説明

水素の製造方法

易生体酸化性物質からの水素の製造方法を記載する。本製造方法は、陽イオン交換膜で隔てられていてもよい、アノドフィリック細菌を水性媒体に含む、陽極および陰極を備えたリアクターに易生体酸化性物質を入れ;水性媒体のpHを3〜9に維持しながら陽極と陰極との間に0.05〜1.5ボルトの電圧をかけ;陰極で水素を回収する工程を含んでなる。本水素製造方法は、酸素を加え、陽イオン交換膜で陽極と陰極のスペースを区切ることにより発電ステージ(生物燃料電池)に断続的に切り替えることができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、生体触媒による易生体酸化性物質(bio-oxidisable material)からの水素の製造方法に関する。
【0002】
(緒言)
地球温暖化の影響および化石燃料の枯渇が見通されることから、新しいエネルギーキャリヤーの分野において膨大な数の調査研究がなされている。これら新しいキャリヤーは、再生可能で好ましくは輸送燃料として適したものでなければならない。多くは、水素ガスを将来のエネルギー経済の理想的な候補としてとらえている:水素経済。水素ガスは燃料電池に使用することができ、効率良く水素を電気に変換することができる(約60%)。
【0003】
水素ガスを製造するための従来の(化学的な)方法は、依然として非再生可能な物質(例えば天然ガス)の変換に頼っている。そのような方法の例として、水蒸気改質(0.40Nm3 メタン/Nm32)、メタノール分解(0.59Nm3 メタン/Nm32)および水の電気分解(1.3Nm3 メタン/Nm32)がある[Stoll RE, von Linde F, Hydrocarbon Processing, December 2000: 42-46]。
【0004】
多くの研究が、エネルギー作物などの再生可能な供給源からの水素ガスの生物学的製造に向けられている。これらエネルギー作物に由来する多糖類やリグニン/セルロースは、加水分解して六炭糖や五炭糖にした後、これを発酵により水素ガスに変換することができる。例えば、グルコースは理論的には以下の反応式に示すように変換される:
グルコース+6H2O→12H2+6CO2 (反応1)
【0005】
この反応は、好ましい温度と水素濃度のもとでのみ、細胞増殖に十分なエネルギーを発生する。反応1が細胞増殖に好ましいためには、温度が60℃で、水素圧がせいぜい50Paであることが必要であると計算されている[Lee M J, Zinder S H, Applied and Environmental Microbiology, 1988: 54: 1457-1461]。現在、そのような低い水素圧を達成できる採算性のある方法は存在しない。グルコースが脂肪酸(例えば酢酸)に変換される場合は、要求される条件はそれほど極端なものではない:
グルコース+2H2O→4H2+2CH3COOH+2CO2 (反応2)
【0006】
但し、その場合でも、細胞増殖に好ましいためには水素圧はせいぜい2,000〜20,000Pa(70℃)である必要があり[Groenestijn JW et al., International Journal of Hydrogen Energy, 2002; 27: 1141-1147]、流入水中のCOD(=化学的酸素要求量)の3分の1しか水素ガスに変換されない。化学的酸素要求量の残り3分の2は酢酸として得られ、100%の変換を達成するためにはさらに水素ガスに変換する必要がある。このため、2段階の製造方法が開発された。この生物学的製造法は、ダーク・ステージとライト・ステージからなる。ダーク・ステージでは、(超)好熱性微生物が、反応2にしたがって糖を水素ガスと脂肪酸に変換する。説明したように、反応を進行させるためには、水素圧を2,000〜20,000Pa(70℃)以下に維持することが重要である。この低い水素圧を達成するための方法はいくつかあるが、どれもエネルギーおよび/または経済上のコストがかかる。
【0007】
次に、ライト・ステージでは、中温性光合成従属栄養菌により脂肪酸を水素ガスに変換する。この変換は反応3で示される:
2CH2COOH+4H2O[+hν]→8H2+4CO2 反応3
反応2と反応3の純合計は、反応1に等しい。但し、ライト・ステージには、一日の日照時間の合計とリアクターに取り入れら得る(日)光の総量によってかなりの制限を受けるという、経済上可能な変換速度を得るために依然として克服しなければならない問題が存在し、このために、リアクターは過剰に広い表面積を必要とする。さらに全体の問題として、両ステージにおいて水素/CO2ガスの混合物が発生し、純粋な水素ガス気流を得るために分離する必要があるということがある。
