説明

水硬性組成物用添加剤の製造方法

【課題】単量体成分としてアクリル酸エステルを含む重合体からなる水硬性組成物用添加剤を再現性よく、しかも、安定して工業的に量産できる製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される化合物Aを含む単量体と、メルカプト基を有する連鎖移動剤Bと、過硫酸塩を含む重合開始剤Cとを反応容器内に供給し重合反応する際に、単量体中、化合物Aの割合を50〜100モル%とし、化合物Aと連鎖移動剤Bとの反応容器内に供給されるまでの接触時間を2時間以内とし、互いに接触状態にある化合物Aと連鎖移動剤Bの温度を15〜90℃とし、水硬性組成物用添加剤の製造に用いる全原材料に対して、単量体の量を50重量%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用添加剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水硬性組成物には従来、種々の混和剤が添加されており、例えば、水硬性組成物の流動性を向上させる目的で、ポリカルボン酸塩等の高分子化合物が使用されている。ポリカルボン酸塩等の高分子化合物は、例えば(メタ)アクリル酸等のカルボン酸基を有する単量体とその他の単量体との共重合により製造される。そして、この共重合の際には重合開始剤や連鎖移動剤等が用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリカルボン酸系のセメント添加剤を、再現性よく、しかも、安定して工業的に量産できる製造方法として、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体と(メタ)アクリル酸系単量体を必須成分とするモノマー成分と連鎖移動剤とを同時に水を含む溶液に添加し、前記モノマー成分を重合させる際の連鎖移動剤の添加時期を調整する技術が開示されている。そして、特許文献1ではメルカプト基を有する連鎖移動剤と単量体とを配管中等で混合し反応容器に添加することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、セメント組成物等のスランプ保持性を優れたものとして流動性が保持されるようにするとともに、セメント組成物等を取り扱う現場において作業しやすくなるような粘性とすることを課題として、ポリオキシアルキレン基を有するエチレン系単量体と不飽和有機酸系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体を必須とし、ポリオキシアルキレン基を有するエチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体とのモル比を重合中に変化させる技術が開示されている。当該モル比を変化させる具体的な方法として、特許文献2の製造例では、ポリオキシアルキレン基を有するエチレン系単量体とメルカプト基を有する連鎖移動剤とを含有するモノマー水溶液と、ヒドロキシエチルアクリレートとを、別々に滴下して反応装置内に導入する方法を開示している。
【0005】
また、特許文献3には、ポリカルボン酸系水溶性共重合体の製造方法において、重合工程中に滴下する単独重合性のある単量体水溶液の濃度と、水溶性共重合体水溶液の粘度と、水溶性共重合体組成物中の単独重合性のある単量体成分の含有量の積とを、特定の関係として重合する技術が開示されている。そして、特許文献3の製造例では、アクリル酸とアクリル酸2−ヒドロキシエチルと水とからなる30質量%の単量体水溶液を調製し、前記単量体水溶液と過硫酸ナトリウム水溶液と2−メルカプトエタノール水溶液とを別々に滴下して反応装置内に導入している。
【0006】
【特許文献1】特開2000−159555号公報
【特許文献2】特開2005−330129号公報
【特許文献3】特開2008−13626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、単量体成分としてアクリル酸エステルを含む場合、製造条件によって分子量が変動する場合があることがわかった。すなわち、例えば、実験室レベルの小規模な検討では分子量の変動がなく安定に共重合体を製造できたものが、工業的な生産スケールにスケールアップすると、得られる共重合体の分子量が目標値よりも大きくなる場合があることがわかった。
【0008】
本発明は、単量体成分としてアクリル酸エステルを含む重合体からなる水硬性組成物用添加剤を所望の分子量で再現性よく、しかも、安定して工業的に量産できる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一般式(1)で表される化合物Aを含む単量体と、メルカプト基を有する連鎖移動剤Bと、過硫酸塩を含む重合開始剤Cとを反応容器内に供給し重合反応する工程を有する、水硬性組成物用添加剤の製造方法であって、
単量体中、化合物Aの割合が50〜100モル%であり、
反応容器内に供給されるまでの化合物Aと連鎖移動剤Bの接触時間が2時間以内であり、
互いに接触状態にある化合物Aと連鎖移動剤Bの温度が15〜90℃であり、
水硬性組成物用添加剤の製造に用いる全原材料に対して、単量体の量が50重量%以下である、
水硬性組成物用添加剤の製造方法に関する。
【0010】
【化2】

【0011】
〔式中、R1は、ヘテロ原子を含んでよい炭素数1〜8の炭化水素基である。〕
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、単量体成分としてアクリル酸エステルを含む重合体からなる水硬性組成物用添加剤を再現性よく、しかも、安定して工業的に量産できる製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の水硬性組成物用添加剤の製造方法では、好ましい態様の一つとして、特定のアクリル酸エステル(化合物A)とメルカプト基を有する連鎖移動剤とを貯蔵槽内で混合させることなく、反応容器内に供給する。アクリル酸エステルとメルカプト基を有する連鎖移動剤とを混合した溶液を調製し、反応容器内に供給して重合を行うと、得られる重合体〔共重合体も含む、以下同様〕の分子量が所望の値よりも大きくなる場合があることが判明した。この現象は、単量体や連鎖移動剤を含む混合溶液を比較的速やかに反応に供することができる実験室での重合のように小さいスケールの重合ではほとんど問題とならず、一方で、混合溶液を放置してから反応に用いる場合や、工業的な重合のように大きいスケールの重合で確認された。このことから、本発明では、アクリル酸エステルとメルカプト基を有する連鎖移動剤の反応前の接触状態に着目し、所定の接触時間、接触温度に制御することで、反応スケールにかかわらず再現性よく所望の分子量の重合体が得られることを見出したものである。この理由としては、アクリル酸エステルとメルカプト基を有する連鎖移動剤とを混合し、混合された状態で時間が経過した結果、アクリル酸エステルのβ位の炭素と連鎖移動剤のメルカプト基の反応が進行し、連鎖移動剤が失活したと推定される。なお、メタクリル酸エステルを単量体成分として用いる場合には、メタクリル酸エステルと連鎖移動剤との反応前の接触時間の相違による分子量の変動は生じないが、これは、α位の炭素にメチル基を有するメタクリル酸エステルでは、その立体構造や電子密度の違いから連鎖移動剤の失活が生じないためと推定される。
