説明

水滑落性層転写シート、及びそれを用いて得た水滑落性構造体とその製造方法

【課題】微小水滴であっても比較的小さな傾斜角度で滑落させることができ、視認性及び美観にも優れた水滑落性構造体を得ることができる水滑落性層転写シート。
【解決手段】仮支持体7上に、疎水性高分子材料2からなる疎水性領域と親水性高分子材料3からなる親水性領域とを有する水滑落性表面を備えた水滑落性層1を、該表面を仮支持体側7に向いた形で有する水滑落性層転写シート10。水滑落性層転写シート10を、必要に応じて接着性層5を介して、ガラスなどの他の基材上に設けた後、該仮支持体7を剥離することにより、水滑落性表面を有する水滑落性構造体を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に付着した水滴の滑落性に優れた水滑落性構造体を得るに有用な水滑落性層転写シート、及びそれを用いて得た水滑落性構造体とその製造方法に関する。該水滑落性構造体は、車両用、船舶用、航空機用の窓ガラスなどに特に適している。
【背景技術】
【0002】
ガラス、プラスチックス、セラミックス、金属等の表面において水やほこり等の汚れが付着することによるガラス等の表面の機能低下が問題となっている。例えば、電車、自動車、船舶、航空機等の輸送機器物品の窓ガラス表面に雨滴、ほこり、汚れの付着や、大気中の湿度、温度の影響で水分が凝縮すると、その美観が損なわれるばかりか、ガラスが本来有する視野の確保などの機能を低下させてしまう。
特に輸送機器物品の中でも自動車用途はその数量が大きく一般の使用者が多数存在することから雨天時の窓ガラスの視界確保は「安全装備」として重要である。
近年、ワイパーなどを用いて機械的に水滴を除去する方法以外に、雨滴を自重あるいは風圧でガラス面から除去するために、撥水コートしたガラスを自動車用のガラスに用いて、前方および後方の視界を確保する方法も活用されてきている。また、ガラス面に簡易に撥水コートできるタイプなどもあり利用されている。しかし、長期間性能が保持しないため何度も塗りなおしが必要であった。
【0003】
従来、ガラス表面への付着水滴の除去を目的として、撥水ガラスなどに代表されるように、ガラス表面に撥水性を付与することが盛んに行われている。ガラス表面に撥水性を付与するためには、フルオロアルキル基含有化合物やジメチルシロキサン等の化合物に代表される疎水性化合物をガラス表面に塗布する試みがなされている。例えば、これまでに自動車用窓ガラスなどのガラス上に、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物を塗布した処理基板が各種出願されている(特許文献1)。また特許文献2には、透視性等を損なうことなく、低反射率及び撥水撥油性を両立した厚さ1μm以下のポリフルオロアルキル基含有シラン化合物または該化合物の部分加水分解縮合物の薄膜をガラス表面に形成することが記載されている。
【0004】
しかしながら、従来のフルオロアルキル基含有化合物での処理では、付着水滴が小さくなればなるほど、水とフルオロアルキル基含有化合物の相互作用が強く働くため、水滴の除去が難しくなってしまっていた。
【0005】
一方、シリコーン化合物の基材表面への導入量を増加させたり、粒子径200nm以下の親水性微粒子を疎水性相中に分散させる構造としたりすることで、微小水滴であっても比較的小さな傾斜角度で滑落させることを目的とした出願もされている(特許文献3、特許文献4)。
【0006】
【特許文献1】特公平2−39555号公報
【特許文献2】特開昭58−167448号公報
【特許文献3】特開2000−144056号公報
【特許文献4】特開2005−154520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の通り、従来の技術では撥水性を高めることに主眼を置いた発明が多くなされてきたが、微小水滴の除去という面からは必ずしも成功はしていない。
本発明は、かかる従来技術の課題を解決するものであり、微小水滴であっても比較的小さな傾斜角度で滑落させることを可能とし、かつ視認性に優れた水滑落性構造体を容易に得ることができる技術を提供するものである。
