説明

水産練り製品用品質改良剤

【課題】水産練り製品の物性を改良することができる水産練り製品用品質改良剤を提供すること。
【解決手段】β−アミラーゼおよびトランスグルタミナーゼを含有することを特徴とする水産練り製品用品質改良剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚肉すり身を用いる水産練り製品の品質改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、かまぼこやちくわなどの水産練り製品は、魚肉のすり身を用いて製造され、得られた水産練り製品は、適度な硬さとぷりぷりとした弾力が好まれている。この適度な硬さとぷりぷりとした弾力を得る為には、水産練り製品に適した魚肉のすり身を用いる必要があるが、近年では漁獲資源不足や種々の制限により水産練り製品に適した魚肉のすり身が入手困難となってきている。そこで他魚種のすり身を有効活用すると共に、水産練り製品製造時に弾力増強剤などの品質改良剤を用いて水産練り製品の硬さや歯切れを調整して水産練り製品を製造している。
【0003】
水産練り製品の品質改善を目的とした従来技術としては、澱粉を使用した水産練製品の製造時に、β−アミラーゼを、力価17000AuN/g として澱粉に対して 0.1〜2%添加する事を特徴とする水産練製品の品質改良法(特許文献1参照)、トランスグルタミナーゼ、アルカリ金属塩および食品用賦形剤の3者を併用して品質を向上させることを特徴とする水産練り製品の製造法であって、 食品用賦形剤がリン酸化架橋または酢酸架橋処理を行なった化工澱粉であることを特徴とする水産練り製品の製造法(特許文献2参照)などが開示されている。しかし、今までに開示されている従来技術では一長一短があり、必ずしも満足できないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−70721号公報
【特許文献2】特開平8−80176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、水産練り製品の物性を改良することができる水産練り製品用品質改良剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、β−アミラーゼおよびトランスグルタミナーゼを併用することにより上記課題を解決すること見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、β−アミラーゼおよびトランスグルタミナーゼを含有することを特徴とする水産練り製品用品質改良剤、からなっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水産練り製品用品質改良剤を水産練り製品に添加することにより、適度な硬さと弾力に富んだ水産練り製品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いられるβ−アミラーゼは、食品加工用に市販されている品質のものであれば特に制限はない。β−アミラーゼの市販品としては、例えばβ-アミラーゼ#1500S(ナガセケムテックス社)、β−アミラーゼ(東京化成工業社製)などが挙げられる。
【0009】
本発明で用いられるトランスグルタミナーゼは、タンパク質のグルタミン残基とリジン残基を架橋する酵素であり、その架橋機能を有する限り、その起源を特に問わず、例えば微生物由来のもの、モルモットなどの哺乳動物由来のもの、タラなどの魚類由来のもの、バイオテクノロジーを利用して遺伝子組換法によって得られるものなどを用いることができる。この内、カルシウムが無くても作用することおよび大量に入手できることなどの理由から微生物由来のトランスグルタミナーゼを用いるのが好ましい。トランスグルタミナーゼの市販品としては、例えばアクティバTG−K(製品名;味の素社製、活性単位78〜126U/g)、アクティバTG−AK(製品名;味の素社製、活性単位46〜76U/g)などが挙げられる。
【0010】
上記トランスグルタミナーゼの活性単位は、次のように測定され、かつ、定義される。すなわち、温度37℃、pH6.0のトリス緩衝液中、ベンジルオキシカルボニル−L−グルタミルグリシン及びヒドロキシルアミンを基質とする反応系で、トランスグルタミナーゼを作用させ、生成したヒドロキサム酸をトリクロロ酢酸存在下で鉄錯体を形成させた後、525nmにおける吸光度を測定し、ヒドロキサム酸量を検量線により求め、1分間に1μモルのヒドロキサム酸を生成させた酵素を1ユニット(1U)とする(特開平1−27471号明細書記載参照)。
【0011】
本発明の水産練り製品用品質改良剤に配合されるβ―アミラーゼおよびトランスグルタミナーゼの量に特に制限はないが、例えば、水産練り製品用品質改良剤100質量部中の配合量は、β−アミラーゼは力価15000AuN/g(1AuN/gは試料1gにおいて40℃、10分間の反応で1mgのグルコースに相当する還元力を生成するに要する量)として約0.1〜99.9質量部、好ましくは約1〜99質量部であり、トランスグルタミナーゼは活性単位60U/gとして約0.1〜99.9質量部、好ましくは約1〜99質量部である。
