説明

水系インク

【課題】高温安定性及び長期保存安定性に優れたインクジェット記録用水分散体及びその製造方法並びに前記水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクを提供する。
【解決手段】着色剤を含有し、リチウム化合物で中和されてなる酸性基を有する、水不溶性ポリマー粒子のインクジェット記録用水分散体、及び酸性基を有する水不溶性ポリマー、有機溶媒、リチウム化合物、着色剤、及び水を含有する混合物を分散処理した後に、前記有機溶媒を除去する該インクジェット記録用水分散体の製造方法、並びに前記水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録用水分散体及びその製造方法並びに前記水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用水系インクの着色剤には、これまで、水溶性染料が多く使用されている。水溶性染料は、色調の範囲が広く、色再現性に優れていることから、写真印刷に適した着色剤として用いられている。
【0003】
水溶性染料は、耐水性に劣るため、これを改善するために、水溶性染料を含有させた樹脂粒子の水分散体を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、有機顔料やカーボンブラックなどの水不溶性着色剤を用いた水系インクは、微粒子化した着色剤を水中に安定に分散させなければならず、保存安定性の確保が難しい。
この保存安定性を改善するために、強塩基性物質とトルエンスルホンアミド系添加剤を含有させる方法(例えば、特許文献2参照)、糖類及び尿素を含有し、インク中に含まれる水溶性樹脂の量が顔料に対して5重量%以下であるようにする方法(例えば、特許文献3参照)などの手法によって保存安定性の確保が行われている。しかしながら、これらのように塩や有機物といった低分子水溶性添加物を加えて安定性を確保する方法では、それによって印字物が吸水し、印字物の耐水性を悪化させるなどの問題があった。したがって、低分子水溶性添加物を加えることなく、水不溶性着色剤を用いたインクの保存安定性を高める方法が望まれていた。
【0004】
さらに、リチウムイオンを含有する水性インクとして、水に分散または溶解する着色剤、湿潤剤およびカルボキシル基を親水基として有する水溶性高分子化合物を含有し、リチウムカチオンを水溶性高分子のカルボキシル基の対イオンとして含有する水性インク(例えば、特許文献4参照)、リチウムカチオンをカウンターイオンとする染料以外のアニオン性化合物を含有する水性インク組成物(例えば、特許文献5参照)、水と、モノマーと、乳化剤と、重合開始剤とを混合して乳化重合反応させ、その後に、一価の無機水酸化物、例えば水酸化リチウムを添加して、pH値を中性〜アルカリ性の範囲に調製することを含んでなる、ポリマーエマルジョンの製造方法(例えば、特許文献6参照)が提案されている。
【0005】
【特許文献1】国際公開第00/39226号パンフレット
【特許文献2】特開平04−246479号公報
【特許文献3】特開平07−145335号公報
【特許文献4】特開平05−239390号公報
【特許文献5】特開2001−254040公報
【特許文献6】特開2003−82024公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記先行文献には、水不溶性ポリマーを用いた水系インクについてはなんら記載がない。
本発明は、高温安定性及び長期保存安定性に優れたインクジェット記録用水分散体及びその製造方法並びに前記水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、着色剤を含有し、リチウム化合物で中和されてなる酸性基を有する、水不溶性ポリマー粒子のインクジェット記録用水分散体及び酸性基を有する水不溶性ポリマー、有機溶媒、リチウム化合物、着色剤、及び水を含有する混合物を分散処理した後に、前記有機溶媒を除去する該インクジェット記録用水分散体の製造方法並びに前記水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温安定性及び長期保存安定性に優れたインクジェット記録用水分散体及びその製造方法並びに前記水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(酸性基を有する水不溶性ポリマー(以下単に、水不溶性ポリマーという))
本発明で用いられる水不溶性ポリマーは、その酸性基を、水酸化リチウムで100%の中和度になるように中和した水分散体を、105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解度が2g以下であり、好ましくは1g以下であるポリマーを意味する。
該水不溶性ポリマーは、酸性基を有するものであり、酸性基としては、カルボキシ基(-COOH)、リン酸基(-OPO32)、ホスホン酸基(-PO32)、スルホン酸基(−SO3H)が好ましい。
該水不溶性ポリマーは、(A)酸性基含有モノマー(以下、(A)成分ということがある)、(B)マクロマー(以下、(B)成分ということがある)及び(C)疎水性モノマー(以下、(C)成分ということがある)を含むモノマー混合物を共重合させてなる水不溶性ビニルポリマーが好ましい。
【0010】
(A)成分である酸性基含有モノマーは、得られる分散体の安定性を高めるために用いられる。酸性基含有モノマーとしては、アニオン性モノマー等が挙げられる。
その例として、特開平9−286939号公報5頁7欄24行〜8欄29行に記載されているもの等が挙げられる。
アニオン性モノマーの代表例としては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
不飽和カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
不飽和スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸エステル、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
不飽和リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
アニオン性モノマーの中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
カチオン性モノマーは、本発明の目的を損なわない範囲で用いることができ、例えば、不飽和アミン含有モノマー、不飽和アンモニウム塩含有モノマー等が挙げられる。これらの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(N',N'−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンが好ましい。
【0011】
(B)成分であるマクロマーは、水不溶性ポリマーの着色剤への親和性を高め、印字濃度を向上させるために用いられる。マクロマーとしては、数平均分子量500〜100000、好ましくは1000〜10000の重合可能な不飽和基を有するモノマーであるマクロマーが挙げられる。その中では、片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーが着色剤との親和性が高いことから好ましい。
なお、(B)成分の数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミン含有クロロホルムを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
(B)成分の具体例としては、片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマー、片末端に重合性官能基を有するシリコーン系マクロマー及び片末端に重合性官能基を有するマクロマーで、好ましくは炭素数1〜4の、アクリル(メタ)アクリレート系マクロマー(片末端に重合性官能基を有するメチルメタクリレート系マクロマー、片末端に重合性官能基を有するブチルアクリレート系マクロマー、片末端に重合性官能基を有するイソブチルメタクリレート系マクロマー等)が挙げられる。これらマクロマーの中では、得られる水不溶性ポリマーに顔料を十分に含有させる観点から、片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーが好ましい。
【0012】
片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有するスチレン単独重合体及び片末端に重合性官能基を有する、スチレンと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。
片末端に重合性官能基を有する、スチレンと他のモノマーとの共重合体において、他のモノマーとしては、例えば、(1)アクリロニトリル、(2)エステル部分が炭素数1〜18のアルキル基である、ヒドロキシ基を有していてもよい、(メタ)アクリル酸エステル、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等及び(3)スチレン以外の炭素数6〜22の芳香族炭化水素基を有するビニルモノマーが好ましく、例えば、α―メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、4−ビニルビフェニル、1,1−ジフェニルエチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−アクリロイロキシエチルフタル酸等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
スチレン系マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有するスチレン単独重合体又はスチレンと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。これらの中では、片末端に重合性官能基としてアクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有するものが好ましい。マクロマー中におけるスチレン含有量は、着色剤との親和性を高くさせる観点から、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。
片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーの中では、片末端に重合性官能基としてアクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有するスチレン系マクロマーが好ましい。
商業的に入手しうるスチレン系マクロマーとしては、例えば、東亜合成株式会社の商品名、AS−6、AS−6S、AN−6、AN−6S、HS−6、HS−6S等が挙げられる。
【0013】
片末端に重合性官能基を有するシリコーン系マクロマーの中では、式(II)で表されるシリコーンマクロマーが、インクジェットプリンターのヘッドの焦げ付きを防止する観点から好ましい。
X(Y)qSi(R43-r(Z)r (II)
(式中、Xは重合可能な不飽和基、Yは2価の結合基、R4はそれぞれ独立に、水素原子、低級アルキル基、アリール基又はアルコキシ基、Zは500以上の数平均分子量を有する1価のシロキサンポリマーの残基、qは0又は1、rは1〜3の整数を示す)。
【0014】