また、特に車の運転者からは安全性のためフロントガラスへの適用が望まれているが、本発明は、車のフロントガラスのような大きな面積の曲面基材においても、均一膜厚の水滑落性層の形成が容易な技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは種々検討の結果、疎水性高分子材料を含む疎水性領域と親水性高分子材料を含む疎水性領域とを有する水滑落性表面を備えた水滑落性層の、水滑落性表面側に仮支持体を設けた水滑落性層転写シートとし、これを、水滑落性を付与したい基材上に上記水滑落性表面とは反対側、すなわち仮支持体とは反対側を接して設けた後、該仮支持体を剥離することにより、優れた水滑落性と視認性及び美観に優れた水滑落性構造体を得ることができることを見出した。該水滑落性層転写シートを用いることにより、曲面基材に対しても均一膜厚の水滑落性層を容易に形成することができる。特に大きな面積の水滑落性層を容易に形成できる点で本発明は有用である。
すなわち、本発明は下記の構成よりなるものである。
【0009】
(1) 仮支持体上に、疎水性高分子材料を含む疎水性領域と親水性高分子材料を含む親水性領域とを有する水滑落性表面を備えた水滑落性層を、該表面を仮支持体側に向いた形で有する水滑落性層転写シート。
(2) 前記疎水性高分子が炭化水素ポリマーであり、前記親水性高分子が炭化水素ポリマーと比較して相対的に接触角の小さいポリマーである、請求項1に記載の水滑落性層転写シート。
(3) 前記疎水性高分子がポリスチレンであり、前記親水性高分子がポリメチルメタクリレートである、請求項1に記載の水滑落性層転写シート。
【0010】
(4) 前記親水性領域の平均間隔が0.1μm以上100μm以下である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の水滑落性層転写シート。
(5) 水滑落性層表面の親水性領域が0.5%以上50%以下である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の水滑落性層転写シート。
【0011】
(6) 水滑落性層の前記仮支持体と反対側の面上に、さらに接着性層を有する上記(1)〜(5)のいずれかに記載の水滑落性転写シート。
(7) 前記接着性層が、ゴム系、アクリル系及びシリコーン系のいずれかを含む透明接着剤である上記(6)に記載の水滑落性層転写シート。
【0012】
(8) 上記(1)〜(7)に記載の水滑落性層転写シートにおける前記水滑落性層を他の基材上に設けた後、前記仮支持体を剥離することによる、疎水性領域と親水性領域とを有する水滑落性表面を備えた水滑落性層を基材上に有する水滑落性構造体の製造方法。
(9) 上記(6)又は(7)に記載の水滑落性層転写シートにおける前記水滑落性層を、前記接着性層を介して、他の基材上に設けた後、前記仮支持体を剥離することによる、疎水性領域と親水性領域とを有する水滑落性表面を備えた水滑落性層を基材上に有する水滑落性構造体の製造方法。
【0013】
(10) 上記(1)〜(7)に記載の水滑落性層転写シートにおける前記水滑落性層を他の基材上に設けた後、前記仮支持体を剥離することにより製造される、疎水性領域と親水性領域とを有する水滑落性表面を備えた水滑落性層を基材上に有する水滑落性構造体。
(11) 上記(6)又は(7)に記載の水滑落性層転写シートにおける水滑落性層を、前記接着性層を介して他の基材上に設けた後、前記仮支持体を剥離することにより製造される、疎水性領域と親水性領域とを有する水滑落性表面を備えた水滑落性層を基材上に有する水滑落性構造体。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水滑落性層転写シートを、仮支持体と反対側の水滑落性層の面を接着性層等を介してガラスなどの他の基材上に接する形で設けた後、該仮支持体を剥離することにより、容易に基材上に水滑落性表面を付与することができ、付着水滴の滑落性に優れたガラスなどを基材とする水滑落性構造体、特に微小水滴であっても小さな傾斜角度で滑落させることを可能とし、かつ視認性に優れた水滑落性構造体を、得ることができる。更に、曲面基材に対しても、大きな面積の基材に対しても、均質な水滑落性層を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の水滑落性層転写シート10は、図1に拡大した概略概念図で示すように、疎水性高分子材料2からなる疎水性領域と親水性高分子材料3からなる親水性領域とを有する水滑落性表面4を備えた水滑落性層1と、該水滑落性表面4と接する側に仮支持体7を少なくとも有し、必要に応じて、水滑落性層1の上記仮支持体7とは反対側に、接着性層5を有するものである。更に必要に応じて、水滑落性層1と仮支持体7との間に下塗り層6を有していてもよい。
水滑落性を付与したい他の基材20上に、必要に応じて接着性層5を介して、上記水滑落性層転写シート10を接着することにより、容易に基材20上に水滑落性層1を設けることができる。その後仮支持体7は剥離することにより、図2に示すように、基材20上に、疎水性材料2からなる疎水性領域2′と親水性材料3からなる親水性領域3′とを有する水滑落性表面4を備えた水滑落性層1を有する、水滑落性構造体30が得られる。