【0008】
生体電気は、持続可能なエネルギーに基づく社会の発展のための別の解決方法である。既知の(金属還元)微生物(例えば、Shewafaella putrefaciensGeobacter sulfurreducens等)は、電極を電子受容体として用いることができる。従って、例えば酸素を直接の電子受容体として用いるのではなく、微生物はその微生物の電子を直接電極に供与する。これらの微生物は電気化学的に活性であり、そのような微生物はアノドフィリック(anodophilic)微生物と称する。
【0009】
この原理により生物燃料電池の構築が可能である:易生体酸化性物質(COD)が陽極コンパートメント内で変換され、アノドフィリック細菌が電子を陽極へ輸送する。
例えば、グルコースの場合:
グルコース+6H2O→6CO2+24H+24e- (生体触媒による) 反応4
陰極コンパートメントでは、電子が陰極の酸素に輸送される:
6O2+24H++24e-→12H2O 反応5
【0010】
陽極および陰極を電気回路で接続し、陽極および陰極コンパートメントをプロトン透過性の膜で隔てる。Kimらは、ラクトース上で培養した金属還元細菌Shewanella putrefaciensを用い、このような生物燃料電池で電気を発生することが可能であることを示した[Kim et al., Enzyme and Microbial Technology, 2002; 30: 145-152; WO 01/04061を参照]。開回路では、電圧が0.6ボルトに上昇することが測定された。さらに、細菌の懸濁液を用いたサイクリックボルタンメトリー試験は、燃料電池内の電圧が0.8ボルトに達することを示した。しかしながら、電気回路を閉じて1000Ωの抵抗を入れた場合、Kimらは約0.02〜0.04mAの電流を検出した。これはわずか0.02-0.04ボルトの電圧を意味する。
【0011】
理論的には、Kimらが記載した条件下では、ラクトースで作動する燃料電池では約1.15ボルトの電圧を達成することができる(グルコースでは1.23ボルト)が、微生物は生存および/または細胞増殖のためのエネルギー分を取り込むため、この最大電圧は生物燃料電池では達成されない。しかし、Kimらが彼らのプロセスで達成した収率(0.04ボルト/1.15ボルト=3.5%)は、この生物燃料電池で理論的に可能な収率(0.8ボルト/1.15ボルト=70%)と比較しても非常に低い。なぜなら、彼らのプロセスでは、酸素が電子受容体として供することにより、アノドフィリック微生物に酸素/水酸化還元共役のエネルギーレベルの上の任意の可能なエネルギーレベルで電子を放出する選択肢が与えられるからである。電子が放出されるエネルギーレベルが低いほど、生存および細胞増殖に用いるためにその微生物自身が取得するエネルギー量は多くなる。したがって、生物燃料電池において電子受容体として酸素を用いることによって、電子を低いエネルギーレベルで放出する微生物を選択する選択基準が作り出される。そのような放出を行う微生物は、それ自身のためにより多くのエネルギーを保持しており、より速く増殖し得るので、電子をより高いエネルギーレベルで放出する微生物に打ち勝つ。アノドフィリック微生物がそれ自身のために取り込める易生体酸化性物質由来のエネルギーが多ければ、より多くのエネルギーが発電のために失われ、Kimらが記載しているように生物燃料電池において達成される収率が低くなる。
【0012】
(発明の記載)
易生体酸化性物質の生化学的分解で発生した電子がプロトンへと移動して水素分子を発生するのに必要かつ充分な電圧を、生物電気化学電池の陽極と陰極の間にかけることにより、水素が生物電気化学的プロセスで発生することを見出した。
【0013】
このように、本発明は、易生体酸化性物質からの水素ガスの製造のための非常に有効で効率的な方法において使用される電極へ、アノドフィリック細菌が電子を輸送することを可能ならしめる。生物燃料電池とは異なり、酸素ではなく、水素イオンを電子受容体として用いる。陽極では、易生体酸化性物質が生物燃料電池と同様に変換される。一例として、グルコースについては以下の反応が適用される:
グルコース+6H2O→6CO2+24H++24e-(生体触媒による) 反応4
【0014】
陰極では、電子が、酸素ではなく水素イオンへと輸送され、その結果水素ガスが発生する。
24H++24e-→12H2(g) 反応6
【0015】
別の例では、以下の反応は硫化水素に適用される:
2S→2H++S0+2e-(生体触媒による) 反応7
2H++2e-→H2(g) 反応6’
【0016】
