説明

水系加工油用オイルミスト抑制剤

【課題】鉄鋼、合金鋼、アルミ等の金属部材、石英、シリコン、セラミックス、カーボン等の脆性材の切削、研削加工に於いて、乳化状態や加工性能を阻害せず、作業環境悪化要因であるオイルミストを抑制するオイルミスト抑制剤を提供することを目的とする。
【解決手段】
水溶液が下限臨界溶解温度(LCST)をもつ感温性ポリマーで、該感温性ポリマーが、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのいずれか1種類以上を構成成分として含むポリマーからなる水系加工油用オイルミスト抑制剤をミスト抑制剤として添加したところ、オイルミストを著しく抑制し、且つ添加しても加工性能、希釈・乳化性能への影響が無いことを見出して本発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系潤滑剤に関し、詳しくは金属部材、脆性材の切削加工や研削加工に於いて使用される水溶性金属加工油剤に関し、使用時にオイルミストの発生を抑制できる添加剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
切削 、研削加工に於いては、工具と被削材の冷却、潤滑性能付与による加工能率や加工精度の向上および工具寿命の延長を目的に、加工油剤が使用されている。
加工油は加工部位で、工具及び被削材の高速運動による高いせん断力を受け微粒子化され、さらに、加工時の工具と被削材の摩擦熱により成分が気化し環境温度で凝集し微細な形状をとることで環境中にオイルミストとして滞留する。このようなオイルミストは、作業場環境に充満し、特に10μm以下のものは作業者の呼吸により体内に入り健康上悪影響を及ぼす恐れがある。
環境中のオイルミスト低減措置としては、排気装置、各種空気清浄機等の設備面で対応する場合があるが、高い設備投資が必要となる。
一方、加工油に関しては、親水性部位を有するポリマー等のオイルミスト抑制剤の添加や、低沸点含有量の少ない油を使用する等が行われている。
【0003】
オイルミスト抑制剤として、特開2000−129282号公報、特開平10−046178号公報では水溶性、若しくは水分散性の高分子化合物の報告がある。一方、作動油、エンジンオイル等の油に用いたものとして特開2008−248110号公報、特表平8−512334号公報がある。
しかし、このような水溶性高分子では油分への溶解性が低く、油分へ直接作用することが無いため、高いオイルミスト抑制効果は得られない。
【0004】
水溶性高分子は、加工部位への水の保持効果は期待できるものの、水の沸点上昇、被膜形成により、冷却作用を低下させてしまうという難点がある。
【0005】
また、汎用な水溶性高分子であるポリ(メタ)アクリル酸等は、使用する工業用水や井戸水からのカルシウムイオン、マグネシウムイオン若しくは被削材から溶出する各種多価金属イオンと相互作用し、水不溶解性の凝集物を生じ易く、オイルミスト抑制効果の低下、さらにはスケール発生の原因となり配管の詰まり、腐敗等の不具合を招く恐れがある。
一方、エステル基を有するメタクリル酸メチル等を含むポリマーはアルカリ水溶液中では加水分解を受け易く安定性に不安があり長期間の使用に耐えうるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−129282号公報
【特許文献2】特開平10−046178号公報
【特許文献3】特開2008−248110号公報
【特許文献4】特表平8−512334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、鉄鋼、合金鋼、アルミ等の金属部材、石英、シリコン、セラミックス、カーボン等の脆性材の切削、研削加工に於いて、乳化状態や加工性能を阻害せず、作業環境悪化要因であるオイルミストを抑制するオイルミスト抑制剤を提供することを目的とする。
【0008】
具体的には、水溶性高分子でありながら油分にも作用して優れたオイルミスト抑制効果を呈し、水分の冷却作用を低下させることなく、またイオンとの相互作用で凝集物やスケールを発生させることが無く、さらに、長時間の使用においても効果が安定である水系加工油用オイルミスト抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる課題を解決するため研究の結果、油溶性且つ水中では温度応答性を示すポリマーをミスト抑制剤として添加したところ、オイルミストを著しく抑制し、且つ添加しても加工性能、希釈・乳化性能への影響が無いことを見出して本発明を完成した。
すなわち本発明は、
(1)水溶液が下限臨界溶解温度(LCST)を持つポリマーからなる水系加工油用オイルミスト抑制剤
(2)前記(1)記載のポリマーが、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのうちいずれか1種類以上を構成モノマーとして含むポリマーからなる水系加工油用オイルミスト抑制剤
(3)前記(1)記載のポリマーが、水系加工油中に添加されているとき、該水系加工油の温度が上昇して下限臨界溶解温度(LCST)より高い温度になると、該ポリマーの一部または全部が水系加工油中の水相から油相に移動することを特徴とする前記(1)記載の水系加工油用オイルミスト抑制剤、
(4)前記(1)から(3)に記載の水系加工油用オイルミスト抑制剤を含有する水溶性加工油剤、
(5)前記(1)から(3)に記載の水系加工油用オイルミスト抑制剤とポリエーテル化合物とからなるオイルミスト抑制剤組成物
