説明

水系潤滑剤

【課題】従来のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合物を含む水系潤滑剤に比べて、摩擦係数が小さく、潤滑性能に優れる上、消泡性にも優れ、例えば水系金属加工剤や液圧作動液などとして好適に用いられる水系潤滑剤を提供する。
【解決手段】絶対分子量が5千ないし50万のハイパーブランチ型ポリグリセロールを含むことを特徴とする水系潤滑剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系潤滑剤に関し、さらに詳しくは、従来のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合物を含む水系潤滑剤に比べて、摩擦係数が小さく、潤滑性能に優れる上、消泡性にも優れ、例えば水系金属加工剤や液圧作動液などとして好適に用いられる水系潤滑剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、金属加工油、作動油等の分野においては、潤滑油の漏洩、発熱の防止や飛散による火災の発生を未然に防止する目的で水系潤滑油が広く使用されている。ソリューション型切削油や水−グリコール系作動油に代表される水系潤滑油では、潤滑性の向上剤や増粘剤としてポリエーテル化合物が使用されている。このポリエーテル化合物を配合した水系潤滑剤は外観が透明であり、不燃性で高温での安定性が高く、分離や腐敗の心配が無い等の利点がある。このような用途には、従来よりポリエーテル化合物として、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム重合物が多く用いられてきた。また、低起泡性のポリエーテル化合物として、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック重合物が使用される例があり、例えば、特許文献1では、ポリエチレングリコールにプロピレンオキサイドを付加させたいわゆるリバースブロック型のポリエーテルを使用した金属加工油組成物が開示されている。また、特許文献2では、PO−EO−PO構造(POはオキシプロピレン基、EOはオキシエチレン基を表す。)のブロック型ポリオキシアルキレン化合物と、炭素数8〜10の脂肪酸と、塩基性化合物を含有する水溶性切削油剤組成物が開示されている。
しかしながら、このような従来から使用されていたポリエーテル化合物は、いずれも潤滑性能や消泡性については充分に満足し得るものではなかった。
【0003】
一方、近年、その多分岐構造が様々な機能の発現を促し、幅広い応用展開が期待できることから、デンドリティック高分子化合物の研究開発が積極的になされている。このデンドリティック高分子化合物は、デンドリマーとハイパーブランチ型ポリマーに大別される。
ハイパーブランチ型ポリマーとは、繰返し単位に枝分かれ構造をもつ多分岐高分子化合物の総称である。デンドリマーは、多段階合成反応により、精密に制御された単分子化合物であるのに対し、ハイパーブランチ型ポリマーは、一般に一段階重合法により得られる合成高分子化合物である。
このハイパーブランチ型ポリマーとして、開環重合によるハイパーブランチ型ポリマーが知られている。この重合は、モノマー自体に分岐点がなく、開環反応により分岐点が形成される重合で、多重分岐重合と呼ばれている。
【0004】
この開環重合によるハイパーブランチ型ポリマーの一つとして、環状エーテルの開環反応を、分岐点形成、分子鎖成長に利用して得られたハイパーブランチ型ポリエーテルが報告されている(例えば、非特許文献1及び2参照)。この報告によると、カリウムアルコキシド/イニシエータ系を用い、グリシドールのアニオン開環重合によって、ハイパーブランチ型ポリグリセロールが得られている。イニシエータとしては、例えば1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)プロパンや1−ジベンジルアミノ−2,3−ジヒドロキシプロパンなどが用いられ、絶対分子量が1,000〜1,000,000で、分子量分散度が1.8より小さいハイパーブランチ型ポリグリセロールを得ている。
しかしながら、この方法は、イニシエータとして、分岐構造体を用い、操作が煩雑である上、再現性が悪く、純粋なモノマー単位からなる高分子量体の物性は明らかでないという問題がある。
なお、グリシドールは、エポキシ基を1個、ヒドロキシ基を1個有していることから、潜在的AB2型モノマーと見なすことができる。
【0005】
また、カチオン試薬を用い、グリシドールのカチオン開環重合によって、ハイパーブランチ型ポリグリセロールを得ることが報告されている(例えば、非特許文献3参照)。しかしながら、この場合、得られるハイパーブランチ型ポリグリセロールは、分子量が700〜10,000程度と小さく、分子量分散度が2より大きく、かつその制御が困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−231977号公報
【特許文献2】特開平8−239683号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Reiews in Molecular Biotech.2002,90,257−267
【非特許文献2】Macromolecules 2006,39,7708−7717
【非特許文献3】Macromolecules 1994,27,320−322
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況下になされたもので、従来のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合物を含む水系潤滑剤に比べて、摩擦係数が小さく、潤滑性能に優れる上、消泡性にも優れ、例えば水系金属加工剤や液圧作動液などとして好適に用いられる水系潤滑剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得た。
