説明

水系リチウム二次電池

【課題】環境負荷が小さく、低コストで製造できると共に、充放電サイクル特性に優れた水系リチウム二次電池を提供すること。
【解決手段】正極活物質を含有する正極2と、負極活物質を含有する負極3と、リチウム塩を水に溶解してなる水溶液電解液とを含有する水系リチウム二次電池である。正極活物質は、LiFePO4を基本組成とするオリビン構造の鉄リン酸リチウムを主成分とする。負極活物質は、LiTi2(PO4)3又はTiP27からなるチタン系ポリアニオン化合物を主成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液として、リチウム塩を水に溶解してなる水溶液電解液を含有する水系リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水系電解液を用いたリチウム二次電池は、高電圧・高エネルギー密度が得られ、小型・軽量化が図れるため、パソコンや携帯電話等の情報通信機器の関連分野ではすでに実用化されている。また、リチウム二次電池は、資源問題や環境問題に対応するため、電気自動車やハイブリッド電気自動車に搭載される電源への展開が期待されている。
一般に、非水系のリチウム二次電池は、正極活物質としてのリチウム遷移金属複合酸化物と、負極活物質としての炭素材料と、有機溶媒にリチウム塩を溶解してなる非水電解液とを組み合わせて構成されている。
【0003】
一方、電解液として水溶液を用いた水系リチウム二次電池がある。水系リチウム二次電池は、製造工程において非水系のリチウム二次電池のようなドライ環境を必要としないため、製造にかかるコストを大幅に減少させることができる。さらに、水溶液電解液は非水系電解液に比べて一般的に導電性が高いため、水系リチウム二次電池は、非水系のリチウム二次電池に比べて内部抵抗が低くなるという利点がある。
【0004】
しかしその反面、水系リチウム二次電池においては、水の電気分解反応が起こらない電位範囲での使用が求められるため、非水系のリチウム二次電池と比較して起電力が小さくなる。
水の電気分解電圧から計算すると、起電力は1.2V程度が限界であるが、現実には電気分解してガスが発生するには過電圧が必要であるため、2V程度が限界であると予想される。
【0005】
このように、水系リチウム二次電池においては、高電圧即ち高エネルギー密度を犠牲として、低コスト化、及び内部抵抗の低減を図ることができる。そのため、水系リチウム二次電池は、高エネルギー密度、即ち軽くて小さいことを重視する携帯機器等の用途には向かないが、比較的コストを重視し、大型の電池が必要とされる電気自動車やハイブリッド電気自動車、ひいては家庭用分散電源等の用途に適することが予想される。
【0006】
水系リチウム二次電池を構成する上で重要なことは、水溶液中で安定で、かつ水の電気分解により酸素や水素を発生しない電位範囲において、可逆的に大量のリチウムを吸蔵及び脱離できる活物質、つまり特定の電位範囲において大きな容量を発揮できる活物質を用いる点にある。
また、電解液としては、中性からアルカリ性の電解液を用いることが望まれている。活物質として主として用いられるLi含有酸化物は、一般に酸性の水溶液中における安定性に乏しく、また、酸性電解液中の多量のH+イオンは、純粋なLi+イオンのロッキングチェア反応を阻害するおそれがあるからである。
【0007】
中性、即ちpH=7の電解液を用いた場合には、水の分解電圧は、水素発生電位が2.62V(vs.Li+/Li)、酸素発生電位が3.85V(vs.Li+/Li)である。また、強アルカリ性、即ちpH=14の電解液を用いた場合には、水の分解電圧は水素発生電位が2.21V(vs.Li+/Li)、酸素発生電位が3.44V(vs.Li+/Li)である。
水系リチウム二次電池において、正極活物質としては、Liを含有し、Liを引き抜くことにより充電していく材料、即ち電位が上昇する材料が好適である。一方、負極活物質としては、Liを挿入することにより電位が減少する材料が好適である。
また、水系リチウム二次電池においては、非水系のリチウム二次電池に比べて電位幅が小さいため、少しでもエネルギー密度を大きくするために、正極及び負極には、いずれも平坦な電位曲線を有する活物質を用いることが望まれている。
【0008】
これまでに、水系リチウム二次電池に用いられる正極活物質としては、LiMn24、LiFePO4等が提案されている(特許文献1〜3参照)。これらの正極活物質は、水溶液中で比較的安定であり、比較的高い容量を実現できる。
一方、負極活物質としては、マンガン酸化物、鉄酸化物、鉄酸化水酸化物、バナジウム酸化物、チタン系ポリアニオン化合物等が提案されている(特許文献3〜10及び非特許文献1参照)。
【0009】
これらの中で、水系リチウム二次電池の負極活物質として、最も有望視されている物質は、バナジウム酸化物であると考えられている。特に、スピネル構造を有するLiV24は、水の分解が起こらない電位範囲で安定に可逆なLiの挿入脱離を起こすことができ、水溶液電界液中で比較的高い容量を発揮することができる。
したがって、水系リチウム二次電池としては、一般に、正極活物質としてLiMn24又はLiFePO4を含有し、負極活物質としてLiV24を含有する電池が開発されていた。
【0010】
しかしながら、LiMn24はLiの挿入及び脱離電位が高いため、中性の水溶液電解液中では、正極で水の分解が起こりやすく、また、高温でマンガンが溶解するおそれがある。そのため、LiMn24を正極活物質として含有する水系リチウム二次電池は、充放電を繰り返し行ったときに、容量等の電池特性が低下し易いという問題があった。
一方、オリビン構造のLiFePO4を正極活物質として用いた水系リチウム二次電池は、LiMn24が抱える上述の問題を軽減できる。しかし、LiFePO4からなる正極活物質とLiV24等のリチウムバナジウム酸化物からなる負極活物質とを用いた水系リチウム二次電池は、未だ実用上充分な充放電サイクル特性を発揮することができず、充放電を繰り返し行うと、容量等の電池特性が低下し易いという問題があった。
また、リチウムバナジウム酸化物は、レアメタル備蓄対象金属に指定されているバナジウム(V)を含有している。そのため、リチウムバナジウム酸化物を負極活物質とする水系リチウム二次電池は、量産化に対応し難く、さらに製造コストが増大してしまうという問題がある。また、バナジウムを主成分とする化合物には、毒物や劇物の指定を受けるものが少なくなく、環境負荷を増大させてしまうおそれがあった。
【0011】
【特許文献1】特表平9−508490号公報
【特許文献2】特開2002−260722号公報
【特許文献3】特開2002−110221号公報
【特許文献4】特開2000−340256号公報
【特許文献5】特開2000−77073号公報
【特許文献6】特開2001−102086号公報
【特許文献7】特開2002−208403号公報
【特許文献8】特開2003−17057号公報
【特許文献9】特開2005−158604号公報
【特許文献10】特開2006−66085号公報
【非特許文献1】エイチ・ワン(H.Wang)他、「エレクトロチミカ アクタ(Electrochimica Acta)」、英国、2007年2月15日発行、第52巻、第9号、p.3280−3285
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はかかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、環境負荷が小さく、低コストで製造できると共に、充放電サイクル特性に優れた水系リチウム二次電池を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、正極活物質を含有する正極と、負極活物質を含有する負極と、リチウム塩を水に溶解してなる水溶液電解液とを含有する水系リチウム二次電池において、
上記正極活物質は、LiFePO4を基本組成とするオリビン構造の鉄リン酸リチウムを主成分とし、
上記負極活物質は、LiTi2(PO4)3又はTiP27からなるチタン系ポリアニオン化合物を主成分とすることを特徴とする水系リチウム二次電池にある(請求項1)。
【0014】
本発明の水系リチウム二次電池は、上記正極に、LiFePO4を基本組成とするオリビン構造の鉄リン酸リチウムを主成分とする上記正極活物質を含有し、上記負極に、LiTi2(PO4)3又はTiP27からなるチタン系ポリアニオン化合物を主成分とする上記負極活物質を含有する。
そのため、上記水系リチウム二次電池においては、充放電を繰り返し行ったときにおける容量等の電池特性の低下を抑制することができ、上記水系リチウム二次電池は、優れた充放電サイクル特性を発揮することができる。これは、上記水系リチウム二次電池においては、上記正極及び上記負極からの遷移金属元素の溶出がほとんどなく、これらの副反応が抑制されるためであると考えられる。
【0015】
また、上記水系リチウム二次電池は、バナジウム等の環境負荷の大きな物質を活物質の必須成分として含有していないため、環境負荷を小さくすることができる。
また、上記水系リチウム二次電池においては、上記正極活物質及び上記負極活物質は、Li、Fe、Ti等の比較的安価な元素で構成されており、バナジウム等の高価な元素を用いる必要がない。そのため、上記水系リチウム二次電池の低コスト化を図ることができる。
【0016】
したがって、本発明によれば、環境負荷が小さく、低コストで製造できると共に、充放電サイクル特性に優れた水系リチウム二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の好ましい実施の形態について、説明する。
