水素ガス検出装置、及び水素ガス検出方法
【課題】水素ガスセンサに環境変動の影響があっても、高価な湿度センサ等を用いることなく適正に水素ガスを検出できる水素ガス検出装置、及び水素ガス検出方法を提供する。
【解決手段】プロトン導電層2と、プロトン導電層と触媒層3を介して接合される第一の電極層4aと、プロトン導電層と接合される第二の電極層4bとが基板10上に積層形成され、水素ガスに感応する水素ガス検知部と、水素ガス検知部に所定のモニタ電圧を印加したときに、電極層4a,4b間に流れるモニタ電流値に基づいて水素ガス検知部の環境条件を検知する環境条件検知部24と、モニタ電圧の非印加時に電極層間に発生する電圧値を、環境条件検知部により検知された環境条件に基づいて補正し、補正後の電圧値に基づいて水素ガス検知情報を出力する信号処理部26とを備える。
【解決手段】プロトン導電層2と、プロトン導電層と触媒層3を介して接合される第一の電極層4aと、プロトン導電層と接合される第二の電極層4bとが基板10上に積層形成され、水素ガスに感応する水素ガス検知部と、水素ガス検知部に所定のモニタ電圧を印加したときに、電極層4a,4b間に流れるモニタ電流値に基づいて水素ガス検知部の環境条件を検知する環境条件検知部24と、モニタ電圧の非印加時に電極層間に発生する電圧値を、環境条件検知部により検知された環境条件に基づいて補正し、補正後の電圧値に基づいて水素ガス検知情報を出力する信号処理部26とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相または液相中の水素ガス濃度を検出する水素ガス検出装置、及び水素ガス検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に代表される水素エネルギーシステムを構成するうえで、水素ガスの濃度を精度良く検出する水素ガスセンサの必要性は極めて高く、気相中或いは液相中における水素濃度を測定するにあたり、感応部に高温をかける必要がなく、且つ隔膜や電解液を不要としてこれらの劣化を防止すると共に小型軽量化を可能とすることができる水素ガスセンサが望まれている。
【0003】
特許文献1に開示されているように、このような背景の下、本願出願人は、高いプロトン導電性を示すパーフルオロスルホン酸系、パーフルオロカルボン酸系等の固体高分子電解質膜を用いた水素ガスセンサを提案している。
【0004】
当該水素ガスセンサは、固体高分子電解質で構成される基材の一方の面に触媒層を介して第一の電極層が形成され、他方の面に第二の電極層が形成されている。さらに、特許文献1では、水素ガス検知特性、特に出力の立下り特性を改善するために、当該固体高分子電解質にカーボンを添加した基材が好適に用いられることが開示されている。
【0005】
また、当該水素ガスセンサは、その出力特性に温湿度依存性が見られるため、特許文献2には、湿度や温度などの環境因子の変動に起因する出力の変化にかかわらず適正に水素ガスを検知することを目的として改良された水素ガスセンサが開示されている。
【0006】
特許文献2に記載された水素ガスセンサは、基材のインピーダンス特性を測定する測定回路と、水素ガスセンサの出力変化とインピーダンス変化の相関関係に基づいて水素ガスを検知する信号処理回路が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO/2008/093813号公報
【特許文献2】特開2009−145328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載された水素ガスセンサは、感応部に用いる固体高分子電解質膜のプロトン導電性が湿度等の変動の影響を受けて変動するため、その出力特性に環境依存性が表れ、同じ濃度の水素ガスであっても水素ガスセンサの周囲の湿度等の環境により水素ガスセンサの出力が変動し、環境変化が大きな条件下では正確に水素ガスを検知することが困難であるという問題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載された、水素による信号変化と温湿度による信号変化をインピーダンス信号の変化の仕方で切り分ける手法は、室温付近で水素のありなしを検知するガス漏れ検知器の用途等には有効であるが、広い温湿度範囲に渡って、任意の安定した状態での水素検知や水素濃度を計測する用途には充分ではなかった。
【0010】
そこで、水素ガスセンサの環境を検知するために別途温湿度センサを設けて、温湿度センサにより検知した温度や湿度に基づいてセンサ出力を補正する手立ても考えられるが、そのために高価な湿度センサや信号処理回路を備えると、水素ガスセンサのコストが上昇するという問題が生じる。
【0011】
また、湿度センサで検知された湿度と、水素ガスセンサの感応部の膜湿度とが正確に一致しないため、適正に補正することが困難であるという問題も生じる。
【0012】
本発明の目的は、上述の問題点に鑑み、水素ガスセンサに環境変動の影響があっても、高価な湿度センサ等を用いることなく適正に水素ガスを検出できる水素ガス検出装置、及び水素ガス検出方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、本発明による水素ガス検出装置の第一の特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、プロトン導電層と、前記プロトン導電層と触媒層を介して接合される第一の電極層と、前記プロトン導電層と接合される第二の電極層とが基板上に積層形成され、水素ガスに感応する水素ガス検知部と、前記水素ガス検知部に所定のモニタ電圧を印加したときに、前記電極層間に流れるモニタ電流値に基づいて前記水素ガス検知部の環境条件を検知する環境条件検知部と、前記モニタ電圧の非印加時に前記電極層間に発生する電圧値を、前記環境条件検知部により検知された環境条件に基づいて補正し、補正後電圧値に基づいて水素ガス検知情報を出力する信号処理部と、を備えている点にある。
【0014】
本願発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、基板型水素センサの水素ガス検知部に所定のモニタ電圧を印加したときに電極層間に流れる電流値が温湿度に依存して変動すること、この電流値の変動は水素ガスの影響を殆ど受けない、という新知見を得、これに基づき、水素ガス検知部に所定のモニタ電圧を印加したときに電極層間に流れるモニタ電流値により環境条件を把握することが可能になると判明した。
【0015】
一方、モニタ電圧の非印加時に電極層間に発生する電圧値は、水素ガスの有無やその濃度ばかりでなく、温湿度によって定性的に変動する特性が見られることも判明している。
【0016】
そこで、環境条件検知部によって、水素ガス検知部に所定のモニタ電圧を印加したときに電極層間に流れるモニタ電流値により環境条件を把握し、信号処理部によって、モニタ電圧の非印加時に電極層間に発生する電圧値を、モニタ電流値により把握した環境条件に基づいて補正すれば、環境条件に左右されない補正後の電圧値に基づいて正確な水素ガス検知情報を得ることができるのである。
【0017】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一特徴構成に加えて、前記環境条件検知部は、前記水素ガス検知部の環境温度を検知する温度センサを備え、前記温度センサにより検知した環境温度と前記モニタ電流値に基づいて環境湿度を導出するように構成され、前記信号処理部は、前記環境温度及び前記環境湿度に対応する補正値を生成し、生成した補正値により前記電圧値を補正した補正後電圧値に基づいて前記水素ガス検知情報を出力する点にある。
【0018】
水素ガス検知部の環境温度がそれほど大きく変動せず、水素ガス検知部の出力変動が専ら湿度変動に左右される場合には、モニタ電流値に基づいて環境湿度を把握することができるが、水素ガス検知部の環境温度も大きく変動する場合には、モニタ電流値に基づいて環境湿度及び環境温度の双方を把握することが困難になる。そのような場合であっても、温度センサによって水素ガス検知部の環境温度を検知すれば、検知した環境温度とモニタ電流値に基づいて環境湿度を導出することができるようになる。
【0019】
そして、信号処理部はモニタ電圧の非印加時に電極層間に発生する電圧値に基づいて水素ガス検知情報を生成するのであるが、当該電圧値は水素ガスの有無やその濃度ばかりでなく、温湿度によって定性的に変動するため、環境条件検知部で検知された環境温度及び環境湿度に対応して当該電圧値に対する補正値を生成し、当該補正値で温湿度による変動分を補正すれば、環境変動の影響を排除して、水素ガスの有無やその濃度を適正に求めることができるようになる。
【0020】
尚、予め環境温度及び/または環境湿度を変数として、当該環境温度及び/または環境湿度に対応する補正値を出力する相関式を求めておき、当該相関式に従って環境温度及び/または環境湿度に対する補正値を演算導出するように構成することができる。
【0021】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二特徴構成に加えて、前記信号処理部は、前記環境条件に対応する補正値が規定された補正値テーブルを備え、前記補正値テーブルから導出された補正値により前記電圧値を補正した補正後電圧値に基づいて前記水素ガス検知情報を出力する点にある。
【0022】
水素ガス検知部の環境温度がそれほど大きく変動せず、水素ガス検知部の出力変動が専ら湿度変動に左右される場合には、モニタ電流値に基づいて環境湿度を把握することができる。また、水素ガス検知部の環境温度も大きく変動する場合には、モニタ電流値に基づいて環境湿度及び環境温度の双方を把握することが困難になるが、温度センサによって水素ガス検知部の環境温度を検知すれば、検知した環境温度とモニタ電流値に基づいて環境湿度を導出することができるようになる。
【0023】
そして、モニタ電圧の非印加時に電極層間に発生する電圧値が、水素ガスの有無やその濃度ばかりでなく、湿度によって定性的に変動する場合であっても、予め環境湿度及び/または環境温度に対応する補正値が規定された補正値テーブルを準備しておき、環境条件検知部によって検知された環境条件、つまり環境湿度及び/または環境温度に対応する補正値を補正値テーブルから読み出して、湿度及び/または温度による変動分を補正すれば、環境変動の影響を排除して、水素ガスの有無やその濃度を適正に求めることができるようになる。
【0024】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記モニタ電圧の印加後、前記信号処理部により前記電極層間に発生する電圧値を検知する前に、前記電極間を一時的に短絡する短絡処理部をさらに備えている点にある。
【0025】
環境条件検知部によって、所定のモニタ電圧が印加された水素ガス検知部に、モニタ電圧の印加により発生する局所的な誘電分極等の履歴が残存すると、その履歴によって、モニタ電圧の非印加時に電極層間に発生する電圧値に影響を与える虞がある。しかし、信号処理部により電極層間に発生する電圧値を検知する前に、短絡処理部によって、電極間を一時的に短絡することによりその履歴を消去することができるようになる。
【0026】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述の第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記モニタ電圧は、周波数が1KHzから1MHzの範囲の交流電圧である点にある。
【0027】
モニタ電圧として、水素ガスの影響を受け難い交流電圧を用いることが好適であり、その周波数は1KHzから1MHzの範囲が好ましく、10kHzから500kHzの範囲がより好ましい。
【0028】
同第六の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述の第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記プロトン導電層は、有機系、無機系、または有機無機ハイブリッドの電解質、それらを樹脂と複合化した電解質膜、または、イオン液体を主成分に樹脂と複合化した電解質膜で構成されている点にある。
【0029】
このような電解質を主成分とする電解質膜を有する水素ガス検知部では、湿度等の影響を受けて電解質膜のプロトン導電性が変化し、その出力電圧が変動する傾向があり、上述の第一から第五の何れかの特徴構成による水素ガス検出装置を構成する好適な対象となる。
【0030】
本発明による水素ガス検出方法の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、プロトン導電層と、前記プロトン導電層と触媒層を介して接合される第一の電極層と、前記プロトン導電層と接合される第二の電極層とが基板上に積層形成され、水素ガスに感応する水素ガス検知部に対して、前記電極層間に発生する電圧値に基づいて水素ガス検知情報を出力する水素ガス検知方法であって、前記水素ガス検知部に所定のモニタ電圧を印加したときに、前記電極層間に流れるモニタ電流値に基づいて前記水素ガス検知部の環境条件を検知する環境条件検知ステップと、前記モニタ電圧の非印加時に前記電極層間に発生する電圧値を、前記環境条件検知ステップで検知された環境条件に基づいて補正し、補正後電圧値に基づいて水素ガス検知情報を出力する信号処理ステップと、を備えている点にある。
【発明の効果】
【0031】
以上説明した通り、本発明によれば、水素ガスセンサに環境変動の影響があっても、高価な湿度センサ等を用いることなく適正に水素ガスを検出できる水素ガス検出装置、及び水素ガス検出方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a),(b)は本発明に用いる対電極基板型の水素ガスセンサの構成図
【図2】(a),(b)は本発明に用いる基板横型の水素ガスセンサの構成図、(c),(d)は本発明に用いる基板縦型の水素ガスセンサの構成図
【図3】本発明に用いる水素ガスセンサの要部の説明図
【図4】本発明による水素ガス検出装置の回路図であり、(a)はモニタ電流測定モードの回路図、(b)は短絡モード時の回路図、(c)は電圧測定モード時の回路図
【図5】(a)はモニタ電流値の温湿度特性図、(b)は温度センサを備えた場合の水素ガス検出装置の回路図、(c)は水素ガスセンサの出力電圧の説明図
【図6】(a)は水素ガスセンサのベース電圧Vbの温湿度特性を示す等電圧線グラフ、(b)は水素ガスセンサの信号電圧Vpの温湿度特性図
【図7】実験例1による水素ガスセンサの構造を示す断面図
【図8】実験例1による水素ガスセンサの特性を示し、(a)は出力電圧の温度依存性を示す特性図、(b)はモニタ電流値の温湿度特性図、(c)はモニタ電流値の等電流線グラフ
【図9】実験例1による水素ガスセンサの特性を示し、(a)はベース電圧Vbの温湿度特性を示す等電圧線グラフ、(b)は信号電圧Vpの温湿度特性図
【図10】実験例2による水素ガスセンサの特性を示し、(a)は出力電圧の温度依存性を示す特性図、(b)はモニタ電流値の温湿度特性図、(c)はモニタ電流値の等電流線グラフ
【図11】実験例2による水素ガスセンサの特性を示し、(a)はベース電圧Vbの温湿度特性を示す等電圧線グラフ、(b)は信号電圧Vpの温湿度特性図
【図12】実験例3による水素ガスセンサの特性を示し、(a)は出力電圧の温度依存性を示す特性図、(b)はモニタ電流値の温湿度特性図、(c)はモニタ電流値の等電流線グラフ
【図13】実験例3による水素ガスセンサの特性を示し、(a)はベース電圧Vbの温湿度特性を示す等電圧線グラフ、(b)は信号電圧Vpの温湿度特性図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明による水素ガス検出装置、及び水素ガス検出方法を説明する。
図1、図2に示すように、本発明に用いられる基板形の水素ガス検知部、つまり水素ガスセンサ1は、プロトン導電層2と、プロトン導電層2と触媒層3を介して接合される第一の電極層4aと、プロトン導電層2と接合される第二の電極層4bが、基板10上に積層形成されて構成されている。このような水素ガスセンサ1は、複数の態様で構成することができる。
