説明

水素分離膜、その製造方法及び水素分離方法

【課題】炭化水素の水蒸気改質用メンブレンリアクターにも利用可能な、高温においても脆性を示さず耐久性があると共に優れた水素透過性能を有する水素分離膜を提供する。また、その水素分離膜の製造方法を提供すると共に、水素分離方法を提供する。
【解決手段】パラジウムと銅と銀とを主体とする合金薄膜からなる水素分離膜であって、500℃以上での加熱処理後における前記合金薄膜の結晶構造が実質的に体心立方構造であることを特徴とする水素分離膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素分離膜、その製造方法及び水素分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パラジウム又はパラジウム合金の薄膜は、水素の選択的透過性を有するものであり、この特性を利用して水素分離膜として用いられている。パラジウム合金薄膜として代表的なものとしてはパラジウム・銀合金薄膜及びパラジウム・銅合金薄膜が挙げられる。
【0003】
パラジウム薄膜やパラジウム・銀合金薄膜はその結晶構造が面心立方構造を有しており、その特徴として水素を吸収すると膨張することが知られている。そのため水素分圧や温度の変動により膜が膨張収縮して膜が損傷・破壊される、所謂、水素脆化という現象が生じる。パラジウム又はパラジウム合金は水素分離膜として用いる場合には、一般に膜厚が薄いほど水素の透過速度が向上し、しかも高価なパラジウム等の貴金属使用量が減少する。しかし、面心立方構造を有するパラジウム系膜の過度の薄膜化は水素脆化によって膜が破壊されるため、膜寿命の低下をもたらす。
【0004】
一方、銅を40〜50重量%程度含有するパラジウム・銅合金はその結晶構造が300℃において体心立方構造であることが知られている(非特許文献1及び2)。このような体心立方構造を有するパラジウム・銅合金では水素の吸収が上記の面心立方構造の合金に比べて著しく少ないことが知られており(非特許文献3)、そのため水素脆化の危険が小さいことが予想され、実際に高い耐久性を示すことがわかっている。しかしながら、パラジウム・銅の2元系合金の状態図によればパラジウム・銅合金で最も高い水素透過性能を有する銅が40重量%含まれる合金では340〜550℃で面心立方構造と体心立方構造の混合された結晶構造となり、550℃以上で完全に面心立方構造に結晶転位が生じる(非特許文献1及び2)。実際に銅が40重量%含まれる合金を水素分離膜とした場合には、400℃と450℃における水素透過性能はほぼ同じで、450℃を超えると水素透過性能が著しく劣化する(非特許文献4)。これは450℃で既に面心立方構造の結晶相の出現があり、450℃を超えると面心立方構造が顕著になるために生じたと考えられる。よって面心立方構造に起因する水素脆化及び結晶転位に伴う脆化は450℃においても危惧され、そのため、銅が40重量%含まれる合金の水素分離膜としての利用は実用的には結晶相が主として体心立方構造である400℃以下で行うことが好ましいと言える。銅含有量が45〜48重量%のパラジウム・銅合金ではこの体心立方構造から面心立方構造への転位温度は600℃程度となり、体心立方構造と面心立方構造との共存領域はほとんど存在しないことが知られている(非特許文献1及び2)。よって、このような組成を有するパラジウム系水素分離膜は600℃近傍で体心立方構造を失わないので、600℃以下の温度領域では水素脆化及び結晶転位に伴う脆化の危険性が少ないことが予想される。しかし、銅含有量が40重量%より増加すると膜の結晶相が体心立方構造であっても水素透過速度の著しい低下が生じることが知られている。実際、47重量%のパラジウム・銅合金膜は600℃付近まで体心立方構造を保つが、その水素透過性能は40重量%のパラジウム・銅合金膜に比べて10〜20%程度しかないことが報告されている(非特許文献5)。
【0005】
水素分離膜の利用法として水素製造反応と水素分離を同一の反応器で行うメンブレンリアクター技術がある。炭化水素からの水素製造では通常水蒸気改質反応が行われるが、水素分離なしに反応を行う場合は化学平衡の制約から逃れるため、実用上、800℃以上の反応温度が選択される。それに対して、メンブレンリアクターを用いて水素分離を行いながら反応を行うとルシャトリエの法則によって化学平衡が生成物側に有利となるため、反応の低温化が図れる。しかし、反応を低温化すると触媒活性が低下するので大量の触媒を使用せざるを得ず、そのような事態を避けるには反応温度を少なくとも500℃以上、好ましくは550℃以上にする必要がある。ここで、従来から知られているパラジウム・銅合金からなる水素分離膜を炭化水素の水蒸気改質用メンブレンリアクターに採用することを考えると、脆化なく水素分離膜を利用するには例えば45重量%以上の高い銅含有率を有する水素透過性能の低い膜の使用を余儀なくされ、その結果としてメンブレンリアクターの効率を大きく低下させて実用性を失ってしまう。
