説明

水系接着剤組成物及びこれを使用した接着方法

【課題】ウレタンフォームなどの多孔質な材料同士を接着するに当たって、貼り合わせようとする2つの被着体のそれぞれの被着面に水系接着剤組成物を塗布する必要がなく、また接着部分をピンチローラなどによる強い力で圧締させる必要の無い水系接着剤組成物およびこれを使用した接着方法を提供することにある。
【解決手段】アニオン性クロロプレンラテックスから成る主剤と、カチオン性ポリマーから成る硬化剤とにより構成されることを特徴とする水系接着剤組成物及びこれを使用した接着方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタンフォームなどの多孔質な材料同士の接着に使用する2液分別塗布形の水系接着剤組成物及びこれを使用した接着方法に関し、詳しくは貼り合わせようとする被着体の1の被着体の片面のみに塗布した後、直ちに他の被着体の被着面を重ねて軽く手で押さえるだけで良好な接着性を有する水系接着剤組成物及びこれを使用した接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用内装材などで使用されているウレタンフォームなどの多孔質なプラスチック発泡体を接着させて複合化するための接着剤組成物は、これを使用する工場内の労働安全衛生、防火及び環境汚染の観点から2液分別塗布形の水系接着剤組成物が使用されている。
【0003】
特に、初期接着力および耐熱接着力を向上させた接着剤組成物として、アニオン性クロロプレンラテックスの固形分100重量部に対して、アクリル系エマルジョンまたは/およびSBR系ラテックスを固形分として1〜100重量部、ノニオン性または/およびアニオン性界面活性剤を固形分として0.01〜10重量部を含有した主剤成分と、多価金属塩を主成分とする硬化剤成分との2液からなることを特徴とする接着剤組成物が提案されている(特許文献1)
【0004】
また、初期接着力を改良した2液分別塗布型の水系接着剤として、クロロプレン100重量部に対して、アニオン系界面活性剤0.2〜15重量部含有するクロロプレン系ラテックスを必須成分とする主剤と、金属塩を必須成分とする硬化剤との2液からなることを特徴とする水系接着剤が提案されている(特許文献2)。
【0005】
さらには、同じく初期接着力を改良した2液分別塗布型の水系接着剤として、スルホン酸基を有するアニオン界面活性剤の存在下で、クロロプレン単独またはクロロプレン及びクロロプレンと共重合可能な単量体とを水性ラジカル重合して得たクロロプレン系重合体ラテックスに対し、該クロロプレン系重合体100重量部に対して、カルボキシル基を有するアニオン界面活性剤を0.2〜15重量部添加してなる主剤成分と、金属塩を硬化剤成分との2液からなることを特徴とする水系接着剤が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−188860号公報
【特許文献2】特開平10−53749号公報
【特許文献3】特開平10−147763号公報
【0007】
しかし、特許文献1に係る接着剤組成物は、多孔質な被着体の1の被着体の片面のみに接着して使用する場合は、被着体同士を例えばピンチローラにて相当の荷重を掛けた上で貼り合わせる必要があり、係る作業は手間であると共に、接着作業者によるピンチローラを使用した載荷荷重が小さい場合は初期接着力が低下する場合があり、また貼り合わせ部分が複雑な形状をしている場合、該ピンチローラによる圧締作業が困難であるという課題があった。
【0008】
また、特許文献2および特許文献3に係る水系接着剤は、貼り合わせる2つの多孔質な被着体のそれぞれの被着体に該水系接着剤を塗布する必要があり、さらには該水系接着剤を塗布した上で1kg/cmの荷重で圧締しなければならず、接着作業の効率が低いという課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、ウレタンフォームなどの多孔質な材料同士を接着するに当たって、貼り合わせようとする2つの被着体のそれぞれの被着面に水系接着剤組成物を塗布する必要がなく、また1の被着体の片面に該水系接着剤組成物を塗布し、オープンタイムを取ることなく直ちにもう1つの被着体の被着面を重ねあわせた後、該接着部分をピンチローラなどにより圧締させなくても、十分な初期接着力を有する水系接着剤組成物及びこれを使用した接着方法を提供することにある。なお、ここでいう「直ちに」とは、水系接着剤組成物を塗布後、水分を揮散させるオープンタイムを取らないで、という意味である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、アニオン性クロロプレンラテックスから成る主剤と、カチオン性ポリマーから成る硬化剤とにより構成されることを特徴とする水系接着剤組成物である。
【0011】
また請求項2記載の発明は、請求項1記載の水系接着剤組成物の主剤と硬化剤をそれぞれ別個に吹き付け衝突混合させ、接着しようとする2つの多孔質な被着体の1の被着面に塗布し、直ちに該塗布面にもう1つの被着体の被着面を重ねることにより接着させることを特徴とする請求項1記載の水系接着剤組成物を使用した接着方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る水系接着剤組成物及びこれを使用した接着方法は、ウレタンフォームなどの多孔質な材料同士を接着するに当たって、貼り合わせようとする2つの被着体のそれぞれの被着面に水系接着剤組成物を塗布する必要がないという効果がある。従って、1の被着体の被着面にのみに本発明に係る水系接着剤組成物を塗布し、その後直ちにもう1つの被着体の被着面を重ねることにより十分な接着力を有するという効果がある。
【0013】
また、1の被着体の片面に該水系接着剤組成物を塗布し、直ちにもう1つの被着体の被着面を重ねあわせた後、ピンチローラなどによる強い力で圧締させるという作業が不必要で、手で軽く押さえるだけで十分な初期接着力を有するという効果がある。このため、接着作業者により接着力にバラツキが生じることがなく、安定し且つ十分な初期接着力を有するという効果がある。
【0014】
さらには、貼り付け面は手で軽く押さえるだけでも十分な初期接着力を有するため、複雑な形状をした被着体同士を接着させることができ、ピンチローラー圧締時に生じる被着体のしわやズレなどがなく、接着作業の効率が大幅に向上するという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明の水系接着剤組成物は、クロロプレンラテックスからなる主剤と、カチオン性ポリマーからなる硬化剤とから成る水系接着剤組成物である。
【0017】
クロロプレンラテックス
本発明に用いるクロロプレンラテックスはクロロプレンを単独で重合またはクロロプレンと他のモノマーを共重合させたもので、かかるモノマーとしてはイソプレン、ブタジエン、ジクロロブタジエン、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等が挙げられる。クロロプレンラテックスの合成には乳化剤が使用され、アニオン型、ノニオン型、カチオン型などが使用できるが、本発明で使用するクロロプレンラテックスは、アニオン型が好ましく、アニオン型の中でも特にロジン酸塩系乳化剤の使用が適している。
【0018】
カチオン性ポリマー
カチオン性ポリマーとしてはポリアルキレンイミン構造を持つアクリル系共重合体であり、カルボキシル基含有モノマーとメタアクリル酸エステルを主成分とし、エチルアルコール、n−又はイソプロピルアルコール、n−又はイソもしくはt−ブチルアルコール、ブチルセロソルブ、メチルエチルケトンなどの有機溶剤中で溶液重合して調製されたカルボキシル基含有ポリマー分子中に存在するカルボキシル基に対して炭素数1〜3のアルキル基をもつエチレンイミン、プロピレンイミン、ブチレンイミンなどのアルキレンイミンあるいはこれらの混合物を反応させて得られるものである。溶液重合に使用される重合開始剤には一般的に使用されるAIBN、BPOなどの過酸化物があり、重合反応は60〜100℃程度の加熱下において5〜15時間程度反応させることにより行われる。
【0019】
硬化剤としてのカチオン性ポリマーの使用量はアニオン性クロロプレンラテックスの固形分100重量部に対して5重量部以上30重量部未満であり、好ましくは10重量部以上25重量部未満である。5重量部未満では初期接着性が不十分となり、30重量部以上では片面塗布による接着性が不良となる。また10重量部未満では初期接着性が低下する傾向にあり、25重量部以上では片面塗布による接着性が低下する傾向にある。
【0020】
本発明の接着剤組成物は、前記クロロプレンラテックス主剤に加えて粘着付与樹脂、可塑剤の各種添加剤を用いることができる。
【0021】
粘着付与樹脂の具体例として、ガムロジン、トールロジン、ウッドロジン、不均斉化ロジン、重合ロジン、これらロジンのグリセリンエステルやペンタエリスリトールエステル、これらの水素添加物などのロジン系樹脂、テルペン樹脂、炭化水素変性テルペン樹脂、これらの水素添加物などのテルペン系樹脂、テルペンフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂の水素添加物などのテルペンフェノール系樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂、ピュアーモノマー系石油樹脂、これらの水素添加物などの石油系樹脂、スチレン系樹脂、クマロンインデン系樹脂、アルキルフェノール系樹脂、キシレン系樹脂、ダンマル、コーパル、シェラックなどが挙げられる。
【0022】