本発明の水系リチウム二次電池は、例えば、リチウムを吸蔵・放出する正極及び負極と、これらの間に狭装されるセパレータと、正極及び負極間でリチウムを移動させる水溶液電解液等を主要構成要素として構成することができる。
【0018】
上記負極は、LiTi2(PO4)3又はTiP27からなるチタン系ポリアニオン化合物を主成分とする上記負極活物質を含有する。
上記負極活物質は、上記チタン系ポリアニオン化合物を主成分とすればよく、その他の負極活物質等を含有することも可能である。
好ましくは、上記負極活物質は、上記チタン系ポリアニオン化合物を少なくとも60重量%以上含有することがよい。
上記チタン系ポリアニオン化合物の含有量が60重量%未満の場合には、充放電サイクル特性の向上効果が小さくなるおそれがある。より好ましくは、上記負極活物質は、上記チタン系ポリアニオン化合物を80重量%以上含有することがよく、さらに好ましくは、90重量%以上含有することがよい。
【0019】
負極は、例えば上記負極活物質に導電材及び結着材を混合し、必要に応じて適当な溶剤を加えてペースト状又はスラリー状にした負極合材を、例えばステンレス鋼(SUS)メッシュ、アルミニウム箔、ニッケル箔等からなる負極集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮することにより形成することができる。
【0020】
また、上記導電材は、負極の電気伝導性を確保するためのものであり、例えばカーボンブラック、アセチレンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類等の炭素物質粉末状体の1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。
【0021】
上記結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂、もしくはポリアクリロニトリル系高分子等を用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴムの水分散体等を用いることもできる。
これら活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤、又は水を用いることができる。
【0022】
また、正極は、上記負極の場合と同様に、例えば正極活物質に導電材や結着材を混合し、必要に応じて適当な溶剤を加えてペースト状にした正極合材を、ステンレス鋼(SUS)メッシュ、アルミニウム箔、ニッケル箔等からなる正極集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮することにより形成することができる。
【0023】
上記正極活物質は、LiFePO4を基本組成とするオリビン構造の鉄リン酸リチウムを主成分とする。ここで、「〜を基本組成とする」とは、その組成式で表される組成のものだけでなく、結晶構造におけるLi、Fe等のサイトの一部を他の元素で置換したものも含むことを意味する。さらに、化学量論組成のものだけでなく、一部の元素が欠損等した非化学量論組成のものも含むことを意味する。
【0024】
また、上記正極活物質は、上記鉄リン酸リチウムを主成分とすればよく、リチウムマンガン酸化物等のその他の正極活物質を含有することも可能である。
好ましくは、上記正極活物質は、上記鉄リン酸リチウムを少なくとも60重量%以上含有することがよい。
上記鉄リン酸リチウムの含有量が60重量%未満の場合には、充放電サイクル特性の向上効果が小さくなるおそれがある。より好ましくは、上記正極活物質は、上記鉄リン酸リチウムを80重量%以上含有することがよく、さらに好ましくは、90重量%以上含有することがよい。
【0025】
上記正極活物質に混合して用いることができる上記導電材としては、上記負極の場合と同様の炭素物質粉末状体を用いることができる。また、結着材としては、上記負極と同様に、含フッ素樹脂、熱可塑性樹脂、ポリアクリロニトリル系高分子、水系バインダー等を用いることができる。正極活物質、導電材、及び結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤、又は水を用いることができる。
【0026】
また、正極及び負極に狭装させるセパレータは、正極と負極とを分離し水溶液電解液を保持するものであり、例えばセルロース、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い微多孔膜等を用いることができる。
【0027】
また、上記水系リチウム二次電池は、電解液として、リチウム塩を水に溶解してなる水溶液電解液を有する。
上記水溶液電解液のpHは、3〜11であることが好ましい(請求項2)。
上記水溶液電解液のpHが3未満の場合には、上記正極活物質及び/又は上記負極活物質において、酸性水溶液による化学的なLiの脱離やプロトンによるLiの挿入・脱離の阻害が起こり、電池の容量や充放電サイクル特性が劣化するおそれがある。一方、pHが11を超える場合には、酸素発生電位が3.63V(vs.Li+/Li)程度まで低下する。そのため、正極で酸素が発生し易くなるおそれがある。より好ましくは、上記水溶液電解液のpHは、4〜10がよい。
【0028】
また、上記リチウム塩としては、例えばLiNO3、LiOH、LiCl、及びLi2S等を用いることができる。これらのリチウム塩は、それぞれ単独で用いることもできるが、2種以上を併用することもできる。
【0029】
上記リチウム塩としては、少なくとも硝酸リチウムが用いられていることが好ましい(請求項3)。
この場合には、副反応の発生を抑制し、上記水系リチウム二次電池の充放電効率を向上させることができる。
【0030】
また、上記水系リチウム二次電池の形状としては、例えばコイン型、円筒型、角型等がある。正極、負極、セパレータ及び水溶液電解液等を収容する電池ケースとしては、これらの形状に対応したものを用いることができる。
上記水系リチウム二次電池は、例えば上記正極と上記負極との間に上記セパレータを狭装してなる電極体を、所定の形状の電池ケースに収納し、上記正極集電体及び上記負極集電体を、リード線を介して正極外部端子及び負極外部端子に電気的に接続し、上記電極体に上記水溶液電解液を含浸させて、電池ケースを密閉することにより作製することができる。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
次に、本発明の実施例につき、図1及び図2を用いて説明する。
本例は、水系リチウム二次電池を作製し、その特性を評価する例である。
図1に示すごとく、本例の水系リチウム二次電池1は、正極活物質を含有する正極2と、負極活物質を含有する負極3と、リチウム塩を水に溶解してなる水溶液電解液とを有する。正極活物質は、LiFePO4を基本組成とするオリビン構造の鉄リン酸リチウムを主成分とする。また、負極活物質は、LiTi2(PO4)3からなるチタン系ポリアニオン化合物を主成分とする。
また、水系リチウム二次電池1は、水溶液電解液として、濃度6mol/LのLiNO3水溶液を含有する。
【0032】
本例の水系リチウム二次電池1においては、2016型の電池ケース11中に、正極2及び負極3と共に、これらの間に狭装させた状態でセパレータ4が配置されている。また、電池ケース11内には、水溶液電解液が注入されている。電池ケース11内の端部には、ガスケット45が配置されており、電池ケース11は封口板12により密閉されている。
【0033】
次に、本例の水系リチウム二次電池1の作製方法につき、説明する。
まず、以下のようにして正極活物質としてのLiFePO4を合成した。
即ち、まず、炭酸リチウムと、鉄の価数が2価であるシュウ酸鉄と、リン酸二水素アンモニウムとを、Li:Fe:Pがそれぞれモル比で1.2:1:1となるように混合した。次いで、得られる混合粉末を、ペレット状に成形して、アルゴンガス雰囲気下、温度650℃で24時間焼成した。このようにして、LiFePO4を得た。なお、LiFePO4の合成においては、得られるLiFePO4においてはLiとFeとのモル比は1:1であるのに対して、上記のごとくLiとFeとのモル比が1.2:1となるようにLi源とFe源とを混合している。これは、Liが高温で焼成雰囲気中に放出され易いことを考慮して配合を行ったためである。
【0034】
次に、負極活物質を以下のようにして合成した。
即ち、まず、酸化チタン(TiO2、アナターゼ)、炭酸リチウム(Li2CO3)及びリン酸二水素アンモニウム(NH42PO4)を準備し、これらを目的組成(LiTi2(PO4)3)の化学量論比で混合し、乳鉢で充分に混合した。混合粉末をペレット状に成形し、大気中、温度300℃で6時間仮焼した。次いで、ペレットを取出し、充分に乳鉢で粉砕してから、再度ペレット状に成形し、大気中、温度600℃で24時間仮焼した。その後、ペレットを取出し、充分に乳鉢で粉砕し、再度ペレット状に成形して大気中、温度900℃で24時間本焼成を行った。このようにして、LiTi2(PO4)3を得た。
【0035】
次に、上記のようにして作製した正極活物質及び負極活物質を用いて、水系リチウム二次電池を作製する。
具体的には、まず、正極活物質としてのLiFePO4を70重量部、導電剤としてのカーボンブラックを25重量部、及び結着材としてのポリロエチレンテレフタレートを5重量部混合し、正極合材を作製した。この正極合材14.3mg(活物質量10mg)を予めコインセルの内側に溶接したSUSメッシュ上に約0.6ton/cm2で圧着して正極2を形成した(図1参照)。