標準的な条件下では、グルコースの反応のギブスエネルギーはごく僅かに正であり(約3kJ/molグルコース)、これは、この反応の進行にエネルギーを必要とし、電圧をかけなければならないことを意味する(生物燃料電池において微生物が産生する代わりに)。理論上、これには僅か約0.01ボルトしか必要としない。但し、この反応を触媒する微生物は細胞増殖と生存にもエネルギーを要するので、電圧はこれより高くなる。0〜1.23Vの弱い電圧を電池にかけることにより、細胞増殖と生存のプロセスを行うにちょうど充分なエネルギーがアノドフィリック微生物に供給され、易生体酸化性物質のエネルギーの残りが水素ガスとして回収される。このようにして、高いエネルギーレベルで電子を放出する微生物が選択される選択基準が作り出され、これは易生体酸化性物質からの水素ガス発生が高収量で達成できることを意味する。
【0017】
0.05〜1.5ボルトの間、好ましくは0.1〜1.2ボルトより好ましくは0.7ボルトまで、特に0.2〜0.5ボルトの電圧をかけると、細菌集団の充分な増殖と生存を維持すると同時に、水素ガスの効率的な産生が可能になる。許容し得る生存性のために、生物電気化学的リアクター内のpHを、好ましくは適度にアルカリ性〜適度に酸性、即ち3〜9、好ましくは4〜8、特に5〜7にする。
【0018】
このように、水素ガス産生のための生体触媒による電気分解プロセスに正しい条件を適用することで、適切な微生物の増殖のための選択基準が作り出される。これにより、影響種(influlent)の殺菌は不要になる。適切な電圧を掛けた場合に、全ての易生体酸化性物質を酸化することが可能なアノドフィリック微生物の有効な混合培養物が生じる。この有効な培養物は、慣用の水(汚水)浄化植物およびバイオガス産生植物にそれぞれ豊富に存在する適した多様性を有する、活性化されたスラッジの細菌集団または嫌気性細菌の集団を用いて開始することにより得られる。これらの細胞集団を、本プロセスの条件下で、適応するに充分な時間培養する。例えば15〜40℃の温度で活性な中温性細胞集団が好ましいが、所望ならば、好熱性細菌も用いることができる。本プロセスは、上記開始スラッジ培養物を用いてまたは用いることなく、既知のアノドフィリック細菌(例えば、Shewanella putrefaciens、Geobacter sulfurreducens、Rhodoferax ferrireducensなど)の接種により開始することもできる。
【0019】
本発明は、高いエネルギーレベルで電子を放出する微生物を選択するので、陽極はそのような種類の微生物で変換される。この陽極/陽極コンパートメントをKimらが記載するように酸素が供給される陰極/陰極コンパートメントに一時的に接続すると、易生体酸化性物質を高収率で電気に変換することが可能な高収率の生物燃料電池ができる。したがって、易生体酸化性物質からの水素ガスの効率的な製造方法であることに加えて、本発明はさらに、電子を高いエネルギーレベルで放出し、生物燃料電池にも一時的に使用することができるアノドフィリック微生物を選択する方法を提供する。前に記載したように、この選択基準は生物燃料電池モードに切り替えると消失するので、陽極はやがて低収率の陽極に移行する。水素産生モードに切り替えてもどすことにより、再度高収率の微生物が再度選択される。
【0020】
水素産生と生物電池モードを効率的に切り替えることにより、生物燃料電池モードにおいて高収率微生物の大きな喪失なしに、本発明は易生体酸化性物質からの非常に効率的な発電方法も提供する。生じた水素を通常の水素燃料電池を用いて電気に変換することにより、電気のみを高収率で発生させるプロセスが達成される。
【0021】
したがって、水素産生に必要な電圧をかけるための電気は、生物燃料電池モードで得られるか、または発生した水素の一部を通常の燃料電池内で電気に変換することによって得ることができる(収率約60%)。少なくとも60〜85%、さらには100%に至る全体のCOD収率がCODの水素ガスへの変換から得られ、これは慣用の非持続的な方法のCOD収率に匹敵し得る。それらの方法は貴重な原料(例えば天然ガス(上記))の変換に基づくものであるが、本発明は、あらゆる易生体酸化性CODを含有する(廃)液を流入水(influent)として使用し、これを効率的に水素ガスに変換することができる(表1参照)。本明細書において用いられるCOD収率なる語は、電子収率、即ち、流入した電子に対する発生した水素における電子の百分率を意味する。
【表1】

【0022】
