説明

水系リチウム二次電池および水系リチウム二次電池の電極

【課題】低コストで作製でき、低温での充放電特性の低下が少ない水系リチウム二次電池および水系リチウム二次電池用の電極を提供すること。
【解決手段】 イオン伝導性を有する水溶液を用いたリチウム二次電池であって、
正極または負極の少なくとも一方がリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含有するリチウム二次電池。より好ましくは前記正極または負極の少なくとも一方の表面にリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む層を形成させたことを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系リチウム二次電池および水系リチウム二次電池の電極に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は高エネルギー密度であることから、パーソナルコンピューター、携帯電話等の情報関連機器に幅広く利用され、さらに自動車の分野にもその利用が検討されている。しかし現在のリチウム二次電池の多くは電解質として有機溶媒を使用しているため発火の危険性が問題となっている。
【0003】
このような発火の危険性を回避するために、特許文献1では水系の溶媒からなる電解質を用いた水系のリチウム電池が検討されている。しかし水系のリチウム電池では水の融点が0℃であることから、低温での充放電特性が著しく低下する問題を有している。特許文献1では、メソ細孔内の電解液の融点が低下することに着目し、細孔が放射状に配列されたラジアル型構造を有するシリカ系メソ多孔体の細孔内に電解液を含浸させた粒子を電極の材料として用いることでこの問題を解決している。
しかしこのようなラジアル型構造を有するシリカ系メソ多孔体の製造は多大なコストを要するため実用的ではない。
【0004】
【特許文献1】特開2005−243342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は低コストで作製でき、低温での充放電特性の低下が少ない水系リチウム二次電池および水系リチウム二次電池用の電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、水系リチウム二次電池の電極にリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含有させることで上記課題を解決することを見いだしこの発明を完成したものであり、その具体的な構成は以下の通りである。
【0007】
(構成1)
イオン伝導性を有する水溶液を用いたリチウム二次電池であって、
正極または負極の少なくとも一方がリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含有するリチウム二次電池。
(構成2)
前記正極または負極の少なくとも一方の表面にリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む層を形成させたことを特徴とする構成1に記載のリチウム二次電池。
(構成3)
前記リチウムイオン伝導性の無機固体電解質は、リチウムを含有する酸化物からなることを特徴とする構成1または2に記載のリチウム二次電池。
(構成4)
リチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む電極中の前記粉末の含有量が、それを含む電極合剤に対して0.1wt%〜30wt%である構成1から3のいずれかに記載のリチウム二次電池。
(構成5)
リチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末の平均粒径をdとし、それを含む電極中の活物質の平均粒径をDとしたとき、d/Dが0.002〜200であることを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のリチウム二次電池。
(構成6)
電極中に含有されるリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末の平均粒径が20μm以下である構成1から5のいずれかに記載のリチウム二次電池。
(構成7)
リチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む正極または負極中の合材層の空隙率が10から50%であることを特徴とする構成1から6に記載のリチウム二次電池
(構成8)
前記正極または負極の少なくとも一方の表面に形成されたリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む層の厚さは200μm以下であることを特徴とする構成1から7に記載のリチウム二次電池。
(構成9)
前記正極または負極の少なくとも一方の表面に形成されたリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む層は空隙率が50%以下であることを特徴とする構成1から8に記載のリチウム二次電池。
(構成10)
正極または負極の少なくとも一方がイオン伝導性を有する水溶液を吸収する高分子固体電解質を含む構成1から9のいずれかに記載のリチウム二次電池。
(構成11)
正極と負極の間に位置するセパレータを備えた構成1から10のいずれかに記載のリチウム二次電池。
(構成12)
前記リチウムイオン伝導性の無機固体電解質はLi1+x+z(Ge1−yTi2−xSi3−z12(但し、0≦x≦0.8、0≦y≦1.0、0≦z≦0.6、M=Al、Gaから選ばれる一つ以上)の結晶を含有することを特徴とする構成1から11のいずれかに記載のリチウム二次電池。
(構成13)
前記結晶はイオン伝導を阻害する空孔または結晶粒界を含まない結晶であることを特徴とする構成12に記載のリチウム二次電池。
(構成14)
前記無機固体電解質は、リチウム複合酸化物ガラスセラミックスであることを特徴とする構成1から13のいずれかに記載のリチウム二次電池。
(構成15)
リチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含有する、イオン伝導性を有する水溶液を少なくとも用いたリチウム二次電池用の電極。
(構成16)
前記粉末を含む正極または負極の少なくとも一方の表面にリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む層を形成させたことを特徴とする構成15に記載の電極。
(構成17)
前記リチウムイオン伝導性の無機固体電解質は、リチウムを含有する酸化物からなることを特徴とする構成15または16に記載の電極。
(構成18)
リチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む電極中の前記粉末の含有量が、それを含む電極合剤に対して0.1wt%〜30wt%である構成15から17のいずれかに記載の電極。
(構成19)
電極中に含有されるリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末の平均粒径をdとし、それを含む電極中の活物質の平均粒径をDとしたとき、d/Dが0.002〜200であることを特徴とする構成15から18のいずれかに記載の電極。
(構成20)
電極中に含有されるリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末の平均粒径が20μm以下である構成15から18のいずれかに記載の電極。
(構成21)
リチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む合材層の空隙率が10から50%であることを特徴とする構成15から20のいずれかに記載の電極。
(構成22)
前記正極または負極の少なくとも一方の表面に形成されたリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む層の厚さは200μm以下であることを特徴とする構成15から21のいずれかに記載の電極。
(構成23)
前記正極または負極の少なくとも一方の表面に形成されたリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む層は空隙率が50%以下であることを特徴とする構成15から22のいずれかに記載の電極。
(構成24)
イオン伝導性を有する水溶液を吸収する高分子固体電解質を含む構成15から23のいずれかに記載のリチウム二次電池。
(構成25)
前記リチウムイオン伝導性の無機固体電解質はLi1+x+z(Ge1−yTi2−xSi3−z12(但し、0≦x≦0.8、0≦y≦1.0、0≦z≦0.6、M=Al、Gaから選ばれる一つ以上)の結晶を含有することを特徴とする構成15から24のいずれかに記載の電極。
(構成26)
前記結晶はイオン伝導を阻害する空孔または結晶粒界を含まない結晶であることを特徴とする構成25に記載の電極。
(構成27)
前記無機固体電解質は、リチウム複合酸化物ガラスセラミックスであることを特徴とする構成15から26のいずれかに記載の電極。
【発明の効果】
【0008】
本発明は低コストで低温での充放電特性の低下が少ない水系リチウム二次電池およびリチウム二次電池の電極を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明はイオン伝導性を有する水溶液を用いた二次電池の正極または負極の少なくとも一方がリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含有することで、低温時に水系の電解液のイオン伝導性が低下しても電極中のリチウムイオン伝導性無機固体電解質がリチウムイオン伝導を補い、低温時においても良好な充放電特性を実現する。
【0010】
無機固体電解質としてはLiN、LISICON類、La0.55Li0.35TiOなどのリチウムイオン伝導性を有するペロブスカイト構造を有する結晶や、NASICON型構造を有するLiTi12、LiPON、リチウム・リン硫化物系のガラス等の材料を用いることができるが、リチウムを含有する酸化物であると比較的化学安定性が高いため好ましい。
この中でもLi1+x+z(Ge1−yTi2−xSi3−z12(但し、0≦x≦0.8、0≦y≦1.0、0≦z≦0.6、M=Al、Gaから選ばれる一つ以上)の結晶を含む材料は高いリチウムイオン伝導性を有するため好ましい。
例えばLi1+x+z(Ge1−yTi2−xSi3−z12(但し、0≦x≦0.8、0≦y≦1.0、0≦z≦0.6、M=Al、Gaから選ばれる一つ以上)の結晶相を有するリチウム複合酸化物ガラスセラミックスは、イオン伝導を阻害する空孔や結晶粒界が実質的に存在しないか非常に少ないため、材料が有するリチウムイオン伝導度は前記結晶そのものが有する高いリチウムイオン伝導度に近い値とすることができるので好ましい。
【0011】
前記ガラスセラミックスは酸化物基準のmol%で、
LiO 10〜25%、および
Alおよび/またはGa 0.5〜15%、および
TiOおよび/またはGeO 25〜50%、および
SiO 0〜15%、および
26〜40%
の各成分を含有する原ガラスを作成し、600℃〜1000℃で1〜24時間熱処理することでガラス相から結晶を析出させることによって得ることができる。ここで、「酸化物基準」とは、ガラスの構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が溶融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定して、ガラス中に含有される各成分の組成を酸化物で表記する方法である。
【0012】
電解質として用いるイオン伝導性を有する水溶液としては、リチウム塩を水に溶解したものを使用することができる。リチウム塩としては水系リチウム二次電池で使用される公知のリチウム塩を使用することができ、具体的に硫酸リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、ホウ酸リチウム、リン酸リチウム、過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウム、リンフッ化リチウム、水酸化リチウム、ヨウ化リチウム等を使用することができる。
水溶液の融点を低くする目的やその他の目的のために水溶液中に非水溶媒を含ませてもよいが、有害性などを考慮するとその量は50vol%未満までが好ましい。
【0013】
電極中に含有されるリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末の含有量は、低温での充放電特性の低下を少なくする効果を十分に得るために、前記粉末を含む電極合材に対して0.1wt%以上であることが好ましく、1wt%以上であることがより好ましく、3wt%以上で有ることが最も好ましい。
一方電極中に含有されるリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末の含有量が多いと活物質の量が相対的に減少し、単位体積あたりの電池の容量が低下してしまうため、リチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末の含有量はそれを含む電極合材に対して30wt%以下が好ましく、20wt%以下がより好ましく、10wt%以下が最も好ましい。
【0014】
また電極中に含まれるリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末の平均粒径は前記平均粒径をdとし、それを含む電極中の活物質の平均粒径をDとした時、d/Dが0.002〜200の範囲であることが好ましい。前記d/Dの上限が200以下であると、電極内の固体電解質の体積が大きく、電極内のリチウムイオン拡散や安全性の面で好ましく、100以下であるとより好ましく、5以下であると最も好ましい。また、前記d/Dの下限が0.002以上であると、活物質粒子径に比べ小さな粒子径を持った固体電解質粉末が存在し、活物質の周辺に存在する確率や、活物質表面と接する面積が大きくなるため、活物質周囲のイオン伝導性を確保する効果がより得られやすくなり好ましく、0.003以上であるとより好ましく、0.005以上であると最も好ましい。
【0015】
電極中に含まれるリチウムイオン伝導性の無機固体電解質粉末の平均粒径の上限は、電極内の活物質粒子径、電極厚さを考慮し、電極内での分散性を良好とし易くするため20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下が最も好ましい。
リチウムイオン伝導性の無機固体電解質粉末の平均粒子径の下限は、電極内への分散、電極材料同士の結着性を良好とし易くするため50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましく、140nm以上が最も好ましい。
前記平均粒子径はレーザー回折法によって測定した時のD50(累積50%径)の値であり、具体的にはベックマン・コールター社の粒度分布測定装置LS100Qまたはサブミクロン粒子アナライザーN5によって測定した値を用いることができる。なお、前記平均粒子径は体積基準で表わした値である。
【0016】
本発明のリチウム二次電池の正極または負極の少なくとも一方の電極は上述の無機固体電解質の粉末の他、電極活物質粉末、必要に応じ電子伝導助材の粉末等が含まれ、これらがバインダーで結着され空隙が形成された構造であって良い。この空隙にリチウムイオン伝導性を有する水溶液が満たされイオン伝導を担う。
【0017】
また正極または負極のすくなくとも一方がイオン伝導性を有する水溶液を吸収する高分子固体電解質を含んでいても良い。この場合電解液の漏液を防ぎやすくなり好ましい。このような高分子固体電解質としてはリチウムイオン二次電池で使用される公知のものを使用することができる。
【0018】
リチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む正極または負極中の合材層の空隙率は電極中のイオン伝導性を確保するために10%以上であることが好ましく、20%以上であることが好ましく、25%以上であることが最も好ましい。一方、電池のエネルギー密度を大きくするために前記の空隙率は50%以下であることが好ましく、45%以下であることがより好ましく、40%以下であることが最も好ましい。ここで、空隙率とは合材層のみかけの体積に対する空間の体積の割合をいう。空隙率の値は、アルキメデス法などを用いて次式で求めることができる。
