説明

水系接着剤組成物

【課題】少なくとも一方の被着体に塗布することにより被着体を接着させることができ、接着強度が高く、耐温水接着性に優れる硬化物となりうる水系接着剤組成物の提供。
【解決手段】カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーと、前記カルボキシ基に対して反応性を有する架橋剤と、水とを含有し、前記ウレタンプレポリマーが水中でエマルジョンとなっている水系接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
溶剤系クロロプレン接着剤は、ラミネート用、自動車内装用、ハウスパネル用等として使用されている。しかし、溶剤系クロロプレン接着剤はトルエン等の有機溶剤を含有しており、このような有機溶剤は、人体に対する毒性、爆発の危険性、環境への汚染性等の問題が指摘されている。このため、クロロプレンラテックスを用いた水系接着剤が開発され、木工用として使用されている。
【0003】
一方、接着剤、コーティング剤などの用途の水系ウレタン樹脂としては、例えば、特許文献1に記載のプラスチックフォーム用水系接着剤組成物、特許文献2に記載の熱架橋性水系ポリウレタン樹脂組成物が挙げられる。
特許文献1には、「ポリウレタン樹脂(A)の水分散体および水分散性ポリイソシアネート化合物(B)からなり、該(A)が、有機イソシアネート(a)、高分子ポリオール(b)、α,α−ジメチロールモノカルボン酸(c)および必要により低分子活性水素化合物(d)からのカルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーと、該イソシアネート基に対して過剰当量のヒドラジンもしくはその誘導体(f)との反応物の塩基(e)による中和物からなり、分子末端にヒドラジン基(−HNNH2)を有し、かつヒドラジン基当量が500〜15000であることを特徴とするプラスチックフォーム用水性接着剤組成物。」が記載されている。
【0004】
特許文献2には、「2個以上の活性水素原子を有する化合物(A)と、少なくとも2個以上の水酸基を有するカルボキシル基含有化合物(B)と、有機ポリイソシアネート(C)と、ブロック剤(D)との反応により得られる分子中にブロック化イソシアネート基を再生イソシアネート基換算で2重量%以上18重量%以下で含有するウレタンプレポリマーを水に分散させることにより得られる、重量平均分子量が1,500以上50,000以下のポリウレタン樹脂(E)を含有する熱架橋性水系ポリウレタン樹脂組成物。」が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−279912号公報
【特許文献2】特開2002−128851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者は、溶剤系クロロプレン接着剤や水系のクロロプレン接着剤を使用する場合は両方の被着体にこれらの接着剤を塗布しなければ被着体を接着させることができないことを見出した。また、一方の被着体のみに接着剤を塗布して被着体をはり合わせる場合、両方の被着体に接着剤を塗布してはり合わせる場合と比較して、接着強度が低いことを見出した。
また、特許文献1および持許文献2に記載の水系ポリウレタン組成物は、両方の被着体に水系ポリウレタン組成物を塗布しなければ被着体を接着させることができず、かつ、その硬化物は耐温水接着性に劣ることを見出した。
【0007】
従って、本発明は、少なくとも一方の被着体に塗布することにより被着体を接着させることができ、接着強度が高く、耐温水接着性に優れる硬化物となりうる水系接着剤組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、特定のウレタンプレポリマーと特定の架橋剤と水とを含有し、ウレタンプレポリマーが水中でエマルジョンとなっている水系接着剤組成物が、これを少なくとも一方の被着体に塗布することにより被着体を接着させることができ、接着強度が高く、耐温水接着性に優れる硬化物となりうることを知見し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(7)を提供する。
(1) カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーと、前記カルボキシ基に対して反応性を有する架橋剤と、水とを含有し、前記ウレタンプレポリマーが水中でエマルジョンとなっている水系接着剤組成物。
(2) 前記架橋剤が、2個以上のオキサゾリン環を有する化合物、2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物、2個以上のアジリジン環を有する化合物および酸化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記(1)に記載の水系接着剤組成物。
(3) 前記2個以上のオキサゾリン環を有する化合物、前記2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物および前記2個以上のアジリジン環を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が、水中でエマルジョンとなっている上記(2)に記載の水系接着剤組成物。
(4) 前記架橋剤の含有量が、前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.5〜20質量部である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の水系接着剤組成物。
(5) さらに、充填剤を含有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の水系接着剤組成物。
(6) 前記充填剤の平均粒子径が、1〜10μmである上記(5)に記載の水系接着剤組成物。
(7) 前記充填剤の含有量が、前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、1〜50質量部である上記(5)または(6)に記載の水系接着剤組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水系接着剤組成物は、これを少なくとも一方の被着体に塗布することにより被着体を接着させることができ、接着強度が高く、耐温水接着性に優れる硬化物となりうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の水系接着剤組成物は、
カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーと、前記カルボキシ基に対して反応性を有する架橋剤と、水とを含有し、前記ウレタンプレポリマーが水中でエマルジョンとなっているものである。
【0012】
カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーについて以下に説明する。
本発明の水系接着剤組成物において、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーは、カルボキシ基を有し、ウレタンプレポリマーに含まれる一部または全部のイソシアネート基がブロック化剤でブロックされている、ガラス転移温度が0℃以下のウレタンプレポリマーをいう。ブロックイソシアネート基は、熱等によりブロック化剤が解離してイソシアネート基となる。
【0013】
本発明の水系接着剤組成物において使用されるカルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーとしては、例えば、ポリオールとポリイソシアネートと2個以上のヒドロキシ基を有するカルボキシ基含有化合物とブロック化剤とを反応させることにより得られうるものが挙げられる。
【0014】
カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーの製造の際に使用されるポリイソシアネートについて以下に説明する。
