
塩化カルシウム30.0g、及びぶどう糖70.0gを脱塩水100.0gに溶解し全固形分濃度が50wt%(塩化カルシウム30%、ぶどう糖70%)の水溶液を得た。
上記の水溶液を原液とし、実施例1と同様の方法で原液の展開分離を行った。その結果、まずカラム内に存在した水が押し出され、次いで塩化カルシウムが溶出し、最後にぶどう糖が溶出した。
溶出液量0ml〜120mlは固形分がなく、120ml〜207mlを塩類区分、
207mlから270mlを糖類区分としてそれぞれ採取した。
各区分における成分の濃度及び回収率を測定した結果を表3に示す。
【0042】
〔表3〕
固形分濃度(wt%) 塩類含量(%) ぶどう糖含量(%) ぶどう糖回収率(%)
塩類区分 10.8 58.2 41.8 31.7
糖類区分 13.9 4.8 95.2 68.3
この結果、1価イオンの食塩の場合とほぼ同様に、純度95%のぶどう糖が約68%の回収率で得られことがわかった。したがって、2価のカチオンでも十分に脱塩処理が出来ることが確認された。
比較例1
2価イオンにより、脱塩性能が低下したカチオン交換樹脂を想定し、Caイオン形カチオン交換樹脂を用いた以下の実験を行った。実施例1と同じ原料水溶液を用いて、この原液30mlを強酸性カチオン交換樹脂UBK−555(三菱化学社製)のCaイオン形312mlを充填し(内径2cmx長さ100cm)、恒温水槽に浸漬して60℃に保持したカラムを用いて、実施例1と同じ条件で原液の展開分離を行った。その結果、アニオン樹脂と同様にまずカラム内に存在した水が押し出され、次いで食塩が溶出し、最後にぶどう糖が溶出した。
溶出液量0ml〜120mlは固形分がなく、120ml〜210mlを塩類区分、
210mlから270mlを糖類区分としてそれぞれ採取した。
各区分における成分の濃度及び回収率を測定した結果を表4に示す。
【0043】
〔表4〕
固形分濃度(wt%) 塩類含量(%) ぶどう糖含量(%) ぶどう糖回収率(%)
塩類区分 16.4 35.5 64.5 78.9
糖類区分 4.7 4.8 95.2 21.1
この結果、純度95%のぶどう糖の回収率は21%しかなく、カチオン樹脂の場合イオンが2価イオン形になると大幅に脱塩性能が低下することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、クロマトグラフィーにより水溶液に含まれる塩類を効果的に脱塩精製し、且つ脱塩精製能力の低下がない精製方法を提供することが出来る。
よって、無機塩類を含む水溶液を脱塩精製する必要のある食品分野、発酵分野、バイオ分野等の各分野において、産業上の利用可能性は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】水溶液の分離操作におけるクロマトグラムの一例である。
【図2】擬似移動床法クロマト分離に用いる装置の一例である。
【符号の説明】
【0046】
1〜8 分離塔
10 有価物含有溶液抜出し管
11〜18 有価物含有溶液抜出し弁
20 塩類水溶液抜出し管
21〜28 塩類水溶液抜出し弁
30 溶離水供給管
31〜38 溶離水供給弁
40 原料水溶液供給管
41〜48 原料水溶液供給弁
51〜58ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液の精製方法であって、該水溶液が2価以上のカチオンを含有し、且つアニオン交換樹脂を分離剤として、クロマトグラフィーにより塩類を分離することを特徴とする水溶液の精製方法。
【請求項2】
アニオン交換樹脂の重量平均粒子径が100μm以上500μm以下である請求項1に記載の水溶液の精製方法。
【請求項3】
水溶液が、有価物を含有する請求項1又は2に記載の水溶液の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−237057(P2007−237057A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61602(P2006−61602)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】