(C)成分である疎水性モノマーは、耐水性、耐擦過性、耐マーカー性及び耐ブリード性等を高めるために用いられる。疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香環含有モノマー等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜22のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
芳香環含有モノマーとしては、耐水性の観点から、スチレン、ビニルナフタレン、α―メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、4−ビニルビフェニル、1,1−ジフェニルエチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−アクリロイロキシエチルフタル酸及びネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステルからなる群より選ばれた1種以上が好ましい。これらの中では炭素数6〜22の芳香族炭化水素基を有するビニルモノマーが好ましく、印字濃度及び耐マーカー性向上の観点から、スチレン系モノマーが好ましい。スチレン系モノマーとしては、スチレン及び2−メチルスチレンが好ましく、これらは単独で用いてもよく、併用してもよい。この場合、(C)成分におけるスチレン系モノマーの含有量は、印字濃度及び耐マーカー性向上の観点から、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは40〜100重量%である。
【0015】
なお、本明細書にいう「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在している場合とそうでない場合の双方を意味し、これらの基が存在していない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを示す。
【0016】
モノマー混合物には、さらに、(D)水酸基含有モノマー(以下、(D)成分ということがある)が含有されていてもよい。
【0017】
(D)成分である水酸基含有モノマーは、分散安定性を高め、また印字した際に短時間で耐マーカー性を向上させるという優れた効果を発現するものである。
該(D)成分としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール(n=1〜15)・プロピレングリコール(n=1〜15))(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0018】
モノマー混合物には、さらに、(E)式(I)で表されるモノマー(以下、(E)成分ということがある)が含有されていてもよい。
CH2C=C(R1)COO(R2O)p3 (I)
(式中、R1は水素原子又は低級アルキル基;R2はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基;R3は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の1価の炭化水素基;pは、平均付加モル数を意味し、1〜60の数を示す)。
(E)成分である、式(I)で表されるモノマーは、水性インクの吐出安定性を高め、連続印字してもヨレの発生を抑制するという優れた効果を発現するものである。
式(I)において、R1は水素原子又は炭素数1〜5の低級アルキル基であり、R2は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基である。ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子及び硫黄原子が挙げられる。
該R2の代表例としては、置換基を有していてもよい炭素数6〜30の芳香族環、置換基を有していてもよい炭素数3〜30のヘテロ環及び置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキレン基が挙げられ、これらの環又は基は2種以上を組合わせたものであってもよい。置換基としては、炭素数6〜29の芳香族環、炭素数3〜29のヘテロ環、炭素数1〜29のアルキル基、ハロゲン原子、アミノ基等が挙げられる。
2の好適な例としては、炭素数1〜24の置換基を有していてもよいフェニレン基、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20の脂肪族アルキレン基、芳香族環を有する炭素数7〜30のアルキレン基及びヘテロ環を有する炭素数4〜30のアルキレン基が挙げられる。
また、R2O基の好適な例としては、オキシエチレン基、オキシ(イソ)プロピレン基、オキシテトラメチレン基、オキシヘプタメチレン基、オキシヘキサメチレン基及びこれらオキシアルキレンの1種以上の組合せからなる炭素数2〜7のオキシアルキレン基やオキシフェニレン基が挙げられる。
3は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の1価の炭化水素基である。ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子が挙げられる。
3の代表例としては、置換基を有していてもよい炭素数6〜30の芳香族環、置換基を有していてもよい炭素数3〜30のヘテロ環、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基が挙げられる。置換基としては、炭素数6〜29の芳香族環、炭素数4〜29のヘテロ環、ハロゲン原子、アミノ基等が挙げられる。
