説明

水素発生装置

【課題】簡易かつ小型の駆動機構によって反応液を反応容器に供給でき、しかも供給の開始操作や供給量の調節も容易に行うことができる水素発生装置を提供する。
【解決手段】反応液1を加圧して排出する加圧容器2と、その加圧容器2を仕切るように配設される可動隔壁部3と、前記可動隔壁部3を付勢して前記反応液1を加圧する付勢手段7と、前記可動隔壁部3を外力により変位させるための外力伝達部8と、水素発生剤12を収容する反応容器11と、前記加圧容器2から排出された反応液1を前記反応容器11に供給する第1供給経路5と、その第1供給経路5に設けられた排出抑制部6と、反応液1を貯留する貯留容器20と、前記排出抑制部6より上流側の第1供給経路5又は加圧容器2と前記貯留容器20とを接続する第2供給経路10と、そこに設けられ前記第1供給経路側5からの流動を抑止する第1逆止弁V1と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バネ等の付勢手段を利用して反応液を反応容器に供給して水素を発生させる水素発生装置に関し、特に燃料電池に供給する水素ガスを発生させるための技術として有用である。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、他の発電システムに比べると発電効率が高く、大気を汚染する物質を生成しないという点で注目されているエネルギー源である。水素供給型の燃料電池では、発電を行わせるために、カソードへ空気(酸素)を供給し、アノードへ水素を供給する。水素はアノードでの触媒反応によって水素イオン及び電子となり、水素イオンは電解質内を移動し、カソードの触媒反応により酸素と反応して水となる。一方、電子は外部回路を伝わってカソードに移動する。この電子の移動により電気エネルギーが発生することになる。
【0003】
以上のように、燃料電池には水素等の燃料を供給する必要がある。そこで水素を発生するための装置が種々知られており、例えば、下記特許文献1,2に開示されている。これらはいずれも炭化水素を分解することで水素を発生させるものである。特許文献1,2における水素発生装置は、円筒形の熱供給器と同じく円筒形の反応器により構成されている。
【0004】
また、下記特許文献3に開示されている水素ガス発生ユニットは、水を収容するためのタンクと、水との化学反応により水素を生成する金属を収容する反応容器と、この反応容器に近接配置される加熱手段と、タンクに収容された水を反応容器に導入するための導入管と、反応容器で生成した水素及び未反応の水をタンク内に導入する戻り管と、タンク内の水素及び水を排出する排出管とを備えている。そしてタンクの水を反応容器に導入するためにポンプを使用しており、これにより、水を反応容器に供給する量を制御している。反応容器は、装置本体内に収容され、加熱手段により密着保持される。これにより、反応容器内に導入された水が加熱されて水蒸気になるとともに、反応容器内の水素ガスを発生させるための反応を促進させることができる。
【0005】
上記のような水素発生装置において、水を反応容器内に送り込む量を一定に制御するのが望ましい場合がある。例えば、多量の水を送り込むと必要以上の水素ガスが発生してしまうという問題がある。水の送り量を制御(制限)するには、ポンプを用いることが好ましいが、ポンプを収容するスペースや駆動する機構が必要となり、コストアップや装置の大型化の原因となる。特に、水素発生セルをノートパソコンやPDAなどの携帯機器に組み込む場合等は、できるだけ小型化を実現できる構成が要求される。すなわち、ポンプを用いなくても水を供給できるような小型の液体供給装置を備えた水素発生装置が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−63127号公報
【特許文献2】特開2004−59340号公報
【特許文献3】特開2004−149394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、簡易かつ小型の駆動機構によって反応液を反応容器に供給でき、しかも供給の開始操作や供給量の調節も容易に行うことができる水素発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。