【0006】
尚、水素分離膜として多くの特許文献にパラジウム、銅、銀の組み合わせの合金を使用できるとの記載がある(例えば特許文献1)。しかし、本発明者の知る限りにおいて、その結晶構造について言及は無く、また、パラジウム、銀、銅の組み合わせの合金に特定した先行例も無い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Binary Alloy Phase Diagrams Second Edition volume 2, 1454-1456 ASMInternational (1990)
【非特許文献2】Mei Li, Zhenmin Du, Cuiping Guo and Changrong Li, “A thermodynamic modeling of the Cu-Pd system”, Computer Coupling of Phase Diagrams and Thermochemistry 32,439-446 (2008)
【非特許文献3】Preeti Kamakoti, Bryan D. Morreale, Michael V. Ciocco, Bret H.Howard, Richard P. Killmeyer, Anthony V. Cugine and David S. Sholl, “Prediction of Hydrogen Flux Through Sulfer-Tolerant Binary AlloyMembranes, Science, 307, 569-573 (2005)
【非特許文献4】常木達也、白崎義則、安田勇、Pd−Cu合金の水素透過性能、日本金属学会誌、70巻658−661頁(2006)
【非特許文献5】B.H. Howard, R.P. Killmeyer, K.S. Rothenberger, A.V. Cugini, B.D.Morreale, R.M. Enick and F. Bustamante, “Hydrogenpermeance of palladium-copper alloy membranes over a wide range of temperaturesand pressures”, J. Membrane Science, 241, 207-218 (2004).
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−69207
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、炭化水素の水蒸気改質用メンブレンリアクターにも利用可能な、高温においても脆性を示さず耐久性があると共に優れた水素透過性能を有する水素分離膜を提供することである。また、その水素分離膜の製造方法を提供すると共に、水素分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、パラジウム・銅合金に少量の銀を添加すると銅含有量が少ない場合でも体心立方構造から面心立方構造への転移温度が高温領域に移動し550〜600℃における加熱後も、その体心立方構造が失われないパラジウム・銅・銀合金薄膜を形成でき、この薄膜が500〜600℃での水素分離にも耐えられることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の前記目的は、パラジウムと銅と銀とを主体とする合金薄膜からなる水素分離膜であって、500℃以上での加熱処理後における前記合金薄膜の結晶構造が実質的に体心立方構造であることを特徴とする水素分離膜により達成される。
【0012】
また、この水素分離膜において、前記合金薄膜における銅の含有量が37重量%〜40重量%であり、少なくとも500℃での加熱処理後の前記合金薄膜の結晶構造が実質的に体心立方構造であることが好ましい。
【0013】
また、前記合金薄膜における銅の含有量が40重量%〜42重量%であり、少なくとも550℃での加熱処理後の前記合金薄膜の結晶構造が実質的に体心立方構造であることが好ましい。
【0014】