ポリイソシアネートは、特に限定されない。例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、トリイソシアネートが挙げられる。
芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)およびこれらの水素添加物が挙げられる。
【0015】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)が挙げられる。
脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、1−メチル−2,4−ジイソシアネートシクロヘキサン、1−メチル−2,6−ジイソシアネートシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが挙げられる。
トリイソシアネートとしては、例えば、トリフェニルメタントリイソシアネートが挙げられる。
中でも、耐熱性に優れ、接着強度により優れるという観点から、芳香族ジイソシアネートが好ましい。
ポリイソシアネートは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーの製造の際に使用されるポリオールについて以下に説明する。
ポリオールは、特に限定されない。例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、その他のポリオールおよびこれらの混合ポリオールが挙げられる。
【0017】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、1,1,1−トリメチロールプロパン、1,2,5−ヘキサントリオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、4,4′−ジヒドロキシフェニルプロパン、4,4′−ジヒドロキシフェニルメタン、ペンタエリスリトールのような多価アルコールの1種または2種以上に、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイドのようなアルキレンオキシドの1種または2種以上を付加して得られるポリエーテルポリオール;テトラヒドロフラン等の開環重合によって得られるポリエーテルポリオールが挙げられる。
【0018】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール、テトラヒドロフランの開環重合によって得られるポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
【0019】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、1,1,1−トリメチロールプロパンのような低分子ポリオールの1種または2種以上と、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸のような低分子カルボン酸やオリゴマー酸の1種または2種以上との縮合重合体;プロピオンラクトン、バレロラクトン、カプロラクトンのようなラクトンの開環重合体が挙げられる。
【0020】
アクリルポリオールとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、β−ヒドロキシエチルメタクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種から得られうるアクリルポリオールが挙げられる。
【0021】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのようなジオール類の1種または2種以上と、ジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネートおよびホスゲンのうちの少なくとも1種とを反応させることにより得られうるものが挙げられる。
【0022】
その他のポリオールとしては、例えば、ポリマーポリオール;ポリブタジエンポリオール;水素添加されたポリブタジエンポリオール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールのような低分子ポリオールが挙げられる。
【0023】
ポリオールはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
中でも、分子設計の容易さの観点から、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオールが好ましい。
【0024】
ポリオールは、硬化後の物性が優れることから、数平均分子量1500〜15000のポリエーテルポリオールが好ましく、2000〜10000のポリエーテルポリオールがより好ましい。
【0025】
カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーを製造する際のポリオールとポリイソシアネートの量比は、例えば、ポリオール中のヒドロキシ基に対するポリイソシアネート中のイソシアネート基の当量比(NCO基/OH基)が、1.6〜2.0であるのが好ましい。
【0026】
カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーの製造の際に使用される2個以上のヒドロキシ基を有するカルボキシ基含有化合物について以下に説明する。
2個以上のヒドロキシ基を有するカルボキシ基含有化合物は、2個以上のヒドロキシ基と1個以上のカルボキシ基とを有する化合物であれば特に制限されない。例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールペンタン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸のようなヒドロキシアルカン酸が挙げられる。
【0027】
ウレタンプレポリマーにカルボキシ基を導入するにあたって、2個以上のヒドロキシ基を有するカルボキシ基含有化合物を用いると、アミノカルボン酸を用いる場合に比較して、イソシアネート基との反応が速すぎることはなく、反応速度のコントロールが容易であり、均一に分子中にカルボキシ基を導入することができるという利点がある。
【0028】
2個以上のヒドロキシ基を有するカルボキシ基含有化合物とポリイソシアネートの量比は、例えば、2個以上のヒドロキシ基を有するカルボキシ基含有化合物中のヒドロキシ基に対するポリイソシアネート中のイソシアネート基の当量比(NCO基/OH基)が、1.6〜2であるのが好ましい。
【0029】
カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーの製造の際に使用されるブロック化剤について以下に説明する。
ブロック化剤としては、例えば、アルコール類、フェノール類、オキシム類、ピラゾール類、トリアゾール類、カプロラクタム類が挙げられる。
【0030】
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ヘキサノール、ラウリルアルコール、t−ブタノール、シクロヘキサノールが挙げられる。フェノール類としては、例えば、キシレノール、ナフトール、4−メチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノールが挙げられる。オキシム類としては、例えば、2,6−ジメチル−4−ヘプタノンオキシム、メチルエチルケトオキシム、2−ヘプタノンオキシムが挙げられる。ピラゾール類としては、例えば、3,5−ジメチルピラゾールが挙げられる。トリアゾール類としては、例えば、1,2,4−トリアゾールが挙げられる。
中でも、貯蔵安定性に優れるという観点から、3,5−ジメチルピラゾール、オキシム類が好ましく、メチルエチルケトオキシムがより好ましい。
ブロック化剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