該R3の好適な例としては、フェニル基、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20の脂肪族アルキル基、芳香族環を有する炭素数7〜30のアルキル基及びヘテロ環を有する炭素数4〜30のアルキル基が挙げられる。
該R3のより好適な例としては、メチル基、エチル基、(イソ)プロピル基、(イソ)ブチル基、(イソ)ペンチル基、(イソ)ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基等が挙げられる。
pは1〜60の数であるが、中でも1〜30の数が好ましい。
【0019】
(E)成分の具体例としては、メトキシポリエチレングリコール(1〜30:式(I)中のpの値を示す。以下、同じ)(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、(イソ)プロポキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上を混合して使用することができる。これらの中では、メトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、及びフェノキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレートが好ましい。
【0020】
水不溶性ビニルポリマー中の(A)成分の含有量は、得られる分散体の高温安定性及び長期保存安定性の観点から、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは2〜40重量%である。
水不溶性ビニルポリマー中の(B)成分の含有量は、水不溶性ポリマーの着色剤への親和性を高め、印字濃度を向上させる観点から、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは5〜20重量%である。
水不溶性ビニルポリマー中の(C)成分の含有量は、耐水性、耐擦過性、耐マーカー性及び耐ブリード性の観点から、好ましくは5〜98重量%、より好ましくは10〜60重量%である。
水不溶性ビニルポリマー中の(A)成分の含有量と(B)成分と(C)成分との合計含有量との重量比((A)/[(B)+(C)])は、得られる分散体の高温安定性、長期保存安定性、印字濃度等の観点から、好ましくは0.01〜1、より好ましくは0.02〜0.67である。
水不溶性ビニルポリマー中の(D)成分の含有量は、吐出安定性、印字濃度及び耐マーカー性との観点から、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは7〜20重量%である。
【0021】
水不溶性ビニルポリマー中の(A)成分と(D)成分との合計含有量は、水中での安定性及び耐水性の観点から、好ましくは6〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%である。
【0022】
水不溶性ビニルポリマー中の(E)成分の含有量は、吐出安定性及び分散安定性の観点から、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%である。
また、水不溶性ビニルポリマー中の(A)成分と(E)成分との合計含有量は、水中での分散安定性及び吐出安定性の観点から、好ましくは6〜75重量%、より好ましくは13〜50重量%である。
また、水不溶性ビニルポリマー中の(A)成分と(D)成分と(E)成分との合計含有量は、水中での分散安定性及び吐出安定性の観点から、好ましくは6〜60重量%、より好ましくは7〜50重量%である。
【0023】
水不溶性ビニルポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により、モノマー混合物を共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒としては、特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましい。また、極性有機溶媒を水と混合して用いることもできる。極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン又はこれらと水との混合液が好ましい。
【0024】
なお、重合の際には、ラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2'−アゾビスブチレート、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物が好適である。また、t−ブチルペルオキシオクトエート、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物を使用することもできる。
ラジカル重合開始剤の量は、モノマー混合物に対して、好ましくは0.001〜5モル%、より好ましくは0.01〜2モル%である。
【0025】
モノマー混合物の重合条件は、使用するラジカル重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるが、通常、重合温度は30〜100℃、好ましくは50〜80℃であり、重合時間は1〜20時間である。また、重合雰囲気は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、反応溶液から水不溶性ビニルポリマーを単離することができる。また、得られた水不溶性ビニルポリマーは、再沈澱を繰り返したり、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
水不溶性ビニルポリマーの重量平均分子量は、印刷後の耐水性、耐擦過性、耐マーカー性及び分散安定性の点から、好ましくは3000〜300、000、更に好ましくは10,000〜100,000、特に好ましくは10,000〜50,000である。