空隙率(%)={1−電極合材層の密度/電極合材の材料真密度}×100
【0019】
本発明の正極活物質としては水系リチウム二次電池で使用される公知の材料を用いれば良く、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物、リチウム鉄複合リン酸化物等が挙げられる。
【0020】
本発明の負極活物質としてはLiWO、LiMoO、LiTiS、LiV、VO、Fe、FeOOH等を使用することができる。
【0021】
本発明のリチウム二次電池は正極と負極の間に微多孔膜等の公知のセパレーターを介在させることができる。また、公知のセパレーターを介在させる代わりに前記正極または負極の少なくとも一方の表面にリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む層を形成させ、この層をセパレーター層として機能させても良い。このように無機固体電解質の粉末を含む層を形成させることによって、セパレーター層を薄くすることができるため、微多孔膜によるイオン伝導の抵抗を無くすことができ、さらに無機固体電解質の粉末が連続する部分にイオン伝導のパスが形成されるため、低温時に水溶液電解質のイオン伝導性が低下しても正極−負極間での良好なイオン伝導を得ることができ、得られる電池の低温特性を向上させることができる。
【0022】
前記正極または負極の少なくとも一方の表面に形成されたリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む層の厚さは良好なイオン伝導性を得やすくするために200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、70μm以下であることが最も好ましい。
一方、正極−負極間の短絡の防止をより確実にするためには、前記正極または負極の少なくとも一方の表面に形成されたリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む層の厚さは2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、8μm以上であることが最も好ましい。
【0023】
前記正極または負極の少なくとも一方の表面に形成されたリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む層は正極と負極の短絡防止の目的のために、電極合材の一部はがれ、コンタミ等による短絡の遮蔽の効果を高めるために、その空隙率を50%以下とすることが好ましく、45%以下とすることがより好ましく、40%以下とすることが最も好ましい。
一方、リチウムイオン伝導性の水溶液を含んだ電解質として高いイオン伝導性を確保するために、前記の空隙率を15%以上とすることが好ましく、20%以上とすることがより好ましく、30%以上とすることが最も好ましい。
ここで、空隙率とは無機固体電解質の粉末を含む層のみかけの体積に対する空間の体積の割合をいう。空隙率の値は、アルキメデス法などを用いて次式で求めることができる。
空隙率(%)={1−無機固体電解質の粉末を含む層の密度/無機固体電解質の粉末を含む層の材料真密度}×100
【0024】
本発明に記載された正極、負極を用い、正極集電体、正極、必要に応じセパレーター、負極、負極集電体の順となるようにパッケージし、正極集電体と負極集電体をそれぞれ正極端子、負極端子と接続し、リチウムイオン伝導性を有する水溶液を含浸させることにより本発明のリチウム二次電池を完成させることが出来る。
なお、正極または負極の少なくとも一方の表面にリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む層を形成させた場合はセパレーターは無くても良い。
【実施例】
【0025】
以下、本発明に係るリチウム電池用セパレーター、リチウム電池について、具体的な実施例を挙げて説明する。
【0026】
[リチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの原ガラスの作製]
原料として日本化学工業株式会社製のHPO、Al(PO、LiCO、株式会社ニッチツ製のSiO、堺化学工業株式会社製のTiOを使用した。これらを酸化物換算のmol%でPが35.0%、Alが7.5%、LiOが15.0%、TiOが38.0%、SiOが4.5%といった組成になるように秤量して均一に混合した後に、白金ポットに入れ、電気炉中1500℃の温度で撹拌しながら3時間加熱・熔解してガラス融液を得た。その後、ガラス融液をポットに取り付けた白金製のパイプから加熱しながら室温の流水中に滴下させることにより急冷し、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの原ガラスを得た。
【0027】
このガラスを1000℃の電気炉にて結晶化を行い、リチウムイオン伝導度の測定を行ったところ、室温にて1.3×10-3Scm-1であった。リチウムイオン伝導度の測定にはソーラートロン社製のインピーダンスアナライザーSI−1260を用いて、交流二端子法による複素インピーダンス測定により算出した。また、析出した結晶相はフィリップス社製の粉末X線回折測定装置を用いて測定し、Li1+x+zAlTi2−xSi3−z12(0≦x≦0.4、0<z≦0.6)が主結晶相であることが確認された。
【0028】
上記の原ガラスを栗本鐵工所製のジェットミルにて粉砕後、エタノールを溶媒としたボールミルに入れ、湿式粉砕を行い、平均粒径0.7μm、最大粒径2μm及び平均粒径0.5μm、最大粒径1μmの2種類の酸化物ガラス粉末を得た。粒度測定には、ベックマン・コールター製のレーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置LS100を用いて測定した。分散媒には蒸留水を用いた。
【0029】
[実施例1]
正極活物質として平均粒子径を5.5μmに調整した燐酸鉄リチウム(日本アライアンス・ナノテクノロジー社)と電子伝導助材としてアセチレンブラック、無機固体電解質に上記の平均粒子径0.5μmのガラスセラミックス、バインダーとしてポリアクリロニトリルを重量比で75:10:5:10でNMP中で混合してスラリー状にした。このスラリーをSUS304箔に塗布・乾燥処理して正極を作製した。負極には固相合成にて作製したバナジン酸リチウムを用いアルミナを用いたボールミルにて平均粒子径2μmに調整した。正極の作製と同様に、負極活物質とガラスセラミックス、アセチレンブラックとポリアクリロニトリルを重量比で77:3:10:10でNMP中で混合してスラリーを作製、SUS304箔に塗布・乾燥処理して負極を作成した。作製後の電極は、ロールプレス機にて電極中の空隙率や厚さを調整した。このときの正極の空隙率は27%、負極の空隙率35%であった。
電解液としてLiNO水溶液(2M)を用い、またセパレーターとしてアラミド不織布(厚さ27μm、空隙率45%)を用いて、SUSセル内に電池を作製した。
【0030】
[実施例2]
実施例1の正極作製後に、ガラスセラミックスとポリアクリロニトリルを重量比85:15に調整しNMP中で混合したスラリーを塗布し、固体電解質層を形成した。その後、ロールプレス機にて固体電解質層の厚さ、空隙率を調整した。固体電解質層の厚さは15μmであり、空隙率は33%であった。
この正極と実施例1で作製した負極を用いて、実施例1と同様の電池を作製した。
【0031】
[比較例1]
正極活物質とアセチレンブラック、ポリアクリロニトリルの重量比を80:10:10にし、負極活物質とアセチレンブラック、ポリアクリロニトリルの重量比を80:10:10にし、正極と負極のどちらも上記のガラスセラミックスの粉末を含まないこと以外は実施例1と同様に電池を作製した。このときの正極の空隙率は24%、負極の空隙率は21%であった。
【0032】
これらの電池の低温での放電性能を比較した。放電試験は室温にて燐酸鉄リチウム重量当たり1.3V、130mAh/gまで充電して、1Cの電流値で0.7Vになるまで放電させた。その後、再度同条件で充電した後、各電池を−10℃で1時間保管した後、1Cの電流値で放電させた。それぞれの電池の前記の放電条件での放電容量の維持率として検証した。
実施例1の電池では、室温1/2Cの放電容量に対して-10℃、2C放電の容量は68%を維持した。同様の実施例2では76%維持し、比較例1では23%であった。
【0033】
このように電極中にリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含有させた水溶液電解質を用いたリチウム二次電池は低温時の充放電特性の低下が少ないことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性を有する水溶液を用いたリチウム二次電池であって、
正極または負極の少なくとも一方がリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含有するリチウム二次電池。
【請求項2】
前記正極または負極の少なくとも一方の表面にリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む層を形成させたことを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記リチウムイオン伝導性の無機固体電解質は、リチウムを含有する酸化物からなることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
リチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む電極中の前記粉末の含有量が、それを含む電極合剤に対して0.1wt%〜30wt%である請求項1から3のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
リチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末の平均粒径をdとし、それを含む電極中の活物質の平均粒径をDとしたとき、d/Dが0.002〜200であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
電極中に含有されるリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末の平均粒径が20μm以下である請求項1から5のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
リチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む正極または負極中の合材層の空隙率が10から50%であることを特徴とする請求項1から6に記載のリチウム二次電池
【請求項8】
前記正極または負極の少なくとも一方の表面に形成されたリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む層の厚さは200μm以下であることを特徴とする請求項1から7に記載のリチウム二次電池。
【請求項9】
前記正極または負極の少なくとも一方の表面に形成されたリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む層は空隙率が50%以下であることを特徴とする請求項1から8に記載のリチウム二次電池。
【請求項10】
正極または負極の少なくとも一方がイオン伝導性を有する水溶液を吸収する高分子固体電解質を含む請求項1から9のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項11】
正極と負極の間に位置するセパレーターを備えた請求項1から10のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項12】
前記リチウムイオン伝導性の無機固体電解質はLi1+x+z(Ge1−yTi2−xSi3−z12(但し、0≦x≦0.8、0≦y≦1.0、0≦z≦0.6、M=Al、Gaから選ばれる一つ以上)の結晶を含有することを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項13】
前記結晶はイオン伝導を阻害する空孔または結晶粒界を含まない結晶であることを特徴とする請求項12に記載のリチウム二次電池。
【請求項14】
前記無機固体電解質は、リチウム複合酸化物ガラスセラミックスであることを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項15】
リチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含有する、イオン伝導性を有する水溶液を少なくとも用いたリチウム二次電池用の電極。
【請求項16】
前記粉末を含む正極または負極の少なくとも一方の表面にリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む層を形成させたことを特徴とする請求項15に記載の電極。
【請求項17】
前記リチウムイオン伝導性の無機固体電解質は、リチウムを含有する酸化物からなることを特徴とする請求項15または16に記載の電極。
【請求項18】
リチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む電極中の前記粉末の含有量が、それを含む電極合剤に対して0.1wt%〜30wt%である請求項15から17のいずれかに記載の電極。
【請求項19】
電極中に含有されるリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末の平均粒径をdとし、それを含む電極中の活物質の平均粒径をDとしたとき、d/Dが0.002〜200であることを特徴とする請求項15から18のいずれかに記載の電極。
【請求項20】
電極中に含有されるリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末の平均粒径が20μm以下である請求項15から18のいずれかに記載の電極。
【請求項21】
リチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む合材層の空隙率が10から50%であることを特徴とする請求項15から20のいずれかに記載の電極。
【請求項22】
前記正極または負極の少なくとも一方の表面に形成されたリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む層の厚さは200μm以下であることを特徴とする請求項15から21のいずれかに記載の電極。
【請求項23】
前記正極または負極の少なくとも一方の表面に形成されたリチウムイオン伝導性の無機固体電解質の粉末を含む層は空隙率が50%以下であることを特徴とする請求項15から22のいずれかに記載の電極。
【請求項24】
イオン伝導性を有する水溶液を吸収する高分子固体電解質を含む請求項15から23のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項25】
前記リチウムイオン伝導性の無機固体電解質はLi1+x+z(Ge1−yTi2−xSi3−z12(但し、0≦x≦0.8、0≦y≦1.0、0≦z≦0.6、M=Al、Gaから選ばれる一つ以上)の結晶を含有することを特徴とする請求項15から24のいずれかに記載の電極。
【請求項26】
前記結晶はイオン伝導を阻害する空孔または結晶粒界を含まない結晶であることを特徴とする請求項25に記載の電極。
【請求項27】
前記無機固体電解質は、リチウム複合酸化物ガラスセラミックスであることを特徴とする請求項15から26のいずれかに記載の電極。

【公開番号】特開2010−56027(P2010−56027A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222056(P2008−222056)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】