絶対分子量が特定の範囲にあるハイパーブランチ型ポリグリセロールを含む水系潤滑剤がその目的に適合し得ること、そして該ハイパーブランチ型ポリグリセロールは、開始剤としてBF3錯体を用いて、潜在的AB2型のグリシドールを特定な手法で開環重合させることにより、分子量及び分子量分散度が制御可能に製造し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)絶対分子量が5千ないし50万のハイパーブランチ型ポリグリセロールを含むことを特徴とする水系潤滑剤、
(2)ハイパーブランチ型ポリグリセロールの絶対分子量が、5千ないし30万である上記(1)に記載の水系潤滑剤、
(3)ハイパーブランチ型ポリグリセロールの分岐度(DB)が、0.40〜0.65の範囲にある上記(1)又は(2)に記載の水系潤滑剤、
(4)ハイパーブランチ型ポリグリセロールが、下記式(1)におけるαが0.5未満である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の水系潤滑剤、
[η]=K・Mα ・・・(1)
(式中、[η]は固有粘度又は極限粘度、Kは定数、Mは絶対分子量を示す。)
(5)ハイパーブランチ型ポリグリセロールが、開始剤としてBF3錯体を用いてグリシドールを開環重合させたものである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の水系潤滑剤、
(6)水系金属加工剤として用いられる上記(1)〜(5)のいずれかに記載の水系潤滑剤、
(7)水系金属加工剤が塑性加工、切削加工、又は研削加工用である上記(6)に記載の水系潤滑剤、
(8)液圧作動液として用いられる上記(1)〜(5)のいずれかに記載の水系潤滑剤、及び
(9)さらに、油性剤、摩擦緩和剤、極圧剤、酸化防止剤、清浄剤、分散剤、消泡剤、界面活性剤、防錆剤、防腐剤、防食剤、溶剤及び塩基性化合物の中から選ばれる少なくとも1種を含む、水溶液型又はエマルション型である上記(1)〜(8)のいずれかに記載の水系潤滑剤、
を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合物を含む水系潤滑剤に比べて、摩擦係数が小さく、潤滑性能に優れる上、消泡性にも優れ、例えば水系金属加工剤や液圧作動液などとして好適に用いられる、絶対分子量が特定の範囲にあるハイパーブランチ型ポリグリセロールを含む水系潤滑剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明で用いるハイパーブランチ型ポリグリセロールにおける分岐度を算出するための13C−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の水系潤滑剤は、絶対分子量が5千〜50万のハイパーブランチ型ポリグリセロールを含むことを特徴とする。
なお、ハイパーブランチ型ポリマーとは、繰り返し単位に枝分かれ構造をもつ多分岐高分子化合物の総称である。このハイパーブランチ型ポリマーの合成で最も一般的な方法は、1分子中に2種の置換基を合計3個以上もつ、いわゆるABx型分子の自己重縮合である(A、Bはそれぞれ異なる官能基を指す。)
【0014】
[ハイパーブランチ型ポリグリセロール]
本発明の水系潤滑剤に用いられるハイパーブランチ型ポリグリセロールは、グリシドールの開環重合によって得ることができる。この重合は、モノマーのグリシドール自体には分岐点がなく、開環反応によって分岐点が形成される重合であって、多重分岐重合(multibrnching ring−opening polymerization:MBP又はMBROP)と呼ばれる。
グリシドールはエポキシ基を1個、ヒドロキシ基を1個もつため、上記MBPに対する潜在的AB2型モノマーと見なすことができる。
本発明におけるハイパーブランチ型ポリグリセロールは、絶対分子量が5千〜50万の範囲にあることを要する。この絶対分子量が5千未満では、動摩擦係数が大きく、充分な潤滑性能が得られず、一方50万を超えるものは製造が困難である。該絶対分子量は潤滑性能及び製造の容易さの観点から、好ましくは5千〜30万であり、より好ましくは8千〜20万である。
なお、上記絶対分子量は、移動相溶媒として0.2mol/L濃度のNaNO3水溶液を用いて、サイズ排除クロマトグラフィーオンライン−多角度光散乱(SEC−MALLS)法により測定された値である。
【0015】
当該ハイパーブランチ型ポリグリセロールにおいては、下記に示す方法により測定される分岐度は、通常0.40〜0.65、好ましくは0.45〜0.55の範囲にある。
<分岐度の測定方法>
測定条件:ポリマー200mgを重水0.6mLに溶解
使用装置:100MHz13C−NMR[日本電子株式会社社製、「JEOLJNM−A400II」]
測定条件:反転ゲート付13C−NMR測定(nne13C−NMR)、パルス間隔時間7
秒 アセトンを標準ピーク(δ:30.89ppm)として測定を行う。
積算回数:4000回
積分に用いている各ピーク範囲
・L1:60.75−62.12ppm
・T :62.68−63.35ppm
・L2:72.01−73.38ppm(このピークの積分値は炭素2つ分含まれて いる=計算時1/2)
・D :76.93−79.68ppm
上記各ピーク範囲については、図1の13C−NMRスペクトルで示すとおりである。
分岐度(DB)は、上記各ピークの積分値から、下記式(2)によって算出される。
分岐度(DB)=2D/(2D+L1+L2/2) ・・・(2)
【0016】
当該ハイパーブランチ型ポリグリセロールにおいては、下記式(1)におけるαが、通常0.5未満、好ましくは0.1〜0.4である。
[η]=K・Mα ・・・(1)
(式中、[η]は固有粘度又は極限粘度、Kは定数、Mは絶対分子量を示す。)
なお、上記[η]及び絶対分子量は、前述したように、0.2mol/L濃度のNaNO3水溶液を用いて、SEC−MALLS法により測定された値である。
また、前記SEC−MALLS法で測定される標準ポリスチレン換算の重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比(平均分子量分布、分子量分散度とも云う)は、通常1.3〜3.5程度である。
