説明

水素吸着材の活性化方法

【課題】水素吸着材の水素ガス吸着能を向上させる。
【解決手段】水素吸着材としての金属−有機骨格構造体MOFを容器10に収容する。この容器10内に、不活性ガスボンベ35から精製器38及び加熱器40を経由して不活性ガスを導入する。不活性ガスは、金属−有機骨格構造体MOFに吸着したガスを離脱させる。このガスは、不活性ガスに同伴されて容器10から排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガス貯蔵タンクに収容された水素吸着材の水素ガス吸着能を向上させる水素吸着材の活性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における環境保護への関心の高まりから、燃料電池を搭載した燃料電池車が着目されている。燃料電池車は燃料電池を走行駆動源とするので、ガソリンや軽油を燃焼させる必要がなく、従って、炭化水素ガスやNOx、SOx等を排出することがないからである。
【0003】
燃料電池には、水素を含有する燃料ガスと、酸素を含有する酸化剤ガスとを供給する必要がある。酸化剤ガスとしては、例えば、大気を使用することができるが、燃料ガスは、例えば、水素ガス貯蔵タンク等の燃料ガス供給源から供給しなければならない。このため、燃料電池車には、燃料電池の他、燃料ガス供給源が搭載される。
【0004】
このように水素ガス貯蔵タンクを燃料ガス供給源とする場合、その内部に水素吸着材が収容されることが検討されている。この場合、水素吸着材が水素を吸着保持するので、水素吸着材が収容されていない場合に比して多くの水素を貯留することができるからである。
【0005】
ところで、水素吸着材に水素ガス以外のガスが吸着されると、必然的に、該水素吸着材の水素ガス吸着量が低下する。このため、吸着された水素ガスを離脱させる処理が必要となる。このような処理方法の1種として、例えば、非特許文献1に記載されているように、カーボンナノチューブに対して350℃で3時間の真空排気を行うことが挙げられる。
【0006】
また、特許文献1には、吸着装置の吸着材収容部分に窒素ガス等を導入しながら吸着材を収容することが開示されている。
【0007】
【非特許文献1】平成13年度NEDO成果報告書「NEDO−WE−NET0011」公開用51101633−0−1、水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE−NET)第II期研究開発タスク11、「水素貯蔵材料の開発」p355-357
【特許文献1】特開平5−76716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1記載の方法では、カーボンナノチューブが容器に充填された後に350℃、3時間の真空排気が行われる。この場合、容器が加熱されるので、該容器が熱歪等に起因して劣化することが懸念される。
【0009】
また、特許文献1記載の方法では、窒素ガス等の供給システムを付設する必要がある。燃料電池車にこのような供給システムを搭載すると、燃料電池車の重量が大きくなるとともに、供給システムを搭載するスペースが必要となるので機器配置の自由度が低下するという不具合を招く。
【0010】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、容器が劣化することがなく、しかも、燃料電池車の重量を増加させることもなく機器配置の自由度を低下させることもない水素吸着材の活性化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は、容器に水素ガスを充填する前に、前記容器に収容された水素吸着材の表面に吸着された水素ガス以外のガスを除去する水素吸着材の活性化方法であって、
供給口と排出口とを有する容器に水素吸着材を収容する工程と、
前記供給口から水素吸着材に吸着されない不活性ガスを導入する一方、水素吸着材の表面に吸着したガスを同伴した前記不活性ガスを前記排出口から排出する工程と、
を有することを特徴とする。なお、本発明における「不活性ガス」は、水素吸着材に吸着されないガスを指称するものとする。
【0012】
例えば、容器に収容される際に大気に露呈された水素吸着材には、水蒸気等の水素ガス以外のガスが吸着する。本発明においては、容器内に不活性ガスを流通することで前記ガスを不活性ガスに吸収させることにより、該ガスを水素吸着材から離脱させるようにしている。このため、水素吸着材における水素ガスを吸着可能な部位が増加し、従って、水素ガス吸着能が向上する。換言すれば、水素吸着材が活性化される。
【0013】
容器内では、不活性ガスが水素吸着材に均等に接触するので、水素吸着材にガスが除去されない部位が発生することを回避することができる。また、容器それ自体を加熱する必要は特になく、この場合、容器に熱歪が生じることもない。
【0014】
しかも、例えば、燃料電池車に搭載する前に容器内の水素吸着材を活性化することができるので、燃料電池車に活性化のためのシステムを搭載する必要がない。従って、燃料電池車の重量増加を招くことはなく、機器配置の自由度を低下させることもない。
【0015】
本発明では、不活性ガスを加熱して容器内に導入するようにしてもよい。この場合、水素吸着材に吸着されたガスに熱エネルギも供与されるので、該ガスを一層効率よく離脱させることができる。
【0016】
また、不活性ガス中のH2O、CO2、CO、O2は水素吸着材に吸着されるので、水素ガスが吸着可能な部位が低減することになる。これを回避するべく、不活性ガスを精製することにより少なくともH2O、CO2、CO、O2の濃度を低減して容器内に導入することが好ましい。
【0017】
なお、排出口から排出された不活性ガスを供給口から容器内に再度導入するようにしてもよい。この場合、水素吸着材を活性化するための不活性ガス消費量が著しく低減されるので、コスト的に有利である。
【0018】
また、不活性ガスを導入する前に容器内の排気を行うことが好ましい。これにより、容器内の全体に不活性ガスを到達させることが容易となる。
【0019】
いずれの場合においても、水素吸着材の好適な例としては、金属−有機骨格構造体を挙げることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、容器内に不活性ガスを流通することにより、該容器に予め収容された水素吸着材の活性化を行うようにしている。このため、容器に熱歪が生じることはない。また、容器を燃料電池車に搭載する等の実使用に供する前に該容器内の水素吸着材を活性化することができるので、活性化システムを付設する必要がない。
【0021】
しかも、本発明においては、容器内に不活性ガスを流通するという極めて簡便な作業を行うことにより、水素吸着材の水素ガス吸着能を容易に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る水素吸着材の活性化方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態においては、水素吸着材として、錯体の1種である金属−有機骨格構造体を例示して説明する。
【0023】
金属−有機骨格構造体は、金属原子又は金属イオンを有機分子又は有機イオンが囲繞するように配位結合した構造であり、ゲスト分子が存在しない場合であっても安定な多孔性骨格構造を維持する。なお、水素ガスは、この多孔性骨格構造内に吸着される。
【0024】
金属−有機骨格構造体の具体例としては、[M2(4,4’−ビピリジン)3(NO34](ただし、MはCo、Ni、Znのいずれか)、[M2(1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン)2](ただし、MはCu、Znのいずれか)、[Fe2(トランス−4,4’−アゾピリジン)4(NCS)4]等が挙げられる。
【0025】
金属−有機骨格構造体の別の具体例としては、米国特許出願公開2003/0004364号明細書に記載されているように、その一般式がM4O(芳香族ジカルボキシレートアニオン)3で表されるものが挙げられる。なお、Mの好適な例としては、Zn、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Al、Ru、Rh、Pd、Ag、Ptが挙げられる。また、芳香族ジカルボキシレートアニオンに代替して芳香族ジカルボキシレートアニオン誘導体で構成されたものであってもよい。
【0026】
芳香族ジカルボキシレートアニオン又はその誘導体の好適な例としては、1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン、2−ブロモ−1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン、2−アミノ−1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン、2,5−プロピル−1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン、2,5−ペンチル−1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン、シクロブテン−1,4−ベンゼンジカルボキシレートアニオン、1,4−ナフタレンジカルボキシレートアニオン、2,6−ナフタレンジカルボキシレートアニオン、4,4’−ビフェニルジカルボキシレートアニオン、4,5,9,10−テトラヒドロピレン−2,7−ジカルボキシレートアニオン、ピレン−2,7−ジカルボキシレートアニオン、4,4”−テルフェニルジカルボキシレートアニオン等が挙げられる。各々の構造式は、下記の通りである。
【0027】
【化1】

