説明

水素発生装置

【課題】構造が簡素であり、小型化も可能な水素発生装置を提供する。
【解決手段】固体の水素発生剤11と反応液とを反応させて水素を発生させる水素発生装置において、反応液との反応により水素を発生する水素発生剤11と、その水素発生剤11を収容する発生剤収容部1と、反応開始前に反応液を貯留しておく有底筒状の反応液貯留部2と、発生剤収容部1の外側に設けられ、発生剤収容部1との間の空間3aに反応液貯留部2の反応液が充填される反応液収容容器3と、反応液収容容器3に充填された反応液を発生剤収容部1へ供給可能な吸水体4と、発生剤収容部1にて発生した水素を反応液収容容器3の外部へ供給するための水素供給孔5と、を備え、反応液貯留部2の開口端2aから反応液収容容器3を挿入することで、反応液収容容器3の容器底面に形成された反応液通路32bを介して空間3aに反応液が充填される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体の水素発生剤と反応液とを反応させて水素を発生させる水素発生装置に関し、特に燃料電池に供給する水素を発生させるための技術として有用である。
【背景技術】
【0002】
固体の水素発生剤と反応液を反応させて水素を発生させる水素発生装置としては、例えば、下記特許文献1に開示されている。特許文献1の水素発生装置は、水素発生剤に反応液を供給する小型液体供給装置を備えており、この小型液体供給装置は、供給する反応液を収容する液体収容部と、その液体収容部を仕切るように配設される可動隔壁部と、液体収容部から反応液を排出する排出部と、その排出部に設けられる排出抑制部と、可動隔壁部を付勢して反応液を加圧する付勢手段と、付勢手段の付勢力を調節する付勢力調節機構とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−111670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の水素発生装置は、可動隔壁部を付勢するための付勢手段と、この付勢手段の付勢力を調節するための付勢力調節機構とを備えており、構造が複雑である。また、付勢手段と付勢力調節機構が配置される空間は、液体収容部から反応液を排出する際にも、排出が完了した際にもデッドスペースとなってしまうため、水素発生装置の小型化にとって好ましい構造とは言えない。さらに、水素発生剤の収容された反応容器と反応液の収容された液体収容部とは、排出部で常に連通しているので、水素発生剤は反応液と容易に接触して反応し、不用意に水素発生してしまうおそれがある。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、構造が簡素であり、小型化も可能な水素発生装置を提供することである。さらに好ましくは、反応液と水素発生剤とを完全に分離して配置することができるとともに、水素発生反応を任意のタイミングで開始可能な水素発生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明に係る水素発生装置は、
固体の水素発生剤と反応液とを反応させて水素を発生させる水素発生装置において、
反応液との反応により水素を発生する水素発生剤と、
その水素発生剤を収容する発生剤収容部と、
反応開始前に反応液を貯留しておく有底筒状の反応液貯留部と、
発生剤収容部の外側に設けられ、発生剤収容部との間の空間に反応液貯留部の反応液が充填される反応液収容容器と、
反応液収容容器に充填された反応液を発生剤収容部へ供給可能な反応液供給部と、
発生剤収容部にて発生した水素を反応液収容容器の外部へ供給するための水素供給路と、を備え、
反応液貯留部の開口端から反応液収容容器を挿入することで、反応液収容容器の容器底面に形成された反応液通路を介して前記空間に反応液が充填されることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る水素発生装置は、水素発生剤を収容する発生剤収容部と、この発生剤収容部の外側に設けられ、発生剤収容部との間の空間に反応液が充填される反応液収容容器とを備える。水素発生装置は、反応開始前に反応液を貯留しておく有底筒状の反応液貯留部をさらに備える。反応液収容容器を、有底筒状の反応液貯留部の開口端から挿入していくと、反応液貯留部に貯留された反応液が反応液収容容器で圧縮される。反応液収容容器の容器底面には、反応液通路が形成されており、圧縮された反応液は反応液通路を通って反応液収容容器に注入され、発生剤収容部と反応液収容容器との間の空間に反応液が充填される。反応液収容容器に充填された反応液は、反応液供給部によって発生剤収容部へ供給され、水素発生剤と反応して水素を発生する。発生した水素は、水素供給路を通って反応液収容容器の外部へ供給される。よって、本発明の水素発生装置は、反応液収容容器を反応液貯留部の開口端から挿入していくだけで反応液収容容器に反応液を容易に注入可能であり、付勢手段などを備えないためデッドスペースも少なく、構造も簡素である。また、反応液収容容器は、反応液貯留部の反応液が注入されながら、反応液貯留部へ挿入されていくので、反応液貯留部の体積は、反応液収容容器に注入される反応液の分だけ常に減少していくことになり、水素発生装置全体を小型化することが可能である。
【0008】
本発明において、前記反応液通路は、閉塞部材で塞がれていることが好ましい。
【0009】
反応液通路が閉塞部材で塞がれているので、反応液貯留部の反応液が不用意に反応液収容容器へ注入されることを防ぐことができる。その一方で、閉塞部材を反応液通路から除去することで、反応液を反応液収容容器へ注入可能となる。そのため、この構成によれば、反応液と発生剤収容部に収容された水素発生剤とを完全に分離して配置することができるとともに、水素発生反応を任意のタイミングで開始可能な水素発生装置を提供することができる。なお、閉塞部材の例としては、反応液通路の出入り口を塞ぐ蓋状体、栓状体などが挙げられる。
【0010】
本発明において、前記閉塞部材は、フィルム状部材であって、反応液貯留部の開口端から反応液収容容器を挿入することで、反応液貯留部の内底面に設けられた突起部により前記フィルム状部材が破断されることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、反応液通路は、フィルム状部材で塞がれ、反応液貯留部の反応液が不用意に反応液収容容器に注入されることはない。その一方で、反応液貯留部の内底面には突起部が設けられており、反応液貯留部の開口端から反応液収容容器を挿入していくことで、突起部によりフィルム状部材を破断することができ、反応液貯留部に貯留された反応液を、容器底面の反応液通路を介して反応液収容容器に確実に注入することができる。
【0012】
本発明において、前記反応液通路は、反応液収容容器の容器底面に形成された貫通孔であり、前記突起部は、前記貫通孔に挿入可能であって、その外周面に高さ方向に沿った凹溝を有することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、突起部は、その外周面に高さ方向に沿った凹溝を有するので、貫通孔を塞いでいるフィルム状部材を破断した際、突起部の周囲とフィルム状部材との間に間隙が生じ易く、反応液がこの間隙を通過して反応液収容容器に注入されやすい。
【0014】
本発明において、反応液貯留部に反応液が貯留された状態で、反応液収容容器の容器下部が反応液貯留部の前記開口端に係止可能であることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、反応液収容容器の容器下部が反応液貯留部の開口端に係止され、反応液貯留部に反応液が貯留された状態であり、反応液は反応液収容容器に注入されておらず、発生剤収容部内の水素発生剤と反応することはない。この状態から、反応液収容容器を反応液貯留部の開口端から挿入していくことで反応液収容容器に反応液を注入し、任意のタイミングで水素発生剤と反応液の反応を開始させることができる。
【0016】
本発明において、反応液収容容器の外壁と反応液貯留部の内壁との間で反応液をシールするシール部材が、前記容器下部の外周面または前記開口端の内周面に設けられていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、反応液収容容器の外壁と反応液貯留部の内壁との間で反応液をシールすることができるので、反応液貯留部に貯留された反応液を、容器底面の反応液通路を介して反応液収容容器に確実に注入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の水素発生装置の一例を示す分解斜視図である。