当該ハイパーブランチ型ポリグリセロールは、前述した性状を有し、その化学構造は、例えば下記式(3)で表される構造を有している。
【0017】
【化1】

【0018】
[ハイパーブランチ型ポリグリセロールの製造]
当該ハイパーブランチ型ポリグリセロールの製造方法としては、前述した性状を有するポリグリセロールが再現性よく得られる方法であればよく、特に制限はないが、従来知られているグリシドールのアニオン開環重合やカチオン開環重合による方法は、以下に示す問題があり、好ましい方法とは言えない。
例えばカリウムアルコキシド/イニシエータ系を用い、グリシドールをアニオン開環重合させてハイパーブランチ型ポリグリセロールを製造する方法(前記非特許文献1)は、イニシエータとして分岐構造体を用い、操作が煩雑である上、再現性が悪く、純粋なモノマー単位からなる高分子量体の物性は明らかでないという問題がある。
また、カチオン試薬を用い、グリシドールをカチオン開環重合させてハイパーブランチ型ポリグリセロールを製造する方法(前記非特許文献3)においては、得られるハイパーブランチ型ポリグリセロールは、分子量が700〜10,000程度と小さく、かつ平均分子量分布が2より大きい上、その制御が困難であるという問題を有している。
【0019】
本発明者らは、前述した性状を有するハイパーブランチ型ポリグリセロールを再現性よく製造する方法について鋭意検討を重ねた結果、開始剤としてBF3錯体を用いてグリシドールを開環重合させる方法において、反応系へのモノマーのスロー投入法を採用し、かつ攪拌条件を最適化することにより、得られるハイパーブランチ型ポリグリセロールの絶対分子量の制御が可能となると共に、前述した性状を有するハイパーブランチ型ポリグリセロールが再現性よく得られることを見出した。
また、このようにして得られたハイパーブランチ型ポリグリセロールは、水溶性であり、その水溶液は動摩擦係数が小さく、水系潤滑剤として有用であることを見出した。
【0020】
次に、本発明で用いるハイパーブランチ型ポリグリセロールの好適な製造方法について説明する。
本発明においては、潜在的AB2型モノマーであるグリシドールを、開始剤としてBF3錯体を用い、開環重合させる。この際、開始剤として用いるBF3錯体としては、例えばBF3・エチルエーテル錯体[(C252O・BF3]、BF3・フェノール錯体[(C65OH)2・BF3]、BF3・モノエチルアミン錯体[C25NH2・BF3]、BF3・n−ブチルエーテル錯体[(n−C492O・BF3]などが挙げられるが、これらの中で、開始剤としての性能の上から、BF3・エチルエーテル錯体が好ましい。
この開環重合における溶媒としては、反応に不活性であって、開始剤、モノマーのグリシドール及び生成物のハイパーブランチ型ポリグリセロールを、充分に溶解し得る有機液体を用いることができるが、特にメチレンクロライドが好適である。
【0021】
具体的な操作として、好ましい例を挙げて説明すると、攪拌装置及びグリシドール投入装置を備えた反応装置に、溶媒としてのメチレンクロライドと、開始剤としてのBF3・エチルエーテル錯体を投入し、この開始剤を含む溶液を攪拌しながら、これにグリシドールを徐々に投入する。上記BF3・エチルエーテル錯体の投入量は溶媒1L当たり、1〜
10ミリモル程度、好ましくは2〜6ミリモルである。
また、グリシドールの投入速度は、溶媒1L当たり、0.05〜1.0モル/h程度、好ましくは0.1〜0.5モル/hである。重合温度は、好ましくは−30〜10℃、より好ましくは−20〜0℃である。
グリシドールの全投入量は、ハイパーブランチ型ポリグリセロールの収率の面から、BF3・エチルエーテル錯体1モルに対して、300〜1800モル程度、好ましくは400〜1600モルである。
また、攪拌条件に関しては、反応装置の大きさや攪拌装置の形状などに応じて、最適条件を選定する。グリシドール投入後、前記重合温度にて、さらに後攪拌を行い、重合を続行する。全重合時間は、重合温度、開始剤やグリシドールの投入量などに左右され、一概に決めることはできないが、通常20〜50時間程度である。
このようにして、開環重合を行い、上記各条件を適宜選定することにより、ハイパーブランチ型ポリグリセロールの絶対分子量の制御が可能となると共に、前述した性状を有するハイパーブランチ型ポリグリセロールを再現性よく得ることができる。
なお、この開環重合反応においては、反応系においてモノマーが少ない条件下では、分子内環化(バックバイティング)が生じやすい。したがって、グリシドールの投入速度が遅すぎる場合や、重合時間が長すぎる場合には、分子内環化が生じやすく、低分子量化や収率の低下をもたらすことがある。
反応終了後、例えば下記の操作を行うことにより、開環重合で生成したハイパーブランチ型ポリグリセロールを、効率よく取得することができる
アンモニア水等により反応停止後、溶媒を留去し、残渣をメタノールに溶解し、アセトンへ再沈殿することにより、ポリマーを高純度で得ることができる。
【0022】
次に、本発明の水系潤滑剤の性能、添加成分及び用途などについて説明する。
[水系潤滑剤]
本発明の水系潤滑剤は、潤滑成分として前述で説明した、絶対分子量が5千〜50万、好ましくは5千〜30万、より好ましくは8千〜20万であるハイパーブランチ型ポリグリセロールを含むものである。
なお、本発明において水系潤滑剤とは、水溶液型又は水を媒体とするエマルション型を指す。
【0023】
(性能)
潤滑成分としてハイパーブランチ型ポリグリセロール(HPB−PGR)を含む本発明の水系潤滑剤は、以下に示す往復動摩擦試験において、従来、水系潤滑剤として使用されてきた、潤滑成分としてエチレンオキサイド(EO)/プロピレンオキサイド(PO)共重体やポリエチレングリコール(PEG)を含む水系潤滑剤と比べて、各潤滑成分の分子量及び濃度がほぼ同一の場合には、動摩擦係数がかなり低く、優れた潤滑性能を有している。
<往復動摩擦試験条件>
球材:SUJ2 1/2インチ
摺動材:鋼板(SPCC)
荷重:200g
試験温度:室温(23℃)
摺動速度:40mm/s
摺動距離:40mm
摺動回数:20往復
【0024】