【0012】
本発明の水産練り製品用品質改良剤には、本発明の目的を阻害しない範囲で他の任意の成分が含んでも良く、動植物性蛋白、増粘安定剤、糖類、でん粉、酵素、塩類などを配合することができる。
【0013】
動植物性蛋白としては、動植物由来で食用可能なタンパク質であればよく、例えば、粉末卵白、乳蛋白、カゼイン、ゼラチン、血漿蛋白などの動物性蛋白質や、大豆蛋白、小麦蛋白、えんどう蛋白、とうもろこし蛋白などの植物性蛋白質が挙げられる。
【0014】
増粘安定剤としては、例えば、アラビアガム、アルギン酸および/またはその塩、カシアガム、ガティガム、カラギナン、カラヤガム、キサンタンガム、キチン、キトサン、グアーガム、サイリウムシードガム、ジェランガム、タマリンドシードガム、デキストラン、トラガントガム、ファーセレラン、プルラン、ペクチンまたはローカストビーンガムなどが挙げられる。
【0015】
糖類としては、例えば、ブドウ糖、果糖、ガラクトースなどの単糖、ショ糖、乳糖、麦芽糖などの二糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、シクロデキストリンなどのオリゴ糖類、デキストリン、粉末水飴などの澱粉分解物、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、粉末還元水飴、粉末還元パラチノースなどの糖アルコール類などが挙げられる。
【0016】
でん粉としては、例えばタピオカでん粉、コーンスターチ、馬鈴薯でん粉、甘薯でん粉、小麦でん粉、コメでん粉、サゴでん粉およびそれらの加工澱粉などが挙げられ。
【0017】
酵素としては、リジルオキシダーゼ、グルコアミラーゼ、α-グルコシダーゼなどが挙げられる。
【0018】
塩類としては、リン酸三ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、焼成カルシウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
【0019】
本発明の水産練り製品用品質改良剤の製造方法に特に制限はなく、β−アミラーゼおよびトランスグルタミナーゼと、所望により動植物性蛋白、増粘安定剤、糖類、でん粉、酵素、塩類などを常法により混合することで水産練り製品用品質改良剤が得られる。
【0020】
本発明の水産練り製品用品質改良剤は、水産練り製品に用いることができる。ここで水産練り製品とは、魚肉に食塩を加えてすり潰した後に加熱凝固させたものであり、例えばかまぼこ、ちくわ、さつま揚げ、なると、魚肉ソーセージなどが挙げられる。
【0021】
本発明の水産練り製品用品質改良剤の水産練り製品への添加方法は、特に限定されず、例えば魚肉すり身、または魚肉すり身と副原料に添加することができる。水産練り製品用品質改良剤と魚肉すり身または魚肉すり身と副原料は、混合して用いることが好ましい。
【0022】
上記魚肉すり身に用いられる魚類としては、例えば、スケソウタラ、グチ、パシフィックホワイティング、タチウオ、キントキダイ、イトヨリダイ、ヒメジ、エソ、ヒレコダイ、ホッケなどが挙げられる。その中でもスケソウタラを用いた水産練り製品よりゲル強度が弱くなるイトヨリダイ、ヒメジ、エソ、ヒレコダイ、ホッケなどを用いることにより顕著な効果が得られる。
【0023】
上記副原料としては、例えば、動植物性蛋白、増粘安定剤、糖類、でん粉、酵素、調味料(アミノ酸、有機酸、発酵調味料、魚介エキスなど)、食用油脂、塩類などが挙げられる。
【0024】
本発明の水産練り製品用改良剤の魚肉すり身への添加量は、魚肉すり身に対し、約0.001〜10.0質量%、好ましくは約0.01〜2.0質量%添加するのが好ましい。
【0025】
水産練り製品用品質改良剤を添加した魚肉すり身または魚肉すり身と副原料は、練り合わせて最終商品の形態に合わせて成形し、所望により座り工程をとった後、蒸煮、焙焼、湯煮、油ちょうなどの加熱をすることにより水産練り製品が得られる。
【0026】
斯くして得られた水産練り製品は、硬さや弾力に優れており、用いられるすり身の魚種がスケソウタラを用いた水産練り製品よりゲル強度が弱くなるイトヨリダイ、グチ、エソ、ヒレコダイ、ヒメジ、ホッケ、タチウオなどを原料とした水練り製品に特に効果的である。また、坐り工程が充分に取れないちくわ、さつま揚げ、かにかまぼこの製造にとりわけ有効である。
【0027】
以下に本発明を実施例で説明するが、これは本発明を単に説明するだけのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0028】
<水産練り製品用品質改良剤の作製>
(1)原材料
β−アミラーゼ(商品名:β-アミラーゼ#1500S;ナガセケムテックス社製 酵素の力価15310AuN/g)
トランスグルタミナーゼ(商品名:アクティバTG−AK;味の素社製 活性単位60U/g)
コーンスターチ(商品名:コーンスターチCD−YNGM;王子コーンスターチ社製)
【0029】
(2)水産練り製品用品質改良剤の配合
上記原材料を用いて作製した水産練り製品用品質改良剤の配合組成を表1に示した。
【0030】
【表1】

【0031】
(3)水産練り製品用品質改良剤の作製
表1に示した配合に基づいて各原材料の1/2量を混合し水産練り製品用品質改良剤(実施例品1、2、比較例品1〜4)を作製した。尚、混合はビニール袋に各原材料を入れ2分間混合しておこなった。各試料の1回の作製量は50gである。
【0032】
<水産練り製品用品質改良剤の評価1>
得られた水産練り製品用品質改良剤を用いてケーシングかまぼこを作製し、得られたケーシングかまぼこの官能評価および破断エネルギーを測定し、水産練り製品用品質改良剤を評価した。
(1)ケーシングかまぼこ用原材料
冷凍すり身(イトヨリダイ)(商品名:冷凍すり身 イトヨリA インド産; GADRE MARINE EXPORT PVT社製)
食塩(製品名:新精塩;日本海水社製)
【0033】
(2)ケーシングかまぼこ用生地の配合
上記かまぼこ用原材料と水産練り製品用品質改良剤(実施例品1、2、比較例品1〜4)を用いて作製したかまぼこ用生地の配合組成を表2に示した。
【0034】
【表2】

【0035】
(3)ケーシングかまぼこの作製
[試作1〜7:イトヨリダイ]
表2に示した配合に基づき下記方法にてかまぼこ生地を作製し、ケーシングかまぼこを作製した。尚、かまぼこ用生地の1回の作製量は表2の配合の2倍の質量(g)である。
冷凍すり身(イトヨリダイ)を−5℃に調温後、フードプロセッサー(型式:MK−K48;パナソニック社製)にて粗ずりを行い、その後、食塩と水産練り製品用品質改良剤(実施例品1〜2、比較例品1〜4)、または食塩のみを加え1分間塩ずりを行った。次いで氷水を加え、10℃になるまで本ずりを行った。本ずり後、混合物をビニール袋にとり、真空包装機(型式:V−380G;東静電気社製)で脱気を行いかまぼこ用生地を作製した。かまぼこ用生地約240gを直ちにそれぞれ直径約20mmの塩化ビニリデンのケーシングに充填した。座り工程を取らずに充填後すぐに蒸煮釜(形式:ESH−40HC型;アイディー技研社製)を用いて95℃45分間蒸煮し、蒸煮終了後氷水中で30分間冷却し、ケーシングかまぼこ(試作品1〜7)を得た。
【0036】
(4)官能評価の方法
得られたケーシングかまぼこ(試作品1〜7)の食感(硬さおよび弾力)についての官能評価を、下記表3に示す評価基準に従い10名のパネラーでおこなった。また、結果はそれぞれ10名の評価点の平均値として求め、下記基準にて記号化した。結果を表4に示す。

記号化
◎: 平均値2.5以上
〇: 平均値2.0以上2.5未満
△: 平均値1.5以上2.0未満
×: 平均値1.5未満
【0037】
【表3】

【0038】
(5)物性測定による評価
得られたケーシングかまぼこ(試作品1〜7)を厚さ2cmの輪切りにカットし、クリープメーター(型式:RE2−33−5S;山電社製)にて、プランジャースピード1mm/秒、直径5mmの円柱状のプランジャー使用の条件で破断エネルギーを10回測定しその平均値を求めた。破断エネルギーの値が高いほどケーシングかまぼこの硬さおよび弾力が強いことを示す。測定結果を表4に示す。
【0039】
【表4】

結果より、実施例品を用いた試作品の食感は、適度な硬さ、ぷりぷりとした適度な弾力があった。また、実施例品を用いた試作品の破断エネルギーは、無添加品、比較例品を用いた試作品と比較し、顕著に高い数値を示した。一方、比較例品を用いたケーシングかまぼこの食感は、適度な硬さがなく、弾力が弱かった。
【0040】
<水産練り製品用品質改良剤の評価2>
表2の冷凍すり身(イトヨリダイ)を魚種の異なる冷凍すり身に替えてケーシングかまぼこを作製し、得られたケーシングかまぼこの官能評価を行い、水産練り製品用品質改良剤を評価した。
(1)ケーシングかまぼこの作製
[試作8〜14:グチ]
「試作1〜7」の冷凍すり身(イトヨリダイ)を冷凍すり身(グチ)(商品名:冷凍すり身 グチ ミャンマー産;PYILONECHANTHA TRADING社製)に替えた以外は同様に操作を行い、ケーシングかまぼこ(試作品8〜14)を得た。
【0041】
[試作15〜21:ヒレコダイ]
「試作1〜7」の冷凍すり身(イトヨリダイ)を冷凍すり身(ヒレコダイ)(商品名:冷凍すり身 ヒレコダイ 中国産;龍生水産製品社製)に替えた以外は同様に操作を行い、ケーシングかまぼこ(試作品15〜21)を得た。
【0042】
[試作22〜28:エソ]
「試作1〜7」の冷凍すり身(イトヨリダイ)を冷凍すり身(エソ)(商品名:冷凍すり身 エソ タイ産;TRANG SURE社製)に替えた以外は同様に操作を行い、ケーシングかまぼこ(試作品22〜28)を得た。
【0043】
[試作29〜35:ホッケ]
「試作1〜7」の冷凍すり身(イトヨリダイ)を冷凍すり身(ホッケ)(商品名:冷凍すり身 ホッケ 日本産;広瀬水産社製)に替えた以外は同様に操作を行い、ケーシングかまぼこ(試作品29〜35)を得た。
【0044】
(2)官能評価の方法
「水産練り製品用品質改良剤の評価1、(4)官能評価の方法」に記載の方法で官能評価を行なった。結果を表5に示す。
【0045】
【表5】

結果より、いずれの魚種のすり身であっても、実施例品を用いた試作品の食感は、適度な硬さ、ぷりぷりとした適度な弾力があった。一方、比較例品を用いたケーシングかまぼこの食感は、適度な硬さがなく、弾力が弱かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−アミラーゼおよびトランスグルタミナーゼを含有することを特徴とする水産練り製品用品質改良剤。

【公開番号】特開2013−70665(P2013−70665A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212072(P2011−212072)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】