説明

水産練り製品及びその製造方法

【課題】高級グレード品質のすり身を使用した場合だけではなく、中級又は低級グレード品質のすり身を使用した場合であっても、ゲル強度や弾力性を高めることができる水産練り製品の製造方法を提供する。
【解決手段】脱脂豆乳の酸沈処理を経て得られたカードを水に分散させた水分散液を中和して中和蛋白溶液を得る第1の工程と、前記中和蛋白溶液をそのBrixが10%未満の状態で加熱して被加熱蛋白溶液を得る第2の工程と、前記被加熱蛋白溶液を乾燥して大豆蛋白を得る第3の工程とを有する製造方法により得られた大豆蛋白と、すり身とを混合する工程を有する、水産練り製品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水産練り製品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、アメリカ、ヨーロッパ、アジアで生産されるかに風味かまぼこに代表されるように、日本発のインターナショナルフードとして世界中に広まっている。そして、市場の拡大からすり身原料を海外に求め、水産練り製品の原料として使われている魚も多種多様になり、すり身生産国も世界各地に広まっている。海外でもかに風味かまぼこなどの水産練り製品が食べられるようになり、また、魚がヘルシーフードとして認知され、漁業資源の奪い合いの現象が起きている。
その結果、すり身の価格が高騰し、高級グレード品質のすり身だけではなく、中級又は低級グレード品質のすり身も、魚肉練り製品の原料として多く使用されるようになってきた。
そこで、高級グレード品質のすり身を使用した場合だけではなく、中級又は低級グレード品質のすり身を使用した場合であっても、ゲル強度や弾力性を高めることができる素材が求められている。
【0003】
従来、水産練り製品のゲル強度や弾力性を高める観点から、水産練り製品に尿素を配合したり、カルボキシメチルセルロースカルシウムを添加したりする手法が検討されている(例えば、特許文献1、2参照)。また、弾力の強い水産練り製品を得るために、所定量の大豆蛋白、水、油脂及び凝固剤からなる豆腐様カードとすり身とを混練する技術が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−103937号公報
【特許文献2】特開平4−299964号公報
【特許文献3】特開昭63−167765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが、上記特許文献1〜3を始めとする従来の水産練り製品の製造方法について詳細に検討したところ、それらの製造方法では、中級又は低級グレード品質のすり身を使用した場合に、水産練り製品のゲル強度や弾力性を高めるには、まだ改善の余地があることを知見した。
【0006】
本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、高級グレード品質のすり身を使用した場合だけではなく、中級又は低級グレード品質のすり身を使用した場合であっても、ゲル強度や弾力性を高めることができる水産練り製品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、Brix10%未満の蛋白含有水溶液を、特定の条件で加熱処理することにより得られた大豆蛋白と、すり身とを混合することにより、ゲル強度や弾力性が高い水産練り製品を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]脱脂豆乳の酸沈処理を経て得られたカードを水に分散させた水分散液を中和して中和蛋白溶液を得る第1の工程と、前記中和蛋白溶液をそのBrixが10%未満の状態で加熱して被加熱蛋白溶液を得る第2の工程と、前記被加熱蛋白溶液を乾燥して大豆蛋白を得る第3の工程とを有する製造方法により得られた大豆蛋白と、すり身と、を混合する工程を有する、水産練り製品の製造方法。
[2]前記カードが、前記酸沈処理により得られた酸沈カードを更に水で洗浄して得られた水洗カードを含有する、[1]の水産練り製品の製造方法。
[3]前記第2の工程において前記中和蛋白溶液を110〜160℃の温度で0.5〜60秒間加熱する、[1]又は[2]の水産練り製品の製造方法。
[4]前記第2の工程において、前記中和蛋白溶液を直接蒸気で加熱する、[1]〜[3]のいずれか1つの水産練り製品の製造方法。
[5]前記中和蛋白溶液に生醤油を添加して醤油添加蛋白溶液を得る第4の工程を更に有し、前記第2の工程は、前記醤油添加蛋白溶液をそのBrixが10%未満の状態で加熱して前記被加熱蛋白溶液を得る工程である、[1]〜[4]のいずれか1つの水産練り製品の製造方法。
[6]前記混合する工程において、1000質量部の前記すり身と、10〜100質量部の前記大豆蛋白とを混合する、[1]〜[5]のいずれか1つの水産練り製品の製造方法。
[7][1]〜[6]のいずれか1つの水産練り製品の製造方法により得られた水産練り製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、高級グレード品質のすり身を使用した場合だけではなく、中級又は低級グレード品質のすり身を使用した場合であっても、ゲル強度や弾力性を高めることができる水産練り製品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の水産練り製品の製造方法の一例を示す概略的なフロー図である。
【図2】本発明の水産練り製品の製造方法の別の一例を示す概略的なフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0012】
本実施形態の水産練り製品の製造方法は、大豆蛋白とすり身とを混合する工程を有する。上記大豆蛋白の製造方法は、脱脂豆乳の酸沈処理を経て得られたカードを水に分散させた水分散液を中和して中和蛋白溶液を得る第1の工程と、上記中和蛋白溶液をそのBrixが10%未満の状態で加熱して被加熱蛋白溶液を得る第2の工程と、上記被加熱蛋白溶液を乾燥して大豆蛋白を得る第3の工程とを有するものである。以下、まずは、大豆蛋白の製造方法について詳述する。
【0013】
この製造方法では、まず、第1の工程において、脱脂豆乳の酸沈処理を経て得られたカードを水に分散させた水分散液を中和して中和蛋白溶液を得る。脱脂豆乳は、脱脂大豆から蛋白を抽出して蛋白抽出液を得る抽出工程と、蛋白抽出液を固液に分離しておからを除去し、上澄み液を脱脂豆乳として回収する豆乳回収工程とを経る通常の脱脂豆乳の製造方法により得られるものであれば、特に限定されない。
【0014】
脱脂大豆は、大豆から大豆油を除去して残った固形分であり、大豆の品種や産地は特に限定されない。脱脂大豆は、大豆の圧搾又は大豆からの大豆油の抽出により得られ、例えば、大豆に対してn−ヘキサンを抽出溶剤として60〜80℃の低温抽出処理を施すことにより得られる。脱脂大豆の窒素可溶係数(NSI)は、60以上であると好ましく、80以上であるとより好ましい。このような所謂低変性脱脂大豆を用いることで、所望の大豆蛋白を得やすくなる。
【0015】
抽出工程では、脱脂大豆と抽出溶媒とを混合した混合液を撹拌羽根などを用いて撹拌して、抽出溶媒側に蛋白を抽出して蛋白抽出液を得る。抽出溶媒としては、通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば水(常温水、温水)、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液などが挙げられる。その液温は10〜80℃、好ましくは20〜80℃、より好ましくは25℃〜60℃である。抽出溶媒は中性〜弱アルカリ性であると好ましく、具体的には、そのpHが6.0〜8.5であると好ましく、6.5〜8.0であるとより好ましい。ただし、抽出溶媒が弱酸性であっても用いることは可能である。これ以外の抽出工程における諸条件は、従来と同様であればよい。抽出溶媒の使用量は、通常採用される範囲であれば特に限定されず、例えば、脱脂大豆に対して質量基準で4〜15倍量であることが好ましい。
【0016】
上記混合液は、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等の還元剤を更に含んでもよい。これにより、大豆蛋白水溶液の粘度を更に低下させることが可能となり、作業性が一層向上する。混合液中の還元剤の含有量は、例えば、混合液の全質量に対して1〜300ppmであることが好ましい。
【0017】
次に、豆乳回収工程では、蛋白抽出液を固液に分離し、固形分であるおからを除去し、上澄み液である脱脂豆乳を回収する。蛋白抽出液の分離方法として、遠心分離、フィルタープレスなどのろ過法を用いることができるが、これらの中では、遠心分離が好ましい。
遠心分離において用いられる分離機としては、例えば、小型の連続遠心分離機である、冷却式連続遠心分離機(ロータータイプ)、デカンター連続式横型遠心分離機(以下、単に「デカンター連続遠心分離機」という。)、ディスク型連続遠心分離機が挙げられるが、これらに限定されない。これらの分離機の回転数など、分離の際の諸条件は適宜設定される。
【0018】
次いで、得られた脱脂豆乳を酸性条件に調節して酸沈処理により固液に分離し、上澄みであるホエーを除去すると共に、固形分である酸沈カード(水で洗浄をしていないカード)を回収する。ここで、酸性条件に調節する際、上記豆乳回収工程を経て得られた上澄み液の脱脂豆乳をそのまま酸性条件に調節してもよく、一旦乾燥させて得られた粉末状の脱脂豆乳を水などの溶媒に溶解すると共に酸性条件に調節してもよい。酸性条件は、pHが2.0〜6.5であると好ましく、4.0〜5.5であるとより好ましい。酸性条件に調節するには、脱脂豆乳に塩酸などの酸水溶液を所望のpHとなるように添加すればよい。
また、酸沈処理の際の脱脂豆乳の液温は、例えば15〜25℃であることが好ましい。
【0019】
酸沈処理は、酸水溶液の添加と共に脱脂豆乳を必要に応じて撹拌後、静置することによって行ってもよいが、脱脂豆乳を酸沈カードとホエーとに効率よく分離するために、遠心分離などの分離方法を用いてもよい。遠心分離を採用する場合に用いられる分離機としては、上記と同様のものを例示でき、それらの中ではデカンター連続遠心分離機が好ましい。遠心分離機を用いる場合、その回転数は1000〜10000rpmであると好ましく、1500〜8000rpmであるとより好ましく、3000〜8000rpmであると更に好ましい。また、その他の分離の際の諸条件は、適宜設定される。なお、酸沈処理の際に発生し得る発泡を抑制するために、シリコン等の消泡剤を脱脂豆乳に添加してもよい。
【0020】
第1の工程において用いるカードは、上記酸沈カードであってもよいが、得られる蛋白ゲルの透明度をより高めるためには、酸沈処理により得られた酸沈カードを更に水で洗浄して得られた水洗カードを用いることが好ましい。
酸沈カードを洗浄する場合、高効率で洗浄するために、酸沈カードを水中に分散して洗浄するのが好ましい。分散させる水の量は、ペースト状のカードの固形分質量に対して、3〜20倍量であると好ましく、4〜15倍量であるとより好ましく、5〜12倍量であると更に好ましい。これにより、酸沈カードを更に効率よく洗浄できると共に、水洗カードを回収する際の作業効率を高めることが可能となる。また、酸沈カードを洗浄するのに用いる水の温度は15〜70℃であると好ましく、15〜25℃であるとより好ましい。
この水の温度を15℃以上にすることにより、不純物をより有効に除去することができ、70℃以下にすることにより、蛋白の変性を防ぐという効果をより有効に奏することができる。
【0021】
水中に酸沈カードを分散して洗浄する場合、酸沈カードが分散した水をホモミキサー、ホモジナイザー等を用いて撹拌しながら洗浄するのが好ましい。ホモミキサーを用いる場合、その回転数は500〜12000rpmであると好ましく、500〜10000rpmであるとより好ましく、500〜8000rpmであると更に好ましい。また、撹拌時間は1〜30分間であると好ましく、5〜25分間であるとより好ましく、10〜15分間であると更に好ましい。回転数又は撹拌時間が上記下限値以上であると、カードを水により効率よく分散させることができ、その洗浄効果が一層高まり、蛋白ゲルの透明性がより向上する傾向にある。また、回転数又は撹拌時間が上記上限値以下であると、泡の発生を抑え、水洗カードを回収する際の作業効率を更に高めることができる傾向にある。
【0022】
次に、上述のように洗浄して得られた水洗カードを回収する。回収方法は、通常の固液分離方法を用いるものであれば特に限定されず、例えば連続遠心機を用いた遠心分離によって水洗カードと水とを分離して、水を除去することによって水洗カードを回収することができる。この場合、連続遠心機としてデカンター連続遠心分離機を用いると好ましいが、連続遠心機はこれに限定されない。遠心分離機を用いる場合、その回転数は1000〜10000rpmであると好ましく、1500〜8000rpmであるとより好ましく、3000〜8000rpmであると更に好ましい。
【0023】
第1の工程では、上述のカードを更に水中に分散した水分散液を中和して中和蛋白溶液を得る。カードを水中に分散する方法は、通常の中和前にカードを分散する方法であれば特に限定されず、必要に応じてホモミキサー等の分散機を用いてもよい。カードに対する水の量は、例えば、カードの固形分質量に対して3〜15倍量であることが好ましい。中和処理は、カードが分散した水中に、例えば水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加することによって行われる。この際、得られる中和蛋白溶液のpHが6.0〜8.0となるように中和処理を施すのが好ましく、そのpHはより好ましくは6.8〜7.8、更に好ましくは7.0〜7.4である。なお、第1の工程における中和時に、併せて中和蛋白溶液に水を添加してそのBrixを10%未満に調整してもよい。ここで、本明細書における溶液のBrixは、糖度計により測定された屈折率から算出することができ、上記糖度計としては、例えば、有限会社アタゴ社製のデジタル糖度計(商品名「PR−101α」)が挙げられる。
【0024】
次に、第2の工程において、中和蛋白溶液をそのBrixが10%未満の状態で加熱して被加熱蛋白溶液を得る。この第2の工程では、加熱により中和蛋白溶液を殺菌することができる。第1の工程を経て得られた中和蛋白溶液のBrixが10%未満である場合、その中和蛋白溶液をそのまま第2の工程に用いてもよく、水の添加により希釈して更にBrxを低下させてもよい。あるいは、第1の工程を経て得られた中和蛋白溶液のBrixが10%以上である場合、その中和蛋白溶液を水の添加により希釈して、そのBrixを10%未満に調整してから加熱する。このように中和蛋白溶液のBrixを10%未満に調整することにより、透明感を有する蛋白溶液を得ることができる。特に、中和蛋白溶液のBrixを10%未満に調整し、かつ後述の直接蒸気加熱を採用することにより、大豆蛋白の大豆臭を格別に低減することができる。また、その大豆蛋白を用いることで、透明度をより高めた蛋白ゲルを得ることができる。中和蛋白溶液のBrixは1%以上10%未満であると好ましく、3〜9.5%であるとより好ましく、4〜9.5%であると更に好ましい。そのBrixが1%未満であっても、本実施形態に係る大豆蛋白を製造することはできるが、製造コストの点から、Brixを1%以上にすることが好ましい。
【0025】
加熱方法は、中和蛋白溶液を直接水蒸気と接触させる直接蒸気加熱、あるいは、プレート式のヒーター等を用いて中和蛋白溶液を収容する容器を加熱する等の間接加熱のいずれであってもよい。ただし、蛋白ゲルの透明性を更に高めると共に、大豆蛋白の大豆臭を低減する観点から、直接蒸気加熱が好ましい。加熱温度は110〜160℃であると好ましく、130〜150℃であるとより好ましく、140〜150℃であると更に好ましい。
また、加熱時間は0.5〜60秒間であると好ましく、2〜30秒間であるとより好ましく、3〜15秒間であると更に好ましい。加熱温度が110℃以上であると、また、加熱時間が0.5秒間以上であると、蛋白ゲルの透明性を更に優れたものとすることができる。加熱温度が160℃以下であると、また、加熱時間が60秒間以下であると、より風味の良い大豆蛋白を得ることができる。
【0026】
なお、中和蛋白溶液にプロテアーゼなどの酵素類を更に添加してもよく、これにより、第2の工程において酵素反応を進行させることが可能となる。
