説明

水耕栽培方法及び水耕栽培装置

【課題】地域及び季節を問わずに水耕栽培で軟弱野菜等を栽培できるようにする。
【解決手段】水耕栽培装置は、養液が溜められるベッド2と、このベッド2上方から覆うドーム3と、このドーム3内を冷却する冷却手段とを備えている。ドーム3は、当該ドーム3内の空間を外部に開放する開状態と当該ドーム3内の空間を閉鎖する閉状態とに開閉操作されるシート33を有している。そして、昼間は、シート33を開いてドーム3内の空間を外部に開放する一方、夜間は、ベッド2の周囲の気温が所定温度より大きい場合に、シート33を閉じてドーム3内の空間を閉鎖するとともに、この閉鎖された空間内の温度を前記所定温度以下の温度域である所定温度範囲内に保つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水耕栽培方法及び水耕栽培装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水耕栽培装置としては、例えば特許文献1に記載されているように、ハウス内に設置されて、培養液(以下、養液という)が溜められる栽培槽と、植物を支持する培地が装填されて、前記栽培槽に溜められる養液に浸される育苗ポットとを備えたものが知られている。前記栽培槽には、当該栽培槽に溜められた養液の液面を覆うようにパネル部材が取り付けられるようになっているとともに、前記栽培槽に溜められた養液には、複数のフロート体が並んで浮かべられるようになっている。これらのパネル部材とフロート体は、植物の種類によって使い分けられている。そして、前記育苗ポットは、下部を前記養液に浸された状態で前記パネル部材やフロート体に保持されるようになっている。
【特許文献1】特開2003−265057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記のような水耕栽培装置を用いて植物を栽培する場合、北海道や東北地方等では各種の植物を栽培することはできるが、その他の地域、例えば関東以西では、夏場等に特にほうれん草、小松菜、春菊等の軟弱野菜を栽培しようとしてもこれらの野菜は育たずに、軟弱野菜を栽培することはできなかった。そして、このような特定地域で特に夏場に水耕栽培で軟弱野菜等を栽培できないことの理由は長年解明されなかった。
【0004】
そこで、地域及び季節を問わずに水耕栽培装置で軟弱野菜等を栽培できるようにすることが望まれる。
【0005】
ここで、前記特許文献1には、栽培槽をドームで覆って当該ドーム内をハウス内とは異なる環境とすることにより、同一のハウス内で異なる植物を栽培することが記載されているが、軟弱野菜等を栽培できるようにするためにこのドーム内をどのような環境にするかについては記載されていない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、地域及び季節を問わずに軟弱野菜等を栽培できる水耕栽培方法及び水耕栽培装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、特定地域で特に夏場に軟弱野菜等を栽培することができない原因として、昼間は光合成により生成される水分が葉等の表面から蒸発する際の気化熱で冷却効果が生ずる一方夜間は植物が呼吸をするために、その環境温度が高いと、軟弱野菜等の呼吸が困難になることを突き止めた。本発明は、このような観点からなされたものであり、植物を支持する培地が装填された育苗ポットを栽培槽に溜められた養液に浸して前記植物の水耕栽培を行う方法において、少なくとも前記栽培槽の上方の空間であって前記育苗ポットが臨む空間を、開閉可能に構成された開閉部材で覆い、昼間は、前記開閉部材を開いて当該開閉部材で覆われる空間を外部に開放する一方、夜間は、前記栽培槽の周囲の気温が所定温度より大きい場合に、前記開閉部材を閉じて当該開閉部材で覆われる空間を閉鎖するとともに、この閉鎖された空間内の温度を前記所定温度以下の温度域である所定温度範囲内に保つことを特徴とするものである。
【0008】
この構成によれば、栽培槽の上方空間を開閉部材で覆い、夜間は気温が高い場合に開閉部材で覆われる空間を閉鎖して、その空間内の温度を所定温度範囲内に保つことにより、夜間における軟弱野菜等の呼吸を助けることができる。また、昼間は開閉部材で覆われる空間を外部に開放することにより、軟弱野菜等の光合成蒸散作用による前記空間内の湿度の上昇を抑えるとともに、新鮮な空気を軟弱野菜等に供給することができる。そして、このようにすることにより、地域及び季節を問わずに軟弱野菜を栽培することが可能になる。
【0009】
前記水耕栽培方法においては、前記栽培槽を、内部の温度が一定温度以上に保たれるハウス内に設置するとともに、このハウス内に前記開閉部材を設け、昼間は、前記開閉部材を開いて当該開閉部材で覆われる空間を前記ハウス内の空間と連通し、夜間は、前記ハウス内の気温が所定温度より大きい場合に、前記開閉部材を閉じて当該開閉部材で覆われる空間を前記ハウス内の空間から遮断することが好ましい。
【0010】
この構成によれば、栽培槽をハウス内に設置することにより、冬場でも軟弱野菜等を栽培することが可能となる。また、開閉部材を設けずに夜間にハウス内全体を冷却して当該ハウス内の温度を所定温度範囲内に保つことも考えられるが、ハウス内に開閉部材を設けることにより、ハウス内における栽培槽の上方空間を局所的に冷却することが可能となり、ハウス内全体を冷却するよりもコストを抑えることができる。
【0011】
また、前記栽培槽を、前記ハウス内に複数設置するとともに、これらの栽培槽のうちの一部の栽培槽に対して、前記開閉部材を設けることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、開閉部材を設ける栽培槽では軟弱野菜等を栽培し、他の栽培槽では軟弱野菜等以外の植物を栽培することができるため、季節及び時期を問わずに同一のハウス内で各種の植物が栽培可能となる。