【図2】水素発生装置の一例を示す図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のI−I矢視断面図である。
【図3】反応液貯留部の開口端から反応液収容容器を挿入する様子を示しており、(a)は挿入開始時、(b)は挿入途中、(c)は挿入完了時の水素発生装置の断面図である。
【図4】突起部の先端部を拡大した部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る水素発生装置の好適な実施形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明の水素発生装置の一例を示す分解斜視図であり、図2は、水素発生装置の一例を示す図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のI−I矢視断面図である。
【0020】
本発明の水素発生装置は、固体の水素発生剤と反応液とを反応させて水素を発生させるものである。水素発生装置は、図に示すように、水素発生剤11を収容する発生剤収容部1と、反応開始前に反応液を貯留しておく有底筒状の反応液貯留部2と、発生剤収容部1の外側に設けられ、発生剤収容部1との間の空間に反応液貯留部2の反応液が充填される反応液収容容器3と、反応液収容容器3に充填された反応液を発生剤収容部1へ供給可能な吸水体4(反応液供給部に相当)と、発生剤収容部1にて発生した水素を反応液収容容器3の外部へ供給するための水素供給孔5(水素供給路に相当)とを備えている。
【0021】
発生剤収容部1は、水素発生剤11の周囲を拘束しかつ変形を許容する被覆材12を備えている。本発明の水素発生剤11は、反応液との反応によって生成する生成物が、元の体積から膨張する性質を有する。被覆材12は、水素発生剤11の膨張に伴って変形可能であり、発生剤収容部1は全体として、水素発生剤11の膨張に伴って膨張可能である。また、被覆材12は、熱収縮性を有している。
【0022】
水素発生剤11を収容する発生剤収容部1が、水素発生剤11の膨張に伴って膨張可能であるため、水素発生剤11の周囲を拘束しつつも膨張を許容する構成となっている。これにより、水素発生剤11が水等の反応液と反応して膨張する際に、膨張の不均一化が生じにくいので、反応速度が安定し易く、反応の再現性も良好になる。
【0023】
水素発生剤11の周囲が、筒状の被覆材12により被覆される。ただし、水素発生剤11の一側面は、吸水性を有する吸水体41を介して被覆材12により被覆される。水素発生剤11の上部には蓋部材13が配置され、水素発生剤11の下部には底部材14が配置される。蓋部材13は、不図示の水素排出孔を備えてもよい。ただし、水素は微小な隙間であっても通過可能なので、水素発生剤11と反応液が反応して発生した水素は、仮に水素排出孔を備えなくとも、蓋部材13および底部材14の周囲と被覆材12との間の隙間などから排出される。蓋部材13および底部材14は、被覆材12に遊挿した状態で被覆材12を熱収縮させることで、被覆材12の上端部および下端部に固定される。被覆材12の一つの側壁には、水素発生剤11に反応液を供給するためのスリット12aが設けられている。このスリット12aから供給された反応液は、吸水体41に吸収されて拡散し、水素発生剤11の側面全体に供給される。
【0024】
発生剤収容部1の周囲には、吸水体42が配置される。吸水体42は、吸水性を有しており、反応液収容容器3の反応液を吸収し、発生剤収容部1内の水素発生剤11に供給する機能を有している。吸水体42の一端側42aは、スリット12aを通って被覆材12の中へ延びており、吸水体41と接触している。なお、スリット12aを被覆材12の側壁に設ける位置は、特に限定されない。また、被覆材12にスリット12aを設けず、吸水体41の一端側42aを被覆材12の上端や下端から内部へ延ばしてもよい。吸水体42の他端側42bは、発生剤収容部1の周囲に延びており、反応液収容容器3内の反応液に接して吸水可能な状態となっている。なお、吸水体42と吸水体41は、連続した一つの吸水体4で構成してもよい。