【0028】
【化2】

【0029】
【化3】

【0030】
【化4】

【0031】
【化5】

【0032】
【化6】

【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
【化9】

【0036】
【化10】

【0037】
【化11】

【0038】
【化12】

【0039】
以下、本実施の形態に係る活性化方法につき説明する。
【0040】
図1は、水素吸着材としての金属−有機骨格構造体MOFが収容された容器10に不活性ガス供給ライン12と排気ライン14とが連結された状態を模式的に示す活性化システム16aの概略構成図である。この場合、容器10は、ステンレス鋼の1種であるSUS304からなり、耐圧圧力20MPa、容積100cm3である。なお、金属−有機骨格構造体MOFは、容器10に充填された未使用のものであってもよいし、水素ガスの吸着・放出が繰り返されて水素ガス吸着能が低下したものであってもよい。
【0041】
容器10の下端面及び上端面には、第1円筒状突出部20及び第2円筒状突出部22がそれぞれ設けられており、これら第1円筒状突出部20及び第2円筒状突出部22の各々には、バルブ24、26及びコネクタ28、30が接続されている。また、第1円筒状突出部20又は第2円筒状突出部22に至るそれぞれの開口には、フィルタ32、34が保持されている。
【0042】
コネクタ28を介して連結された不活性ガス供給ライン12には、不活性ガスボンベ35からコネクタ28に至るまでの間に、バルブ36、精製器38、加熱器40が配設されている。一方、コネクタ30を介して連結された排気ライン14からは、真空ポンプ42の上流側に配設されたバルブ44に至るまでの間にガス採取管46とベント管48とが分岐している。ベント管48にはバルブ50が介装されており、また、該ベント管48の近傍には、圧力計52が設置されている。
【0043】
バルブ24、26、36、44、50を全閉として真空ポンプ42を付勢し、バルブ26、44を開放する。これにより、容器10内の排気がなされる。この排気により、後述する不活性ガスによる容器10内の置換を短時間で終了することができる。換言すれば、排気を行うことにより、容器10内を効率よく不活性ガスで置換することが可能となる。
【0044】
圧力計52の指示によって容器10内が10-1Torr程度であることが確認されたら、バルブ44を閉止する。次に、バルブ36、26、24を開放し、不活性ガスボンベ35から不活性ガスを導入する。
【0045】
ここで、不活性ガスとは、水素吸着材である金属−有機骨格構造体MOFに吸着されることのないガスを指称する。そのようなガスの好適な例としては、N2、Ar、Ne、He、Xe、Kr等が挙げられる。
【0046】
不活性ガスは、先ず精製器38に導入される。この精製器38内には、例えば、モレキュラーシーブが充填されたカラムが収容されており、該カラムを通過した不活性ガスからは、H2O、CO2、CO、O2が除去される。
【0047】
精製された不活性ガスは、加熱器40によって100〜130℃程度に加温された後、容器10内に導入される。金属−有機骨格構造体MOFに吸着されたガスは、導入された不活性ガスに吸収されることによって金属−有機骨格構造体MOFから離脱する。また、不活性ガスが加温されているので、金属−有機骨格構造体MOFに吸着されたガスは、不活性ガスから熱エネルギが伝達されることによっても活性化する。従って、ガスを一層効率よく金属−有機骨格構造体MOFから離脱させることができる。
【0048】
圧力計52の指示から容器10内が1気圧程度となったことが確認されたら、バルブ50を開放する。これに伴い不活性ガスがベント管48から排出され、その結果、不活性ガスが容器10内を流通する。
【0049】
上記したように、不活性ガスに吸収されること、及び不活性ガスから熱エネルギが供与されることにより、金属−有機骨格構造体MOFに吸着したガスが離脱する。離脱したガスは、容器10内を流通する不活性ガスに同伴されてベント管48から排出される。
【0050】
この流通の間、ガス採取管46を介してマイクロシリンジで排出ガスのサンプリングを行う。サンプリングした排出ガスを四重極質量分析計やガスクロマトグラフィで分析し、不活性ガス以外の成分に基づくピークが出現しなくなった時点で、金属−有機骨格構造体MOFからのガスの離脱、換言すれば、金属−有機骨格構造体MOFの活性化が終了したと判断する。
【0051】
又は、図2に示すように、精製器38の下流側から分岐してベント管48に橋架された分岐ライン54を設けるようにしてもよい。この場合、熱伝導度検出器56を介して分岐ライン54とベント管48とを接続すればよい。
【0052】