例えば、絶対分子量10,000のHPB−PGR5質量%を含む水系潤滑剤A、絶対分子量10,250のEO/PO(モル比8/2)ブロック共重合体5質量%を含む水系潤滑剤B、及び絶対分子量10,000のPEG5質量%を含む水系潤滑剤Cを用いて、上記条件で往復動摩擦試験を行った場合、摺動往復20回目の動摩擦係数は、水系潤滑剤Aが0.093であるのに対し、水系潤滑剤Bは0.154であり、水系潤滑剤Cは0.145である。
このように、HPB−PGRを含む本発明の水系潤滑剤は、従来用いられてきたEO/POブロック共重合体を含む水系潤滑剤やPEGを含む水系潤滑剤に比べて、優れた潤滑性能を有している。
さらに、HPB−PGRを含む本発明の水系潤滑剤は、同一濃度の場合、分子量が増加するに伴い、動摩擦係数が減少する傾向を示す。
【0025】
さらに、潤滑成分としてHPB−PGRを含む本発明の水系潤滑剤は、以下に示す消泡性評価試験において、従来、水系潤滑剤として使用されてきた、潤滑成分としてEO/POブロック共重合体やPEGを含む水系潤滑剤に比べて、各潤滑成分の分子量及び濃度がほぼ同一の場合には、消泡性に優れる性質を有している。
<消泡性評価試験>
100mLのガラス製シリンダーに水系潤滑剤を入れ、10秒間激しく振とうし、5秒後の液面の泡残りの有無を目視にて観察し、消泡性を評価する。
例えば、前述の往復動摩擦試験で用いた水系潤滑剤A、水系潤滑剤B及び水系潤滑剤Cについて、上記消泡性試験を行うと、水系潤滑剤Aでは、5秒後には泡残りは認められないが、水系潤滑剤B及び水系潤滑剤Cでは、いずれも5秒後には泡残りが認められる。
さらに、絶対分子量3,420のEO/POブロック共重合体4質量%を含む水溶液の曇点は55℃であるのに対し、本発明の水系潤滑剤においては、絶対分子量15,000のHPB−PGR2の4質量%を含む水溶液の曇点はなく、水希釈安定性に優れている。
【0026】
(添加成分)
本発明の水系潤滑剤におけるハイパーブランチ型ポリグリセロールの含有量については、特に制限はなく、その用途に応じて適宜選定されるが、通常は1〜80質量%程度、好ましくは5〜50質量%である。
本発明の水系潤滑剤においては、上記ハイパーブランチ型ポリグリセロールと共に、他の成分、例えば油性剤、摩擦緩和剤、極圧剤、酸化防止剤、清浄剤、分散剤、消泡剤、界面活性剤、防錆剤、防腐剤、防食剤、溶剤及び塩基性化合物の中から選ばれる少なくとも1種を含むことができる。
なお、本発明の水系潤滑剤は、水溶液型、又は水を媒体とするエマルション型のいずれであってもよいが、上記添加成分として、均一な水溶液型潤滑剤を与えることのできない成分を用いる場合には、水を媒体とするエマルション型潤滑剤にすればよい。
【0027】
<油性剤>
油性剤としては、例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール類;ラウリルアミド、ミリスチルアミド、パルミチルアミド、ステアリルアミド、オレイルアミド等のアミドおよびそのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。これらは潤滑剤全体に対して、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%含有させることができる。なお、これらの化合物のなかには、乳化性能、可溶化性能を有するものもある。
【0028】
<摩擦緩和剤>
摩擦緩和剤としては、例えば、ヘキサン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、オクタン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、デカン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、ラウリン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、ミリスチン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、パルミチン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、ステアリン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、オレイン酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、ソルビタンの脂肪酸エステル等のエステル類、ヘキシル(ポリ)グリセリルエーテル、オクチル(ポリ)グリセリルエーテル、ラウリル(ポリ)グリセリルエーテル、ステアリル(ポリ)グリセリルエーテル、オレイル(ポリ)グリセリルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。これらは潤滑剤全体に対して、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%含有させることができる。なお、これらの化合物のなかには、防錆性能、乳化性能、可溶化性能を有するものもある。
【0029】
<極圧剤>
極圧剤としては、鉛石けん(ナフテン酸鉛等);硫黄化合物(硫化オレイン酸等の硫化脂肪酸、硫化脂肪酸エステル、硫化スパーム油、硫化テルペン、ジベンジルジサルファイド、炭素数8〜24のアルキルチオプロピオン酸のアミン塩又はアルカリ金属塩及び炭素数8〜24のアルキルチオグリコール酸のアミン塩又はアルカリ金属塩等);塩素化合物(塩素化ステアリン酸、塩素化パラフィン及びクロロナフサザンテート等);リン化合物(トリクレジルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリクレジルホスファイト、n−ブチルジ−n−オクチルホスフィネート、ジ−n−ブチルジヘキシルホスホネート、ジ−n−ブチルフェニルホスホネート、ジブチルホスホロアミデート及びアミンジブチルホスフェート等)が挙げられる。これらは、潤滑剤全体に対して、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%含有させることができる。
【0030】
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤を好ましく用いることができる。
前記フェノール系酸化防止剤としては、特に制限はなく、従来潤滑油の酸化防止剤として使用されている公知のフェノール系酸化防止剤の中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。このフェノール系酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール;2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシメチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチルフェノール;2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール;2,6−ジ−tert−アミル−4−メチルフェノール;n−オクタデシル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオネートなどの単環フェノール類、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール);2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)などの多環フェノール類などが挙げられる。これらの中で、効果の点から単環フェノール類が好適である。
【0031】
アミン系酸化防止剤としては、特に制限はなく、従来潤滑油の酸化防止剤として使用されている公知のアミン系酸化防止剤の中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。このアミン系酸化防止剤としては、例えばジフェニルアミン系のもの、具体的にはジフェニルアミンやモノオクチルジフェニルアミン;モノノニルジフェニルアミン;4,4’−ジブチルジフェニルアミン;4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン;4,4’−ジオクチルジフェニルアミン;4,4’−ジノニルジフェニルアミン;テトラブチルジフェニルアミン;テトラヘキシルジフェニルアミン;テトラオクチルジフェニルアミン:テトラノニルジフェニルアミンなどの炭素数3〜20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミンなど、及びナフチルアミン系のもの、具体的にはα−ナフチルアミン;フェニル−α−ナフチルアミン、さらにはブチルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン;オクチルフェニル−α−ナフチルアミン;ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどの炭素数3〜20のアルキル置換フェニル−α−ナフチルアミンなどが挙げられる。これらの中で、ナフチルアミン系よりジフェニルアミン系の方が、効果の点から好ましく、特に炭素数3〜20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミン、とりわけ4,4’−ジ(C3〜C20アルキル)ジフェニルアミンが好適である。
【0032】
本発明においては、前記フェノール系酸化防止剤を1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記アミン系酸化防止剤を1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらには、フェノール系酸化防止剤1種以上とアミン系酸化防止剤1種以上とを組み合わせて用いてもよい。
本発明においては、この酸化防止剤の含有量は、酸化安定性及び他の物性などの点から、潤滑剤全体に対して、通常0.05〜2.0質量%、好ましくは0.1〜1質量%である。
【0033】
<清浄剤・分散剤>
清浄剤としては、金属系清浄剤を用いることができ、分散剤としては無灰分散剤を用いることができる。
金属系清浄剤としては、例えば中性金属スルホネート、中性金属フェネート、中性金属サリチレート、中性金属ホスホネート、塩基性スルホネート、塩基性フェネート、塩基性サリチレート、過塩基性スルホネート、過塩基性サリチレート、過塩基性ホスホネートなどが挙げられる。これらの金属系清浄剤は1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
無灰分散剤としては、例えばコハク酸イミド類、ホウ素含有コハク酸イミド類、ベンジルアミン類、ホウ素含有ベンジルアミン類、コハク酸エステル類、脂肪酸あるいはコハク酸で代表される一価又は二価カルボン酸アミド類などが挙げられるが、これらの中で、コハク酸イミド類、特にポリアルケニルコハク酸イミドが好適である。これらの無灰分散剤は1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記金属系清浄剤と無灰分散剤は合計量として、潤滑剤全体に対して、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.5〜10質量%である。
【0034】
<消泡剤>
消泡剤としては、高分子シリコーン系消泡剤が好ましく、この高分子シリコーン系消泡剤を含有させることにより、消泡性が効果的に発揮される。
前記高分子シリコーン系消泡剤としては、例えばオルガノポリシロキサンを挙げることができ、特にトリフルオロプロピルメチルシリコーン油などの含フッ素オルガノポリシロキサンが好適である。この高分子シリコーン系消泡剤は消泡効果及び経済性のバランスの点から、潤滑剤全体に対して、0.01〜0.5質量%程度含有させることが好ましく、0.05〜0.3質量%含有させることがより好ましい。
【0035】
<界面活性剤>