【0014】
本発明では、一般式(1)で表される化合物Aを含む単量体が用いられる。化合物Aは、2−ヒドロキシエチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルアクリレート等が挙げられ、水硬性組成物用添加剤としての流動保持性能の観点から、2−ヒドロキシエチルアクリレートが好ましい。
【0015】
また、化合物A以外の単量体としては、一般式(2)で表される単量体〔以下、単量体2という〕が挙げられる。
【0016】
【化3】

【0017】
〔式中、R21、R22は、それぞれ水素原子又はメチル基、R23は水素原子又は-(CH2)q(CO)pO(AO)r24、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基又はオキシスチレン基、pは0又は1の数、qは0〜2の数、rはAOの平均付加モル数であり、3〜300の数、R24は水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を表す。〕
【0018】
単量体2において、一般式(2)中のR21、R22は、それぞれ水素原子又はメチル基である。R23は水素原子又は-(CH2)q(CO)pO(AO)r24であり、水素原子が好ましい。一般式(2)のアルケニル〔(R21)(R23)C=C(R22)−(CH2)q−〕として、ビニル基、アリル基、メタリル基等が挙げられる。pが0の場合はAOは(CH2)qとエーテル結合、pが1の場合はエステル結合をする。qは0〜2であり、好ましくは0又は1であり、更に好ましくは0である。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基又はオキシスチレン基であり、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基が好ましく、エチレンオキシ基を含むことがより好ましく、EO基が70モル%以上、更に80モル%以上、更に90モル%以上、特に全AOがEO基であることが好ましい。rはAOの平均付加モル数であり、3〜300の数であり、好ましくは5〜120である。また、平均r個の繰り返し単位中にAOが異なるもので、ランダム付加又はブロック付加又はこれらの混在を含むものであっても良い。例えばAOは、EO基以外にもプロピレンオキシ基等を含むこともできる。単量体2は、p=1でq=0の化合物が好ましい。また、p=0のとき、q=1が好ましい。
【0019】
本発明により製造される重合体の水硬性組成物用添加剤としての性能のうち、水硬性組成物の初期強度と流動保持性をより高く発現する観点では、一般式(2)中のrは50〜300が好ましく、さらに110〜300が好ましく、重合性からrは200以下、更に150以下、より更に130以下が好ましいので、総合的な観点から、rとしては110〜200、更に110〜150、より更に110〜130が好ましい。また、コンクリート等、水硬性組成物の粘性を更に低くする観点から、一般式(2)中のrは3〜100が好ましく、3〜50がより好ましい。
【0020】
24は水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基であり、更に1〜12、更に1〜4、更に1、2のアルキル基が好ましく、より更にメチル基が好ましい。
【0021】
単量体2としては、メトキシポリエチレングリコール、メトキシポリプロピレングリコール、メトキシポリブチレングリコール、メトキシポリスチレングリコール、エトキシポリエチレンポリプロピレングリコール等の片末端アルキル封鎖ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸、マレイン酸との(ハーフ)エステル化物や、(メタ)アリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オールとのエーテル化物、及び(メタ)アクリル酸、マレイン酸、(メタ)アリルアルコールへの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物が好ましく用いられる。
【0022】
より好ましくはアルコキシ、中でもメトキシポリエチレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物である。具体的には、ω−メトキシポリオキシアルキレンメタクリル酸エステル、ω−メトキシポリオキシアルキレンアクリル酸エステル等を挙げることができ、ω−メトキシポリオキシアルキレンメタクリル酸エステルがより好ましい。
【0023】
また、その他の単量体として、一般式(3)で表される単量体〔以下、単量体3という〕が挙げられる。
【0024】
【化4】

【0025】
〔式中、R31、R32、R33は、それぞれ水素原子、メチル基又は(CH2)sCOOM2であり、(CH2)sCOOM2はCOOM1又は他の(CH2)sCOOM2と無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM1、M2は存在しない。sは0〜2の数を表す。M1、M2は、それぞれ水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、置換アルキルアンモニウム基、アルキル基、又はアルケニル基を表す。〕
【0026】
単量体3において、一般式(3)中のR31、R32、R33は、それぞれ水素原子、メチル基又は(CH2)sCOOM2であり、(CH2)sCOOM2はCOOM1又は他の(CH2)sCOOM2と無水物を形成していてもよい。その場合、それらの基のM1、M2は存在しない。sは0〜2の数を表す。R31は水素原子が好ましく、R32はメチル基が好ましい。R33は水素原子又は(CH2)sCOOM2が好ましい。
【0027】