【0016】
表面に水滑落性層1を形成した基材20は、基材表面と付着水滴間に働く相互作用の制御を行うことができ、微小付着水滴の滑落性能が達成される。また、水滑落性層1を転写シートとしてラミネーションで貼り付けることができるため、基材の形状などによらず良好に接着することができ、視認性及び美観に優れた表面処理基材を得ることができる。
【0017】
本発明の水滑落性層1の水滑落性表面4には、疎水性領域2′と親水性領域3′が存在するため、良好な水滑落性が達成される。ここで、水滴の滑落を促すためには、水滑落性表面4に疎水性領域2′と親水性領域3′がバランスよく存在することが必要である。各領域は、図3にさらに拡大した概略概念図で示すように、存在比の大きい領域(図3では2′)が独立した存在比の少ない領域(図3では3′)を含む海島構造状に分布していることが好ましい。分布状態としては、SEM(走査電子顕微鏡)、AFM(原子間力顕微鏡)等の形態表面観測機器を用いて表面を観測した際に、親水性領域の平均間隔が0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.3μm以上10μm以下であり、更に好ましくは0.5μm以上5μm以下である。また、親水性領域が表面の0.1%以上50%以下であることが好ましく、より好ましくは1%以上30%以下である。
なお、非独立領域はその形成過程において、凹部等を有する不定形状に生成されることも考えられ、その場合は凹部に入り込んだ独立領域間の幅を持って平均間隔とみなしても良い。
【0018】
本発明の親水性領域と疎水性領域とを有する水滑落性表面を備えた水滑落性層としては、ラミネーション適性を持たせため、親水性領域を構成する素材として親水性を示す高分子材料を用い、疎水性領域を構成する素材として疎水性を示す高分子材料を用いることが好ましい。
【0019】
本発明の疎水性高分子材料としては、特に限定されないが、表面エネルギーの小さな、水との接触角が比較的大きい高分子材料、例えば、フッ素系ポリマー、シリコーン系ポリマー、炭化水素ポリマーを好適に用いることができる。
ここで、炭化水素ポリマーとしては、炭素と水素の質量含有率が70%以上であることが好ましく、90%以上がより好ましい。例えばポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエンあるいはこれらの混合物等が挙げられる。中でも、芳香族炭化水素を含有するポリマーが好ましく、ポリスチレン系ポリマーが特に好ましい。
ポリマーの分子量は1000から1000000が好ましく、溶剤への溶解性および膜の形成の観点から分子量は5000から500000がより好ましい。
【0020】
また、本発明の親水性高分子材料としては、上記疎水性高分子材料と比較して相対的に水との接触角の小さい高分子材料が用いられる。
例えば、疎水性高分子材料として上記炭化水素ポリマーを採用した場合、上記炭化水素ポリマーの他に、上記炭化水素ポリマーと比較して相対的に接触角の小さい親水性ポリマーを水滑落性層に添加することにより、顕著に滑水性を向上させることが可能である。
このような親水性ポリマーとしては、具体的に、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリメタクリル酸などのポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリ乳酸、PETなどのポリエステル類、あるいはポリイミド、ポリスルホン、ポリアミド、ポリケトンなどのポリマーが挙げられる。中でも、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類系ポリマーが好ましく、ポリメチルメタクリレートが特に好ましい。
これらの親水性ポリマーは、水滑落性層の膜を形成する場合には、上記炭化水素ポリマーに対して、15質量%以下添加することがより好ましく、10質量%〜0.01質量%が特に好ましい。親水性ポリマーの添加量を上記範囲とすることで、炭化水素ポリマーの性状を維持したまま滑水性の効果が得られる。
親水性ポリマーの分子量は溶解性の観点から2500〜50000が好ましく、5000〜30000がより好ましい。
【0021】
また、膜の物性改良のために、ポリマー以外の低分子化合物を添加してもよく、例えば4−ブチル−2−メチルフェノール、メチレンビス(2,4−ジメチルフェノール)などのアルキルフェノール化合物、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミドなどのアミド化合物、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル化合物、ジブチルチオエーテル、フェニルオクチルチオエーテルなどのチオエーテル化合物等が挙げられる。
これらの低分子化合物は滑水性を損なうことなく膜の物性を改良するためには固形分濃度として1質量%以下の濃度で添加することが好ましい。
【0022】
本発明では、仮支持体上に上記の通りの水滑落性層を設ける。
仮支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリエチレンサルファイド等のポリマーを挙げることができる。仮支持体の厚さは特に限定的ではなく、10μm〜200μmが好ましい。
仮支持体が十分な平滑性を有する場合には、該水滑落性表面も十分な平滑性を有するため好ましい。
【0023】
仮支持体上に、水滑落性層を設ける方法は特に限定的でなく、例えば、塗布、蒸着、貼付、圧着などが挙げられる。好ましくは、疎水性高分子材料及び親水性高分子材料を含有する塗布溶液を調製し、仮支持体上に塗布乾燥する方法である。
【0024】
塗布方法としては、浸漬引き上げ、スプレー、スピンコート、カーテンコート等既知の塗布手段を用いることができる。
塗布溶液は、塗布方法などの必要に応じて有機溶媒などで希釈して用いることができる。使用する有機溶媒としては、塗布溶液中に含まれる化合物が均一に溶解するものであれば単独で用いてもあるいは2種以上混合して用いても、いずれの方法でもよい。例えばメタノール、エタノール、ノルマルプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール等の一級アルコール類、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコールなどの二級アルコール、ターシャリーブチルアルコールなどの三級アルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコール類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジターシャリーブチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族系溶剤などの一般的な溶媒が挙げられる。
【0025】
本発明においては、仮支持体と水滑落性層の間に必要に応じて下塗り層を設けることができる。下塗り層としては、スルホン酸含有ポリエステルを挙げることができる。
【0026】
本発明では、更に上記仮支持体と反対側の水滑落性層上に、必要に応じて接着性層を設けてもよい。これにより、他の基材上へ水滑落性層が設定し易くなる。接着性層に用いる接着素材としては、特に限定されないが、例えば、粘着剤またはホットメルト接着剤、更には、ゴム系、アクリル系及びシリコーン系の透明接着剤等が好ましい。
【0027】
本発明では、上記の水滑落性層転写シートを、水滑落性を付与したい基材上に、必要に応じて基材上に設けた接着性層や上記水滑落性層転写シートに設けた接着性層を介して、接着させることにより、水滑落性構造体を容易に得ることができる。
【0028】
水滑落性構造体の基材としてはガラス、アルミナなどの無機物、あるいは塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロースなどの樹脂等の透明構造物、不透明構造物、いずれも使用することができる。好ましくは透明構造物、特にガラスが好ましく用いられる。ガラスとして特に好ましくは車用の窓ガラス等である。例えば自動車、鉄道車両、航空機、船舶、雪上車などの装備としての窓ガラスである。片面もしくは両面に反射性のコーティングが施されたガラスまたはプラスチックで形成されていてもよい。使用する基材としては、表面に官能基を有している基材でもよい。
【0029】
本発明では、基材と水滑落性層の間に下地層を設けてもよい。基材表面の影響を受けにくくするあるいは、基材表面での官能基の増加が期待できる下地層が、滑水層の耐久性を向上させる面から一層望ましい。
【0030】
基材上に水滑落性層を設ける方法としては特に限定されず、公知のラミネート法を用いることができる。例えば、基材20が平板の場合には、図4に示すような形式のロールラミネーターが使用できる。また、基材20が自動車用フロントガラスのような曲面表面を有している場合には、図5に示すように、本発明の転写シート10をロボットアーム90で引っぱりながらラミネーションすることにより、容易にムラなく水滑落性層を基材上に設けることができる。
