説明

水素吸蔵用の多孔壁の中空ガラスミクロスフィア

1から200ミクロンの間の直径の範囲、1.0から2.0gm/ccの間の密度、および約10から約1000オングストロームの平均孔径を画定する壁の開口部を備えた多孔壁構造を有し、その内部に水素吸蔵物質を含む多孔壁の中空ガラスミクロスフィアが提供される。多孔壁構造によって、水素吸蔵物質を多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの内部に導入することが容易になる。このように、結果として生じる中空ガラスミクロスフィアは、ミクロスフィアの多孔壁を通して水素を選択的に移送するための膜を形成することが可能であり、また孔径が小さいため、気体または液体の汚染物質が中空ガラスミクロスフィアの内部に侵入することが妨げられる。水素吸蔵物質(例えばパラジウム)は、それらを部分真空に曝し、それらを水素吸蔵物質を含む溶液で囲み、圧力を高めて溶液を球体に押し込み、それらを乾燥させ、最終的に水素吸蔵物質を還元することによって中空ガラスミクロスフィアに導入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国エネルギー省によって認められた契約番号DE−AC0996−SR18500に基づく政府支援によって行われたものである。米国政府は本発明における一定の権利を有する。
【0002】
本願は、2005年10月21日出願の米国特許出願第11/256442号明細書の一部継続出願であり、それを参照によって本明細書に援用する。
【0003】
本発明は、中空ガラスミクロスフィア(hollow glass microsphere)、およびミクロスフィアを水素吸蔵(hydrogen storage)システムの一部として使用する方法を対象とするものである。中空ガラスミクロスフィアの壁は、一連の孔を画定する。その孔によって、中空ガラスミクロスフィアの内部に水素吸蔵物質を入れることが容易になる。その後、密閉された中空ガラスミクロスフィアの内部に水素吸蔵物質を維持するために、全体的な孔径を変更または低減する、あるいは個々の中空ガラスミクロスフィアをコーティングすることによって、中空ガラスミクロスフィアの多孔度を変更することができる。コーティングおよび/または制御された孔径により、中空ガラスミクロスフィアの壁を通して水素ガスを選択的に吸着すると同時に、その中に封入された水素吸蔵物質を外部の他の気体および流体から分離することが可能になる。
【0004】
その後、中空ガラスミクロスフィアを、温度の変化、圧力、または水素ガスの放出を引き起こす他の放出の刺激トリガに曝すことができる。脱水素化後、中空ガラスミクロスフィアおよび水素吸蔵物質を再使用して、再び水素ガスを選択的に吸着させることが可能である。
【背景技術】
【0005】
中空ガラスミクロスフィア(HGM)の形成は、当分野ではよく知られている。中空ガラスミクロスフィアの製造については、既に記述されている(例えば、特許文献1(Beck)、特許文献2(Garnier)、および特許文献3(Garnier)参照。それらを参照によって本明細書に援用する。)。
【0006】
当分野では、吸着物質を収容するための半透過性の液体分離媒体を形成する中空のガラス壁を有する、大型のマクロスフィアを製造することも知られている。マクロスフィア構造の製造は、いくつかの文献に見られる(例えば、Torobinに対する特許文献4および特許文献5参照。これらを参照によって本明細書に援用する。)。Torobinの参考文献は、複数の粒状ガラスの壁を備えた中空ガラスマクロスフィアを開示している。その参考文献は、気体/液体の分離および吸着物質の使用のためにマクロスフィアを用いることを教示しているが、マクロスフィアを水素吸蔵媒体として適したものとする特徴または特性については論じていない。
【0007】
特許文献6(PPG Industries)は、気体の分離に使用される、多孔壁を有する非結晶性のシリカファイバを対象としている。この明細書に記載されたファイバは、ミクロスフィアとは異なる物理的特性を有し、そのためにファイバは、水素を分離および吸蔵する能力に関してはあまり望ましくないものとなっている。
【0008】
特許文献7(CaP Biotechnology,Inc.)は、多孔壁の中空ガラスミクロスフィアを、細胞のクラスター形成および生物医学的な用途に使用している。多孔壁構造は、生物系の中に存在するとき、ミクロスフィアの内容物を容易に放出するように設計される。あるいは、ミクロスフィアを用いて多孔壁構造内での細胞の成長を助ける基体を提供する。
【0009】
【特許文献1】米国特許第3365315号明細書
【特許文献2】米国特許第4661137号明細書
【特許文献3】米国特許第5256180号明細書
【特許文献4】米国特許第5397759号明細書
【特許文献5】米国特許第5225123号明細書
【特許文献6】米国特許第4842620号明細書
【特許文献7】米国特許第6358532号明細書
【特許文献8】米国特許第5965482号明細書