【0036】
また、負極活物質としてのLiTi2(PO4)3を70重量部、導電剤としてのカーボンブラックを25重量部、及び結着材としてのポリエチレンテレフタレートを5重量部混合し、負極合材を作製した。この負極合材14.3mg(活物質量10mg)を予めコインセルの内側に溶接したSUSメッシュ上に約0.6ton/cm2で圧着して負極3を形成した(図1参照)。
【0037】
次に、図1に示すごとく、2016型のコインセル用の電池ケース11を準備し、この電池ケース11内に、正極2と負極3とを配置した。このとき、正極2と負極3との間には、ポリエチレン製のセパレータ4を配置した。
次いで、電池ケース11内にガスケット45を配置し、さらに電池ケース11内に水溶液電解液を適量注入し含浸させた。本例においては、水溶液電解液としては、濃度6mol/LのLiNO3水溶液(pH≒4.5)を用いた。
次に、電池ケース11の開口部に封口板12を配置し、電池ケース11及び封口板12の端部をかしめ加工することにより、電池ケース11を密封して、水系リチウム二次電池1を作製した。これを電池E1とする。
【0038】
また、本例においては、TiP27からなるチタン系ポリアニオン化合物を負極活物質として含有する水系リチウム二次電池(電池E2)を作製した。
電池E2は、負極活物質として、LiTi2(PO4)3の代わりにTiP27を用いた点を除いては、上記電池E1と同様にして作製した水系リチウム二次電池である。
電池E2の負極活物質として用いたTiP27は、以下のようにして合成した。
即ち、まず、濃度85wt%のリン酸(H3PO4)水溶液中に、酸化チタン(TiO2、アナターゼ)を分散させ、温度120℃で24時間乾燥させた。得られた粉末を大気中、温度700℃で24時間焼成した。これによりTiP27を得た。
得られたTiP27を負極活物質として用いて、その他は上記電池E1と同様にして水系リチウム二次電池を作製した。これを電池E2とする。
【0039】
また、本例においては、上記電池E1及び電池E2の比較用として、2種類の水系リチウム二次電池(電池C1及び電池C2)を作製した。
電池C1は、負極活物質として、LiV24を含有する水系リチウム二次電池である。電池C1は、負極活物質として、LiTi2(PO4)3の代わりにLiV24を用いた点を除いては、上記電池E1と同様にして作製した。
【0040】
電池C1の負極活物質として用いたTiP27は、以下のようにして合成した。
即ち、まず、炭酸リチウム(Li2CO3)及び五酸化バナジウム(V25)を上記組成式(LiV24)の化学量論比にしたがって秤量し、自動乳鉢で20分間混合した。その後、混合物100重量部に対して、カーボンブラック(東海カーボン株式会社製のTB−5500)を2重量部添加し、さらに自動乳鉢で20分間混合した。その混合物をアルゴン気流中、温度750℃で24時間焼成した後、急冷し、LiV24を得た。
得られたLiV24を負極活物質として用いて、その他は上記電池E1と同様にして水系リチウム二次電池を作製した。これを電池C1とする。
【0041】
また、電池C2は、正極活物質として、LiMn24を含有する水系リチウム二次電池である。電池C1は、負極活物質として、LiFePO4の代わりにLiMn24を用いた点を除いては、上記電池E1と同様にして作製した。
電池C2の正極活物質として用いたLiMn24は、以下のようにして合成した。
即ち、まず、Li源としてのLiOHと、Mn源としてのMnCO3とを準備し、LiとMnとのモル比がそれぞれ1.05:2.0となるような混合比で、Li源とMn源とを混合した。混合は、自動乳鉢を用いて1時間行った。
混合後、O2雰囲気中で温度800℃にて12時間焼成した。これにより、スピネル構造のLiMn24(マンガンスピネル)を得た。なお、LiMn24の合成においては、得られるLiMn24においてはLiとMnとのモル比は1:2であるのに対して、上記のごとくLiとMnとのモル比が1.05:2.0となるようにLi源とMn源とを混合している。これは、Liが高温で焼成雰囲気中に放出されやすいことを考慮して配合を行ったためである。
得られたLiMn24を正極活物質として用いて、その他は上記電池E1と同様にして水系リチウム二次電池を作製した。これを電池C2とする。
【0042】
次に、上記のようにして作製した4種類の各電池(上記電池E1、電池E2、電池C1、及び電池C2)について、初回の充放電効率の測定を行った。
即ち、まず、各電池を、温度20℃の条件下で、電流密度0.1mA/cm2の定電流で、所定の上限電圧(表1参照)まで充電し、その後、電流密度0.1mA/cm2の定電流で所定の下限電圧(表1参照)まで放電した。このときの充電電流容量と放電電流容量とを測定し、これらの比(放電電流容量/充電電流容量)を百分率(%)で算出して、これを充放電効率とした。その結果を表1に示す。
充電電流容量は、充電時における電流値(mA)に充電に要した時間(hr)を乗ずることにより算出した。また、同様に、放電電流容量は、放電時における電流値(mA)に充電に要した時間(hr)を乗ずることにより算出した。
【0043】
【表1】

【0044】
また、充放電効率を測定した各電池(上記電池E1、電池E2、電池C1、及び電池C2)について、下記の充放電サイクル試験を行った。
充放電サイクル試験は、各電池を、温度20℃の条件下で、電流密度0.1mA/cm2の定電流で、上記表1に示す所定の上限電圧まで充電し、その後、電流密度0.1mA/cm2の定電流で上記表1に示す所定の下限電圧まで放電する充放電を1サイクルとし、このサイクルを20サイクル繰り返すことにより行った。そして各サイクルにおける放電容量を測定した。放電容量は、放電電流値(mA)に放電に要した時間(hr)を乗ずることにより算出した。次いで、初回の放電容量に対する各サイクルの放電容量の比(nサイクル目(nは、1〜20の自然数)の放電容量/初回の放電容量)を百分率で表し、これを容量維持率とした。各電池のサイクル数と容量維持率との関係を図2に示す。
【0045】
表1から知られるごとく、負極活物質にバナジウム酸化物を用いた電池C1及び正極活物質にマンガン酸化物を用いた電池C2は、初回の充放電効率が80%未満という低い値を示した。これは、初回の充放電時に、負極活物質中のバナジウムの溶解、又は正極活物質中のマンガンの溶解等の副反応が存在するためであると考えられる。また、電池C2においては、正極活物質LiMn24を含有する正極において、水の分解が起こっていることも充放電効率の低下の原因になっていると考えられる。
これに対し、電池E1及び電池E2は、いずれも82%程度の良好な充放電効率を示した。これは、活物質中の遷移金属の溶解や水の分解等がほとんどおこっていないためであると考えられる。
【0046】
また、図2から知られるごとく、電池C2は、20回の充放電サイクル試験の比較的初期段階から急激に容量が劣化しており、20サイクル目には、容量維持率は約45%にまで低下していた。また、電池C1においても15サイクル目以降から急激に容量が劣化し、20サイクル目には、容量維持率は70%未満にまで低下していた。
これに対し、電池E1及び電池E2は、20サイクル目においても75%を超える高い充放電維持率を示しており、優れた充放電サイクル特性を有していることがわかる。この良好なサイクル特性も、活物質からの遷移金属(イオン)の溶出や水の分解が抑制されたためであると考えられる。
【0047】
また、電池E1及び電池E2は、活物質中にバナジウム等の環境負荷が大きい元素やレア元素を含有していない。そのため、電池E1及び電池E2は、環境負荷を小さくすることができると共に、低コストでの製造が可能になる。
【0048】
このように、本例によれば、水系リチウム二次電池(電池E1及び電池E2)は、環境負荷が小さく、低コストで製造できると共に、充放電サイクル特性に優れていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1にかかる、水系リチウム二次電池の構成を示す説明図。
【図2】実施例1にかかる、各水系リチウム二次電池(電池E1、電池E2、電池C1、及び電池C2)の充放電サイクル特性を示す説明図。
【符号の説明】
【0050】
1 水系リチウム二次電池
2 正極
3 負極
4 セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含有する正極と、負極活物質を含有する負極と、リチウム塩を水に溶解してなる水溶液電解液とを含有する水系リチウム二次電池において、
上記正極活物質は、LiFePO4を基本組成とするオリビン構造の鉄リン酸リチウムを主成分とし、
上記負極活物質は、LiTi2(PO4)3又はTiP27からなるチタン系ポリアニオン化合物を主成分とすることを特徴とする水系リチウム二次電池。
【請求項2】
請求項1において、上記水溶液電解液のpHは、3〜11であることを特徴とする水系リチウム二次電池。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記リチウム塩としては、少なくとも硝酸リチウムが用いられていることを特徴とする水系リチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−282665(P2008−282665A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125686(P2007−125686)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】