また、前記合金薄膜における銅の含有量が42重量%〜44重量%であり、少なくとも600℃での加熱処理後の前記合金薄膜の結晶構造が実質的に体心立方構造であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の前記目的は、パラジウムと銅と銀とを主体とする合金薄膜からなる水素分離膜を製造する方法であって、パラジウム含有薄膜、銀含有薄膜及び銅含有薄膜の積層体を生成するステップと、前記積層体を350℃〜600℃で加熱処理して、結晶構造が実質的に体心立方構造となるパラジウムと銅と銀との合金薄膜を生成するステップとを備える水素分離膜により達成される。
【0016】
また、本発明の前記目的は、上述の水素分離膜を介して、一方側に水素含有混合気体を位置させ、他方側の水素分圧を水素含有混合気体側の水素分圧以下とすることを特徴とする水素含有混合気体からの水素の分離方法により達成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、炭化水素の水蒸気改質用メンブレンリアクターにも利用可能な、高温においても脆性を示さず耐久性があると共に優れた水素透過性能を有する水素分離膜、その製造方法及び水素分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1におけるパラジウム・銅・銀合金薄膜のX線回折パターンの測定結果を示すグラフである。
【図2】実施例2におけるパラジウム・銅・銀合金薄膜のX線回折パターンの測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例3におけるパラジウム・銅合金薄膜のX線回折パターンの測定結果を示すグラフである。
【図4】実施例4におけるパラジウム・銅合金薄膜のX線回折パターンの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の水素分離膜について具体的に説明する。
水素分離膜及びその製造方法
本発明の水素分離膜は、パラジウムと銅と銀とを主体とする合金であって、銅を好ましくは37〜44重量%、更に好ましくは38〜44重量%含有し、銀を好ましくは0.5重量%〜7重量%、更に好ましくは1重量%〜5重量%含有し、500℃以上での加熱においてもその主な結晶構造が体心立方構造であることを特徴とするパラジウム・銅・銀合金薄膜からなるものである。本発明の水素分離膜は銅の含有量によって、結晶構造の安定性が異なり、37重量%〜40重量%の銅を含有する水素分離膜は少なくとも500℃で体心立方構造を実質的に保持し、40重量%〜42重量%の銅を含有する水素分離膜は少なくとも550℃で体心立方構造を実質的に保持し、42重量%〜44重量%の銅を含有する水素分離膜は少なくとも600℃で体心立方構造を実質的に保持する。ここで、結晶構造の特定はX線回折パターンの測定によれば良く、本発明の体心立方構造を実質的に保持している水素分離膜を加熱後、室温でX線回折パターンを測定すると合金の体心立方構造に起因する明瞭なピークが検出され、面心立方構造に起因するピークの存在は明瞭に検出できない。
【0020】
この薄膜の好ましい膜厚は0.5〜30μmであり、更に好ましくは1〜20μmである。膜厚が小さすぎると欠陥が増加し水素の選択分離性能が悪化するし、膜厚が大きすぎると水素の透過性能が悪化する。
【0021】
本発明の水素分離膜は多孔性セラミックスや多孔性焼結金属のようなガス拡散が可能な支持体上に形成して差し支えない。多孔性セラミックスとしてはアルミナ多孔体、ジルコニア多孔体、セリア多孔体、ジルコニア−セリア多孔体、シリカ多孔体、チタニア多孔体、イットリア安定化ジルコニア多孔体、ムライト多孔体等が例示できる。多孔性焼結金属の材質については特に限定はなく、例えば、ステンレス、ハステロイ合金、インコネル合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金等を用いることができる。多孔性焼結金属からのパラジウム・銅・合金膜への金属拡散を防止するために、多孔性焼結金属の表面酸化処理や、銀、金等の拡散阻止層の形成処理を行っても良い。また、多孔性焼結金属上にアルミナ多孔体、ジルコニア多孔体、セリア多孔体、ジルコニア−セリア多孔体、シリカ多孔体、チタニア多孔体、イットリア安定化ジルコニア多孔体、ムライト多孔体等の多孔性セラミックスを修飾した支持体を使用しても良い。なお、支持体の形状について特に限定はなく、例えば、板状、中空の管状、有底筒状等の形状を採用することができる。
【0022】
本発明の水素分離膜は銅を好ましくは37重量%〜44重量%、更に好ましくは38重量%〜43重量%含有し、銀を好ましくは0.5重量%〜7重量%、更に好ましくは1重量%〜5重量%含有したパラジウム・銅・銀合金を圧延によって薄膜化することにより製造できる。
【0023】
