説明

水素供給装置

【課題】水素の濃度が低い場合であっても水素含有ガスから水素を分離可能であると共に装置の稼動時の騒音を抑制可能とする。
【解決手段】水素含有ガスG1に含まれる水素を選択的に透過させることによって水素を供給する水素供給装置であって、触媒作用により水素分子を水素イオンに解離すると共に水素透過性を有する第1金属層2と、電子を用いて水素イオン同士を結合させて水素分子を生成すると共に水素透過性を有する第2金属層3と、上記第1金属層2と上記第2金属層3とに挟まれると共に電圧が印加されることによって上記第1金属層2側から上記第2金属層3側に上記水素イオンを透過する水素透過層1と、上記第1金属層2を陽極とし、上記第2金属層3を陰極として上記水素透過層1に上記電圧を印加する電圧印加手段7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素含有ガスに含まれる水素を選択的に透過させることによって水素を供給する水素供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、水素を燃料とする燃料電池が提案されており、燃料電池の燃料として純度の高い水素が求められている。このような純度の高い水素の取得を実現するために、従来から、一方側に供給される水素を含む混合ガス(水素含有ガス)から水素を選択的に透過させることによって他方側に水素を供給する水素供給装置が用いられている(特許文献1参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、脱水素触媒層及び水素分離膜を備える水素供給装置が開示されている。特許文献1に記載された水素供給装置によれば、脱水素触媒層によって液状の含水素化合物から水素を含む混合ガスを生成し、水素分離膜によって混合ガスに含まれる水素を透過させることによって水素を供給する構成とされている。
【特許文献1】特開2004−131306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された水素供給装置においては、水素が水素分離膜を透過させるためには、混合ガス側の圧力を相対的に高くし、水素の供給側の圧力を相対的に低くする必要がある。すなわち、従来の水素供給装置においては、混合ガス側と水素の供給側との間に圧力勾配を形成し、当該圧力勾配によって水素を透過させる構成を採用している。
このため、混合ガス側の圧力を相対的に高くし、水素の供給側の圧力を相対的に低くするために、ポンプ等の大型の装置を設置する必要が生じ、稼動部のエネルギー消費量が増大する。さらに装置の大型化を招くと共に稼動時の音が大きくなるという問題が生じる。また、このような圧力勾配によって水素を透過させる構成を採用する場合には、水素含有ガスに含まれる水素の濃度が低くなった場合には、水素を分離することが困難となるという問題も有する。
【0005】
また、吸着剤を用いて混合ガスから水素を選択的に吸着する方法も提案されているが、このような方法を採用する水素供給装置においても、ポンプを必要とすると共に体積の大きな吸着剤が必要となるため、同様に、装置の大型化を招くと共に稼動時の音が大きくなるという問題が生じる。また、吸着剤は時間とともに水素の吸着効率が低減するため、一定時間ごとの交換作業が必要となる。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、水素供給装置において、水素の濃度が低い場合であっても水素含有ガスから水素を分離可能であると共に装置の稼動時の騒音を抑制可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、水素含有ガスに含まれる水素を選択的に透過させることによって水素を供給する水素供給装置であって、触媒作用により水素分子を水素イオンに解離すると共に水素透過性を有する第1金属層と、電子を用いて水素イオン同士を結合させて水素分子を生成すると共に水素透過性を有する第2金属層と、上記第1金属層と上記第2金属層とに挟まれると共に電圧が印加されることによって上記第1金属層側から上記第2金属層側に上記水素イオンを透過する水素透過層と、上記第1金属層を陽極とし、上記第2金属層を陰極として上記水素透過層に上記電圧を印加する電圧印加手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
