説明

水素精製回収方法および水素精製回収設備

【課題】トリクロロシランを生成する転換設備に接続され、転換反応の生成ガスに含まれる水素を効率よく精製回収して再利用することができる水素精製回収方法およびその設備を提供する。
【解決手段】トリクロロシランを生成させる転換反応において生成した混合ガスを活性炭充填層に通じ、クロロシラン類および塩化水素を活性炭に吸着させてガス中から分離することを特徴とする水素精製回収方法および設備であって、好ましくは、クロロシラン類を主に吸着する前段活性炭充填層と、塩化水素を主に吸着する後段活性炭充填層の二段に形成し、上記混合ガスを上記前段活性炭充填層および上記後段活性炭充填層に連続して通過させてクロロシラン類と塩化水素を段階的に分離する水素精製回収方法および設備。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、トリクロロシランを生成する転換設備に接続され、転換反応の生成ガスに含まれる水素を効率よく精製回収して再利用することができる水素精製回収方法およびその設備に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度多結晶シリコンは、例えばトリクロロシラン(SiHCl3:TCSと略称)および水素を原料とし、次式(1)に示されるトリクロロシランの水素還元反応、次式(2)に示されるトリクロロシランの熱分解反応によって生成されている。
SiHCl3+H2 → Si+3HCl ・・・(1)
4SiHCl3 → Si+3SiCl4+2H2 ・・・(2)
【0003】
多結晶シリコンの上記生成反応から排出されるガスには未反応のトリクロロシランおよび水素と共に、副生した塩化水素およびテトラクロロシラン、ジクロロシラン、ヘキサクロロジシランなどのクロロシラン類が含まれる。これらのクロロシラン類は沸点に応じて段階的に蒸留分離され、必要に応じて再利用される。
【0004】
例えば、上記生成反応の排ガスから蒸留分離して回収したテトラクロロシランを原料とし、次式(3)に示す水素付加の転換反応によってトリクロロシランを得ることができる。転換反応において生成したガスに含まれるトリクロロシランやテトラクロロシランなどのクロロシラン類は冷却凝集して回収し、トリクロロシランは上記多結晶シリコンの製造原料として再利用される。
SiCl4+H2 → SiHCl3+HCl ・・・(3)
【0005】
また、上記生成ガスには未反応の水素が多量に含まれているので、クロロシラン類を凝縮分離した後に、混合ガス中の水素を回収して上記転換反応の原料として転換炉に戻して再利用すれば、水素の使用効率を高め大幅なコスト低減を図ることができる。
【0006】
しかし、上記生成ガスには塩化水素が含まれており、塩化水素が含まれている状態で転換反応の原料として使用すると、転換反応が阻害されると云う問題があり、上記生成ガスから水素を回収して再利用するには、生成ガスに含まれる塩化水素を効率よく取り除くことが必要である。
【0007】
従来の塩化水素の除去方法としては、例えば、図3に示す処理方法が知られている。この方法は、まず転換炉1の反応生成ガスを冷却器2に導いて冷却し、クロロシラン類を凝縮させて捕集し、上記生成ガスから取り除いて塩化水素と水素の混合ガスにする。次に、塩化水素と水素の混合ガスを苛性ソーダの水溶液が循環する中和塔3に通して塩化水素を取り除く。混合ガスに含まれている塩化水素と未凝縮のクロロシラン類は中和塔3において苛性ソーダと反応し、塩化ナトリウム、珪酸ナトリウムを生じて塔底に沈積するので、これを抜き出して系外に除去する。
【0008】