しかし、圧延による薄膜化手法の場合、薄膜化するのに限界があるので、何らかの多孔性支持体上にパラジウム・銅・銀合金薄膜を成膜するのがより好ましい。成膜手法としては、例えばマグネトロンスパッタリングのようなスパッタリングによる方法や化学蒸着、めっき、といった方法を用いて差し支えないが、中でも、めっきによる方法が最も簡便で安価にパラジウム・銅・銀合金薄膜を成膜することができる。
【0024】
めっき法による場合、支持体表面が多孔性セラミックスのような導電性のない物質である場合、無電解めっき法によってパラジウム・銅・銀合金薄膜を構成する金属をめっきすれば良い。無電解めっきによって複数の金属元素をめっきする合金めっきを行うことは可能であるが、組成制御が難しく、段階的にめっきを行うのが好ましい。また、支持体表面が導電性のある物質の場合、無電解めっき、電気めっきの何れの方法を用いても差し支えない。第1段階のめっきとしてはパラジウムをめっきするのが組成制御の観点から好ましい。銅あるいは銀を第1段階でめっきした場合でも後段でのパラジウム・銅・銀合金薄膜を構成する金属のめっきと、引き続く加熱による合金化処理によって目的を達することができるが、銅及び銀はパラジウムに比べて電気的に卑なので銅や銀を先にめっきすると後段のパラジウムを含有した金属のめっきの時に置換めっきが生じてしまい組成制御が難しくなる。
【0025】
第1段階のめっきにより支持体表面は導電性となるので、第2段階以降は無電解めっき、電気めっきの何れの方法を行うことも可能である。また、場合によっては置換めっきを行うこともできる。第2段階以降、パラジウム・銅・銀合金薄膜を構成する金属を順次第1段階で成膜した層の上にめっきし、その後、加熱による合金化を行えば良い。銅は合金組成中で電気的に最も卑であるので、最終段階で銅を含む金属のめっきを行うのが組成制御の観点からは好ましい。
【0026】
ここで、めっきされた金属層の組成中に銅が好ましくは37重量%〜44重量%、更に好ましくは38重量%〜44重量%あり、銀が好ましくは0.5重量%〜7重量%、更に好ましくは1重量%〜5重量%あるようにした後、加熱処理により金属層の合金化を行う。一般に加熱処理によるパラジウム中への銅の拡散は容易であるが、銀の拡散は生じにくく、通常600℃を超える温度での加熱が必要となる。しかし、600℃を超える温度ではパラジウム・銅・銀合金の結晶相が面心立方構造となる可能性がある。これを回避するためには一旦、第1段階でパラジウム及び銀を積層して600℃を超える温度で加熱して銀をパラジウム中に拡散させてパラジウム・銀合金膜としてから、第2段階でその上に銅を積層し、その後、600℃以下で熱処理を行い、銅をパラジウム・銀合金中に拡散させてパラジウム・銀・銅合金とすることも可能である。しかし、第1段階での600℃を超える温度での熱処理は金属膜を劣化させる危険性が高く、新たな欠陥が発生して水素選択性の悪化につながる。
【0027】
このような600℃を超える温度での加熱処理を避けるには、第1段階で無電解めっきによりパラジウム層を形成し、次に第2段階で無電解めっきに比べて容易な電気めっきによるパラジウム・銀の合金めっきを行い、そして、第3段階で銅をめっきする。ここで、無電解めっき及び電気めっきには公知のめっき浴およびめっき方法を用いればよい。
【0028】
このようにして成膜した水素分離膜前駆体を好ましくは350〜600℃で、より好ましくは450〜550℃で加熱すると、加熱前に既に銀がパラジウム中に拡散した状態にあるので、合金化が容易に進行して体心立方構造を有するパラジウム・銅・銀合金薄膜が形成できる。この加熱処理は非酸化性雰囲気中で行えばよく、通常、還元ガス雰囲気下、あるいは不活性ガス雰囲気下で加熱することによって行うことができる。還元ガスとしては、例えば水素、メタノール等の還元性を有する気体を用いることができる。不活性ガスとしてはヘリウム、窒素、アルゴン、水蒸気、等が例示できる。あるいは、真空下で行ってもよい。この処理時間は、通常、5〜100時間程度とすればよい。処理中に水素分離膜表面に付着した有機物を取り除くため、酸素あるいは酸素を含んだ気体と接触させても差し支えない。
【0029】
水素分離方法
本発明の水素分離膜は、常法に従って、水素を含有する混合気体から水素のみを分離するために使用できる。例えば、該水素分離膜によって隔離された一方の側に水素含有混合気体を位置させて該水素分離膜の一方の面を水素含有気体と接触させ、他方の面側の水素分圧を水素含有混合気体側の水素分圧以下とすればよい。これにより水素分離膜中を水素が選択的に透過し、水素含有混合気体側にある水素のみを反対側に移動させて分離することができる。この場合の水素分離膜の温度は、パラジウム・銅・銀合金の体心立方構造が保持される範囲内であれば良く、通常、50〜650℃程度、好ましくは300〜600℃程度とすれば良い。温度が低すぎると水素透過速度が低下し、温度が高すぎると膜の体心立方構造から面心立方構造への構造変化が生じて劣化が進行するので好ましくない。