【0026】
本発明で用いられる水不溶性ポリマーは、酸性基含有モノマー由来の酸性基を、リチウム化合物で中和して用いる。リチウム化合物での酸性基の中和度は、得られる分散体の高温安定性及び長期保存安定性を向上させる観点から、10〜200%であることが好ましく、さらに20〜150%、特に50〜150%であることが好ましい。
ここで中和度は、下記式によって求めることができる。
[リチウム化合物の重量(g)/リチウム化合物の当量]/[ポリマーの酸価(KOHmg/g)×ポリマーの重量(g)/(56×1000)]×100
また、本発明の目的を損なわない限り、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカノールアミン、アンモニア等を用いて中和してもよい。
本発明で用いられる水不溶性ポリマーの酸価(KOHmg/g)は、分散性を高める観点から、7〜400が好ましく、15〜300が更に好ましい。酸価は、水不溶性ポリマーの構成単位から、計算で算出することができる。または、適当な溶剤(例えばメチルエチルケトン)に溶解して、滴定する方法でも求めることができる。
【0027】
(着色剤)
着色剤は染料、顔料のいずれでもよい。また、両者を任意の比率で混合して用いることもできる。中でも、近年要求が強い高耐候性の発現には、顔料を用いるのが好ましい。
顔料は、有機顔料及び無機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらに体質顔料を併用することもできる。
【0028】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー13、17、74、83、97、109、110、120、128、139、151、154、155、174、180;C.I.ピグメント・レッド48、57:1,122、146、176、184、185、188、202:C.I.ピグメント・バイオレット19、23;C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、60;C.I.ピグメント・グリーン7、36;等が挙げられる。
【0029】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。これらの中では、特に黒色水系インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
体質顔料としては、シリカ、炭酸カルシウム及びタルク等が挙げられる。
【0030】
顔料は、水系インクに使用する場合には、界面活性剤、水不溶性ポリマーを用いて、インク中で安定な微粒子にする必要がある。特に、耐水性、耐擦過性、耐マーカー性及び耐にじみ性の観点から、水不溶性ポリマーの粒子中に顔料を含有させることが好ましい。
【0031】
染料としては、疎水性染料が、水不溶性ポリマー中に含有させることができるため好ましい。疎水性染料の例としては、油性染料、分散染料等が挙げられる。疎水性染料の有機溶媒に対する溶解度は、水不溶性ポリマーに効率よく染料を含有させる観点から、水分散体の製造時に疎水性染料を溶解させるために使用される有機溶媒(好ましくメチルエチルケトン)に対して、2g/L以上が好ましく、20〜500g/L(25℃)がより好ましい。
【0032】
油性染料としては、特に限定されるものではないが、例えば、C.I.ソルベント・ブラック3、7、27、29、34、45;C.I.ソルベント・イエロー14、16、29、56、82、83:1;C.I.ソルベント・レッド1、3、8、18、24、27、43、49、51、72、73;C.I.ソルベント・バイオレット3;C.I.ソルベント・ブルー2、4、11、44、64、70;C.I.ソルベント・グリーン3、7;C.I.ソルベント・オレンジ2;等が挙げられる。
商業的に入手しうる油性染料としては、例えば、Nubian Black PC-0850、Oil Black HBB 、Oil Black 860 、Oil Yellow 129、Oil Yellow 105、Oil Pink 312、OilRed 5B、Oil Scarlet 308、Vali Fast Blue 2606、Oil Blue BOS〔以上、オリエント化学株式会社、商品名〕、Neopen Yellow 075、Neopen Mazenta SE1378、Neopen Blue808、Neopen Blue807、Neopen Blue FF4012、Neopen Cyan FF4238〔以上、BASF社、商品名〕等が挙げられる。
【0033】
分散染料としては、特に限定されるものではないが、好ましい例としては、C.I.ディスパーズ・イエロー5、42、54、64、79、82、83、93、99、100、119、122、124、126、160、184:1、186、198、199、204、224、237;C.I.ディスパーズ・オレンジ13、29、31:1、33、49、54、55、66、73、118、119、163;C.I.ディスパーズ・レッド54、60、72、73、86、88、91、93、111、126、127、134、135、143、145、152、153、154、159、164、167:1、177、181、204、206、207、221、239、240、258、277、278、283、311、323、343、348、356、362;C.I.ディスパーズ・バイオレット33;C.I.ディスパーズ・ブルー56、60、73、87、113、128、143、148、154、158、165、165:1、165:2、176、183、185、197、198、201、214、224、225、257、266、267、287、354、358、365、368;C.I.ディスパーズ・グリーン6:1、9;等が挙げられる。これらの中では、イエローとしてC.I.ソルベント・イエロー29及び30、シアンとしてC.I.ソルベント・ブルー70、マゼンタとしてC.I.ソルベント・レッド18及び49、ブラックとしてC.I.ソルベント・ブラック3、7及びニグロシン系の黒色染料が好ましい。