一方、水素が残った混合ガスは中和塔3を通過して乾燥塔4に導入される。該乾燥塔4にはゼオライトが充填されており、水素含有ガスが塔内を通過する間に乾燥される。乾燥された水素は蒸発器5に戻され、供給水素および供給STCと混合されて転換炉1に導入され、循環使用される(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭48−40625号公報(第4頁右上欄、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図3に示す従来の水素回収技術では、反応生成ガス中の塩化水素は塩化ナトリウム等に転換して除去されるので、有効利用されることなく廃棄物として処理されており、廃棄処理のコストが嵩む。また、転換装置から抜き出した生成ガスを極低温まで冷却し、凝縮液化したクロロシラン類を分離するが、極低温まで冷却しても未凝縮クロロシラン類が生成ガスに残留するので、塩化水素除去のためにこれを中和処理すると、未凝縮クロロシラン類も中和処理されて廃棄物となるので、クロロシラン類を有効に利用できない問題があった。さらに、中和剤として多くの苛性ソーダを消費してしまう不都合もあった。
【0010】
本発明は、従来の水素回収技術における上記問題を解決するものであり、水素と共にクロロシラン類および塩化水素を含むガス、例えば、転換炉の生成ガスから効率よく塩化水素およびクロロシラン類を分離除去して、転換反応に再利用できる精製水素ガスを回収し、かつ塩化水素およびクロロシラン類を有効利用できる形態で分離して廃棄ロスを防止した水素精製回収方法とその設備を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の〔1〕〜〔5〕に示す構成を有することによって上記課題を解決した水素精製回収方法に関する。
〔1〕水素と共にクロロシラン類および塩化水素を含む混合ガスを活性炭充填層に通じ、クロロシラン類および塩化水素を活性炭に吸着させてガス中から分離する水素精製回収方法。
〔2〕テトラクロロシランと水素を反応させてトリクロロシランを生成させる転換反応において生成した混合ガスを活性炭充填層に通じ、クロロシラン類および塩化水素を活性炭に吸着させてガス中から分離する上記[1]の水素精製回収方法。
〔3〕クロロシラン類を主に吸着する前段活性炭充填層と、塩化水素を主に吸着する後段活性炭充填層の二段に形成し、上記混合ガスを上記前段活性炭充填層および上記後段活性炭充填層に連続して通過させてクロロシラン類と塩化水素を段階的に分離する上記[1]または上記[2]の水素精製回収方法。
【0012】
本発明は、以下の〔4〕〜〔6〕に示す構成を有することによって上記課題を解決した水素精製回収設備に関する。
〔4〕クロロシラン類および塩化水素を吸着する活性炭充填層を有する吸着装置、水素と共にクロロシラン類および塩化水素を含む混合ガスを上記吸着装置に導く管路を備えていることを特徴とする水素精製回収設備。
〔5〕クロロシラン類を主に吸着する前段活性炭充填層と、塩化水素を主に吸着する後段活性炭充填層とを有する吸着装置、水素と共にクロロシラン類および塩化水素を含む混合ガスを該吸着装置に導き、前段活性炭充填層および後段活性炭充填層を経由して流す管路を備えている上記[4]に記載する水素精製回収設備。
〔6〕テトラクロロシランと水素を反応させてトリクロロシランを生成させる転換設備に接続され、該転換反応において生成した混合ガスを吸着装置に導き、該吸着装置を経由して精製された水素を上記転換設備に戻す循環管を有する上記[4]または上記[5]に記載する水素精製回収設備。
【発明の効果】
【0013】
上記[1]の方法および上記[4]の設備によれば、水素と共にクロロシラン類および塩化水素を含む混合ガスを活性炭充填層に通じ、クロロシラン類および塩化水素を活性炭に吸着させてガス中から分離し、クロロシラン類および塩化水素をほとんど含まない精製された水素ガスを回収することができる。また、活性炭に吸着されたクロロシラン類および塩化水素は活性炭に加熱下で水素ガスを通じるなどの脱着方法によって回収することができるので、廃棄ロスを生じない。
【0014】
上記[3]の方法および上記[5]の設備によれば、活性炭充填層を二段階に形成し、クロロシラン類を主に前段で吸着分離し、塩化水素を主に後段で吸着分離するので、クロロシラン類と塩化水素の分離効果に優れており、クロロシラン類および塩化水素を実質的に含まない精製した水素ガスを得ることができる。