【0025】
また、発生剤収容部1の側方には、保水体43が配置される。保水体43としては、スポンジや吸水紙を用いることができ、反応液を一時的に保持できるものであればよい。反応液を保持した保水体43は、吸水体42と接触している。
【0026】
被覆材12で被覆された水素発生剤11の形状は、四角柱、円柱、板状、棒状、直方体、立方体など何れでもよい。図に示す例では、四角柱の形状を有する水素発生剤11を使用している。
【0027】
反応液収容容器3は、四角柱状の外観を有している。反応液収容容器3は、容器本体31および容器底部32とで構成される。反応液収容容器3は、発生剤収容部1の外側に設けられ、発生剤収容部1との間の空間3aに反応液を収容可能である。容器本体31の上面は、四角形の凹部31aが形成されている。また、凹部31aの底面には、水素供給孔5が形成されており、発生した水素は水素供給孔5から反応液収容容器3の外部へ供給される。凹部31aの空間には、不図示のアンモニア除去剤が設けられる。水素発生剤11より発生した水素には、不純物であるアンモニアが含まれており、アンモニア除去剤によりアンモニアを除去することができる。このようなアンモニア除去剤は、シート状に形成されたものが市販されているが、粒状の吸着剤等を通気性の袋に収容したものを使用することも可能である。凹部31aの空間にアンモニア除去剤を配置した後、凹部31aの上部を不図示の蓋状体で覆ってもよい。この蓋状体には、水素を外部へ供給するための水素供給孔が設けられる。
【0028】
容器本体31の容器下部31bには、外周に溝31cが形成されている。溝31cには、環状のパッキン33(シール部材に相当)が嵌め込まれる。
【0029】
容器底部32は、四角形の板状をしており、上面の周囲には凸条32aが形成されている。凸条32aに対応して、容器本体31の下端部には凹条31dが形成されており、容器底部32は容器本体31に対して固定される。容器底部32には、反応液通路32bが形成されている。容器底部32の外面には、アルミ箔34(フィルム状部材に相当)が貼られ、反応液通路32bはアルミ箔34で塞がれている。
【0030】
反応液貯留部2は、上端が開口した有底筒状をしており、反応開始前に反応液を貯留しておくことができる。反応液貯留部2の内壁は、反応液収容容器3の外壁、すなわち容器本体31および容器底部32の外周よりもわずかに大きく、反応液貯留部2の開口端2aから反応液収容容器3を挿入することできる。反応液収容容器3の外壁と反応液貯留部2の内壁との間は、反応液収容容器3の溝31cに嵌め込まれたパッキン33によりシールされる。また、パッキン33は、反応液収容容器3の外壁と反応液貯留部2の内壁との間をシールした状態で、反応液貯留部2の内壁に対して摺動可能となっている。
【0031】
図3は、反応液貯留部2の開口端2aから反応液収容容器3を挿入する様子を示しており、(a)は挿入開始時、(b)は挿入途中、(c)は挿入完了時を示している。
【0032】
パッキン33は、上記の反応液収容容器3の外壁と反応液貯留部2の内壁との間をシールする機能のほか、図3(a)のように、反応液貯留部2に反応液が貯留された状態で、反応液収容容器3の容器下部31bを反応液貯留部2の開口端2aに係止する機能も有している。
【0033】
反応液貯留部2の内底面2bには、突起部21が設けられている。突起部21は、反応液貯留部2の開口端2aから反応液収容容器3を挿入した状態で、反応液収容容器3の反応液通路32bに対向する位置に設けられている。これにより、反応液貯留部2の開口端2aから反応液収容容器3を挿入することで、突起部21により反応液通路32bを塞いでいるアルミ箔34を突き破ることができる。また、反応液通路32bは、反応液収容容器3の内壁近傍に設けられており、反応液通路32bに対向して設けられた突起部21が、反応液通路32bを貫通した後に発生剤収容部1や保水体43などと干渉しないようになっている。
【0034】
突起部21は、全体として先細り形状をしており、アルミ箔34を突き破りやすくなっている。突起部21の高さは、反応液貯留部2の側壁よりも低くなっている。図4は、突起部21の先端部を拡大した部分拡大図を示す。図のように、突起部21は略四角形の断面形状をしているが、突起部21の一側面には凹溝21aが連続して形成されている。突起部21が凹溝21aを有することで、突起部21がアルミ箔34を突き破った際、突起部21の周囲とアルミ箔34との間に間隙が生じ易く、この間隙を反応液が通過しやすい。突起部21に断面形状は、略四角形に限定されず、円形や楕円形などでもよい。
【0035】
図3(a)のように、反応液貯留部2は、ほぼ全体を反応液で満たされているが、上方には、一部空気の層22が存在している。反応液貯留部2をすべて反応液で満たすと、液体は圧縮しがたいため反応液収容容器3を反応液貯留部2へ挿入するのが難しくなる。また、逆に空気が多すぎると、温度上昇によって空気が膨張し、反応液貯留部2が膨張するおそれがある。
【0036】
突起部21の高さは、図3(a)の状態で、突起部21の先端がアルミ箔34の下面に接しないように設定される。突起部21の先端からアルミ箔34の下面までの距離は、上記の空気層22の厚みの約半分とするのが好ましい。また、突起部21の先端からアルミ箔34の下面までの距離は、約0.1〜0.2mmが好ましい。
【0037】
図3(a)の状態から、反応液および空気の抵抗に抗して反応液収容容器3を反応液貯留部2へ挿入していくと、突起部21の先端がアルミ箔34に達し、反応液通路32bを塞いでいるアルミ箔34を突き破る。さらに、反応液収容容器3を反応液貯留部2へ挿入していくと、図3(b)のように、加圧された反応液が、反応液通路32bを通り反応液収容容器3の空間3aへ注入されていく。
【0038】
反応液収容容器3の容器底部32(またはアルミ箔34)が、反応液貯留部2の内底面2bに達するまで、反応液収容容器3を反応液貯留部2へ挿入することで、図3(c)のように、反応液貯留部2の全ての反応液は、反応液収容容器3の空間3aに注入される。このように、反応液貯留部2の反応液は、全て反応液収容容器3に注入されるので、反応液貯留部2の体積は小さくなり、水素発生装置全体も小さくなる。空間3aに充填された反応液は、一部または全部が保水体43に保持される。
【0039】
反応液収容容器3の空間3aに反応液が注入させると、空間3aにもともと存在していた空気はその大部分が水素供給孔5から排出され、これにより、反応液収容容器3の空間3aに存在する空気はごくわずかとなる。
【0040】
反応液収容容器3の空間3aに充填された反応液は、吸水体42および吸水体41により発生剤収容部1へ供給される。発生剤収容部1内の水素発生剤11と反応液が反応して発生した水素は、反応液収容容器3の空間3aに一旦排出される。このとき、上記のように空間3a内の空気はわずかなので、空間3aは発生した水素ですぐに満たされ、水素が反応液収容容器3の水素供給孔5からすぐに外部へ供給される。
【0041】
水素発生剤11は、反応液と反応すると膨張し、これとともに、発生剤収容部1も全体として膨張する。一方、水素発生剤11と反応液が反応すると、反応液は消費され、反応液の体積は減少していく。すなわち、反応液収容容器3の内部では、発生剤収容部1の膨張と反応液の減少とが同時に起こるため、発生剤収容部1と反応液を合わせた体積は、水素発生反応開始時から終了時までそれほど変化しない。その結果、反応液収容容器3の大きさを小さくすることができ、水素発生装置全体でも小型化することができる。
【0042】
また、発生剤収容部1は、周囲を反応液で囲まれているので、反応液と反応する際の水素発生剤11の温度上昇を抑制することができ、水素発生反応が安定して行われる。
【0043】
アンモニア除去剤としては、例えば、水素中のアンモニアを吸着除去する吸着剤(吸着・分解や反応吸着などの化学吸着を含む)、アンモニアを溶解除去する吸収剤、アンモニアを反応により除去する反応剤、アンモニアを分解(加熱分解・触媒反応分解等)により除去する分解手段、などが挙げられるが、アンモニアを物理吸着又は化学吸着により除去する吸着剤を備えることが好ましい。
【0044】
本発明に用いられる水素発生剤としては、粒状等の水素発生物質を単独で使用する(樹脂包埋せずに使用する)ことも可能であるが、樹脂の母材中に粒状の水素発生物質を含有するものが好ましい。その際、使用する樹脂としては、被覆材による拘束力を発揮させる観点から、水溶性樹脂以外のものが好ましい。
【0045】
水素発生物質としては、水素化カルシウム、水素化リチウム、水素化カリウム、水素化リチウムアルミニウム、水素化アルミニウムナトリウム、又は水素化マグネシウムなどの水素化金属、アルミニウム、鉄、マグネシウム、カルシウム等の金属、水素化ホウ素化合物等の金属水素錯化合物などが挙げられる。中でも、水素化金属が好ましく、特に水素化カルシウムが好ましい。水素化金属化合物、金属、金属水素錯化合物は、何れかを複数組み合わせて使用することもでき、また、それぞれを組み合わせて使用することも可能である。
【0046】
即ち、水素発生剤としては、水溶性樹脂を除く樹脂の母材中に、粒状の水素化カルシウム(CaH)を含有するものが特に好ましい。この水素発生剤では、粒状の水素化カルシウムが樹脂のマトリックス中に分散又は埋設された状態となり、これにより、水素化カルシウムの反応性が抑制され、水との反応の際の取り扱い性が改善される。また、水素発生物質として水素化カルシウムを使用することで、水等との反応性が高くなり、水等と反応した際に生成する反応物(水酸化カルシウム)の体積膨張率が高くなるため、樹脂母材を崩壊させる作用が大きくなり、水等との反応が自然に内部まで進行し易くなる。
【0047】
水素発生物質の含有量は、好ましくは水素発生剤中60重量%以上であるが、保形性を維持しつつ反応の際に樹脂母材を崩壊させる観点から、水素発生剤中、60〜90重量%であることが好ましく、70〜85重量%がより好ましい。
【0048】
粒状の水素発生物質の平均粒径は、樹脂中への分散性や反応を適度に制御する観点から、1〜100μmが好ましく、6〜30μmがより好ましく、8〜10μmが更に好ましい。
【0049】
水素化カルシウムに他の水素発生物質を添加する場合、その水素発生物質の含有量は、水素発生剤中、0〜20重量%が好ましく、0〜10重量%がより好ましく、0〜5重量%が更に好ましい。
【0050】
粒状等の水素発生物質を樹脂包埋せずに使用する場合、被覆材による拘束力を適当な力で働かせる観点より、水素発生物質を樹脂をバインダーとして結着させたり、粒状等の水素発生物質をプレス成形により錠剤化することが好ましい。
【0051】
樹脂としては、好ましくは水溶性樹脂以外のものが使用され、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、耐熱性樹脂などが挙げられるが、熱硬化性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂を使用することで、一般的に樹脂母材がもろくなり易く、反応の際に樹脂母材がより容易に崩壊して、反応が自然に進行し易くなる。なお、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル、ポリアミドなどが挙げられる。また、耐熱性樹脂としては、芳香族系のポリイミド、ポリアミド、ポリエステルなどが挙げられる。
【0052】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、または熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。なかでも、水素発生反応中に樹脂母材が適度な崩壊性を有する観点から、エポキシ樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂を硬化させる際には、必要に応じて硬化剤や硬化促進剤などが適宜併用される。
【0053】
樹脂の含有量は、好ましくは40重量%未満であるが、保形性を維持しつつ反応の際に樹脂母材を崩壊させる観点から、水素発生剤中、5〜35重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましい。
【0054】
用いられる水素発生剤には、上記の成分以外の任意成分として、触媒、充填材、などのその他の成分を含有してもよい。触媒としては、水素発生剤用の金属触媒の他、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ化合物も有効である。
【0055】