ことができる。
【0034】
図1(a)には、基板形の水素ガスセンサの第一の態様が示されている。基板10上に離隔するように形成された第一の電極層4a及び第二の電極層4bと、第一の電極層4aに積層された触媒層3と、第二の電極層4b及び触媒層3を覆うように積層されたプロトン導電層2を備えて、対電極基板型の水素ガスセンサ1を構成することができる。
【0035】
基板10は、その上面に成膜されるプロトン導電層2を安定に保持できるものであれば、ガラス、セラミック、シリコン等の無機材料を用いた基板から、ガラスエポキシ樹脂やフェノール樹脂等の樹脂材料を用いた保形性ある基板や、ポリイミド樹脂等の樹脂材料を用いた柔軟性のあるフィルム状の基板まで様々な材料を用いて構成することができる。
【0036】
基板を構成する樹脂材料として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ナイロン、環状オレフィン、ポリエチレンスルフォネート、ポリスルフォン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ウレタン、アクリル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂(PTFE,PFA,ETFE,FEP,PVDF等)等が例示できる。
【0037】
プロトン導電層2として、有機系電解質である固体高分子電解質を採用することができ、高いプロトン導電性を有するパーフルオロスルホン酸系、パーフルオロカルボン酸系等のパーフルオロ系高分子や、Poly(styrene-ran-ethylene),sulfonated等のpartially sulfonated styrene-olefin copolymerでなる炭化水素系固体高分子電解質膜を採用することが好ましく、ナフィオン(デュポン社登録商標:NAFION)やアシプレックス(旭化成株式会社登録商標:ACIPLEX)等が好適に使用できる。このような固体高分子電解質溶液を基板10上にキャスティングすることによりプロトン導電層2を形成することができる。
【0038】
また、プロトン導電層2として、イオン液体を主成分とし、イオン液体と樹脂の混合物を硬化処理した固体イオン導電体を用いることも可能である。固体イオン導電体は、光硬化樹脂、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の何れかにイオン液体を混合した後に硬化処理されて得られる。
【0039】
イオン液体として、イミダゾリウム系イオン、ピリジニウム系イオン、脂肪族アミン系イオン、脂環式アミン系イオン、脂肪族ホスホニウム系イオンの何れかから一種または複数種選択されるカチオン部位と、ハロゲンイオン、ハロゲン系イオン、ホスフォネート系イオン、ホウ酸系イオン、トリフラート系イオンの何れかから一種または複数種選択されるアニオン部位を有するものが好適に選択できる。
【0040】
光硬化樹脂としてメチルメタクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、不飽和ポリエステル樹脂、ジアゾ樹脂、アジド樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。ここで、光硬化樹脂とは、紫外線硬化樹脂、可視光硬化樹脂、電子ビーム硬化樹脂を含む広い概念を意味するものである。イオン液体と光硬化樹脂を攪拌混合して膜状に成形した後に紫外線等を照射することにより膜状の固体イオン導電体が得られる。
【0041】
熱硬化性樹脂として、ポリイミド、ポリアミドイミド、エポキシ、ウレタン、シリコーン樹脂等を用いることができる。イオン液体と熱硬化樹脂と反応剤を攪拌混合した後に膜状に成形して加熱処理することにより膜状の固体イオン導電体が得られる。
【0042】
熱可塑性樹脂として、フッ素系樹脂(PTFE,PFA,ETFE,FEP,PVDF等)、ナイロン、環状オレフィン、ポリエチレンスルフォネート、ポリスルフォン等を用いることができる。特に撥水性があり耐熱性の高いフッ素樹脂が好適であり、中でもPVDF(ポリビニリデンフロライド)やその共重合体等の樹脂を好適に用いることができる。イオン液体と高温で溶融状態にある熱可塑性樹脂とを攪拌混合した後に膜状に成形して冷却処理することにより膜状の固体イオン導電体が得られる。
【0043】
何れの場合にも、樹脂にイオン液体を混合して攪拌する混合工程と、混合工程で攪拌混合処理されたイオン導電体を基板10上に滴下してキャスティングする工程と、キャスティングされたイオン導電体を硬化させる硬化処理工程により成膜される。
【0044】
さらに、プロトン導電層2として、有機無機複合電解質を採用することも可能である。有機無機複合電解質は、ゾルゲル法等により、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ等のセラミック中に、必要に応じて有機物を残存させながら、各種の有機系や無機系の電解質をナノ分散させたものである。有機系の電解質としては、尿素、ポリエチレンオキシドやパーフルオロスルホン酸系ポリマー等の高分子電解質が挙げられる。また、無機系の電解質としては、リン酸や硫酸等の各種の酸やアルカリの塩、イオン導電性のガラスやセラミックス等が挙げられる。
【0045】
特に、ゾルゲル法により尿素とシリカアルコキシドから作製される尿素系シリカ複合電解質や、ゾルゲル法によりリン酸とシリカアルコキシドから作製されるホスホシリケート(P2O5-SiO2)ゲルでなる複合電解質、または、これらの電解質を高分子中に分散させた複合固体高分子電解質を好適に採用することができる。
【0046】
これらの有機無機複合電解質はゾル-ゲル法によって作製される。例えば酸性縮合触媒を含む水とシリカアルコキシドとを混合してシリカアルコキシドを部分加水分解した溶液に、無機電解質を添加し混合して、さらに加水分解及び縮合を行わせることでゾル液が得られる。このようにして得られた有機無機複合電解質のゾル溶液を製膜対象に滴下し、溶媒を乾燥させた後所定の熱処理を行うことにより、有機無機複合電解質ゲル膜が得られ、上述のプロトン導電層2を形成することができる。
【0047】
また、このようにして得られた有機無機複合電解質ゲル膜は、その脆さに起因して耐衝撃性が劣ることや、高温高湿条件等では無機電解質が結露水に溶けてゲルから脱離しやすいため耐水性が悪いという問題がある。そのため、有機無機複合電解質ゲルを粉末化して高分子成分と複合化することにより、耐衝撃性や耐水性を高めることができ、さらには、任意のサイズの膜状に容易に加工することができるようになる。そのような高分子成分としては、特に限定されず上述した熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、UV硬化樹脂等を用いることができる。
【0048】
例えば、ビニリデンフロライド(VdF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるVdF−HFP共重合樹脂(カイナー#2801、アルケマ製:HFP11モル%)を、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解させ、所定の固形分濃度の溶液を調製し、この溶液と有機無機複合電解質ゲルをDMAC(ジメチルアセトアミド)溶媒に攪拌混合して複合高分子電解質溶液を得、この複合高分子電解質溶液を基板や金型等の製膜対象に滴下して、乾燥させることにより上述のプロトン導電層2を形成することができる。
【0049】
触媒層3は、水素ガスと接触することにより触媒機能を持つ金属等でなる触媒3aがプロトン導電層2の上面に担持されて構成されている。
【0050】
触媒3aとして、白金Ptまたは白金合金が好適に用いられるが、その他に、金Au、銀Ag、イリジウムIr、パラジウムPd、ルテニウムRu、オスミウムOs、コバルトCo、ニッケルNi、タングステンW、モリブデンMo、マンガンMn、イットリウムY、バナジウムV、ニオブNb、チタンTi、希土類金属、から選択される少なくとも一種を含む金属を用いることができる。
【0051】
金属触媒に代えてモリブデンカーバイドMo2C等の炭化物、ジルコニア酸化物やタンタル酸化物等の酸化物を用いることも可能である。
【0052】
これらの触媒3aは一種類を単独で用いてもよいし、複数を併用してもよく、これらの一部または全部を合金形態で使用してもよい。
【0053】
また、水素ガスと接触することにより触媒活性を有する有機金属または有機物でなる触媒3aを用いることも可能である。このような有機金属触媒として、例えば、N,N’-Bis(salicylidene)ethylene-diamino-metal(=Ni, Fe, Vなど)、N,N’-mono-8-quinoly-σ-phenylenediamino-metal(=Ni, Fe, Vなど)等を用いることができ、有機物としては、例えばピロロピロール赤色顔料、ジピリジル誘導体を用いることができる。
【0054】
触媒層3は、スパッタリング、真空蒸着、電子照射、CVD、PVD、含浸、スプレーコート、スプレー熱分解、練りこみ、吹き付け、ロールやコテによる塗り付け、スクリーン印刷、混錬法、光電解法、コーティング法、ゾルゲル法、ディップ法等を採用して形成することができる。
【0055】
特に、スパッタリングで触媒層3を形成することが好ましい。スパッタリングの処理時間は90秒未満が好ましく、さらに60秒以下とすることがより好ましい。また、スパッタリングの際のDC、RF出力値は特に制限されないが、1.2W/cm2以上とすることが好ましい。
【0056】
第二電極4bは、特に通気性を必要とせず、銅、アルミニウム、ステンレス等の金属やカーボン素材を用いることも可能であるが、高湿度下でも腐食しない材料を選択することが望ましい。このような電極層は、塗布、スクリーン印刷、メッキ、スパッタリング、真空蒸着等公知の膜形成法により基板10上に形成することができる。
【0057】
第一電極4aは、この態様の場合には、特に通気性を有する材料である必要はなく、第二の電極層4bと同じ材料で構成することも可能である。尚、水素ガスはプロトン導電層2を通過して触媒層3に接触する。
【0058】
第一の電極層4aと第二の電極層4bの何れかを基板10と兼用することも可能である。この場合、図1(b)に示すように、他方の電極層4bは絶縁層4cを介して基板10上に積層する必要がある。
【0059】
上述した水素ガスセンサ1は、基板10上にスクリーン印刷等により第一の電極4aと第二の電極層4bを形成する工程と、その第一の電極4aの上部に触媒3aを担持させて触媒層3を形成する工程と、触媒層3と第二の電極層4bを覆うように、それらの上部にプロトン導電層2を形成する工程と、各工程を経た積層体を所定のサイズに切断する工程により製造される。
【0060】
図2(a)には、基板形の水素ガスセンサの第二の態様が示されている。基板10上に形成されたプロトン導電層2と、プロトン導電層2の上面に離隔するように積層された触媒層3及び第二の電極層4bと、触媒層3に積層された第一の電極層4aを備えて、基板横型の水素ガスセンサ1を構成することができる。
【0061】
この場合、第一の電極層4aは通気性を備える必要がある。第一電極4aは、水素ガスが触媒層3に接触するように、通気性を備えた材料で構成する必要があり、カーボンペーパー、カーボン繊維不織布等を好適に用いることができる。さらには、多数の細孔が形成された銅ニッケル合金薄膜や、良好な導電性を備えた金属ポーラス焼結体で構成することも可能である。第二の電極層4bは通気性を備える必要はない。
【0062】
図2(b)に示すように、基板10に水素ガスセンサ1の出力を取り出す配線パターン5a,5bを形成して、各電極層4a,4bと配線パターン5a,5bがそれぞれ接続されるように、各電極層4a,4bを構成することも可能である。
【0063】
図2(c)には、基板形の水素ガスセンサの第三の態様が示されている。基板10上に形成された第二の電極層4bと、第二の電極層4bに積層されたプロトン導電層2と、プロトン導電層2に積層された触媒層3と、触媒層3に積層された第一の電極層4aとを備えて基板縦型の水素ガスセンサ1を構成することができる。
【0064】
この場合、第一の電極層4aは、第二の態様の場合と同様に、通気性を備える必要がある。第二の電極層4bは通気性を備える必要はない。
【0065】
また、図2(d)に示すように、基板10と第二の電極層4bを兼用して、ステンレス等の金属製の基板10(4b)で構成することも可能である。この金属基板も、少なくとも電解質膜との界面部分は、高湿度下でも腐食しない材料を選択することが望ましい。
【0066】
第二及び第三の態様の水素ガスセンサについても、電極層4a,4b、プロトン導電層2、触媒層3の組成や材料、製造プロセスはほぼ同様である。
【0067】
また、電極層4aの表裏何れかの面にカーボンペーパーやカーボン不織布等でなるガス拡散層を設けると、水素ガスが均等に触媒層3と接触できるようになり、感度が向上する。さらに、電極層4aと触媒層3との間、または電極層4bとプロトン導電層との間にカーボンペーパーやカーボン不織布等でなるガス拡散層を介在させることにより、電極層4a,4bの耐食性が向上する。
【0068】
本発明による水素ガスセンサ1は、触媒層3を電極層4aと兼用することも可能である。例えば、電極層4aを触媒である白金等の触媒金属を用いて構成することができる。この場合、他方の電極層4bは白金とは水素分解反応の活性が異なる種類の電極を用いることが好ましい。
【0069】
第二の態様及び第三の態様の水素ガスセンサ1では、触媒層3側の電極4aに水素ガスが流入すると、触媒の作用により水素が水素イオンと電子に分解され、水素イオンは電解質膜中に拡散して電子と分離されるので、電子が留まる電極4aが電極4bに対して負電位になる。また、第一の態様の水素ガスセンサ1では、プロトン導電層2を介して触媒層3に水素ガスが流入すると、触媒の作用により水素が水素イオンと電子に分解され、水素イオンは電解質膜中に拡散して電子と分離されるので、電子が留まる電極4aが電極4bに対して負電位になる。
【0070】
つまり、触媒層3が形成された側の電極4aが負極となる。このとき水素ガス濃度と相関関係を有する電圧値を信号処理回路で検出することにより水素ガス濃度を検出することができる。この電圧値は、水素分解反応(式1)の平衡電極電位による起電力であり、これがネルンストの式で表される(式2)ことから、水素ガス濃度に依存していると推測される。
【0071】
式1 H2 ⇔ 2H+ + 2e−
式2 E = Eo + (RT/nF)lna
但し、Eoは標準電極電位、Rは気体定数、Tは温度(K)、nは移動電子数、Fはファラディ定数、aは活量(a=γ・c)、cは水素ガス濃度である。
【0072】
また、本センサのモニタ電流値が水素濃度の影響を受けにくいのは、モニタ電圧印加により強制的に流される電流が、水素ガスの分解反応より生成される電子による電流に較べてはるかに多いためと推測される。このため、触媒層がセンサの表面に露出しない対電極基板型の態様が最も好適である。
【0073】
触媒層3と第二の電極層4bの界面の面積を増やして水素の分解反応と水素イオンのプロトン導電層への拡散を促進することにより、水素ガス検出能を向上させることができる。そのため、図3に示すように、第一の態様及び第二の態様の水素ガスセンサ1では、第一の電極層4a及び触媒層3と、第二の電極層4bの端縁がそれぞれ櫛歯状に形成され、一方の櫛歯の間隙に他方の櫛歯が位置するように積層されることが好ましい。
【0074】
以上説明した水素ガスセンサ1に被検知ガスを曝気すると、被測定ガスに水素ガス成分が含まれていない場合には一定のベース電圧が出力され、被検知ガスに水素ガス成分が含まれている場合には、ベース電圧から水素ガス濃度に応じた電圧上昇が現れる。この電圧上昇分を信号電圧とすれば、信号電圧によって水素ガス濃度を把握することができる。
【0075】
