説明

水耕栽培システム

【課題】酸素ハイドレートの分解によって得られる水を活用する。
【解決手段】水耕栽培システム10は、酸素ハイドレートが貯蔵されたハイドレートタンク11と、ハイドレートタンク11より供給される酸素ハイドレートを分解して酸素と水を生成するハイドレート分解装置12と、ハイドレート分解装置12より得られる水を用いて培養液を調整する培養液タンク13とを備えている。酸素ハイドレートは、ハイドレートタンク11からハイドレート分解装置12に適宜供給され、ハイドレート分解装置12内で酸素と水に分解される。ここで、ハイドレート分解装置12内は分解した酸素により高圧状態となるため、水には多量の酸素が溶存している。ハイドレート分解装置12で生成された水は培養液タンク13に供給され、酸素溶存濃度の高い培養液の生成に利用される。こうして生成された培養液は植物14に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水耕栽培システムに関し、特に酸素による生育促進を行う水耕栽培システムに関するするものである。
【背景技術】
【0002】
近年、季節を問わず新鮮な野菜や果物を生産するため、室内環境が高度に制御されたビニルハウスが広く利用されている。また最近では、都心の空きビルを利用して野菜を工業的に生産する野菜工場なども試みられている。このようなビニルハウスや野菜工場では、土壌を全く使わず、生長に必要な養分を溶かした培養液を用いて植物を育てる水耕栽培が好ましく採用されている。
【0003】
水耕栽培では、培養液中の酸素濃度が植物の育成に大きな影響をもたらすことが知られている。そこで、エアポンプを用いて培養液中の酸素濃度を高めたり、水耕栽培に使用される容器の全面に撥水剤を塗布して培養液中の酸素濃度を高めたりする方法が提案されている(特許文献1参照)。特に、後者の方法によれば、容器全体が撥水性を持つことにより空気の層のようになり、養液中に酸素が溶け込み易くなるため、培養液中の酸素濃度を高めることができる。
【特許文献1】特開平11−266725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エアポンプを用いて培養液中の酸素濃度を高める従来の方法では、水耕栽培の規模が大きくなった場合に、エアポンプの数を多くしなければならず、培養液中の酸素濃度が部分的に低くなるという問題がある。また、容器の全面に撥水剤を塗布する方法も、水耕栽培の規模が大きくなった場合には、培養液中に十分な酸素を供給することができないという問題がある。
【0005】
したがって、本発明の目的は、水耕栽培の規模が大きくなったとしても、エアポンプの数を増やすことなく酸素溶存濃度の高い培養液を容易に供給することが可能な水耕栽培システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、酸素ハイドレートが貯蔵されたハイドレートタンクと、前記ハイドレートタンクより供給される前記酸素ハイドレートを分解して酸素と水を生成するハイドレート分解装置と、前記ハイドレート分解装置により生成される前記水を用いて培養液を調整する培養液タンクとを備え、前記培養液を植物に供給することを特徴とする水耕栽培システムによって達成される。ここで「酸素ハイドレート」は、酸素の分子(ゲスト)が水分子のクラスタ中に取り込まれた包接水和物であり、マイナス20℃の大気圧環境下で約170倍のガスを包蔵することができる。
【0007】
本発明の水耕栽培システムは、前記植物の下方又は周囲に設けられた冷却配管をさらに備え、前記ハイドレート分解装置により生成された前記水が前記冷却配管を通って前記培養液タンクに送られることが好ましい。これによれば、植物栽培室内の温度を制御することができる。
【0008】
本発明の水耕栽培システムはまた、前記ハイドレート分解装置により生成された前記水を細霧散布する細霧散布装置をさらに備えることが好ましい。これによれば、植物栽培室内の温度を制御することができる。
【0009】
本発明の水耕栽培システムはまた、前記ハイドレート分解装置により生成された前記酸素からオゾンを発生させるオゾン発生装置をさらに備え、前記オゾンを前記培養液タンクに供給するが好ましい。これによれば、培養液を殺菌することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸素の原料として酸素ハイドレートを用い、酸素ハイドレートから副次的に得られる水を用いて培養液を調整するので、酸素溶存濃度の高い培養液を供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る水耕栽培システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【0013】
図1に示すように、この水耕栽培システム10は、酸素ハイドレートが貯蔵されたハイドレートタンク11と、ハイドレートタンク11より供給される酸素ハイドレートを分解して酸素と水を生成するハイドレート分解装置12と、ハイドレート分解装置12より得られる水を用いて培養液を調整する培養液タンク13とを備えている。酸素ハイドレートは、ハイドレートタンク11からハイドレート分解装置12に適宜供給され、ハイドレート分解装置12内で酸素と水に分解される。ここで、ハイドレート分解装置12内は分解した酸素により高圧状態となるため、水には多量の酸素が溶存している。ハイドレート分解装置12で生成された水は培養液タンク13に供給され、酸素溶存濃度の高い培養液の生成に利用される。こうして生成された培養液は植物14に供給される。
【0014】
図2は、水耕栽培システム10の構成を具体的に示す模式図である。
【0015】
図2に示すように、ハイドレートタンク11より供給される酸素ハイドレートは、ハイドレート分解装置12によって酸素と水とに分解される。ハイドレート由来の水は、培養液タンク13に供給され、培養液タンク13内で肥料と混合されて、適度な培養液濃度に調整される。この培養液は植物栽培室(例えばビニルハウス)15内の栽培ベッド21に供給される。栽培ベッド21に供給された培養液は植物14に吸収されるが、残りの一部はポンプ22及び配管23を通って培養液タンク13へ戻され、他の一部は液量調整のため排出される。ハイドレート由来の水は0〜5℃と非常に低温な冷水であるため、培養液の温度も比較的低温となる。したがって、作物としては低温での育成に強いネギ類、ツケナ類、ホウレンソウ類が適している。具体的には、ネギ、ラッキョウ、ハクサイ、ツケナ、カラシナ、キャベツ、ブロッコリー、ホウレンソウなどが挙げられる。
【0016】
本実施形態によれば、酸素ハイドレートの分解により生成された水を培養液の調整に利用するので、酸素溶存濃度の高い培養液を容易に調整することができる。特に、水耕栽培の規模が大きくなったとしても、エアポンプの数を増やすことなく高品質な培養液を安定供給することができる。
【0017】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る水耕栽培システム20の詳細な構成を示す模式図である。
【0018】
図3に示すように、ハイドレート由来の水は、栽培ベッド21の下方又は周囲に設けられた冷却配管31を流れ、植物栽培室15内の温度調整に用いられる。ハイドレート由来の冷水は0〜5℃と非常に低温であるため、植物栽培室15内の上がりすぎた温度を低下させるのに効果的である。その後、水は培養液タンク13に供給され、培養液タンク13内で肥料と混合されて、適度な培養液濃度に調整される。この培養液は栽培ベッド21に供給される。栽培ベッド21に供給された培養液は植物14に吸収されるが、残りの一部はポンプ22及び配管23を通って培養液タンク13へ戻され、他の一部は液量調整のため排出される。
【0019】
本実施形態によれば、酸素ハイドレートの分解により生成された水を植物栽培室15内の温度管理にも利用するので、第1の実施形態と同様の作用効果に加えて、酸素ハイドレート由来の水のさらなる有効活用を図ることができる。
【0020】
図4は、本発明の第3の実施形態に係る水耕栽培システム30の詳細な構成を示す模式図である。
【0021】
図4に示すように、ハイドレート由来の水は、培養液タンク13に供給され、培養液タンク13内で肥料と混合されて、適度な培養液濃度に調整される。この培養液は栽培ベッド21に供給される。栽培ベッド21に供給された培養液は植物14に吸収されるが、残りの一部はポンプ22及び配管23を通って培養液タンク13へ戻され、他の一部は液量調整のため排出される。
【0022】
ハイドレート由来の水はまた、配管41を通って細霧ノズル(細霧散布装置)42から細霧散布され、植物栽培室15内の温度調整に用いられる。ここで、ハイドレート由来の水は0〜5℃と非常に低温であるため、植物栽培室15内の上がりすぎた温度を低下させるのに効果的である。ただし、この水には比較的多くの酸素が溶存しているため、細霧が植物に直接かからないように(例えば細霧が植物に直接かからないような位置から)散布することが好ましい。霧が気化することにより植物栽培室15内は冷却される。
【0023】
本実施形態によれば、酸素ハイドレートの分解により生成された水を植物栽培室15内の温度管理にも利用するので、第1の実施形態と同様の作用効果に加えて、酸素ハイドレート由来の水のさらなる有効活用を図ることができる。
【0024】
図5は、本発明の第4の実施形態に係る水耕栽培システム40の詳細な構成を示す模式図である。
【0025】
図5に示すように、ハイドレート由来の水は、培養液タンク13に供給され、培養液タンク13内で肥料と混合されて、適度な培養液濃度に調整される。一方、ハイドレート由来の酸素は、オゾン発生装置51に供給される。オゾン発生装置51で生成されたオゾンは培養液タンク13に供給され、培養液の殺菌に用いられる。これにより、フザリウム菌等による土壌病害を防止することができる。この培養液は植物栽培室15内の栽培ベッド21に供給される。栽培ベッド21に供給された培養液は植物14に吸収され、残りの一部はポンプ22及び配管23を通って培養液タンク13へ戻され、他の一部は液量調整のため排出される。
【0026】
本実施形態によれば、酸素ハイドレート分解により生成された酸素からオゾンを生成し、このオゾンを培養液の殺菌に用いるので、第1の実施形態と同様の作用効果に加えて、培養液に起因する土壌病害を防止することができる。なお、本実施形態においては、オゾン発生装置51で発生したオゾンを用いて培養液の殺菌を行っているが、オゾン発生装置51で発生したオゾンとハイドレート由来の水によりオゾン水を生成し、これを栽培ベッド21に供給することで栽培ベッド21の殺菌を行うことも可能である。
【0027】
本発明は、以上の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を加えることが可能であり、これらも本発明の範囲に包含されるものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の好ましい実施形態に係る水耕栽培システム10の構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】図2は、水耕栽培システム10の詳細な構成を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明の第2の実施形態に係る水耕栽培システム20の詳細な構成を示す模式図である。
【図4】図4は、本発明の第3の実施形態に係る水耕栽培システム30の詳細な構成を示す模式図である。
【図5】図5は、本発明の第4の実施形態に係る水耕栽培システム40の詳細な構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0029】
10 水耕栽培システム
11 ハイドレートタンク
12 ハイドレート分解装置
13 培養液タンク
14 植物
15 植物栽培室
20 水耕栽培システム
21 栽培ベッド
22 ポンプ
23 配管
30 水耕栽培システム
31 冷却配管
40 水耕栽培システム
41 配管
51 オゾン発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素ハイドレートが貯蔵されたハイドレートタンクと、
前記ハイドレートタンクより供給される前記酸素ハイドレートを分解して酸素と水を生成するハイドレート分解装置と、
前記ハイドレート分解装置により生成される前記水を用いて培養液を調整する培養液タンクとを備え、
前記培養液を植物に供給することを特徴とする水耕栽培システム。
【請求項2】
前記植物の下方又は周囲に設けられた冷却配管をさらに備え、
前記ハイドレート分解装置により生成された前記水が前記冷却配管を通って前記培養液タンクに送られることを特徴とする請求項1に記載の水耕栽培システム。
【請求項3】
前記ハイドレート分解装置により生成された前記水を細霧散布する細霧散布装置をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の水耕栽培システム。
【請求項4】
前記ハイドレート分解装置により生成された前記酸素からオゾンを発生させるオゾン発生装置をさらに備え、前記オゾンを前記培養液タンクに供給することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の水耕栽培システム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate