説明

水素貯蔵材料及び水素貯蔵材料の製造方法

【課題】放出ピーク温度を200℃以下と低くすることができるとともに、200℃までに放出される水素量の多い水素貯蔵材料を提供する。
【解決手段】金属アミンと、金属水素化物及び金属アミドの1種又は2種とからなることを特徴とする水素貯蔵材料である。この水素貯蔵材料は、放出ピーク温度を200℃以下とすることができ、また、200℃までに放出される水素量が多い。
本発明の水素貯蔵材料において、金属アミン、金属水素化物、金属アミドとしては、以下のものを用いることが好ましい。
金属アミン:マグネシウムアミン
金属水素化物:水素化リチウム、水素化ナトリウム及び水素化カルシウムから選択される少なくとも1種
金属アミド:リチウムアミド、ナトリウムアミド、カルシウムアミド及び亜鉛アミドから選択される少なくとも1種

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素放出温度の低い新規な水素貯蔵材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の地球環境保全や化石燃料の枯渇の問題から、化石燃料に代わる代替エネルギーとして燃料電池が電力の供給源として有望視されている。燃料電池は原料に水素と酸素を用い、その排ガスもクリーンであることから注目されている。ところが、燃料を水素とする場合、メタノールや天然ガスの改質を利用する方法では、起動時に時間がかかることや急激な負荷変動に対応しにくいという欠点がある。そこで、水素を貯蔵する必要があるが、自動車への搭載を想定すると、1回の水素充填で400〜500km走行するためには水素は5kg程度必要である。この水素量を35〜70MPaに圧縮した高圧ボンベや低温にした液体水素にしなければならない。しかし、圧縮水素として貯蔵する場合、水素5kgを70MPaの圧縮水素として高圧ボンベに貯蔵しても、水素の圧縮率の低下のため150L程度の容量が必要でそれほど体積が小さくならない。また、それを充填する高圧ボンベが重い、水素脆性、疲労破壊、安全性が未確認である、といった問題がある。また、液体水素として貯蔵する場合、水素を常時−252℃に冷却して貯蔵しなければならず、ボイルオフによる水素のロス、保温装置を含む貯蔵容器が大きくなる欠点がある。
【0003】
最近、これらの問題を解決できる貯蔵容積が小さくて軽量な水素貯蔵材料が求められている。現在、最も実用化に近いものは水素吸蔵合金であり、これは水素を金属水素化物として貯蔵するものである。しかし、水素吸蔵合金の単位重量当たりの水素吸蔵量が小さいために、多量の水素を必要とする車載用には合金重量が400kgを超えるという問題があり、未だ使用できない。また、合金の場合、水素の吸蔵及び放出時には、合金を高圧、高温条件に曝す必要があるために、その繰り返しによる水素吸蔵合金の劣化及び性能低下、また構成元素が希少金属の場合には、資源枯渇等の問題がある。
【0004】
このような状況において、低温で水素を放出及び貯蔵し、かつ水素貯蔵量が多い無機化合物の検討が進められているが、たとえば、四水素化ホウ素リチウム(LiBH)などの水素貯蔵量の多いものは、通常、水素放出開始温度が高く、不可逆である(非特許文献1)。
【0005】
シンガポール大学のChen等により非特許文献2、特許文献1に報告されたリチウムアミド系材料が注目を浴びている。Chen等は出発物質をLi3N(窒化リチウム)とし、以下に示す反応式にしたがって、高温高圧で水素化したものを水素吸蔵材料としている。この反応によれば、理論的には約9wt%の水素貯蔵量を得ることができる。しかし、エンタルピー(ΔH)が大きいために、吸蔵した水素の全てを放出させるのに600℃以上の高温加熱が必要である。
Li3N+2H2⇒LiNH2+2LiH
【0006】
広島大学の市川等は、Chen等の反応を詳細に検討することによって、上記反応を次の2段階に分離できることを非特許文献3において報告した。
Li3N+H2⇔Li2NH+LiH
Li2NH+H2⇔LiNH2+LiH
【0007】
市川等は、Chen等の反応のうちΔHが小さいLi2NH+H2⇔LiNH2+LiHに着目し、LiNH2(リチウムアミド)とLiH(水素化リチウム)の混合物を出発物質とし、これらに機械的な粉砕処理を行った。その結果、LiNH2の微細な粒子とLiHの微細な粒子が絡まった反応空間を創生し、副生成物のアンモニアの生成量を低減できることが報告されている。しかも、この水素貯蔵材料は、水素吸蔵量が理論量並みの約6wt%(水熱処理前後の重量変化)が得られている。しかし、水素放出量がピークとなる温度(以下、放出ピーク温度と略記する)が280℃付近にあり、燃料電池に適用するためには未だ高い。