しかし、上述した固体高分子電解質やイオン液体等によるプロトン導電層は、湿度等の環境変動の影響を受けてプロトン導電性が変動するため、同じ濃度の水素ガスであっても水素ガスセンサの周囲の湿度等の環境により水素ガスセンサの出力が変動し、正確に水素ガスを検知することが困難になる場合がある。例えば、湿度が高くなるとプロトン導電性が高くなり、水素ガスセンサの出力電圧が低下する。
【0076】
そこで、図4に示すように、本発明による水素ガス検出装置20は、水素ガス検知部である水素ガスセンサ1と、水素ガスセンサ1の電極層4a,4bに抵抗Rを介して所定のモニタ電圧を印加する電源部Vacと、オペアンプまたはトランジスタ素子を備えた増幅回路AMPと、増幅回路AMPへの入力信号を切り替えるスイッチ回路SWと、増幅回路AMPの出力信号を入力して所定の演算処理を実行する演算部22と、当該演算部22による演算結果を表示する表示部30を備えている。
【0077】
演算部22はCPU,ROM,RAM等を備えたマイクロコンピュータやFPGA等の論理回路を備えて構成されている。電源部Vacは、周波数が1KHzから1MHzの範囲の所定周波数で、数ボルトの交流電圧を出力する交流電源である。
【0078】
演算部22は、水素ガスセンサ1の電極層4a,4bに電源部Vacから所定のモニタ電圧を印加したときに、電極層4a,4b間に流れるモニタ電流値に基づいて水素ガス検知部の環境条件を検知する環境条件検知部24と、モニタ電圧の非印加時に電極層4a,4b間に発生する電圧値を、環境条件検知部24により検知された環境条件に基づいて補正し、補正後の電圧値に基づいて水素ガス検知情報を出力する信号処理部26と、モニタ電圧の印加後、信号処理部26により電極層4a,4b間に発生する電圧値を検知する前に、電極4a,4b間を一時的に短絡する短絡処理部28として機能する。
【0079】
図4(a)に示すように、環境条件検知部24は、増幅回路AMPの一方の入力端子と水素ガスセンサ1の電極層4bとを接続するようにスイッチ回路SWを切り替えて、電源部Vacを駆動して水素ガスセンサ1の電極層4a,4b間に約3V,100KHzの交流電圧を印加する。環境条件検知部24は、このときに水素ガスセンサ1に流れる電流を抵抗Rを介して電圧変換し、増幅回路AMPで増幅した電圧値を入力してモニタ電流値を測定すると、その後電源部Vacを停止する。
【0080】
図5(a)には、40℃から80℃の温度範囲、及び、40%RHから80%RHの湿度範囲で、水素ガスセンサ1に上述のモニタ電圧を印加したときに計測される電流値の温湿度依存性の一例を示す等電流線グラフが示されている。
【0081】
温度湿度共に低い領域R1では0〜0.2mAのモニタ電流値が示され、領域R2では0.2〜0.4mAのモニタ電流値が示され、領域R3では0.4〜0.6mAのモニタ電流値が示され、温度湿度共に高い領域R4では0.6〜0.8mAのモニタ電流値が示されている。この例では、モニタ電流値は温度が上昇するに連れて、また、湿度が上昇するに連れて上昇する傾向があることが判る。
【0082】
この特性は、プロトン導電層を構成する材料毎に固有の特性であり、水素ガスの存在下でも非存在下でも、その影響を受けずほぼ同様の特性が現れる。従って、温度または湿度の一方が特定されると、この特性から他方の値が求まる。環境温度が一定の場合にはこの特性から湿度が求まり、環境湿度が一定の場合にはこの特性から温度が求まる。
【0083】
また、温度、湿度の何れも不明の場合には、水素ガスセンサの環境温度を検知する温度センサを水素ガスセンサに組み込むことにより温度を検知し、検知した温度と上述のモニタ電流値の特性に基づいて湿度を求めることができる。温度センサは、湿度センサよりも安価で且つ正確な値を検知可能であるため、湿度センサを水素ガスセンサに組み込むよりも好ましい態様となる。
【0084】
図5(b)には、水素ガスセンサ1の環境温度を検知する温度センサTSを備え、温度センサTSにより検知した環境温度とモニタ電流値に基づいて環境湿度を導出する回路構成が示されている。直流電源とグランド間に接続されたサーミスタや熱電対等でなる温度センサTSと抵抗R1との直列回路の分圧が増幅器AMP1で増幅されて演算部22に入力される。尚、水素ガスセンサ1の環境温度に変動がそれほど大きくない場合には、温度センサTSを特に設ける必要は無い。
【0085】
図4(b)に示すように、環境条件検知部24によるモニタ電流の測定後、信号処理部26が電極層4a,4b間に発生する電圧値を検知する前に、短絡処理部28は、電極層4a,4b間を一時的に短絡するように、スイッチ回路SWを切り替える。
【0086】
モニタ電圧の印加により発生する局所的な誘電分極等の履歴が残存すると、その履歴によって、モニタ電圧の非印加時に電極層間に発生する電圧値に影響を与える虞があるため、電極間を一時的に短絡することによりその履歴を消去するのである。尚、この処理は必ずしも必須ではないが、出力電圧の安定化のために有効である。
【0087】
図4(c)に示すように、その後、信号処理部26は、増幅回路AMPの反転入力端子と水素ガスセンサ1の電極層4aとを接続するようにスイッチ回路SWを切り替えて、電極層4a,4b間に発生する電圧値を検知する。
【0088】
図5(c)には、水素ガスを含む被測定ガスが曝気された水素ガスセンサ1の応答特性が実線で示されている。被測定ガスに水素ガスが含まれていないときには、ほぼ一定のベース電圧Vbが出力され、被測定ガスに水素ガスが含まれていると、ベース電圧Vbから水素ガス濃度に応じて出力電圧Voが上昇する。出力電圧Voからベース電圧Vbを引いた値が水素ガス濃度に応じた信号電圧Vpになる。
【0089】
しかし、図5(c)中、破線で示されるように、水素ガスセンサ1の環境条件である温度または湿度が変動すると、ベース電圧が上方または下方にシフトし、信号電圧も変動する。このときのベース電圧がVb´で、信号電圧がVp´で示されている。
【0090】
図6(a)には、40℃から80℃の温度範囲、及び、40%RHから80%RHの湿度範囲で、水素ガスセンサ1の電極層4a,4b間で計測されるベース電圧Vbの温湿度依存性の一例を示す等電圧線グラフが示されている。
【0091】
領域R1では1〜1.1Vのベース電圧Vbが示され、領域R2では1.1〜1.2Vのベース電圧Vbが示され、領域R3では1.2〜1.3Vのベース電圧Vbが示されている。このことから、ベース電圧Vbは、40℃の低温時であっても、40%RHの低湿度時または80%RHの高湿度時には、60%RHの中湿度時よりも低い値となり、湿度が40%RHから60%RHの間で温度が60℃から80℃の一定の領域で比較的高い値を示す傾向があることが判る。
【0092】
また、図6(b)には、空気ベースで100ppmから10000ppmの水素ガス濃度に対して、40℃から80℃の温度範囲、及び、40%RHから80%RHの湿度範囲で、水素ガスセンサ1の電極層4a,4b間で計測される信号電圧Vpの温湿度依存性の一例を示す特性図が示されている。
【0093】
この場合、信号電圧Vpは、異なる環境条件下であっても、共通してほぼ水素ガス濃度と正の相関関係を示し、また、同じ温度であっても湿度が上昇するとその値が低下し、同じ湿度であっても温度が上昇するとその値が上昇する傾向があることが判る。
【0094】
これらの特性に基づいて、信号処理部26は、電極層4a,4b間に発生する出力電圧Voを環境条件検知部24によって検知された環境条件、つまり温度及び湿度に基づいて補正することにより、正確な水素ガス検知情報を算出して表示部30に出力する。水素ガス検知情報とは、例えば水素ガスの有無情報、濃度情報等である。
【0095】
具体的には、予め環境温度T及び/または環境湿度Hを変数として、当該環境温度及び/または環境湿度に対応するベース電圧Vbの補正値Cvbを出力する相関式
Cvb=F(T,H)
を求めておき、当該相関式に従って環境温度T及び/または環境湿度Hに対する補正値Cvbを演算導出する。当該補正値は、環境温度T及び/または環境湿度Hに対するベース電圧Vbとなり、出力電圧Voから補正値を減算することにより信号電圧Vpが求まる。
【0096】
また、信号処理部26に予め環境条件に対応する補正値Cvbが規定された補正値テーブルをメモリに記憶しておき、補正値テーブルから当該環境温度T及び/または環境湿度Hに対応する補正値Cvbを演算導出してもよい。
【0097】
さらに、信号処理部26は、図6(b)で説明したような、水素ガス濃度と信号電圧Vpの温湿度に依存した相関関係を示すテーブルデータを予めメモリに記憶しておき、補正値Cvbで補正された後の補正信号電圧Vpと環境温度T及び/または環境湿度Hから当該相関テーブルデータに基づいて水素ガス濃度を演算導出する。
【0098】
尚、相関テーブルデータに替えて、予め補正後信号電圧Vpと環境温度T及び/または環境湿度Hを変数として水素ガス濃度Chを算出する相関式
Ch=G(Vp,T,H)
を求めておき、補正後信号電圧Vpと環境温度T及び/または環境湿度Hに基づいて、相関式から水素ガス濃度を演算導出するように構成してもよい。
【0099】
つまり、本発明による水素ガス検知方法は、水素ガスセンサ1に所定のモニタ電圧を印加したときに、電極層4a,4b間に流れるモニタ電流値に基づいて水素ガスセンサ1の環境条件を検知する環境条件検知ステップ(モニタ電流値測定モード)と、モニタ電圧の非印加時に電極層間に発生する電圧値を測定し、環境条件検知ステップで検知された環境条件に基づいて補正し、補正後電圧値に基づいて水素ガス検知情報を出力する信号処理ステップ(電圧測定モード)とを備えている。
【0100】
尚、上述した例では、水素ガスセンサの環境が40℃から80℃の温度範囲、及び、40%RHから80%RHの湿度範囲である場合を例に説明したが、温度範囲及び湿度範囲はこの範囲に限るものではなく、さらに広い範囲で補正することも可能であることはいうまでもない。
【0101】
信号電圧Vpが温湿度によってそれほど変動しない場合には、出力電圧Voから温湿度に基づいて補正したベース電圧Vbを減算した値を真の信号電圧Vpとして水素ガス検出情報を演算導出することも可能である。
【0102】
以上説明した水素ガス検出装置は、大気中のみならず、酸素が存在しない環境下であっても、選択的に水素ガスを適切に検出することができる。
【実施例】
【0103】
以下、実施例を説明する。
〔実験例1〕
<白金対電極基板の形成>
上面に電極となる白金をスパッタリング成膜したポリイミドフィルム(東レデュポン製 厚み30μm)を1mm幅に短冊状にカットし、カットした短冊状のポリイミドフィルム2本を、厚み188μmの白PET(東レ ルミラーU2)フィルム基板の上に、0.5mm間隔に粘着材で貼り付け固定した。
【0104】
<触媒層の形成>
片方の白金電極自体を触媒層と兼用し、他方の白金電極の上に、カーボンペースト(アサヒ化学研究所製 FTU-30)を専用溶剤で希釈して塗布し、熱風循環オーブンで100℃、1時間乾燥してカーボン電極を形成した。
【0105】
<電解質膜の形成>
次に、エポキシアクリレート紫外線硬化樹脂(日本ユピカ製ネオポール8318)とイオン液体(第一工業製薬製IL110)を重量比2:1の割合で混合し攪拌脱泡して複合型高分子電解質溶液を作製した。これを上記の対電極基板に2つの電極を覆うように塗布し、紫外線照射して硬化成膜し、固体高分子電解質による水素ガスセンサを形成した。得られた対電極基板型の水素ガスセンサの断面図を図7に示す。
【0106】
<水素ガス応答性の評価>
得られた水素ガスセンサを恒温恒湿槽に設置して、所定の複数の温湿度条件で安定させた後に、槽内の温湿度に調湿した空気ベースの水素ガスをセンサに当てて、水素ガスセンサ素子の白金電極とカーボン電極の間の電位差をデジタルマルチメータ(岩通製VOAC7411)で測定した。
【0107】
センサ表面に4000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスと空気を500mL/分の流量で、30秒間隔で交互に曝気する操作を繰り返して、水素ガスの接触による電圧変化を測定する実験を、温度40〜80℃、湿度40〜80%RHの間で温湿度条件を変えて複数回行なった。
【0108】
図8(a)には、測定結果が示されている。水素ガスセンサの出力電圧Voは、水素ガスを供給すると上昇し、水素ガスの供給を停止すると低下する傾向が見られるが、温湿度によってベース電圧Vbと信号電圧Vpが変動し、その温湿度依存性が大きいことが判る。
【0109】
<モニタ電流値Iacの測定>
次に、水素ガスセンサの電極層間にモニタ電圧を印加するための交流電源を接続するとともに、電極層間に流れるモニタ電流値Iacを測定するために、一方の電極層とグランドの間に抵抗を直列接続し、抵抗の両端にデジタルマルチメータ(岩通製VOAC7411)を接続する。そして、上記と同様にして、水素ガスセンサを恒温恒湿槽内で所定の温湿度条件で安定させた後に、槽内の温湿度に調湿した空気ベースの水素ガスを水素ガスセンサに曝気しつつ、水素ガスセンサの電極層間に交流電源から3V,100KHzの交流電圧を印加し、交流のモニタ電流値として抵抗の電圧をデジタルマルチメータで測定した。
【0110】
具体的には、水素ガスセンサの表面に4000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスと空気を500mL/分の流量で、30秒間隔で曝気と曝気停止を交互に行なう操作を繰り返して、水素ガスの接触によるモニタ電流値Iacの変化を測定する実験を、温度40〜80℃、湿度40〜80%RHの間で温湿度条件を変えて複数回行なった。水素ガスセンサに水素ガスを曝気するとモニタ電流値Iacが僅かに変化するが、その影響は小さいことも判明した。
【0111】
図8(b),(c)には、測定結果が示されている。これによれば各温湿度条件で測定されたモニタ電流値Iacは、その温度や湿度が上がるに連れて上昇する傾向が見られ、大きな温湿度依存性を示すこと、これより本センサが良好な温湿度センサとして利用できることが判る。尚、図8(c)は、40℃から80℃の温度範囲、及び、40%RHから80%RHの湿度範囲で、水素ガスセンサにモニタ電圧を印加したときに計測されるモニタ電流値Iacの温湿度依存性を示す等電流線グラフである。
【0112】
即ち、温度変動が少なくほぼ一定温度であれば、モニタ電流値に基づいて水素ガスセンサの湿度を求めることができる。温度変動が無視できない場合には、水素ガスセンサに温度センサを別途設けて、当該温度センサによる検知温度とモニタ電流値に基づいて水素ガスセンサの湿度を求めることができる。尚、実験では、温度センサを水素ガスセンサの近傍に配置したが、水素ガスセンサの基板等に組み込むように構成することが好ましい。
【0113】
<水素濃度検出特性の温湿度依存性の評価>
モニタ電流値の測定が終了するとモニタ電圧の印加を停止し、センサの電極層間を短絡してリフレッシュした後に、センサの電極層間に発生する電圧を測定する。
既に説明したように、水素ガスセンサの出力電圧Voは、水素ガスに応答せず、温湿度のみに依存して変動するベース電圧Vb成分と、水素ガスに応答して変化するとともに温湿度に依存して変動する信号電圧Vp成分が重畳した値(Vo=Vb+Vp)となる。
【0114】
図9(a)には、上述した<水素ガス応答性の評価>で得られた温湿度依存性データ(図8(a))から生成したベース電圧Vbの温湿度依存性を示す等電圧線グラフが示されている。当該等電圧線グラフから、上述した<モニタ電流値の測定>で得られた温度及び湿度に対応するベース電圧Vbが補正値として求まる。本水素ガスセンサでは、ベース電圧Vbは温湿度にあまり影響されず、ほぼ一定の値になった。水素ガスセンサの出力電圧Voから補正値として求まったベース電圧Vbを減算すれば、信号電圧Vpが得られる。
【0115】
上述した<水素ガス応答性の評価>と同様に、水素ガスセンサを恒温恒湿槽に設置して、所定の複数の温湿度条件で安定させた後に、槽内の温湿度に調湿した空気ベースの水素ガスをセンサに当てて、水素ガスセンサ素子の白金電極とカーボン電極の間の電位差をデジタルマルチメータ(岩通製VOAC7411)で測定した。
【0116】
センサ表面に400,4000,1000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスと空気を500mL/分の流量で、30秒間隔で交互に曝気する操作を繰り返して、水素ガスの接触による電圧変化を測定する実験を、温度40,80℃、湿度40,80%RHのそれぞれを組み合わせた複数の温湿度条件で複数回行なった。
【0117】
図9(b)には、出力電圧Voから信号電圧Vpのみを取り出した測定結果が示されている。信号電圧Vpは、基本的に水素濃度が上がるほど上昇する特性が見られるが、温湿度の影響を受けて変動する。具体的に、信号電圧Vpは温度が上がると上昇し、湿度が上がると低下する傾向が見られる。
【0118】
従って、予め複数の温湿度条件での信号電圧Vpを把握しておけば、<モニタ電流値の測定>で得られた温度及び湿度に対応した信号電圧Vpが一意に定まり、適正な水素ガス濃度が求まる。
【0119】
〔実験例2〕
<白金対電極基板の形成>
実験例1と同様である。
<触媒層の形成>
実験例1と同様である。
<電解質膜の形成>
固体高分子電解質としてPVDF(ポリビニリデンフロライド)とイオン液体の複合体膜を形成した。ビニリデンフロライド(VdF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるVdF−HFP共重合樹脂(カイナー#2801、アルケマ製:HFP 11モル%)200gを、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)800gに溶解させ、固形分濃度20重量%の溶液Aを調製した。
【0120】
この溶液A5gとイオン液体(メチルエチルイミダゾリウム−ビスフルオロスルフォニルイミド:第一工業製薬製IL110)0.5g、ジメチルアセトアミド2gを加えて、攪拌混合し、複合型高分子電解質溶液を作製した。
【0121】
これを対電極基板の中央部に滴下し、膜が2つの電極を覆うように塗布し、熱風循環オーブンで140℃2時間乾燥して成膜して、固体高分子電解質による水素ガスセンサ素子を形成した。得られた水素ガスセンサは、図7と同様である。
【0122】
<水素ガス応答性の評価>
得られた水素ガスセンサを恒温恒湿槽に設置して、実験例1と同様の手順で、センサ表面に4000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスと空気を500mL/分の流量で、30秒間隔で交互に曝気する操作を繰り返して、水素ガスの接触による電圧変化を測定する実験を、温度40〜80℃、湿度40〜80%RHの間で温湿度条件を変えて複数回行なった。
【0123】
図10(a)には、測定結果が示されている。水素ガスセンサの出力電圧Voも、水素ガスを供給すると上昇し、水素ガスの供給を停止すると低下する傾向が見られるが、温湿度によってベース電圧Vbと信号電圧Vpが変動し、その温湿度依存性が大きいことが判る。
【0124】
<モニタ電流値Iacの測定>
次に、実験例1と同様に、水素ガスセンサの電極層間にモニタ電圧を印加するための交流電源を接続するとともに、電極層間に流れるモニタ電流値Iacを測定するために、一方の電極層とグランドの間に抵抗を直列接続し、抵抗の両端にデジタルマルチメータ(岩通製VOAC7411)を接続する。
【0125】
実験例1と同様に、水素ガスセンサの表面に4000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスと空気を500mL/分の流量で、30秒間隔で曝気と曝気停止を交互に行なう操作を繰り返して、水素ガスの接触によるモニタ電流値Iacの変化を測定する実験を、温度40〜80℃、湿度40〜80%RHの間で温湿度条件を変えて複数回行なった。水素ガスセンサに水素ガスを曝気するとモニタ電流値Iacが僅かに変化するが、その影響は小さいことも判明した。
【0126】
図10(b),(c)には、測定結果が示されている。これによれば各温湿度条件で測定されたモニタ電流値Iacは、その温度や湿度が上がるに連れて上昇する傾向が見られ、大きな温湿度依存性を示すこと、これより本センサが良好な温湿度センサとして利用できることが判る。尚、図10(c)は、40℃から80℃の温度範囲、及び、40%RHから80%RHの湿度範囲で、水素ガスセンサにモニタ電圧を印加したときに計測されるモニタ電流値Iacの温湿度依存性を示す等電流線グラフである。
【0127】
即ち、温度変動が少なくほぼ一定温度であれば、モニタ電流値に基づいて水素ガスセンサの湿度を求めることができる。温度変動が無視できない場合には、水素ガスセンサに温度センサを別途設けて、当該温度センサによる検知温度とモニタ電流値に基づいて水素ガスセンサの湿度を求めることができる。尚、実験では、温度センサを水素ガスセンサの近傍に配置したが、水素ガスセンサの基板等に組み込むように構成することが好ましい。
【0128】
<水素濃度検出特性の温湿度依存性の評価>
モニタ電流値の測定が終了するとモニタ電圧の印加を停止し、センサの電極層間を短絡してリフレッシュした後に、センサの電極層間に発生する電圧を測定する。
【0129】
図11(a)には、上述した<水素ガス応答性の評価>で得られた温湿度依存性データ(図10(a))から生成したベース電圧Vbの温湿度依存性を示す等電圧線グラフが示されている。当該等電圧線グラフから、上述した<モニタ電流値の測定>で得られた温度及び湿度に対応するベース電圧Vbが補正値として求まる。本水素ガスセンサでは、ベース電圧Vbは温湿度の上昇により低下する傾向が見られた。水素ガスセンサの出力電圧Voから補正値として求まったベース電圧Vbを減算すれば、信号電圧Vpが得られる。
【0130】
上述した<水素ガス応答性の評価>と同様に、水素ガスセンサを恒温恒湿槽に設置して、実験例1と同様に、センサ表面に400,4000,1000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスと空気を500mL/分の流量で、30秒間隔で交互に曝気する操作を繰り返して、水素ガスの接触による電圧変化を測定する実験を、温度40,80℃、湿度40,80%RHのそれぞれを組み合わせた複数の温湿度条件で複数回行なった。
【0131】
図11(b)には、出力電圧Voから信号電圧Vpのみを取り出した測定結果が示されている。信号電圧Vpは、基本的に水素濃度が上がるほど上昇する特性が見られるが、温湿度の影響を受けて変動する。具体的に、信号電圧Vpは温度が上がると上昇し、湿度が上がると低下する傾向が見られる。
【0132】
従って、予め複数の温湿度条件での信号電圧Vpを把握しておけば、<モニタ電流値の測定>で得られた温度及び湿度に対応した信号電圧Vpが一意に定まり、適正な水素ガス濃度が求まる。
【0133】
〔実験例3〕
<白金対電極基板の形成>
実験例1と同様である。
<触媒層の形成>
実験例1と同様である。
<電解質膜の形成>
プロトン導電層を構成する固体高分子電解質として、スルホン化スチレンエチレン共重合体の膜を形成した。スルホン化スチレンエチレン共重合体溶液(Aldrich製 Poly(styrene-ran-ethylene)、sulfonated、5wt% solution in 1-propanol)を対電極基板の中央部に1μL滴下し、膜が2つの電極を覆うように塗布し、熱風循環オーブンで80℃1時間乾燥して成膜して、固体高分子電解質による水素ガスセンサ素子を形成した。得られた水素ガスセンサは、図7と同様である。
【0134】
<水素ガス応答性の評価>
得られた水素ガスセンサを恒温恒湿槽に設置して、実験例1と同様の手順で、センサ表面に4000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスと空気を500mL/分の流量で、30秒間隔で交互に曝気する操作を繰り返して、水素ガスの接触による電圧変化を測定する実験を、温度40〜80℃、湿度40〜80%RHの間で温湿度条件を変えて複数回行なった。
【0135】
図12(a)には、測定結果が示されている。水素ガスセンサの出力電圧Voは、水素ガスを供給すると上昇し、水素ガスの供給を停止すると低下する傾向が見られるが、温湿度によってベース電圧Vbと信号電圧Vpが変動し、その温湿度依存性が大きいことが判る。特に高温低湿条件では、膜のプロトン導電性が低下するために信号電圧に歪が発生している。
【0136】
<モニタ電流値Iacの測定>
次に、実験例1と同様に、水素ガスセンサの電極層間にモニタ電圧を印加するための交流電源を接続するとともに、電極層間に流れるモニタ電流値Iacを測定するために、一方の電極層とグランドの間に抵抗を直列接続し、抵抗の両端にデジタルマルチメータ(岩通製VOAC7411)を接続する。
【0137】
実験例1と同様に、水素ガスセンサの表面に4000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスと空気を500mL/分の流量で、30秒間隔で曝気と曝気停止を交互に行なう操作を繰り返して、水素ガスの接触によるモニタ電流値Iacの変化を測定する実験を、温度40〜80℃、湿度40〜80%RHの間で温湿度条件を変えて複数回行なった。水素ガスセンサに水素ガスを曝気するとモニタ電流値Iacが僅かに変化するが、その影響は小さいことも判明した。
【0138】
図12(b),(c)には、測定結果が示されている。これによれば各温湿度条件で測定されたモニタ電流値Iacは、その温度や湿度が上がるに連れて上昇する傾向が見られ、大きな温湿度依存性を示すこと、これより本センサが良好な温湿度センサとして利用できることが判る。尚、図12(c)は、40℃から80℃の温度範囲、及び、40%RHから80%RHの湿度範囲で、水素ガスセンサにモニタ電圧を印加したときに計測されるモニタ電流値Iacの温湿度依存性を示す等電流線グラフである。
【0139】
即ち、温度変動が少なくほぼ一定温度であれば、モニタ電流値に基づいて水素ガスセンサの湿度を求めることができる。温度変動が無視できない場合には、水素ガスセンサに温度センサを別途設けて、当該温度センサによる検知温度とモニタ電流値に基づいて水素ガスセンサの湿度を求めることができる。尚、実験では、温度センサを水素ガスセンサの近傍に配置したが、水素ガスセンサの基板等に組み込むように構成することが好ましい。
【0140】
<水素濃度検出特性の温湿度依存性の評価>
モニタ電流値の測定が終了するとモニタ電圧の印加を停止し、センサの電極層間を短絡してリフレッシュした後に、センサの電極層間に発生する電圧を測定する。
【0141】
図13(a)には、上述した<水素ガス応答性の評価>で得られた温湿度依存性データ(図12(a))から生成したベース電圧Vbの温湿度依存性を示す等電圧線グラフが示されている。当該等電圧線グラフから、上述した<モニタ電流値の測定>で得られた温度及び湿度に対応するベース電圧Vbが補正値として求まる。本水素ガスセンサでは、ベース電圧Vbは温湿度の上昇により低下する傾向が見られた。水素ガスセンサの出力電圧Voから補正値として求まったベース電圧Vbを減算すれば、信号電圧Vpが得られる。
【0142】
上述した<水素ガス応答性の評価>と同様に、水素ガスセンサを恒温恒湿槽に設置して、実験例1と同様に、センサ表面に400,4000,1000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスと空気を500mL/分の流量で、30秒間隔で交互に曝気する操作を繰り返して、水素ガスの接触による電圧変化を測定する実験を、温度40,80℃、湿度40,80%RHのそれぞれを組み合わせた複数の温湿度条件で複数回行なった。
【0143】
図13(b)には、出力電圧Voから信号電圧Vpのみを取り出した測定結果が示されている。信号電圧Vpは、基本的に水素濃度が上がるほど上昇する特性が見られるが、4000ppm以上では飽和する傾向にあり、温湿度の影響を受けて変動する。具体的に、信号電圧Vpは温湿度が上がると低下する傾向が見られる。但し、80℃以上では膜が不安定になり信号電圧が歪んで正確なVp値が得られていない。
【0144】
従って、予め複数の温湿度条件での信号電圧Vpを把握しておけば、<モニタ電流値の測定>で得られた温度及び湿度に対応した信号電圧Vpが一意に定まり、適正な水素ガス濃度が求まる。
【0145】
つまり、実験例1から3の結果、本発明による水素ガス検出装置によれば、1つの水素ガスセンサに対する測定モードを、モニタ電流値測定モードと電圧測定モードとに切り替えるだけで、水素応答と温湿度応答の2つの特性を得ることができ、それにより、温湿度に依存せず環境変動を受けない安定な水素応答信号を得ることができる。
【0146】
さらに、上述の各水素ガスセンサを用いて、被検出ガスとしてメタンガス及び一酸化炭素ガスに対して同様の実験を行なったが、何れも出力の変化が現れなかった。このことから、ガス選択性も備えていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明による水素ガス検出装置は、水素ガスをエネルギー源とする燃料電池システム(定置型、車載型、モバイル型等)やその周辺設備(水素ステーション等)に極めて有用で、水素ガス漏れ検知機や水素ガス濃度計として、システム機器に組み込んで用いたり、ハンディーな携帯型ガス計測機器として用いることができる。また、水素ガスタンクや水素ガス供給管内の水素濃度の検出や漏洩検出等、酸素ガスの非存在下で水素ガス濃度を検知する必要がある場合にも好適に用いることができる。
【0148】
また、半導体製造プラントの熱処理装置での水素濃度監視や水素ガスの漏洩検知にも好適に用いることができる。例えば、水素ガス或は水素ガスと窒素ガスの混合ガスを用いた界面処理のための熱処理工程等で水素ガス濃度の監視等に用いることができる。
【符号の説明】
【0149】
1:水素ガスセンサ
2:プロトン導電層
3:触媒層
3a:触媒
4,4a,4b:電極
10:基板
20:水素ガス検出装置
22:演算部
24:環境条件検知部
26:信号処理部
28:短絡処理部
30:表示部
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相または液相中の水素ガス濃度を検出する水素ガス検出装置、及び水素ガス検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に代表される水素エネルギーシステムを構成するうえで、水素ガスの濃度を精度良く検出する水素ガスセンサの必要性は極めて高く、気相中或いは液相中における水素濃度を測定するにあたり、感応部に高温をかける必要がなく、且つ隔膜や電解液を不要としてこれらの劣化を防止すると共に小型軽量化を可能とすることができる水素ガスセンサが望まれている。
【0003】
特許文献1に開示されているように、このような背景の下、本願出願人は、高いプロトン導電性を示すパーフルオロスルホン酸系、パーフルオロカルボン酸系等の固体高分子電解質膜を用いた水素ガスセンサを提案している。
【0004】
当該水素ガスセンサは、固体高分子電解質で構成される基材の一方の面に触媒層を介して第一の電極層が形成され、他方の面に第二の電極層が形成されている。さらに、特許文献1では、水素ガス検知特性、特に出力の立下り特性を改善するために、当該固体高分子電解質にカーボンを添加した基材が好適に用いられることが開示されている。
【0005】
また、当該水素ガスセンサは、その出力特性に温湿度依存性が見られるため、特許文献2には、湿度や温度などの環境因子の変動に起因する出力の変化にかかわらず適正に水素ガスを検知することを目的として改良された水素ガスセンサが開示されている。
【0006】
特許文献2に記載された水素ガスセンサは、基材のインピーダンス特性を測定する測定回路と、水素ガスセンサの出力変化とインピーダンス変化の相関関係に基づいて水素ガスを検知する信号処理回路が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO/2008/093813号公報
【特許文献2】特開2009−145328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載された水素ガスセンサは、感応部に用いる固体高分子電解質膜のプロトン導電性が湿度等の変動の影響を受けて変動するため、その出力特性に環境依存性が表れ、同じ濃度の水素ガスであっても水素ガスセンサの周囲の湿度等の環境により水素ガスセンサの出力が変動し、環境変化が大きな条件下では正確に水素ガスを検知することが困難であるという問題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載された、水素による信号変化と温湿度による信号変化をインピーダンス信号の変化の仕方で切り分ける手法は、室温付近で水素のありなしを検知するガス漏れ検知器の用途等には有効であるが、広い温湿度範囲に渡って、任意の安定した状態での水素検知や水素濃度を計測する用途には充分ではなかった。
【0010】
そこで、水素ガスセンサの環境を検知するために別途温湿度センサを設けて、温湿度センサにより検知した温度や湿度に基づいてセンサ出力を補正する手立ても考えられるが、そのために高価な湿度センサや信号処理回路を備えると、水素ガスセンサのコストが上昇するという問題が生じる。
【0011】
また、湿度センサで検知された湿度と、水素ガスセンサの感応部の膜湿度とが正確に一致しないため、適正に補正することが困難であるという問題も生じる。
【0012】
本発明の目的は、上述の問題点に鑑み、水素ガスセンサに環境変動の影響があっても、高価な湿度センサ等を用いることなく適正に水素ガスを検出できる水素ガス検出装置、及び水素ガス検出方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、本発明による水素ガス検出装置の第一の特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、プロトン導電層と、前記プロトン導電層と触媒層を介して接合される第一の電極層と、前記プロトン導電層と接合される第二の電極層とが基板上に積層形成され、水素ガスに感応する水素ガス検知部と、前記水素ガス検知部に所定のモニタ電圧を印加したときに、前記電極層間に流れるモニタ電流値に基づいて前記水素ガス検知部の環境条件を検知する環境条件検知部と、前記モニタ電圧の非印加時に前記電極層間に発生する電圧値を、前記環境条件検知部により検知された環境条件に基づいて補正し、補正後電圧値に基づいて水素ガス検知情報を出力する信号処理部と、を備えている点にある。
【0014】
本願発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、基板型水素センサの水素ガス検知部に所定のモニタ電圧を印加したときに電極層間に流れる電流値が温湿度に依存して変動すること、この電流値の変動は水素ガスの影響を殆ど受けない、という新知見を得、これに基づき、水素ガス検知部に所定のモニタ電圧を印加したときに電極層間に流れるモニタ電流値により環境条件を把握することが可能になると判明した。
【0015】
一方、モニタ電圧の非印加時に電極層間に発生する電圧値は、水素ガスの有無やその濃度ばかりでなく、温湿度によって定性的に変動する特性が見られることも判明している。
【0016】
そこで、環境条件検知部によって、水素ガス検知部に所定のモニタ電圧を印加したときに電極層間に流れるモニタ電流値により環境条件を把握し、信号処理部によって、モニタ電圧の非印加時に電極層間に発生する電圧値を、モニタ電流値により把握した環境条件に基づいて補正すれば、環境条件に左右されない補正後の電圧値に基づいて正確な水素ガス検知情報を得ることができるのである。
【0017】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一特徴構成に加えて、前記環境条件検知部は、前記水素ガス検知部の環境温度を検知する温度センサを備え、前記温度センサにより検知した環境温度と前記モニタ電流値に基づいて環境湿度を導出するように構成され、前記信号処理部は、前記環境温度及び前記環境湿度に対応する補正値を生成し、生成した補正値により前記電圧値を補正した補正後電圧値に基づいて前記水素ガス検知情報を出力する点にある。
【0018】
水素ガス検知部の環境温度がそれほど大きく変動せず、水素ガス検知部の出力変動が専ら湿度変動に左右される場合には、モニタ電流値に基づいて環境湿度を把握することができるが、水素ガス検知部の環境温度も大きく変動する場合には、モニタ電流値に基づいて環境湿度及び環境温度の双方を把握することが困難になる。そのような場合であっても、温度センサによって水素ガス検知部の環境温度を検知すれば、検知した環境温度とモニタ電流値に基づいて環境湿度を導出することができるようになる。
【0019】
そして、信号処理部はモニタ電圧の非印加時に電極層間に発生する電圧値に基づいて水素ガス検知情報を生成するのであるが、当該電圧値は水素ガスの有無やその濃度ばかりでなく、温湿度によって定性的に変動するため、環境条件検知部で検知された環境温度及び環境湿度に対応して当該電圧値に対する補正値を生成し、当該補正値で温湿度による変動分を補正すれば、環境変動の影響を排除して、水素ガスの有無やその濃度を適正に求めることができるようになる。
【0020】
尚、予め環境温度及び/または環境湿度を変数として、当該環境温度及び/または環境湿度に対応する補正値を出力する相関式を求めておき、当該相関式に従って環境温度及び/または環境湿度に対する補正値を演算導出するように構成することができる。
【0021】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二特徴構成に加えて、前記信号処理部は、前記環境条件に対応する補正値が規定された補正値テーブルを備え、前記補正値テーブルから導出された補正値により前記電圧値を補正した補正後電圧値に基づいて前記水素ガス検知情報を出力する点にある。
【0022】
水素ガス検知部の環境温度がそれほど大きく変動せず、水素ガス検知部の出力変動が専ら湿度変動に左右される場合には、モニタ電流値に基づいて環境湿度を把握することができる。また、水素ガス検知部の環境温度も大きく変動する場合には、モニタ電流値に基づいて環境湿度及び環境温度の双方を把握することが困難になるが、温度センサによって水素ガス検知部の環境温度を検知すれば、検知した環境温度とモニタ電流値に基づいて環境湿度を導出することができるようになる。
【0023】
そして、モニタ電圧の非印加時に電極層間に発生する電圧値が、水素ガスの有無やその濃度ばかりでなく、湿度によって定性的に変動する場合であっても、予め環境湿度及び/または環境温度に対応する補正値が規定された補正値テーブルを準備しておき、環境条件検知部によって検知された環境条件、つまり環境湿度及び/または環境温度に対応する補正値を補正値テーブルから読み出して、湿度及び/または温度による変動分を補正すれば、環境変動の影響を排除して、水素ガスの有無やその濃度を適正に求めることができるようになる。
【0024】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記モニタ電圧の印加後、前記信号処理部により前記電極層間に発生する電圧値を検知する前に、前記電極間を一時的に短絡する短絡処理部をさらに備えている点にある。
【0025】
環境条件検知部によって、所定のモニタ電圧が印加された水素ガス検知部に、モニタ電圧の印加により発生する局所的な誘電分極等の履歴が残存すると、その履歴によって、モニタ電圧の非印加時に電極層間に発生する電圧値に影響を与える虞がある。しかし、信号処理部により電極層間に発生する電圧値を検知する前に、短絡処理部によって、電極間を一時的に短絡することによりその履歴を消去することができるようになる。
【0026】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述の第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記モニタ電圧は、周波数が1KHzから1MHzの範囲の交流電圧である点にある。
【0027】
モニタ電圧として、水素ガスの影響を受け難い交流電圧を用いることが好適であり、その周波数は1KHzから1MHzの範囲が好ましく、10kHzから500kHzの範囲がより好ましい。
【0028】
同第六の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述の第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記プロトン導電層は、有機系、無機系、または有機無機ハイブリッドの電解質、それらを樹脂と複合化した電解質膜、または、イオン液体を主成分に樹脂と複合化した電解質膜で構成されている点にある。
【0029】
このような電解質を主成分とする電解質膜を有する水素ガス検知部では、湿度等の影響を受けて電解質膜のプロトン導電性が変化し、その出力電圧が変動する傾向があり、上述の第一から第五の何れかの特徴構成による水素ガス検出装置を構成する好適な対象となる。
【0030】
本発明による水素ガス検出方法の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、プロトン導電層と、前記プロトン導電層と触媒層を介して接合される第一の電極層と、前記プロトン導電層と接合される第二の電極層とが基板上に積層形成され、水素ガスに感応する水素ガス検知部に対して、前記電極層間に発生する電圧値に基づいて水素ガス検知情報を出力する水素ガス検知方法であって、前記水素ガス検知部に所定のモニタ電圧を印加したときに、前記電極層間に流れるモニタ電流値に基づいて前記水素ガス検知部の環境条件を検知する環境条件検知ステップと、前記モニタ電圧の非印加時に前記電極層間に発生する電圧値を、前記環境条件検知ステップで検知された環境条件に基づいて補正し、補正後電圧値に基づいて水素ガス検知情報を出力する信号処理ステップと、を備えている点にある。
【発明の効果】
【0031】
以上説明した通り、本発明によれば、水素ガスセンサに環境変動の影響があっても、高価な湿度センサ等を用いることなく適正に水素ガスを検出できる水素ガス検出装置、及び水素ガス検出方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a),(b)は本発明に用いる対電極基板型の水素ガスセンサの構成図
【図2】(a),(b)は本発明に用いる基板横型の水素ガスセンサの構成図、(c),(d)は本発明に用いる基板縦型の水素ガスセンサの構成図
【図3】本発明に用いる水素ガスセンサの要部の説明図
【図4】本発明による水素ガス検出装置の回路図であり、(a)はモニタ電流測定モードの回路図、(b)は短絡モード時の回路図、(c)は電圧測定モード時の回路図
【図5】(a)はモニタ電流値の温湿度特性図、(b)は温度センサを備えた場合の水素ガス検出装置の回路図、(c)は水素ガスセンサの出力電圧の説明図
【図6】(a)は水素ガスセンサのベース電圧Vbの温湿度特性を示す等電圧線グラフ、(b)は水素ガスセンサの信号電圧Vpの温湿度特性図
【図7】実験例1による水素ガスセンサの構造を示す断面図
【図8】実験例1による水素ガスセンサの特性を示し、(a)は出力電圧の温度依存性を示す特性図、(b)はモニタ電流値の温湿度特性図、(c)はモニタ電流値の等電流線グラフ
【図9】実験例1による水素ガスセンサの特性を示し、(a)はベース電圧Vbの温湿度特性を示す等電圧線グラフ、(b)は信号電圧Vpの温湿度特性図
【図10】実験例2による水素ガスセンサの特性を示し、(a)は出力電圧の温度依存性を示す特性図、(b)はモニタ電流値の温湿度特性図、(c)はモニタ電流値の等電流線グラフ
【図11】実験例2による水素ガスセンサの特性を示し、(a)はベース電圧Vbの温湿度特性を示す等電圧線グラフ、(b)は信号電圧Vpの温湿度特性図
【図12】実験例3による水素ガスセンサの特性を示し、(a)は出力電圧の温度依存性を示す特性図、(b)はモニタ電流値の温湿度特性図、(c)はモニタ電流値の等電流線グラフ
【図13】実験例3による水素ガスセンサの特性を示し、(a)はベース電圧Vbの温湿度特性を示す等電圧線グラフ、(b)は信号電圧Vpの温湿度特性図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明による水素ガス検出装置、及び水素ガス検出方法を説明する。
図1、図2に示すように、本発明に用いられる基板形の水素ガス検知部、つまり水素ガスセンサ1は、プロトン導電層2と、プロトン導電層2と触媒層3を介して接合される第一の電極層4aと、プロトン導電層2と接合される第二の電極層4bが、基板10上に積層形成されて構成されている。このような水素ガスセンサ1は、複数の態様で構成することができる。
ことができる。
【0034】
図1(a)には、基板形の水素ガスセンサの第一の態様が示されている。基板10上に離隔するように形成された第一の電極層4a及び第二の電極層4bと、第一の電極層4aに積層された触媒層3と、第二の電極層4b及び触媒層3を覆うように積層されたプロトン導電層2を備えて、対電極基板型の水素ガスセンサ1を構成することができる。
【0035】
基板10は、その上面に成膜されるプロトン導電層2を安定に保持できるものであれば、ガラス、セラミック、シリコン等の無機材料を用いた基板から、ガラスエポキシ樹脂やフェノール樹脂等の樹脂材料を用いた保形性ある基板や、ポリイミド樹脂等の樹脂材料を用いた柔軟性のあるフィルム状の基板まで様々な材料を用いて構成することができる。
【0036】
基板を構成する樹脂材料として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ナイロン、環状オレフィン、ポリエチレンスルフォネート、ポリスルフォン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ウレタン、アクリル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂(PTFE,PFA,ETFE,FEP,PVDF等)等が例示できる。
【0037】
プロトン導電層2として、有機系電解質である固体高分子電解質を採用することができ、高いプロトン導電性を有するパーフルオロスルホン酸系、パーフルオロカルボン酸系等のパーフルオロ系高分子や、Poly(styrene-ran-ethylene),sulfonated等のpartially sulfonated styrene-olefin copolymerでなる炭化水素系固体高分子電解質膜を採用することが好ましく、ナフィオン(デュポン社登録商標:NAFION)やアシプレックス(旭化成株式会社登録商標:ACIPLEX)等が好適に使用できる。このような固体高分子電解質溶液を基板10上にキャスティングすることによりプロトン導電層2を形成することができる。
【0038】
また、プロトン導電層2として、イオン液体を主成分とし、イオン液体と樹脂の混合物を硬化処理した固体イオン導電体を用いることも可能である。固体イオン導電体は、光硬化樹脂、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の何れかにイオン液体を混合した後に硬化処理されて得られる。
【0039】
イオン液体として、イミダゾリウム系イオン、ピリジニウム系イオン、脂肪族アミン系イオン、脂環式アミン系イオン、脂肪族ホスホニウム系イオンの何れかから一種または複数種選択されるカチオン部位と、ハロゲンイオン、ハロゲン系イオン、ホスフォネート系イオン、ホウ酸系イオン、トリフラート系イオンの何れかから一種または複数種選択されるアニオン部位を有するものが好適に選択できる。
【0040】
光硬化樹脂としてメチルメタクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、不飽和ポリエステル樹脂、ジアゾ樹脂、アジド樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。ここで、光硬化樹脂とは、紫外線硬化樹脂、可視光硬化樹脂、電子ビーム硬化樹脂を含む広い概念を意味するものである。イオン液体と光硬化樹脂を攪拌混合して膜状に成形した後に紫外線等を照射することにより膜状の固体イオン導電体が得られる。
【0041】
熱硬化性樹脂として、ポリイミド、ポリアミドイミド、エポキシ、ウレタン、シリコーン樹脂等を用いることができる。イオン液体と熱硬化樹脂と反応剤を攪拌混合した後に膜状に成形して加熱処理することにより膜状の固体イオン導電体が得られる。
