説明

水素貯蔵装置

【課題】 長期間にわたって水素貯蔵が可能な水素貯蔵装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の水素貯蔵装置は、液体水素を貯留する断熱容器10と、断熱容器10内に配設された水素吸着部材40と、断熱容器10の内壁と水素吸着部材40とに囲まれた液体水素貯留部50に液体水素を導入する導入管20と、液体水素から生ずる水素ガスを断熱容器10内から排出させる排出管30と、を備える。導入管20を通じて供給された液体水素から生じた水素ガスは、水素吸着部材40を通過した後に排出管30から排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素貯蔵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年水素を燃料として用いる燃料電池やエンジン等が開発され、それと同時にこれらのエンジンや燃料電池等に供給される水素を吸蔵或いは貯蔵する方法、装置等についても開発が進められている。
【0003】
従来から存在する水素の貯蔵方法としては、例えば20MPa程度の圧力を水素に加えて高圧水素ボンベに水素を貯蔵する方法や、約20Kにまで冷却され液化された水素を液体水素ボンベに貯蔵する方法がある。さらに、細孔を有する炭素材料と該炭素材料を収容した容器とを含む水素貯蔵装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2001−220101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の水素貯蔵装置では、水素を貯蔵する容器として例えば、ステンレス製のタンクやボンベが用いられる。しかし、ステンレス製のタンク等では液体水素を貯蔵する際に外界からの熱を十分に遮断できず長期間の水素貯蔵が困難な場合があった。
【0005】
本発明は上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、長期間にわたって水素貯蔵が可能な水素貯蔵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の水素貯蔵装置は、液体水素を貯留する断熱容器と、前記断熱容器内に配設された水素吸着部材と、前記断熱容器の内壁と前記水素吸着部材とに囲まれた空間(以下、この空間を「液体水素貯留部」と称することがある。)に液体水素を導入する導入管と、前記液体水素から生ずる水素ガスを前記断熱容器内から排出させる排出管と、を備え、前記水素ガスが前記水素吸着部材内を通過した後に前記断熱容器内から排出されるように前記導入管と前記水素吸着部材と前記排出管とを配置したものである。
【0007】
本発明の水素貯蔵装置は断熱容器を用いるため、外界から断熱容器内への熱の伝導を抑制することができ、水素貯蔵装置内に貯留された液体水素の気化を抑えることができる。
【0008】
液体水素貯留部に導入管を通して液体水素が導入されると、断熱容器の内壁に接触することにより液体水素が沸騰して水素ガスが生ずる。この水素ガスは水素吸着部材内を通過した後に排出管から排出される。液体水素の沸騰により生じた水素ガスの温度は液体水素の沸点(20.4K)と略同等であり、この低温の水素ガスが水素吸着部材内を通過する際に水素吸着部材から熱を奪いながら断熱容器外に排出される。そのため、効率よく断熱容器内の熱を容器外に放出することが可能となる。
【0009】
なお、本発明において水素吸着部材とはその表面に水素分子を吸着して保持可能な物質からなる部材をいい、該物質は、原子状水素を捉えて吸蔵する水素吸蔵合金とは区別されるものである。
【0010】
また、水素ガスが水素吸着部材内を通過する際に、その一部は水素吸着部材に吸着されて保持される。水素吸着部材に保持された水素は、水素貯蔵装置内に貯留された液体水素が全て蒸発した後でも該装置内に保持されるため、本発明の水素貯蔵装置は長期間にわたる水素貯蔵が可能である。
【0011】
本発明の水素貯蔵装置は、水素吸着部材と液体水素貯留部とを仕切る仕切部材をさらに備えてもよい。仕切部材を備えることにより液体水素を導入する際に液体水素と水素吸着部材とが直接接触するのを抑制できる。このため、液体水素の突沸を防ぐことができる。
【0012】
本発明の水素貯蔵装置においては、断熱容器内で水素吸着部材と液体水素貯留部とを水平方向に配置してもよい。この場合、本発明の水素貯蔵装置には水素吸着部材と液体水素貯留部とを仕切る仕切部材が設けられる。水素吸着部材と液体水素貯留部とを水平方向に配置することにより、水素貯蔵装置のレイアウトの自由度を拡げることができる。
【0013】
本発明の水素貯蔵装置においては、水素ガスが水素吸着部材内を蛇行して通過するように水素吸着部材内に隔壁を設けるようにしてもよい。水素ガスを水素吸着部材内で蛇行させることにより、水素吸着部材と水素ガスとの接触面積を増やすことができ、水素吸着能力を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、長期間にわたって水素貯蔵が可能な水素貯蔵装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の水素貯蔵装置を図面を参照して説明する。なお、同様の機能を有する部材には、全図面を通じて同じ符合を付与し、その説明を省略することがある。
【0016】
<第一実施形態>
図1は本発明の第一実施形態に係る水素貯蔵装置を示す図であり、図1(A)は水素貯蔵装置の斜視図を表し、図1(B)は、図1(A)のA−A線断面図を表す。第一実施形態に係る水素貯蔵装置は、断熱容器10と、断熱容器10の上部に設けられた導入管20及び排出管30と、を有する。
【0017】
断熱容器10は、図1(B)に示すようにタンク12とタンク12の外側を覆う断熱材14とで構成される。
【0018】
タンク12としては、SUS又はステンレス製のタンク等を用いることができるがこれに限定されるものではない。
【0019】
断熱材14としては、多層インシュレーション(MLI)を用いることができる。MLIは、反射率の高い薄膜状の放射シールド材とシールド材間の熱伝導を防ぐスペーサ材とを交互に積層することにより構成される。シールド材としては片面あるいは両面アルミ蒸着されたポリエステルフィルム等が、スペーサ材としてはガラス繊維の布や紙、ナイロンネット等が用いられる。MLIは、シールド材をN枚挿入すると輻射による進入熱量を1/(N+1)に減少させることができる。
【0020】
断熱容器10の内部には水素吸着部材40が配置される。水素吸着部材40を構成する水素吸着材としては、活性炭、カーボンナノチューブ、Zn4O(1,4−ベンゼンジカルボン酸ジメチル)3等のMOF(多孔性金属有機構造)等が挙げられる。これらの材料は、顆粒状、ペレット状又はこれらの材料の粉末を袋に詰めた状態で用いられる。本実施形態では、ペレット状の活性炭を用いた。
【0021】
断熱容器10の内壁と水素吸着部材40とに囲まれた空間である液体水素貯留部50には導入管20が連通され、液体水素が水素吸着部材40に直接触れることなく断熱容器10内に供給できるようになっている。
【0022】
導入管20及び排出管30の各々にはバルブ60が設けられている。バルブ60は断熱材14に覆われており、水素ガス自体が熱媒となる熱進入を防ぐことができるようになっている。
【0023】
次に、第一実施形態に係る水素貯蔵装置に液体水素を貯蔵する際の各構成部材の作用について説明する。
【0024】
導入管20を通じて液体水素貯留部50に液体水素を供給すると、タンク12の内壁の温度にもよるが、液体水素の一部が気化して液体水素温度近傍の水素ガスが生ずる。この水素ガスは水素吸着部材40を通過した後に排出管30を通じて断熱容器10内から排出される。水素吸着部材40を通過する際に水素ガスと水素吸着部材40との間で熱交換がおこり、水素吸着部材40を冷却すると共にその一部が水素吸着部材40に吸着されて保持される。水素ガスは水素吸着部材40から熱を奪った後に断熱容器10内から排出されるため、断熱容器10内を効率的に冷却することができる。また、水素吸着部材40に水素ガスが吸着される際に吸着熱が生ずるが、断熱容器10内から排出される水素ガスによって吸着熱も断熱容器10外に排出される。
【0025】
タンク12の内壁が冷却されるに従い液体水素の気化が収まり、液体水素が液体水素貯留部50に貯留される。ペレット状の活性炭により構成された水素吸着部材40は、ペレット間に空隙を有するため、液体水素貯留部50の体積以上の液体水素を断熱容器10内に貯留することができる。水素吸着部材40に十分水素が吸着された後は、水素吸着部材40に液体水素が触れても吸着熱が発生せず、液体水素の突沸が生じない。
【0026】
また、ペレット状の活性炭により構成された水素吸着部材40を用いることにより圧損を小さくすることができ、その結果として液体水素の充填時間を短くすることができる。
【0027】
液体水素の供給終了後、液体水素を保存する際に外部から断熱容器10内へ熱が進入することにより液体水素が沸騰して液体水素温度近傍の水素ガスがさらに生ずることがある。この場合も水素吸着部材40を通過した後に該水素ガスが断熱容器10内から排出されるため、効率よく断熱容器10内を冷却することができる。
【0028】
上述のように、本発明の水素貯蔵装置によれば液体水素温度近傍の水素ガスを断熱容器10内の冷却に有効利用することができるため、液体水素の貯蔵効率を向上させることが可能となると共に液体水素の長期間保存が可能となる。
【0029】
次に、第一実施形態に係る水素貯蔵装置の変形例について説明する。図2は、第一実施形態の第一の変形例に係る水素貯蔵装置のA−A線断面図を表す。図2に係る水素吸着部材40にはスリット42が設けられている。これにより、水素ガスと水素吸着部材40との間の熱交換の速度及び水素ガスの吸着速度を高めることができ、液体水素の導入速度を向上させることができる。
【0030】
水素吸着部材40にスリット42を設ける代わりに、液体水素貯留部50側から排出管30側に進むに従い水素吸着部材40を構成する活性炭(ペレット)の直径が小さくなるように該ペレットを配置することもできる。これにより、水素吸着部材40にスリット42を設けた場合と同様の効果が得られる。
【0031】
図3は、第一実施形態の第二の変形例に係る水素貯蔵装置のA−A線断面図を表す。水素ガスが水素吸着部材40内を蛇行して通過可能なように水素吸着部材40内に隔壁44が設けられている。これにより、水素ガスと水素吸着部材40との間の熱交換の速度及び水素ガスの吸着速度を高めることができ、液体水素の導入速度を向上させることができる。
【0032】
<第二実施形態>
図4は、本発明の第二実施形態に係る水素貯蔵装置を示す図であり、図4(A)は水素貯蔵装置の斜視図を表し、図4(B)は、図4(A)のB−B線断面図を表す。第二実施形態に係る水素貯蔵装置においては、水素吸着部材40と液体水素貯留部50とが水平方向に配置されている。仕切部材70が水素吸着部材40と液体水素貯留部50とを仕切ることにより、液体水素が導入管20から供給された際に液体水素と水素吸着部材40とが直接接触することを防ぐことができる。このため、吸着熱による液体水素の突沸を防止し、液体水素の導入速度を向上させることができる。
【0033】
本発明の水素貯蔵装置をこのような態様とすることにより、タンク12の形状を細くすることができる。そのため当該水素貯蔵装置を例えば燃料電池自動車の燃料タンクとして用いる際に、搭載上有利となる。
【0034】
<第三実施形態>
図5は、本発明の第三実施形態に係る水素貯蔵装置を示す図であり、図5(A)は水素貯蔵装置の斜視図を表し、図5(B)は、図5(A)のC−C線断面図を表す。第三実施形態に係る水素貯蔵装置においては、水素吸着部材40と液体水素貯留部50とが水平方向に配置されている。
【0035】
液体水素貯留部50には、円筒状の液体水素受け皿80が備えられている。液体水素受け皿80の底はタンク12と当接している。液体水素受け皿80はSUS系材料又はアルミなどで形成可能である。
【0036】
導入管20を通じて供給された液体水素は、まず液体水素受け皿80に貯留される。液体水素受け皿80はタンク12と比較して低熱容量であるため、液体水素の突沸を抑制することができる。さらに、液体水素受け皿80の底とタンク12とは当接しているため、液体水素受け皿80は液体水素からタンク12への伝熱を促進することができる。
【0037】