このような特徴を有する本発明によれば、電圧印加手段によって、第1金属層が陽極となると共に第2金属層が陰極となるように、水素透過層に電圧を印加することによって、水素含有ガスに含まれる水素が解離されて水素イオンとして水素透過層に選択的に透過される。
すなわち、本発明によれば、第1金属層により選択的に水素分子が水素イオンになり、水素含有ガス側と水素の供給側との間に電圧勾配を形成し、当該電圧勾配によって選択的に水素イオンを透過させる。
【0009】
また、本発明においては、上記第2金属層への上記電子の供給量を調整する電子供給量調整手段を備えるという構成を採用する。
【0010】
また、本発明においては、上記第1の金属層の上記水素透過層と接触される面と反対の面側において水素含有ガスを拡散するガス拡散手段を備えるという構成を採用する。
【0011】
また、本発明において、上記第2の金属層の上記水素透過層と接触される面と反対の面側において水素ガスを拡散するガス拡散手段を備えるとうい構成を採用する。
【0012】
また、本発明において、上記ガス拡散手段は、溝部を備える構造、焼結金属からなる構造、あるいはグレーチング形状の金属板あるいはその積層体からなる構造のいずれかを有するという構成を採用する。
【0013】
また、本発明においては、上記水素透過層が晒される空間を加温する加温手段を備えるという構成を採用する。
【0014】
また、本発明においては、上記第1金属層、上記第2金属層、及び上記水素透過層からなる単位ユニットを複数備えるという構成を採用する。
【0015】
また、本発明においては、複数の上記単位ユニットが、上記第1金属層、上記第2金属層、及び上記水素透過層の積層方向に配列されているという構成を採用する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水素含有ガス側と水素の供給側との間に電圧勾配を形成し、当該電圧勾配によって水素を透過させる。このため、水素含有ガス側と水素の供給側との間に圧力勾配を必要とせず、ポンプ等の大型の装置を設置する必要がない。
したがって、本発明の水素供給装置によれば、水素の濃度が低い場合であっても水素含有ガスから水素を分離可能であると共に装置の稼動時の騒音を抑制可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明に係る水素供給装置の一実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0018】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の水素供給装置S1の概略構成を示す模式図である。
この図に示すように、本実施形態の水素供給装置S1は、陽イオン交換膜1(水素透過層)と、水素解離層2(第1金属層、陽極)と、水素結合層3(第2金属層、陰極)と、第1導電性ガス拡散構造体4(ガス拡散手段)と、第2導電性ガス拡散構造体5(ガス拡散手段)と、配線層6と、給電装置7(電圧印加手段、電子供給量調整手段)、ヒータ8(加温手段)とを備えている。
【0019】
陽イオン交換膜1(より詳細には固体高分子型陽イオン交換膜)は、シート状に成型されており、陽極側の面に水素解離層2が接合され、他方の陰極側の面に水素結合層3が接合されることによって、水素解離層2と水素結合層3とに挟まれている。
陽イオン交換膜1は、水素解離層2側が相対的に高電位(陽極)とされ、水素結合層3が相対的に低電位(陰極)とされることによって、水素解離層2側(陽極側)から水素結合層3側(陰極側)に水素イオンを透過するものである。つまり、陽イオン交換膜1は、電圧(電位)勾配により水素イオンを透過させる。
このような陽イオン交換膜1は、例えば、電圧(電位)勾配により水素イオンを透過させる材料であればいずれの材料からであっても形成することができ、例えば強酸基のスルホン酸基(SOH)やリン酸基(PO)を持つ材料によって形成することができる。
【0020】
水素解離層2は、陽イオン交換膜1の一方側の面に接合される金属層であり、水素分子を水素イオンに解離させる触媒作用を有すると共に水素透過性を有する金属構造機能によって形成されている。このような金属材料によって構成されることによって、水素解離層2は、触媒作用により水素分子を水素イオンに解離すると共に水素透過性を有する層となっている。
この水素解離層2は、例えば、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、シリコン(Si)、及びアルミニウム(Al)のいずれか一成分あるいは複数成分等の金属材料、または当該金属材料の酸化物粒子等を直接用いて構成することができる。また炭素粒子との上記金属材料との混合物を用いて構成することもできる。また、炭素粒子の表面に上記金属材料を塗布したものを用いて構成することもできる。なお、上記金属材料としては、特に白金(Pt)あるいはルテニウム(Ru)が含まれる金属材料を好適に用いることができる。
【0021】
水素結合層3は、陽イオン交換膜1の陰極側の面に接合される金属層であり、電子を用いて水素イオン同士を結合させると共に水素透過性を有する金属構造機能によって形成されている。このような金属材料によって構成されることによって、水素結合層3は、電子を用いて水素イオン同士を結合させると共に水素透過性を有する層となっている。
このような水素結合層3は、上記水素解離層2と同様に、例えば、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、シリコン(Si)、及びアルミニウム(Al)のいずれか一成分あるいは複数成分等の金属材料、または当該金属材料の酸化物粒子等を直接用いて構成することができる。また炭素粒子との上記金属材料との混合物を用いて構成することもできる。また、炭素粒子の表面に上記金属材料を塗布したものを用いて構成することもできる。なお、上記金属材料としては、特に白金(Pt)あるいはルテニウム(Ru)が含まれる金属材料を好適に用いることができる。
つまり、水素解離層2と水素結合層3とは、場合によっては同様な金属材料を用いて構成することができる。
【0022】
第1導電性ガス拡散構造体4は、水素解離層2の陽イオン交換膜1と接触される面と反対側の面全体に対して接触するように接合されている。なお、ここで言う、面全体に対して接触するとは、面の全ての箇所に対して当接されている状態を示すものではなく、面の全体に略均一に分散して接触していることを意味する。
この第1導電性ガス拡散構造体4は、水素解離層2より導電率の高い材料によって成型されている。このような第1導電性ガス拡散構造体4を介して水素解離層2の全体に対して給電することが可能な構成とされている。
【0023】
また、第1導電性ガス拡散構造体4は、水素解離層2方向と直交する方向(図1において第1導電性ガス拡散構造体4が延在する方向(以下、ガス通過方向と称する))にガスを通過可能な構成とされている。さらに、第1導電性ガス拡散構造体4は、通過するガスが水素解離層2の一方側の面の全体にガスが分散されて均一に触れるように構成されている。
具体的には、図2(a)に示すように、第1導電性ガス拡散構造体4を金属のブロック41とし、当該ブロック41にガス通過方向の一方側及び他方側に開口端が形成されると共に水素解離層2の一方側の面の全体に蛇行する流路42を形成することによって、第1導電性ガス拡散構造体4をガス通過方向にガスを透過可能とすると共に水素解離層2の一方側の面の全体に分散されてガスが触れるように構成することができる。
なお、流路42は、図2(a)に示すように一本である構成に限られるものではなく、途中で複数に分岐される構成であっても良い。また、流路42は、図2(b)に示すように、碁盤目状に配設されても良い。
また、図3に示すように、第1導電性ガス拡散構造体4を導電材料からなる粉末が圧着されて構成される粉体層43とすることによって、ガスが粉体層43内にて拡散されるため、第1導電性ガス拡散構造体4をガス通過方向にガスを透過可能とすると共に水素解離層2の一方側の面の全体にガスが分散されて均一に触れるように構成することができる。
また、図4に示すように、第1導電性ガス拡散構造体4を導電材料からなるグレーチング状形状の構造体44とすることによって、ガスがグレーチング状形状の構造体44内にて拡散されるため、第1導電性ガス拡散構造体4をガス通過方向にガスを透過可能とすると共に水素解離層2の一方側の面の全体にガスが分散されて均一に触れるように構成することができる。
このような第1導電性ガス拡散構造体4は、例えばグラファイトによって形成することができる。
【0024】
図1に戻り、第2導電性ガス拡散構造体5は、水素結合層3の陽イオン交換膜1と接触される面と反対側の面全体に対して接触するように接合されている。なお、ここでも、面全体に対して接触するとは、面の全ての箇所に対して当接されている状態を示すものではなく、面の全体に略均一に分散して接触していることを意味する。
この第2導電性ガス拡散構造体5は、水素結合層3より導電率の高い材料によって形成されている。このような第2導電性ガス拡散構造体5を介して水素結合層3の全体に対して給電することが可能な構成とされている。