【0030】
本発明によれば、比較的簡単な方法によって、高温での耐久性に優れた水素分離膜が得られる。得られる水素分離膜は、特に炭化水素の水蒸気改質等の比較的高温を必要とする反応を対象とするメンブレンリアクター用として有効に利用できる。
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
有底筒状のステンレス製多孔性焼結金属(直径1cm、長さ5cm)の外表面にイットリア安定化ジルコニア粒子をコーティングして製作した層厚30μm、平均細孔径0.1μmの多孔性セラミックス支持体上に市販の無電解パラジウムめっき試薬を用いて、厚さ2.0μmのパラジウム層(パラジウム含有薄膜)を無電解めっきによって形成した。そして、引き続き、このパラジウム層をパラジウム及び銀のアンミン錯体からなる電気めっき液に浸漬し、パラジウム層上にパラジウム・銀合金(銀含有薄膜)の電気めっきを行い、パラジウム層上にパラジウム・銀合金の層を形成した。次に、このパラジウム層上に形成されたパラジウム・銀合金層を銅のエチレンジアミン錯体からなる電気めっき液に浸漬し、パラジウム・銀合金層上に銅の層(銅含有薄膜)を形成した。
【0032】
パラジウム層、パラジウム・銀合金層及び銅の層からなる積層体を洗浄・乾燥後にアルゴン気流下で400℃まで昇温し、引き続き、水素雰囲気下で500℃まで昇温し、500℃で40時間、加熱処理して多孔性セラミックスを支持体とする膜厚6μmのパラジウム・銅・銀合金薄膜を得た。
【0033】
パラジウムを主成分とする合金からなる水素分離膜の水素透過速度(k)は一般にシーベルト則に従う。即ち、
k=J/(p10.5−p20.5
となる。ここでJは水素透過流速(mmol/s/m)、p1は入口側水素分圧(Pa)、p2は出口側水素分圧(Pa)である。
【0034】
また、水素以外の気体では、一般にガス透過速度(k’)は、
k’=J’/(p3−p4)
と、なる。ここでJ’はガス透過流速(mmol/s/m)、p3は入口側ガス分圧(Pa)、p4は出口側ガス分圧(Pa)である。
【0035】
そこで、上記方法で得られた水素分離膜の性能を評価するため、水素差圧0〜2気圧、アルゴン差圧0〜4気圧の範囲でガス透過試験を行った結果、550℃において1.0mmol/s/m/Pa0.5の水素透過速度を得ると共に18nmol/s/m/Paのアルゴンの透過速度を得た。
【0036】
550℃におけるガス透過試験後、このパラジウム・銅・銀合金薄膜を室温まで冷却して測定したX線回折パターン(図1)は、体心立方構造の結晶構造に特有のものであり、面心立方構造に由来するピークは検出されなかった。また、ICP発光分光分析法によって得られた、このパラジウム・銅・銀合金薄膜の平均組成はパラジウム60重量%、銅38重量%、銀1.7重量%であった。なお、X線回析パターンは、マックサイエンス社製のX線回折装置(型番:MP6XCE、Cu線源)を用いて測定し、パラジウム・銅・銀合金薄膜の平均組成は、リガク/SPECTRO社製のICP発光分析装置(型番:CIROS−120EOP)を用いて測定した。
【0037】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で多孔性セラミックス支持体上に市販の無電解パラジウムめっき試薬を用いて、厚さ1.8μmのパラジウム層を無電解めっきによって形成した。そして、引き続き、実施例1と同様の方法で、パラジウム層上にパラジウム・銀合金の層を形成し、そして、その層上に銅の層を形成した。
【0038】
これを洗浄・乾燥後にアルゴン気流下で400℃まで昇温し、引き続き、水素雰囲気下で500℃まで昇温し、500℃で40時間、加熱処理して多孔性セラミックスを支持体とする膜厚6μmのパラジウム・銅・銀合金薄膜を得た。
【0039】
上記方法で得られた水素分離膜の性能を評価するため実施例1と同様の方法でガス透過試験を行った結果、600℃において0.6mmol/s/m/Pa0.5の水素透過速度を得ると共に1nmol/s/m/Paのアルゴンの透過速度を得た。
【0040】
600℃におけるガス透過試験後、このパラジウム・銅・銀合金薄膜を室温まで冷却して測定したX線回折パターン(図2)は、体心立方構造の結晶構造に特有のものであり、面心立方構造に由来するピークは検出されなかった。また、ICP発光分光分析法によって得られた、このパラジウム・銅・銀合金薄膜の平均組成はパラジウム57重量%、銅41重量%、銀1.7重量%であった。
【0041】
[実施例3]