即ち、本発明の水素発生装置は、反応液を加圧して排出する加圧容器と、その加圧容器を仕切るように配設される可動隔壁部と、前記可動隔壁部を付勢して前記反応液を加圧する付勢手段と、前記可動隔壁部を外力により変位させるための外力伝達部と、水素発生剤を収容する反応容器と、前記加圧容器から排出された反応液を前記反応容器に供給する第1供給経路と、その第1供給経路に設けられた排出抑制部と、反応液を貯留する貯留容器と、前記排出抑制部より上流側の第1供給経路又は加圧容器と前記貯留容器とを接続する第2供給経路と、その第2供給経路に設けられ、前記第1供給経路側からの流動を抑止する第1逆止弁と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の水素発生装置によると、外力伝達部に外力を付与して、可動隔壁部を付勢手段に抗して変位させることで、加圧容器内が減圧されて、貯留容器内の反応液を第2供給経路(場合により第1供給経路)を経て加圧容器内に導入することができる。外力が付与された後は、付勢手段により可動隔壁部が付勢された状態となり、加圧容器の反応液が加圧されるため、生じた圧力に応じた反応液が第1供給経路を経て反応容器内に徐々に供給される。供給された反応液は水素発生剤と反応して、水素ガスを発生する。再び外力を付与することで、反応液の供給操作を繰り返すことができる。その際、外力伝達部によって、付勢力の有無や強度が調節できるため、反応液供給の開始操作や供給速度の調節を容易に行うことができる。その結果、簡易かつ小型の駆動機構によって反応液を供給でき、しかも供給の開始操作や供給速度の調節も容易に行うことができる水素発生装置を提供することができる。
【0010】
上記において、前記可動隔壁部がピストンで構成され、前記付勢手段がそのピストンを付勢するバネで構成されていることが好ましい。この構成によると、外力伝達部によって、バネによるピストンの付勢力を容易に調節することができ、より簡易かつ小型の駆動機構が実現できるようになる。
【0011】
また、前記反応容器と前記貯留容器の反応液の貯留部とを接続する水素排出経路と、その水素排出経路に設けられて前記貯留容器側からの流動を抑止する第2逆止弁と、前記貯留容器の空間部に接続された水素供給経路と、を備えることが好ましい。この構成によると、反応容器で発生した水素ガスに含まれる反応液成分を貯留容器内の反応液との接触で回収することができ、水素ガスが乾燥している場合には、逆に反応液成分の濃度を増加させる(例えば加湿)ことができる。また、貯留容器内の反応液と水素ガスとに温度差がある場合には、両者の熱交換によって、水素ガスの温度を反応液の温度(通常は室温付近)により近づけることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の水素発生装置の一例を示す縦断面図である。
【0013】
本発明の水素発生装置は、図1に示すように、反応液1を加圧して排出する加圧容器2と、水素発生剤12を収容する反応容器11と、反応液1を貯留する貯留容器20とから、主に構成される。本実施形態では、反応容器11から排出された水素ガスを貯留容器20に導く場合の例を示す。
【0014】
加圧容器2には、加圧容器2を仕切るように配設される可動隔壁部と、その可動隔壁部を付勢して反応液1を加圧する付勢手段と、可動隔壁部を外力により変位させるための外力伝達部8とが設けられている。本実施形態では、可動隔壁部がピストン3で構成され、付勢手段がピストン3を付勢するバネ7で構成されている例を示す。
【0015】
使用される反応液1は、水素発生剤12と反応して水素を発生させる反応液1が用いられる。反応液1としては、例えば水や酸又はアルカリの水溶液などが挙げられる。
【0016】
加圧容器2は、ピストン3等の可動隔壁部によって仕切られた状態で、反応液1を一時的に収容する。可動隔壁部としてピストン3を用いる場合、加圧容器2はピストン3の摺動が可能な内壁2aを有する。ピストン3は、内壁2aとの摺接面にシール材3aを有しており、シール性を維持しつつ、内壁2aに対して摺動可能に構成されている。
【0017】
付勢手段を構成するバネ7は、板バネ等であってもよいが、ピストン3等の可動隔壁部に対して均一な付勢(加圧)を行う上で、コイルバネが好ましい。バネ7の一端は、ピストン3のシール材保持部3cの内周面で保持され、バネ7の他端は、加圧容器2の上面内壁に保持されている。
【0018】
可動隔壁部であるピストン3には、ロッド状の外力伝達部8が連結されていて、外力伝達部8を上方に引くことによって、付勢手段の付勢力に抗してピストン3を上昇させることができる。
【0019】
加圧容器2と反応容器11との間には、加圧容器2から排出された反応液1を反応容器11に供給する第1供給経路5が設けられている。第1供給経路5は、樹脂チューブなどの配管が用いられる。第2供給経路10やその他の経路にも同様のものが使用できる。
【0020】