【特許文献9】国際公開第041041717号パンフレット
【特許文献10】米国特許出願第11/130750号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の参考文献は、物質分離または薬物送達の能力の機能において様々な用途を有する、様々なガラスミクロスフィアおよび多孔壁構造を開示しているが、当分野においては改善および変更の余地が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の少なくとも1つの実施形態の少なくとも1つの態様は、約1.0ミクロンから約200ミクロンの間の直径の範囲、約1.0gm/ccから約2.0gm/ccの密度を有し、かつ平均孔径が約10オングストロームから約1000オングストロームの間の壁の開口部を備えた多孔壁構造を有する多孔壁の中空ガラスミクロスフィア(PWHGM、porous wall hollow glass microsphere)であって、中空ガラスミクロスフィアの内部に水素吸蔵物質を含む多孔壁の中空ガラスミクロスフィアを提供することである。
【0012】
本発明の少なくとも1つの実施形態の他の態様は、内部に水素吸蔵物質であるパラジウムを有効量だけ含み、その内部からパラジウムの微粒子が失われるのを防止する孔径を有する中空ガラスミクロスフィアを提供することである。
【0013】
本発明の少なくとも1つの実施形態の少なくとも1つの態様は、約1.0から約200ミクロンの間の直径の範囲、約1.0gm/ccから約2.0gm/ccの密度を有し、かつ平均孔径を約10から約1000オングストロームの範囲とすることができる壁の開口部を備えた多孔壁構造を有する多孔壁の中空ガラスミクロスフィア(PWHGM)をであって、中空ガラスミクロスフィアの内部に水素吸蔵物質を含み、中空ガラスミクロスフィアの外壁は、気体または液体の汚染物質がPWHGMの内部に侵入するのを防止すると同時に、水素ガスが外壁を通過することを可能にするのに十分なバリアコーティングを含む、多孔壁の中空ガラスミクロスフィアを提供することである。
【0014】
本発明の少なくとも1つの実施形態の他の態様は、水素吸蔵物質を中空ガラスミクロスフィアの内部空間に導入する方法を提供することである。
【0015】
本発明の少なくとも1つの実施形態のさらに他の態様は、水素吸蔵物質を多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの内部に導入する方法であって、多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの供給物を提供すること;前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの供給物を部分真空に曝し、それによって前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの内部空間の中に含まれる雰囲気ガスの体積を減少させること;前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアを減圧状態におきながら、前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアを、水素吸蔵物質を含む溶液で囲むこと;前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアおよび前記水素吸蔵物質を含む溶液の周りの圧力を高め、それによって水素吸蔵物を含む溶液を前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの内部空間に導入すること;過剰な水素吸蔵物を含む溶液を、多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの供給物から取り除くこと;多孔壁の中空ガラスミクロスフィアを乾燥させること、ならびに水素ガスと熱の組み合わせを用いて、多孔壁の中空ガラスミクロスフィア内の水素吸蔵物質を還元し、それによって、還元された水素吸蔵物質をミクロスフィアの内部に含む複数の多孔壁の中空ガラスミクロスフィアを与えることを含む方法を提供することである。
【0016】
これらの、あるいは他の本発明の特徴、態様および利点は、以下の記述および添付の特許請求の範囲を参照すると、より適切に理解されるであろう。
【0017】
添付図面の参照を含む本明細書の残りの部分では、当業者にとって最適な方法を含めた、十分に実施可能な本発明の開示についてより詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に本発明の実施形態に詳しく言及し、その1つまたは複数の実施例について説明する。各実施例は本発明の例示のために示されるものであり、本発明を限定するものではない。実際に、本発明の範囲または趣旨から逸脱することなく、本発明に様々な修正および変更を加えることが可能であることが当業者には明らかになるであろう。例えば、1つの実施形態の一部として図示および記述された特徴を他の実施形態に用いて、さらに他の実施形態を得ることができる。したがって本発明は、添付の特許請求の範囲およびそれらの同等物の範囲内にある、そうした修正形態および変更形態を含むものである。本発明の他の目的、特徴および態様が、以下の詳細な記述において開示される。この議論が例示的な実施形態の記述にすぎず、本発明のより広範な態様を制限するものではなく、そうしたより広範な態様は例示的な構成で実施されることを当業者は理解されたい。