界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールモノアルキル(アリール)エーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノアルキル(アリール)エーテル、ポリエチレングリコールジアルキル(アリール)エーテル、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリオールエステル、アルカノールアミド、アルキルスルホン酸塩、(アルキル)ベンゼンスルホン酸塩、石油スルホネート、長鎖第一アミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アシルアミノエチルジエチルアミン塩などが挙げられるが、泡立ちの観点から、起泡性のよい界面活性剤は使用しない方が好ましい。これらは潤滑剤全体に対して、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.1〜10質量%含有させることができる。
この界面活性剤の中には、エマルション型水系潤滑剤を調製する場合の乳化剤と使用されるものも含まれる。
【0036】
<防錆剤>
防錆剤としては、例えば炭素数14〜36の脂肪族カルボン酸アミド(ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド及びオレイルアミド等);炭素数6〜36のアルケニルコハク酸アミド(オクテニルコハク酸アミド、ドデセニルコハク酸アミド、ペンタデセニルコハク酸アミド及びオクテニルコハク酸アミド等);シクロヘキシルアミンナイトライト;ベンゾトリアゾール;メルカプトベンゾチアゾール;N,N'−ジサリチリデン−1,2−ジアミノプロパン;アリザリン;脂肪族アミンおよびそのアルキレンオキサイド(AO)付加物等が挙げられる。
これらのうち、好ましいのは脂肪族アミンのAO付加物であり、特に好ましいのはトリエタノールアミン、エチレンジアミンのプロピレンオキサイド(PO)2〜8モル、特に4モル付加物及びジエチレントリアミンのPO3〜8モル、特に5モル付加物である。
尚、炭素数14〜36の脂肪族カルボン酸アミド及び炭素数6〜36のアルケニルコハク酸のアミドは油性向上剤としての機能も有する。これらは、潤滑剤全体に対して、好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.03〜1質量%含有させることができる。
【0037】
<防食剤>
防食剤としては、例えばベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系の各化合物を挙げることができる。これらは、潤滑剤全体に対して、好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.03〜1質量%である。
【0038】
<防腐剤・抗菌剤>
防腐剤・抗菌剤としては、従来公知の化合物、例えばo−フェニルフェノール、o−フェニルフェノールNa塩、2,3,4,6−テトラクロロフェノール、o−ベンジル−p−クロロフェノール、p−クロロ−m−キシレノールなどのフェノール系化合物;2−ヒドロキシメチル−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−s−トリアジン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリエチル−s−トリアジン、1−(3−クロロアリル)−3,5,7−トリアザ−1−アゾニアアダマンタンなどのホルムアルデヒド供与体化合物;サリチルアニリド系化合物;メチレンビスチオシアナート、6−アセトキシ−2,4−ジメチル−m−ジオキサン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4−(2−ニトロブチル)モルホリン、4,4’−(2−エチル−2−ニトロトリメチレン)ジモルホリンなどのその他化合物を挙げることができる。
【0039】
<溶剤>
溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、低分子ポリエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノ(メチル、エチル、プロピル、ブチル)エーテル、ポリプロピレングリコールモノ(メチル、エチル、プロピル、ブチル)エーテル、ポリエチレンポリプロピレン(ランダム、ブロック)グリコールモノ(メチル、エチル、プロピル、ブチル)エーテル、ポリエチレングリコール多価アルコール(グリセリン、ソルビタン、トリメチロールプロパン)エーテル、ポリプロピレングリコール多価アルコール(グリセリン、ソルビタン、トリメチロールプロパン)エーテル、ポリエチレングリコール多価アルコール(グリセリン、ソルビタン、トリメチロールプロパン)エーテル、ポリエチレンポリプロピレン(ブロック、ランダム)グリコール多価アルコール(グリセリン、ソルビタン、トリメチロールプロパン)エーテル等が挙げられる。これらは潤滑剤全体に対して好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは0.5〜40質量%含有させることができる。
【0040】
<塩基性化合物>
塩基性化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物;アンモニア;メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、(イソ)プロピルアミン、ジ(イソ)プロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、イソノニルアミン等の(シクロ)ヒドロカルビルアミン類;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミン類;ピリジン、ピペラジン等の環状アミン類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、N−シクロヘキシルジエタノールアミン、N,N,N’,N’−テトラキス(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン等のアルカノールアミン類等が挙げられる。これらは潤滑剤全体に対して好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%含有させることができる。尚、これらの塩基性化合物は、酸性の摩擦緩和剤(脂肪酸、カルボン酸等)を中和して、その効果を増大させたり、pHを上げて微生物の増殖による本発明の水系潤滑剤の腐敗を防いだりする効果がある。またアミン類は、防錆剤、防食剤として作用する場合もある。