【0025】
また、第2導電性ガス拡散構造体5は、水素結合層3方向と直交する方向であるガス通過方向に拡散してきた透過水素ガスを放出可能な構成とされている。
なお、第2導電性ガス拡散構造体5は、水素結合層3の一方側の面の全体から、陽イオン交換膜1を透過してきた水素ガスを効率よく集める必要があり、第1導電性ガス拡散構造体4と同様のガス拡散を助ける構成を採用することが好ましい。
【0026】
配線層6は、第1導電性ガス拡散構造体4と第2導電性ガス拡散構造体5とを給電装置7に対して電気的に接続するための金属層であり、第1導電性ガス拡散構造体4と第2導電性ガス拡散構造体5との各々に対して設けられている。そして、第1導電性ガス拡散構造体4に対して設けられた配線層6は、第1導電性ガス拡散構造体4の水素解離層2と接触される面と反対側の面と接合される。また、第2導電性ガス拡散構造体5に対して設けられた配線層6は、第2導電性ガス拡散構造体5の水素結合層3と接触される面と反対側の面と接合される。
【0027】
給電装置7は、配線層6及び第1導電性ガス拡散構造体4を介して水素解離層2と電気的に接合され、配線層6及び第2導電性ガス拡散構造体5を介して水素結合層3と電気的に接合され、水素解離層2と水素結合層3とに対して給電する装置である。この給電装置7は、水素解離層2が陽極となり、水素結合層3が陰極となるように給電を行う。
また、給電装置7は、電圧及び電流を任意に調整可能とされている。すなわち、給電装置7は、水素解離層2と水素結合層3との電位差を任意に調整可能であり、さらに水素結合層3への電子の供給量(電流量)を任意に調整可能である。
このように、給電装置7は、水素解離層2を陽極とし、水素結合層3を陰極として陽イオン交換膜1に対して電圧を印加する電圧印加手段の機能と、水素結合層3への電子の供給量(電流量)を調整する電子供給量調整手段の機能との両方の機能を有している。
【0028】
ヒータ8は、陽イオン交換膜1が晒される空間を加温するためのものであり、本実施形態においては、陽イオン交換膜1、水素解離層2、水素結合層3、第1導電性ガス拡散構造体4、第2導電性ガス拡散構造体5、及び配線層6が晒される空間全体を加温している。なお、ヒータ8は、不図示の支持体によって支持されている。
【0029】
続いて、このように構成された本実施形態の水素供給装置S1の動作について説明する。
【0030】
まず、給電装置7によって水素解離層2が陽極となり、水素結合層3が陰極となるように電圧が印加される。このように電圧が印加されることによって、陽イオン交換膜1の一方側が相対的に高電位となり他方側が相対的に低電位となり、電圧勾配が形成される。なお、ここでは、給電装置7によって、水素解離層2と水素結合層3との電位差及び/または電流量が一定に保たれているものとする。
【0031】
このように給電装置7によって給電が行われている状態にて、外部から水素を含む混合ガスG1(水素含有ガス)がガス通過方向の一方側の方向から供給されると、混合ガスG1は、第1導電性ガス拡散構造体4の内部に流入し、水素解離層2の一方側の面に触れる。
なお、本実施形態において、混合ガスG1は、水素の他に、窒素及び二酸化炭素を含むものとする。
【0032】
混合ガスG1が水素解離層2の一方側の面に触れると、水素解離層2の触媒作用により、混合ガスG1に含まれる水素(水素分子)が解離され水素イオンとなると共に、当該水素イオンが水素解離層2の内部に拡散する。
ここで、本実施形態の水素供給装置S1において、第1導電性ガス拡散構造体4は、通過するガスが水素解離層2の一方側の面の全体にガスが分散されて均一に触れるように構成されている。このため、混合ガスG1が水素解離層2の一方側の面の全体に均一分散されて触れるため、水素解離層2の全体において効率的に水素の解離を行うことができる。
【0033】
水素解離層2の内部に拡散した水素イオンは、陽イオン交換膜1に達する。ここで、陽イオン交換膜1には、水素解離層2側が相対的に高電位となり、水素結合層3側が相対的に低電位となるように電圧が印加されている。このため、陽イオン交換膜1に達した水素イオンは、電圧勾配によって、水素解離層2側から水素結合層3側に透過する。
【0034】
陽イオン交換膜1を水素解離層2側から水素結合層3側に透過した水素イオンは、水素結合層3に到達し、水素結合層3の内部に拡散する。
水素結合層3は給電装置7によって陰極となるように印加されている。すなわち、水素結合層3には、給電装置7から配線層6及び第2導電性ガス拡散構造体5を介して電子が供給されている。このため、水素結合層3に拡散した水素イオン同士は電子によって結合され、水素分子として水素結合層3の一方側の面(第2導電性ガス拡散構造体5側の面)に放出される。
【0035】
この結果、第2導電性ガス拡散構造体5から水素からなるガスである水素ガスG2が排出され、本実施形態の水素供給装置から精製された水素ガスG2が得られることとなる。
なお、第1導電性ガス拡散構造体4にガス通過方向の一方側から供給された混合ガスG1は、水素解離層2によって水素が吸収されることによって、水素濃度が低下した排気ガスG3として、ガス通過方向の他方側から排気される。
【0036】
このように本実施形態の水素供給装置S1によれば、陽極側に供給された混合ガスG1に含まれる水素を水素解離層2によって分離して水素イオンとし、当該水素イオンを電圧勾配によって陽イオン交換膜1を透過させ、その後水素結合層3にて電子を用いて水素イオン同士を結合させて水素とすることによって、陰極側に水素からなるガスである水素ガスG3を放出する。
【0037】
このような本実施形態の水素供給装置S1によれば、混合ガス側と水素の供給側との間に電圧勾配を形成し、当該電圧勾配によって水素を透過させる。このため、混合ガス側と水素の供給側との間に圧力勾配を必要とせず、ポンプ等の大型の装置を設置する必要がない。さらに本実施形態の水素供給装置S1は、稼動部分を備えない。
したがって、本実施形態の水素供給装置S1によれば、混合ガスG1から水素を分離可能であると共に装置の稼動時の騒音を抑制可能とする。
【0038】
また、水素結合層3においては、2つの水素イオン同士を結合させるために2つの電子が必要となる。つまり、水素結合層3に2つの電子を供給すれば、1つの水素分子が得られる。このため、水素結合層3への電子の供給量(すなわち電流量)を調節することによって、水素結合層3から放出される水素の量を調整することができる。
そして、本実施形態の水素供給装置S1においては、上述のように給電装置7が水素結合層3への電子の供給量を調節可能とされているため、水素ガスG2の供給量を任意に調節することができる。
また、電流量の値は、周知の技術によって極めて細かく制御することができるため、本実施形態の水素供給装置S1によれば、水素ガスG2の供給量を極めて細かく調節することができる。原理的には、水素分子の一個単位に水素ガスG2の供給量を調節することができる。
また、水素結合層3への電子の供給量をゼロ(すなわち電位差ゼロ)とすることによって、混合ガスG1の供給を行いながら水素ガスG2の供給量をゼロに調節することができる。
【0039】
また、従来の水素供給装置においては、水素分圧が低い場合には、混合ガスの圧力を高くした場合であっても効率的に水素を分離することができず、バイオガスや改質ガスのような水素濃度が低いガスを混合ガスとして用いる場合には、効率的に水素ガスを得ることができなかった。これに対して本実施形態の水素供給装置S1においては、水素結合層3への電子の供給量に水素分子の生成量(水素透過量)が依存する。したがって、混合ガスG1の水素濃度が低い場合であっても、電流量または電位を増加させることによって低水素濃度の混合ガスG1から効率的に水素を分離することが可能となる。
【0040】
また、本実施形態の水素供給装置S1においては、電流量を調節することによって水素ガスG1の供給量をゼロを含む任意の値に細かくかつ素早く調節することができる。このため、混合ガスG1の換わりに水素ガスを供給した場合には、水素ガスの供給量を細かくかつ素早く制御可能な精密水素供給装置や水素バルブとして、本実施形態の水素供給装置S1を用いることができる。
【0041】
また、本実施形態の水素供給装置S1においては、上述の電流量や電位差によって得られる水素ガスの濃度が変化することがないため、単位時間あたりの水素の供給量にばらつきが許容される場合には、電流量や電位差が変動することが許容される。
このため、例えば、風力発電等の電流量や電位差が変化するような発電装置を給電装置として用いることもできる。すなわち、本実施形態の水素供給装置S1によれば、いわゆる質の悪い電力から水素ガスを得ることが可能である。
そして、本実施形態の水素供給装置S1から得られる水素ガスを燃料として燃料電池等により質の高い電力を得ることができる。このため、本実施形態の水素供給装置S1は、質の悪い電力を質の高い電力に変換するための変換装置として用いることもできる。
【0042】