第1供給経路5には、反応液1の排出速度を抑制するための排出抑制部6が設けられる。この排出抑制部6は、反応液1に対して流動抵抗となるものであれば、何れのものも使用することができ、例えば、各種マイクロバルブ、流路絞り部、多孔体などが使用できる。但し、本発明では、流動抵抗を調整することができるバルブ類が好ましい。
【0021】
第1供給経路5の排出抑制部6の上流側には、第1供給経路5と貯留容器20とを接続する第2供給経路10が設けられている。更に、第2供給経路10には、第1供給経路5側からの流動を抑止する第1逆止弁V1が設けられている。
【0022】
第1逆止弁V1としては、液体に対して機能するものであれば、何れのものも使用可能である。但し、装置全体の小型化を図る上で、一次側が二次側の圧力より大のときに開口し、小のときには閉口するくちばし状の弾性部材を備える逆止弁が好ましい。この逆止弁は、ダックビルと呼ばれており、各種のものが市販されている。
【0023】
反応容器11には、水素発生剤12が収容されている。水素発生剤12としては、水等の反応液と反応して水素を発生する金属、例えばFe、Al、Mg、Zn、Siなどから選ばれる1種以上の金属の粒子や、これらが部分的に酸化された金属の粒子が挙げられる。また、水素発生剤は触媒成分やアルカリ土類金属酸化物、カーボンブラック等を含むものであってもよい。水素発生剤は、粉末状であってもよく、造粒、又はタブレット化したものであってもよい。
【0024】
本実施形態では、反応容器11と貯留容器20の反応液1の貯留部24とを接続する水素排出経路21と、その水素排出経路21に設けられて貯留容器20側からの流動を抑止する第2逆止弁V2と、貯留容器20の空間部25に接続された水素供給経路22と、を備えている。
【0025】
第2逆止弁V2は、反応液の流入を防止できればよく、第1逆止弁V1と同様のものが使用できる。反応容器11からの水素ガスは、水素排出経路21を介して、貯留容器20の反応液1の貯留部24に導入されると、貯留容器20内でのバブリングを経て、水素供給経路22により系外(例えば燃料電池)へと供給される。
【0026】
貯留容器20には、反応液1の導入経路26が設けられており、導入経路26には、貯留容器20側からの流動を抑止する第3逆止弁V3が設けられている。反応液1は、導入経路26から第3逆止弁V3を経て供給される。導入経路26の下端は、水素ガスの漏洩を防止するために、反応液1の液面より低い位置(即ち、貯留容器20の反応液1の貯留部24)に配置されている。
【0027】
次いで、本発明の水素発生装置の動作を説明する。反応液1の供給開始前には、バネ7が伸びきって、反応液1が加圧されていない状態となる。反応液1の供給を開始する際に、外力により外力伝達部8を引き上げることで、ピストン3(可動隔壁部)をバネ7(付勢手段)に抗して上昇させることで、加圧容器2内が減圧されて、貯留容器20内の反応液1を第2供給経路10と第1供給経路5を経て加圧容器2内に導入することができる。
【0028】
外力が付与された後は、バネ7によりピストン3が付勢された状態となり、加圧容器2の反応液1が加圧されるため、生じた圧力に応じた反応液1が第1供給経路5を経て反応容器11内に徐々に供給される。反応液1の供給は、加圧容器2の加圧がなくなるまで継続する。供給された反応液1は水素発生剤12と反応して、水素ガスを発生する。この水素ガスは、水素排出経路21を介して、貯留容器20の反応液1の貯留部24に導入されると、貯留容器20内でのバブリングを経て、水素供給経路22により系外に供給される。
【0029】
再び外力伝達部8に外力を付与することで、反応液1の供給操作を繰り返すことができる。また、反応液1が不足する場合には、反応液1が導入経路26から供給される。
【0030】
上記の際、外力伝達部8によって、付勢力の有無や強度が調節できるため、反応液供給の開始操作や供給速度の調節を容易に行うことができる。
【0031】
[他の実施形態]
以下、本発明の他の実施形態について説明する。
【0032】
(1)前述の実施形態では、可動隔壁部がピストンで構成されている例を示したが、本発明では、図2に示すように、ダイヤフラム4などを用いて可動隔壁部を構成してもよい。ダイヤフラム4としては、可とう性を有するゴム、エラストマーなどが好ましい。そのとき、ダイヤフラム4によって付勢手段を兼用してもよく、その場合ダイヤフラム4は、可動隔壁部および付勢手段に相当する(これも本発明の技術的範囲に包含される)。
【0033】
(2)前述の実施形態では、付勢手段がバネで構成されている例を示したが、本発明では、スポンジ等の多孔質弾性体や、ゴム、エラストマー等の弾性体で付勢手段を構成してもよい。このような付勢手段は、例えば図2に示す加圧容器2の上部空間に配置することができる。
【0034】