【0008】
この放出温度の低温化のために、市川等のグループはLiNH2(リチウムアミド)をMg(NH(マグネシウムアミド)に変える試みを行っている。Mgを使用する目的は上述のLiHとLiアミドの系で水素吸蔵及び放出に寄与する水素原子(または分子)と窒素またはリチウムの結合を緩くするためのものである。しかし、放出ピーク温度を200〜250℃までしか低くできておらず、より低い温度で多量の水素が放出されることが望まれる。
【0009】
【特許文献1】国際公開第03/037784号パンフレット
【非特許文献1】Zuttel et al., Journal of Alloys and compounds 356-357, 2003,515-520
【非特許文献2】P. Chen, et al., Nature, 420, 302-304 (2002)
【非特許文献3】Ichikawa et al., J. Phys. Chem. B, 2004, 108, 7887-7892
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、放出ピーク温度を200℃以下と低くすることができるとともに、200℃までに放出される水素量の多い水素貯蔵材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、金属アミンと、金属水素化物及び金属アミドの1種又は2種とからなることを特徴とする水素貯蔵材料である。この水素貯蔵材料は、放出ピーク温度を200℃以下とすることができ、また、200℃までに放出される水素量が多い。
本発明の水素貯蔵材料において、金属アミン、金属水素化物、金属アミドとしては、以下のものを用いることが好ましい。なお、本発明における金属アミンは、錯体の構造をなすものである。
金属アミン:マグネシウムアミン(Mg(NHCl
金属水素化物:水素化リチウム(LiH)、水素化ナトリウム(NaH)及び水素化カルシウム(CaH)から選択される少なくとも1種
金属アミド:リチウムアミド(LiNH)、ナトリウムアミド(NaNH)、カルシウムアミド(Ca(NH)及び亜鉛アミド(Zn(NH)から選択される少なくとも1種
【0012】
本発明の水素貯蔵材料は、単純な混合物として用いることができるが、機械的な粉砕処理を施すことが好ましい。従って本発明は、金属アミンと、金属水素化物及び金属アミドの1種又は2種との混合物を作製し、この混合物に機械的な粉砕処理を施すことを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法を提供する。
また、金属アミンは、当該金属又は当該金属の水素化物と塩化アンモニウムとを反応させることにより生成されたものを用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、放出ピーク温度を200℃以下と低くすることができるとともに、200℃までに放出される水素量を多くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明をより詳細に説明する。
<水素貯蔵材料>
本発明の水素貯蔵材料は、金属アミンと金属水素化物とから構成される。
金属アミンとしてマグネシウムアミン(Mg(NHCl)、金属水素化物として水素化リチウム(LiH)を例にすると、この水素貯蔵材料の水素放出反応は、下記式(1)で表される。ここで、この水素放出反応にはアンモニア(NH)が介在する。
式(1)
3Mg(NHCl+6LiH⇔Mg+4NH+6LiCl+6H
LiH+NH⇔LiNH
LiNH+LiH⇔LiNH+H
本発明において、金属アミンは、水素貯蔵材料が水素を放出する際のアンモニア供給源となる。すなわち、後述する実施例3に示すように、金属アミンの熱分解によるアンモニアの放出が200℃以下で行われ、水素貯蔵材料からの水素放出反応がより円滑に進むために水素放出温度の低温化を達成できるものと解される。また、金属水素化物、例えば水素化リチウム(LiH)のLiとH(水素)の結合を緩和させるために、マグネシウムアミドMg(NHをマグネシウムアミン(Mg(NHCl)の形態として加えれば、LiClを析出し、水素を放出しやすい分子状態を実現することができる。