【0019】
本発明の多孔壁の中空ガラスミクロスフィアは、適切な熱処理後に2つの連続するガラス相に分離する、特別なガラス組成物を用いて作製される。本明細書に示される実施例では、一方の相はシリカを多く含み、他方は抽出可能な相である。抽出可能な相は、ガラス組成物全体の少なくとも約30重量パーセントの量で存在することが好ましい。しかし、他の多孔性のガラス組成物を用いることもできる。
【0020】
ガラス組成物の抽出可能な相は、ホウケイ酸塩またはアルカリ金属のホウケイ酸塩など、ホウ素を含有する物質を含むことが好ましい。適切なホウケイ酸塩またはアルカリ金属のケイ酸塩は、溶脱可能なガラスファイバ組成物を対象とし、また参照によって本明細書に援用する特許文献6の教示を参照することによって知ることができる。
【0021】
抽出可能なガラス成分および抽出不能なガラス成分は、混合、融解、急冷および粉砕されて、約5から50ミクロンの粒径を有する個々のガラス粒子からなる微細ガラス粉末となる。次いで個々のガラス粒子は、ガス/酸化剤の炎を用いて再加熱される。ガラスは、様々な水和物、炭酸塩およびハロゲン化物、当分野でよく知られているものの選択および使用と共に、硫酸アルカリなどのガラス内の潜在的な発泡剤がガラスの各粒子内に核となる単一の気泡を生じさせる温度まで高められる。炎に曝すことによってガラス粒子の温度が上昇すると、ガラス粒子は、表面張力によって粒子が球に変形する粘度に達する。温度が上昇すると、気泡内の圧力が表面張力/粘性力の値を上回り、気泡が膨張して中空ガラスミクロスフィアを形成する。次いで、中空ガラスミクロスフィアは室温まで急冷される。
【0022】
好ましくは、結果として生じる中空ガラスミクロスフィアは約0.10gm/ccから約0.5gm/ccの範囲の密度を有し、直径は約1から約200ミクロンの範囲とすることができる。形成後、中空ガラスミクロスフィアを密度に基づいて分離し、所望の密度に従って中空ガラスミクロスフィアを選択および分別することができる。さらに、ミクロスフィアの直径に従って非多孔性のHGMを分別することが可能である。
【0023】
結果として生じる中空ガラスミクロスフィアは、ガラスが本質的に均質であるガラス壁の組成物を有している。中空ガラスミクロスフィアを炭質材料と混合し、酸素のない状態で所望の温度領域まで加熱することにより、中空ガラスミクロスフィアを、ガラス−イン−ガラス(glass−in−glass)の相分離を高めるように熱処理することができる。中空ガラスミクロスフィアの熱処理後、均質なガラスが2つの連続するガラス相に分離する、すなわち一方は抽出可能になり、他方はシリカが豊富になる。抽出可能な相は、強い無機酸を用いて容易に溶脱することが可能であり、その結果、残存するシリカの豊富な相の中に壁孔が形成される。適切な無機酸およびガラスの溶脱方法は、参照によって本明細書に援用する特許文献6を参照して理解することができる。
【0024】
結果として生じる中空ガラスミクロスフィアは、高いセル壁の多孔度を示す。本明細書で用いられる「多孔度」という用語は、中空ガラスミクロスフィアの内部と外部の間の連通をもたらす一連の通路を直接的または間接的に画定する、一連の孔および同様の開口部を意味している。この技術を用いて、約10オングストロームから約1000オングストロームのセル壁の平均孔径を得ることができる。セル壁の孔径および多孔度は、PWHGMの形成に用いられる特別なガラス組成物に配合された抽出可能な成分の割合、および使用される熱処理の程度に依存する。抽出工程の持続時間および厳密性が、結果として生じるセル壁の孔の、形成された孔の大きさおよび密度を含めた特性にある程度の影響を及ぼす可能性もある。
【0025】
図1を参照して理解されるように、PWHGM10を通る断面が示されている。ミクロスフィア10は、外面12および内面14を有するガラス壁を備えている。ミクロスフィア10はさらに、ミクロスフィアの内部に中空空洞部16を画定している。図を参照すると最もよく理解されるように、ミクロスフィアのガラス壁の中には複数の孔20が画定されている。図1に示されるように、いくつかの孔20は、PWHGMの外部とPWHGMの内部の空洞部16との間の連通を可能にする。中空空洞部16の内部には、水素吸蔵物質30が存在している。空洞部16内への水素吸蔵物質の導入について、以下により詳しく示す。
【0026】
中空ガラスミクロスフィアの中に、所望される量の水素吸蔵物質を導入した後、さらに熱処理を行うことによって中空ガラスミクロスフィアの壁の多孔度を変更または低減することができる。あるいは図2に示すように、テトラエチルオルソシリケート溶液などのコーティング材料40を適用することによって、孔を効果的に密閉することができる。コーティング材料は、水素の拡散を可能にすると同時に他の気体を排除するように配合することができる。
【0027】
(実施例1)
以下に示す表1に見られる酸化ホウ素、アルカリ土類およびアルカリを含むケイ酸塩ガラス組成物からPWHGMを形成した。ミクロスフィアのガラス組成物を、約600℃の温度で少なくとも10時間にわたって熱処理した。10時間という時間間隔は、周知のスピノーダル分解工程によって、ガラスおよびミクロスフィアの壁を2つの連続するガラス相に分離させるのに十分であると考えられる。そうすることによって、ミクロスフィアの壁の中に、互いに結合した2つのガラス相が形成される。第1のガラス相は高い割合のシリカからなり、第2のガラス相はより高い割合のアルカリおよびホウ酸塩物質を含んでいる。アルカリホウ酸塩の相は、2〜3N HCL溶液の加熱された酸溶液(80〜85℃)に高い溶解性を有している。溶脱工程の間に、PWHGMが溶液中に沈み始めるのが観察されたが、それはアルカリホウ酸塩の相であると考えられる可溶成分の溶脱が行われていたことを示している。
【0028】
【表1】

【0029】
溶脱工程の後、PWHGMのセル壁は、主に約10から約1000オングストロームの範囲であり、かつPWHGMの壁を貫通する相互接続された小さい孔を含むようになる。
【0030】
さらに溶脱工程の後、PWHGMが約33%の重量減少を示したことが観察され、それもやはり、アルカリホウ酸塩の相の選択的な除去による孔の形成を示している。さらにガス比重計を用いると、ガラスのミクロスフィアの密度が、約0.35g/cc(未溶脱)から、溶脱後のPWHGMでは約1.62g/ccの密度まで変化している。密度の増加はさらに、アルカリホウ酸塩物質が選択的に除去され、気体がPWHGMの内部に入るための開口部が存在するようになった結果、密度の増加が生じたことを示している。溶融石英の密度は約2.2g/ccであることに留意されたい。抽出後のPWHGMの密度は溶融石英の値に近づくが、それより密度が低いことは、わずかな割合のPWHGMが多孔性になってない、あるいは乾燥工程中に一部の孔の上にゲル状の薄膜が形成された、かつ/または加熱された酸処理の間にすべてのアルカリホウ酸塩の相が抽出されたわけではないことを示していると考えられる。
【0031】
前述の実施例1に従って製造されたPWHGMを、工業的に得られた非多孔性の中空ガラスミクロスフィアと比較して総表面積を決定した。気体吸着技術を用いて、非多孔性の市販サンプルの表面積は約1m2/gであることが実証された。本発明に従って製造されたPWHGMの表面積は、29.11m2/gであった。PWHGMの表面積の増加は、孔の形成を反映して表面積が著しく増加したことを示している。PWHGMが壁の内側に存在する孔を有しているだけであれば、表面積は約2m2/gの期待値に相当する内面および外面を含むにすぎないことに留意されたい。気体の吸着/脱着を用いたPWHGMについての他の分析は、約553オングストロームの平均孔径を示した。
【0032】
形成後、PWHGMをパラジウムなどの水素吸蔵物質で満たすことが可能である。PWHGMの内部にパラジウムをうまく導入するために、圧力を用いて、多孔性のガラス壁を通して塩化パラジウムを押し込むことができる。塩化パラジウムの導入後、次いで圧力下で水素を導入して、塩化パラジウムをパラジウム金属に還元する。その後の加熱および真空乾燥を用いて、残留する塩酸または水を除去することができる。この工程を複数のサイクルにわたって繰り返し、中空ガラスミクロスフィアの中に最終的に封入されるパラジウムの量を増やすことができる。
【0033】
(実施例2)
図3を参照して示すように、他の工程を用いてPWHGMの内部に水素吸蔵物質を導入することができる。
【0034】
様々な可溶性の水素吸蔵物質によって満足させることができると考えられるが、硝酸テトラアミンパラジウム溶液を含むパラジウムの一実施例について述べる。10gの量の硝酸テトラアミンパラジウムを30ccの脱イオン水に溶解させる。約10時間撹拌した後、硝酸テトラアミンパラジウムを容器80の中に示した溶液に溶解させる。
【0035】
本明細書において開示したように、水素吸蔵物質の溶液をPWHGMの供給物の内部空間に入れることができる。この実施例では、使用するPWHGMのサンプルは、直径の大きさが約10から約200ミクロンの範囲であり、約1から約10ミクロンの間の壁の厚さ、約10から約1000オングストロームの間の壁の孔径、および約1.7g/ccの密度を有している。0.5gのPWHGMのサンプルをサンプル容器50に入れ、次いでそれを真空チャンバ52の内部に入れる。弁62を閉じた状態に保ちながら、真空弁60を開く。真空ポンプ70を用いて真空チャンバ52を排気する。
【0036】
圧力センサ90は真空チャンバ52内の状態に応答し、真空チャンバ内の状態をモニターするために用いられる。
【0037】
1トル未満の真空度が得られたとき、真空弁を閉じ、弁62を開いて、容器80から水素吸蔵物質の溶液を容器50の内部に流入させる。容器50に導入される溶液のレベルは、PWHGM10を覆うのに十分な体積のものでなければならない。覆われた後、弁62を閉じ、真空弁を開放する。PWHGM10および水素吸蔵溶液の材料を含む容器50を取り出す。
【0038】
真空チャンバから取り出した後、サンプル容器50の底部にPWHGM10が沈殿するのが観察される。水素吸蔵物質の残りの溶液を容器50から移し、湿ったPWHGM10のサンプルを減圧下で乾燥させる。
【0039】
次いで乾燥したサンプルを用いて前述の手順を繰り返し、水素吸蔵物質の溶液の減圧導入を合計5サイクルにわたって実施する。水素吸蔵物質の溶液を最後に加えた後、真空チャンバからPWHGM10を取り出し、その後、以下に記載するように水素を用いて還元することができる。
【0040】
続いてPWHGMを、対応する端部に2つの入口および2つの出口を有する管状の容器に移す。PWHGMのサンプルが容器から漏れるのを防止するために、入口および出口に多孔性金属のフィルタが取り付けられる。
【0041】
水素ガスの流れを、室温において約50cc/分の速度で導入する。約450℃の温度に達するまで、容器の温度を10分ごとに約50℃ずつ高める。連続的な水素ガスの流れと共にサンプルを2時間にわたって約450℃に維持し、続いて水素ガスの流れの存在下で容器の温度が50℃未満になるまで冷却する。
【0042】
前述のように高温および水素ガスに曝すと、PWHGM内に存在する硝酸テトラアミンパラジウムがパラジウム金属に還元される。ミクロスフィアの内部にパラジウムが存在することは、X線測定の使用および電子顕微鏡写真の走査によって確認された。電子顕微鏡写真の走査は、粉砕することによって開かれたミクロスフィアについて行われ、ミクロスフィアの殻の内側部分がパラジウムで満たされていることが明らかになった。
【0043】
前述の実施例は、特定の水素吸蔵物質に対する条件および技術を対象にしているが、圧力、減圧、またはそうした技術の組み合わせを用いて、水素吸蔵物質の様々な水性溶液および非水性溶液を中空ガラスミクロスフィアの内部に導入することが可能であると考えられる。さらに導入された水素吸蔵物質に応じて、水素ガスの流速に関する還元条件、還元温度および還元圧力はすべて、水素による導入された特定の水素吸蔵物の最適な還元が実施され、それによって所望の最終生成物である還元された水素吸蔵物質が得られるように変更することが可能である。
【0044】
実施例2は、PWHGMに対して減圧を適用し、続いて標準大気圧の条件に戻す工程を対象としている。しかし、水素吸蔵物質の溶液がPWHGMを囲んでいると、PWHGMおよび周りの水素貯蔵物質の開始圧力に対して外部圧力を加えることによって、同様の結果を得ることが可能であることが認められている。しかしながら実施例2に示した手順は、他の技術より高い効率および動作経済性をもたらすと考えられる。最初にPWHGMの内部から雰囲気ガスを除去することにより、システムに対する雰囲気圧を元に戻すだけで、周りの溶液がPWHGMの内部により簡単に導入されるようになる。
【0045】
特定の用途では、PWHGMをさらに約1000℃の温度まで加熱することにより、温度および処理時間の間隔の制御によって多孔性を排除する、かつ/または選択的に低減させることが可能になることに留意されたい。一部の水素吸蔵物質では、水素吸蔵物質をPWHGMの内部に挿入した後、続いて多孔性を排除すると有利であると考えられる。当分野ではよく知られている十分な圧力および温度の組み合わせを用いることによって、やはり水素を水素吸蔵物質の内外へ循環させることができる。しかし、孔を除去する、かつ/または後で孔の大きさを減じることによって、水素吸蔵物質を不活性化する恐れのある気体の有害物質から水素吸蔵物質が保護される。
【0046】
結果として生じる水素吸蔵物質を含むPWHGMは、水素吸蔵技術と共に使用するための多くの利点をもたらす。例えば、水素の吸着/脱着工程にパラジウム金属および他の金属水素化物を用いると、水素吸蔵物質が砕けてより小さい粒子または「微粒子」になる傾向がある。その結果生じる微粒子はフィルタの機能を妨げ、水素分離装置内の濾過床を通る気体の流れを制限する、かつ/または水素吸蔵装置内の気体の流れを妨げ、水素吸着/脱着システムの効率を全体的に低下させる。しかし、PWHGMの中に封入すると、結果として生じる微粒子はPWHGMの中に含まれ、吸着/脱着の能力において機能し続ける。
【0047】
さらに、水素吸蔵物質を妨げる恐れのある気体の有害物質がHGMの内部に侵入することを物理的に排除するような、十分に小さい孔径を有するPWHGMを選択することが可能である。結果としてPWHGMは、PWHGMへの水素ガスの流入および流出を可能にする選択性のある膜として機能すると同時に、より大きい気体または液体の分子の侵入を防止する。
【0048】
隙間のない壁で囲まれた(無孔構造の)ミクロスフィアの内外へ水素を押しやることは可能であるが、PWHGMを使用すると、ずっと低い圧力および温度で水素ガスをミクロスフィアに出入りさせることが可能になる。したがって、水素ガスがガラスミクロスフィアの壁を通過することを可能にする導管として多孔性の壁構造を用いて、より穏やかな再水素化/脱水素化条件を使用することができる。
【0049】
結果として生じるPWHGMの孔径が、気体の有害物質または他の物質が侵入できるほど十分大きい場合には、PWHGMの外部にバリアコーティングを設けることが可能である。選択性のある膜の特性を与えるために、特別な特性に対して様々なバリアコーティングを選択することができる。そうしたコーティング材料の1つが、気体の有害物質に対するバリアを形成すると同時に、水素ガスの流れがそれを通過することを可能にする、十分に明確化された孔構造を有するソルゲル物質である。本発明の譲受人に譲渡された特許文献8を参照すると、そうしたソルゲル物質の1つについて知ることができ、その文献を参照によって本明細書に援用する。
【0050】
内部に水素吸蔵物質を含むPWHGMは、水素吸蔵技術の分野において他の利点をもたらす。本発明に従って使用されるPWHGMは、約1ミクロンから約200ミクロンの直径を有することができる。大きさおよび選択可能な粒子密度が与えられた場合、結果として生じるPWHGMは流体のような特性を有し、それによってPWHGMは、より簡単な移送および大量貯蔵に適したものになる。例えば、充填された大量のPWHGMを、石油製品および/または天然ガスの供給物を運ぶための既存のパイプラインを利用して移送することが可能になる。
【0051】
水素吸蔵物質の総体積には、吸蔵された大量の水素ガスが含まれる可能性があるが、水素が複数の個々のPWHGMの容器の中に吸蔵されているため、その移送はずっと安全である。結果として、この場合には体積が多数の別個のPWHGMの容器の中に分散されるため、同等の体積の水素ガスの貯蔵に伴う危険が著しく低減される。個々のPWHGMによって、大量の水素ガスが暴露されないようになるため、爆発および火災に対する安全性のレベルが高められる。例えば、放出可能な水素を含むPWHGMが漏出または放出されても、自由な水素が利用できる状態ではないため、爆発または火災の恐れはずっと低減される。炎または高温状態に対して放出された場合にも、一度に大量の水素ガスが放出されるのとは対照的に、PWHGMの断熱特性によって、最終的に一連のきわめてわずかな水素ガスの放出が生じる程度である。
【0052】
パラジウムは、PWHGMの内部に組み込むことができる水素吸蔵物質の1つであるが、様々な他の水素吸蔵物質もPWHGMの内部での使用に適していることに留意すべきである。そうした物質には、水素化ナトリウムアルミニウム、水素化リチウムアルミニウム、水素化チタンアルミニウム、複合水素化物、および本発明の譲受人に譲渡された特許文献9(参照によって本明細書に援用する)に記載されたものなど、様々な溶融した水素吸蔵物質または混成の水素吸蔵物質、および権利者が共通である2005年5月17日出願の特許文献10、名称「Catalyzed Borohydrides For Hydrogen Storage」(参照によって本明細書に援用する)に記載された様々な触媒ホウ化水素、ならびにこうした水素吸蔵物質の組み合わせが含まれる。さらにPWHGMを利用して、PWHGMの中空の内部を占める反応性の水素化物、または他の水素吸蔵物質に対する「保護環境」を提供することも可能である。
【0053】
適切なPWHGMの内部に収容することができる、いくつかの異なる水素吸蔵物質を提供することは本発明の範囲内である。そうすることによって、複数の異なる水素吸蔵媒体を所与の用途において利用することが可能になる。例えば、PWHGMの所与の体積の範囲内で、異なる水素放出特性を有する別個の群のミクロスフィアの中に、2種類以上の異なる水素吸蔵物質を存在させることができる。この方法では、適切な環境条件または水素放出に必要な刺激によって、発生する水素ガスの体積を制御または調節することができる。
【0054】
さらにPWHGMの使用によって、使用済みの水素吸蔵物質を工業的に再充填することがきわめて容易になる。例えば、水素吸蔵物質を含むPWHGMを用いて装置に動力を供給する場合、燃料補給作業の間に使用済みのPWHGMを取り出し、後で再充填することができる。別個の再充填または水素吸蔵工程が可能であることによって、水素吸蔵物質を有するPWHGMを水素駆動自動車など様々な環境で利用することができるようになる。車両が水素放出機構を装備することのみを必要とする点において、車両の機構および動作をきわめて単純化することができる。(水素化された水素吸蔵物質を含む)PWHGMの新規供給によって燃料を補給すると同時に使用済みのPWHGMを取り出し、後で再び水素化するだけである。
【0055】
また、核形成ガスの供給源として働く適切な水素吸蔵物質を選択することによって、PWHGMの形成を簡易化することができると考えられる。換言すれば、加熱されると、結果として生じるミクロスフィアに対する発泡剤として使用することが可能な、水素または他の不活性ガスを放出することができる水素吸蔵物質である。加熱されると成核剤を放出する、水素吸蔵物質または前駆物質の使用が可能である場合もある。結果として、PWHGMを水素吸蔵物質のまわりに直接形成することを可能にすることができる。
【0056】
特定の用語、装置および方法を用いて、本発明の好ましい実施形態について記述してきたが、そうした記述は例示のためのものにすぎない。使用した単語は、限定ではなく記述のための単語である。以下の特許請求の範囲において示される本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく、当業者によって変更および変形が加えられ得ることを理解されたい。さらに、様々な実施形態の態様を、全体的にも部分的にも互いに置き換えることが可能であることを理解すべきである。したがって、添付の特許請求の範囲の趣旨および範囲は、それらに含まれる好ましい型の記述に限定されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】ミクロスフィアの内部に水素吸蔵物質を含む多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの断面図である。
【図2】外部コーティングを有するミクロスフィアを示す、図1と同様の断面図である。
【図3】物質を中空ガラスミクロスフィアの内部に導入するために用いることができる例示的な方法を示す、1つの方法についての概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵装置を製造する方法であって、
抽出可能な相を有する中空ガラスミクロスフィアを形成するステップ、
前記抽出可能な相を除去し、それによって、多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの内部と外部の間の連通を可能にする多孔壁構造を提供するステップ、および
圧力差によって前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの内部に水素吸蔵物質を導入するステップ
を含み、前記水素吸蔵装置は、可逆的に水素の放出および吸蔵が可能であることを特徴とする方法。
【請求項2】
水素吸蔵物質を多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの内部に導入する方法であって、
多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの供給物を提供すること、
前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの供給物を部分真空に曝し、それによって前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの内部空間の中に含まれる雰囲気ガスの体積を減少させること、
前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアを減圧状態におきながら、前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアを、水素吸蔵物質を含む溶液で囲むこと、
前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアおよび前記水素吸蔵物質を含む溶液の周りの圧力を高め、それによって前記水素吸蔵物を含む溶液を前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの内部空間に導入すること、
過剰な水素吸蔵物を含む溶液を、前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの供給物から取り除くこと、
前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアを乾燥させること、ならびに
水素ガスと熱の組み合わせを用いて、前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィア内の前記水素吸蔵物質を還元し、それによって、還元された水素吸蔵物質を前記ミクロスフィアの内部に含む複数の多孔壁の中空ガラスミクロスフィアを与えること
を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に従って製造された、その内部に水素吸蔵物質を含むことを特徴とする多孔壁の中空ガラスミクロスフィア。
【請求項4】
水素吸蔵物質を多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの内部に導入する方法であって、
