説明

水産物水上養殖設備および水産物水上養殖方法

【課題】栄養価に富んだ海洋深層水を効率的かつ経済性に汲み上げて水産物の養殖に活用できる新規な水産物水上養殖設備および水産物水上養殖方法の提供。
【解決手段】水面付近に浮遊または固定された養殖槽10内に深層水を供給しながら水産物を養殖するための設備であって、前記養殖槽10に、これより水底付近まで延びる揚水路20を接続すると共に、当該揚水路20に、酸素を含む気泡を供給するための気泡供給手段30を備える。これによって、気泡の上昇流に伴って栄養価に富んだ海洋深層水を効率的かつ経済性に汲み上げて水産物の養殖に活用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋深層水などの栄養塩類を豊富に含む深層水を利用した水産物水上養殖設備および水産物水上養殖方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に数百m〜数千m以上の深海に大量に存在する海洋深層水は、リンや窒素などの栄養塩類(ミネラル)を豊富に含み、かつ温度が一定で病原菌が殆ど含まれない清浄な水であることから、これを太陽光が十分に届く海面付近まで汲み上げて昆布やアワビなどの海産物養殖用の漁場や海洋緑化などに活用することが検討されている。
例えば、以下の特許文献1では、深層水領域まで垂下して深層水を汲み上げる管を備え、その上部に深層水放出用開口部を備え、その下部に安定して浮上させるためのバラストを備えた浮体構造物による深層水揚水装置を複数基配置し、その深層水揚水装置の下流に魚介類を養殖するための生け簀を複数基配置してなる海洋大規模漁場システムに関する発明が提案されている。
【0003】
また、以下の特許文献2には、表層領域と深層領域とを連結することのできる熱伝導性の中空パイプを準備し、このパイプ内を深層水で満たすと共に、そのパイプの一端を封止し、海水の満たされたパイプの一端を表層領域に、他端を深層領域に配置し、そのパイプ内の海水がパイプ外の海水と実質的に等しくなるまで放置してからそのパイプの封止を解除するようにした深層水汲み上げ方法に関する発明が提案されている。
【0004】
また、以下の特許文献3には、深層水を汲み上げる深層水汲み上げ装置と、海中に設置され、深層水を滞留する滞留槽とを備えた漁場に関する発明が提案されている。
さらに、このような有用な海洋深層水を海面付近まで汲み上げるための技術も種々提案されている。
例えば、以下の特許文献4には、水深300〜600m以深の海底に沈められたシンカーに係留される湧昇パイプと、この湧昇パイプの上端に接続され、主体が水深100m以浅の有光層の水面下に浮かべられ、湧昇パイプを通して上記水深の深層水を汲み上げると共に吸い込み口から表層水を吸い込み両者を混合して吐出口から有光層に密度流として吐出する水中浮体とからなる海洋深層水の汲み上げ拡散装置に関する発明が提案されている。
【0005】
また、以下の特許文献5には、浮体と、この浮体に設けられたポンプと、深層水を汲み上げるライザー管と、浮体の上に設けられている風力発電機とを備えた深層水汲み上げ装置に関する発明が提案されている。
さらに、本発明者は、以下の特許文献6に示すように、水底から水面付近の延びる管に気泡出口を形成し、この気泡出口から高水圧下の水中で気泡を発生させ、その気泡の浮力を利用して水流を発生させることで、水底の水を水面付近に汲み上げるような技術を既に提案している。
【0006】
また、近年、大陸棚にブロックなどによる人工海底山脈を作って深層水を水面側に循環させる方法も提案されている。
【特許文献1】特開2001−292658号公報
【特許文献2】特開2001−336479号公報
【特許文献3】特開2003−333955号公報
【特許文献4】特開2000−27748号公報
【特許文献5】特開2003−343447号公報
【特許文献6】特開2004−183637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このように栄養価に富んだ海洋深層水を活用して海産物の養殖や海洋緑化などを実現するためには、高深度に存在する大量の深層水を海面付近まで汲み上げる必要があるが、前述した従来技術では、その動力として揚水ポンプや蒸気タービンなどのような機械的な動力によって行っていることから、その稼働に際して電力や化石燃料を大量に消費してしまい、経済的に採算性が合わないといった問題がある。