【0042】
熱可塑性樹脂として、フッ素系樹脂(PTFE,PFA,ETFE,FEP,PVDF等)、ナイロン、環状オレフィン、ポリエチレンスルフォネート、ポリスルフォン等を用いることができる。特に撥水性があり耐熱性の高いフッ素樹脂が好適であり、中でもPVDF(ポリビニリデンフロライド)やその共重合体等の樹脂を好適に用いることができる。イオン液体と高温で溶融状態にある熱可塑性樹脂とを攪拌混合した後に膜状に成形して冷却処理することにより膜状の固体イオン導電体が得られる。
【0043】
何れの場合にも、樹脂にイオン液体を混合して攪拌する混合工程と、混合工程で攪拌混合処理されたイオン導電体を基板10上に滴下してキャスティングする工程と、キャスティングされたイオン導電体を硬化させる硬化処理工程により成膜される。
【0044】
さらに、プロトン導電層2として、有機無機複合電解質を採用することも可能である。有機無機複合電解質は、ゾルゲル法等により、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ等のセラミック中に、必要に応じて有機物を残存させながら、各種の有機系や無機系の電解質をナノ分散させたものである。有機系の電解質としては、尿素、ポリエチレンオキシドやパーフルオロスルホン酸系ポリマー等の高分子電解質が挙げられる。また、無機系の電解質としては、リン酸や硫酸等の各種の酸やアルカリの塩、イオン導電性のガラスやセラミックス等が挙げられる。
【0045】
特に、ゾルゲル法により尿素とシリカアルコキシドから作製される尿素系シリカ複合電解質や、ゾルゲル法によりリン酸とシリカアルコキシドから作製されるホスホシリケート(P2O5-SiO2)ゲルでなる複合電解質、または、これらの電解質を高分子中に分散させた複合固体高分子電解質を好適に採用することができる。
【0046】
これらの有機無機複合電解質はゾル-ゲル法によって作製される。例えば酸性縮合触媒を含む水とシリカアルコキシドとを混合してシリカアルコキシドを部分加水分解した溶液に、無機電解質を添加し混合して、さらに加水分解及び縮合を行わせることでゾル液が得られる。このようにして得られた有機無機複合電解質のゾル溶液を製膜対象に滴下し、溶媒を乾燥させた後所定の熱処理を行うことにより、有機無機複合電解質ゲル膜が得られ、上述のプロトン導電層2を形成することができる。
【0047】
また、このようにして得られた有機無機複合電解質ゲル膜は、その脆さに起因して耐衝撃性が劣ることや、高温高湿条件等では無機電解質が結露水に溶けてゲルから脱離しやすいため耐水性が悪いという問題がある。そのため、有機無機複合電解質ゲルを粉末化して高分子成分と複合化することにより、耐衝撃性や耐水性を高めることができ、さらには、任意のサイズの膜状に容易に加工することができるようになる。そのような高分子成分としては、特に限定されず上述した熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、UV硬化樹脂等を用いることができる。
【0048】
例えば、ビニリデンフロライド(VdF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるVdF−HFP共重合樹脂(カイナー#2801、アルケマ製:HFP11モル%)を、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解させ、所定の固形分濃度の溶液を調製し、この溶液と有機無機複合電解質ゲルをDMAC(ジメチルアセトアミド)溶媒に攪拌混合して複合高分子電解質溶液を得、この複合高分子電解質溶液を基板や金型等の製膜対象に滴下して、乾燥させることにより上述のプロトン導電層2を形成することができる。
【0049】
触媒層3は、水素ガスと接触することにより触媒機能を持つ金属等でなる触媒3aがプロトン導電層2の上面に担持されて構成されている。
【0050】
触媒3aとして、白金Ptまたは白金合金が好適に用いられるが、その他に、金Au、銀Ag、イリジウムIr、パラジウムPd、ルテニウムRu、オスミウムOs、コバルトCo、ニッケルNi、タングステンW、モリブデンMo、マンガンMn、イットリウムY、バナジウムV、ニオブNb、チタンTi、希土類金属、から選択される少なくとも一種を含む金属を用いることができる。
【0051】
金属触媒に代えてモリブデンカーバイドMo2C等の炭化物、ジルコニア酸化物やタンタル酸化物等の酸化物を用いることも可能である。
【0052】
これらの触媒3aは一種類を単独で用いてもよいし、複数を併用してもよく、これらの一部または全部を合金形態で使用してもよい。
【0053】
また、水素ガスと接触することにより触媒活性を有する有機金属または有機物でなる触媒3aを用いることも可能である。このような有機金属触媒として、例えば、N,N’-Bis(salicylidene)ethylene-diamino-metal(=Ni, Fe, Vなど)、N,N’-mono-8-quinoly-σ-phenylenediamino-metal(=Ni, Fe, Vなど)等を用いることができ、有機物としては、例えばピロロピロール赤色顔料、ジピリジル誘導体を用いることができる。
【0054】
触媒層3は、スパッタリング、真空蒸着、電子照射、CVD、PVD、含浸、スプレーコート、スプレー熱分解、練りこみ、吹き付け、ロールやコテによる塗り付け、スクリーン印刷、混錬法、光電解法、コーティング法、ゾルゲル法、ディップ法等を採用して形成することができる。
【0055】
特に、スパッタリングで触媒層3を形成することが好ましい。スパッタリングの処理時間は90秒未満が好ましく、さらに60秒以下とすることがより好ましい。また、スパッタリングの際のDC、RF出力値は特に制限されないが、1.2W/cm2以上とすることが好ましい。
【0056】
第二電極4bは、特に通気性を必要とせず、銅、アルミニウム、ステンレス等の金属やカーボン素材を用いることも可能であるが、高湿度下でも腐食しない材料を選択することが望ましい。このような電極層は、塗布、スクリーン印刷、メッキ、スパッタリング、真空蒸着等公知の膜形成法により基板10上に形成することができる。
【0057】
第一電極4aは、この態様の場合には、特に通気性を有する材料である必要はなく、第二の電極層4bと同じ材料で構成することも可能である。尚、水素ガスはプロトン導電層2を通過して触媒層3に接触する。
【0058】
第一の電極層4aと第二の電極層4bの何れかを基板10と兼用することも可能である。この場合、図1(b)に示すように、他方の電極層4bは絶縁層4cを介して基板10上に積層する必要がある。
【0059】
上述した水素ガスセンサ1は、基板10上にスクリーン印刷等により第一の電極4aと第二の電極層4bを形成する工程と、その第一の電極4aの上部に触媒3aを担持させて触媒層3を形成する工程と、触媒層3と第二の電極層4bを覆うように、それらの上部にプロトン導電層2を形成する工程と、各工程を経た積層体を所定のサイズに切断する工程により製造される。
【0060】
図2(a)には、基板形の水素ガスセンサの第二の態様が示されている。基板10上に形成されたプロトン導電層2と、プロトン導電層2の上面に離隔するように積層された触媒層3及び第二の電極層4bと、触媒層3に積層された第一の電極層4aを備えて、基板横型の水素ガスセンサ1を構成することができる。
【0061】
この場合、第一の電極層4aは通気性を備える必要がある。第一電極4aは、水素ガスが触媒層3に接触するように、通気性を備えた材料で構成する必要があり、カーボンペーパー、カーボン繊維不織布等を好適に用いることができる。さらには、多数の細孔が形成された銅ニッケル合金薄膜や、良好な導電性を備えた金属ポーラス焼結体で構成することも可能である。第二の電極層4bは通気性を備える必要はない。
【0062】
図2(b)に示すように、基板10に水素ガスセンサ1の出力を取り出す配線パターン5a,5bを形成して、各電極層4a,4bと配線パターン5a,5bがそれぞれ接続されるように、各電極層4a,4bを構成することも可能である。
【0063】
図2(c)には、基板形の水素ガスセンサの第三の態様が示されている。基板10上に形成された第二の電極層4bと、第二の電極層4bに積層されたプロトン導電層2と、プロトン導電層2に積層された触媒層3と、触媒層3に積層された第一の電極層4aとを備えて基板縦型の水素ガスセンサ1を構成することができる。
【0064】
この場合、第一の電極層4aは、第二の態様の場合と同様に、通気性を備える必要がある。第二の電極層4bは通気性を備える必要はない。
【0065】
また、図2(d)に示すように、基板10と第二の電極層4bを兼用して、ステンレス等の金属製の基板10(4b)で構成することも可能である。この金属基板も、少なくとも電解質膜との界面部分は、高湿度下でも腐食しない材料を選択することが望ましい。
【0066】
第二及び第三の態様の水素ガスセンサについても、電極層4a,4b、プロトン導電層2、触媒層3の組成や材料、製造プロセスはほぼ同様である。
【0067】
また、電極層4aの表裏何れかの面にカーボンペーパーやカーボン不織布等でなるガス拡散層を設けると、水素ガスが均等に触媒層3と接触できるようになり、感度が向上する。さらに、電極層4aと触媒層3との間、または電極層4bとプロトン導電層との間にカーボンペーパーやカーボン不織布等でなるガス拡散層を介在させることにより、電極層4a,4bの耐食性が向上する。
【0068】
本発明による水素ガスセンサ1は、触媒層3を電極層4aと兼用することも可能である。例えば、電極層4aを触媒である白金等の触媒金属を用いて構成することができる。この場合、他方の電極層4bは白金とは水素分解反応の活性が異なる種類の電極を用いることが好ましい。
【0069】
第二の態様及び第三の態様の水素ガスセンサ1では、触媒層3側の電極4aに水素ガスが流入すると、触媒の作用により水素が水素イオンと電子に分解され、水素イオンは電解質膜中に拡散して電子と分離されるので、電子が留まる電極4aが電極4bに対して負電位になる。また、第一の態様の水素ガスセンサ1では、プロトン導電層2を介して触媒層3に水素ガスが流入すると、触媒の作用により水素が水素イオンと電子に分解され、水素イオンは電解質膜中に拡散して電子と分離されるので、電子が留まる電極4aが電極4bに対して負電位になる。
【0070】
つまり、触媒層3が形成された側の電極4aが負極となる。このとき水素ガス濃度と相関関係を有する電圧値を信号処理回路で検出することにより水素ガス濃度を検出することができる。この電圧値は、水素分解反応(式1)の平衡電極電位による起電力であり、これがネルンストの式で表される(式2)ことから、水素ガス濃度に依存していると推測される。
【0071】
式1 H2 ⇔ 2H+ + 2e−
式2 E = Eo + (RT/nF)lna
但し、Eoは標準電極電位、Rは気体定数、Tは温度(K)、nは移動電子数、Fはファラディ定数、aは活量(a=γ・c)、cは水素ガス濃度である。
【0072】
また、本センサのモニタ電流値が水素濃度の影響を受けにくいのは、モニタ電圧印加により強制的に流される電流が、水素ガスの分解反応より生成される電子による電流に較べてはるかに多いためと推測される。このため、触媒層がセンサの表面に露出しない対電極基板型の態様が最も好適である。
【0073】
触媒層3と第二の電極層4bの界面の面積を増やして水素の分解反応と水素イオンのプロトン導電層への拡散を促進することにより、水素ガス検出能を向上させることができる。そのため、図3に示すように、第一の態様及び第二の態様の水素ガスセンサ1では、第一の電極層4a及び触媒層3と、第二の電極層4bの端縁がそれぞれ櫛歯状に形成され、一方の櫛歯の間隙に他方の櫛歯が位置するように積層されることが好ましい。
【0074】
以上説明した水素ガスセンサ1に被検知ガスを曝気すると、被測定ガスに水素ガス成分が含まれていない場合には一定のベース電圧が出力され、被検知ガスに水素ガス成分が含まれている場合には、ベース電圧から水素ガス濃度に応じた電圧上昇が現れる。この電圧上昇分を信号電圧とすれば、信号電圧によって水素ガス濃度を把握することができる。
【0075】
しかし、上述した固体高分子電解質やイオン液体等によるプロトン導電層は、湿度等の環境変動の影響を受けてプロトン導電性が変動するため、同じ濃度の水素ガスであっても水素ガスセンサの周囲の湿度等の環境により水素ガスセンサの出力が変動し、正確に水素ガスを検知することが困難になる場合がある。例えば、湿度が高くなるとプロトン導電性が高くなり、水素ガスセンサの出力電圧が低下する。
【0076】
そこで、図4に示すように、本発明による水素ガス検出装置20は、水素ガス検知部である水素ガスセンサ1と、水素ガスセンサ1の電極層4a,4bに抵抗Rを介して所定のモニタ電圧を印加する電源部Vacと、オペアンプまたはトランジスタ素子を備えた増幅回路AMPと、増幅回路AMPへの入力信号を切り替えるスイッチ回路SWと、増幅回路AMPの出力信号を入力して所定の演算処理を実行する演算部22と、当該演算部22による演算結果を表示する表示部30を備えている。
【0077】
演算部22はCPU,ROM,RAM等を備えたマイクロコンピュータやFPGA等の論理回路を備えて構成されている。電源部Vacは、周波数が1KHzから1MHzの範囲の所定周波数で、数ボルトの交流電圧を出力する交流電源である。
【0078】
演算部22は、水素ガスセンサ1の電極層4a,4bに電源部Vacから所定のモニタ電圧を印加したときに、電極層4a,4b間に流れるモニタ電流値に基づいて水素ガス検知部の環境条件を検知する環境条件検知部24と、モニタ電圧の非印加時に電極層4a,4b間に発生する電圧値を、環境条件検知部24により検知された環境条件に基づいて補正し、補正後の電圧値に基づいて水素ガス検知情報を出力する信号処理部26と、モニタ電圧の印加後、信号処理部26により電極層4a,4b間に発生する電圧値を検知する前に、電極4a,4b間を一時的に短絡する短絡処理部28として機能する。
【0079】
図4(a)に示すように、環境条件検知部24は、増幅回路AMPの一方の入力端子と水素ガスセンサ1の電極層4bとを接続するようにスイッチ回路SWを切り替えて、電源部Vacを駆動して水素ガスセンサ1の電極層4a,4b間に約3V,100KHzの交流電圧を印加する。環境条件検知部24は、このときに水素ガスセンサ1に流れる電流を抵抗Rを介して電圧変換し、増幅回路AMPで増幅した電圧値を入力してモニタ電流値を測定すると、その後電源部Vacを停止する。
【0080】
図5(a)には、40℃から80℃の温度範囲、及び、40%RHから80%RHの湿度範囲で、水素ガスセンサ1に上述のモニタ電圧を印加したときに計測される電流値の温湿度依存性の一例を示す等電流線グラフが示されている。
【0081】
温度湿度共に低い領域R1では0〜0.2mAのモニタ電流値が示され、領域R2では0.2〜0.4mAのモニタ電流値が示され、領域R3では0.4〜0.6mAのモニタ電流値が示され、温度湿度共に高い領域R4では0.6〜0.8mAのモニタ電流値が示されている。この例では、モニタ電流値は温度が上昇するに連れて、また、湿度が上昇するに連れて上昇する傾向があることが判る。
【0082】
この特性は、プロトン導電層を構成する材料毎に固有の特性であり、水素ガスの存在下でも非存在下でも、その影響を受けずほぼ同様の特性が現れる。従って、温度または湿度の一方が特定されると、この特性から他方の値が求まる。環境温度が一定の場合にはこの特性から湿度が求まり、環境湿度が一定の場合にはこの特性から温度が求まる。
【0083】
また、温度、湿度の何れも不明の場合には、水素ガスセンサの環境温度を検知する温度センサを水素ガスセンサに組み込むことにより温度を検知し、検知した温度と上述のモニタ電流値の特性に基づいて湿度を求めることができる。温度センサは、湿度センサよりも安価で且つ正確な値を検知可能であるため、湿度センサを水素ガスセンサに組み込むよりも好ましい態様となる。
【0084】
図5(b)には、水素ガスセンサ1の環境温度を検知する温度センサTSを備え、温度センサTSにより検知した環境温度とモニタ電流値に基づいて環境湿度を導出する回路構成が示されている。直流電源とグランド間に接続されたサーミスタや熱電対等でなる温度センサTSと抵抗R1との直列回路の分圧が増幅器AMP1で増幅されて演算部22に入力される。尚、水素ガスセンサ1の環境温度に変動がそれほど大きくない場合には、温度センサTSを特に設ける必要は無い。
【0085】
図4(b)に示すように、環境条件検知部24によるモニタ電流の測定後、信号処理部26が電極層4a,4b間に発生する電圧値を検知する前に、短絡処理部28は、電極層4a,4b間を一時的に短絡するように、スイッチ回路SWを切り替える。
【0086】
モニタ電圧の印加により発生する局所的な誘電分極等の履歴が残存すると、その履歴によって、モニタ電圧の非印加時に電極層間に発生する電圧値に影響を与える虞があるため、電極間を一時的に短絡することによりその履歴を消去するのである。尚、この処理は必ずしも必須ではないが、出力電圧の安定化のために有効である。
【0087】
図4(c)に示すように、その後、信号処理部26は、増幅回路AMPの反転入力端子と水素ガスセンサ1の電極層4aとを接続するようにスイッチ回路SWを切り替えて、電極層4a,4b間に発生する電圧値を検知する。
【0088】
図5(c)には、水素ガスを含む被測定ガスが曝気された水素ガスセンサ1の応答特性が実線で示されている。被測定ガスに水素ガスが含まれていないときには、ほぼ一定のベース電圧Vbが出力され、被測定ガスに水素ガスが含まれていると、ベース電圧Vbから水素ガス濃度に応じて出力電圧Voが上昇する。出力電圧Voからベース電圧Vbを引いた値が水素ガス濃度に応じた信号電圧Vpになる。
【0089】
しかし、図5(c)中、破線で示されるように、水素ガスセンサ1の環境条件である温度または湿度が変動すると、ベース電圧が上方または下方にシフトし、信号電圧も変動する。このときのベース電圧がVb´で、信号電圧がVp´で示されている。
【0090】
図6(a)には、40℃から80℃の温度範囲、及び、40%RHから80%RHの湿度範囲で、水素ガスセンサ1の電極層4a,4b間で計測されるベース電圧Vbの温湿度依存性の一例を示す等電圧線グラフが示されている。
【0091】
領域R1では1〜1.1Vのベース電圧Vbが示され、領域R2では1.1〜1.2Vのベース電圧Vbが示され、領域R3では1.2〜1.3Vのベース電圧Vbが示されている。このことから、ベース電圧Vbは、40℃の低温時であっても、40%RHの低湿度時または80%RHの高湿度時には、60%RHの中湿度時よりも低い値となり、湿度が40%RHから60%RHの間で温度が60℃から80℃の一定の領域で比較的高い値を示す傾向があることが判る。
【0092】
また、図6(b)には、空気ベースで100ppmから10000ppmの水素ガス濃度に対して、40℃から80℃の温度範囲、及び、40%RHから80%RHの湿度範囲で、水素ガスセンサ1の電極層4a,4b間で計測される信号電圧Vpの温湿度依存性の一例を示す特性図が示されている。
【0093】
この場合、信号電圧Vpは、異なる環境条件下であっても、共通してほぼ水素ガス濃度と正の相関関係を示し、また、同じ温度であっても湿度が上昇するとその値が低下し、同じ湿度であっても温度が上昇するとその値が上昇する傾向があることが判る。
【0094】
これらの特性に基づいて、信号処理部26は、電極層4a,4b間に発生する出力電圧Voを環境条件検知部24によって検知された環境条件、つまり温度及び湿度に基づいて補正することにより、正確な水素ガス検知情報を算出して表示部30に出力する。水素ガス検知情報とは、例えば水素ガスの有無情報、濃度情報等である。
【0095】
具体的には、予め環境温度T及び/または環境湿度Hを変数として、当該環境温度及び/または環境湿度に対応するベース電圧Vbの補正値Cvbを出力する相関式
Cvb=F(T,H)
を求めておき、当該相関式に従って環境温度T及び/または環境湿度Hに対する補正値Cvbを演算導出する。当該補正値は、環境温度T及び/または環境湿度Hに対するベース電圧Vbとなり、出力電圧Voから補正値を減算することにより信号電圧Vpが求まる。
【0096】
また、信号処理部26に予め環境条件に対応する補正値Cvbが規定された補正値テーブルをメモリに記憶しておき、補正値テーブルから当該環境温度T及び/または環境湿度Hに対応する補正値Cvbを演算導出してもよい。
【0097】
さらに、信号処理部26は、図6(b)で説明したような、水素ガス濃度と信号電圧Vpの温湿度に依存した相関関係を示すテーブルデータを予めメモリに記憶しておき、補正値Cvbで補正された後の補正信号電圧Vpと環境温度T及び/または環境湿度Hから当該相関テーブルデータに基づいて水素ガス濃度を演算導出する。
【0098】
尚、相関テーブルデータに替えて、予め補正後信号電圧Vpと環境温度T及び/または環境湿度Hを変数として水素ガス濃度Chを算出する相関式
Ch=G(Vp,T,H)
を求めておき、補正後信号電圧Vpと環境温度T及び/または環境湿度Hに基づいて、相関式から水素ガス濃度を演算導出するように構成してもよい。
【0099】
つまり、本発明による水素ガス検知方法は、水素ガスセンサ1に所定のモニタ電圧を印加したときに、電極層4a,4b間に流れるモニタ電流値に基づいて水素ガスセンサ1の環境条件を検知する環境条件検知ステップ(モニタ電流値測定モード)と、モニタ電圧の非印加時に電極層間に発生する電圧値を測定し、環境条件検知ステップで検知された環境条件に基づいて補正し、補正後電圧値に基づいて水素ガス検知情報を出力する信号処理ステップ(電圧測定モード)とを備えている。
【0100】
尚、上述した例では、水素ガスセンサの環境が40℃から80℃の温度範囲、及び、40%RHから80%RHの湿度範囲である場合を例に説明したが、温度範囲及び湿度範囲はこの範囲に限るものではなく、さらに広い範囲で補正することも可能であることはいうまでもない。
【0101】
信号電圧Vpが温湿度によってそれほど変動しない場合には、出力電圧Voから温湿度に基づいて補正したベース電圧Vbを減算した値を真の信号電圧Vpとして水素ガス検出情報を演算導出することも可能である。
【0102】
以上説明した水素ガス検出装置は、大気中のみならず、酸素が存在しない環境下であっても、選択的に水素ガスを適切に検出することができる。
【実施例】
【0103】
以下、実施例を説明する。
〔実験例1〕
<白金対電極基板の形成>
上面に電極となる白金をスパッタリング成膜したポリイミドフィルム(東レデュポン製 厚み30μm)を1mm幅に短冊状にカットし、カットした短冊状のポリイミドフィルム2本を、厚み188μmの白PET(東レ ルミラーU2)フィルム基板の上に、0.5mm間隔に粘着材で貼り付け固定した。
【0104】
<触媒層の形成>
片方の白金電極自体を触媒層と兼用し、他方の白金電極の上に、カーボンペースト(アサヒ化学研究所製 FTU-30)を専用溶剤で希釈して塗布し、熱風循環オーブンで100℃、1時間乾燥してカーボン電極を形成した。
【0105】
<電解質膜の形成>
次に、エポキシアクリレート紫外線硬化樹脂(日本ユピカ製ネオポール8318)とイオン液体(第一工業製薬製IL110)を重量比2:1の割合で混合し攪拌脱泡して複合型高分子電解質溶液を作製した。これを上記の対電極基板に2つの電極を覆うように塗布し、紫外線照射して硬化成膜し、固体高分子電解質による水素ガスセンサを形成した。得られた対電極基板型の水素ガスセンサの断面図を図7に示す。
【0106】
<水素ガス応答性の評価>
得られた水素ガスセンサを恒温恒湿槽に設置して、所定の複数の温湿度条件で安定させた後に、槽内の温湿度に調湿した空気ベースの水素ガスをセンサに当てて、水素ガスセンサ素子の白金電極とカーボン電極の間の電位差をデジタルマルチメータ(岩通製VOAC7411)で測定した。
【0107】
センサ表面に4000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスと空気を500mL/分の流量で、30秒間隔で交互に曝気する操作を繰り返して、水素ガスの接触による電圧変化を測定する実験を、温度40〜80℃、湿度40〜80%RHの間で温湿度条件を変えて複数回行なった。
【0108】
図8(a)には、測定結果が示されている。水素ガスセンサの出力電圧Voは、水素ガスを供給すると上昇し、水素ガスの供給を停止すると低下する傾向が見られるが、温湿度によってベース電圧Vbと信号電圧Vpが変動し、その温湿度依存性が大きいことが判る。
【0109】
<モニタ電流値Iacの測定>
次に、水素ガスセンサの電極層間にモニタ電圧を印加するための交流電源を接続するとともに、電極層間に流れるモニタ電流値Iacを測定するために、一方の電極層とグランドの間に抵抗を直列接続し、抵抗の両端にデジタルマルチメータ(岩通製VOAC7411)を接続する。そして、上記と同様にして、水素ガスセンサを恒温恒湿槽内で所定の温湿度条件で安定させた後に、槽内の温湿度に調湿した空気ベースの水素ガスを水素ガスセンサに曝気しつつ、水素ガスセンサの電極層間に交流電源から3V,100KHzの交流電圧を印加し、交流のモニタ電流値として抵抗の電圧をデジタルマルチメータで測定した。
【0110】
具体的には、水素ガスセンサの表面に4000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスと空気を500mL/分の流量で、30秒間隔で曝気と曝気停止を交互に行なう操作を繰り返して、水素ガスの接触によるモニタ電流値Iacの変化を測定する実験を、温度40〜80℃、湿度40〜80%RHの間で温湿度条件を変えて複数回行なった。水素ガスセンサに水素ガスを曝気するとモニタ電流値Iacが僅かに変化するが、その影響は小さいことも判明した。
【0111】
図8(b),(c)には、測定結果が示されている。これによれば各温湿度条件で測定されたモニタ電流値Iacは、その温度や湿度が上がるに連れて上昇する傾向が見られ、大きな温湿度依存性を示すこと、これより本センサが良好な温湿度センサとして利用できることが判る。尚、図8(c)は、40℃から80℃の温度範囲、及び、40%RHから80%RHの湿度範囲で、水素ガスセンサにモニタ電圧を印加したときに計測されるモニタ電流値Iacの温湿度依存性を示す等電流線グラフである。
【0112】
即ち、温度変動が少なくほぼ一定温度であれば、モニタ電流値に基づいて水素ガスセンサの湿度を求めることができる。温度変動が無視できない場合には、水素ガスセンサに温度センサを別途設けて、当該温度センサによる検知温度とモニタ電流値に基づいて水素ガスセンサの湿度を求めることができる。尚、実験では、温度センサを水素ガスセンサの近傍に配置したが、水素ガスセンサの基板等に組み込むように構成することが好ましい。
【0113】
<水素濃度検出特性の温湿度依存性の評価>
モニタ電流値の測定が終了するとモニタ電圧の印加を停止し、センサの電極層間を短絡してリフレッシュした後に、センサの電極層間に発生する電圧を測定する。
既に説明したように、水素ガスセンサの出力電圧Voは、水素ガスに応答せず、温湿度のみに依存して変動するベース電圧Vb成分と、水素ガスに応答して変化するとともに温湿度に依存して変動する信号電圧Vp成分が重畳した値(Vo=Vb+Vp)となる。
【0114】
図9(a)には、上述した<水素ガス応答性の評価>で得られた温湿度依存性データ(図8(a))から生成したベース電圧Vbの温湿度依存性を示す等電圧線グラフが示されている。当該等電圧線グラフから、上述した<モニタ電流値の測定>で得られた温度及び湿度に対応するベース電圧Vbが補正値として求まる。本水素ガスセンサでは、ベース電圧Vbは温湿度にあまり影響されず、ほぼ一定の値になった。水素ガスセンサの出力電圧Voから補正値として求まったベース電圧Vbを減算すれば、信号電圧Vpが得られる。
【0115】
上述した<水素ガス応答性の評価>と同様に、水素ガスセンサを恒温恒湿槽に設置して、所定の複数の温湿度条件で安定させた後に、槽内の温湿度に調湿した空気ベースの水素ガスをセンサに当てて、水素ガスセンサ素子の白金電極とカーボン電極の間の電位差をデジタルマルチメータ(岩通製VOAC7411)で測定した。
【0116】
センサ表面に400,4000,1000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスと空気を500mL/分の流量で、30秒間隔で交互に曝気する操作を繰り返して、水素ガスの接触による電圧変化を測定する実験を、温度40,80℃、湿度40,80%RHのそれぞれを組み合わせた複数の温湿度条件で複数回行なった。
【0117】
図9(b)には、出力電圧Voから信号電圧Vpのみを取り出した測定結果が示されている。信号電圧Vpは、基本的に水素濃度が上がるほど上昇する特性が見られるが、温湿度の影響を受けて変動する。具体的に、信号電圧Vpは温度が上がると上昇し、湿度が上がると低下する傾向が見られる。
【0118】
従って、予め複数の温湿度条件での信号電圧Vpを把握しておけば、<モニタ電流値の測定>で得られた温度及び湿度に対応した信号電圧Vpが一意に定まり、適正な水素ガス濃度が求まる。
【0119】
〔実験例2〕
<白金対電極基板の形成>
実験例1と同様である。
<触媒層の形成>
実験例1と同様である。
<電解質膜の形成>
固体高分子電解質としてPVDF(ポリビニリデンフロライド)とイオン液体の複合体膜を形成した。ビニリデンフロライド(VdF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるVdF−HFP共重合樹脂(カイナー#2801、アルケマ製:HFP 11モル%)200gを、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)800gに溶解させ、固形分濃度20重量%の溶液Aを調製した。
【0120】
この溶液A5gとイオン液体(メチルエチルイミダゾリウム−ビスフルオロスルフォニルイミド:第一工業製薬製IL110)0.5g、ジメチルアセトアミド2gを加えて、攪拌混合し、複合型高分子電解質溶液を作製した。
【0121】
これを対電極基板の中央部に滴下し、膜が2つの電極を覆うように塗布し、熱風循環オーブンで140℃2時間乾燥して成膜して、固体高分子電解質による水素ガスセンサ素子を形成した。得られた水素ガスセンサは、図7と同様である。
【0122】
<水素ガス応答性の評価>
得られた水素ガスセンサを恒温恒湿槽に設置して、実験例1と同様の手順で、センサ表面に4000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスと空気を500mL/分の流量で、30秒間隔で交互に曝気する操作を繰り返して、水素ガスの接触による電圧変化を測定する実験を、温度40〜80℃、湿度40〜80%RHの間で温湿度条件を変えて複数回行なった。
【0123】
図10(a)には、測定結果が示されている。水素ガスセンサの出力電圧Voも、水素ガスを供給すると上昇し、水素ガスの供給を停止すると低下する傾向が見られるが、温湿度によってベース電圧Vbと信号電圧Vpが変動し、その温湿度依存性が大きいことが判る。
【0124】
<モニタ電流値Iacの測定>
次に、実験例1と同様に、水素ガスセンサの電極層間にモニタ電圧を印加するための交流電源を接続するとともに、電極層間に流れるモニタ電流値Iacを測定するために、一方の電極層とグランドの間に抵抗を直列接続し、抵抗の両端にデジタルマルチメータ(岩通製VOAC7411)を接続する。
【0125】
実験例1と同様に、水素ガスセンサの表面に4000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスと空気を500mL/分の流量で、30秒間隔で曝気と曝気停止を交互に行なう操作を繰り返して、水素ガスの接触によるモニタ電流値Iacの変化を測定する実験を、温度40〜80℃、湿度40〜80%RHの間で温湿度条件を変えて複数回行なった。水素ガスセンサに水素ガスを曝気するとモニタ電流値Iacが僅かに変化するが、その影響は小さいことも判明した。
【0126】