多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの供給物を提供すること、
前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの供給物を部分真空に曝し、それによって前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの内部空間の中に含まれる雰囲気ガスの体積を減少させること、
前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアを減圧状態におきながら、前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアをパラジウム溶液で囲むこと、
前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアおよび前記パラジウム溶液の周りの圧力を高め、それによって前記パラジウム溶液の一部を前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの内部空間に導入すること、
過剰なパラジウム溶液を、前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの供給物から取り除くこと、
前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィア、および前記パラジウム溶液の一部を乾燥させること、ならびに
水素ガスと熱の組み合わせを用いて、前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィア内の乾燥したパラジウム成分を還元し、それによって、還元されたパラジウムを前記ミクロスフィアの内部に含む複数の多孔壁の中空ガラスミクロスフィアを与えること
を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
前記パラジウム溶液は、硝酸テトラアミンパラジウムをさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記還元ステップは、前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの内部の前記パラジウム物質を、水素ガスの環境に450℃の温度で曝すことをさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記部分真空は約1トルの値であり、前記圧力増加ステップは、前記圧力を標準大気圧まで高めることをさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
温度を約1000℃まで上昇させ、それによって前記多孔壁の中空ガラスミクロスフィアの多孔度を低減させる追加のステップを含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記水素吸蔵物質は、塩化パラジウム、硝酸テトラアミンパラジウム、ホウ化水素、水素化アルミニウム、水素化チタンアルミニウム、複合水素化物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項10】
請求項4の方法に従って製造された前記ミクロスフィアの内部に、パラジウムを含むことを特徴とする多孔壁の中空ガラスミクロスフィア。
【請求項11】
内部に還元された水素吸蔵物質を含む前記複数の多孔壁の中空ガラスミクロスフィアはさらに、約1.0から約200ミクロンの直径、約1.0から約2.0gm/ccの密度、および約10から約1000オングストロームの範囲の平均孔径を有する多孔壁によって特徴付けられることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項12】
内部に還元された水素吸蔵物質を含む前記複数の多孔壁の中空ガラスミクロスフィアはさらに、約1.0から約200ミクロンの直径、約1.0から約2.0gm/ccの密度、および約10から約1000オングストロームの範囲の平均孔径を有する多孔壁によって特徴付けられることを特徴とする請求項4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−512618(P2009−512618A)
【公表日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536735(P2008−536735)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【国際出願番号】PCT/US2006/040525
【国際公開番号】WO2007/050362
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(502072282)ワシントン サバンナ リバー カンパニー リミテッド ライアビリティ カンパニー (4)
【Fターム(参考)】