1、M2は、それぞれ水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、置換アルキルアンモニウム基、アルキル基、又はアルケニル基である。M1、M2は、それぞれ水素原子、アルカリ金属が好ましい。アルカリ土類金属の「1/2原子」とは、2価であるうちの1価がM1、M2に用いられることを表す。
【0028】
単量体3としては、具体的には、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸系単量体、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のジカルボン酸系単量体、又はこれらの無水物もしくは塩(例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、水酸基が置換されていてもよいモノ、ジ、トリアルキル(炭素数2〜8)アンモニウム塩)が挙げられ、好ましくは(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、更に好ましくは(メタ)アクリル酸又はこれらのアルカリ金属塩である。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸の意味である(以下同様)。
【0029】
更に、化合物A、単量体2、単量体3の他に、少なくとも化合物Aと共重合可能なその他の単量体を用いることもできる。共重合可能な他の単量体としては、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スルホエチルメタクリレートこれら何れかのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩(1/2原子)、アンモニウム塩、又はアミン塩、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、2−(メタ)アクリルアミド−2−メタスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−エタンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−プロパンスルホン酸、スチレン、スチレンスルホン酸などが挙げられる。更に、特許第3336456号公報に記載の如くポリアルキレンポリアミンと二塩基酸または二塩基酸と炭素原子数1ないし4の低級アルコールとのエステルと、アクリル酸もしくはメタクリル酸またはアクリル酸もしくはメタクリル酸と炭素原子数1ないし4の低級アルコールとのエステルを縮合させて得られたポリアマイドポリアミンのアミノ残基に対して炭素原子数2ないし4のアルキレンオキサイドを付加して成るポリアマイドポリアミン系単量体、特開2004−2174号公報に記載の如くポリアルキレンポリアミンと二塩基酸及び/又は二塩基酸と炭素数1〜4のアルコールとのエステル、並びに(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸と炭素数1〜4のアルコールとのエステルを反応させて得られる不飽和結合を有するポリアミドポリアミンのアミノ残基及びイミノ基に対して炭素数2〜4のアルキレンオキシドを付加して成るポリアミドポリアミン系単量体、特開2003−335563号公報に記載の如くアミンアルキレンオキシド付加物単量体、特開2004−342050号公報に記載の如くポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物単量体、特開2004−67934号公報に記載の如くポリ(ポリオキシアルキレン)系不飽和単量体等が挙げられる。
【0030】
本発明では、重合体の製造に用いる単量体中、化合物Aの割合が50〜100モル%であり、好ましくは60〜100モル%、更に好ましくは70〜100モル%である。一般に化合物Aの割合が大きくなると、連鎖移動剤Bの失活速度が大きくなり、分子量が大きくなる傾向を示すが、本発明では化合物Aのモル%が上記範囲でも分子量の増大を引き起こさない。また、単量体としては、化合物Aの他に、単量体2を単量体中0〜50モル%、更に0〜40モル%、より更に0〜30モル%の割合で含むことが流動保持性発現の観点から好ましい。
【0031】
また本発明に係る水硬性組成物用添加剤は公知のセメント分散剤と併用することが出来るが、カルボン酸基、リン酸基及びそれらの中和基を有する分散剤と併用する場合、化合物Aの他に、単量体2を単量体中0〜50モル%、更に5〜40モル%、より更に10〜30モル%の割合で含むことが流動保持性発現の観点から好ましい。スルホン酸基及びそれらの中和基を有する分散剤と併用する場合、化合物Aの他に、単量体2を単量体中0〜50モル%、更に0〜40モル%、より更に0〜30モル%、更に0〜20モル%の割合で含むことが流動保持性発現の観点から好ましい。
【0032】
また、化合物Aと単量体2の合計量が単量体中90〜100モル%、更に95〜100モル%、実質100モル%の割合であることが、水硬性組成物の調製直後には流動性を付与せず、時間の経過とともに流動性を付与する観点から好ましい。また、化合物Aと単量体2の合計量が単量体中50〜90モル%、更に50〜70モル%の割合であることが、水硬性組成物の調製直後から流動性を付与し、時間が経過しても流動性を保持する観点から好ましい。
【0033】
単量体3は、単量体中0〜10モル%、更に0〜5モル%、実質0モル%の割合であることが水硬性組成物の調製直後の初期流動性の発現を抑える観点から好ましい。また、単量体3は、単量体中10〜50モル%、更に30〜50モル%の割合であることが水硬性組成物の調製直後の初期流動性と流動保持性の発現の観点から好ましい。
【0034】
本発明に用いられるメルカプト基を有する連鎖移動剤Bとしては、一般式HS−R−Eg(ただし、式中Rは炭素原子数1〜4の炭化水素由来の基を表し、Eは−OH、−COOM、−COOR’または−SO3M基を表し、Mは水素原子、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表し、R’は炭素原子数1〜10のアルキル基を表わし、gは1〜2の整数を表す。)で表されるものが好ましく、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸(なかでも2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸)、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル等が挙げられ、化合物A及び単量体2等を含む共重合反応での連鎖移動効果の観点から、メルカプトプロピオン酸、メルカプトエタノールが好ましく、メルカプトプロピオン酸が更に好ましい。これらの1種または2種以上を用いることができる。連鎖移動剤Bは、単量体100モルに対して、0.1〜100モル、更に1〜10モル、より更に2〜6モル用いることが好ましい。