【0015】
金属アミンの金属種としては、Li(リチウム)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Na(ナトリウム)のいずれかが好ましく、この中ではMgが最も好ましい。
また、金属水素化物の金属種としては、Li(リチウム)、Na(ナトリウム)、Ca(カルシウム)のいずれかが好ましく、この中ではLiが最も好ましい。
本発明の水素貯蔵材料において、金属アミンと金属水素化物の比率は、金属アミン:金属水素化物=0.05〜2:1のモル比で混合されていることが好ましい。金属アミンの比率が0.05未満では、金属アミンの反応効率が低いためである。また、金属水素化物の比率が2を超えると反応に伴う過剰なアンモニアが発生するからである。金属アミン:金属水素化物は、より好ましくは0.1〜1:1、さらに好ましくは0.25:1である。
【0016】
本発明の水素貯蔵材料は、好ましくは、混合物の状態で機械的な粉砕処理が施される。この点について詳しくは、製造方法の項で説明する。
【0017】
また、本発明の水素貯蔵材料は、金属水素化物に代えて金属アミドを用いることができる。つまり、本発明の水素貯蔵材料は、金属アミンと金属アミドとから構成する形態を包含する。なお、本発明の水素貯蔵材料は、金属水素化物と金属アミドの両者を用いることもできる。
金属アミドとしてLiNH(リチウムアミド)、金属アミンとしてマグネシウムアミン(Mg(NHCl)を例にすると、この水素貯蔵材料の水素放出反応は、下記式(2)で表される。
式(2)
Mg(NHCl+2LiNH⇔Mg(LiNHCl+2NH
Mg(LiNHCl⇔Mg(LiN)Cl+2H
Mg(LiNHCl+2NH⇔Mg(LiNH)+2NHCl
Mg(LiNH)⇔Mg(LiN)+H
【0018】
金属アミドの金属種としては、Li(リチウム)、Ca(カルシウム)、Na(ナトリウム)、Zn(亜鉛)のいずれかが好ましく、この中ではLiが最も好ましい。
【0019】
本発明の水素貯蔵材料において、金属アミンと金属アミドは、金属アミン:金属アミド=0.05〜2:1のモル比で混合されていることが好ましい。金属アミンの比率が0.05未満では、アンモニアの発生反応効率が低いからである。また、金属アミンの比率が2を超えるとアンモニアの生成量が過剰となるからである。金属アミン:金属アミドは、より好ましくは0.1〜1.5:1、さらに好ましくは0.5〜1:1である。
【0020】
<水素貯蔵材料の製造方法>
次に、本発明の水素貯蔵材料の好ましい製造方法について説明する。なお、以下では金属アミンとしてマグネシウムアミン(Mg(NHCl)、金属水素化物として水素化リチウム(LiH)を例にして説明する。
はじめに、マグネシウムアミン(Mg(NHCl)粒子及び水素化リチウム(LiH)粒子を含む原料混合物を得る。原料となるマグネシウムアミン(Mg(NHCl)粒子、水素化リチウム(LiH)粒子は、概ね10〜1000μm程度の粒径を有していればよいが、これに限定されるものではない。
【0021】
次いで、得られた原料組成物に機械的な粉砕処理を施す。この処理により、マグネシウムアミン(Mg(NHCl)粒子及び水素化リチウム(LiH)粒子は、互いに衝突を繰り返す。この過程で、マグネシウムアミン(Mg(NHCl)粒子及び水素化リチウム(LiH)粒子には、圧縮、摩擦、衝撃などの機械的なエネルギーが付与されることにより、活性化して各粒子は反応性が増大する。
特に、強力な機械的粉砕処理を施すことにより、混合物を構成するマグネシウムアミン(Mg(NHCl)粒子及び水素化リチウム(LiH)粒子の結晶子がナノオーダまで微細化する。これと同時に異なる組成の粒子がお互いにナノレベルでの固体接触が実現できるため、固相反応が粒子全体で効率良く進むことができる。また、難粉砕性の材料が添加されている場合には、この効果がより高まることが期待される。強力な機械的粉砕として、遊星ボールミルにおいて、30G以上の遠心加速度を与えながら粉砕メディアで粉砕することが好ましい。このような高加速度を利用した機械的粉砕処理を所定の時間をかけて行うと、ミルポット内で2次凝集を生じさせることができるため、各々の粒子間の接触がさらに促進される。この凝集粉の粒径は、0.1〜10μm程度である。以上の理由により、強力な機械的粉砕処理を適用することにより、水素放出特性の改善に効果がある。なお、遊星ボールミルとは、公転するミル本体と、同方向および逆方向に自転するミルポットで構成されており、自転するミルポットの中に、粉砕メディア(小径ボール)と処理物を入れ、公転・自転時に発生する遠心力でボールを運転させ、粉砕する装置をいう。ミルポット内部の雰囲気は不活性ガス雰囲気、特にアルゴンガス雰囲気とすることが好ましい。多くの材料がアルゴンに対して不活性であるためである。