なお、陽イオン交換膜1は、所定の範囲において自らが晒される温度に比例して水素イオンの透過率が変化する。このため、本実施形態の水素供給装置S1においては、ヒータ8によって、陽イオン交換膜1が水素イオンに対する所望の透過率を有するように、陽イオン交換膜1を加温する。
【0043】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0044】
図5は、本実施形態の水素供給装置S2の概略構成を示す模式図である。この図に示すように、本実施形態の水素供給装置S2は、上記第1実施形態の水素供給装置S1を単位ユニットとして、当該単位ユニットS1を複数備える構成を有している。そして、本実施形態の水素供給装置S2において、複数の単位ユニットS1は、陽イオン交換膜1、水素解離層2、及び水素結合層3の積層方向(ガス通過方向と直交する方向)に配列されている。
【0045】
このような構成を有する本実施形態の水素供給装置S2によれば、複数の単位ユニットS1によって構成されているため、例えば陽イオン交換膜1、水素解離層2、及び水素結合層3等の一枚あたりの大きさ大型化することなく、装置の水素供給量を向上させることが可能となる。
また、本実施形態の水素供給装置S2によれば、複数の単位ユニットS1が、陽イオン交換膜1、水素解離層2、及び水素結合層3の積層方向(ガス通過方向と直交する方向)に配列されているため、装置の設置面積を増加させることなく装置の水素供給量を向上させることができる。
【0046】
なお、各単位ユニットS1に対しては共通配管10を介して混合ガスG1が供給される。また、各単位ユニットS1から排出される高純度水素ガスG2は、各単位ユニットS1に対して接続される共通配管20を介して集められた後、放出される。また、排気ガスG3は、各単位ユニットS1に対して接続される共通配管30を介して集められた後、排出される。
また、図5においては、給電装置7及びヒータ8の図示を省略しているが、当該給電装置7及びヒータ8は、単位ユニットごとに設置されていても良いし、全ての単位ユニットS1に対して1つのみ設置されていても良い。
【0047】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0048】
例えば、上記実施形態においては、本発明における水素透過層として、陽イオン交換膜1を用いる構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜との交互に積層したイオン交換膜を用いることもできる。
【0049】
(実験例)
続いて、上記第1実施形態の水素供給装置S1に対して行った実験の結果について、図6及び図7を参照して説明する。
【0050】
図6は、第1実施形態の水素供給装置S1における、電流値と水素ガス流量との関係を示したグラフである。なお、図6に示すデータを取得するための実験においては、陽イオン交換膜1の面積を25cmとし、電位差を0.1Vとし、陽イオン交換膜1の加熱温度が60℃とし、電流値を3.5Aまでの範囲で変化させた。なお、本実験においては、混合ガスG1として、水素が54.44%、窒素が22.94%、二酸化炭素が22.62%の割合で含まれるガスを用い、当該混合ガスG1を48.73ml/minの流量にて水素供給装置S1に供給した。
この結果、図6に示すように、電流値の変化に対して混合ガスG1の供給量が直線的に変化することが分かった。
したがって、本実験によって、上記第1実施形態の水素供給装置S1において、電流値に比例して、水素ガスの供給量を調節できることが確認できた。
【0051】
図7は、従来の水素供給装置の水素透過係数と上記第1実施形態の水素供給装置S1の水素透過係数とを比較するための表であり、横軸が透過係数を示し、縦軸が透過係数比とを示す。なお、透過係数比とは、供給された混合ガスに含まれる水素と不純ガスとの比率を示す値である。
なお、図7において、点AがSiC系水素解離層を有する従来の水素供給装置の実験値を示し、点BがSi−Ni−O膜を有する従来の水素供給装置の実験値を示し、点Cがアモルファスシリカを有する従来の水素供給装置の実験値を示し、点D及び点Eがパラジウム系の水素透過層を有する従来の水素供給装置の実験値を示し、点Fが上記第1実施形態の水素供給装置S1において図6の実験条件で電流値を3.3Aとした場合の実験値を示し、点Gが上記第1実施形態の水素供給装置S1において図6の実験条件で電流値を25Aとした場合の実験値を示す。