排出管30の排出口近傍にはパラ−オルソ変換触媒である多孔質磁性体90が設けられている。水素には、スピン間の角運動量の違いに基づくパラ水素とオルソ水素とがある。常温ではオルソ水素とパラ水素とは3:1の比率で存在している一方、低温下ではパラ水素の方がエネルギーが低いため全てがパラ水素として存在する。そして、パラ−オルソ変換は吸熱反応である。
【0038】
水素吸着部材40を通過し排出管30を通じて断熱容器10外に放出される水素ガスは、パラ水素である。排出管30の排出口近傍にパラ−オルソ変換触媒を配置することにより吸熱反応であるパラ−オルソ変換が生ずる。これにより、排出管30のパラ−オルソ変換触媒の配置された箇所は冷却され、排出管30を通してタンク12に熱が伝わるのを阻止することができる。
【0039】
パラ−オルソ変換触媒の具体例としては、酸化鉄等が挙げられる。
【0040】
なお、上述した第一乃至第三実施形態に係る水素貯蔵装置には、排出管30と通ずる空隙が存在するが、この空隙は水素ガスの排出を効率よく行うために設けられているものであり、本発明では必ずしもこの空隙が設けられていなくともよい。
【0041】
また、排出管30から水素ガスを取り出すようにしてもよいし、排出管30よりも小口径の水素取り出し管をさらに設け、液体水素を供給する際(大量の水素ガスを放出する必要がある場合)には排出管30から水素ガスを放出させ、水素ガスを使用する際(小量の水素ガスを放出する必要がある場合)には水素取り出し管から水素ガスを取り出すようにしてもよい。
【0042】
本発明においては、断熱容器10内で水素吸着部材40が占める体積と液体水素貯留部50が占める体積との比率は水素貯蔵装置の使用目的などを勘案して適宜決定されるものであり、特に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第一実施形態に係る水素貯蔵装置を表す図であり、(A)は水素貯蔵装置の斜視図を、(B)はA−A線断面図を表す。
【図2】第一実施形態の第一の変形例に係る水素貯蔵装置のA−A線断面図である。
【図3】第一実施形態の第二の変形例に係る水素貯蔵装置のA−A線断面図である
【図4】本発明の第二実施形態に係る水素貯蔵装置を表す図であり、(A)は水素貯蔵装置の斜視図を、(B)はB−B線断面図を表す。
【図5】本発明の第三実施形態に係る水素貯蔵装置を表す図であり、(A)は水素貯蔵装置の斜視図を、(B)はC−C線断面図を表す。
【符号の説明】
【0044】
10 断熱容器
12 タンク
14 断熱材
20 導入管
30 排出管
40 水素吸着部材
42 スリット
44 隔壁
50 液体水素貯留部
60 バルブ
70 仕切部材
80 液体水素受け皿
90 多孔質磁性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体水素を貯留する断熱容器と、
前記断熱容器内に配設された水素吸着部材と、
前記断熱容器の内壁と前記水素吸着部材とに囲まれた空間に液体水素を導入する導入管と、
前記液体水素から生ずる水素ガスを前記断熱容器内から排出させる排出管と、
を備え、前記水素ガスが前記水素吸着部材内を通過した後に前記断熱容器内から排出されるように前記導入管と前記水素吸着部材と前記排出管とを配置した水素貯蔵装置。
【請求項2】
前記水素吸着部材と前記空間とを仕切る仕切部材をさらに備えた請求項1に記載の水素貯蔵装置。
【請求項3】
前記断熱容器内で前記水素吸着部材と前記空間とが水平方向に配置されるようにした請求項2に記載の水素貯蔵装置。
【請求項4】
前記水素ガスが前記水素吸着部材内を蛇行して通過するように前記水素吸着部材内に隔壁が設けられた請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水素貯蔵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−46655(P2007−46655A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230076(P2005−230076)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】