【0022】
次に、金属アミンを製造する好ましい方法について説明する。
マグネシウムアミン(Mg(NHCl)の原料として、金属マグネシウム(Mg)又は水素化マグネシウム(MgH)と塩化アンモニウム(NHCl)との混合物を得る。この混合物にメカノケミカル処理、例えば機械的粉砕処理を施すことにより、以下の反応式(3)、(4)によりマグネシウムアミン(Mg(NHCl)を得ることができる。なお、反応式(3)は金属マグネシウム(Mg)と塩化アンモニウム(NHCl)との組合せの場合、反応式(4)は水素化マグネシウム(MgH)と塩化アンモニウム(NHCl)との組合せの場合を示している。
生成反応:Mg+2NHCl→Mg(NH)Cl+H…式(3)
生成反応:MgH+3NHCl→Mg(NHCl+2H…式(4)
【0023】
マグネシウムアミン(Mg(NHCl)は、加熱されると熱分解して、下記式(5)で示されるように、アンモニア(NH)を放出する。後述する実施例3に示すように、マグネシウムアミン(Mg(NHCl)からのアンモニア(NH)の放出が、200℃以下で開始する。これに対して、熱分解によるマグネシウムアミド(Mg(NH)からのアンモニア(NH)の放出は350℃程度で開始される。このように、マグネシウムアミン(Mg(NHCl)は、200℃以下の温度でアンモニア(NH)の放出が開始されることが、本発明による水素貯蔵材料が水素放出温度の低温化に寄与している。
熱分解:Mg(NHCl→Mg(NH)Cl+NH…式(5)
【0024】
以上のようにして得られた本発明の水素貯蔵材料は、加熱されることにより水素を放出する。本発明の水素貯蔵材料の特徴は、放出ピーク温度を200℃以下にできるところにある。このような低い温度域に水素放出のピークがあるため、本発明の水素貯蔵材料は実用性が高い。
【0025】
本発明の水素貯蔵材料は、水素を放出した後には、基本的にはマグネシウムアミド(Mg(NH)となる。水素放出により得られたマグネシウムアミド(Mg(NH)を水素ガス雰囲気下で加熱することにより、再度水素を吸蔵することができる。この水素吸蔵により、本発明の水素貯蔵材料が構成される。水素吸蔵のための加熱は、100〜250℃の範囲とすればよい。また、水素ガス雰囲気は、加圧雰囲気とすることが好ましい。
【実施例1】
【0026】
金属アミンとしてマグネシウムアミン(Mg(NH)Cl)、金属水素化物として水素化リチウム(LiH)の例を示す。
まず、マグネシウムアミン(Mg(NH)Cl)を300mg、水素化リチウム(LiH)を100mg秤量し、高純度アルゴン雰囲気のグローブボックス内(水分1ppm以下)で乳鉢を用いて30分間混合することによってMg(NH)Cl−LiH系水素貯蔵材料を製造した。
得られた試料についてX線回折を行った。回折パターンはアモルファス成分が多く観察されたが、塩化リチウム(LiCl)の生成が認められ、当該水素貯蔵材料における水素結合が緩和されている兆候が見出された。
【0027】
次に、製造した試料10mgをガスクロマトグラフィー(Gas Chromatography)用試料セルに充填し、恒温槽内に設置した。セル温度を室温から100℃、125℃、150℃、175℃、200℃まで段階的に昇温し、それぞれの温度で1時間保持した状態でそれぞれの温度での試料からの水素放出量をガスクロマトグラフィー分析装置で測定した。図1に水素放出量と温度の関係を示す。また、200℃までの積算水素放出量を表1にまとめた。
【0028】
金属水素化物として、水素化リチウム(LiH)の代わりに、水素化ナトリウム(NaH)、水素化カルシウム(CaH)について同様の試験を実施し、その結果も図1及び表1に示す。
また、マグネシウムアミド(Mg(NH)と水素化リチウム(LiH)の混合物からなる従来の水素貯蔵材料についても同様の試験を実施した。その結果も図1及び表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