ブロック化剤の使用量は、例えば、予めポリオールとポリイソシアネートと2個以上のヒドロキシ基を有するカルボキシ基含有化合物とを反応させてウレタンプレポリマーを調製し、このウレタンプレポリマーをブロック化する場合、少なくとも一方の被着体に水系接着剤組成物を塗布することによる被着体同士の接着性、耐温水接着性により優れ、貯蔵安定性に優れるという観点から、原料であるウレタンプレポリマーのイソシアネート基に対するブロック化剤の活性水素の当量比(活性水素/イソシアネート基)が、0.8〜1.1であるのが好ましい。
また、ポリイソシアネートをブロック化してブロックポリイソシアネートとし、ブロックポリイソシアネートとポリオールとを反応させる場合、ブロック化剤の使用量は、少なくとも一方の被着体に水系接着剤組成物を塗布することによる被着体同士の接着性、耐温水接着性により優れ、貯蔵安定性に優れるという観点から、ポリイソシアネートのイソシアネート基に対するブロック化剤の活性水素の当量比(活性水素/イソシアネート基)が、0.8〜1.1であるのが好ましい。
【0032】
カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーの製造の際に使用される、ポリオール、ポリイソシアネート、2個以上のヒドロキシ基を有するカルボキシ基含有化合物およびブロック化剤の組合せは特に制限されない。例えば、ポリオールとしてのポリオキシプロピレングリコールと、ポリイソシアネートとしてのジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)と、2個以上のヒドロキシ基を有するカルボキシ基含有化合物としてのジメチロールプロピオン酸と、ブロック化剤としてのメチルエチルケトオキシムとを使用することにより得られうるものが、接着強度がより高く接着性により優れるという観点から好ましい。
また、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーは、取扱いの観点から室温で液状であるのが好ましい。
【0033】
カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーは、その製造について、特に制限されない。例えば、ポリオールとポリイソシアネートと2個以上のヒドロキシ基を有するカルボキシ基含有化合物とを反応させて得られうるウレタンプレポリマーにブロック化剤を反応させる方法が挙げられる。
【0034】
具体的には、例えば、ポリオールとポリイソシアネートと2個以上のヒドロキシ基を有するカルボキシ基含有化合物とを、触媒(例えば、有機スズ化合物、有機ビスマス化合物)の存在下でまたは触媒を使用せず、反応温度10〜100℃程度、常圧下で、反応させて、カルボキシ基を有するウレタンプレポリマーとする。次に、カルボキシ基を有するウレタンプレポリマーにブロック化剤を加えて、反応温度60〜90℃、常圧で、1〜3時間反応させ、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーを得ることができる。
また、ポリオールとポリイソシアネートと2個以上のヒドロキシ基を有するカルボキシ基含有化合物との反応中に任意の段階でブロック化剤を投入してブロック化剤をウレタンプレポリマーに導入し、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーとする方法が挙げられる。
【0035】
ウレタンプレポリマーのイソシアネート基のブロック化率は、貯蔵安定性に優れ、接着強度により優れるという観点から、100モル%であるのが好ましい。
【0036】
カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーは、その重量平均分子量が、1,500以上であるのが好ましく、2,000以上であるのがより好ましい。また、重量平均分子量は、5,000以下であるのが好ましく、4,000以下であるのがより好ましい。このような範囲の場合、熱架橋効果が高く、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性、耐水性に優れる。
【0037】
カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有するウレタンプレポリマーは、そのガラス転移温度が0℃以下である。このような範囲のガラス転移温度の、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有するウレタンプレポリマーは、接着強度が高く接着性、粘着性に優れる。また、接着性、粘着性により優れるという観点から、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有するウレタンプレポリマーのガラス転移温度は、−10℃以下であるのがより好ましく、−30〜−10℃であるのがさらに好ましい。
このようなガラス転移温度を有するウレタンプレポリマーとしては、例えば、ポリオールとしてのポリオキシプロピレングリコールと、ポリイソシアネートとしてのジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)と、2個以上のヒドロキシ基を有するカルボキシ基含有化合物としてのジメチロールプロピオン酸と、ブロック化剤としてのメチルエチルケトオキシムとを使用することにより得られうるものが挙げられる。また、このようなガラス転移温度を有するウレタンプレポリマーの分子量は、3000〜10000であるのが好ましい。
【0038】
また、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーについて、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーを水中で十分に乳化および/または分散させることができ、接着性に優れるという観点から、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーのカルボキシ基の酸価は、10〜60mgKOH/gであるのが好ましい。
【0039】
カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーは、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、カルボキシ基のほかに、例えば、ヒドロキシ基、酸無水物基、アミノ基、潜在性アミノ基およびメルカプト基からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに分子内に有することができる。これらの基はイソシアネート基と反応しうるので、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーがこれらの基を含有する場合、本発明の水系接着剤組成物が硬化して得られうる硬化物の架橋密度を高くし、その物性を優れたものとすることができる。
【0040】
本発明の水系接着剤組成物において、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーは水中でエマルジョンとなっている。
カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーを水中でエマルジョンとする方法としては、例えば、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーと塩形成剤とを水中で反応させてカルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーを乳化および/または分散させエマルジョンとする方法、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーを水中で乳化剤を用いて乳化および/または分散させた後、ポリアミンまたは水との反応により高分子量化してエマルジョンとする方法が挙げられる。
【0041】