微生物により電圧を発生させずに電圧を加えるので、本発明は、水素産生モードにおいて陽極コンパートメントと陰極コンパートメントとの間に陽イオン交換膜があってもなくても機能し得る。さらなる利点は、水素(陰極)と二酸化炭素(陽極)が互いに別々に発生することであり、水素/二酸化炭素の混合物が発生する2段階の(超)好熱性および中温性の光合成従属栄養的発酵とは対照的である。したがって、ガスを分離するための余分なエネルギーを必要とせず、いずれか一方または両方のガスを価値ある材料として回収することができる。場合により、慣用的な水の電気分解にあるように、とりわけ高い電位を犠牲にして高い圧力で水素を発生させることができる。水素圧が10倍高くなる毎に0.03ボルトが余分に必要となる。
【0023】
また、慣用の生物学的な水素発生プロセスのような2段階ではなく、1段階のプロセスが達成される。しかも、このプロセスに光は必要ではないので、慣用の生物学的2段階プロセスのライト・ステージにおける光の問題は回避される。最後に、本プロセスは、糖の流入(input)に限定されない;事実上すべての易生体酸化性物質を生体触媒での電気分解により水素の発生に用いることができる。
【0024】
本プロセスは、電解セルの特性を有するリアクターで行うことができる。リアクターは、陽イオン交換膜で隔てられていてもよい陽極コンパートメントと陰極コンパートメント、陰極と陽極に接続された制御可能な直流電源、(溶解した)易生体酸化性物質の流入口、液体排出口、二酸化炭素の排気口および水素ガス用の排気口から構成され、場合により水素貯蔵設備を備えていてもよい。水素産生と発電を交互に行う2モードの変法では、さらに、酸素/空気用の適当な吸気口と液体排出口を陰極コンパートメント内に備えている。
【0025】
膜は、例えば、燃料電池に慣用的に用いられているような適当な高分子材料を用いた非電子伝導性陽イオン交換膜である(例えば、Nafion(商標))。これは、陽極の空間から酸素を隔離するために、2モードの態様(水素産生と発電を交互に行う)において用いることができる。水素の発生のみの場合は、膜がなくてもよいが、ガスの最適な分離のためには膜があることが好ましい。理想的には、電極の大きさは、電池が、電極の表面積1m2あたり0.1〜10Aの典型的な電流密度(規模)で、1日につき、リアクター容量1m3あたり10kgのCODを処理することができる(規模)大きさである。電極は、金属または黒鉛/炭素または伝導性高分子(例えば、銅または他の金属または炭素を含む)でできている。陰極は触媒材料(白金等)からなるかまたはこれを含有し、その結果水素が低い過電位で効率的に発生する。陰極は、水性媒体(溶液)中に配置するかまたは膜を背にして配置し水素を気相で直接発生するガス拡散型の電極であってよい。陽極コンパートメントは、陽極表面で増殖するアノドフィリックの集団を含んでいる。したがって、例えば、リアクターは、陽極がそこでキャリヤーとして用いられる固定されたフィルム状のリアクターとして配置されていてもよい。
【0026】
生体触媒による電気分解による水素産生のためのリアクター装置の模式図を図1に示す。リアクターは、陽極3を備えた陽極コンパートメント2、および陰極5を備えた陰極コンパートメント4を有するリアクターセル1を含んでなる。陽極は、易生体酸化性物質のための液体流入口6、液体流出口7および二酸化炭素ガス排気口8を有する。陰極コンパートメントは、水素ガス排気口9を有する。陽極および陰極コンパートメントは膜10によって隔てられていてもよい。陽極および陰極は直流電源11に接続している。(溶解した)易生体酸化性物質が6を介して流入し、陽極での生体触媒による反応後、廃液(この時点でその易生体酸化性物質含量は少なくなっている)が7から排出される。陽極と陰極の間に適正な電圧がかかっているならば、易生体酸化性物質は陽極で消費され、水素ガスが陰極で発生し、排気口9から回収する。同時に、二酸化炭素ガスが陽極で発生し、排気口8から回収する:図面は単なる概略図であって、寸法を示すものでもさらなる部品または変更を制限するものではないことを強調しておく。
【0027】
2モードの態様では、水素産生モードと発電モードは、以下に記載するように、関連するバルブとコネクタ類の簡単な操作によって活性化することができる。アノドフィリック細菌集団が劣化しないように、好ましくは、発電モードは3日間、より好ましくは24時間を超えて連続使用しない。好ましくは、水素産生モードの活性化時間と発電モードの活性化時間との比率は1:4〜4:1の間であり、より好ましくは2:3〜3:2である。例えば、4〜12時間の発電ステージの間に1または2回の4〜12時間の水素産生ステージを設けた24時間周期が非常に適切な計画である。水素産生(=電力消費)は通常の電力消費が少ない時間帯(特に夜間)に行い、その逆を発電に適用するのが有利である。
【0028】