そして、この図7から分かるように、上記第1実施形態の水素供給装置S1によれば、従来の水素供給装置と比較して、透過係数及び透過係数比が高いという実験結果が得られた。
したがって、本実験によって、上記第1実施形態の水素供給装置S1が従来の水素供給装置と比較して、より効率的な水素ガスの供給が実現可能であると分かった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態である水素供給装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態である水素供給装置が備える第1導電性ガス拡散構造体の構成を説明するための模式図である。
【図3】本発明の第1実施形態である水素供給装置が備える第1導電性ガス拡散構造体の構成を説明するための模式図である。
【図4】本発明の第1実施形態である水素供給装置が備える第1導電性ガス拡散構造体の構成を説明するための模式図である。
【図5】本発明の第2実施形態である水素供給装置の概略構成を示す模式図である。
【図6】本発明の第1実施形態である水素供給装置の実験結果を示す表である。
【図7】本発明の第1実施形態である水素供給装置の実験結果を示す表である。
【符号の説明】
【0053】
S1,S2……水素供給装置,1……陽イオン交換膜(水素透過層)、2……水素分離膜(第1金属層、陽極)、3……水素結合膜(第2金属層、陰極)、4……第1導電性ガス拡散構造体(ガス拡散手段)、5……第2導電性ガス拡散構造体(ガス拡散手段)、6……配線層、7……給電装置(電圧印加手段、電子供給量調整手段)、8……ヒータ(加温手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素含有ガスに含まれる水素を選択的に透過させることによって水素を供給する水素供給装置であって、
触媒作用により水素分子を水素イオンに解離すると共に水素透過性を有する第1金属層と、
電子を用いて水素イオン同士を結合させて水素分子を生成すると共に水素透過性を有する第2金属層と、
前記第1金属層と前記第2金属層とに挟まれると共に電圧が印加されることによって前記第1金属層側から前記第2金属層側に前記水素イオンを透過する水素透過層と、
前記第1金属層を陽極とし、前記第2金属層を陰極として前記水素透過層に前記電圧を印加する電圧印加手段と
を備えることを特徴とする水素供給装置。
【請求項2】
前記第2金属層への前記電子の供給量を調整する電子供給量調整手段を備えることを特徴とする請求項1記載の水素供給装置。
【請求項3】
前記第1の金属層の前記水素透過層と接触される面と反対の面側において水素含有ガスを拡散するガス拡散手段を備えることを特徴とする請求項1または2記載の水素供給装置。
【請求項4】
前記第2の金属層の前記水素透過層と接触される面と反対の面側において水素ガスを拡散するガス拡散手段を備えることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の水素供給装置。
【請求項5】
前記ガス拡散手段は、溝部を備える構造、焼結金属からなる構造、あるいはグレーチング形状の金属板あるいはその積層体からなる構造のいずれかを有することを特徴とする請求項3または4記載の水素供給装置。
【請求項6】
前記水素透過層が晒される空間を加温する加温手段を備えることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の水素供給装置。
【請求項7】
前記第1金属層、前記第2金属層、及び前記水素透過層からなる単位ユニットを複数備えることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の水素供給装置。
【請求項8】
複数の前記単位ユニットが、前記第1金属層、前記第2金属層、及び前記水素透過層の積層方向に配列されていることを特徴とする請求項7記載の水素供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−196827(P2009−196827A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37979(P2008−37979)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(593171592)学校法人玉川学園 (38)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】