【0027】
そして、第3の工程において、被加熱蛋白溶液を乾燥して大豆蛋白を得る。乾燥方法としては、通常の大豆蛋白を得るための乾燥方法であれば特に限定されず、例えば、被加熱蛋白溶液をスプレードライヤーによって噴霧する等の噴霧乾燥、凍結乾燥、加熱真空乾燥などを採用することができる。これらの中では、水分散性の高い粉末状の大豆蛋白を得ることができるという点から、噴霧乾燥が好ましい。上記スプレードライヤーを用いた噴霧乾燥の場合、スプレードライヤーの噴霧ノズル入口における乾燥空気等の熱風の温度(入口温度)は110〜200℃であると好ましく、115〜190℃であるとより好ましく、120〜185℃であると更に好ましい。また、噴霧後の熱風の温度(出口温度)は50〜100℃であると好ましく、55〜90℃であるとより好ましく、60〜85℃であると更に好ましい。
【0028】
また、第3の工程における被加熱蛋白溶液のBrixは10%未満であると好ましく、1%以上10%未満であるとより好ましく、2〜9.5%であると更に好ましく、3〜9.5%であると特に好ましく、5〜9.5%であると極めて好ましい。
【0029】
本実施形態に係る大豆蛋白の製造方法は、第1の工程の後に、第1の工程で得られた中和蛋白溶液に生醤油を添加して醤油添加蛋白溶液を得る第4の工程を更に有し、かつ、第2の工程が上記醤油添加蛋白溶液をそのBrixが10%未満の状態で加熱して上記被加熱蛋白溶液を得る工程であると好ましい。これにより、大豆蛋白溶液の粘度を更に低減することができる。また、醤油添加蛋白溶液をそのBrixが10%未満の状態で加熱するので、透明感を有する蛋白溶液を得ることができる。ここで、「生醤油」とは、醤油諸味又は醤油様発酵調味料から不溶性固形分を除去して得られた液体調味料を意味する。
【0030】
市販の醤油は通常、醤油諸味から不溶性固形分を除去して得られた生醤油を更に加熱(火入れ)し、生じた沈殿物(滓)を除去する工程を経て製造される。本実施形態に係る生醤油は、醤油諸味の不溶性固形分を除去してから火入れを行うまでの状態を指し、滓が生じない程度にまで加熱されたものをも含む。生醤油は、原料の大豆と小麦との比率、原料処理の方法、塩分濃度等の製法の違いによって種々のものがあるが、色沢や風味の異なるこいくち、うすくち、たまり、しろ、さいしこみ等が知られている。本実施形態に係る生醤油はこれらのいずれであってもよい。
【0031】
また、醤油諸味を醤油様発酵調味料の諸味に代え、その諸味から同様に不溶性固形分を除去して得られた生発酵分解調味液も本実施形態の生醤油に含まれる。醤油様発酵調味料としては、例えば、発酵分解調味液(植物由来原料に麹菌培養物を加えて発酵させたもの)、魚醤(魚介類を発酵、又は麹菌培養物を加えて発酵させたもの)、肉醤(蓄肉類を発酵、又は麹菌培養物を加えて発酵させたもの)が挙げられる。
これらの中でも、醤油諸味から得られる生醤油が好ましい。本実施形態において、生醤油は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0032】
生醤油を添加する中和蛋白溶液のBrixは1%以上20%未満であると好ましく、5%以上10%未満であるとより好ましい。生醤油の添加量は、得られる醤油添加蛋白溶液の全量に対して0.00001〜10質量%であると好ましく、0.001〜0.5質量%であるとより好ましい。生醤油の添加量が0.00001質量%以上であることにより、生醤油による上述の効果をより有効に発揮することができ、10質量%以下であることにより、醤油の風味や色が過剰に醤油添加蛋白溶液に付与されないという効果が得られる傾向にある。また、生醤油を中和蛋白溶液に添加した液を所定時間、所定温度で静置又は撹拌することが好ましい。その液を撹拌する場合、上記所定時間は6分間〜6時間であると好ましく、所定温度は5〜80℃であると好ましい。これにより、生醤油による上述の効果を更に有効に発揮することができる。
【0033】
本実施形態に係る大豆蛋白は、その固形分20質量%の3質量%食塩水溶液を80℃で30分間加熱した後に20℃まで冷却して得たゲルが、600〜1000gの破断応力を有すると好ましく、700〜900gの破断応力を有するとより好ましい。この破断応力が600g以上であると、蛋白ゲルのゲル強度をより高くすることができる。上記ゲルの破断応力は、テクスチャーアナライザー(例えば、Stable Micro Systems社製、商品名「TA XTPlus」)により測定される。その破断応力を上記数値範囲内に調節するには、上記還元剤を添加したり、その還元剤の添加量を調整したり、中和蛋白溶液又は醤油添加蛋白溶液のBrixを調整したり、上記第4の工程を経たり、そのときの生醤油の種類や混合量を調整したり、第2の工程における加熱温度や加熱時間を調整したり、直接蒸気加熱を選択したりすればよい。
【0034】
本実施形態に係る大豆蛋白は、その固形分20質量%の3質量%食塩水溶液を80℃で30分間加熱した後に20℃まで冷却して得たゲルが、900〜2000g・cmのゼリー強度を有するものであると好ましく、1000〜1800g・cmのゼリー強度を有するとより好ましい。このゼリー強度が900g・cm以上であると、蛋白ゲルのゲル強度をより高くすることができる。上記ゲルのゼリー強度は、テクスチャーアナライザー(例えば、Stable Micro Systems社製、商品名「TA XTPlus」)により測定される。そのゼリー強度を上記数値範囲内に調節するには、上記還元剤を添加したり、その還元剤の添加量を調整したり、中和蛋白溶液又は醤油添加蛋白溶液のBrixを調整したり、上記第4の工程を経たり、そのときの生醤油の種類や混合量を調整したり、第2の工程における加熱温度や加熱時間を調整したり、直接蒸気加熱を選択したりすればよい。
【0035】
本実施形態の水産練り製品の製造方法は、上述のようにして得られた大豆蛋白とすり身とを混合する工程(以下、「蛋白混合工程」という。)を有する。上記大豆蛋白は、粉末のまま、すり身に添加して混合してもよく、また、予め水と混合して得られる大豆蛋白カードとして、あるいは、予め水及び油と混合後、乳化する工程を経て得られるエマルジョンカードとして、すり身と混合してもよい。上記油としては、菜種油、大豆油等の植物油やラード等の動物油脂が挙げられる。
大豆蛋白カードとしては、大豆蛋白1質量部に対して、水が例えば3〜8質量部配合されたものを使用することができる。また、大豆蛋白カードには、上述のものに加えて、カルシウム等の凝固剤を配合することもできる。
エマルジョンカードとしては、大豆蛋白1質量部に対して、水が例えば4〜10質量部、油が例えば0.5〜5質量部配合されたものを使用することができる。また、エマルジョンカードには、上述のものに加えて、カルシウム等の凝固剤を配合することもできる。
【0036】
本実施形態に用いられるすり身としては、例えば、原料の魚介類からの採肉、水晒し、脱水、砕肉、必要に応じて添加物混合、成型及び冷凍等の各工程を経て製造されるものが用いられ、上記の各工程は公知の工程であってもよい。あるいは、そのすり身として、市販のすり身が用いられてもよい。市販のすり身としては、例えば、冷凍すり身が挙げられる。また、ショ糖、糖アルコール、トレハロース、リン酸塩、卵白、牛血清アルブミン等が添加されたすり身が用いられてもよい。
【0037】
すり身に用いられる魚種としては、例えば、スケソウダラ、イワシ(マイワシ、カタクチイワシ等)、ホッケ、イトヨリ、キンメダイ、ヒメジ、アマダイ、グチ、エソ、アジ、タチウオ、ハモ、トビウオ、サメ、ミナミダラ、ホキ、メルルーサ、パシフィックホワイティングが挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0038】
蛋白混合工程において、大豆蛋白の配合量は、すり身1000質量部に対して、10〜100質量部であることが好ましく、20〜80質量部であることがより好ましく、20〜50質量部であることが更に好ましい。
また、蛋白混合工程において、大豆蛋白をエマルジョンカードの状態ですり身と混合する場合、エマルジョンカードの配合量は、大豆蛋白の配合量が、すり身1000質量部に対して、10〜100質量部となる量であることが好ましく、20〜80質量部となる量であることがより好ましく、20〜50質量部となる量であることが更に好ましい。
【0039】
本実施形態の水産練り製品の製造方法は、蛋白混合工程に加えて、例えば、すり身の荒擂り工程、塩擂り工程、本擂り工程、成型工程、加熱工程、冷却工程など、従来の水産練り製品の製造方法に備えられる各工程を有することができる。加熱工程での加熱処理としては、蒸し加熱処理、焼き加熱処理、揚げ加熱処理、及び湯通し処理等の処理が挙げられ、これらの処理を複数併用して加熱処理することもできる。
【0040】
蛋白混合工程における大豆蛋白(エマルジョンカード)とすり身との混合は、荒擂り工程、塩擂り工程、及び本擂り工程のどの工程においても行うことができる。大豆蛋白をエマルジョンカードの状態で混合する場合、荒擂り工程で混合するのが好ましい。
【0041】
本実施形態の水産練り製品の製造方法は、更に、澱粉、カルシウム塩、えだ豆、タコ、イカ、ごぼう、ねぎ、たまねぎ、にんじん、しいたけ、昆布、コーン、ごま等の具材、及び/又は、乳化剤、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、酸化防止剤、トランスグルタミナーゼ、グルテン、卵白、食塩、糖類、糖アルコール、調味料、香辛料、着色料、保存料等の添加剤を、すり身、大豆蛋白、及びそれらのうちの少なくとも一方を含む擂り上がり品等の中間品からなる群より選ばれるものに添加する工程を有してもよい。乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸モノエステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、レシチンが挙げられる。
【0042】
上記具材及び/又は添加剤を添加する工程は、いずれのタイミングで行ってもよく、蛋白混合工程よりも前に行っても後に行ってもよく、蛋白混合工程と同時に行ってもよい。例えば、えだ豆等の具材を添加する場合、本擂り工程で得られる擂り上がり品に添加するのが好ましい。また、食塩を添加する場合、塩擂り工程において添加することが好ましい。さらに、澱粉、カルシウム塩、乳化剤、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、酸化防止剤、トランスグルタミナーゼ、グルテン、卵白、糖類、糖アルコール、調味料、香辛料、着色料、保存料等は、加熱工程の前に添加するのであればいつでもよく、具体的には、荒擂り工程、塩擂り工程、及び本擂り工程のどの工程において添加してもよい。
【0043】
本実施形態の水産練り製品は、本実施形態の水産練り製品の製造方法により得られたものであれば特に限定されず、例えば、本実施形態の水産練り製品として、かまぼこ、風味かまぼこ、ちくわ、さつま揚げ、魚肉ソーセージ、はんぺん、がんもどきが挙げられる。本実施形態の水産練り製品の製造方法は、水産練り製品の種類に応じて、その水産練り製品の製造に適した工程を採ることができる。
【0044】
以下、本実施形態の水産練り製品の製造方法の一例として、即蒸し処理を施したかまぼこの製造方法について、より詳細に説明する。まず、冷凍すり身を室温で半解凍し、真空カッターへ投入する。その真空カッターにより、すり身を荒擂りし、この段階で、水及び大豆蛋白をすり身に添加し、擂り上がり後の混合物の温度が1〜3℃になるまで擂潰する(蛋白混合工程、荒擂り工程)。次に、荒擂り後の混合物に食塩を添加し、擂り上がり後の混合物の温度が3〜8℃になるまで擂潰する(塩擂り工程)。次いで、塩擂り工程後の混合物に水を添加し、必要に応じて、澱粉、カルシウム塩、乳化剤、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、酸化防止剤、トランスグルタミナーゼ、グルテン、卵白、食塩、糖類、糖アルコール、調味料、香辛料、着色料、保存料等の添加剤を添加し、擂り上がり品の温度が10〜13℃になるまで減圧下で擂潰し(本擂り工程)、擂り上がり品を得る。
そして、得られた擂り上がり品を成型し(成型工程)、75〜130℃で30秒〜2時間加熱処理(蒸し加熱処理、焼き加熱処理、揚げ加熱処理、及び湯通し処理等)を施した(加熱工程)後、冷却して(冷却工程)、かまぼこを得る。
【0045】
また、本実施形態の水産練り製品の製造方法の別の一例として、低温坐り処理を施したかまぼこの製造方法について、より詳細に説明する。まず、冷凍すり身を室温で半解凍し、真空カッターへ投入する。その真空カッターにより、すり身を荒擂りし、この段階で、水及び大豆蛋白をすり身に添加し、擂り上がり後の混合物の温度が1〜3℃になるまで擂潰する(蛋白混合工程、荒擂り工程)。次に、荒擂り後の混合物に食塩を添加し、擂り上がり後の混合物の温度が3〜8℃になるまで擂潰する(塩擂り工程)。次いで、塩擂り工程後の混合物に水を添加し、必要に応じて、澱粉、カルシウム塩、乳化剤、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、酸化防止剤、トランスグルタミナーゼ、グルテン、卵白、食塩、糖類、糖アルコール、調味料、香辛料、着色料、保存料等の添加剤を添加し、擂り上がり品の温度が10〜13℃になるまで減圧下で擂潰し(本擂り工程)、擂り上がり品を得る。
そして、得られた擂り上がり品を成型し(成型工程)、5〜20℃で12〜16時間低温坐り処理を施し(低温坐り工程)、更に75〜130℃で30秒〜2時間加熱処理(蒸し加熱処理、焼き加熱処理、揚げ加熱処理、及び湯通し処理等)を施した(加熱工程)後、冷却して(冷却工程)、かまぼこを得る。
【0046】
本実施形態の水産練り製品の製造方法の更に別の一例として、高温坐り処理を施したかまぼこの製造方法について、より詳細に説明する。まず、冷凍すり身を室温で半解凍し、真空カッターへ投入する。その真空カッターにより、すり身を荒擂りし、この段階で、水及び大豆蛋白をすり身に添加し、擂り上がり後の混合物の温度が1〜3℃になるまで擂潰する(蛋白混合工程、荒擂り工程)。次に、荒擂り後の混合物に食塩を添加し、擂り上がり後の混合物の温度が3〜8℃になるまで減圧下で擂潰し、その後、更に水を添加して、混合物の温度が8〜10℃になるまでの減圧下で擂潰する(塩擂り工程)。次いで、塩擂り後の混合物に水を添加し、必要に応じて、澱粉、カルシウム塩、乳化剤、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、酸化防止剤、トランスグルタミナーゼ、グルテン、卵白、食塩、糖類、糖アルコール、調味料、香辛料、着色料、保存料等の添加剤を添加し、擂り上がり品の温度が10〜13℃になるまで減圧下で擂潰し(本擂り工程)、擂り上がり品を得る。
そして、得られた擂り上がり品を成型し(成型工程)、30〜45℃で5〜60分間高温坐り処理を施し(高温坐り工程)、更に75〜130℃で30秒〜2時間加熱処理(蒸し加熱処理、焼き加熱処理、揚げ加熱処理、及び湯通し処理等)を施した(加熱工程)後、冷却して(冷却工程)、かまぼこを得る。
【0047】
本実施形態によると、高級グレード品質のすり身を使用した場合だけではなく、中級又は低級グレード品質のすり身を使用した場合であっても、ゲル強度や弾力性を高めることができる水産練り製品及びその製造方法を提供することができる。その結果、得られる水産練り製品は、中級又は低級グレード品質のすり身を使用した場合であっても、良好な食感を示すことが可能となる。
【0048】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
〔製造例1〕大豆蛋白の製造
脱脂大豆に、その6倍量の水を加え、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを7.2に調整した後、蛋白を抽出した。抽出後、遠心分離により固形分であるおからを分離、除去し、上澄み液である脱脂豆乳を回収した。次いで、回収した脱脂豆乳に塩酸を添加してpH4.5に調整して酸沈処理を行い、酸沈カードを沈殿させた。酸沈カードが沈殿した液を遠心分離し、ペースト状の酸沈カードを回収した。
回収したペースト状の酸沈カードに、その8倍量の水を添加して酸沈カードを水中に分散した。次に、常温の下、ホモミキサーで15分間撹拌して酸沈カードを洗浄した。その後、遠心分離を行い、沈殿した水洗カード8kgを回収した。
次に、回収したペースト状の水洗カードに、その7.5倍量の水を添加し、ホモミキサーで撹拌した。その後、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを7.4に調整して中和蛋白溶液を得た。また、このpH調整を行う際に、中和蛋白溶液に水を更に添加することで、中和蛋白溶液のBrixを9.1%に調整した(以上、第1の工程)。
次に、Brix9.1%の中和蛋白溶液を145℃の水蒸気に3秒間直接接触させて加熱して、被加熱蛋白溶液を得た(第2の工程)。その後、被加熱蛋白溶液を冷却し、更に噴霧乾燥して、粉末状の大豆蛋白を得た(第3の工程)。
なお、溶液のBrixは、糖度計(有限会社アタゴ社製デジタル糖度計、商品名「PR−101α」)により測定された屈折率から算出した。
【0051】
〔製造例2〕大豆蛋白の製造
市販されている分離大豆蛋白の製造方法と同様に下記のようにして、大豆蛋白を得た。まず、脱脂大豆に、その8倍量の水を加え、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを7.2に調整した後、蛋白を抽出した。抽出後、遠心分離により固形分であるおからを分離、除去し、上澄み液である脱脂豆乳を回収した。次いで、回収した脱脂豆乳に塩酸を添加してpH4.5に調整して酸沈処理を行い、酸沈カードを沈殿させた。酸沈カードが沈殿した液を遠心分離し、ペースト状の酸沈カードを回収した。
次に、回収したペースト状の酸沈カードに、その約4倍量の水を添加し、撹拌した。その後、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを7.4に調整し、Brixが11〜13%の中和蛋白溶液を得た。
次に、Brix11〜13%の中和蛋白溶液を、直接加熱により約140℃で殺菌処理し、被加熱蛋白溶液を得た。その後、被加熱蛋白溶液を冷却し、更に噴霧乾燥して、粉末状の大豆蛋白を製造した。
【0052】
(大豆蛋白の物性の評価)
製造例1及び2において製造した粉末状の大豆蛋白について、蛋白含量、水分及びNSIを測定した。さらに、それらの大豆蛋白の固形分20質量%の3%食塩水溶液を加熱及び冷却して得られたゲルについて、破断応力、破断変形、ゼリー強度をそれぞれ測定した。測定方法等は下記のとおりある。
【0053】
(1)蛋白含量
大豆蛋白における蛋白含量は、大豆蛋白試料の全窒素分を、ケルダール法により定量し、大豆蛋白試料に対する百分率で表し、これに6.25を乗じて粗蛋白の含量とする方法で導出した。この方法は、JAS(社団法人日本農林規格協会)による植物性たん白の日本農林規格における植物たん白質含有率の測定法に準じたものである。
(2)水分
大豆蛋白における水分は、大豆蛋白試料を105℃の恒温槽中に4時間静置した後に、JAS(社団法人日本農林規格協会)による植物性たん白の日本農林規格における水分の測定法に準じて測定した。
(3)NSI
大豆蛋白におけるNSIは、大豆蛋白試料から40℃の水で抽出される窒素量を測定し、全窒素に対する百分率で示した。これは、日本油化学協会の基準油脂分析試験法に準じたものである。
【0054】
(4)ゲルの破断応力、破断変形、ゼリー強度
大豆蛋白の固形分20質量%の3質量%食塩水溶液を調製し、それをケーシング(株式会社クレハ製、クレハロンシームA08、55mm×300mm No.4)に充填した後、そのケーシング内の水溶液を80℃で30分間加熱し、さらに20℃まで冷却して蛋白ゲルを得た。
得られた蛋白ゲルの破断応力〔g〕及び破断変形〔cm〕を、Stable Micro Systems社製のテクスチャーアナライザーであるXTplus(商品名、XTPL15型、直径8mm球状プランジャー)を用いて20℃で測定した。それら破断応力及び破断変形の値の積をゼリー強度〔g・cm〕として算出して、ゲルの強度を評価した。
【0055】
大豆蛋白の物性の評価結果を表1に示す。
【表1】

【0056】
〔実施例1、比較例1〕ケーシングかまぼこ(即蒸し処理)の製造
表2に示す配合の即蒸し処理を施したケーシングかまぼこを、図1に示す製造フローに即して製造した。
具体的には、まず、スケソウダラの冷凍すり身(A級グレード)を室温で半解凍し、真空カッター(Stephan社製、商品名「Stephan Universal Machine UM−5」)の容器内へ投入した。次いで、その真空カッターによるすり身の荒擂りを開始すると共に、製造例1又は製造例2により得られた大豆蛋白と水とを混合した大豆蛋白カードを、真空カッターの容器内に添加した(1回目の添加)。荒擂りは、擂り上がり後の混合物の温度が1〜3℃になるまで約5分間行った(荒擂り工程、蛋白混合工程)。
次に、真空カッターの容器内に食塩を添加し、混合物の温度が8〜10℃になるまで約2分間擂潰した(塩擂り工程)。
次に、水を真空カッターの容器内に添加し(2回目の添加)、擂り上がり品の温度が10〜13℃になるまで減圧下で擂潰し(本擂り工程)、擂り上がり品を得た。
【0057】
次に、得られた擂り上がり品を、ケーシング(株式会社クレハ製、商品名「クレハロンシームA08」、55mm×300mm、No.4)に詰めて結束(成型工程)後、92℃で40分間加熱処理を施した(加熱工程)。その後、流水で冷却して(冷却工程)、ケーシングかまぼこを得た。
【0058】
【表2】

【0059】
〔実施例2、比較例2〕ケーシングかまぼこ(低温坐り処理)の製造