図1及び表1より、マグネシウムアミド(Mg(NH)の代わりにマグネシウムアミン(Mg(NH)Cl)を用いることにより、放出ピーク温度が低くなり、200℃までの水素放出量を増加させることができる。
金属水素化物が水素化ナトリウム(NaH)、水素化カルシウム(CaH)の場合は、水素化リチウム(LiH)に比べて放出ピーク温度が高く、かつ200℃までの水素放出量が少ない。しかし、マグネシウムアミド(Mg(NH)と比べると放出ピーク温度が低く、かつ200℃までの水素放出量が多い。
【0031】
本実施例では金属アミンと金属水素化物の処理として乳鉢を用いて30分間の混合処理の例を示したが、難粉砕性の添加物がある場合、処理時間の短縮、大量の試料製造などについては、遊星ボールミルのような機械的な粉砕手段を用いても同様の効果が得られる。以下の実施例も同様である。
【実施例2】
【0032】
金属アミンとしてマグネシウムアミン(Mg(NHCl)、金属アミドとしてリチウムアミド(LiNH)の例を示す。
まず、マグネシウムアミン(Mg(NHCl)を300mg、リチウムアミド(LiNH)を150mg秤量し、高純度アルゴン雰囲気のグローブボックス内(水分1ppm以下)で乳鉢を用いて30分間混合することによってMg(NHCl−LiH系水素貯蔵材料を製造した。
【0033】
次に、製造した試料10mgをガスクロマトグラフィー(Gas Chromatography)用試料セルに充填し、恒温槽内に設置した。セル温度を室温から100℃、125℃、150℃、175℃、200℃まで段階的に昇温し、それぞれの温度で1時間保持した状態でそれぞれの温度での試料からの水素放出量をガスクロマトグラフィー分析装置で測定した。200℃までの積算水素放出量を表2にまとめた。
【0034】
金属アミドとして、リチウムアミド(LiNH)の代わりに、ナトリウムアミド(NaNH)、カルシウムアミド(Ca(NH)亜鉛アミド(Zn(NH)について同様の試験を実施し、その結果も表2に示す。
また、マグネシウムアミド(Mg(NH)と金属水素化物(LiH)の混合物からなる従来の水素貯蔵材料についての結果も表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
金属アミンと金属アミドを混合した本発明の水素貯蔵材料は、従来のマグネシウムアミド(Mg(NH)と水素化リチウム(LiH)の混合物からなる従来の水素貯蔵材料よりも、放出ピーク温度を低くすることができ、200℃までの水素放出量を増加させることができる。金属アミドの金属種がLiの場合に最も低温で水素が放出されるが、当該金属種がNa、CaまたはZnであっても、200℃までの水素放出量は、マグネシウムアミド(Mg(NH)と水素化リチウム(LiH)からなる従来の水素貯蔵材料よりも多い。
【実施例3】
【0037】
金属アミンの製造方法について、金属種としてMgを、アンモニウム塩として塩化アンモニウム(NHCl)用いた例について具体例を示す。
金属Mg粉末を100mg、塩化アンモニウム(NHCl)を300mg秤量し、高純度アルゴン雰囲気のグローブボックス内(水分1ppm以下)で乳鉢を用いて30分間混合し、マグネシウムアミン(Mg(NH)Cl)を製造した。金属Mg粉末の代わりに水素化マグネシウム(MgH)粉末を用いて同様にマグネシウムアミン(Mg(NH)Cl)を作製した。なお、マグネシウムアミン(Mg(NH)Cl)生成の反応式は以下の通りである。
Mg+2NHCl→Mg(NH)Cl+H…式(3)
MgH+3NHCl→Mg(NHCl+2H…式(4)
【0038】
次に、製造したマグネシウムアミン(Mg(NH)Cl)を熱重量分析装置で、速度5℃/分で昇温しながら試料の重量変化を測定した。なお、塩化アンモニウム(NHCl)単体についても同様に重量変化を測定した。結果を図2に示す。
図2に示されるように、塩化アンモニウム(NHCl)単体では190℃付近に吸熱による熱重量の減少が見られた。これに対して、金属Mg粉末と塩化アンモニウム粉末から得られたマグネシウムアミン(Mg(NH)Cl,Mg−NHClと表記)、水素化Mg粉末と塩化アンモニウム粉末から得られたマグネシウムアミン(Mg(NH)Cl,MgH−NHClと表記)では、熱重量変化の基点が低温側へシフトすることがわかった。この低温側へのシフトは、従来のマグネシウムアミド(Mg(NH)からの熱分解によるアンモニア放出が約350℃で始まるのに対して、マグネシウムアミン(Mg(NH)Cl)では200℃以下でアンモニア放出が開始することを示すものである。アンモニアを介在する環境下で水素を放出する水素貯蔵材料に対して、放出温度の低温化、反応速度の高速化などの効果を与える。
【0039】
本実施例では金属種としてMgの例を具体的に示したが、Mg以外にも、K、Na、Ca、Ni、Znでも、熱重量変化の基点が低温側へシフトすることが確認された。これらの傾向は金属としてアルカリ金属、アルカリ土類金属、あるいはMgに電気陰性度が近いものを用いれば良いことを示すものである。
【実施例4】
【0040】
本発明による水素貯蔵材料の製造実施にあたり、機械的粉砕処理を使用する例について説明する。
金属アミンとしてマグネシウムアミン(Mg(NH)Cl)、金属水素化物として水素化リチウム(LiH)の例を示す。
まず、マグネシウムアミン(Mg(NH)Cl)を300mg、LiHを300mg秤量し、高純度アルゴン雰囲気のグローブボックス内(水分1ppm以下)でミルポットに充填する。機械的粉砕処理では添加した材料の結晶子をナノ〜サブミクロンサイズまで微細に粉砕し、またそれぞれの組成の異なる粒子が均一に混じり合った状態を創生する。
機械的粉砕処理は、高回転遊星ボールミルを用い、遠心加速度を30G及び150Gの2条件とし、処理時間は1、5、20時間の3条件として行った。
【0041】
次に、製造した試料を段階的に昇温し、それぞれの温度での試料の水素放出量の積算値をガスクロマトグラフィー分析装置で測定した。表3に200℃までの積算水素放出量を示す。また、水素化リチウム(LiH)に代えてリチウムアミド(LiNH)を使用して、上記条件で作製された試料についても、同様に積算水素放出量を測定した。その結果も表3に示す。
この表からわかるように、処理時間が長く、かつ遠心加速度(G)が大きいほど、200℃までの水素放出量が多くなる。
【0042】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1における、水素貯蔵材料の加熱温度と水素放出量の関係を示すグラフである。
【図2】実施例3における、マグネシウムアミン、塩化アンモニウムの加熱温度と重量減少の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アミンと、金属水素化物及び金属アミドの1種又は2種とからなることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項2】
前記金属アミンが、マグネシウムアミン(Mg(NHCl)であることを特徴とする請求項1に記載の水素貯蔵材料。
【請求項3】
前記金属水素化物が、水素化リチウム(LiH)、水素化ナトリウム(NaH)及び水素化カルシウム(CaH)から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素貯蔵材料。
【請求項4】
前記金属アミドが、リチウムアミド(LiNH)、ナトリウムアミド(NaNH)、カルシウムアミド(Ca(NH)及び亜鉛アミド(Zn(NH)から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水素貯蔵材料。
【請求項5】
金属アミンと、金属水素化物及び金属アミドの1種又は2種との混合物を作製し、
前記混合物に機械的な粉砕処理を施すことを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項6】
前記金属アミンは、当該金属又は当該金属の水素化物と塩化アンモニウムとを反応させることにより生成されたものであることを特徴とする請求項5に記載の水素貯蔵材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−132554(P2009−132554A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309376(P2007−309376)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 水素安全利用等基板技術 水素に関する共通基盤技術開発 メカノケミカル法グラファイト系及びリチウム系水素貯蔵材料の研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】