水素発生剤は、多孔質化された構造でもよいが、実質的に中実の構造が好ましい。つまり、本発明の水素発生剤は、空孔率(%)=空孔体積/全体積×100が5%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下が更に好ましい。通常このような空孔が少ない構造では、反応が内部に進行し難いが、本発明では、水素化カルシウムを高濃度で使用することで、このような低い空孔率でも反応を進行させることができ、体積効率を高めることができる。
【0056】
なお、水素化カルシウム等の水素発生物質は、樹脂との混合又は反応の際に、水素を発生して空孔が生じる場合があるが、加圧下で反応硬化又は冷却固化を行うことで、実質的に中実の構造を得ることができる。
【0057】
用いられる水素発生剤は、シート状、粒状(粉砕物)、塊状(成形品)など何れの形状でもよいが、反応速度を制御する観点から、シート状、板状、柱状などが好ましい。粉砕を行う場合、その粒径は、1〜10mmが好ましく、2〜5mmがより好ましい。
【0058】
本発明における水素発生剤は、未硬化の熱硬化性樹脂に粒状の水素化カルシウムを60重量%以上含有する混合物を硬化させる工程を含む製法により製造されることが好ましい。混合物には、前述した他の成分や硬化剤などの成分を含有させることができる。
【0059】
本発明では、特に、混合物を硬化させる工程が、加圧下で行われることが好ましい。加圧を行う場合の加圧条件としては、製造装置や製造コストを考慮しつつ、水素発生剤の空孔率を下げる観点から、1〜100MPaが好ましく、2〜50MPaがより好ましく、5〜30MPaが更に好ましい。加圧にはプレス成形用の金型等を使用することができる。
【0060】
熱硬化性樹脂以外の樹脂として、例えば熱可塑性樹脂を使用する場合、樹脂の軟化点以上の温度で粒状の水素化カルシウムを60重量%以上混合し、これを冷却固化する方法で本発明の水素発生剤を製造することができる。また、耐熱性樹脂の場合には、熱可塑性樹脂の場合と同様にして、軟化した前駆体中に水素化カルシウムを混合した後、反応を行って硬化する方法などが挙げられる。
【0061】
本発明に用いられる被覆材は、水素発生剤の周囲を拘束しかつ弾性変形及び/又は塑性変形を許容するものであるが、弾性変形を許容する被覆材であることが好ましい。被覆材は、一層だけ被覆するのが好ましいが、二層以上にすることも可能である。
【0062】
弾性変形を許容する被覆材としては、樹脂弾性体のチューブ、樹脂基材の粘着テープ、ゴムチューブ、ゴム基材の粘着テープ、金属弾性体のC字型スリーブなどが挙げられ、塑性変形を許容する被覆材としては、塑性変形可能な樹脂チューブ、樹脂基材の粘着テープなどが挙げられる。
【0063】
本発明では、特に熱収縮性の被覆材を使用することが好ましく、熱収縮チューブを使用することがより好ましい。熱収縮チューブは、一般的に、収縮が完結する前の状態では、弾性変形又は塑性変形が可能な性質を有する。
【0064】
熱収縮チューブの材質としては、塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、エチレンプロピレンゴム、ネオプレンなどの汎用熱収縮チューブも使用可能であるが、耐熱性熱収縮チューブが好ましく使用される。耐熱性熱収縮チューブとしては、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、シリコーンゴムなどが挙げられる。
【0065】
被覆材の厚みは、例えば1μm〜5mmであり、特に熱収縮性の被覆材を使用する場合、適当な拘束力を得る観点から、その厚みは、10〜3000μmが好ましく、100〜2000μmがより好ましい。
【0066】
本発明において吸水体を設ける場合、水素発生剤と一部が接触した状態となる。吸水体としては、水を含浸可能なものであれば何れでもよいが、濾紙、吸水性フェルト、吸水性樹脂、脱脂綿、吸水性不織布、吸水紙などが好ましい。
【0067】
吸水体の厚みは、水等の反応液を水素発生剤に適度に供給する観点から、0.05〜3mmが好ましく、0.1〜1mmがより好ましい。
【0068】
被覆材の内径は、均一な拘束状態を得る観点から、水素発生剤の外径の100〜500%であることが好ましく、110〜300%であることがより好ましい。