塩形成剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムのような金属水酸化物;アンモニア;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノールのような第三級アミン化合物が挙げられる。
乳化剤は、特に制限されない。例えば、アニオン系、カチオン系、非イオン系の活性剤が挙げられる。
ポリアミンとしては、例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキシレンジアミン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン、ピペラジン、ジフェニルメタンジアミン、エチルトリレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンが挙げられる。
【0042】
カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーを含有するエマルジョン(以下、「ウレタンエマルジョン」ということがある。)の固形分質量は、乾燥性の観点から、ウレタンエマルジョン中、40〜70質量%であるのが好ましく、50〜60質量%であるのがより好ましい。
【0043】
ウレタンエマルジョンにおいて、ブロックイソシアネート基は、ウレタンエマルジョンの内側および/または外表面に存在しうる。また、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーが、ブロック化されていないイソシアネート基を有する場合、イソシアネート基は、耐久性、貯蔵安定性の観点から、ウレタンエマルジョンの内側に存在するのが好ましい。
ウレタンエマルジョンの平均粒子径は、特に制限されない。粘度の観点から、粒子径分布の中央値(d50)が、0.01〜0.1μmであるのが好ましく、0.01〜0.05μmであるのがより好ましい。
【0044】
ウレタンエマルジョンは、市販品を使用することができる。例えば、第一工業製薬社製のF2844−E5、F2844−E2が挙げられる。
本発明の水系接着剤組成物は、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーを含有することにより、接着強度が高く、耐温水接着性、被着体の少なくとも一方に水系接着剤組成物を塗布することによる被着体同士の接着性、粘着性に優れる接着剤となりうる。
ブロックイソシアネート基からブロック化剤を解離させる方法は、特に限定されない。例えば、ブロック化剤を熱によって解離させる熱反応型が挙げられる。
【0045】
本発明の水系接着剤組成物に含有される架橋剤について以下に説明する。
本発明の水系接着剤組成物に含有される架橋剤は、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマー中のカルボキシ基に対して反応性を有するものであれば、特に制限されない。
【0046】
カルボキシ基に対して反応性を有する架橋剤としては、例えば、2個以上のオキサゾリン環を有する化合物、2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物、2個以上のアジリジン環を有する化合物および酸化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0047】
また、耐温水接着性により優れ、少なくとも一方の被着体に塗布することにより被着体同士をより接着させやすくすることができるという観点から、2個以上のオキサゾリン環を有する化合物、2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物および2個以上のアジリジン環を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種は、水中でエマルジョンとなっているのが好ましい。
【0048】
架橋剤としての2個以上のオキサゾリン環を有する化合物について以下に説明する。
2個以上のオキサゾリン環を有する化合物は、1分子中に2個以上のオキサゾリン環を有するものであれば特に限定されない。2個以上のオキサゾリン環を有する化合物は、低分子量のものまたはオキサゾリン環を含有する重合体(以下、「オキサゾリン環含有重合体」という。)が挙げられる。なかでも、耐温水接着性により優れるという観点から、オキサゾリン環含有重合体が好ましい。
【0049】
低分子量の、2個以上のオキサゾリン環を有する化合物としては、例えば、2,2′−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2′−メチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2′−エチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2′−トリメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2′−テトラメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2′−ヘキサメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2′−オクタメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2′−エチレン−ビス−(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレン−ビス−(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、ビス−(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス−(2−オキサゾリニルノルボルナン)スルフィドが挙げられる。
【0050】
オキサゾリン環含有重合体は、付加重合性オキサゾリンを重合されることにより得られうる重合体であれば特に制限されない。オキサゾリン環含有重合体は、例えば、付加重合性オキサゾリンと、付加重合性オキサゾリンと共重合可能な単量体および/または親水性単量体とを重合させることにより得ることができる。
【0051】
付加重合性オキサゾリンとしては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンが挙げられる。なかでも、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが、工業的に入手しやすい点から好ましい。
付加重合性オキサゾリンは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
付加重合性オキサゾリンの使用量は、使用する単量体全量中、5質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは5〜90質量%、さらに好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは30〜60質量%とするのがよい。このような範囲の場合、水系接着剤組成物を硬化させることにより得られうる硬化物の耐久性、耐水性、耐溶剤性に優れる。
【0053】
付加重合性オキサゾリンと共重合可能な単量体としては、例えば、(メタ)アクリル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルのようなビニルエーテル;エチレン、プロピレンのようなα−オレフイン;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルのようなハロゲン原子を含有するα,β−不飽和脂肪族炭化水素;スチレン、α−メチルスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウムのようなα,β−不飽和芳香族炭化水素が挙げられる。
【0054】
(メタ)アクリル系モノマーは、CH2=CH−またはCH2=C(CH3)−を有する化合物であれば、特に制限されない。例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコールとのモノエステル化物、(メタ)アクリル酸−2−アミノエチルおよびその塩のような(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリル酸アンモニウムのような(メタ)アクリル酸塩;アクリロニトリル、メタクリロニトリルのような不飽和ニトリル;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドのような不飽和アミドが挙げられる。
【0055】
付加重合性オキサゾリンと共重合可能な単量体は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
付加重合性オキサゾリンと共重合可能な単量体の組み合わせとしては、例えば、(メタ)アクリル系モノマーとα,β−不飽和芳香族炭化水素との組み合わせが挙げられる。
【0056】
親水性単量体しては、例えば、上記と同様の付加重合性オキサゾリン、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコールのモノエステル化物、(メタ)アクリル酸2−アミノエチルおよびその塩、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸アンモニウム、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコールとのモノエステル化物のようなポリエチレングリコール鎖を有する単量体が、水への溶解性の高いことから好ましい。
【0057】
親水性重合体の使用量は、オキサゾリン環含有重合体を水中でエマルジョン化させやすくするという観点から、使用する単量体全量中、50質量%以上とすることが好ましく、さらに好ましくは、エマルジョン化および硬化性の観点から60〜90質量%とするのがよい。
【0058】
2個以上のオキサゾリン環を有する化合物は、水溶性、水希釈性または水分散性であることが好ましく、水分散性であることがより好ましい。
また、2個以上のオキサゾリン環を有する化合物は、水中でエマルジョンとなっているのが、耐温水接着性により優れ、少なくとも一方の被着体に塗布することにより被着体同士をより接着させやすくすることができるという観点から好ましい。
【0059】
水中でエマルジョンとなっている2個以上のオキサゾリン環を有する化合物は、その製造について特に制限されない。例えば、2個以上のオキサゾリン環を有する化合物がオキサゾリン環含有重合体である場合、水性媒体中で、上述の単量体を、溶液重合、乳化重合、懸濁重合または塊状重合させる方法が挙げられる。重合の条件は、使用される単量体の組成等に応じて設定することができる。例えば、反応温度は20〜150℃程度が好適であり、反応時間は1〜24時間程度が好適である。また、使用される単量体は、例えば、反応器に一括して添加してもよく、滴下等の方法によって連続的または逐次的に添加することができる。重合は、窒素ガスのような不活性ガスの雰囲気下で行うことができる。
【0060】
オキサゾリン環含有重合体のエマルジョンを製造する際に使用される水性媒体としては、例えば、水、水と均一に混合する溶剤と水との混合溶剤が挙げられる。なかでも水が好ましい。
水と均一に混合する溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコールのような低級アルコール;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールのようなグリコール;アセトン、メチルエチルケトンのようなケトンが挙げられる。
水と均一に混合する溶剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。水に対する、水と均一に混合する溶剤の使用量は特に限定されない。
【0061】
オキサゾリン環含有重合体のエマルジョンの固形分(不揮発分)は、耐温水接着性により優れ、乾燥性に優れるという観点から、1〜70質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい。
【0062】
また、オキサゾリン環含有重合体のエマルジョンは、市販品を使用することができる。2個以上のオキサゾリン環を有する化合物のエマルジョンの市販品としては、例えば、日本触媒社製の、エポクロスK−1010E、エポクロスK−2010E、エポクロスK−1020E、エポクロスK−2020E、エポクロスK−1030E、エポクロスK−2030E、エポクロスWS−500、エポクロスWS−700、エポクロスRPS−1005、エポクロスRAS−1005が挙げられる。なかでも、貯蔵安定性に優れ、耐温水接着性により優れるという観点から、エポクロスK−1020E、エポクロスK−2020Eが好ましい。
【0063】
オキサゾリン環含有重合体のオキサゾリン価は、耐温水接着性により優れ、密着性に優れるという観点から、50〜3,000g−solid/eq.であることが好ましく、より好ましくは100〜2,000g−solid/eq.であり、さらに好ましくは200〜1,500g−solid/eq.である。
2個以上のオキサゾリン環を有する化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0064】
架橋剤としての2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物について以下に説明する。
2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物は、1分子内に2個上のカルボジイミド結合(−N=C=N−)を有する化合物であれば、特に制限されない。
2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物は、その製造について、特に制限されず、例えば、2分子以上のポリイソシアネートとカルボジイミド化触媒とを用いて、2個のイソシアネート基を脱炭酸反応させて−N=C=N−を形成させる方法によって製造することができる。2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物の製造の際に使用されるポリイソシアネートおよびカルボジイミド化触媒は特に制限されない。ポリイソシアネートおよびカルボジイミド化触媒は、例えば、従来公知のものを使用することができる。
【0065】
2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物は、水溶性、水希釈性または水分散性であることが好ましく、水分散性であることがより好ましい。
また、2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物は、水中でエマルジョンとなっているのが、耐温水接着性により優れ、少なくとも一方の被着体に塗布することにより被着体同士をより接着させやすくできるという観点から好ましい。
【0066】
2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物のエマルジョンは市販品を使用することができる。2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物のエマルジョンの市販品としては、例えば、日清紡社製の、カルボキシライトE−01、カルボキシライトE−02が挙げられる。
2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0067】
架橋剤としての2個以上のアジリジン環を有する化合物について以下に説明する。
2個以上のアジリジン環を有する化合物は、1分子内に2個上のアジリジン環を有する化合物であれば、特に制限されない。
2個以上のアジリジン環を有する化合物としては、例えば、トリメチロールプロパン−トリ3−[(1−アジリジニル)プロピオネート]、ジフェニルメタン−ビス−4,4′−N,N′−ジエチレンウレア、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、N,N′−トルエン−2,4−ビス−(1−アジリジンカルボキシアミド)、N,N′−ヘキサメチレン−1,6−ビス−(1−アジリジンカルボキシアミド)が挙げられる。
【0068】
2個以上のアジリジン環を有する化合物は、水溶性、水希釈性または水分散性であることが好ましく、水分散性であることがより好ましい。
また、2個以上のアジリジン環を有する化合物は、水中でエマルジョンとなっているのが、耐温水接着性により優れ、少なくとも一方の被着体に塗布することにより被着体同士をより接着させやすくできるという観点から好ましい。
【0069】
2個以上のアジリジン環を有する化合物のエマルジョンは市販品を使用することができる。2個以上のアジリジン環を有する化合物のエマルジョンの市販品としては、例えば、日本触媒社製の、ケミタイトPZ−33、ケミタイトDZ−22Eが挙げられる。
2個以上のアジリジン環を有する化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0070】
架橋剤としての酸化亜鉛について以下に説明する。
酸化亜鉛は特に制限されない。例えば、従来公知のものを使用することができる。酸化亜鉛は、その平均粒子径が、0.1〜1μmであるのが分散性、反応性の観点から好ましい。
【0071】
本発明の水系接着剤組成物において、架橋剤の含有量は、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマー100質量部に対して、耐温水接着性により優れるという観点から、0.5〜20質量部であるのが好ましく、5〜20質量部であるのがより好ましい。
【0072】
架橋剤が2個以上のオキサゾリン環を有する化合物である場合、2個以上のオキサゾリン環を有する化合物の含有量は、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマー100質量部に対して、耐温水接着性により優れるという観点から、2個以上のオキサゾリン環を有する化合物の固形分で0.5〜20質量部であるのが好ましく、5〜20質量部であるのがより好ましい。
【0073】
架橋剤が2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物である場合、2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物の含有量は、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマー100質量部に対して、耐温水接着性により優れるという観点から、2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物の固形分で0.5〜20質量部であるのが好ましく、5〜20質量部であるのがより好ましい。
【0074】
架橋剤が2個以上のアジリジン環を有する化合物である場合、2個以上のアジリジン環を有する化合物の含有量は、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマー100質量部に対して、耐温水接着性により優れるという観点から、2個以上のアジリジン環を有する化合物の固形分で0.5〜20質量部であるのが好ましく、5〜20質量部であるのがより好ましい。
【0075】
架橋剤が酸化亜鉛である場合、酸化亜鉛の含有量は、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマー100質量部に対して、耐温水接着性により優れるという観点から、0.5〜20質量部であるのが好ましく、5〜20質量部であるのがより好ましい。
【0076】
架橋剤は、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマー中のカルボキシ基と反応し、架橋構造を形成することができる。このような架橋構造によって、本発明の水系接着剤組成物から得られる硬化物は、少なくとも一方の被着体に水系接着剤組成物を塗布することによる被着体同士の接着性、耐温水接着性、接着強度に優れる。
【0077】
本発明の水系接着剤組成物は、水を含有する。
水の含有量は、特に制限されない。乾燥性の観点から、水の含有量は、水系接着剤組成物全量中、30〜50質量%であるのが好ましい。
【0078】
本発明の水系接着剤組成物は、乾燥性の観点から、さらに、充填剤を含有するのが好ましい。
充填剤としては、例えば、無機充填剤、有機充填剤が挙げられ、無機充填剤が好ましい態様の1つとして挙げられる。無機充填剤は、特に制限されない。例えば、炭酸カルシウム(例えば、重質炭酸カルシウム)、酸化チタン、酸化ケイ素(例えば、シリカ微粉末)、タルク、クレー、カーボンブラックが挙げられる。また、充填剤としては、表面処理剤によって表面処理されたものを使用することができる。表面処理剤としては、例えば、脂肪酸、樹脂酸、脂肪酸エステルが挙げられる。なかでも、乾燥性の観点から、シリカ微粉末、非表面処理重質炭酸カルシウムが好ましい。
充填剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0079】
充填剤の平均粒子径は、1〜10μmであるのが好ましく、1〜5μmであるのがより好ましい。このような範囲の場合、乾燥性、分散性に優れる。
【0080】
充填剤の含有量は、乾燥性、分散性、レべリング性の観点から、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマー100質量部に対して、1〜50質量部であるのが好ましく、10〜30質量部であるのがより好ましい。
また、充填剤の含有量は、乾燥性の観点から、本発明の水系接着剤組成物中の水100質量部に対して、5〜50質量部であるのが好ましく、10〜30質量部であるのがより好ましい。
さらに充填剤を含有させることにより、水系接着剤組成物を被着体に塗布した後、水系接着剤組成物中の水分は低温下で、短時間に水系接着剤組成物から除去され、水系接着剤組成物を効率的に乾燥させることができる。
【0081】
本発明の水系接着剤組成物は、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーと、架橋剤と、水と、必要に応じて含有しうる充填剤との他に、添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、顔料、ブロッキング防止剤、分散安定剤、揺変剤、粘度調節剤、レベリング剤、ゲル化防止剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、補強材、触媒、消泡剤、増粘剤、分散剤、界面活性剤、有機溶剤が挙げられる。添加剤の量は、特に制限されない。
【0082】
また、本発明の水系接着剤組成物は、上記のウレタンエマルジョン以外のエマルジョンを含有することができる。このようなエマルジョンとしては、例えば、ガラス転移温度が0℃超であるエマルジョン、アクリルエマルジョン、ポリエステルエマルジョン、ポリオレフィンエマルジョン、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、エポキシ樹脂系エマルジョンのような樹脂系エマルジョン;ニトリルゴム系エマルジョン、クロロプレンゴム系エマルジョンのようなゴム系エマルジョン;ガムロジン、トール油ロジンのようなロジン系エマルジョン;テルペン樹脂、フェノール樹脂、石油樹脂のような粘着性付与樹脂のエマルジョンが挙げられる。
【0083】
本発明の水系接着剤組成物は、その製造について、特に制限されない。例えば、ウレタンエマルジョンと架橋剤と、必要に応じて添加されうる、充填剤と、添加剤と、ウレタンエマルジョン以外のエマルジョンとを混合して調製する方法が挙げられる。
【0084】
本発明の水系接着剤組成物の製造において、混合は、例えば、ボールミル、サンドグラインドミルを用いて行うことができる。
【0085】
本発明の水系接着剤組成物は、1液型または2液型の水系接着剤組成物として使用することができる。