【0034】
疎水性染料は、水系インクに使用する場合、水不溶性ポリマーを用いて、インク中で安定な微粒子にする必要がある。特に、耐水性、耐擦過性、耐マーカー性及び耐にじみ性の観点から、水不溶性ポリマーの粒子中に含有させる。疎水性染料は、水不溶性ポリマー中に効率的に封入させる観点から、25℃において水不溶性ポリマーを製造する際に使用する有機溶媒に2g/L以上、好ましくは20〜500g/L溶解するものが望ましい。
【0035】
本発明の水系インク中における着色剤の含有率は、印字濃度を高める点から、1〜20重量%が好ましく、2〜10重量%がさらに好ましい。
本発明で用いられる水不溶性ポリマーと着色剤の量比については、印字濃度を高めるという観点から、水不溶性ポリマーの固形分100重量部に対して、着色剤20〜1,000重量部が好ましい。中でも100〜900重量部がより好ましく、250〜800重量部が更に好ましい。
【0036】
(リチウム化合物)
リチウム化合物は、例えば、水酸化リチウム、金属リチウム、リチウムアルコキシド、酢酸リチウムなどの有機酸のリチウム塩などが挙げられる。中でも水酸化リチウムが好ましく用いられる。
【0037】
(水系インクの製造方法)
リチウム化合物で中和された水不溶性ポリマー及び着色剤を含有してなる水系インクの製造方法としては、酸性基を有する水不溶性ポリマー、有機溶媒、リチウム化合物、着色剤、及び水を含有する混合物を、分散処理した後に、前記有機溶媒を除去する製法が好ましい。
具体的には、水不溶性ポリマーを有機溶媒に溶解させ、次に着色剤、リチウム化合物、水、及び必要に応じて界面活性剤等を、前記有機溶媒に加えて混合する。該混合物中、水を除いた重量比率として、着色剤は、5〜50重量%が好ましく、有機溶媒は、20〜70重量%が好ましく、水不溶性ポリマーは、2〜40重量%が好ましい。水の添加量は、混練機で分散する場合には、有機溶媒の5〜100重量%、高圧分散機を用いる場合には、有機溶媒の100〜1000重量%が好ましい。
【0038】
有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられ、水に対する溶解度が20℃において、50重量%以下のものが好ましい。
アルコール系溶媒としては、n−ブタノール、第3級ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
ケトン系溶媒としては、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。
これらの溶媒の中では、メチルエチルケトンが好ましい。
水不溶性ポリマーの中和には、リチウム化合物が用いられ、中でも水酸化リチウムが好ましく用いられる。中和度には、特に限定がなく、通常、得られる水分散液の液性が中性から弱アルカリ性、例えば、pHが6.5〜9.5であることが好ましい。
【0039】
前記混合物を、例えば、ロールミル、ビーズミル、ニーダー、エクストルーダ等の混練機、高圧ホモゲナイザー〔株式会社イズミフードマシナリ、商品名〕、マイクロフルイダイザー〔Microfluidics 社、商品名〕等のチャンバー式の高圧ホモジナイザー等、好ましくは二本ロール又は三本ロール等の開放式混練機を用いて撹拌、混練することにより、リチウム化合物で水不溶性ポリマーを中和するとともに着色剤が均一に分散されたペースト状物あるいは高粘度状物が得られる。
次に、得られたペースト状物あるいは高粘度状物に、必要に応じて、水を添加して十分に撹拌、混合する。添加する水は前記混合物100重量部に対して、0〜300重量部が好ましい。
次いで、有機溶媒を留去して、着色剤を含有し、リチウム化合物で中和された水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得る。水分散体に含まれる有機溶媒の除去は、減圧蒸留等による一般的な方法により行うことができる。得られた水不溶性ポリマーの水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されており、有機溶媒の量は0.1重量%以下、好ましくは0.01重量%以下である。
リチウム化合物以外の中和剤、例えば水酸化ナトリウム等を用いて、水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得た後に、リチウム化合物を添加することもできるが、水分散体を得る工程にリチウム化合物を用いることが好ましい。
着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体は、着色剤を含有する水不溶性ポリマーの固体分が水を主溶媒とする中に分散しているものである。ここで、着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも着色剤と水不溶性ポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、水不溶性ポリマーに着色剤が内包された粒子形態、水不溶性ポリマー中に着色剤が均一に分散された粒子形態、水不溶性ポリマー粒子表面に着色剤が露出された粒子形態等が含まれる。
【0040】
上記の着色剤を含有し、リチウム化合物で中和された水不溶性ポリマー粒子の水分散体はそのまま水系インクとして用いてもよいが、インクジェット記録用水系インクに通常用いられる湿潤剤、浸透剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防黴剤、防錆剤等を添加してもよい。
