説明

水生生物の幼生飼育器

【課題】捕食者の進入を防ぐことができ、かつ、新鮮な海水等を循環浄化でき、ひいては、浮遊する水生生物を効率よく飼育する手段を提供すること。
【解決手段】底面にメッシュを張った中空柱状容器を浮遊部に装着し、容器及び浮遊部を水槽に浮かべることから成る装置を、水生生物飼育装置として使用することで、カイ類やウニ類等の幼生を効率よく飼育することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は浮遊生物飼育装置に関し、更に詳しくは、カイ類やウニ類等の幼生の如く海水中を浮遊して生育する生物を飼育するための装置および飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カイ類やウニ類等の幼生は極めて抵抗力が小さく、わずかな環境の変化でも死滅する可能性が極めて高い。例えば、餌の残りや排泄物(糞・尿など)により、飼育海水(以下単に海水という)が汚れてくると、容易に死滅する。
【0003】
このため従来、海水の濾過等の浄化が行われている。この濾過に際しては、浮遊生物たる幼生は極めて小さい(通常0.03〜0.1mm程度)ために、濾過部の目の間から容易に海水と共に排出されてしまう。このため濾過部の目を小さくすると、浄化、排水に長時間を要するという難点ばかりでなく、浮遊幼生は極めて抵抗力が小さいために、濾過時に濾過部のネット等により損傷をうけ、死滅に至る。
【0004】
即ち、海水の浄化は必須であり、これを行うに際しては、幼生の排出を防止するために水槽の出水・排水口に幼生のサイズに応じたメッシュを貼ることで、幼生を水槽内に保持していたが、目の小さなメッシュ等を用いると、メッシュ等により幼生が損傷を受け死亡してしまうという問題や、幼生を捕獲するメッシュサイズにより、流量が規制され新鮮な海水を十分に与える事が難しく、その為、海水が十分循環せず、水質の低下につながり、水槽内の幼生が全滅する場合があった。
【0005】
上記の問題の解決方法として、例えば、浮遊生物飼育槽の壁面に多数の通水孔を設け、この通水孔に透水性ゲルを充填することが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−232834
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
幼生死滅の多くの原因は、原生動物やバクテリアの攻撃によるものであり、底質には、その様な微生物が繁殖しやすいという課題があった。
本発明は、上記従来の方法の難点を解決することであり、更に詳しくは、海水等を循環浄化しても幼生に損傷を与えずに、うまくしかも簡単に浄化ができ、ひいては効率良く浮遊幼生を飼育できる手段を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、底部をメッシュで覆い、上部は開放状態とした中空柱状容器に浮揚部を取り付け、中空柱状容器及び浮揚部を水槽内に浮遊させ、中空柱状容器中に水生生物の幼生を入れた、水生生物の幼生飼育器にすることによって解決される。ここで、中空柱状容器の形態は、横から見た形状が長方形でも台形でもかまわない。
【0008】
また、底部をメッシュで覆い、上部は開放状態とした中空柱状容器に浮揚部を取り付け、中空柱状容器及び浮揚部を水槽内に浮遊させ、中空柱状容器の中に水生生物の幼生を入れ飼育することにより、
常時新鮮な海水等を豊富に与えることが出来、さらに外敵である捕食者の底質からの侵入を防ぐことも出来、幼生を効率的に成長させることができる。
【0009】
本発明の飼育装置の一例を示したものが図1及び図2であり、図1は正面図、図2は平面図で、1は中空柱状容器、2は浮揚部、3は中空柱状容器を浮揚部に支持する支持部、4は水生生物の幼生、5は容器底面のメッシュである。
【0010】
本発明は、図1に示す如く、底部をメッシュで覆い、上部を開放状態とした中空柱状容器に、支持部を固定し、この支持部により中空柱状容器を、中空柱状容器の填まる穴を開けた浮揚部に載せ、中空柱状容器及び浮揚部を水槽内に浮揚させ、中空柱状容器中に水生生物の幼生を入れて使用する幼生飼育器である。
【0011】
図1の1に示す中空柱状容器及び図1の3に示す支持部は、浮揚部に開けた穴から容器が落ち込まない形状にした一体構造としてもよい。また、中空柱状容器を、尖端を切り取り、切り取った部分をメッシュで覆った形状の容器に置き換えてもよい。
また、図1の2に示す浮揚部は、図1の1に示す容器と一体でもよいし、複数の穴の空いた大きな浮遊部を用い、そのそれぞれの穴に容器を装着してもよい。
【0012】
また、底部のメッシュは、ネジ蓋式とし、ネジ蓋のフタをくり抜き、くり抜いた部分をメッシュ張りとした個別の部品とし、このメッシュ貼り部品を中空柱状容器に装着して運用することも可能である。メッシュ部分を別個の部品とすることで、メッシュの交換や容器中の幼生の移し替えが容易になる。
【0013】
さらに、図3に示す如く、上部を底部と同様のメッシュ付きのネジ蓋とすると、上下を回転させることで容易に容器中の幼生を移し替えたり、あるいは傷つけることなくメッシュの交換をしたりすることができる。
メッシュの交換は、付着物による汚れを取るためだけでなく、幼生の成長に伴う大きさの変化に合わせた網目に変えていくためにも行うので、上下に網目の違うメッシュを取り付けられる方がより有用である。
本発明で飼育される浮遊生物は、通常幼生時に浮遊して成長する生物を対象とし、具体的にはカイ類、ウニ類、ナマコ類、クラゲ類、イカ類及びエビ類等の幼生である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の幼生飼育器を用いれば、常時新鮮な海水等を豊富に与えることが出来、外敵である捕食者の、底質からの侵入を防ぐことが出来、又、水槽内の水質の状態に応じて、別の水槽に移動することが可能となる。飼育する幼生の大きさに応じて、メッシュを交換しても、水槽内の海水等は十分循環することが出来、仮に水質の低下が発生しても、新鮮な水を張った別の水槽に移す事ができる。また、水槽内に複数の容器を入れることで、それぞれ異なる幼生を同時に飼育することも出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の実施例を示して本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の説明に限られるものではない。
(実施例)直径約12cm、深さ約20cmのプラスチック製筒状容器の底部にメッシュサイズ50μm〜1,000μmのメッシュをゴムバンドで覆ったものを作製した。上部は開放状態のままとして軽量筒状容器の上端部に発泡スチロール製の浮揚部を棒状木片で取り付けた。この筒状容器及び浮揚部を100cm×70cm×60cmの水槽内に浮遊させ、筒状容器中に水生生物としてイワガキの幼生を入れることで、水生生物の幼生飼育器とした。水槽内の海水は毎分約100Lの量を与えた。
【0016】
常時新鮮な海水を豊富に与えることが出来、外敵である捕食者の底質からの侵入を防ぐことが出来、また、水槽内の水質の状態に応じて、別の水槽に移動が可能とした。
【0017】
また、浮かせることにより、底部からに加え、散水などにより、上部から新鮮な海水を大量に送ることも出来る。
【0018】
さらに、本発明の飼育器を浮かべた水槽の底部には餌の残渣や排泄物を食べて掃除する生物(成体ナマコなど)との複合飼育もできる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の装置を使用することにより、何等海水等を取り替えること無く、しかも浮遊幼生の死滅を有効に防止しつつ、飼育に必要な海水等の浄化を達成することができ、極めて簡単に確実に、従来不可能とされてきた、水生生物の浮遊幼生をうまく飼育することができる。従って、産業界に於ける効果は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の飼育装置の一例を示す正面図である。
【図2】本発明の飼育装置の一例を示す平面図である。
【図3】本発明の飼育装置の一例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0021】
1.本発明の飼育槽である中空柱状容器
2.浮揚部
3.中空柱状容器を浮揚部に支持する支持部
4.水生生物の幼生
5.メッシュ
6.メッシュ付きネジ蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部をメッシュで覆い、上部は開放またはメッシュで覆った状態とした中空柱状容器に浮揚部を取り付け、中空柱状容器及び浮揚部を水槽内に浮遊させ、中空柱状容器中に水生生物の幼生を入れて飼育する、水生生物の幼生飼育器。
【請求項2】
底部をメッシュで覆い、上部は開放状態とした中空柱状容器に浮揚部を取り付け、中空柱状容器及び浮揚部を水槽内に浮遊させ、中空柱状容器中に水生生物の幼生を入れて飼育する、水生生物の幼生飼育器。
【請求項3】
幼生の大きさに合わせて網目サイズの異なるメッシュを交換することが可能な請求項1に記載の水生生物の幼生飼育器。
【請求項4】
底部をメッシュで覆い、上部は開放またはメッシュで覆った状態とした中空柱状容器に浮揚部を取り付け、中空柱状容器及び浮揚部を水槽内に浮遊させた、中空柱状容器中で水生生物の幼生を飼育することを特徴とする水生生物の幼生の飼育方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−60892(P2009−60892A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200577(P2008−200577)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【出願人】(307029869)新湊漁業協同組合 (2)
【Fターム(参考)】