【0041】
(用途)
本発明の水系潤滑剤は、前述したハイパーブランチ型ポリグリセロールと、必要に応じて、前述した各種添加成分の中から選ばれる少なくとも1種を含む、水溶液型又は水を媒体とするエマルション型潤滑剤であって、例えば水系金属加工剤や液圧作動液などとして、使用することができる。
【0042】
<水系金属加工剤>
本発明の水系潤滑剤が適用される水系金属加工剤は、金属の塑性加工、切削加工及び研削加工などに用いられる水系金属加工剤として使用する。
前記水系金属加工剤に要求される性能としては、潤滑性能、低気泡性、水希釈安定性(使用時に水で希釈した際の希釈液の安定性)、及び他の鉱物油系加工油とのオイル分離性などが挙げられる。
この水系金属加工剤としては、これまで、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイドブロック共重合体やポリエチレングリコールを潤滑成分として含む水系潤滑剤が用いられてきたが、潤滑性能、低気泡性及び水希釈安定性については、充分に満足し得るものではなかった。
これに対して、本発明の水系潤滑剤からなる水系金属加工剤は、潤滑性能、低気泡性、水希釈安定性に優れている。
当該水系金属加工剤においては、使用時のハイパーブランチ型ポリグリセロールの濃度は、通常10〜80質量%程度、好ましくは20〜50質量%である。
【0043】
<液圧作動液>
建設機械、工作機械、プラスチック加工機械、自動車組立設備の溶接ロボット、鉄鋼設備、ダイカストマシンなどの油圧機器や油圧装置等の油圧システムに可燃性の油圧作動油を使用すると火災の危険性があるので、難燃性である水系の液圧作動液が用いられている。この種の代表的なものとしては、水溶性ポリエーテル化合物を含む水系潤滑剤が挙げられる。この水系潤滑剤は、不燃性であって、外観が透明であり、かつ高温での安定性が高く、分離が生じにくいという利点を有するが、潤滑性能については充分に満足し得るものではなく、かつ消泡性に劣るという問題を有している。
これに対し、本発明の水系潤滑剤からなる液圧作動液は、従来の水溶性ポリエーテル化合物を含む液圧作動液に比べて、潤滑性能及び消泡性のいずれにも優れている。
当該液圧作動液においては、使用時のハイパーブランチ型ポリグリセロールの濃度は、通常10〜80質量%程度、好ましくは30〜50質量%である。
【実施例】
【0044】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、ハイパーブランチ型ポリグリセロールの諸特性及び水系潤滑剤の諸特性は、以下に示す方法に従って求めた。
【0045】
<ハイパーブランチ型ポリグリセロール(HPB−PGR)>
(1)絶対分子量M
下記の装置及び条件により、サイズ排除クロマトグラフィーオンライン−多角度光散乱(SEC−MALLS)法により、HPB−PGRの絶対分子量を測定する。
分離カラム:Tosoh TSKgel GMPWXL columns(linear,7.5mm×600mm;exclusion limit,5 × 107)を2本使用
カラム温度:40℃
移動相溶媒:0.2mol/L濃度NaNO3水溶液
移動相流速:1.0mL/min
試料濃度 :3g/mL
注入量 :100μL
検出器1:多角度光散乱検出器[Wyatt社製、「DAWN 8」]
検出器2:粘度検出器(Wyatt社製,「Viscostar」)
検出器3:屈折率(RI)検出機(Wyatt社製,「Optilab rEX」)
なお、比較例及び参考例で用いたEO/POブロック共重合体及び比較例で用いたPEGの絶対分子量は、上記と同様にして測定する。
(2)極限粘度[η]及び平均分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn、Mw及びMnは標準ポリスチレン換算値)
上記(1)の装置及び条件を用い、SEC−MALLS法により測定する。
(3)分岐度(DB)
明細書本文に記載の方法に従って求める。
【0046】
<水系潤滑剤>
(4)動摩擦係数
各水系潤滑剤について、以下に示す条件で、往復動摩擦試験を行い、摺動往復20回目の動摩擦係数を測定する。
往復動摩擦試験条件
球材:SUJ2 1/2インチ
摺動材:鋼板(SPCC)
荷重:100g、200g、500g
試験温度:室温(23℃)
摺動速度:40mm/s
摺動距離:40mm
摺動回数:20往復
(5)消泡性
明細書本文記載の消泡性評価試験に従って、各水系潤滑剤の消泡性を評価する。
【0047】
製造例1
ガラス製丸底フラスコ(容量:100mL)の中で三フッ化ホウ素ジエチルエーテル (BF3・OEt2)(23.2L,0.189mmol)を乾燥ジクロロメタン(43.1mL)に溶解した。この溶液にグリシドール(10mL,0.151mol)を4.8mL/hの速度で滴下し、−20oCの条件下でモーター付き攪拌装置を用いて135rpm(攪拌翼:ラウンド型、羽幅=65mm、高さ=25mm)で攪拌した。滴下終了から28時間攪拌後、反応溶液をアンモニア水入りメタノールに投入し、反応を停止した。溶媒を減圧留去後、残渣をメタノールに溶解し、アセトンへの再沈殿によりポリマーを精製し、収率91.1%で絶対分子量Mw=10,000、分量量分散度Mw/Mn=3.08、分岐度BD=0.51、α=0.18、極限粘度[η]=5.2のハイパーブランチ型ポリグリセロール1(HPB−PGR1)を得た。これらの結果を表1に示す。
【0048】
製造例2〜4 絶対分子量の異なる各HPB−PGRの製造
表1に示す条件にて、製造例1と同様な操作を行い、絶対分子量15,000のHPB−PGR2(製造例2)、絶対分子量21,000のHPB−PGR3(製造例3)及び絶対分子量136,000のHPB−PGR4(製造例4)を表1に示す収率で取得した。
各HPB−PGRの分岐度(DB)、平均分子量分布Mw/Mn、極限粘度[η]及びαを、それぞれ表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例1