本発明の2モードリアクターの概略図を添付の図2に示す。図1と図2に示した同様の部品は同じ番号で示す。リアクターは、陽極3を備えた陽極コンパートメント2、陰極5を備えた陰極コンパートメント4、易生体酸化性物質のための液体流入口6、バルブ19を備えた液体排出口7、および二酸化炭素ガス排気口8を有する、リアクターセル1を含んでなる。陰極コンパートメントは、バルブ13を備えた酸素(空気)用吸気口12、排気ガス排気口9、バルブ15を備えた廃液流出口14を有する。陽極および陰極コンパートメントは、膜10で隔てられている。陽極と陰極は直流電源16に接続しているか、または16と17の間にスイッチ18を備えた電力消費機器17に接続している。図面は単なる概略図であって、寸法を示すものでもさらなる部品または変更を制限するものではないことを再度強調しておく。
【0029】
発電モードAでは、スイッチ18を電力消費機器17に接続する。バルブ15を閉鎖し、バルブ13および19を開放する。(溶解した)易生体酸化性物質が6を介して流入し、陽極での生体触媒による反応の後、廃液(この時点でその易生体酸化性物質含量は少なくなっている)が7から排出される。陽極の反応により発生した二酸化炭素は排気口8から除去する。プロトンは膜10を介して陰極コンパートメントへと入る。酸素(例えば空気由来)が陰極へ供給され、プロトンおよび陰極からの電子と反応して水を形成し、廃ガスが排気口9から排出される。陰極の反応により生成した過剰な水は、バルブ15を開放することにより除去することができる。
【0030】
水素産生モードBでは、スイッチ18を直流電源16に接続する。バルブ13と15を閉鎖し、バルブ19を開放する。(溶解した)易生体酸化性物質は6を介して流入し、陽極での生体触媒による反応の後、廃液(この時点でその易生体酸化性物質含量は少なくなっている)が7から排出される。陽極の反応により発生した二酸化炭素は排気口8から除去する。プロトンは膜10を介して陰極コンパートメントへと入り、そこで陰極からの電子と反応して水素ガスを形成する。陰極コンパートメントにはさらに気体を添加しない。水素ガスを排気口9から回収し、貯蔵装置(図示せず)に回収するか、または水素を消費するプロセス(図示せず)に直接用いることができる。
【0031】
膜を用いない水素産生モードB2の変法では、膜10は存在しない。但し、陽極と陰極の気相が混ざるのを防ぐために、隔離デバイス(図示せず)を両気相の間に設置する。スイッチ18を直流電源16に接続する。バルブ13および19を閉鎖し、バルブ15を開放する。(溶解した)易生体酸化性物質が6を介して流入し、陽極での生体触媒による反応の後、廃液(この時点でその易生体酸化性物質含量は少なくなっている)が14から排出される。陽極の反応により発生した二酸化炭素は排気口9から除去する。プロトンは陰極からの電子と反応して水素ガスを形成する。陰極コンパートメントにはさらに気体を添加しない。水素ガスは大部分を排気口9から回収し、貯蔵装置(図示せず)に回収するか、または水素を消費するプロセス(図示せず)に直接用いることができる。
【0032】
生体触媒による電気分解プロセスは、自然温度、即ち外部からの温度制御なしで、好ましくは15〜40℃、より好ましくは25〜39℃で行う。易生体酸化性物質は、慣用的な好気的または嫌気的生物学的リアクター内で一般的に処理することができる低分子量の分解可能なまたは酸化可能な化合物を含む任意の有機のまたは無機の物質であってよく;例えば、糖類、脂肪酸、タンパク質、アルコール、一酸化炭素、硫化水素、硫黄元素などが挙げられる。
【0033】
アノドフィリックの適当な微生物集団は、特定の電子ポテンシャルを与えた状態で競争を用いることによって維持することができる。即ち、このポテンシャルの僅かな変更によって、所望の電子供与特性を有する適当なアノドフィリック微生物が効率の悪いアノドフィリック微生物に競争で勝る。
【0034】
水素ガス産生のための上記のプロセスは、電子伝達物質を用いることにより、大腸菌等のアノドフィリック微生物以外にも適用可能である。電子伝達物質は、その酸化型と還元型との間で切り替えを行うことによって電子を微生物から電極表面に輸送することが可能である。そのような電子伝達物質の例は当業者には公知であり、芳香族の酸化還元化合物またはベンジルビオロゲン、メチレンブルー、ナチュラル・レッド等の色素が挙げられる。そのような電子伝達物質は5〜500μmol/Lの濃度で用いることができる。このように、微生物から電極への電子の直接の移動ではなく、電子伝達物質を介する間接的な移動が起きる。
【0035】
実施例1.生体触媒による水素産生
