説明

水生生物養殖のための神経ペプチド

この発明は、水生生物の成長を刺激し、そして免疫システムを改善するために、脳下垂体アデニル酸シクラーゼ−活性化ペプチドの変異体の使用に関係する。このペプチドの変異体は、浸漬又は注射によるか又は餌に添加する形で供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に水生生物の養殖に脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチドを使用する、養殖バイオテクノロジーの分野に関係する。浸漬、注射又は餌添加によりこのペプチドを水生生物に適用することにより、これらの生物の食欲の増進、成長速度及び生存率の増加、優れた免疫活性及びプロラクチン放出の増加を生じる。
【背景技術】
【0002】
脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド(PACAP)は、1989年に初めてウシの視床下部から単離され、成長ホルモン分泌を刺激するその能力はアデニル酸シクラーゼ酵素の活性化によることが示された(Miyata and col.(1989)Isolation of a novel 38 residue hypothalamic polypeptide which stimulate adenylate cyclase in pituitary cells.Biochem.Biophys.Res.Commun.164:567−574)。PACAPは、セクレチン、グルカゴン及び腸管血管作動性ペプチドを含むペプチドファミリーに属している(Arimura and Shioda(1995)Pituitary adenylate cyclasa−activating polypeptide(PACAP)and its receptors:Neuroendocrine and endocrine interaction.Front.Neuroendocrinol.16:53−88)。哺乳類において、PACAP及び成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)の前駆体は二つの異なる遺伝子によりコード化されている(Hosoya and col.(1992)Structure of the human pituitary adenylate cyclase−activating polypeptide(PACAP)gen.Biochim.Biophys.Acta.1129:199−206)。今日までに試験された哺乳類以下の動物種(鳥類、爬虫類及び魚類)において、GHRH及びPACAPペプチドは同じ遺伝子によりコード化されており、同じ前駆体中に含まれている(Montero and col.(2000) Molecular evolution of the growth hormone−releasing hormone/pituitary adenylate cyclase−activating polypeptide gene family.Functional implication in the regulation of growth hormone secretion.Journal of Molec.Endocrinol.25:157−168)。PACAP遺伝子は基本的に、中枢及び末梢神経系、眼に刺激を与える神経線維、気管、唾液腺、胃腸管、生殖系器官、膵臓及び尿管に発現する。また、それは副腎、生殖腺及び免疫細胞において合成される(Sherwood and col.(2000)The origin and function of the Pituitary Adenylate Cyclase−Activating Polypeptide(PACAP)/Glucagon Superfamily.Endcrine Review 21:619−670)。PACAPは、種々の組織における多様な分布及び下垂体刺激性、神経伝達、神経調節及び血管調節作用に一致する種々の生物学的機能を示す(Chatterjee and col.(1997) Genomic organization of the rat pituitary adenylate cyclase−activating polypeputide receptor gene.Alternative splicing within the 59−untranslated region.J.Biol.Chem.272:12122−12131)。
【0003】
それは細胞分裂、分化及び死の調節に関係している(Sherwood and col.(2000) The origin y function of the Pituitary Adenylate Cyclase−Activating Polypeptide(PACAP)/Glucagon Superfamily.Endcrine Review 21:619−670)。
【0004】