【0015】
上記[2]の方法および上記[6]の設備によれば、テトラクロロシランと水素を反応させてトリクロロシランを生成させる転換反応において生成した混合ガスからクロロシラン類および塩化水素を除去した精製水素ガスを効率よく回収し、転換反応の原料の一部として循環使用することができる。これにより原料コストを低減することができる。
【0016】
以上のように、本発明に係る水素精製回収方法および水素精製回収設備によれば、トリクロロシランへの転換反応で生じた反応生成ガスを、活性炭に通して塩化水素およびクロロシラン類を吸着させて分離するので、吸着後にこれを脱着して回収することができ、従来は廃棄されていた塩化水素を有効に再利用することができる。また、従来は中和剤として用いていたカセイソーダを用いる必要がない。
【0017】
さらに、従来は混合ガスを極低温まで冷却してクロロシラン類を凝縮分離して中和処理しているが、未分離のクロロシラン類が残るので、これが廃棄ロスになるのを避けることができない。一方、本発明の方法および設備では、活性炭に吸着したクロロシラン類は脱着して回収することができるので、混合ガスを極低温まで冷却して凝縮分離する必要がなく、しかもクロロシラン類の廃棄ロスを生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。本発明に係る水素精製回収システム(方法ないし設備)の一例を図1および図2に示す。図示する実施形態は、テトラクロロシランと水素との反応によってトリクロロシランを生成させる転換設備に本発明の水素精製回収システムを適用した例である。
【0019】
〔転換設備〕
図示する例において、トリクロロシランを生成する転換設備には、テトラクロロシランの蒸発器5と、転換炉1とが設けられている。原料の水素および四塩化珪素(STC)は蒸発器5に導入され、これらが混合した原料ガスが転換炉1に導入される。転換炉1は約800℃〜約1300℃の炉内温度に設定され、水素と四塩化珪素が反応してトリクロロシランおよび微量のジクロロシラン、ヘキサクロロジシランなどが生成し、これらの混合ガスが転換炉1から流出する。この混合ガスには、例えば、生成したトリクロロシラン約2%〜約13%、副生した塩化水素約2%〜約13%、未反応の四塩化珪素約14%〜約60%、水素約20%〜約78%が含まれている。
【0020】
〔凝縮工程〕
転換炉1には冷却器7が接続しており、転換炉1で生じた混合ガス(約600℃〜約1100℃)は冷却器7に導入され、約−50℃〜約50℃に冷却され、ガス中のクロロシラン類が凝縮液化して捕集され、クロロシラン類を回収する蒸留工程(図示省略)に送られる。
【0021】
上記凝縮工程でクロロシラン類の大部分は混合ガスから分離されるが、まだ混合ガスには、未凝縮のクロロシラン類、塩化水素および多量の水素が含まれている。この混合ガスを水素精製回収設備に導入し、ここで塩化水素および未凝縮のクロロシラン類を分離し、精製した水素ガスを回収する。
【0022】
〔水素精製回収設備〕
水素精製回収設備は、活性炭充填層8を有する吸着装置(吸着塔)9、および吸着塔9から転換設備の蒸発器5に至る循環路11を備えている。さらに、図示する水素精製回収設備には、吸着塔9に脱着ガスを導入する管路、第2冷却器10、上記吸着塔9から第2冷却器10を経由する管路、および吸着塔9の加熱手段(図示省略)からなる脱着手段が設けられている。
【0023】
〔吸着工程〕
水素精製回収設備の吸着塔9は冷却器7に接続しており、冷却器7を経た混合ガスは吸着塔9に導入される。該吸着塔9の内部には活性炭充填層8が形成されている。この活性炭は一般に使用されているものでよい。活性炭に対するクロロシラン類、塩化水素、水素の吸着率はクロロシラン類 > 塩化水素 > 水素の順であり、水素の吸着率は低い。
【0024】
従って、上記混合ガスを吸着塔9に通じると、混合ガスが活性炭充填層8を通過する間に、混合ガス中のクロロシラン類および塩化水素は活性炭に吸着され、ガス中から分離される。一方、水素の吸着率は低いので僅かに活性炭に吸着されるが、大部分は活性炭充填層8を通過するので、クロロシラン類および塩化水素を含まない精製された水素ガスを得ることができる。
【0025】
一般の活性炭は、高濃度飽和状態で、クロロシラン類の吸着量は活性炭100gあたりクロロシラン類約50gであり、塩化水素の吸着量は活性炭100gあたり塩化水素約6gであるので、混合ガスに含まれるクロロシラン類および塩化水素の量および混合ガスの導入量に応じて、上記吸着量に見合うように活性炭充填層8の容量を定めれば良い。なお、吸着塔9の活性炭充填層8は常温で使用すればよい。
【0026】
〔脱着工程〕
吸着された塩化水素およびクロロシラン類は、吸着した活性炭充填層8(吸着塔9)を約150℃〜約170℃に加熱し、この加熱下で水素を活性炭充填層8に通過させることによって脱着することができる。加熱した吸着塔9は脱着ガスを通じた後に約35℃に冷却して吸着使用の状態に戻す。
【0027】
〔分離工程〕
一方、脱着ガスは第2冷却器10に導入され、クロロシラン類と塩化水素とを分離して回収することができる。具体的には、吸着塔9から流出した脱着ガスを第2冷却器10に導入し、ここで約−50℃〜約−30℃に冷却してクロロシラン類を凝縮して回収する。回収したクロロシラン類は、塩化水素と金属シリコンとを反応させてトリクロロシランを製造する工程に送り、再使用することができる。一方、塩化水素は未凝縮ガスとして第2冷却器10から流出するので、これを塩酸水溶液に吸収させて回収することができる。
【0028】
以上のように、吸着塔9は、混合ガスの導入(クロロシラン類および塩化水素の吸着)→ 加熱下で水素ガスの導入(クロロシラン類および塩化水素の脱着)→ 冷却(使用状態に復帰)のサイクルに従って使用される。従って、連続して吸着操作を行うためには、複数の吸着塔9(活性炭充填層8)を並列に設け、各吸着塔9が一定の吸着時間帯を有するように、混合ガスを導入する吸着塔9を切り替えて使用するとよい。
【0029】
このように、本発明の水素精製回収システムによれば、転換設備のトリクロロシラン生成反応で生じた反応ガスを吸着塔9に導いて活性炭に通じ、塩化水素およびクロロシラン類を吸着させて水素を分離するので、活性炭を吸着剤として塩化水素およびクロロシラン類を上記反応生成ガスから効率的に取り除くことができ、精製された水素ガスを得ることができる。
【0030】
活性炭に吸着した塩化水素は脱着して回収することができ、従来は廃棄されていた塩化水素を有効に回収することができる。また、活性炭に吸着したクロロシラン類も脱着して回収することができるので、従来は未凝縮のクロロシラン類は廃棄されていたが、本発明によれば従来のような廃棄ロスを大幅に低減することができる。また、従来はクロロシラン類を出来るだけ凝縮捕集するために極低温にまで冷却しているが、本発明によれば未凝縮のクロロシラン類は分離した後に回収することができるので、クロロシラン類を凝縮するのに極低温まで冷却する必要がない。
【0031】
本発明によれば、水素を乾燥させる工程が不要であり、また中和処理を行わないので、従来、中和剤として用いていたカセイソーダが不要である。さらに本発明によれば、吸着塔9から回収した水素ガスには塩化水素が含まれておらず、従って、この水素ガスを循環管11を通じて転換設備に戻し、トリクロロシランを生成する転換反応の原料ガスの少なくとも一部として利用することができるので、原料コストを削減することができる。
【0032】
〔第2実施形態:活性炭充填層の二段構成〕
次に、本発明に係る水素精製回収システムの第2実施形態について説明する。第2実施形態を図2に示す。なお、以下の説明において、図1の第1実施形態と同一の構成は同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0033】
第2実施形態が第1実施形態と異なる点は、第1実施形態では、一つの活性炭充填層8を有する吸着塔9が用いられているが、第2実施形態では、図2に示すように、吸着塔29が前段活性炭充填層8Aと後段活性炭充填層8Bとの二段に構成されている点である。
【0034】
図2に示す水素精製設備において、吸着塔29は主としてクロロシラン類を吸着させる前段活性炭充填層8Aと、主として塩化水素を吸着させる後段活性炭充填層8Bとを備えており、前段活性炭充填層8Aと後段活性炭充填層8Bとは直列に接続されている。吸着塔29に導入された混合ガスは、最初の前段活性炭充填層8Aに導かれ、この前段活性炭充填層8Aを経由した後に次の後段活性炭充填層8Bに導かれる。
【0035】
〔クロロシラン類の吸着〕
水素と共にクロロシラン類および塩化水素を含有する混合ガスを活性炭に通じた場合、クロロシラン類は塩化水素よりも吸着されやすいので、クロロシランの吸着が進み、クロロシランの大部分が吸着された後にも塩化水素がガス中に残留している。そこで、活性炭充填層を二段に形成し、混合ガスを前段活性炭充填層8Aに導入して主にクロロシラン類を吸着させる。
【0036】
〔塩素水素の吸着〕
前段活性炭充填層8Aを経由した混合ガスを後段活性炭充填層8Bに導入し、混合ガスに残留している塩化水素を後段活性炭充填層8Bに吸着させる。後段活性炭充填層8Bの活性炭はクロロシラン類によって吸着飽和しておらず、新鮮な活性炭に塩化水素を吸着させることができるので、塩化水素の吸着効果を高めることができる。
【0037】
活性炭充填層を二段に形成する場合、前段の活性炭充填層8Aの容量は混合ガスに含まれるクロロシラン類を主に吸着するのに必要十分な容量に定めればよく、後段の活性炭充填層8Bの容量は混合ガスに含まれる塩化水素を主に吸着するのに必要充分な容量に定めればよい。
【0038】
前段活性炭充填層8Aおよび後段活性炭充填層8Bには、加熱手段(図示省略)がおのおの設けられており、さらにこれら充填層8A、8Bに脱着ガスを導入して抜き出すための管路が設けられている。また、前段活性炭充填層8Aには脱着ガスに含まれるクロロシラン類を凝縮して回収するための第2冷却器10が接続されている。
【0039】
〔クロロシラン類の脱着回収〕
主にクロロシラン類を吸着した前段活性炭充填層8Aは約150℃〜約170℃に加熱され、この加熱下で水素ガスを前段活性炭充填層8Aに通過させることによってクロロシラン類が脱着される。このクロロシラン類を含む脱着ガスは第2冷却器10に導入され約−50℃〜約−30℃に冷却されてクロロシラン類が凝縮回収される。加熱した前段活性炭充填層8Aは脱着ガスを通じた後に約35℃に冷却して吸着使用の状態に戻す。
【0040】
〔塩化水素の脱着回収〕
一方、主に塩化水素を吸着した後段活性炭充填層8Bは約150℃〜約170℃に加熱され、この加熱下で水素ガスを後段活性炭充填層8Bに通過させることによって塩化水素が脱着される。この塩化水素を含む脱着ガスは後段活性炭充填層8Bから抜き出される。この脱着ガスにはクロロシラン類が含まれていないので、第2冷却器10を経由せずに抜き出せば良い。脱着ガスに含まれる塩素水素はこれを回収して再利用することができる。
【0041】
活性炭に対する水素の吸着率は小さいので、吸着塔29に導入された混合ガス中の水素は活性炭に殆ど吸着されずに、前段活性炭充填層8Aおよび後段活性炭充填層8Bを通過して流出する。一方、混合ガス中のクロロシラン類および塩化水素は活性炭に吸着されるので、後段活性炭充填層8Bから抜き出されたガスにはクロロシラン類および塩化水素が含まれておらず、精製された水素ガスが得られる。後段活性炭充填層8Bから抜き出された精製水素ガスは循環路11を通じて転換設備の蒸発器5に戻され、転換反応の原料ガスの一部として再利用される。
【0042】
このように図2に示す第2実施形態では、転換反応において生成した反応ガスを前段活性炭充填層8Aに通して主としてクロロシラン類を吸着させ、さらに前段活性炭充填層8Aを通過した反応ガスを後段活性炭充填層8Bに通して主として塩化水素を吸着させる二段構成の吸着塔29を用いることによって、クロロシラン類および塩化水素を効果的に活性炭に吸着させて混合ガスから分離し、クロロシラン類および塩化水素を含まない精製された水素ガスを得ることができる。
【0043】
また、前段活性炭充填層8Aからクロロシラン類を脱着して回収することができ、さらに、後段活性炭充填層8Bからクロロシラン類を殆ど含まない純粋な塩化水素を脱着して回収することができる。
【0044】
以上のように、吸着塔29は、混合ガスの導入(クロロシラン類の吸着 → 塩化水素の吸着)→ 加熱下で水素ガスの導入(クロロシラン類の脱着 → 塩化水素の脱着)→ 冷却(使用状態に復帰)のサイクルに従って使用される。従って、連続して吸着操作を行うためには、複数の吸着塔29を並列に設け、各吸着塔29が一定の吸着時間帯を有するように、混合ガスを導入する吸着塔29を切り替えて使用するとよい。
【実施例】
【0045】
本発明の実施例を比較例と共に以下に示す。なお、本発明の技術範囲は下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0046】
各例において、転換炉1から流出した生成ガスとして表1に示す成分を有する生成ガスを用いた。また、塔径1600mmφ、充填高さ10000mmhの吸着塔(第2実施態様では前段活性炭充填層8Aおよび後段活性炭充填層8B)を用いた。
【0047】
【表1】

【0048】
〔実施例1:図1の実施形態〕
図1に示す水素精製回収システムに従い、3基の活性炭充填層8を並列に設けた吸着塔9を用い、各活性炭充填層8を(吸着)→(加熱脱着)→(冷却)→(吸着)→・・・の順に操作を切り替え、冷却器7を経由した混合ガスを吸着使用状態の活性炭充填層8に連続的に導入する構成とした。
【0049】
〔実施例A1〕
(A1)表1の反応生成ガスを冷却器7に導入し、0.05MPaGの圧力で−30℃に冷却し、凝縮したクロロシラン類を捕集した。冷却器7を経由したガスを活性炭充填層8(吸着塔9)に導入した。ガス導入開始後、4時間経過した後に活性炭充填層8の出口ガス中のクロロシラン類、塩化水素を測定したところ、これらのガスは検出されず全量が活性炭に吸着された。なお4時間ごとに流路を切り替えて、生成ガスを他の活性炭充填層8に導入した。またクロロシラン類、塩化水素ガスを吸着した活性炭充填層8について加熱脱着操作を行い、吸着したクロロシラン類および塩化水素を回収した。この結果を表2に示した。
【0050】
上記(A1)において、クロロシラン類、塩化水素ガスを吸着した活性炭充填層8を160℃まで加熱し、0.5m3/minの流量で水素ガスを活性炭充填層8に導入した。活性炭充填層8から抜き出した脱着ガスを第2冷却器10で−40℃まで冷却し、4kmolのクロロシラン類を回収した。第2冷却器10を通過したガスは、塩化水素ガスと金属シリコンを反応させてトリクロロシランを製造する塩化炉に原料として供給した。
【0051】
〔実施例A2〜A3〕
凝縮工程(冷却器7)の条件を以下のように設定した以外は上記(A1)と同様にして実施した。この結果を表2に示した。
(A2)操作圧:0.4MPaG、ガス温度:0℃まで冷却した生成ガスを活性炭吸着塔9の活性炭充填層8に供給した。活性炭充填層8の出口ガス中のクロロシラン、塩化水素ガスは検出されず、全量が活性炭に吸着された。
(A3)操作圧:1.0MPaG、ガス温度:20℃まで冷却した生成ガスを活性炭吸着塔9の活性炭充填層8に供給した。活性炭充填層8の出口ガス中のクロロシラン、塩化水素ガスは検出されず、全量が活性炭に吸着された。
【0052】
【表2】

【0053】
〔比較例〕
図3に示す従来の方法によって水素を回収した。具体的には、表1の生成ガスを冷却器2に導入し、操作圧力0.05MPaGで生成ガスを−50℃まで冷却してクロロシラン類を凝縮捕集し、次いでカセイソ−ダ水溶液が循環する中和塔に導入して塩化水素ガスと未凝縮クロルシラン類を取り除いた後、ゼオライトを充填した乾燥塔に通じて乾燥し、転換炉1に戻して循環使用した。この結果、TCS=2.4kmol/hr、STC=15.4kmol/hrが凝縮捕集されたが、トリクロロシランの一部を回収できなかった。なお、中和塔では6.1kmol/hrのカセイソ−ダが消費された。
【0054】
〔実施例2:図2の実施形態〕
図2に示す水素精製回収システムに従い、前段活性炭充填層8Aと後段活性炭充填層8Bとが直列に接続された一組の活性炭充填層を2基並列に接続した吸着塔29を用い、各活性炭充填層8A、8Bを(吸着)→(加熱脱着)→(冷却)→(吸着)→・・・の順に操作を切り替え、冷却器7を経由した混合ガスを吸着使用状態の活性炭充填層8A、8Bに連続的に導入する構成とした。
【0055】
〔実施例B1〕
(B1)表1の生成ガスを冷却器7に導入し、0.05MPaGの圧力で10℃まで冷却してクロロシラン類を凝縮捕集した。冷却器7を経由したガスを、前段活性炭充填層8Aおよび後段活性炭充填層8Bを2基シリ−ズに連結した吸着塔29の前段活性炭充填層8Aに導入した後に、さらに後段活性炭充填層8Bに導入した。
【0056】
ガス導入を開始して2.5時間後に、前段活性炭充填層8A出口のガス中に塩化水素ガスが検出されたがクロロシラン類は検出されなかった。4時間後にも前段活性炭充填層8A出口のガス中にクロロシラン類は検出されず、ガス中のクロロシラン類は全量が前段活性炭充填層8Aに吸着捕集された。また4時間経過後の後段活性炭充填層8B出口のガスには塩化水素ガスが検出されず、前段8Aを出た塩化水素ガスは全量が後段活性炭充填層8Bに吸着捕集された。なお、4時間で流路を切り替えてガスを別の吸着塔29に導入した。また、クロロシラン類、塩化水素ガスを吸着した活性炭充填層8A、8Bについて加熱脱着操作を行った。この結果を表3、表4に示した。
【0057】
上記(B1)において、クロロシラン類、塩化水素を吸着した活性炭充填層8A、8Bを160℃まで加熱し、各々0.5m3/minの流量で水素ガスを導入し、クロロシラン類、塩化水素を脱着した。前段活性炭充填層8Aの脱着ガスを第2冷却器10で−40℃まで冷却して30kmolのクロロシラン類を回収した。第2冷却器10を通過したガスは、塩化水素ガスと金属シリコンを反応させてトリクロロシランを製造する塩化炉の原料として供給した。また、後段活性炭充填層8Bの脱着ガスを21%の塩酸水溶液に吸収させて35%の濃塩酸を製造した。なお、塩酸水溶液に吸収した塩化水素ガス量は10kmolであり、また、シリカ等の発生による設備の閉塞は見られなかった。
【0058】
〔実施例B2〕
凝縮工程(冷却器7)の条件を以下のように設定した以外は上記(B1)と同様にして実施した。この結果を表3、表4に示した。
(B2)生成ガスを冷却器7に導入し、0.05MPaGの圧力で−30℃まで冷却してクロロシラン類を凝縮捕集した。冷却器7を経由したガスを前段活性炭充填層8Aに導入し、さらに後段活性炭充填層8Bに導入した。
【0059】
ガス導入開始して4.0時間以上後に、前段活性炭充填層8A出口のガス中に塩化水素ガスが検出されたがクロロシラン類は検出されなかった。8時間後にも前段活性炭充填層8A出口のガス中にクロロシラン類は検出されず、ガス中のクロロシラン類は全量が前段活性炭充填層8Aに吸着捕集された。また、8時間後には後段活性炭充填層8B出口のガス中に塩化水素ガスが検出されず、前段を出た塩化水素ガスは全量が後段活性炭充填層8Bに吸着捕集された。なお、8時間で流路を切り替えガスを別の吸収塔29に導入した。また、クロロシラン類、塩化水素ガスを吸着した活性炭充填層8A、8Bについて加熱脱着操作を行った。
【0060】
〔実施例B3〕
凝縮工程(冷却器7)の条件を以下のように設定した以外は上記(B1)と同様にして実施した。この結果を表3、表4に示した。
(B3)生成ガスを冷却器7に導入し、1.00MPaGの圧力で10℃まで冷却してクロロシラン類を凝縮捕集した。冷却器7を経由したガスを前段活性炭充填層8Aに導入し、さらに後段活性炭充填層8Bに導入した。
【0061】
ガス導入開始して4.0時間以上後に、前段活性炭充填層8A出口のガス中に塩化水素ガスが検出されたがクロロシラン類は検出されなかった。8時間後にも前段活性炭充填層8A出口のガス中にクロロシラン類は検出されず、ガス中のクロロシラン類は全量が前段活性炭充填層8Aに吸着捕集された。8時間後には後段活性炭充填層8B出口のガス中に塩化水素ガスが検出されず、前段を出た塩化水素ガスは全量が後段活性炭充填層8Bに吸着捕集された。なお、8時間で流路を切り替え、ガスを別の吸着塔29に導入した。また、クロロシラン類、塩化水素ガスを吸着した活性炭充填層8について加熱脱着操作を行った。
【0062】
後段活性炭充填層8Bの入口でクロロシラン類を含まない塩化水素ガスと水素ガスの混合ガスを得るには、前段活性炭充填層8Aでクロロシラン類を破瓜させないことが必要であり、上記(B2)(B3)の例では8時間の吸着操作が可能であったが、クロロシラン負荷の大きい上記(B1)の条件では4時間の吸着操作であった。
【0063】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る水素精製回収の方法・設備の第1実施形態を示す配管構成を含む全体の設備構成図。
【図2】本発明に係る水素精製回収の方法・設備の第2実施形態を示す配管構成を含む全体の設備構成図。
【図3】水素精製回収の方法・設備の従来例を示す配管構成を含む全体の設備構成図。
【符号の説明】
【0065】
1…転換炉、7…冷却器、8…活性炭充填層、8A…前段活性炭充填層、8B…後段活性炭充填層、9、29…吸着塔(吸着装置)、10…第2冷却器、11…循環管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素と共にクロロシラン類および塩化水素を含む混合ガスを活性炭充填層に通じ、クロロシラン類および塩化水素を活性炭に吸着させてガス中から分離する水素精製回収方法。
【請求項2】
テトラクロロシランと水素を反応させてトリクロロシランを生成させる転換反応において生成した混合ガスを活性炭充填層に通じ、クロロシラン類および塩化水素を活性炭に吸着させてガス中から分離する請求項1の水素精製回収方法。
【請求項3】
クロロシラン類を主に吸着する前段活性炭充填層と、塩化水素を主に吸着する後段活性炭充填層の二段に形成し、上記混合ガスを上記前段活性炭充填層および上記後段活性炭充填層に連続して通過させてクロロシラン類と塩化水素を段階的に分離する請求項1または請求項2の水素精製回収方法。
【請求項4】
クロロシラン類および塩化水素を吸着する活性炭充填層を有する吸着装置、水素と共にクロロシラン類および塩化水素を含む混合ガスを上記吸着装置に導く管路を備えていることを特徴とする水素精製回収設備。
【請求項5】
クロロシラン類を主に吸着する前段活性炭充填層と、塩化水素を主に吸着する後段活性炭充填層とを有する吸着装置、水素と共にクロロシラン類および塩化水素を含む混合ガスを該吸着装置に導き、前段活性炭充填層および後段活性炭充填層を経由して流す管路を備えている請求項4に記載する水素精製回収設備。
【請求項6】
テトラクロロシランと水素を反応させてトリクロロシランを生成させる転換設備に接続され、該転換反応において生成した混合ガスを吸着装置に導き、該吸着装置を経由して精製された水素を上記転換設備に戻す循環管を有する請求項4または請求項5に記載する水素精製回収設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−143776(P2008−143776A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276565(P2007−276565)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】