製造例1で得たHPB−PGR1を純水に溶解して、HPB−PGR1濃度5質量%水溶液からなる水系潤滑剤A−1を調製した。
【0051】
実施例2
製造例2で得たHPB−PGR2を純水に溶解して、HPB−PGR2濃度5質量%水溶液からなる水系潤滑剤A−2を調製した。
【0052】
実施例3
製造例3で得たHPB−PGR3を純水に溶解して、HPB−PGR3濃度5質量%水溶液からなる水系潤滑剤A−3を調製した。
【0053】
実施例4
製造例2で得たHPB−PGR2を純水に溶解して、HPB−PGR2濃度10質量%水溶液からなる水系潤滑剤A−4を調製した。
【0054】
比較例1
絶対分子量10,250のエチレンオキサイド(EO)/プロピレンオキサイド(PO)[EO/POモル比8/2]ブロック共重合体を純水に溶解して、該EO/POブロック共重合体濃度5質量%水溶液からなる水系潤滑剤Bを調製した。
【0055】
比較例2
絶対分子量10,000のポリエチレングリコール(PEG)を純水に溶解して、PEG濃度5質量%水溶液からなる水系潤滑剤C−1を調製した。
【0056】
比較例3
絶対分子量20,000のポリエチレングリコール(PEG)を純水に溶解して、PEG濃度5質量%水溶液からなる水系潤滑剤C−2を調製した。
【0057】
前記の実施例1〜4及び比較例1〜3で得られた水系潤滑剤について、動摩擦係数を測定すると共に、消泡性を評価した。その結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
[注]
各水系潤滑剤における潤滑成分のポリマー種を以下に示す。
水系潤滑剤A−1:HPB−PGR1(絶対分子量=10,000)
水系潤滑剤A−2:HPB−PGR2(絶対分子量=15,000)
水系潤滑剤A−3:HPB−PGR3(絶対分子量=21,000)
水系潤滑剤A−4:HPB−PGR2(絶対分子量=15,000)
水系潤滑剤B:絶対分子量10,250のEO/PO(モル比8/2)ブロック共 重合体
水系潤滑剤C−1:絶対分子量10,000のPEG
水系潤滑剤C−2:絶対分子量20,000のPEG
【0060】
表2から分かるように、潤滑成分としてハイパーブランチ型ポリグリセロール(HPB−PGR)を含む本発明の水系潤滑剤は、従来、水系潤滑剤として使用されてきた、潤滑成分としてエチレンオキサイド(EO)/プロピレンオキサイド(PO)ブロック共重合体やポリエチレングリコール(PEG)を含む水系潤滑剤と比べて、各潤滑成分の分子量及び濃度がほぼ同一の場合には、動摩擦係数がかなり低く、優れた潤滑性能を有している。また、HPB−PGRを含む本発明の水系潤滑剤は、同一濃度の場合、分子量が増加するに伴い、動摩擦係数が減少する傾向を示す。
さらに、HPB−PGRを含む本発明の水系潤滑剤は、潤滑成分としてEO/POブロック共重合体やPEGを含む水系潤滑剤に比べて、消泡性に優れた性質を有している。
【0061】
参考例1
製造例2で得た、絶対分子量15,000のHPB−PGR2の4質量%濃度水溶液、及び絶対分子量3,420のEO/POブロック共重合体4質量%濃度水溶液を調製し、曇点を測定したところ、HPB−PGR2を含む水溶液は、曇点がないが、EO/POブロック共重合体を含む水溶液は、曇点が55℃であった。
これにより、HPB−PGRは、EO/POブロック共重合体に比べて、水希釈安定性に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の水系潤滑剤は、ハイパーブランチ型ポリグリセロールを含む水溶液又はエマルション型潤滑剤であって、従来のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合物を含む水系潤滑剤に比べて、摩擦係数が小さく、潤滑性能に優れる上、消泡性にも優れ、例えば水系金属加工剤や液圧作動液などとして好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶対分子量が5千ないし50万のハイパーブランチ型ポリグリセロールを含むことを特徴とする水系潤滑剤。
【請求項2】
ハイパーブランチ型ポリグリセロールの絶対分子量が、5千ないし30万である請求項1に記載の水系潤滑剤。
【請求項3】
ハイパーブランチ型ポリグリセロールの分岐度(DB)が、0.40〜0.65の範囲にある請求項1又は2に記載の水系潤滑剤。
【請求項4】
ハイパーブランチ型ポリグリセロールが、下記式(1)におけるαが0.5未満である請求項1〜3のいずれかに記載の水系潤滑剤。
[η]=K・Mα ・・・(1)
(式中、[η]は固有粘度又は極限粘度、Kは定数、Mは絶対分子量を示す。)
【請求項5】
ハイパーブランチ型ポリグリセロールが、開始剤としてBF3錯体を用いてグリシドールを開環重合させたものである請求項1〜4のいずれかに記載の水系潤滑剤。
【請求項6】
水系金属加工剤として用いられる請求項1〜5のいずれかに記載の水系潤滑剤。
【請求項7】
水系金属加工剤が塑性加工、切削加工、又は研削加工用である請求項6に記載の水系潤滑剤。
【請求項8】
液圧作動液として用いられる請求項1〜5のいずれかに記載の水系潤滑剤。
【請求項9】
さらに、油性剤、摩擦緩和剤、極圧剤、酸化防止剤、清浄剤、分散剤、消泡剤、界面活性剤、防錆剤、防腐剤、防食剤、溶剤及び塩基性化合物の中から選ばれる少なくとも1種を含む、水溶液型又はエマルション型である請求項1〜8のいずれかに記載の水系潤滑剤。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−215734(P2010−215734A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62069(P2009−62069)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年9月24日 社団法人高分子学会主催の「第57回高分子討論会」において文書をもって発表
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】