PACAPは成長ホルモン(GH)の遊離を刺激する。GH遊離におけるこのペプチドの作用は、インビトロにおいて、哺乳類、鳥類、両生類の数種において実施されている(Hu and col(2000) Characterization and messenger ribonucleic acid distribution of a cloned pituitary adenylate cyclase−activating polypeptide type I receptor in the frog Xenopus laevis brain.Endocrinol 141:657−665)及び魚類(Anderson L.L.and col.(2004) Growth Hormone Secretion:Molecular and Cellular Mechanisms and In Vivo Approaches.Society for Experim.Biol.and Med.229:291−302)。GHの分泌及び遊離におけるPACAPの作用に関するインビボの試験はあまりない。今日まで、インビボにおいてこのペプチドはラット血漿中のGHのレベルを増加させることが知られている(Jarr and col.(1992) Contrasting effects of pituitary adenylate cyclase activating polypeptide(PACAP)on in vivo and in vitro prolactin and growth hormone release in male rats.Life Sci.51:823−830)及びウシ血漿中(Radcliff and col.(2001) Pituitary adenylate cyclase−activating polypeptide induces secretion of growth hormone in cattle.Domestic.Aniamal.Endocrinol.21:187−196)。一方、雌ヒツジ(Sawangjaroen and Curiewis(1994) Effects of pituitary adenylate cyclaseactivating polypeptide(PACAP)and vasoactive intestinal polypeptide(VIP)on prolactin,luteinaizig hormone and growth hormone secretion in the ewe.J.Neuroendocrinol.6:549−555)及びヒト(Chiodera and col.(1996) Effects of intrvenously infused pituitary adeylate cyclase activating polypeptide on adenohypophyseal hormone secretion innomal men.Clin.Neuroendocrinol.64:242−246)では、この作用は生じない。
【0005】
これらの試験結果は、哺乳類において、GH分泌に対するこのペプチドの作用は動物種によって異なることを示唆している(Anderson and col.(2004) Growth Hormone Secretion:Molecular and Cellular Mechanisms and In Vivo Approaches.Society for Experim.Biol.and Med.229:291−302)。
【0006】
今まで、魚類において、GH調節におけるPACAP機能を示すインビボ試験はなく、さらに、水生生物における食欲刺激にこのペプチドを使用した先行試験は存在しない。甲殻類において、これまで、このペプチドが存在するというエビデンスはなく、これらの生物における成長を調節するシグナルのカスケードは知られていない。
【0007】
PACAPは哺乳類において脳下垂体細胞によるプロラクチン遊離を刺激する(Ortmann and col.(1999) Interactions of ovarian steroids with pituitary adenylate cyclase−activating polypeptide and GnRH in anterior pituitary cells.Eur.J.Endocrinol.140:207−214)。これは、脳下垂体のメラノトロピン細胞によるメラノトロピン(α−メラニン細胞刺激ホルモン、MSH)の遊離を促進する(Vaudry and col.(2000) Pituitary adenylate cyclase−activating polypeptide and its receptors:from structure to functions.Pharmacol.Rev.s 52:269−364)。
【0008】
魚類において、プロラクチン遊離におけるこのペプチドの作用を示すインビボ試験はない。また、サカナの色の発生におけるその作用に関する試験結果はない。
【0009】
哺乳類において、PACAP免疫システムの機能は非常に良く特徴分析されており、免疫応答調節物質としてヒトにおける使用を記述したいくつかの特許がある。現在まで、水生生物におけるPACAP免疫システム機能を説明した先行する文献はない。
【0010】