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のオイルミスト抑制剤は、水溶性加工油剤に配合することにより、希釈、乳化性や加工性能を阻害せず、オイルミストの発生を抑制することができる。その結果、ミスト発生を抑制するため金属加工油剤の大量使用や、ミスト集塵機の設置の設備投資も必要ないので、コスト削減を図ることができる。さらに、本発明のオイルミスト抑制剤は、作業環境温度では水、油に対して両親媒性であることから不溶解物の発生が無く機械汚れの原因と成らない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、水系加工油用オイルミスト抑制剤、及びそれを含有する、鉄鋼、合金鋼、アルミ等の金属部材、石英、シリコン、セラミックス、カーボン等の脆性材の切削・研削加工用の水溶性加工油剤にかかるものである。また、水溶性加工油剤に適宜簡便に添加できる水系加工油用オイルミスト抑制剤組成物に係るものである。
温度応答性を示すアクリルアミド誘導体を含むポリマーをミスト抑制剤として含有することで金属等の切削・研削加工時のオイルミスト発生量を抑制し、具体的には作業環境の改善、作業員の安全性の長期的な確保を実現するものである。
【0012】
本発明の水系加工油用オイルミスト抑制剤であるポリマーは、モノマーとしてN,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのいずれか1種類以上を構成成分として含むポリマーであり、他の構成成分としてビニルモノマー等を用いることができる。ビニルモノマーとして、N−アクリロイルピペリジン、N−3−イソプロポキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−8−アクイロイル−1,4−ジオキサ−8−アザスピロ[4,5]デカン、N−1−メトキシメチルプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイル−L−プロリンメチルエステル、N−2−メトキシエチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N−2−メトキシエチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−3−エトキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−1−メチル−2−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−2−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−2−メトキシエチル−N−エチルアクリルアミド、N,N−ビス(2−メトキシエチル)アクリルアミド、N−3−メトキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−(1,3−ジオキソラン−2−イルメチル)−N−メチルアクリルアミド、N−メチル−N−エチルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−(2,2−ジメトキシエチル)−N−メチルアクリルアミド、N−3−(2−メトキシエトキシ)プロピル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシメチルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、アミノ酸基を含むアクリルアミド化合物などのN−置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルイソブチルアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミドなどのN−ビニル置換アミド誘導体、2−モルホリノエチル(メタ)クリレート、2−(2−モルホリノエトキシ)エチル(メタ)クリレート、2−モルホリノプロピル(メタ)クリレート、モルホリンテトラエチレンオキシ(メタ)クリレート、3,5−ジメチルモルホリンテトラエチレンオキシ(メタ)クリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール・ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール・ポリプロピリングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール・ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ベンジルオキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレートなどのエステル型ビニルモノマー、ビニルメチルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテルなどのエーテル型ビニルモノマー、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アンモニウム塩、メタアリルスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、モノ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、マレイン酸、イタコン酸などのアニオン性ビニルモノマー、第3級アミノ基を有する(メタ)アクリレート誘導体由来の各種4級アンモニウム塩、第3級アミノ基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体由来の各種4級アンモニウム塩などのカチオン性ビニルモノマー、第3級アミノ基を有する(メタ)アクリレート誘導体由来の各種両性イオン基を持つ分子内塩形成性単量体、第3級アミノ基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体由来の各種両性イオン基を持つ分子内塩形成性単量体などの両性ビニルモノマー、アミノ酸塩を含むアクリルアミド誘導体などが挙げられ、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリンが好ましい。
【0013】
前記共重合物を構成するモノマーの比率としては、重合させるモノマー全体のうち、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドの占める割合が質量比で10%以上であることが望ましい。
【0014】
また、本発明の水系加工油用オイルミスト抑制剤であるポリマーは、水溶液で下限臨界溶解温度(LCST)をもつ感温性ポリマーである。
ここでいう感温性ポリマーとは、該ポリマー水溶液の昇温に伴う下限臨界溶解温度(LCST)での転移熱量が吸熱であり、それが0.01cal/g〜13.0cal/gの範囲にあるものである。
本発明の水系加工油用オイルミスト抑制剤において、前記下限臨界溶解温度(LCST)は、30〜100℃の範囲内であることが望ましい。下限臨界溶解温度(LCST)は、該ポリマーを構成するモノマーの種類や構成比によって変わるため、目的とするLCSTに合わせて、適宜調整することができる。
転移熱量は、示差走査熱量計(DSC)を用い、昇温速度1℃/minの条件下で観察される感温点の吸熱ピーク面積から算出される。
【0015】
本発明の水系加工油用オイルミスト抑制剤であるポリマーは、水系加工油の温度が摩擦熱等によって下限臨界溶解温度(LCST)より高い温度になると、水への溶解度が急に低下し、その結果、水系加工油中の水相から油相へと移動する。このことにより、効率よく油分のミスト化を抑制することができ、さらに水相の冷却作用の低下もない。
水相から油相へのポリマーの移動率は一部若しくは全部であり、好ましくは5%〜100%、更に好ましくは50%〜100%が望ましく、5%未満ではオイルミスト抑制効果の低下に伴い添加量の増量が必要となる為に経済的ではない。
また、金属イオンとの相互作用、凝集を起こすことなく、長期的に効率よく油分のミスト化を抑制することができる。
【0016】
本発明の水系加工油用オイルミスト抑制剤の分子量は5千〜300万、好ましくは30万〜100万である。分子量が100万を超えると溶解性の低下が見られ、300万を超えると極端な粘度上昇を招く。
【0017】
この水系加工油用オイルミスト抑制剤であるポリマーの構成成分中に酸基を含む場合は、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、アンモニア中和塩、アルカノールアミン塩であることが好ましい。
【0018】
この水系加工油用オイルミスト抑制剤の添加量としては、使用状態の加工液100重量部に対して、0.001〜30重量部、好ましくは0.01〜3重量部、更に好ましくは0.05〜0.5重量部である。添加が0.001重量部未満であるとミスト抑制効果の向上が見られず、30重量部以上では他添加剤との相溶性が低下するのみならず、粘度上昇を来すことから調製が困難となる。
【0019】
本発明の水溶性加工油剤は、本発明の水系加工油用オイルミスト抑制剤を含有させたものであり、必要に応じて慣用の添加剤、例えば、基油、合成油、金属防錆剤、油性剤、極圧剤、消泡剤、非鉄金属防食剤、防腐剤、金属イオン封鎖剤、界面活性剤を含むことができる。
【0020】
基油としては、鉱油、ポリオレフィン、ポリオールエステル、ポリエーテル等の合成油が挙げられる。
金属防錆剤としては、有機酸とアルカリ成分が挙げられるが、有機酸として
[モノアルキルカルボン酸]
酢酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、カプリル酸、ウンデカン酸、ウンデシレン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、ノナデカン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、リシノレイン酸、乳酸、ヒドロキシラウリル酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキン酸、ヒドロキシベヘン酸、ヒドロキシオクタデセン酸、ドデシルコハク酸、ラウリルコハク酸、ステアリルコハク酸、イソステアリルコハク酸、ナフテン酸、安息香酸、パラターシャリーブチル安息香酸、フタル酸、サリチル酸
[ジカルボン酸]
リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の有機カルボン酸、及びリン酸、ホスホン酸、スルホン酸が挙げられる。
更に、リン酸塩、珪酸塩、重炭酸塩などの無機系防錆剤を併用しても良い。
中でも、炭素数6〜12のモノカルボン酸(ヘキサン酸、カプリル酸、デカン酸、ラウリン酸等)、ジカルボン酸(アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等)、あるいは安息香酸誘導体(tert−ブチル安息香酸、ヒドロキシ安息香酸等)、リン酸及びホスホン酸誘導体としては、エチレンジアミンテトラメチレンスルホン酸、ヒドロキシエタンジホスホン酸が好ましい。
アルカリ成分として、アルカリ金属、アンモニア、アルカノールアミンが挙げられる。アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム等が挙げられ、アルカノールアミンとしてはモノエタノールアミン、モノ(イソ)プロパノールアミン、モノブタノールアミン、ジエタノールアミン、ジ(イソ)プロパノールアミン、ジブタノールアミン、モノエタノールモノ(イソ)プロパノールアミン、モノエタノールモノブタノールアミン、モノ(イソ)プロパノールモノブタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
これら金属防錆剤は、良好な防錆性を得る為に有機酸とアルカリ成分の混合時にpHを8.0〜12.0に保つ必要がある。
【0021】
油性剤としては油脂類が挙げられ、炭素数8〜36の長鎖脂肪酸、例えばオクチル酸、ラウリル酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸及びこれらの脂肪酸と一価及び多価アルコールからなるエステル、例えば、オクチルアルコール、ラウリルアルコール、パルミチルアルコール、オレイルアルコール、ステアリルアルコールからなるエステル類、又はアルキルアミンからなるアミド、例えば、オクチルアミン、ラウリルアミン、パルミチルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミンからなるアミド類が挙げられる。
極圧剤としては、ジオクチルジチオリン酸亜鉛、ジラウリルジプロピオネート等が挙げられる。
【0022】
非鉄金属防食剤としては、メタケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1−{N,N−ビス(2−エチルへキシル)アミノメチル}ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾールが挙げられる。なお、非鉄金属防食剤は、1種類、あるいは2種以上を併用することもできる。
防腐剤としてはO−フェニルフェノール、ベンゾチアゾリン、トリアジン化合物等が挙げられる。
【0023】
金属イオン封鎖剤として、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロトリ酢酸塩、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸塩、クエン酸塩等が例示される。
界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、カルボン酸アルカノールアミドなどの非イオン炭化水素系界面活性剤等が挙げられる。
【0024】
本発明の水溶性加工油剤は、そのまま加工液として使用してもよく、また、濃度の濃い加工油剤を調製し、使用前に水(水道水)で希釈して加工液として使用することもできる。希釈して使用する場合には、水系加工油用オイルミスト抑制剤の濃度が0.001%重量以下にならないように、かつ防錆剤等の添加剤の効果に支障をきたさない濃度になるようにする。
【0025】
本発明のオイルミスト抑制剤組成物は、本発明の水系加工油用オイルミスト抑制剤とポリエーテルとの混合物である。該ポリエーテル化合物としては液状でミスト抑制剤の溶解性が優れるエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の単独及び共重合体やそれらとアルキレンオキサイドのアルキルエーテル、芳香族、脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル付加物が挙げられる。また、必要に応じて慣用の添加剤、例えば金属防錆剤、油性剤、極圧剤、消泡剤、非鉄金属防食剤、防腐剤、金属イオン封鎖剤、界面活性剤を含むことができる。
【0026】
本発明のオイルミスト抑制剤組成物は、各種の水系加工油剤に対して相溶性に優れているため、水系加工油剤に対し適時に適量を添加することで、オイルミスト抑制効果を付与、増強することができる。従って、本発明のオイルミスト抑制剤組成物は、切削・研削加工現場において、オイルや加工液の種類に応じて添加量を加減したり、また経時的なオイルミスト抑制効果の低下に際して追加添加することができるため、従来は不可能であったオイルミスト抑制効果を発揮できる。さらに、有効成分のみを必要に応じて使用するので、簡便で省資源である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
水系加工油用オイルミスト抑制剤の合成
[製造例1]
N,N−ジエチルアクリルアミド重合体の合成
1L容量のセパラブルフラスコにN,N−ジエチルアクリルアミド
150g、水 850gを加えモノマー溶液を作製した。該モノマー調製液を、上部攪拌しながら、20℃の水浴に浸け窒素ガスを1時間通気した。そこで、重合開始剤としてt−Butyl hydoperoxide 10%水溶液 0.058g、亜硫酸水素ナトリウム10%水溶液 0.048gを投入し、10時間保持した。105℃下で熱風乾燥後、粉砕し、分子量約200000(GPC測定)の白色物粉末(ポリマーA、LCST
33℃ )を得た。
【0029】
[製造例2]
N−イソプロピルアクリルアミド−ジメチルアクリルアミド共重合物の合成
1L容量のセパラブルフラスコにN−イソプロピルアクリルアミド 75g、ジメチルアクリルアミド 75g、水 850gを加え、モノマー溶液を作製した。該モノマー調製液を、上部攪拌しながら、20℃に水浴に浸け窒素ガスを1時間通気した。そこで、重合開始剤としてt−Butyl hydoperoxide 10%水溶液 0.058g、亜硫酸水素ナトリウム10%水溶液 0.048gを投入し、10時間保持した。105℃下で熱風乾燥後、粉砕し、分子量約180000(GPC測定)の白色物粉末(ポリマーB、LCST
45℃)を得た。
【0030】
オイルミスト抑制剤組成物の作製
[製造例3]
製造例1で得られたポリマーA 5gにユニルーブMB―7(日油製)を50g、ジプロピレングリコール(旭硝子製)を40g、アデカプルロニックP−103(アデカ製)5gを混合して、オイルミスト抑制剤組成物Aを得た。
【0031】
[製造例4]
製造例1で得られたポリマーB 5gにユニルーブMB―7(日油製)を50g、ジプロピレングリコール(旭硝子製)を40g、アデカプルロニックP−103(アデカ製)5gを混合して、オイルミスト抑制剤組成物Bを得た。
【0032】
・耐凝集性の評価
[実施例1〜2、比較例1]
製造例1〜2で合成したポリマーA及びB、親油性及び温度感受性が低いポリアクリル酸ナトリウム(分子量250000、和光純薬社製)を用いて、表1に示した水溶液を調製し、室温下、硬水中での凝集性を評価した。
【0033】
【表1】

【0034】
表1によればポリマーA及びBは、マグネシウムイオン共存下においても凝集無く均一に溶解することが確認できる。
【0035】
・温度依存性の評価
[実施例3、比較例1]
製造例1〜2で合成したポリマーA及び親油性及び温度感受性が低いポリアクリル酸ナトリウム(アクアリックHL415)を用いて、20℃並びに45℃に於ける油/水(重量比1/1)への分配比を評価した。評価の油はユニルーブMB−7(日油製)を用いた。
【0036】
【表2】

【0037】
・オイルミスト抑制効果の評価
[実施例4〜5、比較例3]
製造例1〜2で合成したポリマーA及びB、ポリアクリル酸ナトリウム(分子量250000、和光純薬社製)、を用いて、表3に示した組成で、加工油剤を調整し、評価液とした。
【0038】
【表3】

【0039】
[比較例4]、[比較例5]
比較例4は、水溶性切削油剤のユシローケンFGE234(ユシロ社製)を10倍水道水で希釈したものを評価液とした。
比較液5は、水溶性切削油のユシローケンFX−10(ユシロ社製)を10倍水道水で希釈したものを評価液とした。
【0040】
[実施例6]、[実施例7]
実施例6は、水溶性切削油剤のユシローケンFGE234(ユシロ社製)を10倍水道水で希釈し、さらに製造例3で製したオイルミスト抑制剤組成物Aを2%添加したものを評価液とした。
実施例7は、水溶性切削油剤のユシローケンFX−10(ユシロ社製)を10倍水道水で希釈し、さらに製造例4で作製したオイルミスト抑制剤組成物Bを2%添加したものを評価液とした。
【0041】
オイルミスト量評価試験
実施例4〜7、比較例3、4、5の加工液につき、オイルミスト量の測定結果を表4に示した。
【0042】
【表4】

【0043】
なお、ミスト評価方法は下記の通りである。
<加工条件>
工作機械 マシニングセンター(MAKINO V33)
回転数 1020rpm
F 184mm/min
深さ 49mm
ワーク SS200
加工数 50穴
工具 YSD10(MISUMI)
クーラント流量 890±10ml/ml
<ミスト量評価器>
ピエゾバランス粉塵計3511(KANOMAX) サンプリング時間 24秒
※7.07μm 98%カットインパクタノズル使用
【0044】
表4によれば、実施例4〜7の加工油剤は、比較例3、4及び5に対して高いミスト抑制効果を示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上述べてきた通り、本発明のモノマーN,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのいずれか1種類以上を構成成分として含むポリマーである水系加工油用オイルミスト抑制剤を含有することを特徴とする水溶性金属加工液は、鉄鋼、合金鋼、アルミ等の金属部材、石英、シリコン、セラミックス、カーボン等の脆性材の切削、研削加工に於いて、乳化状態や加工性能を阻害せず、作業環境悪化要因であるオイルミストを抑制することができ、環境負荷が低い。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液が下限臨界溶解温度(LCST)を持つポリマーからなる水系加工油用オイルミスト抑制剤
【請求項2】
請求項1記載のポリマーが、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのうちいずれか1種類以上を構成モノマーとして含むポリマーからなる水系加工油用オイルミスト抑制剤
【請求項3】
請求項1記載のポリマーが、水系加工油中に添加されているとき、該水系加工油の温度が上昇して下限臨界溶解温度(LCST)より高い温度になると、該ポリマーの一部または全部が水系加工油中の水相から油相に移動することを特徴とする前記(1)記載の水系加工油用オイルミスト抑制剤、
【請求項4】
請求項1から3に記載の水系加工油用オイルミスト抑制剤を含有する水溶性加工油剤、
【請求項5】
請求項1から3に記載の水系加工油用オイルミスト抑制剤とポリエーテル化合物とからなるオイルミスト抑制剤組成物
を提供するものである。


【公開番号】特開2011−231304(P2011−231304A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274363(P2010−274363)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】