実施例1と同様の方法で多孔性セラミックス支持体上に市販の無電解パラジウムめっき試薬を用いて、厚さ1.3μmのパラジウム層を無電解めっきによって形成した。そして、引き続き、実施例1と同様の方法で、パラジウム層上にパラジウム・銀合金の層を形成し、そして、その層上に銅の層を形成した。
【0042】
これを洗浄・乾燥後にアルゴン気流下で400℃まで昇温し、引き続き、水素雰囲気下で500℃まで昇温し、500℃で20時間、加熱処理して多孔性セラミックスを支持体とする膜厚4μmのパラジウム・銅・銀合金薄膜を得た。
【0043】
上記方法で得られた水素分離膜の性能を評価するため実施例1と同様の方法でガス透過試験を行った結果、600℃において0.6mmol/s/m/Pa0.5の水素透過速度を得ると共に0.5nmol/s/m/Paのアルゴンの透過速度を得た。
【0044】
600℃におけるガス透過試験後、このパラジウム・銅・銀合金薄膜を室温まで冷却して測定したX線回折パターン(図3)は、体心立方構造の結晶構造に特有のものであり、面心立方構造に由来するピークは検出されなかった。また、ICP発光分光分析法によって得られた、このパラジウム・銅・銀合金薄膜の平均組成はパラジウム56重量%、銅43重量%、銀1.2重量%であった。
【0045】
[実施例4]
実施例1と同様の方法で多孔性セラミックス支持体上に市販の無電解パラジウムめっき試薬を用いて、厚さ0.5μmのパラジウム層を無電解めっきによって形成した。そして、引き続き、実施例1と同様の方法で、パラジウム層上にパラジウム・銀合金の層を形成し、そして、その層上に銅の層を形成した。
【0046】
これを洗浄・乾燥後にアルゴン気流下で400℃まで昇温し、引き続き、水素雰囲気下で500℃まで昇温し、500℃で40時間、加熱処理して多孔性セラミックスを支持体とする膜厚6μmのパラジウム・銅・銀合金薄膜を得た。
【0047】
上記方法で得られた水素分離膜の性能を評価するため実施例1と同様の方法でガス透過試験を行った結果、600℃において0.6mmol/s/m/Pa0.5の水素透過速度を得ると共に1nmol/s/m/Paのアルゴンの透過速度を得た。
【0048】
600℃におけるガス透過試験後、このパラジウム・銅・銀合金薄膜を室温まで冷却して測定したX線回折パターン(図4)は、体心立方構造の結晶構造に特有のものであり、面心立方構造に由来するピークは検出されなかった。また、ICP発光分光分析法によって得られた、このパラジウム・銅・銀合金薄膜の平均組成はパラジウム51重量%、銅44重量%、銀4.6重量%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムと銅と銀とを主体とする合金薄膜からなる水素分離膜であって、500℃以上での加熱処理後における前記合金薄膜の結晶構造が実質的に体心立方構造であることを特徴とする水素分離膜。
【請求項2】
前記合金薄膜における銅の含有量が37重量%〜40重量%であり、少なくとも500℃での加熱処理後の前記合金薄膜の結晶構造が実質的に体心立方構造であることを特徴とする請求項1に記載の水素分離膜。
【請求項3】
前記合金薄膜における銅の含有量が40重量%〜42重量%であり、少なくとも550℃での加熱処理後の前記合金薄膜の結晶構造が実質的に体心立方構造であることを特徴とする請求項1に記載の水素分離膜。
【請求項4】
前記合金薄膜における銅の含有量が42重量%〜44重量%であり、少なくとも600℃での加熱処理後の前記合金薄膜の結晶構造が実質的に体心立方構造であることを特徴とする請求項1に記載の水素分離膜。
【請求項5】
パラジウムと銅と銀とを主体とする合金薄膜からなる水素分離膜を製造する方法であって、
パラジウム含有薄膜、銀含有薄膜及び銅含有薄膜の積層体を生成するステップと、
前記積層体を350℃〜600℃で加熱処理して、結晶構造が実質的に体心立方構造となるパラジウムと銅と銀との合金薄膜を生成するステップとを備える水素分離膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の水素分離膜を介して、一方側に水素含有混合気体を位置させ、他方側の水素分圧を水素含有混合気体側の水素分圧以下とすることを特徴とする水素含有混合気体からの水素の分離方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−152701(P2012−152701A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14793(P2011−14793)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】