【0008】
また、大陸棚にブロックなどによる人工海底山脈を作って深層水を水面側に循環させる方法では、そのために大掛かりな海洋工事が必要となるため、経済的にも実現性に乏しい上に、予期せぬ環境破壊を招くことも考えられる。
また、通常、海底から汲み上げられた海洋深層水中には十分な酸素が溶け込んでいないため、酸素を必要とする動物プランクトンや魚介類などの海産物の場合には期待するほどの顕著な生育がみられないといった問題がある。
【0009】
そこで、本発明はこのような課題を有効に解決するために案出されたものであり、その目的は、栄養価に富んだ海洋深層水を効率的かつ経済性に汲み上げて水産物の養殖に活用することができる新規な水産物水上養殖設備および水産物水上養殖方法を提供するものである。
また、本発明の他の目的は、通常よりも海産物の生育が顕著な水産物水上養殖設備および水産物水上養殖方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために請求項1の発明は、
水面付近に浮遊または固定された養殖槽内に深層水を供給しながら水産物を養殖するための設備であって、前記養殖槽に、これより水底付近まで延びる揚水路を接続すると共に、当該揚水路に、酸素を含む気泡を供給するための気泡供給手段を備えたことを特徴とする水産物水上養殖設備である。
【0011】
また、請求項2の発明は、
請求項1に記載の水産物水上養殖設備において、前記養殖槽は、ほぼ舟形に形成された養殖槽本体の一端部に、前記揚水路で揚水された深層水を導入する給水口を有すると共に、他端部に排水口を有することを特徴とする水産物水上養殖設備である。
また、請求項3の発明は、
請求項1または2に記載の水産物水上養殖設備において、前記養殖槽は、ほぼ舟形に形成された養殖槽本体の底部が、上板と下板とからなる二重底構造となっていると共に、前記上板は、多孔板または網状板からなっていることを特徴とする水産物水上養殖設備である。
【0012】
また、請求項4の発明は、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の水産物水上養殖設備において、前記養殖槽は、前記揚水路に対して着脱自在となっていることを特徴とする水産物水上養殖設備である。
また、請求項5の発明は、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水産物水上養殖設備において、前記気泡供給手段は、大気中の空気を圧縮するコンプレッサーと、当該コンプレッサーで圧縮された空気を貯蔵するタンクと、当該タンク内の圧縮空気を前記揚水路内に吹き込んで気泡を発生させるノズルと、を有することを特徴とする水産物水上養殖設備である。
【0013】
また、請求項6の発明は、
請求項5に記載の水産物水上養殖設備において、前記コンプレッサーは、風力発電または太陽光発電のいずれか一方あるいは両方を利用した発電装置で発電された電動モータによって駆動することを特徴とする水産物水上養殖設備である。
また、請求項7の発明は、
請求項5に記載の水産物水上養殖設備において、前記コンプレッサーは、水上の風によって作動する風車によって駆動することを特徴とする水産物水上養殖設備である。
【0014】
一方、請求項8の発明は、
水面付近に浮遊または固定された養殖槽内に深層水を供給しながら水産物を養殖するための方法であって、前記養殖槽に、これより水底付近まで延びる揚水路を接続すると共に、当該揚水路内に気泡を供給してその内部に上昇流を発生させ、水底付近の深層水を汲み上げて前記養殖槽内に供給することを特徴とする水産物水上養殖方法である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、気泡供給手段によって揚水路に酸素を含む気泡を供給すると、その気泡が揚水路内を上昇し、これに伴ってその揚水路内には上昇流が発生する。そして、この上昇流によって揚水路の底部から深層水が順次その揚水路内に吸い込まれて上昇(汲み上げられ)し、その上部から水面付近に浮遊または固定された養殖槽内に順次流れ込むことになる。
【0016】
これによって、栄養価に富んだ海洋深層水を効率的かつ経済性に汲み上げて水産物の養殖に活用することができるため、養殖槽内で養殖されている昆布やアワビなどが常に栄養豊かな深層水に晒されるようになり、良好に成長することになる。
さらに、この気泡は、空気などのような酸素を多く含む気体であるため、その揚水路の上昇中に多くの酸素がその深層水中に溶け込み、酸素の豊富な深層水を供給することができる。
【0017】
これによって、酸素を必要とする植物プランクトンや魚介類などの海産物が良好に生育するため、その養殖槽内は勿論、その周囲の漁場環境を良好にすることができる。
また、請求項2に記載の発明によれば、前記養殖槽は、ほぼ舟形に形成された養殖槽本体の一端部に、前記揚水路で揚水された深層水を導入する給水口を有すると共に、他端部に排水口を有するものであることから、揚水路から汲み上げられた深層水を良好かつ連続してその養殖槽内全体に供給することができる。
【0018】
また、請求項3の発明によれば、さらに前記養殖槽は、ほぼ舟形に形成された養殖槽本体の底部が、上板と下板とからなる二重底構造となっていると共に、前記上板は、多孔板または網状板からなっているため、後述するように物質循環を核とする養殖システムを構築することができる。
また、請求項4の発明によれば、前記養殖槽は、前記揚水路に対して着脱自在となっているため、この養殖槽のみをタグボートなどによって港まで曳航して陸揚げした状態で成長したアワビなどの海産物を採取することができる。また、必要に応じてこの養殖槽のみを新たなものに交換することができる。
【0019】
また、請求項5の発明によれば、前記気泡供給手段は、大気中の空気を圧縮するコンプレッサーと、このコンプレッサーで圧縮された空気を貯蔵するタンクと、このタンク内の圧縮空気を前記揚水路内に吹き込んで気泡を発生させるノズルと、を有するものであることから、酸素を多く含む空気をコンプレッサーによって昇圧してタンク内に溜め込み、適宜ノズルから前記揚水路内に吹き込んで気泡を発生させることができる。
そして、請求項6および7の発明によれば、前記コンプレッサーは、風力または太陽光などのクリーンなエネルギーを利用したものであるため、周囲環境の影響をなくすことができると共に、電力の供給や燃料切れなどといった不都合も未然に回避することができる。
【0020】
一方、請求項8の発明によれば、請求項1の発明と同様に、栄養価に富んだ海洋深層水を効率的かつ経済性に汲み上げて水産物の養殖に活用することができるため、養殖槽内で養殖されている昆布やアワビなどが常に栄養豊かな深層水に晒されるようになり、良好に成長することになる。
さらに、その揚水路の上昇中に気泡中の酸素がその深層水中に溶け込むため、酸素の豊富な深層水を供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面を参照しながら詳述する。
図1〜図6は、本発明に係る水産物水上養殖設備100の実施の一形態を示したものである。
図1および図6に示すように、この水産物水上養殖設備100は、海洋の沖合の海面付近に浮遊された養殖槽10と、この養殖槽10から水底付近まで延びる揚水路20と、この揚水路20に酸素を含む気泡を供給するための気泡供給手段30とから主に構成されている。
【0022】
先ず、この養殖槽10は、図2に示すように、略舟形に形成された養殖槽本体11の一端部に給水口12を有すると共に他端部に排水口13を備えたものであり、揚水路20で揚水された深層水を給水口12から養殖槽本体11内に導入した後、排水口13から順次排水するようになっている。なお、この排水口13は、網部材14で覆われており、その養殖槽本体11内で養殖されている昆布やアワビなどの海産物の流出を防止すると共に、これら海産物を食する有害な海洋生物(魚類など)の侵入を防止するようになっている。
【0023】
また、この養殖槽10の養殖槽本体11の底部は、上板15と下板17とからなる二重底構造となっていると共に、上板15は、多孔板または網状板(メッシュ)からなっており、養殖する海産物の棲み分けを行うことができるようになっている。すなわち、この上板15上には海藻類やアワビ、魚類などが生育し、下板17にはこの上板15を通過してきた糞などが泥状に堆積し、その底泥中にナマコなどの底泥を食する生物が生育するようになっている。
また、この養殖槽本体11の上端両側には、この養殖槽本体11を囲むように略円柱状をした浮体(フロート)16がそれぞれ3つずつ取り付けられており、この養殖槽本体11全体を海面付近に浮上して安定して浮遊するようになっている。
【0024】
一方、揚水路20は、図1に示すようにこの養殖槽10から水底付近までほぼ垂直に延びた樹脂や金属などからなる管状体(パイプ)21で構成されており、その管状体21の下部開口部22側が海底付近に位置することでその付近の深層水を海面付近まで汲み上げるようになっている。そして、この管状体21の上部開口部23付近には、排出口24が形成されており、これよりほぼ水平に延びる連結管25を介して養殖槽10と連通して汲み上げた深層水をその養殖槽10内に案内するようになっている。また、図示するようにこの揚水路20の排出口24と養殖槽10の給水口12とは、連結管25を介して着脱自在(連結分離自在)となっている。さらに、この揚水路20の排出口24付近には排出口24側に傾斜した流向調整板26が設けられており、この揚水路20内を上昇してきた深層水を排出口24側に向けて案内するようになっている。なお、この揚水路20は、海流などによって流されないようにその底部は図示しないアンカーなどによって海底側に固定されている。また、この管状体21の大きさ(内径)などは特に限定されるものではないが、例えば内径270mmのポリエチレン管の場合、従来の揚水ポンプを用いたケースでは374mの深度から4000m/日の取水が可能となっている。
【0025】
他方、気泡供給手段30は、海面上に浮上する基台31と、この基台31上に取り付けられた太陽光発電パネル32や風力発電機33などの発電装置34と、この発電装置34で発電された電力によって駆動する電動モータ(図示せず)を有するコンプレッサー35と、このコンプレッサー35で圧縮された空気を貯蔵するタンク36と、前記揚水路20の下端部に取り付けられたノズル37と、図示しない制御回路とから主に構成されている。
【0026】
そして、このコンプレッサー35によって大気中の空気を圧縮してタンク36内に溜め込むと共に、そのタンク36内圧が所定圧に達したときに制御回路が図示しない弁を開いてそのタンク36内に溜め込まれた圧縮空気を耐圧パイプ38を介してノズル37に送り、そのノズル37から前記揚水路20内に圧縮空気を吹き込んで気泡を発生させるようになっている。
【0027】
なお、ここでコンプレッサー35からノズル37へ送る圧縮空気の空気圧としては、そのノズル37の位置、すなわち水圧との関係によって異なるものであるが、例えば、おおまかに計算して1気圧10mとすると約300気圧程度あれば、約3000mの深海にも十分に圧縮空気を送ることが可能となる。
また、このコンプレッサー35は、太陽光発電パネル32や風力発電機33などの発電装置34によって駆動するようにする他に、風力発電機33を構成する風車の回転軸を直接または変速機などを介してコンプレッサー35の軸に接続し、その風車の回転力によって直接駆動するようにしても良い。
【0028】
次に、このような構成をした本発明の水産物水上養殖設備100の作用および効果を説明する。
図1に示すように気泡供給手段30のコンプレッサー35によって圧縮された空気はタンク36に溜められ、所定圧に達すると耐圧パイプ38を介してノズル37に送られ、そのノズル37から揚水路20内に吹き出された後、その浮力によって揚水路20内を上昇する。すると、その気泡は、その上昇時の水圧の低下に伴って体積が膨張し、さらに加速度的に速度を速めて揚水路20内を上昇した後、上部開口部23から大気中に放出される。なお、1000mの深度で1cmの気泡を発生させた場合、水面では100の気泡となり、この浮力により、揚水路20内の水を上昇させることになる。
【0029】
これによって、揚水路20には常時海水の上昇流が発生するため、これに伴ってその揚水路20の下部開口部22から深層水が引き込まれるようにして揚水路20内に流れ込み、その揚水路20内を上昇して汲み上げられ、排出口24から連結管25を介して養殖槽10内に流れ込む。
そして、この養殖槽10内に流れ込んだ深層水は、その養殖槽10内で養殖されている海藻類やアワビなどの生育に寄与した後、排水口13から排出されてさらにその周囲の海洋緑化などに活用されることになる。
【0030】
このように本発明に係る水産物水上養殖設備100は、気泡の浮力を利用して深層水を汲み上げるようにしたことから、栄養価に富んだ海洋深層水を効率的かつ経済性に汲み上げて水産物の養殖に活用することができる。
さらに、この気泡は、酸素を多く含む気体であるため、その揚水路20の上昇中に多くの酸素がその深層水中に溶け込むようになるため、酸素の豊富な深層水を供給することができる。
【0031】
これによって、酸素を必要とする植物プランクトンや魚介類などの海産物が良好に生育するため、その養殖槽10内は勿論、その周囲の漁場環境を良好にすることができる。
また、安定した水温下で海藻類や魚類、貝類などを養殖できると同時に、周辺海域に深層水に含まれている豊富なミネラル分を供給することができるため、周辺海域の環境の改善や海洋緑化も達成することができる。
【0032】
また、この養殖槽10内でアワビなどの貝類を養殖する際に昆布などの海藻類も同時に養殖するようにすれば、アワビなどの貝類がその海藻類を餌として成長するため、別個独立して餌などを供給する必要がなくなり、手間が省ける。
また、この養殖槽10の底部を二重底構造とし、上板15側を多孔板または網状板(メッシュ)としたため、アワビや魚類などの糞がその養殖槽10の底部(下板17)に溜まることになる。従って、この養殖槽10の底部にナマコなどの底泥を食べる生物を入れることにより、海藻類の生育→海藻類を食べる貝類の成長→貝類から発生する糞などの有機物を餌とするナマコなどの生育といった物質循環を核とする養殖システムを1つの養殖槽10内で構築することができる。
【0033】
また、このようにして汲み上げられる深層水は、年間を通じて水温が安定し、アワビが育つ15〜20°の水温が維持されるため、成長が早い。また、低温安定性、豊富な無機塩類、清浄性により昆布、カジメ、アサオなどの海藻類の養殖が容易である。
また、酸素を必要とする植物プランクトンや魚介類などの海産物が良好に生育するため、その養殖槽内は勿論、その周囲の漁場環境を良好にすることができる。
【0034】
また、海上に浮かべておくだけで海藻類やアワビ、ナマコが生育するため、維持管理に殆ど手間が掛からない。
また、この気泡の発生エネルギーは、風力発電または太陽光発電のいずれか一方あるいは両方を利用したクリーンなエネルギーを利用したものであるため、周囲環境の影響をなくすことができると共に、電力の供給や燃料切れなどといった不都合も未然に回避することができる。
【0035】
また、気泡供給手段30の一部を構成するコンプレッサー35は、太陽光発電パネル32や風力発電機33などの発電装置34によって、あるいは風車によって直接駆動するようにしているが、このように太陽光発電パネル32や風力発電機(風車)33を併設しておけば、風が殆ど無いときは太陽光発電パネル32による電力を利用し、反対に夜間や曇りなどでは、風力発電機(風車)33による電力や回転力(動力)を利用することができるため、深層水汲み上げのための気泡を発生させるためのエネルギーを常時発生させることが可能となる。
【0036】
そして、このようにして養殖槽10内で海藻類やアワビ、ナマコなどの海産物が十分に生育したならば、作業員がその場所で養殖槽10内に入り込んで(潜水)成長した海産物を採取するようにしても良いが、図3〜図5に示すようにこの養殖槽10を揚水路20の連結管25の部分から切り離し、港から曳航してきた新しい養殖槽10と交換した後、そのままタグボート40などによって港まで曳航し、この養殖槽10全体を陸揚げしてから陸上で採取作業を行うようにしても良い。
【0037】
これによって、より簡単かつ確実に採取作業を行うことができると共に、養殖槽10の清掃などのメンテナンスや修理作業なども陸上で簡単に行うことができる。
また、このようなメンテナンスや修理作業が終えた養殖槽10に対して時期をみて海藻類の植え付けやアワビなどの稚貝を放流した後、沖合まで曳航して古い養殖槽10と交換するようにすれば、効率的な養殖事業を実現することができる。
【0038】
また、この場合には図6に示すように、本発明の水産物水上養殖設備100のうち、気泡供給手段30などをアンカー50によって固定しておけば、潮に流されてしまうといった不都合を解消することができる。また、図示するようにこの養殖槽10の周囲に海藻類が繁茂する環境は、稚仔魚の隠れ場としても有効である。さらに、この養殖槽10の周囲でもこの養殖槽10から出た深層水によって海藻類が良く生育するため、サンマなどのような流れ藻に産卵する魚類の産卵場所を創出できる。
【0039】
なお、本実施の形態では、本発明の水産物水上養殖設備100を海洋中に設置した例で説明したが、栄養価の高い深層水は海洋のみならず、湖や沼などにも存在するため、本発明の水産物水上養殖設備100を湖沼などに設置して淡水魚などを養殖する場合に適用しても良いことは勿論である。また、この養殖槽10は浮体16によって水面上に浮遊させて利用する他、例えば海底構造物などを介して固定して用いても良い。さらに、本実施の形態では、この養殖槽10を舟形に形成し、その端部に揚水路20を接続して深層水を供給するような構造としたが、この養殖槽10の形態としては、これに限定されるものでなく、例えば、扇形や円形に形成しても良く。また、この養殖槽10に接続される揚水路20は、2つ以上あっても良く、さらにその養殖槽10の中央部などに直接接続されるような構造であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る水産物水上養殖設備100の実施の一形態を示す全体図である。
【図2】養殖槽10の構造を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る水産物水上養殖設備100を示す平面図である。
【図4】養殖槽10を揚水路20などから切り離した状態を示す平面図である。
【図5】養殖槽10のみをタグボート40で曳航している状態を示す平面図である。
【図6】本発明に係る水産物水上養殖設備100を海洋の沖合に設置した状態を示す概念図である。
【符号の説明】
【0041】
100…水産物水上養殖設備
10…養殖槽
11…養殖槽本体
12…給水口
13…排水口
14…網部材
15…上板(多孔板または網状板(メッシュ))
16…浮体(フロート)
17…下板
20…揚水路
21…管状体
22…下部開口部
23…上部開口部
24…排出口
25…連結管
26…流向調整板
30…気泡供給手段
31…基台
32…太陽光発電パネル
33…風力発電機(風車)
34…発電装置
35…コンプレッサー
36…タンク
37…ノズル
38…耐圧パイプ
40…タグボート
50…アンカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面付近に浮遊または固定された養殖槽内に深層水を供給しながら水産物を養殖するための設備であって、
前記養殖槽に、これより水底付近まで延びる揚水路を接続すると共に、当該揚水路に、酸素を含む気泡を供給するための気泡供給手段を備えたことを特徴とする水産物水上養殖設備。
【請求項2】
請求項1に記載の水産物水上養殖設備において、
前記養殖槽は、略舟形に形成された養殖槽本体の一端部に、前記揚水路で揚水された深層水を導入する給水口を有すると共に、他端部に排水口を有することを特徴とする水産物水上養殖設備。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水産物水上養殖設備において、
前記養殖槽は、略舟形に形成された養殖槽本体の底部が、上板と下板とからなる二重底構造となっていると共に、前記上板は、多孔板または網状板からなっていることを特徴とする水産物水上養殖設備。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の水産物水上養殖設備において、
前記養殖槽は、前記揚水路に対して着脱自在となっていることを特徴とする水産物水上養殖設備。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水産物水上養殖設備において、
前記気泡供給手段は、大気中の空気を圧縮するコンプレッサーと、当該コンプレッサーで圧縮された空気を貯蔵するタンクと、当該タンク内の圧縮空気を前記揚水路内に吹き込んで気泡を発生させるノズルと、を有することを特徴とする水産物水上養殖設備。
【請求項6】
請求項5に記載の水産物水上養殖設備において、
前記コンプレッサーは、風力発電または太陽光発電のいずれか一方あるいは両方を利用した発電装置で発電された電動モータによって駆動することを特徴とする水産物水上養殖設備。
【請求項7】
請求項5に記載の水産物水上養殖設備において、
前記コンプレッサーは、水上の風によって作動する風車によって駆動することを特徴とする水産物水上養殖設備。
【請求項8】
水面付近に浮遊または固定された養殖槽内に深層水を供給しながら水産物を養殖するための方法であって、
前記養殖槽に、これより水底付近まで延びる揚水路を接続すると共に、当該揚水路内に気泡を供給してその内部に上昇流を発生させ、水底付近の深層水を汲み上げて前記養殖槽内に供給することを特徴とする水産物水上養殖方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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