表2に示す配合の低温坐り処理を施したケーシングかまぼこを、図2に示す製造フローに即して製造した。
具体的には、まず、スケソウダラの冷凍すり身(A級グレード)を室温で半解凍し、真空カッター(Stephan社製、商品名「Stephan Universal Machine UM−5」)の容器内へ投入した。次いで、真空カッターによるすり身の荒擂りを開始すると共に、製造例1又は製造例2により得られた大豆蛋白と水とを混合した大豆蛋白カードを、真空カッターの容器内に添加した(1回目の添加)。荒擂りは、擂り上がり後の混合物の温度が1〜3℃になるまで約5分間行った(荒擂り工程、蛋白混合工程)。
次に、真空カッターの容器内に食塩を添加し、混合物の温度が8〜10℃になるまで約2分間擂潰した(塩擂り工程)。
次に、水を真空カッターの容器内に添加し(2回目の添加)、擂り上がり品の温度が10〜13℃になるまで減圧下で擂潰し(本擂り工程)、擂り上がり品を得た。
【0060】
次に、得られた擂り上がり品を、ケーシング(株式会社クレハ製、商品名「クレハロンシームA08」、55mm×300mm、No.4)に詰めて結束(成型工程)後、20℃で16時間低温坐り処理を施した(低温坐り工程)。その後、92℃で40分間の加熱処理を施した(加熱工程)。そして、流水で冷却し(冷却工程)、ケーシングかまぼこを得た。
【0061】
〔ケーシングかまぼこの物性評価〕
上述のようにして得られたケーシングかまぼこについて、破断応力〔g〕、破断変形〔cm〕を、Stable Micro Systems社製のテクスチャーアナライザーであるXTplus(商品名、XTPL15型、直径8mm球状プランジャー)を用いて20℃で測定した。それら破断応力及び破断変形の値の積をゼリー強度〔g・cm〕として算出して、ゲルの強度を評価した。
この方法により評価した物性評価結果を、表3及び4に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
表3から明らかなように、中級グレード(A級グレード)のすり身を使用し、即蒸し処理を施した場合であっても、本発明の製造方法により製造した実施例1のケーシングかまぼこは、比較例1のケーシングかまぼこ(分離大豆蛋白添加品)よりも、破断応力、破断変形及びゼリー強度の全てにおいて高い値を示した。
【0064】
【表4】

【0065】
表4から明らかなように、中級グレード(A級グレード)のすり身を使用し、低温坐り処理を施した場合であっても、本発明の製造方法により製造した実施例2のケーシングかまぼこは、比較例2のケーシングかまぼこ(分離大豆蛋白添加品)よりも、破断応力、破断変形及びゼリー強度の全てにおいて高い値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の水産練り製品の製造方法によると、水産練り製品のゲル強度や弾力性を高めることができるため、高級グレード品質のすり身を使用した場合だけではなく、中級又は低級グレード品質のすり身を使用した場合であっても、ゲル強度や弾力性を高めた水産練り製品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱脂豆乳の酸沈処理を経て得られたカードを水に分散させた水分散液を中和して中和蛋白溶液を得る第1の工程と、
前記中和蛋白溶液をそのBrixが10%未満の状態で加熱して被加熱蛋白溶液を得る第2の工程と、
前記被加熱蛋白溶液を乾燥して大豆蛋白を得る第3の工程と、
を有する製造方法により得られた大豆蛋白と、すり身と、を混合する工程を有する、水産練り製品の製造方法。
【請求項2】
前記カードが、前記酸沈処理により得られた酸沈カードを更に水で洗浄して得られた水洗カードを含有する、請求項1に記載の水産練り製品の製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程において前記中和蛋白溶液を110〜160℃の温度で0.5〜60秒間加熱する、請求項1又は2に記載の水産練り製品の製造方法。
【請求項4】
前記第2の工程において、前記中和蛋白溶液を直接蒸気で加熱する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水産練り製品の製造方法。
【請求項5】
前記中和蛋白溶液に生醤油を添加して醤油添加蛋白溶液を得る第4の工程を更に有し、前記第2の工程は、前記醤油添加蛋白溶液をそのBrixが10%未満の状態で加熱して前記被加熱蛋白溶液を得る工程である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の水産練り製品の製造方法。
【請求項6】
前記混合する工程において、1000質量部の前記すり身と、10〜100質量部の前記大豆蛋白と、を混合する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水産練り製品の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の水産練り製品の製造方法により得られた水産練り製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−254703(P2011−254703A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129117(P2010−129117)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】