1液型の場合は、上記のように水系接着剤組成物を調製して、これを容器に保存することができる。カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーは貯蔵安定性に優れるため、本発明の水系接着剤組成物を1液型とすることが可能である。
【0086】
本発明の水系接着剤組成物を2液型とする場合、例えば、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーを含む第1液と、架橋剤を含む第2液とを別々に調製して保存し、使用する際に、第1液と第2液とを同時に添加し混合して使用することができる。カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーおよび架橋剤以外の成分は、第1液および/または第2液に添加することができる。
【0087】
本発明の水系接着剤組成物に対して用いられうる被着体としては、例えば、ガラス;アルミニウム、陽極酸化アルミニウム、鉄、亜鉛鋼板、銅、ステンレスのような各種金属;モルタルや石材のような多孔質部材;フッ素電着、アクリル電着やフッ素塗装、ウレタン塗装、アクリルウレタン塗装された部材;シリコーン系、変成シリコーン系、ウレタン系、ポリサルファイド系、ポリイソブチレン系のようなシーリング材の硬化物;塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂;NBR、EPDMのようなゴム類が挙げられる。
【0088】
次に、本発明の水系接着剤組成物の使用方法について説明する。
本発明の水系接着剤組成物の使用方法としては、例えば、少なくとも一方の被着体に本発明の水系接着剤組成物を塗布する工程(塗布工程)と、水系接着剤組成物を塗布した被着体ともう一方の被着体とをはり合わせる工程(はり合わせ工程)と、必要に応じて一旦はり合わせた被着体をはがしてはり直す工程(はり直し工程)と、被着体をはり合わせた後、被着体を加熱して被着体を接着させる工程(加熱接着工程)とを具備する方法が挙げられる。
【0089】
塗布工程においては、少なくとも一方の被着体に本発明の水系接着剤組成物を塗布する。なお、両方の被着体に本発明の水系接着剤組成物を塗布することもできる。
水系接着剤組成物の塗布量は、特に制限されず、接着性、再接着性、乾燥性の観点から、80〜120g/m2であるのが好ましい。
本発明の水系接着剤組成物は、例えば、ローラ、ロールスプレッダ、刷毛、スプレーを用いて被着体に塗布することができる。
また、塗布工程においては、水系接着剤組成物を塗布した被着体を、水分除去のため、例えば、70〜150℃で加熱し乾燥させるのが好ましい。このときの加熱温度は、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーのブロック化剤が解離する温度より低いのが好ましい。加熱時間は、特に制限されず、例えば、60〜120秒であればよい。乾燥方法は、特に制限されず、例えば、循環式オーブンを使用することができる。
本発明の水系接着剤組成物がさらに充填剤を含有する場合、乾燥温度を70〜130℃とすることができる。
【0090】
従来の水系接着剤組成物は、両方の被着体に水系接着剤組成物を塗布しなければ、被着体を接着させることができなかった。
これに対して、本発明の水系接着剤組成物は、塗布工程においてこれを少なくとも片方の被着体に塗布することによって、被着体を接着させることができる。
本発明の水系接着剤組成物のこのような優れた接着性は、本発明の水系接着剤組成物を塗布した被着体と本発明の水系接着剤組成物を塗布しない被着体とを接着させ、接着剤が硬化する前に被着体をはがした場合、接着剤を塗布しなかった被着体上に本発明の水系接着剤組成物が付着し残る性質(以下、これを「転写」という。)によるものと本発明者は推測する。このようなことから、本発明の水系接着剤組成物は、接着強度が高く、接着性、再接着性、作業性に優れる。
【0091】
次に、はり合わせ工程において、水系接着剤組成物を塗布した被着体ともう一方の被着体とをはり合わせる。被着体をはり合わせるタイミングとしては、例えば、水系接着剤組成物を塗布した直後、水系接着剤組成物を塗布してオープンタイムを取った後、水系接着剤組成物を塗布した被着体を加熱乾燥させた後が挙げられる。水系接着剤組成物を塗布した後被着体をはり合わせるまでの時間は特に制限されない。
【0092】
本発明の水系接着剤組成物の使用方法は、必要に応じて、はり直し工程を具備することができる。はり直し工程は、例えば、はり合わせた被着体がずれていた場合に行うことができる。はり直しの回数は、再接着後の接着強度の観点から、1〜3回が好ましい。
【0093】
従来の水系接着剤組成物を被着体の片方に塗布して被着体同士を再接着させると、粘着性、接着強度が低下し、結果的に被着体をはり直すことができなかった。
これに対して、本発明の水系接着剤組成物は、被着体の片方にこれを塗布することにより被着体同士を再接着させることが可能で、粘着性、接着強度に優れる。本発明の水系接着剤組成物のこのような優れた再接着性は、本発明の水系接着剤組成物が転写しやすいことおよび粘着性に優れることにより被着体との密着性に優れるためと本発明者は推測する。このようなことから、本発明の水系接着剤組成物は再接着性に優れ、はり直し工程において被着体をはり直すことが可能で作業性に優れる。
【0094】
次に、加熱接着工程において、はり合わせた被着体を加熱し接着させる。加熱温度は、ブロック化剤が解離する温度以上であるのが好ましく、具体的には、70〜150℃であるのが好ましい。このような加熱温度範囲の場合、カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーからブロック化剤を解離させてイソシアネート基を生成させ、水系接着剤組成物を硬化させて、被着体を十分に接着させることができる。加熱方法は、特に制限されず、例えば、循環式オーブン、赤外線オーブンが挙げられる。加熱後、放冷して、接着した被着体が得られる。
【0095】
従来、水系接着剤組成物は、両方の被着体に水系接着剤組成物を塗布しなければ、被着体を接着させることができなかった。また、カルボキシ基を有するウレタンプレポリマーと架橋剤とを含有する水系組成物は、両方の被着体に水系組成物を塗布する必要があり、耐温水接着性に劣るという問題があった。
このような問題は、(1)従来の水系接着剤組成物では、エマルジョンの癒着によって接着層が形成されること、(2)従来のカルボキシ基を有するウレタンプレポリマーと架橋剤とを含有する水系組成物では、ウレタンプレポリマーのイソシアネート基が水によって加水分解され失活してしまったり、イソシアネート基がカルボキシ基と反応してしまうこと、(3)カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有するウレタンプレポリマーと、ポリイソシアネートやエポキシ樹脂のような架橋剤とを含有する、従来の水系組成物の、カルボキシ基と架橋剤との反応によって形成される架橋構造、に原因があると本発明者は考えた。
これに対して、本発明者は、本発明の水系接着剤組成物を一方の被着体に塗布し、この被着体と水系接着剤組成物を塗布しない被着体とをはりあわせて、本発明の水系接着剤組成物が硬化する前に被着体同士をはがした場合、水系接着剤組成物を塗布しなかった被着体上に本発明の水系接着剤組成物が転写することを発見した。また、本発明の水系接着剤組成物の硬化物が耐温水接着性に優れることとを発見した。そして、これらの性質を用いて、本発明の水系接着剤組成物が木工用に限らず多種多様な被着体に対して使用できる接着剤となりうることを見出した。
【0096】
本発明の水系接着剤組成物において、ウレタンプレポリマーのイソシアネート基はブロック化されて水中で安定であり、カルボキシ基とはほとんど反応しない。このため、カルボキシ基は硬化時において架橋剤と十分反応し、本発明の水系接着剤組成物において使用されるウレタンプレポリマーは、ブロックされていないウレタンプレポリマーを使用する場合と比べて、カルボキシ基と架橋剤との反応による架橋構造をより多く形成することができる。