【0069】
被覆材を熱収縮させる際の温度は、被覆材の収縮特性にもよるが、反応時の水素発生剤の温度を考慮すると、70〜150℃が好ましく、80〜120℃がより好ましい。また、この温度範囲で、収縮率が20〜95%の熱収縮性の被覆材を使用することが好ましく、収縮率が50〜80%であることがより好ましい。
【0070】
本発明の水素発生装置は、水素発生剤に反応液を供給して水素を発生させるものである。反応液としては、水、酸水溶液、アルカリ水溶液などが挙げられる。供給する反応液の温度は、室温でもよいが、30〜80℃に加熱することも可能である。
【0071】
本発明では、水素発生剤と一部が接触した吸水体を介して水素発生剤に反応液を供給して水素を発生させる方法が、反応速度を一定にする上で好ましい。
【0072】
反応液の供給は、発生させる水素ガスの量に応じて供給量を調整することも可能であるが、本発明では過剰供給を行っても、反応速度が制御されているため、適度な発生速度で水素発生が可能である。
【0073】
<別実施形態>
上記の実施形態では、反応液通路32bは、フィルム状部材で塞がれており、反応液貯留部2の開口端2aから反応液収容容器3を挿入することで、反応液貯留部2の内底面2bに設けられた突起部21によりフィルム状部材が破断されるように構成する例を示した。しかし、反応液通路32bは、加圧された反応液の圧力で破断可能なフィルム状部材で塞ぐようにしてもよい。すなわち、反応液貯留部2の開口端2aから反応液収容容器3を挿入していくことで、反応液貯留部2の反応液は加圧されるので、この反応液の圧力によって破断可能な強度を有するフィルム状部材で反応液通路32bを塞ぐことができる。この際、フィルム状部材をハーフカットしておき、反応液の圧力で破れやすいようにしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 発生剤収容部
2 反応液貯留部
2a 開口端
2b 内底面
3 反応液収容容器
3a 空間
4 吸水体
5 水素供給孔
11 水素発生剤
12 被覆材
21 突起部
21a 凹溝
31 容器本体
31b 容器下部
32 容器底部
32b 反応液通路
33 パッキン
34 アルミ箔
41 吸水体
42 吸水体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体の水素発生剤と反応液とを反応させて水素を発生させる水素発生装置において、
反応液との反応により水素を発生する水素発生剤と、
その水素発生剤を収容する発生剤収容部と、
反応開始前に反応液を貯留しておく有底筒状の反応液貯留部と、
発生剤収容部の外側に設けられ、発生剤収容部との間の空間に反応液貯留部の反応液が充填される反応液収容容器と、
反応液収容容器に充填された反応液を発生剤収容部へ供給可能な反応液供給部と、
発生剤収容部にて発生した水素を反応液収容容器の外部へ供給するための水素供給路と、を備え、
反応液貯留部の開口端から反応液収容容器を挿入することで、反応液収容容器の容器底面に形成された反応液通路を介して前記空間に反応液が充填されることを特徴とする水素発生装置。
【請求項2】
前記反応液通路は、閉塞部材で塞がれている請求項1に記載の水素発生装置。
【請求項3】
前記閉塞部材は、フィルム状部材であって、
反応液貯留部の開口端から反応液収容容器を挿入することで、反応液貯留部の内底面に設けられた突起部により前記フィルム状部材が破断される請求項2に記載の水素発生装置。
【請求項4】
前記反応液通路は、反応液収容容器の容器底面に形成された貫通孔であり、
前記突起部は、前記貫通孔に挿入可能であって、その外周面に高さ方向に沿った凹溝を有する請求項3に記載の水素発生装置。
【請求項5】
反応液貯留部に反応液が貯留された状態で、反応液収容容器の容器下部が反応液貯留部の前記開口端に係止可能である請求項1〜4のいずれかに記載の水素発生装置。
【請求項6】
反応液収容容器の外壁と反応液貯留部の内壁との間で反応液をシールするシール部材が、前記容器下部の外周面または前記開口端の内周面に設けられている請求項5に記載の水素発生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate