説明

水硬性組成物

【課題】流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を有する水硬性モルタルを提供する。
【解決手段】水硬性成分と、流動化剤と、膨張材とを含む水硬性組成物であって、流動化剤が、変性ポリカルボン酸系流動化剤であり、変性ポリカルボン酸系流動化剤が、ポリオキシエチレン鎖を有するカルボン酸エステルの側鎖を含み、ポリオキシエチレン鎖の繰り返し単位構造数nが30〜50である、水硬性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木建築工事に使用されるグラウト用の水硬性組成物であって、水との混練操作によって速やかに良好なスラリー状態が得られ、流動特性に優れ、材料分離抵抗性が高い水硬性モルタルを得ることができる水硬性組成物に関する。さらに、本発明は、前記水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性モルタル、水硬性モルタルの硬化体及び水硬性モルタル構造物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラウト組成物と水とを連続混練又は連続混練機を用いて混練して安定した流動性を有するスラリーを得ることができるグラウト組成物を提供することを目的として、特許文献1には、ポルトランドセメントを含む水硬性無機結合材と流動化剤と膨張材とを含むグラウト組成物が開示され、さらに前記グラウト組成物を用い、連続混練機を使用して連続混練して得られたスラリーを、ポンプを用いて施工部に連続して供給するグラウトスラリーの施工方法が開示されている。
【0003】
スラリーポンプによって圧送してスラリーホースを通じて離れた施工場所に供給しても材料分離を生じない水硬性モルタルとして、特許文献2には、水硬性成分と細骨材と流動化剤と膨張材とを含有する水硬性組成物であって、細骨材は、細骨材100質量%中に30μm以上〜150μm未満の粒子を5〜30質量%含み、150μm以上〜600μm未満の粒子を25〜55質量%含み、600μm以上〜2000μm未満の粒子を25〜60質量%含むことを特徴とする水硬性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−298662号公報
【特許文献2】特開2008−266114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水硬性モルタルの施工は、施工時期によって異なった温度条件の下で行われる。異なった温度条件での施工を容易にするため、水硬性モルタルの流動特性は、温度に依存しないことが好ましい。流動特性の温度依存性が大きい場合には、適切な気温の場合にしか水硬性モルタルの施工を行うことができないためである。
【0006】
そこで、本発明は、流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を有する水硬性モルタルを得ることができ、強度特性に優れた水硬性モルタルの硬化体を得ることができる水硬性組成物を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、前記水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性モルタルが、温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を保持し、スラリーポンプによって圧送してスラリーホースを通じて離れた施工場所に供給しても材料分離を生じない水硬性モルタルを提供することを目的とする。
【0008】
さらに、本発明は、前記水硬性組成物と水とを連続的に混練して得られる水硬性モルタルが、流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を保持し、スラリーポンプによって圧送してスラリーホースを通じて離れた施工場所に連続的に供給して施工する、水硬性モルタル構造物の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、水硬性組成物が所定の流動化剤を含むことにより、その水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタルが、流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、水硬性成分と、流動化剤と、膨張材とを含む水硬性組成物であって、流動化剤が、変性ポリカルボン酸系流動化剤であり、変性ポリカルボン酸系流動化剤がポリオキシエチレン鎖を有するカルボン酸エステルの側鎖を含み、ポリオキシエチレン鎖の繰り返し単位構造数nが30〜50である、水硬性組成物である。本発明の水硬性組成物を用いるならば、流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を得ることができる水硬性モルタルを得ることができる。
【0011】
本発明の水硬性組成物の好ましい態様を以下に示す。本発明では、これらの態様を適宜組み合わせることができる。
(1)水硬性組成物が細骨材をさらに含み、細骨材が、細骨材100質量%中に、30μm以上〜150μm未満の粒子を5〜30質量%含み、150μm以上〜600μm未満の粒子を25〜55質量%含み、600μm以上〜2000μm未満の粒子を25〜60質量%を含む。細骨材の粒度構成が上記特定の粒度構成の範囲にある場合には、水硬性モルタルを、スラリーポンプを用いて長距離(100m)圧送した際に、水硬性モルタル中の細骨材が材料分離を生じることがなく、スラリーホースを閉塞させることがない。
(2)水硬性組成物が、水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性モルタル調製・施工用トラックに搭載したミキサーを用いて、水硬性組成物と水とを連続的に混練して水硬性モルタルを調製し、前記トラックに搭載されたスラリーポンプによりスラリーホースを介して水硬性モルタルを施工箇所へ連続的に供給・打設して硬化させるモルタル施工方法に用いられる。本発明の水硬性モルタルを所定のモルタル施工方法に用いることにより、異なった温度条件であっても容易に、モルタル施工をすることができる。
【0012】
また、本発明は、上述の水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタルである。本発明の水硬性モルタルは、流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を得ることができる。
【0013】
また、本発明は、上述の水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタルを硬化させて得られる水硬性モルタルの硬化体である。本発明の水硬性モルタルを用いることにより、異なった温度条件であっても強度特性に優れた、水硬性モルタルの硬化体を得ることができる。
【0014】
また、本発明は、上述の水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性モルタル調製・施工用トラックに搭載したミキサーを用いて、水硬性組成物と水とを連続的に混練して水硬性モルタルを調製する工程と、前記トラックに搭載されたスラリーポンプによりスラリーホースを介して水硬性モルタルを施工箇所へ連続的に供給・打設して硬化させる工程とを含む、水硬性モルタル構造物の施工方法である。本発明の水硬性組成物を用いることにより、異なった温度条件であっても容易に水硬性モルタル構造物の施工を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水硬性組成物を用いるならば、流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を得ることができる水硬性モルタルを提供することができる。また、本発明の水硬性モルタルを用いることによって、強度特性に優れた水硬性モルタルの硬化体を得ることができる。
【0016】
また、本発明によれば、水硬性組成物と水とを混練して、より短時間に安定した流動特性を得ることができると共に、調製した水硬性モルタルは、流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を有するという良好な流動特性を保持し、さらに、調製した水硬性モルタルをスラリーポンプによって圧送してスラリーホースを通じて離れた施工場所に供給しても材料分離を生じない水硬性モルタルを提供することができる。
【0017】
また、本発明によれば、前記水硬性組成物と水とを連続的に混練して水硬性モルタルを調製し、スラリーポンプによって圧送してスラリーホースを通じて離れた施工場所に連続的に供給して施工する、水硬性モルタル構造物の施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】水硬性モルタルの連続混練装置を模式的に示す図である。
【図2】水硬性組成物を貯蔵するタンク及びスラリー製造・供給装置を搭載した水硬性モルタル調製・施工用トラックの全体構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の水硬性組成物は、水硬性成分と、流動化剤と、膨張材とを必須成分とし、さらに細骨材を含むことのできる、土木建築工事に使用されるグラウト用の水硬性組成物である。本発明は、流動化剤が所定の側鎖を有する変性ポリカルボン酸系流動化剤(「変性ポリカルボン酸系流動化剤a」という)であることに特徴がある。そのため、本発明の水硬性組成物を用いるならば、水との混練操作によって速やかに良好なスラリー状態が得られ、流動性に優れ、流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を得ることができ、材料分離抵抗性が高い水硬性モルタル(「水硬性スラリー」ともいう。)を安定して調製することができる。
【0020】
本発明の水硬性組成物は、水硬性成分を含む。本発明の水硬性組成物に含まれる水硬性成分は、ポルトランドセメントを含み、水硬性成分100質量%中に対して、ポルトランドセメントを好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上含むことが好ましい。さらに特に好ましくは、本発明の水硬性組成物に含まれる水硬性成分は、ポルトランドセメントからなることが好ましい。
【0021】
ポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等が挙げられ、それらのうちの一種又は二種以上を混合して使用することができる。
【0022】
本発明の水硬性組成物に含まれる水硬性成分は、ポルトランドセメントの他に、必要に応じて本発明の特性を損なわない範囲で石膏やアルミナセメントを含むことができる。
水硬性成分に含まれることのできる成分としては、ポルトランドセメントのみ、ポルトランドセメント及び石膏の2種、ポルトランドセメント及びアルミナセメントの2種、ポルトランドセメント、アルミナセメント及び石膏の3種、から選ぶことができる。
【0023】
石膏としては、無水、半水等の石膏がその種類を問わず、一種又は二種以上の混合物として使用することができる。
【0024】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、いずれも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0025】
本発明の水硬性組成物は、必要に応じて本発明の特性を損なわない範囲で、高炉スラグ、シリカヒューム、フライアッシュ、溶融スラグなどの無機成分を含むことができる。
【0026】
本発明の水硬性組成物は、細骨材を含むことができる。本発明の水硬性組成物に含まれる細骨材は、最大粒径が2mm未満の特定の粒度構成を有する細骨材であることが好ましい。本発明の水硬性組成物が特定の粒度構成を有する細骨材を含むことにより、本発明の水硬性組成物を水と混練することにより速やかに良好な流動性状を有する水硬性モルタルを得ることができ、さらに優れた材料分離抵抗性を有する水硬性モルタルを安定して得ることができる。特定の粒度構成を有する細骨材を用いることによって、良好で安定した流動性状の水硬性モルタルを得られると共に、ポンプ圧送した際に材料分離に伴うスラリーホースの閉塞を回避することができる。
【0027】
本発明で使用することのできる特定の粒度構成を有する細骨材として、好ましくは、細骨材100質量%中に、30μm以上〜150μm未満の粒子を5〜30質量%含み、150μm以上〜600μm未満の粒子を25〜55質量%含み、600μm以上〜2000μm未満の粒子を25〜60質量%含むものを好適に使用することができる。
また、特定の粒度構成を有する細骨材として、より好ましくは、細骨材100質量%中に、30μm以上〜150μm未満の粒子を8〜28質量%含み、150μm以上〜600μm未満の粒子を30〜52質量%含み、600μm以上〜2000μm未満の粒子を30〜55質量%含むものを好適に使用することができる。
また、特定の粒度構成を有する細骨材として、さらに好ましくは、細骨材100質量%中に、30μm以上〜150μm未満の粒子を9〜26質量%含み、150μm以上〜600μm未満の粒子を33〜50質量%含み、600μm以上〜2000μm未満の粒子を33〜52質量%含むものを好適に使用することができる。
また、特定の粒度構成を有する細骨材として、特に好ましくは、細骨材100質量%中に、30μm以上〜150μm未満の粒子を10〜25質量%含み、150μm以上〜600μm未満の粒子を35〜48質量%含み、600μm以上〜2000μm未満の粒子を35〜50質量%含むものを好適に使用することができる。
【0028】
細骨材の粒度構成が上記特定の粒度構成の範囲ににある場合には、水硬性モルタルを、スラリーポンプを用いて長距離(100m)圧送した際に、水硬性モルタル中の細骨材が材料分離を生じることがなく、スラリーホースを閉塞させることがない。細骨材の粒度構成が上記特定の粒度構成の範囲にない場合には、水硬性モルタルを、スラリーポンプを用いて長距離(100m)圧送した際に、水硬性モルタル中の細骨材が材料分離を生じてスラリーホースを閉塞させることがあるため好ましくない。
【0029】
細骨材の使用量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは20〜200質量部、より好ましくは40〜190質量部、さらに好ましくは60〜180質量部、特に好ましくは80〜170質量部の範囲にすることにより、優れた良好な流動性と材料分離抵抗性、及び、良好な硬化体強度特性を得ることができることから好ましい。
【0030】
本発明の水硬性組成物に含まれる細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、シリカ粉、粘土鉱物及び廃FCC触媒などの無機質材、ウレタン砕、EVAフォーム及び発砲樹脂などの樹脂粉砕物並びにアルミナセメントクリンカー骨材などから選択して用いることができる。本発明の水硬性組成物に含まれる細骨材は、珪砂、川砂、海砂、山砂及び砕砂などの砂類、シリカ粉並びに廃FCC触媒などから選択して用いることが特に好ましい。
【0031】
本発明の水硬性組成物は、以下に説明する所定の変性ポリカルボン酸系流動化剤(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を含む。
【0032】
本発明の水硬性組成物に含まれる変性ポリカルボン酸系流動化剤aを構成するポリマーは、下記化学式で示される構造単位Cを含み、好ましくは下記化学式で示される構造単位A、構造単位B及び構造単位Cを含む。より好ましくは、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを構成するポリマーは、下記化学式で示される構造単位A、構造単位B及び構造単位Cからなることが好ましい。
【0033】
【化1】

【0034】
構造単位Cは、ポリオキシエチレン鎖を有するカルボン酸エステルの側鎖を有する。ポリオキシエチレン鎖の単位構造(POE)の繰り返し数(繰り返し単位構造数)をnとすると、本発明の水硬性組成物に含まれる変性ポリカルボン酸系流動化剤aでは、繰り返し単位構造数nが30〜50の範囲であることが好ましく、繰り返し単位構造数nが35〜48であることがより好ましく、nが40〜45であることがさらに好ましい。繰り返し単位構造数nは具体的には、42であることができる。
【0035】
構造単位Cのカルボン酸エステルの側鎖の長さは、好ましくは30〜70nm、より好ましくは35〜65nmである。
【0036】
本発明の水硬性組成物に含まれる変性ポリカルボン酸系流動化剤aを構成するポリマーの、構造単位Aの数と、構造単位Cの数との割合(構造単位Aの数:構造単位Cの数)は、好ましくは9:1〜5:5、より好ましくは8:2〜6:4、さらに好ましくは7.5:2.5〜6.5:3.5である。構造単位Aの数と、構造単位Cの数との割合(構造単位Aの数:構造単位Cの数)は、具体的には、7:3であることができる。
【0037】
本発明の水硬性組成物に含まれる変性ポリカルボン酸系流動化剤aを構成するポリマーは、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置によりNa量の測定をした場合、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを構成するポリマー中のNa量が、好ましくは3000〜20000μg/g、より好ましくは5000〜15000μg/g、さらに好ましくは7500〜12500μg/g、特に好ましくは9000〜11000μg/gであることが好ましい。変性ポリカルボン酸系流動化剤aを構成するポリマー中のNa量は、具体的には、9900μg/gであることができる。
【0038】
本発明の水硬性組成物が変性ポリカルボン酸系流動化剤aを含むことにより、本発明の水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタルは、流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を得ることができる水硬性モルタルを提供することができる。
【0039】
本発明で用いる変性ポリカルボン酸系流動化剤aとしては、粉末状のものを好ましく用いることができる。
【0040】
本発明の水硬性組成物中の変性ポリカルボン酸系流動化剤aの添加量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜5質量部、より好ましくは0.01〜3質量部、さらに好ましくは0.03〜2質量部、特に好ましくは0.05〜1質量部の範囲である。添加量が余り少ないと水硬性成分を速やかに分散させる効果が乏しくなって充分な効果が発現せず、また多すぎても添加量に見合った効果は期待できず単に不経済であるだけでなく、流動性の経時変化やモルタルの粘稠性が大きくなることがあることから好ましくない。
【0041】
なお、一般的な流動化剤としては、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、リグニンスルホン酸系、ポリエーテル系及びポリエーテルポリカルボン酸などの流動化剤を挙げることができる。本発明の水硬性組成物は、本発明の特性を失わない範囲で、変性ポリカルボン酸系流動化剤aに加えて一般的な流動化剤を含むことができる。しかしながら、本発明の水硬性組成物の特性をより良く発揮するためには、本発明の水硬性組成物に含まれる流動化剤は、変性ポリカルボン酸系流動化剤aであることが好ましい。
【0042】
本発明の水硬性組成物では、変性ポリカルボン酸系流動化剤aと、特定の粒度構成を有する細骨材とを併せて使用することにより、水硬性組成物と水とを混練して速やかに良好な流動特性を有する水硬性モルタルを得ることができる。
【0043】
本発明の水硬性組成物は、必須成分のひとつとして膨張材を含む。本発明の水硬性組成物に含まれる膨張材としては、金属粉等の金属系膨張材や石灰類等の無機系膨張材を用いることが好ましく、特に金属系膨張材及び無機系膨張材を併用して用いることが好ましい。
【0044】
本発明の水硬性組成物中の金属系膨張材の添加量は、用いる水硬性成分により本発明の特性を損なわない範囲で添加することができる。具体的には、本発明の水硬性組成物中の金属系膨張材の添加量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.0002〜0.01質量部、より好ましくは0.0005〜0.008質量部、さらに好ましくは0.0008〜0.006質量部、特に0.001〜0.005質量部の範囲とすることが好ましい。
【0045】
本発明の水硬性組成物中の無機系膨張材の添加量は、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは2〜25質量部、さらに好ましくは3〜20質量部、特に好ましくは4〜15質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0046】
金属系膨張材としては、アルミニウム粉、鉄粉などの金属粉を使用することができるが、中でも比重の面から、アルミニウム粉を使用することが特に好ましい。アルミニウム粉は、JIS・K5906:1998「塗装用アルミニウム顔料」の第2種に準ずるものを好適に使用することができる。
【0047】
無機系膨張材としては、カルシウムサルフォアルミネート系ではアウイン、石灰系では生石灰、生石灰−石膏系及び仮焼ドロマイト等が挙げられ、これらから選ばれた少なくとも1種を使用することができる。石灰系膨張材としては、生石灰又は生石灰−石膏系を用いることが好ましく、特に生石灰−石膏系を用いることが好ましい。無機系膨張材としては、例えば遊離生石灰を膨張成分として含むものや、カルシウムサルフォアルミネート等のエトリンガイト形成物質を膨張成分とする市販品を使用することができる。好ましい膨張材としては、収縮補償効果とともに反応時の水和発熱によって低温環境下の強度増強効果を有する生石灰を有効成分として含む膨張材が特に好ましい。この場合、膨張材中の生石灰含有量は特に限定されないが、生石灰含有量が高いもの(100質量%を含む)では水和反応が急激に進行することがあるので、膨張材中の生石灰含有量は80質量%以下であることが好ましい。
【0048】
本発明の水硬性組成物は、水硬性成分、細骨材、変性ポリカルボン酸系流動化剤a及び膨張材の他に、必要に応じて本発明の特性を失わない範囲で凝結調整剤、増粘剤、消泡剤及び樹脂粉末などの成分の中から選択される少なくとも1種以上を含むことができる。
【0049】
本発明の水硬性組成物に添加することのできる樹脂粉末としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体及びアクリル系重合体などから選択される乳化重合した高分子エマルジョンを噴霧乾燥して調製した樹脂粉末などを用いることができる。
【0050】
本発明の水硬性組成物に添加することのできる凝結調整剤は、用いる水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができる。凝結促進剤及び凝結遅延剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択することによって、水硬性モルタルの流動性、可使時間、硬化性状などを調整することができる。
【0051】
本発明の水硬性組成物に添加することのできる増粘剤は、セルロース系、蛋白質系、ラテックス系及び水溶性ポリマー系などから選択して用いることができ、特にセルロース系増粘剤などを用いることができる。増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができる。増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、水硬性成分や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、グラウト用途の水硬性モルタルとしての特性を向上させるために好ましい。
【0052】
本発明の水硬性組成物に添加することのできる消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることができる。消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができる。
【0053】
本発明では、水硬性成分と、変性ポリカルボン酸系流動化剤aと、膨張材とを含み、さらに細骨材を含むことができ、さらに必要に応じて、凝結調整剤、増粘剤、消泡剤及び粉末樹脂等から選択される成分を添加し、混合機で混合し、水硬性組成物のプレミックス粉体を得ることができる。水硬性組成物のプレミックス粉体を用いることにより、施工現場での水硬性モルタルの調製の煩雑さや品質変動を回避することができる。本発明の水硬性組成物のプレミックス粉体を得るためには、水硬性組成物の各構成成分は粉末状のものを選択して使用する。
【0054】
本発明の水硬性組成物は、所定量の水と混練することによって速やかに良好な流動特性を有し、材料分離抵抗性に優れた水硬性モルタルを調製することができる。本発明では、混練条件A(20℃)又は混練条件A(35℃)の条件で水硬性組成物と水とを混練し、混練操作によって得られる水硬性モルタルの流動特性をJ14ロート流下値及びフロー値によって評価する。
【0055】
14ロート流下値(秒)は、土木学会充てんモルタル試験方法(JSCE・F541−1999)に準拠して、グラウトスラリーのJ14ロート法による流下値を示す。
【0056】
本発明の水硬性組成物は、水と混合して調製した水硬性モルタルのフロー値(建築改修工事監理指針に記載の簡易テーブルフロー試験方法に準拠して測定)が、好ましくは180〜270mm、より好ましくは190〜260mm、さらに好ましくは200〜250mmに調整されていることが好ましい。フロー値が上記範囲であることにより、水硬性モルタルは、施工の容易さ及び優れた流動性を有し、特に卓越したモルタル流動速度を安定して発揮させて、水平レベル精度が高くスラリー同士の合流箇所の馴染み性が優れる。
【0057】
混練条件A(20℃)とは、20℃において2Lポリ容器に所定量の水を入れ、タービン羽根を取り付けた0.15KW攪拌機を使用し、300rpmで攪拌しながら水硬性組成物100質量部を全量投入後(粉体1500g)、780rpmで2分間混練して、J14ロート値が6〜10秒となるように水硬性モルタルを調製するものである。
【0058】
混練条件A(35℃)とは、水硬性モルタルを調整する際の温度が35℃である以外は、混練条件A(20℃)と同様に、水硬性モルタルを調製するものである。
【0059】
本明細書では、所定の水硬性モルタルのJ14ロート流下値及びフロー値を、下記の記号で示す。
水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタルのJ14ロート流下値をXJ0とする。
水硬性組成物を混練条件A(35℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタルのJ14ロート流下値をYJ0とする。
水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した後、20分間練置きしたときの水硬性モルタルのJ14ロート流下値をXJ20とする。
水硬性組成物を混練条件A(35℃)の条件で混練して調製した後、20分間練置きしたときの水硬性モルタルのJ14ロート流下値をYJ20とする。
水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタルのフロー値をXF0とする。
水硬性組成物を混練条件A(35℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタルのフロー値をYF0とする。
水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した後、20分間練置きしたときの水硬性モルタルのフロー値をXF20とする。
水硬性組成物を混練条件A(35℃)の条件で混練して調製した後、20分間練置きしたときの水硬性モルタルのフロー値をYF20とする。
【0060】
本発明の水硬性組成物を用いるならば、J14ロート流下値の温度依存性、すなわち、
水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタルのJ14ロート流下値XJ0と、水硬性組成物を混練条件A(35℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタルのJ14ロート流下値YJ0とのJ14ロート流下値の温度依存性の比率(YJ0/XJ0
並びに、
水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した後、20分間練置きしたときの水硬性モルタルのJ14ロート流下値XJ20と、水硬性組成物を混練条件A(35℃)の条件で混練して調製した後、20分間練置きしたときの水硬性モルタルのJ14ロート流下値YJ20とのJ14ロート流下値の温度依存性の比率(YJ20/XJ20)が、
好ましくはYJ0/XJ0(又はYJ20/XJ20)=0.8〜1.15の範囲であり、
より好ましくはYJ0/XJ0(又はYJ20/XJ20)=0.85〜1.13の範囲であり、
さらに好ましくはYJ0/XJ0(又はYJ20/XJ20)=0.9〜1.1の範囲である水硬性モルタルを得ることができる。
【0061】
J0/XJ0及びYJ20/XJ20が上記範囲であることにより、温度が変化した場合にも、水硬性モルタルの流動特性は大きく変化しない。そのため、水硬性モルタルをポンプ圧送してスラリーホースを介して長距離を圧送した場合には、温度変化による流動性状の変化しにくくなり、流動性状が安定するために、圧送距離によって流動特性が異なることはなく、また、スラリーホースの閉塞を防止することができる。
【0062】
本発明の水硬性組成物を用いるならば、J14ロート流下値の可使時間、すなわち、
水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタルのJ14ロート流下値XJ0と、水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した後、20分間練置きしたときの水硬性モルタルのJ14ロート流下値XJ20との比率(XJ20/XJ0
並びに、
水硬性組成物を混練条件A(35℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタルのJ14ロート流下値YJ0と、水硬性組成物を混練条件A(35℃)の条件で混練して調製した後、20分間練置きしたときの水硬性モルタルのJ14ロート流下値YJ20とのJ14ロート流下値保持性の比率(YJ20/YJ0)が、
好ましくはXJ20/XJ0(又はYJ20/YJ0)=0.8〜1.8の範囲であり、
より好ましくはXJ20/XJ0(又はYJ20/YJ0)=0.9〜1.7の範囲であり、
さらに好ましくはXJ20/XJ0(又はYJ20/YJ0)=1.0〜1.6の範囲である水硬性モルタルを得ることができる。
【0063】
J20/XJ0及びYJ20/YJ0が上記範囲であることにより、混練から時間が経過した場合にも、水硬性モルタルの流動特性は大きく変化しない。そのため、水硬性モルタルをポンプ圧送してスラリーホースを介して長距離を圧送した場合には、時間経過による流動性状の変化しにくくなり、流動性状が安定するために、圧送距離によって流動特性が異なることはなく、また、スラリーホースの閉塞を防止することができる。
【0064】
本発明の水硬性組成物を用いるならば、フロー値の温度依存性、すなわち、
水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタルのフロー値XF0と、水硬性組成物を混練条件A(35℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタルのフロー値YF0とのフロー値の温度依存性の比率(YF0/XF0
並びに、
水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した後、20分間練置きしたときの水硬性モルタルのフロー値XF20と、水硬性組成物を混練条件A(35℃)の条件で混練して調製した後、20分間練置きしたときの水硬性モルタルのフロー値をYF20とのフロー値の温度依存性の比率(YF20/XF20)が、
好ましくはYF0/XF0(又はYF20/XF20)=0.62〜1.3の範囲であり、
より好ましくはYF0/XF0(又はYF20/XF20)=0.64〜1.2の範囲であり、
さらに好ましくはYF0/XF0(又はYF20/XF20)=0.66〜1.1の範囲である水硬性モルタルを得ることができる。
【0065】
F0/XF0及びYF20/XF20が上記範囲であることにより、温度が変化した場合にも、水硬性モルタルの流動特性は大きく変化しない。そのため、水硬性モルタルをポンプ圧送してスラリーホースを介して長距離を圧送した場合には、温度変化による流動性状の変化しにくくなり、流動性状が安定するために、圧送距離によって流動特性が異なることはなく、また、スラリーホースの閉塞を防止することができる。
【0066】
本発明の水硬性組成物を用いるならば、フロー値の可使時間、すなわち、
水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した後、20分間練置きしたときの水硬性モルタルのフロー値XF0と、水硬性組成物を混練条件A(20℃)の条件で混練して調製した後、20分間練置きしたときの水硬性モルタルのフロー値XF20とのフロー値保持性の比率(XF20/XF0
並びに、
水硬性組成物を混練条件A(35℃)の条件で混練して調製した直後の水硬性モルタルのフロー値YF0と、水硬性組成物を混練条件A(35℃)の条件で混練して調製した後、20分間練置きしたときの水硬性モルタルのフロー値YF20とのフロー値保持性の比率(YF20/YF0)が、
好ましくはXF20/XF0(又はYF20/YF0)=0.72〜1.3の範囲であり、
より好ましくはXF20/XF0(又はYF20/YF0)=0.8〜1.2の範囲であり、
さらに好ましくはXF20/XF0(又はYF20/YF0)=0.9〜1.1の範囲である水硬性モルタルを得ることができる。
【0067】
F20/XF0及びYF20/YF0が上記範囲であることにより、混練から時間が経過した場合にも、水硬性モルタルの流動特性は大きく変化しない。そのため、水硬性モルタルをポンプ圧送してスラリーホースを介して長距離を圧送した場合には、時間経過による流動性状の変化しにくくなり、流動性状が安定するために、圧送距離によって流動特性が異なることはなく、また、スラリーホースの閉塞を防止することができる。
【0068】
本発明の水硬性組成物を構成する場合に、特に好適な成分構成は、ポルトランドセメントを含む水硬性成分、特定の粒度構成を有する細骨材、変性ポリカルボン酸系流動化剤aの粉末状の流動化剤、無機系膨張材を含むものである。
【0069】
本発明の水硬性組成物は、図1に示すような混練装置を用いて、又は、混練機構を有するミキサー設備を用いて、水と混練することにより、安定して良好な流動性を有する水硬性モルタルを製造することができる。また、本発明の水硬性組成物は水と定量的かつ連続的に混練装置に供給され、又は、混練機構を有するミキサー設備に供給されて、速やかに混練されて安定した流動性状を有するスラリーを得ることができることから、連続的に流動性が安定して良好な水硬性モルタルを大量に製造することができる。さらに、大規模な現場で大量の水硬性モルタルを限られた期間内に施工する場合には、特に、水硬性モルタルを連続的に製造し、離れた施工場所へ供給・施工できる図2の模式図に示すような水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性モルタル調製・施工用トラックを使用し、該トラックに搭載した連続混練ミキサー(図1)を用いて、水硬性組成物と水とを連続的に混練して水硬性モルタルを連続的に調製し、該トラックに搭載されたスラリーポンプによりスラリーホースを介して水硬性モルタルを施工箇所へ連続的に供給・打設する水硬性モルタルの施工方法が施工効率及び施工品質において極めて有効である。本発明の水硬性組成物は、所定量の水と速やかに混練され、安定して優れた流動性状と良好な材料分離抵抗性とを有する水硬性モルタルを得ることができ、水硬性モルタルは、流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を得ることができることから、前記の水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性モルタル調製・施工用トラックを使用した施工方法に好適に用いることができる。
【0070】
本発明の水硬性組成物は、水の添加量を調整することにより、水硬性モルタルの流動性、材料分離抵抗性などを、さらに硬化して得られる硬化体の強度などを調整することができる。水の添加量は、用いる水硬性成分又は水硬性組成物に応じて、適宜選択して用いることができる。水の添加量は、水硬性成分又はグラウト組成物100質量部に対し、好ましくは8〜50質量部、より好ましくは9〜40質量部、さらに好ましくは10〜30質量部、特に好ましくは11〜25質量部加えて用いることが好ましい。
【0071】
本発明の水硬性モルタルは、トンネルやシールドの裏込め、ダムの継ぎ目、橋梁のシュウ、構造物の補修や補強、鉄筋継手、機械基礎の固定、下水道の補修等、土木・建築分野の構造物(水硬性モルタル構造物)を施工するための各種工事において、高流動性、無収縮性及び高強度といった性能を有することからその利用価値は大きい。特に、大規模な現場で大量のグラウチングを行うような場合に、連続的に水硬性モルタルを調製して、連続的に施工箇所へ供給・打設し施工する場合にその性能を発揮するものである。本発明の水硬性モルタルは、流動特性の温度依存性が小さく、広い温度範囲にわたって長い可使時間を有することができるので、広い気温の範囲にわたって同様な手順で水硬性モルタルを調製し、施工することができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0073】
(特性の評価方法)
1)J14ロート流下値:
14ロート流下値(秒)は、土木学会充てんモルタル試験方法(JSCE・F541−1999)に準拠して測定した。
【0074】
2)フロー値:
フロー値(mm)は、建築改修工事監理指針に記載の簡易テーブルフロー試験方法に準拠して測定した。すなわち、厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ102mmの塩化ビニル製パイプ(内容積200ml)を置き、練り混ぜた水硬性モルタルを充填した後、パイプを引き上げた。広がりが静止した後、直角2方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とした。
【0075】
3)混練条件A(20℃):
20℃において2Lポリ容器に所定量の水を入れ、タービン羽根を取り付けた0.15KW攪拌機(新東科学社製、品番:スリーワンモータBL600)を使用し、300rpmで攪拌しながら水硬性組成物(粉体1500g)を全量投入後、780rpmで所定時間(2分間)混練して、J14ロート値が6〜10秒となるように水硬性モルタルを調製することを混練条件A(20℃)とする。
【0076】
4)混練条件A(35℃):
水硬性モルタルを調整する際の温度が35℃である以外は、混練条件A(20℃)と同様に、水硬性モルタルを調製することを混練条件A(35℃)とする。
【0077】
原料は以下のものを使用した。
【0078】
1)水硬性成分:
・ポルトランドセメント(宇部早強セメント、ブレーン比表面積4500cm/g)。比表面積の評価法は、JIS・R5201−1997に規定されているブレーン空気透過装置を用いて測定されたものである。
【0079】
2)細骨材:
・珪砂A:4号、JFEミネラル社製。
・珪砂B:SN50、瓢屋社製。
・珪砂C:SN70、瓢屋社製。
なお、表2に示す実施例及び比較例では、細骨材の粒度は特定の粒度構成のものを用いた。すなわち、所定割合の珪砂A、珪砂B及び珪砂Cを混合することにより、表2に示す実施例及び比較例で用いた細骨材の粒度は、細骨材100質量%中に、30μm以上〜150μm未満の粒子を5.0〜30.0質量%含み、150μm以上〜600μm未満の粒子を25.0〜55.0質量%含み、600μm以上〜2000μm未満の粒子を25.0〜60.0質量%含むものだった。
【0080】
3)膨張材:
・無機系膨張材a:太平洋ジプカル(太平洋マテリアル社製)。
・無機系膨張材b:太平洋ハイパーエクスパン(太平洋マテリアル社製)。
・金属系膨張材:アルミニウム粉(粒度44μm以下を60質量%以上含有、大和金属粉工業社製)。
【0081】
4)流動化剤:
・流動化剤A:変性ポリカルボン酸系流動化剤a(構造単位A、構造単位B及び構造単位Cを含む変性ポリカルボン酸の流動化剤である。構造単位Cは、ポリオキシエチレン鎖を有するカルボン酸エステルの側鎖を有する。その他、詳細を表1に示す。)
・流動化剤B:変性ポリカルボン酸系流動化剤、Melflux(登録商標)AP101F(BASFポゾリス社製。構造単位A、構造単位B及び構造単位Cを含む変性ポリカルボン酸の流動化剤である。構造単位Cは、ポリオキシエチレン鎖を有するカルボン酸エステルの側鎖を有する。その他、詳細を表1に示す。)
【0082】
【表1】

【0083】
5)増粘剤:メチルセルロース系増粘剤、ハイユーローズ(宇部興産株式会社製)。
【0084】
(比較例1〜2、実施例1〜2)
表2に示す配合割合で水硬性組成物と水とを混練条件A(20℃)及び混練条件A(35℃)にしたがって混練し、780rpmで2分間混練したスラリーの水硬性モルタルを調製し、混練直後及び混練後20分間練置きしたときのJ14ロート流下値(秒)及びフロー値を測定した。J14ロート流下値(秒)及びフロー値の測定結果を表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
(1)流動化剤A(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を用いた実施例1及び実施例2の場合、表2に示すように、混練直後のJ14ロート流下値の温度依存性の比率(YJ0/XJ0)が、0.92〜1.00の範囲だった。これに対して、比較例では、J14ロート流下値の温度依存性の比率(YJ0/XJ0)が、0.94〜1.04の範囲だった。このことから、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを含む本発明の水硬性組成物を用いるならば、比較例と同様に、混練直後のJ14ロート流下値の温度依存性が少ないことが明らかとなった。
【0087】
(2)流動化剤A(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を用いた実施例1及び実施例2の場合、表2に示すように、20分間練置き後のJ14ロート流下値の温度依存性の比率(YJ20/XJ20)が、0.99〜1.00の範囲だった。これに対して、比較例では、J14ロート流下値の温度依存性の比率(YJ20/XJ20)が、1.15より大きい値だった。このことから、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを含む本発明の水硬性組成物を用いるならば、20分間練置き後のJ14ロート流下値の温度依存性が少ないことが明らかとなった。
【0088】
(3)流動化剤A(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を用いた実施例1及び実施例2の場合、表2に示すように、20℃でのJ14ロート流下値保持性の比率(XJ20/XJ0)が、1.27〜1.28の範囲だった。これに対して、比較例1及び比較例2では、J14ロート流下値の温度依存性の比率(XJ20/XJ0)が、1.49〜1.63の範囲だった。このことから、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを含む本発明の水硬性組成物を用いるならば、20℃でのJ14ロート流下値保持性の時間変化が小さいことが明らかとなった。
【0089】
(4)流動化剤A(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を用いた実施例1及び実施例2の場合、表2に示すように、35℃でのJ14ロート流下値保持性の比率(YJ20/YJ0)が、1.26〜1.39の範囲だった。これに対して、比較例1及び比較例2では、J14ロート流下値の温度依存性の比率(YJ20/YJ0)が、1.83より大きい値だった。このことから、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを含む本発明の水硬性組成物を用いるならば、35℃でのJ14ロート流下値保持性の時間変化が小さいことが明らかとなった。
【0090】
(5)流動化剤A(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を用いた実施例1及び実施例2の場合、表2に示すように、混練直後のフロー値の温度依存性の比率(YF0/XF0)が、0.71〜0.78の範囲だった。これに対して、比較例1及び比較例2では、J14ロート流下値の温度依存性の比率(YF0/XF0)が、0.76〜0.77の範囲だった。このことから、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを含む本発明の水硬性組成物を用いるならば、比較例と同様に、混練直後のフロー値の温度依存性が少ないことが明らかとなった。
【0091】
(6)流動化剤A(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を用いた実施例1及び実施例2の場合、表2に示すように、20分間練置き後のフロー値の温度依存性の比率(YF20/XF20)が、0.74〜0.84の範囲だった。これに対して、比較例1及び比較例2では、J14ロート流下値の温度依存性の比率(YF20/XF20)が、0.62より小さい値だった。このことから、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを含む本発明の水硬性組成物を用いるならば、20分間練置き後のフロー値の温度依存性が少ないことが明らかとなった。
【0092】
(7)流動化剤A(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を用いた実施例1及び実施例2の場合、表2に示すように、20℃でのフロー値保持性の比率(XF20/XF0)が、0.97〜0.99の範囲だった。これに対して、比較例1及び比較例2では、J14ロート流下値の温度依存性の比率(XF20/XF0)が、0.86〜0.87の範囲だった。このことから、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを含む本発明の水硬性組成物を用いるならば、20℃でのフロー値保持性の時間変化が小さいことが明らかとなった。
【0093】
(8)流動化剤A(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を用いた実施例1及び実施例2の場合、表2に示すように、35℃でのフロー値保持性の比率(YF20/YF0)が、1.03〜1.05の範囲だった。これに対して、比較例1及び比較例2では、J14ロート流下値の温度依存性の比率(YF20/YF0)が、0.71より小さい値だった。このことから、変性ポリカルボン酸系流動化剤aを含む本発明の水硬性組成物を用いるならば、35℃でのフロー値保持性の時間変化が小さいことが明らかとなった。
【0094】
表2に示す実施例及び比較例では、細骨材の粒度は特定の粒度構成のものを用いた。そのため、本発明の実施例では、J14ロート流下値が良好で、材料分離抵抗性に優れるものだった。流動化剤A(変性ポリカルボン酸系流動化剤a)を用いる本発明の実施例の場合には、J14ロート流下値が良好で、材料分離抵抗性に優れるため、優れたポンプ圧送性が得られていることが推測される。
【符号の説明】
【0095】
10:混練スクリュー
11:スラリー製造・供給装置
12:水硬性組成物
13:ホッパー
14:ホッパースクリュー
15:給水口
16:混練装置(ミキサー)
17:混練スクリュー
18:モルタル(スラリー)排出口
19:モルタル(スラリー)
20:リザーバータンク
21:モルタル(スラリー)
22:スターラースクリュー(螺旋形状撹拌羽根)
23:移送スクリュー
24:スネークポンプ(スラリーポンプ)
25:モルタル(スラリー)
26、27、28:モーター
29、30:動力伝達ベルト
31:水硬性モルタル調製・施工用トラック
32:水硬性組成物の供給口
33:水硬性組成物タンク
34:水硬性モルタル
35:混練装置(ミキサー)
36:ホッパー
37:水硬性組成物
38:スクリューフィーダー
39:水タンク
40:水供給ポンプ
41:水供給パイプ
42:水硬性モルタルタンク(リザーバータンク)
43:スラリーポンプ
44:スラリーホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性成分と、流動化剤と、膨張材とを含む水硬性組成物であって、
流動化剤が、変性ポリカルボン酸系流動化剤であり、変性ポリカルボン酸系流動化剤を構成するポリマーが、ポリオキシエチレン鎖を有するカルボン酸エステルの側鎖を含み、ポリオキシエチレン鎖の繰り返し単位構造数nが30〜50である、水硬性組成物。
【請求項2】
水硬性組成物が細骨材をさらに含み、細骨材は、細骨材100質量%中に、30μm以上〜150μm未満の粒子を5〜30質量%含み、150μm以上〜600μm未満の粒子を25〜55質量%含み、600μm以上〜2000μm未満の粒子を25〜60質量%を含む、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
水硬性組成物が、水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性モルタル調製・施工用トラックに搭載したミキサーを用いて、水硬性組成物と水とを連続的に混練して水硬性モルタルを調製し、前記トラックに搭載されたスラリーポンプによりスラリーホースを介して水硬性モルタルを施工箇所へ連続的に供給・打設して硬化させるモルタル施工方法に用いられる、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタル。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタルを硬化させて得られる水硬性モルタルの硬化体。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性モルタル調製・施工用トラックに搭載したミキサーを用いて、水硬性組成物と水とを連続的に混練して水硬性モルタルを調製する工程と、前記トラックに搭載されたスラリーポンプによりスラリーホースを介して水硬性モルタルを施工箇所へ連続的に供給・打設して硬化させる工程とを含む、水硬性モルタル構造物の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−207668(P2011−207668A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76902(P2010−76902)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】