説明

水生動植物繁殖ブロック

【課題】光合成に適する光量が得られる一定範囲の水深領域で海藻類を生息させることにより、その繁殖を促進する。
【解決手段】海水よりも比重の小さい発泡樹脂により形成されたブロック本体2と、海水よりも比重の大きいコンクリート等により形成されるバラスト3と、ブロック本体2及びバラスト3の外表面に塗布される水生動植物増殖塗材4等によって水生動植物繁殖ブロック1を構成する。ブロック本体2には、バラスト3を充填するための充填用穴10が形成されており、バラスト3の充填量を調整することにより、一定範囲の水深領域で水生動植物繁殖ブロック1を標遊させ、海藻類の繁殖を促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻類等の水生動植物の繁殖を促進することにより、いわゆる磯焼け現象及び地球温暖化を抑制するのに好適な水生動植物繁殖ブロックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリートブロック等を海底に沈めて、その表面に海藻類を生息させることにより、いわゆる磯焼け現象の回復を図る技術が知られている。このような技術においては、コンクリートブロックの表面に、例えば生物親和性を有する炭素材料を含む水生動植物増殖塗材を塗布し、海藻類の増殖を促進する技術も研究されている。特許文献1には、このような水生動植物増殖塗材の一例が開示されている。
【特許文献1】特開2003−82261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述したコンクリートブロックを海底に沈めて、海藻類の繁殖を待つ手法においては、海面から入射した日光の一部が海水に吸収されるため、コンクリートブロックが沈められた海底に達する光量が制限されることとなる。その結果、海藻類が十分に光合成を行うことができず、早期に繁殖させるのが困難であるという問題があった。
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、海底の深さに関わらず、光合成に適する光量が得られる一定範囲の水深領域で海藻類を生息させることにより、その繁殖を促進することができる水生動植物繁殖ブロックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、
海水よりも比重の小さい第1物質により形成されたブロック本体と、
海水よりも比重の大きい第2物質により形成され、前記ブロック本体に結合されるバラストとを備え、
海面と海底との間の領域内で、漂遊可能であるものである。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載の水生動植物繁殖ブロックにおいて、
前記第1物質は、発泡樹脂であるものである。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の水生動植物繁殖ブロックにおいて、
前記ブロック本体には、前記バラストを充填するための充填用穴が形成されているものである。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1又は請求項3のいずれかに記載の水生動植物繁殖ブロックにおいて、
前記ブロック本体、及び前記バラストの表面には、水生動植物増殖塗材が塗布されているものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、海水よりも比重の小さい第1物質により形成されたブロック本体と、海水よりも比重の大きい第2物質により形成されたバラスト等によって、水生動植物繁殖ブロックが構成されているので、ブロック本体とバラストとの体積比率を適宜設定することにより、水生動植物繁殖ブロック全体の比重を容易に調整することができる。これにより、水生動植物繁殖ブロック全体の比重を、海面と海底との間の領域内における海水の比重に応じて調整することが可能となり、水生動植物繁殖ブロックを同領域内で漂遊させることが可能となる。その結果、水生動植物繁殖ブロックをロープ等で拘束することなく海藻類の生育に十分な光量が得られる水深領域に留めておくことが可能となり、短期間に海藻類を繁殖させることにより二酸化炭素の削減を図り、地球温暖化を抑制することができる。また、水生動植物繁殖ブロックを拘束するためのロープ等が不要であるので、船舶のスクリューにロープが絡まる等の問題が発生しない。また、ロープを用いて水生動植物繁殖ブロックを拘束する場合であっても、ロープにかかる張力を低減できるので、ロープの切断を抑制できる。また、海面と海底との間の領域内で水生動植物繁殖ブロックを漂遊させることができるので、ブロックの表面にヘドロ等が付着することが少なくなる。従って、ブロックの表面に付着したヘドロ等によって動植物の繁殖が阻害されることを防止できる。海底から離れた領域内で水生動植物繁殖ブロックを漂遊させることができるので、ブロックの表面に繁殖させた海藻類がウニ、アワビ、その他の魚介類等に食べられる虞が少なく、海藻類を食害から保護することができる。