図10(b),(c)には、測定結果が示されている。これによれば各温湿度条件で測定されたモニタ電流値Iacは、その温度や湿度が上がるに連れて上昇する傾向が見られ、大きな温湿度依存性を示すこと、これより本センサが良好な温湿度センサとして利用できることが判る。尚、図10(c)は、40℃から80℃の温度範囲、及び、40%RHから80%RHの湿度範囲で、水素ガスセンサにモニタ電圧を印加したときに計測されるモニタ電流値Iacの温湿度依存性を示す等電流線グラフである。
【0127】
即ち、温度変動が少なくほぼ一定温度であれば、モニタ電流値に基づいて水素ガスセンサの湿度を求めることができる。温度変動が無視できない場合には、水素ガスセンサに温度センサを別途設けて、当該温度センサによる検知温度とモニタ電流値に基づいて水素ガスセンサの湿度を求めることができる。尚、実験では、温度センサを水素ガスセンサの近傍に配置したが、水素ガスセンサの基板等に組み込むように構成することが好ましい。
【0128】
<水素濃度検出特性の温湿度依存性の評価>
モニタ電流値の測定が終了するとモニタ電圧の印加を停止し、センサの電極層間を短絡してリフレッシュした後に、センサの電極層間に発生する電圧を測定する。
【0129】
図11(a)には、上述した<水素ガス応答性の評価>で得られた温湿度依存性データ(図10(a))から生成したベース電圧Vbの温湿度依存性を示す等電圧線グラフが示されている。当該等電圧線グラフから、上述した<モニタ電流値の測定>で得られた温度及び湿度に対応するベース電圧Vbが補正値として求まる。本水素ガスセンサでは、ベース電圧Vbは温湿度の上昇により低下する傾向が見られた。水素ガスセンサの出力電圧Voから補正値として求まったベース電圧Vbを減算すれば、信号電圧Vpが得られる。
【0130】
上述した<水素ガス応答性の評価>と同様に、水素ガスセンサを恒温恒湿槽に設置して、実験例1と同様に、センサ表面に400,4000,1000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスと空気を500mL/分の流量で、30秒間隔で交互に曝気する操作を繰り返して、水素ガスの接触による電圧変化を測定する実験を、温度40,80℃、湿度40,80%RHのそれぞれを組み合わせた複数の温湿度条件で複数回行なった。
【0131】
図11(b)には、出力電圧Voから信号電圧Vpのみを取り出した測定結果が示されている。信号電圧Vpは、基本的に水素濃度が上がるほど上昇する特性が見られるが、温湿度の影響を受けて変動する。具体的に、信号電圧Vpは温度が上がると上昇し、湿度が上がると低下する傾向が見られる。
【0132】
従って、予め複数の温湿度条件での信号電圧Vpを把握しておけば、<モニタ電流値の測定>で得られた温度及び湿度に対応した信号電圧Vpが一意に定まり、適正な水素ガス濃度が求まる。
【0133】
〔実験例3〕
<白金対電極基板の形成>
実験例1と同様である。
<触媒層の形成>
実験例1と同様である。
<電解質膜の形成>
プロトン導電層を構成する固体高分子電解質として、スルホン化スチレンエチレン共重合体の膜を形成した。スルホン化スチレンエチレン共重合体溶液(Aldrich製 Poly(styrene-ran-ethylene)、sulfonated、5wt% solution in 1-propanol)を対電極基板の中央部に1μL滴下し、膜が2つの電極を覆うように塗布し、熱風循環オーブンで80℃1時間乾燥して成膜して、固体高分子電解質による水素ガスセンサ素子を形成した。得られた水素ガスセンサは、図7と同様である。
【0134】
<水素ガス応答性の評価>
得られた水素ガスセンサを恒温恒湿槽に設置して、実験例1と同様の手順で、センサ表面に4000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスと空気を500mL/分の流量で、30秒間隔で交互に曝気する操作を繰り返して、水素ガスの接触による電圧変化を測定する実験を、温度40〜80℃、湿度40〜80%RHの間で温湿度条件を変えて複数回行なった。
【0135】
図12(a)には、測定結果が示されている。水素ガスセンサの出力電圧Voは、水素ガスを供給すると上昇し、水素ガスの供給を停止すると低下する傾向が見られるが、温湿度によってベース電圧Vbと信号電圧Vpが変動し、その温湿度依存性が大きいことが判る。特に高温低湿条件では、膜のプロトン導電性が低下するために信号電圧に歪が発生している。
【0136】
<モニタ電流値Iacの測定>
次に、実験例1と同様に、水素ガスセンサの電極層間にモニタ電圧を印加するための交流電源を接続するとともに、電極層間に流れるモニタ電流値Iacを測定するために、一方の電極層とグランドの間に抵抗を直列接続し、抵抗の両端にデジタルマルチメータ(岩通製VOAC7411)を接続する。
【0137】
実験例1と同様に、水素ガスセンサの表面に4000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスと空気を500mL/分の流量で、30秒間隔で曝気と曝気停止を交互に行なう操作を繰り返して、水素ガスの接触によるモニタ電流値Iacの変化を測定する実験を、温度40〜80℃、湿度40〜80%RHの間で温湿度条件を変えて複数回行なった。水素ガスセンサに水素ガスを曝気するとモニタ電流値Iacが僅かに変化するが、その影響は小さいことも判明した。
【0138】
図12(b),(c)には、測定結果が示されている。これによれば各温湿度条件で測定されたモニタ電流値Iacは、その温度や湿度が上がるに連れて上昇する傾向が見られ、大きな温湿度依存性を示すこと、これより本センサが良好な温湿度センサとして利用できることが判る。尚、図12(c)は、40℃から80℃の温度範囲、及び、40%RHから80%RHの湿度範囲で、水素ガスセンサにモニタ電圧を印加したときに計測されるモニタ電流値Iacの温湿度依存性を示す等電流線グラフである。
【0139】
即ち、温度変動が少なくほぼ一定温度であれば、モニタ電流値に基づいて水素ガスセンサの湿度を求めることができる。温度変動が無視できない場合には、水素ガスセンサに温度センサを別途設けて、当該温度センサによる検知温度とモニタ電流値に基づいて水素ガスセンサの湿度を求めることができる。尚、実験では、温度センサを水素ガスセンサの近傍に配置したが、水素ガスセンサの基板等に組み込むように構成することが好ましい。
【0140】
<水素濃度検出特性の温湿度依存性の評価>
モニタ電流値の測定が終了するとモニタ電圧の印加を停止し、センサの電極層間を短絡してリフレッシュした後に、センサの電極層間に発生する電圧を測定する。
【0141】
図13(a)には、上述した<水素ガス応答性の評価>で得られた温湿度依存性データ(図12(a))から生成したベース電圧Vbの温湿度依存性を示す等電圧線グラフが示されている。当該等電圧線グラフから、上述した<モニタ電流値の測定>で得られた温度及び湿度に対応するベース電圧Vbが補正値として求まる。本水素ガスセンサでは、ベース電圧Vbは温湿度の上昇により低下する傾向が見られた。水素ガスセンサの出力電圧Voから補正値として求まったベース電圧Vbを減算すれば、信号電圧Vpが得られる。
【0142】
上述した<水素ガス応答性の評価>と同様に、水素ガスセンサを恒温恒湿槽に設置して、実験例1と同様に、センサ表面に400,4000,1000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスと空気を500mL/分の流量で、30秒間隔で交互に曝気する操作を繰り返して、水素ガスの接触による電圧変化を測定する実験を、温度40,80℃、湿度40,80%RHのそれぞれを組み合わせた複数の温湿度条件で複数回行なった。
【0143】
図13(b)には、出力電圧Voから信号電圧Vpのみを取り出した測定結果が示されている。信号電圧Vpは、基本的に水素濃度が上がるほど上昇する特性が見られるが、4000ppm以上では飽和する傾向にあり、温湿度の影響を受けて変動する。具体的に、信号電圧Vpは温湿度が上がると低下する傾向が見られる。但し、80℃以上では膜が不安定になり信号電圧が歪んで正確なVp値が得られていない。
【0144】
従って、予め複数の温湿度条件での信号電圧Vpを把握しておけば、<モニタ電流値の測定>で得られた温度及び湿度に対応した信号電圧Vpが一意に定まり、適正な水素ガス濃度が求まる。
【0145】
つまり、実験例1から3の結果、本発明による水素ガス検出装置によれば、1つの水素ガスセンサに対する測定モードを、モニタ電流値測定モードと電圧測定モードとに切り替えるだけで、水素応答と温湿度応答の2つの特性を得ることができ、それにより、温湿度に依存せず環境変動を受けない安定な水素応答信号を得ることができる。
【0146】
さらに、上述の各水素ガスセンサを用いて、被検出ガスとしてメタンガス及び一酸化炭素ガスに対して同様の実験を行なったが、何れも出力の変化が現れなかった。このことから、ガス選択性も備えていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明による水素ガス検出装置は、水素ガスをエネルギー源とする燃料電池システム(定置型、車載型、モバイル型等)やその周辺設備(水素ステーション等)に極めて有用で、水素ガス漏れ検知機や水素ガス濃度計として、システム機器に組み込んで用いたり、ハンディーな携帯型ガス計測機器として用いることができる。また、水素ガスタンクや水素ガス供給管内の水素濃度の検出や漏洩検出等、酸素ガスの非存在下で水素ガス濃度を検知する必要がある場合にも好適に用いることができる。
【0148】
また、半導体製造プラントの熱処理装置での水素濃度監視や水素ガスの漏洩検知にも好適に用いることができる。例えば、水素ガス或は水素ガスと窒素ガスの混合ガスを用いた界面処理のための熱処理工程等で水素ガス濃度の監視等に用いることができる。
【符号の説明】
【0149】
1:水素ガスセンサ
2:プロトン導電層
3:触媒層
3a:触媒
4,4a,4b:電極
10:基板
20:水素ガス検出装置
22:演算部
24:環境条件検知部
26:信号処理部
28:短絡処理部
30:表示部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン導電層と、前記プロトン導電層と触媒層を介して接合される第一の電極層と、前記プロトン導電層と接合される第二の電極層とが基板上に積層形成され、水素ガスに感応する水素ガス検知部と、
前記水素ガス検知部に所定のモニタ電圧を印加したときに、前記電極層間に流れるモニタ電流値に基づいて前記水素ガス検知部の環境条件を検知する環境条件検知部と、
前記モニタ電圧の非印加時に前記電極層間に発生する電圧値を、前記環境条件検知部により検知された環境条件に基づいて補正し、補正後電圧値に基づいて水素ガス検知情報を出力する信号処理部と、
を備えている水素ガス検出装置。
【請求項2】
前記環境条件検知部は、前記水素ガス検知部の環境温度を検知する温度センサを備え、前記温度センサにより検知した環境温度と前記モニタ電流値に基づいて環境湿度を導出するように構成され、
前記信号処理部は、前記環境温度及び前記環境湿度に対応する補正値を生成し、生成した補正値により前記電圧値を補正した補正後電圧値に基づいて前記水素ガス検知情報を出力する請求項1記載の水素ガス検出装置。
【請求項3】
前記信号処理部は、前記環境条件に対応する補正値が規定された補正値テーブルを備え、前記補正値テーブルから導出された補正値により前記電圧値を補正した補正後電圧値に基づいて前記水素ガス検知情報を出力する請求項1または2記載の水素ガス検出装置。
【請求項4】
前記モニタ電圧の印加後、前記信号処理部により前記電極層間に発生する電圧値を検知する前に、前記電極間を一時的に短絡する短絡処理部をさらに備えている請求項1から3の何れかに記載の水素ガス検出装置。
【請求項5】
前記モニタ電圧は、周波数が1KHzから1MHzの範囲の交流電圧である請求項1から4の何れかに記載の水素ガス検出装置。
【請求項6】
前記プロトン導電層は、有機系、無機系、または有機無機ハイブリッドの電解質、それらを樹脂と複合化した電解質膜、または、イオン液体を主成分に樹脂と複合化した電解質膜で構成されている請求項1から5の何れかに記載の水素ガス検出装置。
【請求項7】
プロトン導電層と、前記プロトン導電層と触媒層を介して接合される第一の電極層と、前記プロトン導電層と接合される第二の電極層とが基板上に積層形成され、水素ガスに感応する水素ガス検知部に対して、前記電極層間に発生する電圧値に基づいて水素ガス検知情報を出力する水素ガス検知方法であって、
前記水素ガス検知部に所定のモニタ電圧を印加したときに、前記電極層間に流れるモニタ電流値に基づいて前記水素ガス検知部の環境条件を検知する環境条件検知ステップと、
前記モニタ電圧の非印加時に前記電極層間に発生する電圧値を、前記環境条件検知ステップで検知された環境条件に基づいて補正し、補正後電圧値に基づいて水素ガス検知情報を出力する信号処理ステップと、
を備えている水素ガス検出方法。
【請求項1】
プロトン導電層と、前記プロトン導電層と触媒層を介して接合される第一の電極層と、前記プロトン導電層と接合される第二の電極層とが基板上に積層形成され、水素ガスに感応する水素ガス検知部と、
前記水素ガス検知部に所定のモニタ電圧を印加したときに、前記電極層間に流れるモニタ電流値に基づいて前記水素ガス検知部の環境条件を検知する環境条件検知部と、
前記モニタ電圧の非印加時に前記電極層間に発生する電圧値を、前記環境条件検知部により検知された環境条件に基づいて補正し、補正後電圧値に基づいて水素ガス検知情報を出力する信号処理部と、
を備えている水素ガス検出装置。
【請求項2】
前記環境条件検知部は、前記水素ガス検知部の環境温度を検知する温度センサを備え、前記温度センサにより検知した環境温度と前記モニタ電流値に基づいて環境湿度を導出するように構成され、
前記信号処理部は、前記環境温度及び前記環境湿度に対応する補正値を生成し、生成した補正値により前記電圧値を補正した補正後電圧値に基づいて前記水素ガス検知情報を出力する請求項1記載の水素ガス検出装置。
【請求項3】
前記信号処理部は、前記環境条件に対応する補正値が規定された補正値テーブルを備え、前記補正値テーブルから導出された補正値により前記電圧値を補正した補正後電圧値に基づいて前記水素ガス検知情報を出力する請求項1または2記載の水素ガス検出装置。
【請求項4】
前記モニタ電圧の印加後、前記信号処理部により前記電極層間に発生する電圧値を検知する前に、前記電極間を一時的に短絡する短絡処理部をさらに備えている請求項1から3の何れかに記載の水素ガス検出装置。
【請求項5】
前記モニタ電圧は、周波数が1KHzから1MHzの範囲の交流電圧である請求項1から4の何れかに記載の水素ガス検出装置。
【請求項6】
前記プロトン導電層は、有機系、無機系、または有機無機ハイブリッドの電解質、それらを樹脂と複合化した電解質膜、または、イオン液体を主成分に樹脂と複合化した電解質膜で構成されている請求項1から5の何れかに記載の水素ガス検出装置。
【請求項7】
プロトン導電層と、前記プロトン導電層と触媒層を介して接合される第一の電極層と、前記プロトン導電層と接合される第二の電極層とが基板上に積層形成され、水素ガスに感応する水素ガス検知部に対して、前記電極層間に発生する電圧値に基づいて水素ガス検知情報を出力する水素ガス検知方法であって、
前記水素ガス検知部に所定のモニタ電圧を印加したときに、前記電極層間に流れるモニタ電流値に基づいて前記水素ガス検知部の環境条件を検知する環境条件検知ステップと、
前記モニタ電圧の非印加時に前記電極層間に発生する電圧値を、前記環境条件検知ステップで検知された環境条件に基づいて補正し、補正後電圧値に基づいて水素ガス検知情報を出力する信号処理ステップと、
を備えている水素ガス検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−209184(P2011−209184A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78588(P2010−78588)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】
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