【0035】
また、本発明に用いられる過硫酸塩を含む重合開始剤Cとしては、過硫酸塩をそのまま重合開始剤Cとして使用してもよい。過硫酸塩は、得られる重合体の製造ロットごとの分子量の変動が起こりにくく、所望の分子量とするために好ましい重合開始剤であり、過硫酸アンモニウム塩、過硫酸アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)が挙げられ、過硫酸アンモニウム塩が好ましい。重合開始剤Cは、過硫酸塩として、単量体100モルに対して、0.01〜50モル、更に1〜10モル用いることが好ましい。重合開始剤Cは、分割して反応容器内に供給しても良く、例えば単量体と併行して反応容器内に供給した後、さらに重合開始剤Cを単独で反応容器内に供給することができる。また、重合開始剤Cの添加後、1〜2時間熟成することもできる。
【0036】
本発明では、化合物Aと連鎖移動剤Bとの反応容器内に供給されるまでの接触時間が2時間以内、好ましくは0〜1.75時間、より好ましくは0〜1.5時間、さらに好ましくは0〜0.5時間、よりさらに好ましくは0時間である。接触後直ちに反応容器内に供給されるような極めて短時間の接触は、実質0時間としてもよい。具体的には、化合物Aと連鎖移動剤Bとを反応容器供給の直前に配管内で混合する方法が挙げられる。接触時間が0時間の例として、化合物Aと連鎖移動剤Bとを混合することなく反応容器内に別々に供給する方法が挙げられる。化合物Aと連鎖移動剤Bの接触時間が長いと、連鎖移動剤Bが失活して、重合体の分子量が大きくなる傾向を示すため、化合物Aと連鎖移動剤Bの接触時間の変化によって製造ロットごとの分子量の変動や製造スケールの違いよる所望する分子量からずれが生じる。
【0037】
なお、本発明の反応容器とは、単量体A、連鎖移動剤B、重合開始剤C及びその他、重合に用いる物質により実際に重合が進行する反応場を与える容器であり、反応槽、重合槽といった異なる表現がされていることもある。また、反応装置としては、反応容器の他に、貯蔵槽、混合槽、輸送管、供給口など各種手段を備えるものがあるが、それらにおいて反応を進行させることが実質的に意図されていない場合は、それらは反応容器とはみなさない。
【0038】
本発明では、化合物Aの少なくとも一部が最初に連鎖移動剤Bと接触してから、化合物Aの全量が反応容器内に供給されるまでの時間が0〜2時間である。その結果、上記の通り、化合物Aと連鎖移動剤Bとの反応容器内に供給されるまでの接触時間が2時間以内となる。
【0039】
また、本発明では、反応容器外及び/又は反応容器内において、化合物Aと連鎖移動剤Bが接触している際の温度が15〜90℃である。化合物Aと連鎖移動剤Bとは、反応容器に供給される前、供給される途中及び/又は反応容器中で接触することが可能であり、最終的には反応容器中で接触して重合反応が行われるが、本発明では、その何れにおいても上記温度が維持される。接触している際の温度は、連鎖移動剤Bの凝固点の観点から下限値が15℃であり、重合温度の観点から上限値が90℃である。なお、反応容器外及び/又は反応容器内において、化合物Aと連鎖移動剤Bが接触している際の温度は、15〜90℃の範囲内で変動してもよく、また、所望の分子量を得る観点から15〜60℃が好ましく、15〜40℃がより好ましい。
【0040】
本発明では、化合物Aは、化合物Aと水とを含む混合液として反応容器内に供給することが好ましく、反応容器に供給する前の状態で当該混合液のpHが2.8〜8.0、更に3.3〜7.0であることが、化合物Aの加水分解を防止して、重合体の製造ロットごとに所望の分子量を得る観点から好ましい。当該混合物には、その他の単量体を含んでいてもよい。ただし、連鎖移動剤Bは含まない。上記pHは25℃で2.8〜8.0、更に3.3〜7.0であることがより好ましい。
【0041】
本発明では、化合物Aを含む単量体と、メルカプト基を有する連鎖移動剤Bとを、それぞれ、別の導入手段(例えば供給口)から反応容器内に供給することが好ましい。更に、本発明では、化合物Aを含む単量体溶液、連鎖移動剤Bを含む水溶液、重合開始剤Cを含む水溶液を、それぞれ、別の導入手段(例えば供給口)から反応容器内に供給することが好ましい。
【0042】
本発明の製造方法は、単量体の合計仕込み量が100kg以上、更に500kg以上、より更に1,000kg以上の規模で実施することができる。このような工業的な規模の製造方法において、本発明では製造スケールや操作の所要時間の影響なく所望の分子量の重合体を得ることができるため、有利である。工業的な生産の観点から単量体の合計仕込み量が100〜50,000kgが好ましく、500〜30,000kgがより好ましく、1,000〜20,000kgが更に好ましい。
【0043】
本発明では、単量体の仕込み量が、水硬性組成物用添加剤の製造に用いる全原材料(原料単量体、各種添加剤、反応溶媒等により構成される)に対して、50重量%以下であり、50〜10重量%、更に50〜20重量%であることが好ましい。単量体の仕込み量が多い、すなわち単量体の濃度が高い場合、重合開始剤に過硫酸塩を用いると、副生する硫酸塩、重合体等の沈殿物やゲル状物質の生成等によって、保存安定性低下を生じやすくなる。そのため、反応生成物中の重合体濃度が保存安定性の低下を招かない水分で直接得られれば、工業的な方法として有利である。また、反応生成物をそのまま水硬性組成物用添加剤として使用する観点から、重合体濃度はある程度高いことが好ましい。上記範囲の単量体の仕込み量は、こうした工業的に有利な濃度で重合体を含む反応生成物を得る観点から好ましい。なお、反応生成物中の重合体の濃度が高い場合、重合後に希釈することもできるが、単量体の仕込み量が50重量%以下で得られた反応生成物は、重合時の溶液粘度が低く混合性が良いものとなる。
【0044】
本発明では、単量体中、化合物Aの割合が好ましくは10〜100重量%、より好ましくは20〜100重量%である。また、単量体として、化合物Aの他に、単量体2を含む場合、化合物Aは好ましくは単量体中10〜60重量%、より好ましくは15〜45重量%、更に好ましくは15〜40重量%の割合で含むことが流動保持性発現の観点から好ましい。単量体2は好ましくは単量体中50〜90重量%、より好ましくは55〜85重量%、更に好ましくは60〜85重量%の割合で含むことが流動保持性発現の観点から好ましい。
【0045】