このような架橋構造は、本発明の水系接着剤組成物に粘着性を付与し、かつ、被着体に対する濡れを優れたものとする。したがって、本発明の水系接着剤組成物は少なくとも一方の被着体に塗布することにより被着体同士を接着させることが可能で、耐温水接着性に優れる硬化物となることができると、本発明者は推察する。
【0097】
また、本発明の水系接着剤組成物は、これを少なくとも一方の被着体に塗布することにより被着体を接着させうるので、従来の両面塗布の場合と比較して、接着後の仕上がりの外観がよい。
従来、はり合わせる面の表面積が異なる被着体を用いて、これらの両方に接着剤組成物を塗布し、表面積の大きい被着体に表面積の小さい被着体を接着させる場合、両者を十分に接着させるためには、表面積の大きい被着体の上の、表面積の小さい被着体が接着する部分全体に接着剤組成物を塗布する必要があった。このため、製造工程上、表面積の大きい被着体の上の、表面積の小さい被着体が接着する部分の外にも接着剤組成物を塗布してしまうことが多い。ここに表面積の小さい被着体を接着させると、表面積の小さい被着体の被着面の端から接着剤組成物がはみ出して硬化するため、接着後の被着体の仕上がりの外観が非常に悪かった。また、製造工程上、短時間の間に表面積の小さい被着体の被着面の端から接着剤組成物がはみ出ないように被着体に接着剤組成物を塗布、接着させるのは、非常に困難であった。
これに対して、本発明の水系接着剤組成物は、上記のような表面積の大きい被着体に表面積の小さい被着体を接着させる場合、表面積の小さい被着体の被着面にのみ塗布すれば被着体同士を十分に接着させることができ、接着剤組成物が被着体の端部からはみ出すことが少なく、接着後の被着体の外観が良好である。
なお、このようなメカニズムはあくまでも本発明者の推定であり、仮に、メカニズムが別であっても本発明の範囲内である。
【実施例】
【0098】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0099】
1.水系接着剤組成物の調製
第1表に示す成分を、第1表に示す量(単位は質量部)で混合し、各水系接着剤組成物を調製した。
2.試験体の作製
(1)亜鉛鋼板の試験体
被着体として、長さ100mm、幅25mm、厚さ1.5mmの2枚の亜鉛鋼板を用いた。
上記のようにして得られた水系接着剤組成物を、水系接着剤組成物の塗布量100g/m2とし、1枚の亜鉛鋼板の片面に、くし目状に塗布した。次いで、水系接着剤組成物を塗布した亜鉛鋼板を循環式オーブンに入れて、120℃で60秒間乾燥してから取り出し、23℃、60%RHの条件下で30秒のオープンタイムを経た後、水系接着剤組成物を塗布していない亜鉛鋼板とはり合わせて手で圧着し、80℃で24時間養生させて試験体を作製した。
(2)ポリウレタンフィルム
得られた水系接着剤組成物をテフロン(登録商標)板上に乾燥状態で300μmとなるようにバーコーターで塗布し、20℃で24時間、次いで80℃で24時間硬化させて、ポリウレタンフィルムを形成した。
【0100】
3.評価
上記のようにして得られた試験体を用いて、初期接着性、耐温水接着性を下記のように評価した。また、上記のように得られたポリウレタンフィルムを用いて、耐温水安定性を評価した。結果を第1表に示す。
(1)初期接着性
上記のようにして得られた試験体を、JIS K 6850−1999に準拠して引張速度200mm/minの条件でせん断強度試験を実施し、初期接着のせん断強度を測定した。
また、破壊した試験体について、接着剤の破壊形態を目視で確認した。評価基準としては、接着剤塗布面の80%以上が凝集破壊している場合を○、40〜60%の場合を△、20%以下の場合を×とした。
(2)耐温水接着性
上記のようにして得た試験体を50℃の温水に7日間入れた後引き上げて、この温水浸漬後の試験体を用いてJIS K 6850−1999に準拠して引張速度200mm/minの条件でせん断強度試験を実施し、せん断強度を測定した。
また、破壊した試験体について、接着剤の破壊形態を目視で確認した。評価基準は上記と同様である。
(3)耐温水安定性
上記のようにして得られたポリウレタンフィルムを2cm×2cmに切り取り、これを50℃の温水に4日間入れ、温水から引き上げた直後のフィルムの状態を目視で確認した。評価基準としては、フィルムが、80%以上形状を保持している場合を○、40〜60%の形状を保持している場合を△、フィルムが溶解している場合を×とした。
【0101】
【表1】

【0102】
第1表の各成分の詳細は以下のとおりである。
・ウレタンエマルジョン1:第一工業製薬社製、F2844−E5(カルボキシ基含有ウレタンプレポリマー、ガラス転移温度−5℃)
・ウレタンエマルジョン2:第一工業製薬社製、F2837D−O2(カルボキシ基を含有しないウレタンプレポリマー、ガラス転移温度−15℃)
・ウレタンエマルジョン3:第一工業製薬社製、F2521−D1(カルボキシ基を含有しないウレタンプレポリマー、ガラス転移温度−20℃、粘着剤)
・架橋剤1:日本触媒社製、エポクロスK2020E(オキサゾリン環を含有するポリマーのエマルジョンタイプ)
・架橋剤2:日清紡社製、カルボジライトE−01(2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物のエマルジョンタイプ)
・シリカ微粉末:シベリコ社製、SIRON M500
【0103】
第1表に示す結果から明らかなように、実施例1〜2は、一方の被着体にしか塗布していないにも関わらず、被着体同士を十分に接着させることができ、初期接着性、耐温水接着性が高く、耐温水安定性に優れる。
これに対して、比較例1は、一方の被着体にしか組成物を塗布しておらず、架橋剤を含有しないため、初期接着におけるせん断強度が低く、耐温水接着性、耐温水安定性に劣る。また、比較例2は、一方の被着体にしか組成物を塗布しておらず、ウレタンプレポリマーがカルボキシ基を有さないため、初期接着におけるせん断強度が低く、耐温水接着性、耐温水安定性に劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基とブロックイソシアネート基とを有しガラス転移温度が0℃以下であるウレタンプレポリマーと、前記カルボキシ基に対して反応性を有する架橋剤と、水とを含有し、前記ウレタンプレポリマーが水中でエマルジョンとなっている水系接着剤組成物。
【請求項2】
前記架橋剤が、2個以上のオキサゾリン環を有する化合物、2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物、2個以上のアジリジン環を有する化合物および酸化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の水系接着剤組成物。
【請求項3】
前記2個以上のオキサゾリン環を有する化合物、前記2個以上のカルボジイミド結合を有する化合物および前記2個以上のアジリジン環を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が、水中でエマルジョンとなっている請求項2に記載の水系接着剤組成物。
【請求項4】
前記架橋剤の含有量が、前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.5〜20質量部である請求項1〜3のいずれかに記載の水系接着剤組成物。
【請求項5】
さらに、充填剤を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の水系接着剤組成物。
【請求項6】
前記充填剤の平均粒子径が、1〜10μmである請求項5に記載の水系接着剤組成物。
【請求項7】
前記充填剤の含有量が、前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、1〜50質量部である請求項5または6に記載の水系接着剤組成物。

【公開番号】特開2007−169382(P2007−169382A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366577(P2005−366577)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】