PACAP遺伝子は、いくつかの脊椎動物種及びprotocordade(被嚢類)の1種からクローニングされている。魚類では、サーモン及びナマズの一部の種類から単離された(Sherwood and col.(2000) The Origin and Function of the Pituitary Adenylate Cyclase−Activating Polypeptide(PACAP)/Glucagon Superfamily,Endocrine Reviews 21(6):619−670)、金魚(Leung y col.(1999) Molecular cloning and tissue distribution of in pituitary adenylate cyclase−activating polypeptide(PACAP)the goldfish.Rec.Progr.Mol.Comp.Endocrinol.338−388)、ゼブラフィッシュ(Fradinger and Sherwood(2000)Characterization of the geneencoding both growth horome−releasing hormone(GRF)and pituitary adenylate cyclase−activating polypeptide.Mol.and Cell.Endocrinol.165:211−219)、trucha(Krueckl and Sherwood.(2001))及びマス(Krueckl and Sherwood.(2001)Developmental expression, alternative splicing and gene copy number for the pituitary adenylate cyclase−activating polypeptide(PACAP)and growth hormone−releasing hormone(GRF)gene in rainbow trout.Molec.and Cell.Endocrinol.182:99−108)。特許US 5695954は、サカナGHRH−PACAPポリペプチドをコードする遺伝子ヌクレオチド配列の単離及び精製並びにこれらの配列を発現するベクター及びホストを、当該遺伝子構築物を授精魚卵に導入する遺伝子導入によりサカナの成長を増加させるために使用する目的で保護している。また、それはこれらの配列を含んでいる遺伝子導入サカナを検出する方法も保護している。
【0011】
この特許においては、特に、Onchorhynchus Nerka, Clarias macrocepalus及びAcispenser transmontanusの種のGHRH−PACAPポリペプチドをコードする遺伝子配列が報告されている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明において、Clarias geriepinus及びOreochromis niloticusの種からわれわれの実験室において得、そしてN−末端修飾を施したPACAPアミノ酸配列の種々の変異体が使用された。これらの変異体は、水生生物において、E.coli及びP.pastoris培養上清の中に発現される浸漬浴(immersion bath)での投与により、遺伝子導入によらない成長刺激物質として、それらを予め精製せずに使用された。予期せずに、われわれは、これらの変異体がこのような条件下にこれらの生物の免疫活性の有意な増加を促進できること及び血清中のプロラクチン濃度を上昇させることができることを発見した。このようなペプチドの性質は、水生生物について記述されたことがない。
【0013】
一部の著者は、浸漬浴による組換え成長ホルモン投与による魚類における成長刺激作用を報告していた。それにもかかわらず、成長ホルモンの直接使用は多数の規制条件に従うが、同じことは成長ホルモン又は成長ホルモン遊離因子を発現する遺伝子導入魚の使用でも生じる。
【0014】
本発明において、無脊椎動物を含めた水生生物の成長を増進し、そして免疫系を改善するために、非遺伝子導入の方法が記述される。
【0015】
今日、水生生物は重要なタンパク質源であるが、自然環境における捕獲は充分に開発されている。このような理由から、生産を増やすために、これらの水生生物種の養殖が必要である(Pullin y col.;Conference Proceeding 7,432p.International Center for living Aquatic Resources Management.Manila,Philippines,1982,ISSN0115−4389)。
【0016】
成長を刺激し、生物の生存率を増やし、幼生の品質を改善することにより、水産養殖の効率を増加させることが、水産養殖において解決すべき重要な問題として継続される。
【0017】
発明の要約
本発明は上記問題に対する解答を与える。即ち本発明は、SEQ ID No.12、13及び14として記載されるアミノ酸配列を持つ脳下垂体アデニル酸シクラーゼ−活性化ポリペプチドの変異体を提供する。これらは、浸漬浴により又は餌添加物として適用した場合に、短期間に無脊椎生物を含む水生生物の成長速度を増加させ(これは水産養殖にとって非常に重要である)、さらに、これらのペプチドは魚幼生及び商業的関心のある甲殻類の生存率を増加させる。これらは、これら生物における免疫活性並びに食欲、魚の色の発生及びプロラクチン遊離を刺激する。
【0018】
本発明の好ましい態様において、0.1 μg/g動物体重の濃度で3日間隔の周期的注射により、100〜200 μg/リットルの水のペプチド濃度で新鮮水又は海水中4日ごとの浸漬浴により、及び製剤化餌に5 mg/Kgの濃度で加えられる餌添加物として、PACAP変異体を魚類又は甲殻類に適用する。有意な成長増加及び優れた免疫活性が得られる。