本発明の製造方法での重合反応は公知の方法に準じて行うことができる。例えば、特開昭62−119147号公報、特開昭62−78137号公報等に記載された溶液重合法が挙げられる。即ち、適当な溶媒中で、上記化合物A及び単量体2を上記の割合で組み合わせて重合させることにより製造される。すなわち、重合体の重合の際に用いる単量体中、化合物Aの比率と単量体2の比率の合計を90重量%以上、更に95重量%以上、より更に98重量%以上、より更に実質100重量%として重合させる。
【0046】
溶液重合法において用いる溶剤としては、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。取り扱いと反応設備から考慮すると、水及びメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0047】
尚、重合開始剤Cは反応容器に初めから仕込んでもよく、反応容器へ滴下してもよく、また目的に応じてこれらを組み合わせてもよい。
【0048】
反応容器内では、化合物Aと連鎖移動剤Bは接触して重合反応が行われる。よって、本発明では、反応容器内での重合温度は15〜90℃の範囲である。重合温度は、好ましくは20〜90℃、より好ましくは40〜90℃、更に好ましくは60〜90℃である。
【0049】
重合反応中、反応容器中の反応系を攪拌することが好ましい。攪拌翼の翼径は10〜3000mmであり、例えば実験室での重合では10〜150mm、工業的生産等の単量体の合計仕込み量が100kg以上である場合は、300〜3000mmの翼径が選ばれる。その時の回転数は、好ましくは10〜500rpmであり、より好ましくは10〜300rpm、更に好ましくは10〜200rpmで行われる。また先端周速は、好ましくは0.1〜100m/sであり、より好ましくは0.3〜50m/sであり、更に好ましくは0.5〜25m/sである。本発明において工業的生産等の単量体の合計仕込み量が100kg以上である場合に使用される攪拌装置の攪拌翼としては、例えばファウドラー翼、ブルマージン翼、タービン翼、ファンタービン翼、パドル翼等が挙げられるが、好ましくはファウドラー翼、タービン翼、パドル翼が挙げられ、更に好ましくはファウドラー翼が挙げられる。
【0050】
単量体中の化合物A、単量体2の割合は前記の範囲が好ましいが、カルボン酸基、リン酸基及びそれらの中和基を有する分散剤と併用する場合、流動保持性発現の観点から、化合物Aと単量体2のモル比(化合物A/単量体2)は、50/50〜100/0が好ましく、60/40〜95/5がより好ましく、70/30〜90/10が更に好ましい。また、スルホン酸基及びそれらの中和基を有するものと併用する場合、流動保持性発現の観点から、化合物Aと単量体2のモル比(化合物A/単量体2)は、50/50〜100/0が好ましく、60/40〜100/0がより好ましく、80/20〜100/0が更に好ましい。
【0051】
本発明により製造された重合体は、重量平均分子量が10,000〜200,000、更に10,000〜80,000、より更に30,000〜80,000であることが好ましい。この範囲の重量平均分子量を有する重合体は、水硬性組成物用添加剤のうち、分散剤、流動保持剤として使用できる。なお、重合体の重量平均分子量は後述の実施例の方法により測定されたものである。本発明の製造方法により、製造ロットごとの重量平均分子量の変動が少なく、所望の重量平均分子量の重合体を安定して製造することができる。
【0052】
本発明に係る重合体の製造方法の一例を示す。反応容器に所定量の水を仕込み、窒素等の不活性気体で雰囲気を置換し昇温する。例えば予め化合物Aとその他の単量体を混合したpH2.8〜8.0の範囲内の水溶液と、連鎖移動剤Bを水に混合溶解した水溶液と、重合開始剤Cを水に溶解した水溶液とを用意し、それぞれ0.5〜5時間かけて反応容器内に別々に滴下する。この方法では、反応容器に供給されるまでの化合物Aと連鎖移動剤Bの接触時間は0時間である。本発明では、単量体中、化合物Aの割合が50〜100モル%であり、且つ、水硬性組成物用添加剤の製造に用いる全原材料に対して、単量体の量が50重量%以下である。滴下終了後に好ましくは所定時間の熟成を行う。反応容器外及び/又は反応容器内において、互いに接触状態にある化合物Aと連鎖移動剤Bの温度は15〜90℃とする。なお、重合開始剤Cは、全量を化合物A及びその他の単量体と同時に滴下しても良いし、分割して添加しても良いが、分割して添加することが未反応単量体の低減の点では好ましい。例えば、最終的に使用する重合開始剤Cの全量中、1/2〜2/3の重合開始剤Cを化合物A及びその他の単量体と同時に添加し、残部を単量体滴下終了後1〜2時間熟成した後、添加することが好ましい。また、残部を単量体滴下終了後添加し、1〜2時間熟成することもできる。具体的には化合物Aを含む単量体と、メルカプト基を有する連鎖移動剤Bとの反応容器内への供給を完了した後に、さらに重合開始剤Cを反応容器内に供給することが挙げられる。必要に応じ、熟成終了後に更にアルカリ剤(水酸化ナトリウム等)で中和し、本発明に係る重合体を得る。
【0053】
本発明に係る重合体は、水硬性組成物の調製直後の流動性を向上する観点から公知のセメント分散剤を併用することができる。公知のセメント分散剤としてカルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基及びそれらの中和基から選ばれる少なくとも1種を有する重合体が挙げられる。
【0054】
カルボン酸基又はその中和基を有するものとしては、オキシアルキレン基又はポリオキシアルキレン基とカルボン酸を有する重合体である。例えば、炭素数2〜3のオキシアルキレン基110〜300モルを導入したポリアルキレングリコールモノエステル系単量体とアクリル酸系重合体、アミド系マクロモノマーを含むような重合体、ポリエチレンイミンを含有する重合体が挙げられる。
【0055】
リン酸基又はその中和基を有するものとしては、ポリオキシアルキレン基とリン酸基を有する重合体である。例えば、ω−メトキシポリオキシアルキレン(メタ)アクリル酸エステルとリン酸モノ(ヒドロキシキシアルキル)(メタ)アクリル酸エステルとリン酸ジ−〔(ヒドロキシアルキル)(メタ)アクリル酸〕エステルとの共重合体(以下、重合体Bという)が挙げられる。具体的には、炭素数2〜3のオキシアルキレン基を平均3〜200モル導入したポリアルキレングリコールモノエステル系単量体と、リン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルと、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルとの共重合体等が挙げられる。