可塑剤の具体例として、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジイソブチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸オクチル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ビス(2−エチルヘキシル)、アゼライン酸ビス(2−エチルヘキシル)、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ドデカン二酸ビス(2−エチルヘキシル)、アセチルクエン酸トリブチル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート、アロマオイルのような石油系炭化水素可塑剤などが挙げられる。また適宜、アクリルエマルジョン、ウレタンエマルジョン、SBRラテックス、アクリル変性SBRラテックスなどのエマルジョンを添加することができる。
【0023】
本発明の接着剤組成物には前記各添加剤の他、炭酸カルシウムやシリカなどの無機充填材、老化防止剤、加硫促進剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、凍結安定剤などを適宜配合できる。
【0024】
以下、実施例及び比較例にて本出願に係る水系接着剤組成物について具体的に説明する。
【0025】
実施例1
主剤にはアニオン性クロロプレンラテックスALX550(商品名、固形分:55%、電気化学工業(株)製)を使用し、カチオン性ポリマーからなる硬化剤にはポリアルキレンイミン構造を持つアクリル系共重合体であるポリメントNK100PM(商品名、固形分:93%、日本化薬(株)製)を使用し実施例1とした。
【0026】
実施例2
実施例1の主剤に代えてアニオン性クロロプレンラテックスC84(商品名、固形分:55%、住化バイエルウレタン(株)製)を使用し、カチオン性ポリマーからなる硬化剤は実施例1と同一とし、実施例2とした。
【0027】
実施例3
実施例1の主剤に代えてアニオン性クロロプレンラテックスSL360(商品名、固形分:52%、東ソー(株)製)を使用し、カチオン性ポリマーからなる硬化剤は実施例1と同一とし、実施例3とした。
【0028】
比較例1
主剤は実施例1と同一とし、硬化剤に塩化カルシウム5%水溶液を使用し比較例1とした。
【0029】
評価項目および試験方法
【0030】
試験体作成方法
ウレタンフォーム(商品名、イノアックコーポレーション製、品番:ER−4)に2液双頭ガンにて主剤:硬化剤=10:1の割合で片面塗布の場合約150g/m、両面塗布の場合は片面あたり約75g/mになるように吹き付ける。吹き付け後、直ちに手圧着して試験体を得た。なお、2液双頭ガンには株式会社恵宏製作所製FRP用外部混合式2頭ガン(サンライト・2WAYゲルコートスプレーガン)を使用した。
【0031】
初期接着性
試験体を作成後、直ちに25mm巾に切断し、デジタルフォースゲージ((株)イマダ製 DPRSX−50T)を用いて手動にて180度剥離強度を測定した。
【0032】
常態接着性
試験体を23℃雰囲気下で14日間養生後、25mm巾に切断し、デジタルフォースゲージを用いて手動にて180度剥離強度を測定した。
【0033】
保存性
各主剤及び硬化剤を40℃雰囲気下に1ヶ月間静置し、静置後の増粘およびゲル化の状態を目視観察し、増粘又はゲル化がみられるものを×、増粘又はゲル化のないものを○と評価した。
【0034】
評価結果
評価結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
総合評価
実施例1乃至実施例3は両面塗布はもちろん片面塗布の場合であっても初期接着性及び常態接着性の剥離強度は4.8N/25mm以上でウレタンフォームの材料破壊となり、十分な接着力を示した。これに対して比較例1は両面塗布の場合は初期接着性及び常態接着性共に良好な接着力を示したが、片面塗布の場合は0.3N/25mmで界面破壊100%となり接着性は不良であった。なお保存性は実施例1乃至実施例3及び比較例1共に良好であった。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性クロロプレンラテックスから成る主剤と、カチオン性ポリマーから成る硬化剤とにより構成されることを特徴とする水系接着剤組成物。
【請求項2】
請求項1記載の水系接着剤組成物の主剤と硬化剤をそれぞれ別個に吹き付け衝突混合させ、接着しようとする2つの多孔質な被着体の1の被着面に塗布し、直ちに該塗布面にもう1つの被着体の被着面を重ねることにより接着させることを特徴とする請求項1記載の水系接着剤組成物を使用した接着方法。



【公開番号】特開2012−82302(P2012−82302A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228851(P2010−228851)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】