生体触媒による電気分解が起こり、水素の発生が観察される条件下でリアクターを操作した。電池は、プロトン交換膜(Nafion)で隔てられた陽極コンパートメントと陰極コンパートメントから構成した。両コンパートメントに3.3リットルの液体を入れた。系の温度は30℃に管理した。陽極は、丸いグラファイトフェルト電極(Fiber Materials, Inc., スコットランド、直径240mm、厚さ3mm)で構成した。陽極コンパートメントにアノドフィリック微生物を含む生物学的燃料電池からの廃液を接種し、そこへ1g/Lの酢酸ナトリウムを含有する水溶液を継続的に流した(1.3mL/分)。操作の間、電極のpHを8.1付近にした。窒素ガスでフラッシングすることにより、陽極コンパートメントの嫌気状態を維持した。陰極は0.1Mのリン酸緩衝液(pH6.7)で満たした。角型の白金めっき白金(寸法:20×5×0.2mm)を陰極として用いた。実験を始める前に、陰極コンパートメントを窒素ガスでフラッシュして陰極電解液から酸素を除去した。電池内の電流をポテンシオスタット/ガルバノスタット(μAutolab III, Ecochemie, オランダ)を用いて2.5mAに保つ場合は、陰極で水素を発生させるためには0.3ボルトの電圧が必要であった。水素の発生は、セルを通じる電流について化学量論的であり、電流が止まるまで持続した。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】生体触媒による電気分解による水素産生のためのリアクター装置の模式図である。
【図2】本発明の2モードリアクターの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極を備え水性媒体にアノドフィリック細菌を含むリアクターに易生体酸化性物質を導入すること;
陽極と陰極の間に0.05〜1.5ボルトの電圧をかけること;
陰極から発生した水素を回収すること
による、易生体酸化性物質から水素を製造する方法。
【請求項2】
陽極と陰極の間の電圧が0.2〜0.7ボルトである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
水性媒体のpHが3〜9、好ましくは5〜8の間に維持されている、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
アノドフィリック細菌が活性汚泥/または嫌気性スラッジに由来する、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
アノドフィリック細菌が、非アノドフィリック細菌で置き換わっているかまたはこれに非アノドフィリック細菌が添加されており、電子伝達物質がリアクターに存在する、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
水素産生段階の次の段階において、電圧の適用を中断し、酸素を陰極に移動させることにより電力が発生する、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
水素産生段階と発電段階の時間の比が1:4〜4:1である、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
純粋な二酸化炭素ガスを陽極で回収する、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
陽極コンパートメント内に陽極を含み、陰極コンパートメント内に陰極を含み、プロトン透過性膜で隔離されていてもよいリアクターセルを含んでなり、液体流入口および1または2の閉鎖可能であってよい液体排出口、吸気口および閉鎖可能であってよい第2の吸気口、陽極コンパートメントに接続した排気口および陰極コンパートメントに接続した排気口、直流電源および場合により電力消費機器を含んでなる、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法を実施するのに適したリアクター。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−528709(P2007−528709A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518563(P2006−518563)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000499
【国際公開番号】WO2005/005981
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(506010035)スティヒティング・ウェットサス・センター・フォー・サステイナブル・ウォーター・テクノロジー (1)
【氏名又は名称原語表記】Stichting Wetsus Centre for Sustainable Water Technology
【Fターム(参考)】