【0056】
スルホン酸基又はその中和基を有するものとしては、ナフタレン系重合体、メラミン系重合体、アミノスルホン酸系重合体が挙げられる。ナフタレン系重合体として、例えば、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物又はその塩が挙げられる。メラミン系重合体として、例えば、メラミンスルホン酸のホルマリン縮合物又はその塩が挙げられる。ナフタレン系重合体を用いる場合は、流動保持性の観点から本発明に係る化合物Aのみからなる重合体を組み合わせることが好ましい。
【0057】
水硬性粉体に骨材として、砂、砂及び砂利が添加されて最終的に得られる水硬性組成物が、一般にそれぞれモルタル、コンクリートなどと呼ばれている。本発明により製造された水硬性組成物用添加剤は、こうした通常の水硬性組成物を対象とし得る。水硬性組成物は、生コンクリート、コンクリート振動製品分野の外、セルフレベリング用、耐火物用、プラスター用、石膏スラリー用、軽量又は重量コンクリート用、AE用、補修用、プレパックド用、トレーミー用、グラウト用、地盤改良用、寒中用等の種々のコンクリートの何れの分野においても有用である。
【0058】
本発明により製造された水硬性組成物用添加剤の対象となる水硬性組成物は、水/水硬性粉体比〔スラリー中の水と水硬性粉体の重量百分率(重量%)、通常W/Pと略記されるが、粉体がセメントの場合、W/Cと略記されることがある。〕が好ましくは60重量%以下、より好ましくは60〜15重量%、更に好ましくは50〜30重量%であることができる。
【0059】
水硬性組成物において、本発明により製造された水硬性組成物用添加剤は、水硬性粉体100重量部に対して0.002〜5重量部、更に0.01〜4重量部、更に0.02〜2重量部の比率(固形分換算)で添加されることが好ましい。中でも、化合物Aを含む単量体から製造された重合体は、水硬性粉体100重量部に対して0.01〜8重量部、更に0.02〜4重量部の比率(固形分換算)で添加されることが好ましい。
【実施例】
【0060】
実施例1
直径7.5cmの翼1枚を有する攪拌機付きガラス製反応容器(容量1,000ml四つ口フラスコ)に水345.4gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。反応容器内の攪拌翼の回転数を200rpmで攪拌しながら(先端周速0.8m/s)、ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数23、水分35.0%、純度93.6%)〔以下、ME−PEG(23)と表記する〕476.0gとヒドロキシエチルアクリレート(以下、HEAと表記する)90.6gの混合溶解した単量体溶液(pH5.7)と、3−メルカプトプロピオン酸水溶液[3−メルカプトプロピオン酸2.76gを水24.8gに溶解したもの〕と、過硫酸アンモニウム水溶液(I)〔過硫酸アンモニウム4.75gを水48gに溶解したもの〕の3者を、別々の供給口から同時に滴下を開始し、それぞれ1.5時間かけて滴下した後、過硫酸アンモニウム水溶液(II)〔過硫酸アンモニウム0.71gを水7gに溶解したもの〕を0.5時間かけて滴下した。その後、反応容器内の攪拌翼の回転数を200rpmに維持しながら、80℃で1時間熟成した。熟成終了後に20%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、共重合体を得た。化合物Aの溶液と連鎖移動剤Bの水溶液はいずれも25℃、化合物Aと連鎖移動剤Bとの反応容器内に供給されるまでの接触時間は0時間であり、接触している際の温度が15〜90℃の範囲内である。また、製造に用いる全原材料に対する単量体の仕込み量は、38重量%であった。
【0061】
なお、ME−PEG(23)は、特許第3874917号記載の方法に準じて、未反応物として残留するメタクリル酸を留去により、1重量%未満にしたものを用いた。具体的には、メタクリル酸とポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルを、酸触媒としてp−トルエンスルホン酸、重合禁止剤としてハイドロキノンを用いてエステル化反応させた後、アルカリ剤として水酸化ナトリウムを用いて酸触媒を失活させ、真空蒸留法により未反応のメタクリル酸を留去した。
【0062】
得られた共重合体の重量平均分子量Mwを、下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定した。結果を表1に示す。
[GPC条件]
カラム:G4000PWXL+G2500PWXL(東ソー)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/アセトニトリル=9/1
流量:1.0mL/分
カラム温度:40℃
検出:RI
サンプルサイズ:0.5mg/mL
標準物質:ポリエチレングリコール換算
【0063】
実施例2
直径7.5cmの翼1枚を有する攪拌機付きガラス製反応容器(容量1,000ml四つ口フラスコ)に水369.7gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。反応容器内の攪拌翼の回転数を200rpmで攪拌しながら(先端周速0.8m/s)、ME−PEG(23)476.0gとHEA90.6gと3−メルカプトプロピオン酸2.76gとを混合溶解(pH5.3)した後、25℃、遮光条件下で0.5時間静置した単量体溶液と、過硫酸アンモニウム水溶液(I)〔過硫酸アンモニウム4.75gを水48gに溶解したもの〕の2者を、別々の供給口から同時に滴下を開始し、それぞれ1.5時間かけて滴下した後、過硫酸アンモニウム水溶液(II)〔過硫酸アンモニウム0.71gを水7gに溶解したもの〕を0.5時間かけて滴下した。その後、反応容器内の攪拌翼の回転数を200rpmに維持しながら、80℃で1時間熟成した。熟成終了後に20%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、共重合体を得た。化合物Aと連鎖移動剤Bとを混合した単量体溶液の温度は25℃、化合物Aと連鎖移動剤Bとの反応容器内に供給されるまでの接触時間は2時間(静置0.5時間と滴下1.5時間)であり、接触している際の温度が15〜90℃の範囲内である。製造に用いる全原材料に対する単量体の仕込み量は、38重量%であった。得られた共重合体の重量平均分子量Mwを実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0064】
実施例3