【0010】
請求項2の発明によれば、第1物質が発泡樹脂であるので、安価かつ加工が容易であると共に、強い浮力を得ることができることから、請求項1に記載の水生動植物繁殖ブロックの比重の調整を容易に行えるようになる。例えば、水生動植物繁殖ブロックの比重が小さ過ぎた場合には、発泡樹脂の一部を切除することにより、容易に比重の調整を行うことができる。また、発泡樹脂は軽量かつ弾力性に富む物質であるので、航行中の船舶が接触した場合でも、その船体に損傷を及ぼす虞が少ない。さらにまた、発泡樹脂によって形成されたブロック本体が長期間に亘って水圧を受け続けると、徐々に圧縮されてその体積が減少する。その結果、ブロック本体の浮力が減少し、水生動植物繁殖ブロックの水深は、徐々に大きくなる。これにより、最終的には、海底又はそれに近い水深まで水生動植物を移動させることも可能となり、磯焼け現象を効果的に抑制することができる。
【0011】
請求項3の発明によれば、ブロック本体に形成されている充填用穴にバラストを充填することにより、請求項1又は請求項2に記載の水生動植物繁殖ブロックを容易に製造することができる。
【0012】
請求項4の発明によれば、ブロック本体、及びバラストの表面に、水生動植物増殖塗材が塗布されているので、水生動植物の増殖をより一層促進でき、地球温暖化の抑制に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の一実施形態による水生動植物繁殖ブロックについて図面を参照して説明する。図1は水生動植物繁殖ブロックの外観構成を示している。水生動植物繁殖ブロック1は、ブロック本体2と、水生動植物繁殖ブロック1の全体の比重を調整するためのバラスト3と、ブロック本体2及びバラスト3の表面に塗布された水生動植物増殖塗材4等によって構成されている。ブロック本体2は、例えば、発泡ポリスチレン等の、海水よりも比重の小さい発泡樹脂(第1物質)により形成されている。ブロック本体2の形状は、略直方体とされ、その中央部にバラスト3を充填するための充填用穴10が形成されている。本実施形態では、充填用穴10は、ブロック本体2を貫通して形成されているが、充填用穴10の深さ寸法は、これに限られるものではない。また、水生動植物繁殖ブロック1を標遊させたい水深に応じて、ブロック本体2に形成する充填用穴10の内径は適宜変更可能である。
【0014】
バラスト3は、例えば、海水よりも比重の大きいコンクリート(第2物質)等によって形成されている。ブロック本体2を形成する発泡樹脂は海水よりも比重が小さく、バラスト3を形成するコンクリートは海水よりも比重の大きいので、バラスト3の充填量を適宜調整することにより、水生動植物繁殖ブロック1の比重を容易に調整することができる。
【0015】
図2及び図3は、水生動植物繁殖ブロック1の表面近傍の構成を示している。ブロック本体2の表面には、海水よりも比重が大きい補強材5と空隙コンクリート6が順次塗布され、その外側に水生動植物増殖塗材4が塗布されている。補強材5は、例えば、天然石粉等の骨材・セメント化合物及びアクリルエマルジョン系樹脂等を主成分とし、ブロック本体2を補強するためにブロック本体2の表面に塗布されている。補強材5がブロック本体2の表面に形成されているので、水生動植物繁殖ブロック1の構造が強固となり、またブロック本体2が海水に晒されて劣化することが防止される。空隙コンクリート6は、海藻類の胞子が着生して根をおろし易くするため、並びに水中動植物の産卵及び生育のための場所を提供するために、水生動植物繁殖ブロック1の表面に凹凸を形成する。補強材5と空隙コンクリート6は海水よりも比重が大きいので、ブロック本体2及び補強材5、空隙コンクリート6によって水生動植物繁殖ブロック1の比重を調整する構成(この場合、補強材5及び空隙コンクリート6はバラストとしても機能する)としてもよい。水生動植物増殖塗材4は、空隙コンクリート6の外側に塗布される接着剤4aと、生物親和性を有する炭素材料4b又は4c等によって構成されている。接着剤4aとしては、例えば、補強材5と同等の天然石粉等の骨材・セメント化合物及びアクリルエマルジョン系樹脂等を主成分とするものが用いられる。炭素材料4bは短繊維状の形態(図2参照)、炭素材料4cは粒状の形態(図3参照)を有し、いずれも空隙コンクリート6の外側に塗布された接着剤4aが硬化する前に、その表面に付着される。なお、接着剤4aは、空隙コンクリート6の空隙を完全に埋めない程度に疎らに塗布されている。
【0016】
図4は、種々の水生動植物繁殖ブロック11、12、13、14を海洋に標遊させた場合における海藻類の繁殖状況を示したものである。水生動植物繁殖ブロック11は、図1に示した水生動植物繁殖ブロック1よりも内径の小さい充填用穴21が形成され、全体としての比重は水生動植物繁殖ブロック1よりも小さいものとする。水生動植物繁殖ブロック12は、水生動植物繁殖ブロック1と同等の充填用穴22が形成され、全体としての比重は水生動植物繁殖ブロック1と同等であるものとする。また、水生動植物繁殖ブロック13は、水生動植物繁殖ブロック1よりも内径の大きい充填用穴23が形成され、全体としての比重は水生動植物繁殖ブロック1よりも大きいものとする。さらにまた、水生動植物繁殖ブロック14は、水生動植物繁殖ブロック11から発泡樹脂の一部を切除することにより、全体としての比重を水生動植物繁殖ブロック1と同等に設定したものとする。
【0017】
水生動植物繁殖ブロック11は、4種の水生動植物繁殖ブロックの中で、全体としての比重が一番小さいので、最も浅い水深D1を平均とした水深領域を標遊する。その結果、水生動植物繁殖ブロック11の表面には大量の日光が照射され、水生動植物繁殖ブロック11に生息する海藻類G1の成長度は、4種の水生動植物繁殖ブロックの中で最も高くなる。一方、水生動植物繁殖ブロック12、14は、水生動植物繁殖ブロック11よりも全体としての比重が大きいので、水深D1よりも深い水深D2、D4を平均とした水深領域を標遊する。その結果、水生動植物繁殖ブロック12、14の表面には照射される光量は減少し、水生動植物繁殖ブロック12、14に生息する海藻類G2、G4の成長度は、水生動植物繁殖ブロック11に比べて低くなる。また、水生動植物繁殖ブロック11は、4種の水生動植物繁殖ブロックの中で、全体としての比重が一番大きいので、最も深い水深D3を平均とした水深領域を標遊する。その結果、水生動植物繁殖ブロック13の表面に照射される光量はさらに減少し、水生動植物繁殖ブロック13に生息する海藻類G3の成長度は、4種の水生動植物繁殖ブロックの中で最も低くなる。また、水深によって生息する海藻類の種類が異なる場合があるので、水生動植物繁殖ブロックの比重を適宜調整することにより、特定種類の海藻類のみを選択的に繁殖させることが可能となり、崩れかけた生態系のバランスを回復させることができる。
【0018】
図5は、水生動植物繁殖ブロックの使用形態を示している。水生動植物繁殖ブロック31は、ロープ35によって養殖用いかだ32や浮き桟橋等に結束された形態を示している。水生動植物繁殖ブロック31の比重は、周辺の海水の比重よりも若干大きく設定されている。従って、ロープ35には、過度の張力がかからないので、長期間の使用においてもロープ35が切断される虞が少ない。また、水生動植物繁殖ブロック31の回収も容易なため、定期的に海藻類の繁殖状況を確認することができる。
【0019】
水生動植物繁殖ブロック33は、ロープ35によってコンクリートブロック34等に結束された形態を示している。水生動植物繁殖ブロック33の比重は、周辺の海水の比重よりも若干小さく設定されている。従って、ロープ35には、過度の張力がかからないので、長期間の使用においてもロープ35が切断される虞が少ない。コンクリートブロック34の表面には、水生動植物繁殖ブロック33と同様に水生動植物増殖塗材4が塗布されている。従って、水生動植物繁殖ブロック33だけでなくコンクリートブロック34にも海藻類が繁殖するため、より効果的に磯焼け現象の回復を図ることができる。既にロープ35によってコンクリートブロック34等に結束された状態の水生動植物繁殖ブロック33を、漁船や小型ボート等によって運搬して投下することにより、所望の場所に容易に水生動植物繁殖ブロック33及びコンクリートブロック34を設置することができる。これにより、磯焼け現象が発生している場所に集中的に水生動植物繁殖ブロック33コンクリートブロック34を設置することができ、より一層効果的に磯焼け現象の回復を図ることができる。また、水生動植物繁殖ブロック1の使用方法として、水槽等の中で予め海藻類の母藻を水生動植物繁殖ブロック1の表面に付着させた後、海中に漂遊させるようにしてもよい。この場合においては、海藻類の母藻から放出された胞子が水生動植物繁殖ブロック1の表面に付着するため、海藻類の発芽と生育に要する期間を短縮することができる。
【0020】
以上のように、本実施形態の水生動植物繁殖ブロック1等によれば、海水よりも比重の小さい発泡樹脂により形成されたブロック本体2と、海水よりも比重の大きいコンクリートにより形成されたバラスト3等によって、水生動植物繁殖ブロック1が構成されているので、ブロック本体2とバラスト3との体積比率を適宜設定することにより、水生動植物繁殖ブロック1全体の比重を容易に調整することができる。これにより、水生動植物繁殖ブロック1全体の比重を、海面と海底との間の領域内における海水の比重に応じて調整することが可能となり、水生動植物繁殖ブロック1を同領域内で漂遊させることが可能となる。その結果、水生動植物繁殖ブロック1をロープ等で拘束することなく海藻類の生育に十分な光量が得られる水深領域に留めておくことが可能となり、短期間に海藻類を繁殖させることにより二酸化炭素の削減を図り、地球温暖化を抑制することができる。また、水生動植物繁殖ブロック1を拘束するためのロープ等が不要であるので、船舶のスクリューにロープが絡まる等の問題が発生しない。また、ロープ35を用いて水生動植物繁殖ブロック1を拘束する場合であっても、ロープ35にかかる張力を低減できるので、ロープ35の切断を抑制できる。
【0021】
また、ブロック本体2が発泡樹脂により形成されているので、安価かつ加工が容易であると共に、強い浮力を得ることができることから、水生動植物繁殖ブロック1の比重の調整を容易に行えるようになる。例えば、水生動植物繁殖ブロック1の比重が小さ過ぎた場合には、発泡樹脂の一部を切除することにより、容易に比重の調整を行うことができる。また、発泡樹脂は軽量かつ弾力性に富む物質であるので、航行中の船舶が接触した場合でも、その船体に損傷を及ぼす虞がない。さらにまた、発泡樹脂によって形成されたブロック本体2が長期間に亘って水圧を受け続けると、徐々に圧縮されてその体積が減少する。その結果、ブロック本体2の浮力が減少し、水生動植物繁殖ブロック1の水深は、徐々に大きくなる。これにより、最終的には、海底又はそれに近い水深まで水生動植物を移動させることも可能となり、磯焼け現象を効果的に抑制することができる。
【0022】
また、ブロック本体2に充填用穴10が形成されているので、充填用穴10にバラスト3を充填することにより、水生動植物繁殖ブロック1を容易に製造することができる。また、ブロック本体2及びバラスト3の表面には、水生動植物増殖塗材4が塗布されているので、水生動植物の増殖をより一層促進でき、地球温暖化の抑制に貢献できる。
【0023】
本発明は上記実施形態の構成に限られることなく、少なくとも海水よりも比重の小さい物質により形成されたブロック本体2と、海水よりも比重の大きい物質により形成されたバラスト3等によって、水生動植物繁殖ブロック1が構成されていればよい。また、本発明は種々の変形が可能であり、例えば、ブロック本体2に形成する充填用穴10の個数、位置、大きさ等は適宜設定できるものとし、充填用穴10に充填するバラスト3の量も適宜調整できるものとする。また、本水生動植物繁殖ブロック1は、海洋のみならず、河川や湖にも標遊させて、水生動植物を繁殖させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態による水生動植物繁殖ブロックの構成を示す斜視図。
【図2】同水生動植物繁殖ブロックの端部の断面図。
【図3】本発明における別の水生動植物繁殖ブロックの端部の断面図。
【図4】同ブロックを水中に標遊させて、水生動植物を繁殖させている様子を示す図。
【図5】水生動植物繁殖ブロックの使用形態を示す図。
【符号の説明】
【0025】
1 水生動植物繁殖ブロック
2 ブロック本体
3 バラスト
4 水生動植物増殖塗材
10 充填用穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水よりも比重の小さい第1物質により形成されたブロック本体と、
海水よりも比重の大きい第2物質により形成され、前記ブロック本体に結合されるバラストとを備え、
海面と海底との間の領域内で、漂遊可能であることを特徴とする水生動植物繁殖ブロック。
【請求項2】
前記第1物質は、発泡樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の水生動植物繁殖ブロック。
【請求項3】
前記ブロック本体には、前記バラストを充填するための充填用穴が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水生動植物繁殖ブロック。
【請求項4】
前記ブロック本体、及び前記バラストの表面には、水生動植物増殖塗材が塗布されていることを特徴とする請求項1又は請求項3のいずれかに記載の水生動植物繁殖ブロック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−72091(P2009−72091A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243009(P2007−243009)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(593025619)トーホー工業株式会社 (19)
【出願人】(591222739)株式会社かべいち (2)
【Fターム(参考)】