【0031】
得られた水滑落性構造体30は、図2の断面図に示すように、基材20上に疎水性材料領域2と親水性材料領域3とを有する水滑落性層1を有し、その表面は図3に示すような疎水性領域2′と親水性領域3′とを有するため、優れた水滑落性表面を有するものである。
【実施例】
【0032】
以下、本発明をより明確にするため、実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
実施例1
スルホン酸含有ポリエステルからなる下塗り層(厚さ0.2μm)をあらかじめ設けておいた、仮支持体としての厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(10cm×10cm)上に、ポリスチレン/ポリメチルメタクリレート(=3:1質量比)の1質量%トルエン溶液をスピンコート(700rpm20秒)により塗布した後、室温で10分間、100℃で20分間乾燥することで、厚さ102μmの水滑落性層を設けた水滑落性層転写シートを作成した。
さらに上記水滑落性層転写シートの水滑落性層上に、アクリル系の透明接着剤により厚さ20μmの接着性層を形成した。
UVオゾンクリーナー(日本レーザー電子株式会社製、NL−UV253)に5分間曝した厚さ10mmの白板ガラス(10cm×10cm)の表面に、上記水滑落性層転写シートをその接着性層を介して貼付けた後、仮支持体を剥離して、水滑落性構造体(1)を得た。
作成した水滑落性構造体(1)を15°に傾け50μlの水を1cmの高さから基板の上方の端に滴下した。反対の端に転落するまでの転落時間を5回測定したところ3.2秒であった。
また、滑落性構造体(1)は、それを通して物を見る点において格別の問題はなく、視認性に優れたものであった。
【0034】
実施例2
実施例1の1質量%のポリスチレン/ポリメチルメタクリレート(=3:1質量比)のトルエン溶液のかわりに1質量%のポリスチレン/ポリメチルメタクリレート(=10:1質量比)のトルエン溶液を用いた以外は実施例1の方法により水滑落性構造体(2)を作成した。
作成した水滑落性構造体(2)を15°に傾け50μlの水を1cmの高さから基板の上方の端に滴下した。反対の端に転落するまでの転落時間を5回測定したところ1.7秒であった。
また、滑落性構造体(2)は、それを通して物を見る点において格別の問題はなく、視認性に優れたものであった。
【0035】
比較例1
実施例1の1質量%のポリスチレン/ポリメチルメタクリレート(=3:1質量比)のトルエン溶液のかわりに1質量%ポリスチレンのメチルエチルケトン溶液を用いた以外は実施例1の方法により構造体(A)を作成した。
作成した構造体(A)を15°に傾け50μlの水を1cmの高さから基板の上方の端に滴下したところ途中で止まってしまい反対の端まで転落しなかった。
【0036】
比較例2
実施例1の1質量%のポリスチレン/ポリメチルメタクリレート(=3:1質量比)のトルエン溶液のかわりに1質量%ポリメチルメタクリレートのメチルエチルケトン溶液を用いた以外は実施例1の方法により構造体(B)を作成した。
作成した構造体(B)を15°に傾け50μlの水を1cmの高さから基板の上方の端に滴下したところ途中で止まってしまい反対の端まで転落しなかった。
【0037】
比較例3
実施例1の1質量%のポリスチレン/ポリメチルメタクリレート(=3:1質量比)のトルエン溶液のかわりに1質量%のポリスチレン/ポリメチルメタクリレート(=1:3質量比)のトルエン溶液を用いた以外は実施例1の方法により構造体(C)を作成した。
作成した構造体(C)を15°に傾け50μlの水を1cmの高さから基板の上方の端に滴下したところ途中で止まってしまい反対の端まで転落しなかった。
比較例4
ポリテトラフルオロエチレンのシートを10cm角に切り出し、アルカリ洗浄した後100℃で2分間乾燥させた後、ガラス基板上に接着させて、構造体(D)を作成した。
作成した構造体(D)を15°に傾け50μlの水を1cmの高さから基板の上方の端に滴下したところ途中で止まってしまい反対の端まで転落しなかった。
【0038】
比較例5
SILGARD184(東レダウコーニング)で作成した1.0mm厚のシリコンポリマーのシートを10cm角に切り出し、ガラス基板上に接着させて、構造体(E)を作成した。
作成した構造体(E)を15°に傾け50μlの水を1cmの高さから基板の上方の端に滴下したところ途中で止まってしまい反対の端まで転落しなかった。
【0039】
上記したように、本発明の水滑落性層転写シートを、仮支持体と反対側の水滑落性層の面を接着性層等を介してガラスなどの他の基材上に接する形で設けた後、該仮支持体を剥離することにより、容易に基材上に水滑落性表面を付与することができ、特に微小水滴であっても小さな傾斜角度で滑落させることを可能とし、かつ視認性に優れた水滑落性構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の水滑落性層転写シートの一例を示す断面の拡大概略概念図である。
【図2】本発明の水滑落性構造体の一例を示す断面の拡大概略概念図である。
【図3】本発明の水滑落性構造体の水滑落性表面の拡大概略概念図である。
【図4】本発明の水滑落性転写シートを平板状基材上に設ける一方法を示す概略図である。
【図5】本発明の水滑落性転写シートを曲面状基材上に設ける一方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0041】
1 水滑落性層
2 疎水性高分子材料
2′ 疎水性領域
3 親水性高分子材料
3′ 親水性領域
4 水滑落性表面
5 接着性層
6 下塗り層
7 仮支持体
10 水滑落性層転写シート
20 基材
30 水滑落性構造体
90 ロボットアーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮支持体上に、疎水性高分子材料を含む疎水性領域と親水性高分子材料を含む親水性領域とを有する水滑落性表面を備えた水滑落性層を、該表面を仮支持体側に向いた形で有する水滑落性層転写シート。
【請求項2】
前記疎水性高分子が炭化水素ポリマーであり、前記親水性高分子が炭化水素ポリマーと比較して相対的に接触角の小さいポリマーである、請求項1に記載の水滑落性層転写シート。
【請求項3】
前記疎水性高分子がポリスチレンであり、前記親水性高分子がポリメチルメタクリレートである、請求項1に記載の水滑落性層転写シート。
【請求項4】
前記水滑落性表面の親水性領域の平均間隔が0.1μm以上100μm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の水滑落性層転写シート。
【請求項5】
前記水滑落性表面の親水性領域が0.5%以上50%以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の水滑落性層転写シート。
【請求項6】
水滑落性層の前記仮支持体と反対側の面上に、さらに接着性層を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の水滑落性転写シート。
【請求項7】
前記接着性層が、ゴム系、アクリル系及びシリコーン系のいずれかを含む透明接着剤からなる、請求項6に記載の水滑落性層転写シート。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の水滑落性層転写シートにおける前記水滑落性層を他の基材上に設けた後、前記仮支持体を剥離することによる、疎水性領域と親水性領域とを有する水滑落性表面を備えた水滑落性層を基材上に有する水滑落性構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の水滑落性層転写シートにおける前記水滑落性層を、前記接着性層を介して、他の基材上に設けた後、前記仮支持体を剥離することによる、疎水性領域と親水性領域とを有する水滑落性表面を備えた水滑落性層を基材上に有する水滑落性構造体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7に記載の水滑落性層転写シートにおける前記水滑落性層を他の基材上に設けた後、前記仮支持体を剥離することにより製造される、疎水性領域と親水性領域とを有する水滑落性表面を備えた水滑落性層を基材上に有する水滑落性構造体。
【請求項11】
請求項6又は7に記載の水滑落性層転写シートにおける前記水滑落性層を、前記接着性層を介して他の基材上に設けた後、前記仮支持体を剥離することにより製造される、疎水性領域と親水性領域とを有する水滑落性表面を備えた水滑落性層を基材上に有する水滑落性構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−36828(P2008−36828A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209770(P2006−209770)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】