直径7.5cmの翼1枚を有する攪拌機付きガラス製反応容器(容量1,000ml四つ口フラスコ)に水384.2gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。反応容器内の攪拌翼の回転数を200rpmで攪拌しながら(先端周速0.8m/s)、25℃、遮光条件下で0.25時間静置したHEA400.0g、3−メルカプトプロピオン酸18.3g、水150gとを混合溶解した単量体溶液と、過硫酸アンモニウム水溶液(I)〔過硫酸アンモニウム6.29gを水30gに溶解したもの〕の2者を、別々の供給口から同時に滴下を開始し、それぞれ1.5時間かけて滴下した後、過硫酸アンモニウム水溶液(II)〔過硫酸アンモニウム0.79gを水10gに溶解したもの〕を0.5時間かけて滴下した。その後、反応容器内の攪拌翼の回転数を200rpmに維持しながら、80℃で1時間熟成した。熟成終了後に20%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、共重合体を得た。化合物Aと連鎖移動剤Bとを混合した単量体溶液の温度は25℃、化合物Aと連鎖移動剤Bとの反応容器内に供給されるまでの接触時間は2時間(静置0.5時間と滴下1.5時間)であり、接触している際の温度が15〜90℃の範囲内である。製造に用いる全原材料に対する単量体の仕込み量は40重量%であった。得られた重合体の重量平均分子量Mwを実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0065】
比較例1〜4
実施例2において、単量体溶液の静置時間を表1の通りとした以外は同様にして共重合体を得た。化合物Aと連鎖移動剤Bとを混合した単量体溶液の温度は25℃、化合物Aと連鎖移動剤Bとの反応容器内に供給されるまでの接触時間は、何れも2時間を超えるものである。接触している際の温度が15〜90℃の範囲内である。製造に用いる全原材料に対する単量体の仕込み量は、38重量%であった。得られた共重合体の重量平均分子量Mwを実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0066】
比較例5
実施例3において、単量体溶液の静置時間を表1の通りとした以外は同様にして共重合体を得た。化合物Aと連鎖移動剤Bとを混合した単量体溶液の温度は25℃、化合物Aと連鎖移動剤Bとの反応容器内に供給されるまでの接触時間は10.5時間(静置9時間と滴下1.5時間)であり、接触している際の温度が15〜90℃の範囲内である。製造に用いる全原材料に対する単量体の仕込み量は、40重量%であった。得られた重合体の重量平均分子量Mwを実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
実施例4
ファウドラー翼を有する攪拌機付き反応槽を3回窒素置換した(減圧26.0kPaにし、常圧101.3kPaまで窒素で戻した)。そして、窒素気流下(1.0Nm3/h気相)で、イオン交換水121kgを仕込み、80℃まで昇温した。
【0069】
一方、ME−PEG(23)166.6kgとHEA31.7kgを混合溶液槽内で混合し、混合溶液(pH5.8)を調整した。
【0070】
反応容器内の攪拌翼の回転数を80rpmで攪拌しながら(先端周速2.5m/s)、混合溶液槽内で調製後30℃2時間保持した混合溶液と、過硫酸アンモニウム1.66kgをイオン交換水16.6kgに溶解した25℃の水溶液と、3−メルカプトプロピオン酸0.97kgをイオン交換水8.7kgに溶解した25℃の水溶液の3者を、別々の供給口から同時に滴下を開始し、それぞれ1.5時間かけて、80℃に保持した反応槽に滴下した。アクリル酸エステルとメルカプト基を有する連鎖移動剤を反応容器内に供給する際の攪拌翼の攪拌動力は0.03kW/m3であった。
【0071】
その後、反応容器内の攪拌翼の回転数を80rpmに維持しながら、80℃に保持した反応槽に過硫酸アンモニウム0.25kgを水2.5kgに溶解した水溶液を30分かけて滴下し、滴下終了後80℃で1時間熟成した。熟成終了後に冷却しながら20%水酸化ナトリウム溶液5.48kgで中和し、pH5.1の共重合体の水溶液を得た。化合物Aと連鎖移動剤Bとの反応容器内に供給されるまでの接触時間は0時間であり、接触している際の温度が15〜90℃の範囲内である。また、製造に用いる全原材料に対する単量体の仕込み量は、38重量%であった。得られた共重合体の重量平均分子量Mwを実施例1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0072】
実施例5
ME−PEG(23)、HEA、3−メルカプトプロピオン酸、過硫酸アンモニウムの量をそれぞれ、1283.2kg、244.6kg、7.45kg、14.7kg(うち、12.8kgを1回目の水溶液に、1.9kgを2回目の水溶液に用いる)使用(水の重量比も同様とする、反応容器内の攪拌翼は先端周速4.6m/s)した以外は、実施例4と同様にして共重合体を得た。化合物Aと連鎖移動剤Bとの反応容器内に供給されるまでの接触時間は0時間であり、接触している際の温度が15〜90℃の範囲内である。製造に用いる全原材料に対する単量体の仕込み量は、38重量%であった。得られた共重合体の重量平均分子量Mwを実施例1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0073】
比較例6
ME−PEG(23)166.6kg、HEA31.7kgと3−メルカプトプロピオン酸0.97kgを混合溶液槽内で混合し、混合溶液を調整した。混合溶液槽内で調製後25℃で調製開始から3.5時間保持した混合溶液(pH5.4)と過硫酸アンモニウム水溶液の2者を、別々の供給口から同時に滴下を開始し、それぞれ1.5時間かけて、80℃に保持した反応槽に滴下した以外は、実施例4と同様にして共重合体を得た。化合物Aと連鎖移動剤Bとの反応容器内に供給されるまでの接触時間は5時間、接触している際の温度が15〜90℃の範囲内である。製造に用いる全原材料に対する単量体の仕込み量は、38重量%であった。得られた共重合体の重量平均分子量Mwを実施例1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表1、2の結果から、実施例のように、反応容器に供給されるまでのHEAと連鎖移動剤との接触時間が2時間以下である場合は、得られた共重合体の重量分子量に大きな差がないが、接触時間が2時間を超える比較例では得られた共重合体の重量平均分子量が大きく異なることがわかる。
【0076】
試験例1〜3及び比較試験例1
実施例及び比較例で得られた共重合体について、水硬性組成物用分散保持剤としての評価(ペースト試験)を行った。
【0077】
<ペースト配合(配合1)>
【表3】

【0078】
W:上水道水
C:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製)
【0079】
500ml容器に、配合1に従い、セメントへ実施例又は比較例で得られた共重合体(対セメント100重量部に対し0.08重量部)を含む水を投入し、ハンドミキサー(低速63rpm程度)で2分間混練し、ペーストを得た。
【0080】
<初期流動性及び流動保持性の評価>
得られたペーストを円筒状コーン(φ50mm×51mm)に充填し、垂直に引き上げた時の広がり(最も長い直径の長さとそれと垂直方向の長さの平均値)をペーストフローとして測定した。測定は、混練終了直後(0分後)、混練終了30分後、混練終了60分後、混練終了90分後、混練終了120分後に行い、フロー値の経時変化を測定した。流動保持性の指標として、図1に示す図形の面積をそれぞれの分散保持剤について求めた。この図形の面積は、(流動性−100mm)×時間(単位mm・分)で求まるものである。混練終了直後のフロー値を初期流動性とした。共重合体を添加しない場合の初期流動性は110mmであった。
【0081】
【表4】

【0082】
表4の結果から、試験例1、2および3では流動保持性の評価指標である面積がいずれも3,800mm・分程度であり、同一の性能を有する水硬性組成物用添加剤であることがわかる。試験例1および試験例2の組み合わせは化合物Aと連鎖移動剤の反応容器内への供給方法が異なるが、接触時間がそれぞれ0時間および2時間の例であり、試験例1および試験例3の組み合わせは化合物Aと連鎖移動剤の反応容器内への供給方法が同一で接触時間がいずれも0時間の例であり重合スケールが異なる例である。また試験例3と比較試験例1では、その面積はそれぞれ3,773mm・分および4,575mm・分であり、同一の性能を有する水硬性組成物用添加剤とは言えないことがわかる。試験例3および比較試験例1の組み合わせは化合物Aと連鎖移動剤の反応容器内への供給方法が異なり、接触時間がそれぞれ0時間および5時間の例である。つまり、組成比が同じ共重合体を用いた場合、その重合スケールや製法に関わらず、水硬性組成物用添加剤としての流動保持性能は分子量で規定されるといえる。そのため、本発明において同一の共重合体設計で分子量が同等の共重合体が再現良く得られる条件を見出したことは意義が大きい。
【0083】
以上より化合物Aと連鎖移動剤Bとの接触時間を2時間以下とし、所望の分子量を有する水硬性組成物用添加剤を安定的に、かつ分子量の変動なく、再現性よく生産出来ることは、工業的に重要な技術となる。
【0084】
試験例4
実施例で得られた重合体について、水硬性組成物用分散保持剤としての評価(モルタル試験)を行った。
【0085】
<モルタル配合(配合2)>
【表5】

【0086】
W:上水道水
C:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント製/住友大阪セメント製=1/1(重量比)の混合品;密度=3.16g/cm3
S:山砂(城陽産、密度=2.55g/cm3
【0087】
配合2に従い、セメント400gと砂700gを万能混合攪拌機(型番:5DM-03-r、ダルトン社製)に入れ、低速に設定し10秒間攪拌を行った。その後、実施例3の重合体0.6gと、ナフタレンスルホン酸系分散剤5.6g(マイテイ150、花王株式会社製)とを予め混合した水溶液140gを添加し(接水開始)、低速で90秒間攪拌を行った。攪拌後にモルタルをコーン(下部径100mm、上部径70mm、高さ60mm)に充填し、モルタルフローを測定した(直後)。また、接水開始から30分後、60分後、90分後のモルタルフローも同様に測定した。結果を表6に示す。
【0088】
比較試験例2
実施例3の重合体を使用せずナフタレンスルホン酸系分散剤5.6g(マイテイ150、花王株式会社製)のみを混合した水溶液140gを添加した以外は、試験例4と同様にモルタルフローを測定した。結果を表6に示す。
【0089】
【表6】

【0090】
試験例3及び比較試験例2の結果から、実施例3の重合体を併用した場合は、90分後でもモルタルフローの低下が少なく、分散保持性が向上していることがわかる。また、比較例5で得られた重合体を試験例3と同様に試験した場合は、試験例3と比較試験例1の結果から、比較例5の重合体を添加したモルタルフローの挙動は試験例3の重合体のそれとは異なるものと予想される。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】試験例において、流動保持性を評価するための面積測定の対象となる図形を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される化合物Aを含む単量体と、メルカプト基を有する連鎖移動剤Bと、過硫酸塩を含む重合開始剤Cとを反応容器内に供給し重合反応する工程を有する、水硬性組成物用添加剤の製造方法であって、
単量体中、化合物Aの割合が50〜100モル%であり、
反応容器内に供給されるまでの化合物Aと連鎖移動剤Bの接触時間が2時間以内であり、
互いに接触状態にある化合物Aと連鎖移動剤Bの温度が15〜90℃であり、
水硬性組成物用添加剤の製造に用いる全原材料に対して、単量体の量が50重量%以下である、
水硬性組成物用添加剤の製造方法。
【化1】


〔式中、R1は、ヘテロ原子を含んでよい炭素数1〜8の炭化水素基である。〕
【請求項2】
一般式(1)で表される化合物Aを含む単量体と、メルカプト基を有する連鎖移動剤Bとを、それぞれ、別の導入手段から反応容器内に供給する請求項1記載の水硬性組成物用添加剤の製造方法。
【請求項3】
メルカプト基を有する連鎖移動剤Bが3−メルカプトプロピオン酸である請求項1又は2記載の水硬性組成物用添加剤の製造方法。
【請求項4】
一般式(1)で表される化合物Aを含む単量体と、メルカプト基を有する連鎖移動剤Bとの反応容器内への供給を完了した後に、さらに重合開始剤Cを反応容器内に供給する請求項1〜3いずれか記載の水硬性組成物用添加剤の製造方法。
【請求項5】
単量体の仕込み量が100kg以上である請求項1〜4いずれか記載の水硬性組成物用添加剤の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−120827(P2010−120827A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297672(P2008−297672)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】