【0019】
PACAP変異体の適用は、そのサイズが小さいので(5 KDa)、それが浸漬浴により適用された場合に、その生物の皮膚及び粘膜からの良好な吸収を可能にし、それによる投与は水産養殖に対する費用及び操作が有利であり、汚染の可能性が少なく、さらに、PACAP信号伝達機構は、ホルモンの活性化を経由しないアデニル酸シクラーゼ活性化で始まり、その成長ホルモンの遊離作用はヒトを含む哺乳類では弱いので、その使用が公衆により認容され、規制条件が少ない、などの利点が提供される。
【0020】
他のPACAPの利点は、魚類における先天性及び適応性免疫活性を刺激する能力及び病原体感染に対する抵抗性を増加させる能力である。
【0021】
本発明の具体的態様において、PACAP変異体は、テラピアOrechromis種、ナマズClaria種、サーモンSalmon種及びエビPenaus種のような水生生物に与えられる。
【0022】
本発明の他の好ましい態様において、PACAP変異体は病原体による感染を予防又は治療するために魚類又は甲殻類に与えられる。
【0023】
本発明の具体的態様は、養殖の魚類又は甲殻類を処理してその成長を刺激し、疾患に対するその抵抗性を増加すると共に病原体による感染の予防的及び治療的処理のための組成物調製品を記述し、それらは総て生産性を改善する目的を有する。
【実施例】
【0024】
個別の態様の詳細な説明/実施例
実施例1:E.coliの細胞内発現及びP.pastorisの培養上清中の細胞外生産のためのPACAPのコード配列を含む発現ベクターの構築。
Tベクター中に予めクローニングした鋳型としてGHRH−PACAP cDNAを使用しポリメラーゼ連鎖反応により、Claria gariepinusPACAP遺伝子を単離した。われわれは、シグナルペプチド配列を含めたGHRF−PACAP完全配列を得るために配列SEQ ID No.1及びSEQ ID No.2に対応する特定のオリゴヌクレオチドを使用し、E.coli発現ベクターでクローニングするために必要な制限部位を持つPACAP遺伝子のみを増幅するために特異的オリゴヌクレオチドSEQ ID No.3及びSEQ ID No.4を使用した。
【0025】
特定のオリゴヌクレオチドSEQ ID No.3及びSEQ ID No.4を使用して、上記のようにテラピアPACAP遺伝子を単離した。本発明は、テラピアのこの遺伝子単離の最初の報告となる。
【0026】
制限部位NdeI及びBamHI(図1A)を使用して、PACAPコード化配列を、E.coli発現ベクターpAR 3040でクローニングした。われわれは、E.coli BL21D3細菌を形質転換するために組換えプラスミドに対して一つを選択し、そしてT7プロモーターの調節の下にPACAP発現を誘導するために、誘導物質として0.5 mM IPTGを使用した。
【0027】
遺伝子発現は、28℃、5時間で行った。組換えPACAPの発現及びその完全性はマススペクトルにより確認した。
【0028】
P.pastorisにおいてPACAPを発現するために、われわれはイースト発現ベクターpPS9及びpPS10を使用した。われわれは、pPS9遺伝子クローニングのために特異的オリゴヌクレオチドSEQ ID No.7及びSEQ ID No.6を使用し、pPS10クローニングのためにオリゴヌクレオチドSEQ ID No.5及びSEQ ID No.6を使用した。われわれは、pPS7をクローニングするために、制限部位NcoI及びSpeIを使用し、このクローニング方法は目的のタンパク質のN−末端にmeteonyne及びグリシンを付加した。pPS10をクローニングするために、われわれは制限部位NaeI及びSpeIを使用したが、このクローニング方法は目的のタンパク質にアミノ酸を付加しない(図1B)。
【0029】
形質転換に先だって、プラスミドを酵素SphIにより直線化した。Pichia pastoris MP36株を、組換え発現ベクターを使用して電気ポレーションにより形質転換した。この株は栄養要求性変異株his3であり、形質転換後His表現型を獲得した。
【0030】
ドットブロットにより確認された形質転換体は、サザンブロットによっても分析され、P.pastorisの遺伝子AOX1の組換えプラスミドの発現カセットへの置換による統合が生じたことを確認した。この統合事象はMut(低レベルのメタノール利用)及びHis表現型を生じた。AOX1の遺伝子置換は、ベクターとゲノムのプロモーター領域のAOX1及び3’AOX1の間の組換えにより生じる。Mut表現型を持つ組換え株はAOX2遺伝子におけるアルコール酸化酵素生産を支持し、メタノール中における低い成長を示した。
【0031】
目的のポリペプチド及びテラピア成長ホルモンをコードする遺伝子は、AOX1プロモーターの調節下にあり、メタノールにより誘発され、シグナルペプチドを持っている。Pichia pastorisは低レベルの自己タンパク質を分泌し、その培地は添加物としてタンパク質を必要としない。したがって、分泌された異種タンパク質は培地中の総タンパク質中の高いパーセンテージを占めることが予測できる(80%を超える)(Tschopp y col.;Bio/Technoloty 1987,5:1305−1308; Barr et al.; Pharm.Eng.1992,12:48−51)。本発明において説明された組換えタンパク質の生産は、培地にメタノールを添加した5Lのバイオリアクター中で行われた。
【0032】
実施例2.幼いClaria gariepinusにおける成長刺激実験、肝臓重量/体重比及び魚筋肉乾燥重量の測定。
ほぼ同年齢で平均体重30から40グラムのClarias gariepinus種のナマズ18匹を性別に関係なく使用した。二つの実験群を構成し、各群9匹ずつとした。各群を安定した水の循環を行っている、温度28℃及び14時間明期及び10時間暗期の照明サイクルの別のタンクにおいて馴化した。動物には、各タンク中の合計体重の5%に相当する量を1日2回給餌した。動物は実験前に確認された。1群は、半精製PACAP(70%純度)SEQ ID No.13で処理され、一方、他の1群はPBS 1X中に含まれるE.coliタンパク質(目的ペプチドと同じ精製方法により得られたE.coliタンパク質、精製PACAP検体中に存在する混入物に相当する量を含む)により処理され、対照群として使用した。PACAP処理魚は動物の体重グラム当たり0.1 μgのペプチドの用量で腹腔内に週2回注射された。対照群は上記と同様に注射された。実験開始22日後に、腹腔内にPACAPを注射された動物は、陰性対照に比較して体重の有意な増加を示した(p<0.05)(図2)。
【0033】
体重増加が臓器サイズの増加又は筋肉の水含量の増加によるものではなく、体重の増加によるものであることを示すために、肝臓重量/体重比及び筋肉乾燥重量を測定した。
【0034】
実験群の肝臓重量/体重比及び筋肉乾燥重量の間に有意差は観察されなかった(図3)。
【0035】
配列SEQ ID No.12の組換えPACAPを適用した場合に類似の結果が得られた。
【0036】
実施例3.組換えPACAPを含有するE.coli破裂上清を使用した浸漬浴によるテラピア幼生における成長刺激、病原体に対する抵抗性及びプロラクチン遊離に関する実験。
われわれは、E.coliの破裂上清中に存在するClaria gariepinusの組換えPACAPのテラピア幼生における機能を評価するための実験を行った。
【0037】
二つの実験群はそれぞれ60匹で構成された。一つの群はPACAP神経ペプチド(SEQ ID No.13)で処理し、他の群は対照群として使用した。幼生の群は安定した水の循環を行っている、温度28℃及び14時間明期及び10時間暗期の照明サイクルの個別のタンクにおいて馴化し、そして動物は次の式から得られる量で飼育された:餌の量=動物数×平均体重(g)×40%/100。処理は、2Lの水の浸漬浴であり、週3回60分間の20日間であり、用量はターゲットタンパク質200 μg/リットル水であった。
【0038】
結果として、実験10日目に、PACAP処理群は、対照群に比較して有意な体重及び体長の増加を示し(p<0.01)、実験開始15日目に、実験群の間の差は高度に有意となった(P<0.001)(表1及び図4A及び4B)。浸漬浴開始の20日後には、PACAP処理群と対照群の間の差は統計的に有意であった(p<0.001)(図5)。
【0039】
【表1】


体重と体長は平均±SD.として示す
【0040】
最後の浸漬浴の30日後に実験群動物の体重及び体長の差は著しく有意であったので(p<0.01)、成長に対するPACAPの作用は持続することが観察された(図6)。さらに、PACAP処理した魚は陰性対照に比較して早い発育段階において皮膚の着色を示すことが観察された(図7)。
【0041】
この実験において、われわれは皮膚原虫、Trichodina種の存在を試験した。10匹の動物を各実験群から無作為に選択し、この病原体の侵入強度を次の式にしたがって測定した:
(I:魚寄生虫の合計数)I=ΣN/nーF及びE=n−FX100/n
I:(平均侵入強度) E:(全体の中で寄生虫のいる魚の数)
ΣN(発見された寄生虫の総数) F:(寄生虫のいない魚の数)
n:(分析した魚の数)
【0042】
PACAP処理魚の原虫Trichodina種による侵入強度(平均I=2.20)は対照群(平均I=5.56)に比較して有意に少ないこと(P<0.01)を示した。
【0043】
魚は前記と同じ条件において実験開始から45日間浸漬浴により処理され、処理24時間後に群当たり10匹の動物から血液を採取し、ウエスタンブロット及びELISAにより血清のプロラクチンを測定した。このアッセイにポリクロナール抗テラピアプロラクチン抗体を使用した。われわれは、対照群と比較してPACAP処理群の間に統計的に有意差を観察した(p<0.01)(表2)。これらは、サーモンの場合に新鮮水と海水を回遊し、そこでプロラクチンが浸透圧調節に重要な機能を果たしているので、商業的水生生物において非常に魅力的な結果である。
【0044】
【表2】


濃度は平均±SDとして示されている。
*有意差P<0.01を示す。
【0045】
実施例4.幼いテラピアOrechromis niloticusの食欲に対する組換えPACAPの作用を評価するための実験。
これまで、魚における食欲に対するPACAPの生物作用は試験されていなかった。哺乳類以下の脊椎動物において、食欲に対するこのペプチドの作用は殆ど分析されていない(Jensen,2001,Regulatory peptides and control of food intake in non−mammalian vertebrates.Comp.Biochem.And Phisiol.Part A128:471−479)。
【0046】
魚の食欲に対するPACAPの作用を分析するために、われわれはOreochromis niloticus種のテラピアを使用した。3つの実験群を構成し、各群3匹とし、3回反復した。動物群は、安定した水の循環を行っている、温度28℃及び14時間明期及び10時間暗期の照明サイクルの別々のタンクにおいて馴化した。
【0047】
一群は、0.5 μg/g動物体重の腹腔内注射により半精製PACAP(87%純度)SEQ ID No.13で処理した。第2群はGHRP−6(Lipotec,S.A.スペイン)で0.1 μg/g動物体重の用量のペプチドにより同じ投与経路で処理した。対照群はPBS 1X中に含有されるE.coliタンパク質で処理した(E.coliタンパク質は関心のペプチドと同じ精製方法により得た、精製PACAP検体中に存在する混入物と同量含む)。
【0048】
処理後、同量の餌を3つの実験群に与え、6時間後に摂食されなかった餌を回収し、再度餌を与えた。実験開始22時間後に食欲を再度測定した。
【0049】
それぞれのタンクの摂食されなかった餌を乾燥機で乾燥し(100℃、24時間)そして分析用秤で測定した。摂食された餌は、タンクに加えた餌の量(10グラム、水分20%)と魚に摂食されなかった餌の量の差から計算した。
【0050】
PACAP及びGHRP−6で処理したテラピアは、対照群に比較して有意な食欲増加を示した(p<0.05)(図8)。
【0051】
実施例5.ナマズClaria gariepinusの免疫系に対する組換えPACAPの評価。
幼いClaria gariepinusを使用した。各群10匹ずつの2群に分けた。動物群は、安定した水の循環を行っている、温度28℃及び14時間明期及び10時間暗期の照明サイクルの別々のタンクにおいて馴化した。動物には、各タンク中の合計体重の5%の比率で1日2回給餌した。実験前に動物を確認した。PACAP(SEQ ID No.13)で処理した魚は、週2回、0.1 μg/g動物体重の用量で腹腔内に注射を受けた。
【0052】
実験開始20日後に、血清中のリゾチーム及びレシチンを測定するために魚から血液を採取した。血清中のリゾチーム活性は細菌Micrococcus lysodeikticusを溶菌するリゾチームの能力にもとづく方法を使用して測定した。96−ウエルのマイクロトレイ中、リン酸緩衝液(0.05 M、pH6.2)の中で2倍系列希釈した検体100 μLを、Micrococcus lysodeikticusの3 mg/ml懸濁(Sigma)の100 μLと混合した。このマイクロトレイを22℃でインキュベートし、0、2、3、5、10、15、25、35及び45分に450 nmのODを記録した。陽性対照として、サカナ血清をニワトリ卵白リゾチームに置換し(系列希釈は8 μg/mlから開始)、陰性対照として、サカナ血清を緩衝液に置換した。リゾチーム活性の単位は、0.001 Min−1のOD値の減少を生じる幼生ホモジネートの量として定義した。われわれは、対照群とPACAP群の間に統計的有意差を観察した(p<0.01)(表3)。
【0053】
【表3】


濃度を平均±SDとして示す。
*有意差P<0.01を示す。
【0054】
血清中に存在するレシチンを測定するために、われわれは赤血球凝集アッセイを行った。PBS pH7.2による血清の2倍系列希釈をU型底のマイクロタイターウエル(96ウエル、Greiner,Microlon)中で行い、この中に同じ容量の新しく調製した2%赤血球懸濁(ウサギ、PBS)を加えた。このウエルを室温で1時間インキュベートし、力価は、肉眼で観察し、凝集を示す最後の希釈と等しいとした(ウエルの底全体に均一な細胞の分布層が示される)。検体の赤血球凝集活性を検査し、それぞれの力価を得た。活性は力価、すなわち完全凝集を示す最高希釈の逆数として示した。
【0055】
PACAP処理サカナは対照群に比較して、血清中のレシチンレベルの有意な増加を示した(p<0.05)(表4)。
【0056】
【表4】


Student検定。*有意差P<0.05を示す
【0057】
実施例6.組み換えPACAPを含有するP.pastoris培養上清に浸漬することによるテラピア幼生における成長刺激の実験。
テラピア幼生の成長におけるP.pastoris培養上清に含まれるClarias gariepinus PACAP(SEQ ID No.14)の機能を評価するためにわれわれは実験を行った。
【0058】
各群50匹の幼生からなる3つの実験群を構成した。一つの群はP.pastoris培養上清に含まれる組換えPACAP(SEQ ID No.14)で処理した。第2群は、P.pastoris培養上清に含まれる組換えテラピア成長ホルモン(GH)で処理された。対照群は形質転換されていないP.pastoris培養上清で処理した。幼生は1日2回次の式から得られる量の餌を与えられた:餌の量=動物数×平均体重(g)×40%/100。処理は、週に3回90分間、30 L容積の中に浸漬することにより行った。容量は、標的タンパク質100 μg/L水)
【0059】
実験開始の5週間(35日)後、PACAP処理群は、対照群に比較して有意な体重増加(p<0.01)を示す結果を、われわれは得た。成長ホルモン処理群は、対照群に比較して有意な体重増加を示した(p<0.05)(表5)。
【0060】
【表5】


体重は平均±SDとして示す。
【0061】
実施例7.組換えPACAPを含有するPichia pastoris培養上清で処理したエビLitopenaeus schmittiにおける成長刺激及び幼生品質の改善の実験。
われわれは、Litopenaeus schmitti種のエビ幼生を使用した。二つの実験群は、各群100匹の幼生で構成した。1群は、P.pastoris培養上清に含まれる組換えPACAP(SEQ ID No.14)で処理し、対照群として使用した他の群は、形質転換していないP.pastoris培養上清で処理した。
【0062】
幼生は100 Lの容積のファイバーグラス製タンクの中で養殖された。給餌は、dyatomeas(Chaetoceros gracilis),the flagellated algae(Tetraselmis suecica)及びArtemia nauplius(Aquatic Eco−Systems Inc.)に基づいて行った。
【0063】
非生物成長要因は以下の通り:
・照明(24:00 L/D)
・安定通気
・塩分、34 ppm
・溶存酸素 5.2±0.5(幼生循環において)
・再循環変動 PZIII 80%
【0064】
実験群に、3日に1度1時間の浸漬浴を4回適用した。
【0065】
PACAP処理群は対照群に比較して有意な体重増加を示す結果をわれわれは得た(p<0.01)(表6)。
【表6】


体重は平均±SDとして示す。
【0066】
われわれは、PACAP処理群においてエビの養殖に重要である高い均一性及び幼生の優れた品質(鰓器官の多い分枝及び口吻の修飾)を観察した。PL9ステージにおける生存率の相違は、PACAP処理群において40%多かった。
【0067】
実施例8.組換えPACAP含有サカナ餌製品による若いClarias gariepinusにおける成長刺激。
組換えPACAP(SEQ ID No.14)を含有するPichia pastoris培養上清を濃縮し、サカナ養殖餌に添加して約5 mg/Kg餌の濃度にした。
【0068】
それぞれ平均体重0.1gの幼生100匹の2実験群を構成した。1群は組換えPACAP(SEQ ID No.14)を含有するPichi pastoris培養上清で処理し、対照として使用したほかの1群は非形質転換P.pastoris培養上清で処理した。実験を30日間行った。
【0069】
5 mg/Kg餌の用量で餌に含まれた組換えPACAP(SEQ ID No.14)は対照に比較して30%成長を増加し、高度の統計的有意差があった(p<0.01)。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】細菌発現ベクター(図1A)及びイースト発現ベクター(図1B)におけるPACAPクローニング方法。
【図2】アフィニティークロマトグラフィーにより精製した組換えPACAPの腹腔内注射による、0.1 μg/g動物体重の用量における幼いClaria gariepinusにおける成長刺激実験。グラフは、対照群と比較したPACAP処理群の平均体重を示す。
【図3】アフィニティークロマトグラフィーにより精製した組換えPACAPの腹腔内注射による、0.1 μg/g動物体重の用量における幼いClaria gariepinusにおける成長刺激実験。グラフは、対照群と比較したPACAP処理群の肝臓重量/体重比の平均を示す。
【図4】100 μg/リットル水の用量における組換えPACAPを含有するE.coli破裂上清中への浸漬によるテラピア幼生の成長刺激実験。グラフ4A及び4Bは、陰性対照と比較した処理群の平均体重及び体長を示す。
【図5】100 μg/リットル水の用量における組換えPACAPを含有するE.coli破裂上清中への浸漬によるテラピア幼生の成長刺激実験。グラフは、処理開始22日後における、陰性対照と比較した処理群の平均体重を示す。
【図6】100 μg/リットル水の用量における組換えPACAPを含有するE.coli破裂上清中への浸漬によるテラピア幼生の成長刺激実験。図は、最終浸漬浴の30日後におけるPACAP処理サカナ(A及びC)と対照群(B)の体長の差を示す。
【図7】100 μg/リットル水の用量における組換えPACAPを含有するE.coli破裂上清中への浸漬によるテラピア幼生の成長刺激実験。図は、対照群(C)に比較してPACAP処理サカナ(A及びB)の色の早期発生を示す。
【図8】アフィニティークロマトグラフィーで精製した組換えPACAPの、0.5 μg/g動物体重の用量におけるテラピアOrechromis niloticusの食欲に対する評価。図は、処理開始6時間と22時間にサカナによって摂取された平均食物量を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
養殖しているサカナ又は甲殻類に、配列SEQ ID No.12、SEQ ID No.13及びSEQ ID No.14による神経ペプチドPACAPを、成長を刺激するか又は病気に対する抵抗性を増加させる又は両者のために有効な量で与える又は投与することを含む、サカナ又は甲殻類養殖の生産性を増加させる方法。
【請求項2】
前記PACAP神経ペプチドが、プロラクチン分泌を増加させる、サカナの浸透圧調節を改善するために使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記PACAP神経ペプチドが、水生生物の食欲を調節するために使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記PACAP神経ペプチドが、観賞用動物及び甲殻類における発色を改善するために使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記PACAP神経ペプチドが化学合成により得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記PACAP神経ペプチドが組換え技術により得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
E.coli破裂上清中に含まれるPACAP神経ペプチドを精製せずに使用する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
P.pastoris培養上清に含まれるPACAP神経ペプチドを精製せずに使用する請求項6に記載の方法。
【請求項9】
組換え生産システムから出発した精製PACAP神経ペプチドを使用する請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記PACAP神経ペプチドが、0.1 μg/g動物体重の濃度で3日ごとに周期的注射によりサカナ又は甲殻類に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記PACAP神経ペプチドが、新鮮水又は海水中100〜200 μg/リットル水の濃度で、1〜4日の間隔で行われる浸漬浴によりサカナ又は甲殻類に供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記PACAP神経ペプチドが、5 mg/Kg餌の濃度で混餌(formulated feed)としてサカナ又は甲殻類に供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記PACAP神経ペプチドがOrechromis種のテラピアに供給される、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記PACAP神経ペプチドがClaris種のナマズに供給される、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記PACAP神経ペプチドがSalmon種のサーモンに供給される、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記PACAP神経ペプチドがPenaus種のエビに供給される、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記PACAP神経ペプチドが、病原体により生じる感染を予防又は治療するためにサカナ又は甲殻類に供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
成長を刺激するために養殖しているサカナ又は甲殻類を処理するための組成物を製造するための、配列SEQ ID No.12,SEQ ID No.13及びSEQ ID No.14に記載するPACAP神経ペプチドの使用。
【請求項19】
病気に対する抵抗性を増加させるために養殖しているサカナ又は甲殻類を処理するための組成物を製造するための、配列SEQ ID No.12、SEQ ID No.13及びSEQ ID No.14に記載するPACAP神経ペプチドの使用。
【請求項20】
養殖しているサカナ又は甲殻類における病原体により生じる感染の予防的又は治療的処理のための組成物を製造するための、配列SEQ ID No.12、SEQ ID No.13及びSEQ ID No.14に記載するPACAP神経ペプチドの使用。
【請求項21】
生産性を改善するためにサカナ及び甲殻類の成長を刺激するための、配列SEQ ID No.12,SEQ ID No.13及びSEQ ID No.14によるPACAP神経ペプチドの使用。
【請求項22】
養殖におけるサカナ及び甲殻類の病気に対する抵抗性を増加させて、生産性を改善するための、配列SEQ ID No.12、SEQ ID No.13及びSEQ ID No.14に記載するPACAP神経ペプチドの使用。
【請求項23】
養殖において病原体により生じる感染からサカナ及び甲殻類を予防又は治療して生産性を改善するための、配列SEQ ID No.12,SEQ ID No.13及びSEQ ID No.14に記載するPACAP神経ペプチドの使用。

【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−516520(P2009−516520A)
【公表日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541573(P2008−541573)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【国際出願番号】PCT/CU2006/000013
【国際公開番号】WO2007/059714
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(502241132)セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア (2)
【Fターム(参考)】