図2に示す活性化システム16bにおいては、熱伝導度検出器56によって、容器10に導入される不活性ガスと、金属−有機骨格構造体MOFから離脱したガスを同伴して容器10から排出される排出ガスとの熱伝導度の差を検出する。両熱伝導度に差がある場合は排出ガスに不活性ガス以外のガスが含まれることを意味し、両熱伝導度が同等となった場合は不活性ガスと排出ガスとの成分が同等となったことを意味する。すなわち、熱伝導度の差が同等となった場合に、金属−有機骨格構造体MOFからのガスの離脱、すなわち、金属−有機骨格構造体MOFの活性化が終了したと判断する。
【0053】
さらに、ベント管48に代替して、図3に示すように、精製器38の上流側からバルブ44の上流側に橋架された循環ライン58を設けるようにしてもよい。この場合、循環ライン58には、逆止弁59、循環ポンプ60、バルブ50が介装される。
【0054】
図3に示す活性化システム16cでは、図1に示す活性化システム16aに準拠して容器10に不活性ガスを導入した後、バルブ36を閉止し、次に、循環ポンプ60を付勢してバルブ50を開放する。これにより、不活性ガスは、逆止弁59、精製器38、加熱器40を経て容器10内に再度導入される。すなわち、不活性ガスが循環されるようになる。なお、不活性ガスに同伴されたガスは、精製器38によって分離される。
【0055】
このように不活性ガスを循環させることにより、金属−有機骨格構造体MOFを活性化するための不活性ガスの消費量が著しく低減する。すなわち、コスト的に有利となる。
【0056】
図3に示す活性化システム16cにおいても、金属−有機骨格構造体MOFの活性化は、図1に示す活性化システム16aと同様に、ガス採取管46を介してサンプリングしたガスを四重極質量分析計やガスクロマトグラフィで分析し、不活性ガス以外の成分に基づくピークが出現しなくなった時点で終了したと判断すればよい。
【0057】
また、図2に示す活性化システム16bと同様に熱伝導度の差を検出する場合には、図4に示すように、精製器38を通過した不活性ガスと循環ポンプ60を通過した排出ガスとの熱伝導度の差を検出できるように熱伝導度検出器56を設けて活性化システム16dを構築すればよい。
【0058】
このようにして不活性ガスを容器10内に流通することにより、金属−有機骨格構造体MOF(水素吸着材)に吸着したガスを効率よく除去することができる。ガスが除去された金属−有機骨格構造体MOFでは、水素ガスを吸着可能な部位が多く存在する。このため、多量の水素ガスを吸着することが可能となる。換言すれば、不活性ガスを流通することによって金属−有機骨格構造体MOFが活性化される。
【0059】
このような活性化過程においては、不活性ガスそのものを加温するので、加温された不活性ガスが容器10内に導入される。従って、容器10内に収容された金属−有機骨格構造体MOFに対して加温された不活性ガスが均等に接触するので、金属−有機骨格構造体MOFにガスが除去されない部位が発生することが回避される。また、容器10に熱歪が生じることもない。
【0060】
しかも、容器10を燃料電池車に搭載する前に該容器10内の金属−有機骨格構造体MOFを活性化することができるので、燃料電池車に活性化のための活性化システムを付設する必要もない。このため、燃料電池車の重量増加を招くこともなく、機器配置の自由度を低下させることもない。
【0061】
金属−有機骨格構造体MOFの活性化が終了した後、バルブ24、50を閉止し、バルブ44を開放する。これにより、容器10内が真空ポンプ42で排気される。
【0062】
容器10内の圧力が10-1Torr程度となったら、バルブ26を閉止し、コネクタ28、30から不活性ガス供給ライン12及び排気ライン14を切り離す。その後、容器10を水素ガス供給システムに接続して水素ガスの充填を行えばよい。
【0063】
なお、上記した実施の形態では、水素吸着材として金属−有機骨格構造体MOFを例示して説明したが、水素吸着材が特にこれに限定されるものではないことはいうまでもない。
【0064】
また、不活性ガスを容器10内に導入する前に加熱する必要は特になく、従って、不活性ガス供給ライン12に加熱器40を介装する必要は特にない。
【0065】
さらに、不活性ガスを精製するためにはモレキュラーシーブが充填されたカラム以外を用いてもよく、例えば、不活性ガスからH2Oを除去する場合、シリカゲルや五酸化二燐(P25)を使用するようにしてもよい。
【0066】
さらにまた、容器10内を排気した後に不活性ガスを導入する際、バルブ26を閉止しておく必要は特になく、バルブ44を閉止する一方でバルブ26、50を開放した状態で不活性ガスを導入するようにしてもよい。
【実施例1】
【0067】
1.2gの2,6−ナフタレンジカルボン酸と、11gのZn(NO32・4H2Oとを、密閉容器中で1000mlのジエチルフォルムアミド(DEF)に溶解した。
【0068】
この溶液を密閉容器に貯留し、且つ密閉容器を密閉状態に保ったまま、95℃で20時間加熱して、多孔性骨格構造にDEF分子が物理吸着したZn4O(2,6−ナフタレンジカルボキシレートアニオン)3・(DEF)6を得た。この反応生成物をろ過して溶媒のDEFと分離した後、ろ過残留物であるZn4O(2,6−ナフタレンジカルボキシレートアニオン)3・(DEF)6をクロロフォルムに室温で24時間浸漬し、多孔性骨格構造に物理吸着したDEF分子をCHCl3分子に置換した。これをろ過等で溶媒と分離した後、さらに、真空引き装置内に静置して真空引きを行い、多孔性骨格構造からCHCl3分子を脱離させてZn4O(2,6−ナフタレンジカルボキシレートアニオン)3とした。
【0069】
この操作を繰り返し行い、210gの粉末状Zn4O(2,6−ナフタレンジカルボキシレートアニオン)3を得た。
【0070】
次に、温度20℃の大気圧下で、得られた50gのZn4O(2,6−ナフタレンジカルボキシレートアニオン)3を容器10内に収容し、図1に示すように不活性ガス供給ライン12と排気ライン14とを接続して、バルブ24、26、36、44、50を全閉とした。この状態で、真空ポンプ42を付勢した。バルブ26、44を開放して容器10内を排気し、容器10内の圧力が10−1Torrとなった時点でバルブ44を閉止した。
【0071】
さらに、バルブ36、26、24を開放して不活性ガスボンベ35からN2ガスを供給した。N2ガスは精製器38で99.999%に精製した後、加熱器40で110℃に加温した。
【0072】
容器10内のN2ガス圧力が1気圧以上となった時点で、バルブ50を開放して110℃のN2ガスを流通させた。30分が経過した後、ガス採取管46から排出ガスをサンプリングし、ガスクロマトグラフィで分析したところ、N2ガス以外の成分に基づくピークは出現しなかった。このことから、Zn4O(2,6−ナフタレンジカルボキシレートアニオン)3からのガスの脱離が終了したと判断し、バルブ36、24、50を閉止する一方、バルブ44を開放して容器10内を10-1Torrとなるまで排気した。その後、バルブ26を閉止し、コネクタ28、30から容器10を取り外した。
【0073】
次に、図5に示す水素ガス吸着量測定システム70に容器10を組み込み、吸着水素ガス量を測定した。
【0074】
この水素ガス吸着量測定システム70においては、容器10に水素ガスを供給するための供給ライン72と、容器10から水素ガスを放出するための排出ライン74とがコネクタ28から分岐して設けられる。
【0075】
供給ライン72は、水素ガスボンベ76から容器10にわたって橋架される。供給ライン72には、水素ガスボンベ76側から、レギュレータ78、マニュアルバルブ80が介装される。
【0076】
一方、排出ライン74には真空ポンプ82が介装され、この真空ポンプ82に至るまで、容器10側からマニュアルバルブ84、レギュレータ86、ニードルバルブ88、マスフローメータ90、自動バルブ92が配置される。なお、図5中、参照符号94、96は、ともに圧力計を示す。
【0077】
供給ライン72と排出ライン74中のガスを除去するべく、真空ポンプ82を付勢し、バルブ24、マニュアルバルブ80、84をともに開放し、さらに自動バルブ92を開放して、圧力が10-3Torrとなるまで真空引きを継続する。その後、マニュアルバルブ80、84及び自動バルブ92を閉止する。
【0078】
次に、レギュレータ78を10MPaに設定し、マニュアルバルブ80を開放して、容器10に10MPaの水素ガスを導入する。
【0079】
その後、マニュアルバルブ80を閉止して真空ポンプ82を付勢し、自動バルブ92を開放する。さらに、マニュアルバルブ84を開放すれば、容器10内の水素ガスが真空ポンプ82の作用下に放出される。
【0080】
放出された水素ガスは、レギュレータ86とニードルバルブ88によって圧力が0.1MPaまで低下してマスフローメータ90に至る。このマスフローメータ90を通過した水素ガスの積算流量を求める。積算流量の増加が認められなくなった時点で水素ガスがすべて放出されたものと判断し、マニュアルバルブ84、自動バルブ92を閉止して真空ポンプ82を停止する。
【0081】
以上のようにして求められた放出水素ガスのモル数は、0.70molであった。
【0082】
比較のため、N2ガスの流通を行わなかったことを除いては上記と同様にしてZn4O(2,6−ナフタレンジカルボキシレートアニオン)3の放出水素ガス量を測定したところ、放出水素ガスのモル数は0.66molであった。この結果から、金属−有機骨格構造体MOFを容器内に収容した後に該容器内に不活性ガスを流通することにより、水素ガス吸着能に優れた水素吸着材となることが明らかである。
【実施例2】
【0083】
50gのZn4O(2,6−ナフタレンジカルボキシレートアニオン)3を容器10に収容した後、図1に示す活性化システム16aを構築した。実施例1に準拠してN2ガスの流通による活性化を行った後、容器10を図5に示す水素ガス吸着量測定システム70に組み込み、水素ガスの吸着・放出操作を500回繰り返した。
【0084】
その後、容器10を水素ガス吸着量測定システム70から切り離し、図1に示す活性化システム16aを再度構築して、N2ガスの流通による活性化を行った。そして、容器10を図5に示す水素ガス吸着量測定システム70に再度組み込み、水素ガスの吸着・放出操作を行ったところ、放出水素ガスのモル数は0.70molであった。
【0085】
比較のため、Zn4O(2,6−ナフタレンジカルボキシレートアニオン)3の活性化を行うことなく水素ガスの吸着・放出操作を500回繰り返し、上記の再活性化を行うことなく水素ガスの吸着・放出操作を行った。この際の放出水素ガスのモル数は、0.61molであった。すなわち、水素ガスの吸着・放出操作を繰り返すことにより、放出水素ガスのモル数が低下することが確認された。
【0086】
また、この結果から、水素ガスの吸着・放出を繰り返し営んだZn4O(2,6−ナフタレンジカルボキシレートアニオン)3であっても、N2ガスを流通することによって再活性化することができることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】容器内に収容された水素吸着材を活性化するための活性化システムの概略構成図である。
【図2】図1とは別形態の活性化システムの概略構成図である。
【図3】図1、図2とは別形態の活性化システムの概略構成図である。
【図4】図1〜図3とは別形態の活性化システムの概略構成図である。
【図5】水素吸着材の水素ガス放出量を測定するための水素ガス吸着量測定システムを示すシステム概略構成図である。
【符号の説明】
【0088】
10…容器 12…不活性ガス供給ライン
14…排気ライン 16a〜16d…活性化システム
38…精製器 40…加熱器
42、82…真空ポンプ 48…ベント管
54…分岐ライン 56…熱伝導度検出器
58…循環ライン 60…循環ポンプ
70…水素ガス吸着量測定システム 72…供給ライン
74…排出ライン 76…水素ガスボンベ
90…マスフローメータ MOF…金属−有機骨格構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に水素ガスを充填する前に、前記容器に収容された水素吸着材の表面に吸着された水素ガス以外のガスを除去する水素吸着材の活性化方法であって、
供給口と排出口とを有する容器に水素吸着材を収容する工程と、
前記供給口から水素吸着材に吸着されない不活性ガスを導入する一方、水素吸着材の表面に吸着したガスを同伴した前記不活性ガスを前記排出口から排出する工程と、
を有することを特徴とする水素吸着材の活性化方法。
【請求項2】
請求項1記載の活性化方法において、前記不活性ガスを加熱して前記容器内に導入することを特徴とする水素吸着材の活性化方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の活性化方法において、前記不活性ガスを精製することにより少なくともH2O、CO2、CO、O2の濃度を低減して前記容器内に導入することを特徴とする水素吸着材の活性化方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の活性化方法において、前記排出口から排出された不活性ガスを前記供給口から前記容器内に再度導入することを特徴とする水素吸着材の活性化方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の活性化方法において、前記不活性ガスを導入する前に前記容器内の排気を行うことを特徴とする水素吸着材の活性化方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の活性化方法において、前記水素吸着材としての金属−有機骨格構造体を前記容器内に収容することを特徴とする水素吸着材の活性化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−220173(P2006−220173A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31732(P2005−31732)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】