(3)前述の実施形態では、外力伝達部がピストンに連結されたロッド状部で構成される例を示したが、例えば図2に示すワイヤ8のように、引張力のみを伝達できる部材であってもよい。この例では、ワイヤ8の一端がワイヤ支持部4aに連結され、他端がつまみ部材8bに連結されている。
【0035】
(4)前述の実施形態では、反応容器から排出された水素ガスを貯留容器に導く場合の例を示したが、本発明では、図3に示すように、反応容器11から排出される水素ガスを直接系外に排出してもよい。その場合、貯留容器20は、反応液1の貯留機能のみを有する。
【0036】
図3に示す例では、貯留容器20の貯留部24が、加圧容器2より低い位置に配置されるため、加圧容器2が加圧状態でない場合でも、貯留容器20から反応液1が流出するのを効果的に防止することができる。貯留容器20には、反応液1の導入経路26が設けられており、反応液1は、導入経路26から供給される。
【0037】
(5)前述の実施形態では、ピストンに対するストッパが設けられていない例を示したが、図3に示すように、加圧容器2の底面が可動隔壁部のストッパとなるように構成して、可動隔壁部が下端まで移動しても、付勢手段の付勢力が残るようにするのが好ましい。これと同様に、外力伝達部に対して、ストッパを設けてもよい。
【0038】
バネ7の伸長を自由にすると、バネ7が圧縮状態から伸びきる際に、付勢力が殆ど生じないため、反応液1の供給速度が最後に極端に遅くなるが、上記の構成によると、供給終了の直前でもバネ7が圧縮された状態となるため、十分な速度で反応液を最後まで供給することができる。また、反応液1の総供給量を調節するのも容易になる。
【0039】
(6)前述の実施形態では、第2供給経路が第1供給経路と貯留容器とを接続する例を示したが、図3に示すように、第2供給経路10が加圧容器2(例えばその底面)と貯留容器20とを接続するようにしてもよい。このように、第1供給経路5と第2供給経路10とを分けることによって、非加圧状態において、貯留容器20の反応液1が反応容器11に流入するのを防止することができる。
【0040】
(7)排出抑制部6として、多孔質膜を使用する場合、多孔質膜は主にその平均孔径によって、反応液1の透過が可能な圧力が決定される。このため、本発明では多孔質膜の平均孔径は、0.1〜5μmが好ましい。また、高分子多孔質膜の厚みは10〜100μmが好ましい。多孔質膜の材質としては、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、ポリウレタン、シリコーン樹脂などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の水素発生装置の一例を示す縦断面図
【図2】本発明の水素発生装置の加圧容器の他の例を示す縦断面図
【図3】本発明の水素発生装置の他の例を示す縦断面図
【符号の説明】
【0042】
1 反応液
2 加圧容器
3 ピストン(可動隔壁部)
4 ダイヤフラム
5 第1供給経路
6 排出抑制部
7 バネ(付勢手段)
8 外力伝達部
10 第2供給経路
11 反応容器
12 水素発生剤
20 貯留容器
21 水素排出経路
22 水素供給経路
V1 第1逆止弁
V2 第2逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応液を加圧して排出する加圧容器と、
その加圧容器を仕切るように配設される可動隔壁部と、
前記可動隔壁部を付勢して前記反応液を加圧する付勢手段と、
前記可動隔壁部を外力により変位させるための外力伝達部と、
水素発生剤を収容する反応容器と、
前記加圧容器から排出された反応液を前記反応容器に供給する第1供給経路と、
その第1供給経路に設けられた排出抑制部と、
反応液を貯留する貯留容器と、
前記排出抑制部より上流側の第1供給経路又は加圧容器と前記貯留容器とを接続する第2供給経路と、
その第2供給経路に設けられ、前記第1供給経路側からの流動を抑止する第1逆止弁と、
を備える水素発生装置。
【請求項2】
前記可動隔壁部がピストンで構成され、前記付勢手段がそのピストンを付勢するバネで構成されている請求項1に記載の水素発生装置。
【請求項3】
前記反応容器と前記貯留容器の反応液の貯留部とを接続する水素排出経路と、その水素排出経路に設けられて前記貯留容器側からの流動を抑止する第2逆止弁と、前記貯留容器の空間部に接続された水素供給経路と、を備える請求項1又は2に記載の水素発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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