得られる水分散体及び水系インクにおける、着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の体積平均粒径(以下、単に平均粒径という)は、プリンターのノズルの目詰まり防止及び分散安定性の観点から、好ましくは0.01〜0.50μm、より好ましくは0.03〜0.30μm、特に好ましくは0.05〜0.20μmである。なお、平均粒径は、大塚電子株式会社のレーザー粒子解析システムELS−8000で測定(20℃)することができる。
また、水分散体及び水系インク中、着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の含有量(固形分)は、通常、印字濃度及び吐出安定性の観点から、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは1〜15重量%となるように調整することが望ましい。
水分散体及び水系インク中の水の含有量は、好ましくは30〜90重量%,より好ましくは40〜80重量%である。水系インクとは、水を主溶媒として用いたインクである。
該水分散体及び水系インクの好ましい表面張力は、水分散体としては40〜70mN/m、さらに好ましくは45〜65mN/mであり、水系インクとしては、28〜50mN/mであり、さらに好ましくは30〜45mN/mである。
該水分散体の10重量%の粘度(20℃)は、水系インクとした時に好ましい粘度とするために、2〜6mPa・sが好ましく、2〜5mPa・sが更に好ましい。
また、本発明の水系インクの粘度(20℃)は、良好な吐出性を維持するために、2〜6mPa・sが好ましく、2〜5mPa・sが更に好ましい。
【実施例】
【0041】
合成例1(水不溶性ビニルポリマーの製造)
反応容器に滴下ロート、コンデンサー及び撹拌機を取り付け、容器内を十分に窒素ガスで置換し、湯浴を70℃に加熱した。(A)成分として、メタクリル酸を18重量部、(B)成分として、スチレンマクロマーを10重量部、(C)成分として、スチレンを53.3重量部、(D)成分として、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを7重量部、(E)成分として、モノフェノキシポリエチレングリコール(n=6)メタクリレートを10重量部、連鎖移動剤として、3−メルカプト−1,2−プロパンジオールを0.7重量部、重合開始剤として、2.2’―アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2重量部及び溶媒として、メチルエチルケトン35重量部からなる原料混合物の10重量%を該容器内に入れ、残りの90重量%を滴下ロートに入れて、5時間かけて容器内に滴下し、70℃で重合させた。その後、75℃で10時間熟成させて、水不溶性ビニルポリマー(酸価は120(KOHmg/g))溶液を得た。
得られた該水不溶性ビニルポリマー溶液の一部を、減圧下、105℃で2時間加熱して溶媒を除去して、水不溶性ポリマーを単離した。標準物質としてポリスチレン、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミン含有クロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、得られた水不溶性ポリマーの重量平均分子量を測定したところ25000であった。
【0042】
合成例2(水不溶性ビニルポリマーの製造)
合成例1と同様に反応容器を準備し、(A)成分として、メタクリル酸を12.2重量部、(B)成分として、スチレンマクロマーを26.2重量部、(C)成分として、スチレンを61.3重量部、連鎖移動剤として、2−メルカプトエタノールを0.26重量部、重合開始剤として、2.2’―アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.8重量部及び溶媒として、メチルエチルケトン35重量部からなる原料混合物の10重量%を該容器内に入れ、残りの90重量%を滴下ロートに入れて、5時間かけて容器内に滴下し、70℃で重合させた。その後、75℃で10時間熟成させて、水不溶性ビニルポリマー(酸価は80(KOHmg/g))溶液を得た。
得られた該水不溶性ビニルポリマー溶液の一部を、減圧下、105℃で2時間加熱して溶媒を除去して、水不溶性ポリマーを単離した。得られた水不溶性ポリマーの重量平均分子量を測定したところ35000であった。
【0043】
なお、上記合成に用いた化合物の詳細は、以下の通りである。
(1)スチレンマクロマー:東亜合成株式会社製、商品名AS−6(スチレン単独重合マクロマー、片末端重合性官能基:メタクリロイルオキシ基、数平均分子量:6000)
(2)モノフェノキシポリエチレングリコール(n=6)メタクリレート:新中村化学株式会社製、商品名:NKエステルPHG−6G)
(3)2−ヒドロキシエチルメタクリレート:キシダ化学株式会社製試薬1級
(4)スチレンモノマー:和光純薬工業株式会社製試薬特級
(5)3−メルカプト−1,2−プロパンジオール:和光純薬工業株式会社製試薬特級
(6)2.2’―アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル):和光純薬工業株式会社製V−65
(7)メチルエチルケトン:和光純薬工業株式会社製試薬一級
【0044】
製造例1〜4(着色剤含有リチウム化合物で中和された水不溶性ビニルポリマー粒子の水分散体の調製)
上記合成例1又は2で得られた水不溶性ビニルポリマー溶液28重量部(固形分が50重量%になるようにメチルエチルケトンで濃度を調整したもの)に、表1に示す顔料、メチルエチルケトン、イオン交換水及び中和剤(中和度70%)を加えて十分に撹拌した後、3本ロール(ノリタケカンパニー製、商品名:;NR−84A)を用いて20回混練した。得られたペーストをイオン交換水250重量部に入れ、十分に撹拌した後、エバポレーターを用いてメチルエチルケトン及び水を蒸発除去し、固形分量が20重量%の、顔料を含有する水不溶性ビニルポリマー粒子の水分散体を得た。得られた水不溶性ビニルポリマー粒子の水分散体の平均粒径を下記の方法により測定した。その結果を第1表及び第2表に示した。
【0045】
(水不溶性ビニルポリマー粒子の平均粒径の測定法)
大塚電子株式会社製のELS−8000を用いて、次の条件で測定した。温度25℃、入射光と検出器との角度が90°、積算回数100回、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。標準物質としてセラディン(Seradyn)社製のユニフォーム・マイクロパーティクルズ(平均粒径204nm)を用いた。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
なお、第1表及び第2表に用いた顔料の詳細は、以下の通りである。
(1)FW18:デグサ社製カーボンブラック、カラーブラックFW18
(2)モナーク800:キャボット社製カーボンブラック、スペシャルブラック モナーク800
【0049】
実施例1(水系インクの製造)
ポリエチレングリコール(分子量800)5重量部、グリセリン8重量部、アセチレングリコール・ポリエチレンオキシド付加物(川研ファインケミカル株式会社製、商品名:アセチノールEH)0.2重量部、イオン交換水66.8重量部を混合した後、得られた混合液に、製造例1で得られた着色剤含有水不溶性ビニルポリマー微粒子の水分散体20重量部を撹拌しながら添加した。得られた混合物を平均孔径が1.2μmのメンブレンフィルター(富士写真フィルム株式会社製、商品名:ディスクカプセルCALC120)で濾過し、水系インクを調製した。
【0050】
実施例2、比較例1、2
製造例1で得られた着色剤含有水不溶性ビニルポリマー微粒子の水分散体に代えて製造例3で得られた着色剤含有水不溶性ビニルポリマー微粒子の水分散体を用いる以外は実施例1に準拠して水系インクを調製した。比較例1、2として、製造例2、4で得られた着色剤含有水不溶性ビニルポリマー微粒子の水分散体を用いる以外は実施例1に準拠して水系インクを調製した。
【0051】
(水系インクの保存試験)
実施例1、2及び比較例1、2で得られた水系インクをそれぞれ、ガラス製のサンプル瓶に入れ、温度80℃で4週間保存(高温保存安定性試験)した後と−15℃と60℃を24時間周期で1週間保存(サイクル試験:長期保存安定性試験)した後の粒径変化を下記の評価基準に基づいて評価し、その後、保存後のインクを用いて粒径変化を測定した。その結果を第3表に示した。
粒径変化(%)=(〔保存後の平均粒径〕/〔保存前の平均粒径〕)×100
○:粒径変化が10%未満
△:粒径変化が10%以上100%未満
×:粒径変化が100%以上
【0052】
【表3】

【0053】
第3表に示した結果から、実施例1、2で得られた水系インクは、比較例1、2で得られたものに比べて、高温保存安定性が非常に高く、サーマル方式のインクジェット記録用に好適に用いることができ、更に長期保存後のインクにおいても初期と同等の優れた分散安定性を有していることが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤を含有し、リチウム化合物で中和されてなる酸性基を有する、水不溶性ポリマー粒子のインクジェット記録用水分散体。
【請求項2】
該酸性基のリチウム化合物での中和度が、10〜200%である、請求項1に記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項3】
酸性基を有する水不溶性ポリマーが、(A)酸性基含有モノマー、(B)マクロマー及び(C)疎水性モノマーを含むモノマー混合物を共重合させてなる水不溶性ビニルポリマーである請求項1又は2に記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項4】
モノマー混合物が、さらに、(D)水酸基含有モノマーを含有する請求項3記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項5】
モノマー混合物が、さらに、(E)式(I)で表されるモノマーを含有する請求項3又は4に記載のインクジェット記録用水分散体。
CH2C=C(R1)COO(R2O)p3 (I)
(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜5の低級アルキル基、R2はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基、R3は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の1価の炭化水素基、pは、平均付加モル数を意味し、1〜60の数を示す)
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の水分散体を含有するインクジェット記録用水系インク。
【請求項7】
酸性基を有する水不溶性ポリマー、有機溶媒、リチウム化合物、着色剤、及び水を含有する混合物を、分散処理した後に、前記有機溶媒を除去することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録用水分散体の製造方法。


【公開番号】特開2006−45342(P2006−45342A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227980(P2004−227980)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】