【0013】
また、本発明に係る水耕栽培装置は、養液が溜められる栽培槽と、植物を支持する培地が装填されて、前記栽培槽に溜められる養液に浸される育苗ポットとを備えた水耕栽培装置であって、前記栽培槽を上方から覆うドームと、このドーム内を冷却する冷却手段とをさらに備え、前記ドームは、当該ドーム内の空間を外部に開放する開状態と当該ドーム内の空間を閉鎖する閉状態とに開閉操作されるシートと、このシートを開閉操作する開閉手段とを有し、昼間は、前記開閉手段を駆動して前記シートを開状態にし、夜間は、前記栽培槽の周囲の気温が所定温度より大きい場合に、前記開閉手段を駆動して前記シートを閉状態にするとともに、前記冷却手段を駆動して前記ドーム内の温度を前記所定温度以下の温度域である所定温度範囲内に保つ制御手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
この構成によれば、夜間は、気温が高い場合に、自動的にシートが閉状態にされてドーム内の空間が閉鎖され、その空間内の温度が所定温度範囲内に保たれるため、夜間における軟弱野菜等の呼吸を助けることができる。また、昼間は、自動的にシートが開状態にされてドーム内の空間が外部に開放されるため、軟弱野菜等の光合成蒸散作用によるドーム内の湿度の上昇を抑えるとともに、新鮮な空気を軟弱野菜等に供給することができる。そして、このようにすることにより、地域及び季節を問わずに軟弱野菜を栽培することが可能になる。
【0015】
前記水耕栽培装置においては、前記栽培槽及び前記ドームは、内部の温度が一定温度以上に保たれるハウス内に設置されており、前記シートは、前記ドーム内の空間を前記ハウス内の空間と連通する開状態と、前記ドーム内の空間を前記ハウス内の空間から遮断する閉状態とに開閉操作されるものであることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、栽培槽をハウス内に設置することにより、冬場でも軟弱野菜等を栽培することが可能となる。また、ドームを設けずに夜間にハウス内全体を冷却して当該ハウス内の温度を所定温度範囲内に保つことも考えられるが、ハウス内にドームを設けることにより、ハウス内における栽培槽の上方空間を局所的に冷却することが可能となり、ハウス内全体を冷却するよりもコストを抑えることができる。
【0017】
また、前記栽培槽は、特定方向に延びる形状をなしているとともに、前記ハウス内に前記特定方向と直交する方向に並んで複数列設置されており、前記ドームは、前記栽培槽のうちの一部の列を列ごとに覆うものであることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、ドームで覆われる栽培槽では軟弱野菜等を栽培し、他の栽培槽では軟弱野菜等以外の植物を栽培することができるため、季節及び時期を問わずに同一のハウス内で各種の植物が栽培可能となる。
【0019】
例えば、前記ドームは、前記栽培槽の長手方向に沿って並んで配置された、前記栽培槽の長手方向から見たときに上向きに凸となる複数のフレームを有しており、前記シートは、前記栽培槽の略全長に亘って前記フレームに被せられた状態でその中央部が前記フレームの頂部に固定されたものであり、前記開閉手段としては、前記シートにおける前記栽培槽の配列方向の両端部に接続された巻上パイプを回転させることにより、当該シートを巻き上げて開状態とするとともに、その状態から前記巻上パイプを逆回転させることにより、前記シートを巻き下ろして閉状態とする巻上装置を採用することができる。
【0020】
また、例えば、前記冷却手段としては、前記ドーム外からドーム内に延びるとともに、当該ドーム内に送風口を有するダクトと、このダクトに前記所定温度よりも低い温度の空気を供給する冷風機とを有したものを採用することができる。
【0021】
前記水耕栽培方法及び水耕栽培装置においては、前記所定温度を、例えば20〜23℃の範囲内で設定した温度とすればよい。また、前記所定温度範囲を18〜20℃の範囲内で設定した範囲とすることにより、夜間における軟弱野菜等の呼吸に最も好ましい環境とすることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、地域及び季節を問わずに軟弱野菜等を栽培できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る水耕栽培装置は、ハウス1と、このハウス1内に設置される複数の栽培槽(以下、ベッドという)2と、これらのベッド2を個別に上方から覆うドーム3とを備えている。また、図示は省略するが、ハウス1内にはボイラが設けられていて、ハウス1内の温度が一定温度(例えば、18℃)以上に保たれるようになっている。
【0025】
前記各ベッド2は、図2及び図3に示すように、特定方向に延びるとともに上方に開口する平面視で略長方形の容器状をなしていて、内部に養液4が溜められるようになっている。これらのベッド2は、後述する複数のフレーム31,31’によって所定の高さ位置に保持された状態で、その長手方向と直交する方向に並んで設置されている。
【0026】
前記各ベッド2の長手方向の一端側には、養液4が供給される供給パイプ21が設けられているとともに、他端側には、ベッド2の下面から養液4を排出する排出パイプ22が設けられていて、養液4がベッド2内を一端側から他端側に向かって流れるようになっている。なお、排出パイプ22から排出された養液4は、図略の循環路を通って、再度供給パイプ21からベッド2に供給されるようになっている。また、ベッド2に溜められる養液4の温度は、図略の温度制御手段によって18〜23℃、好ましくは20〜21℃の範囲内に保たれるようになっている。
【0027】
前記ドーム3は、前記ベッド2の長手方向に沿って並んで配置された、ベッド2の長手方向から見たときに上向きに凸となる略逆U字状の複数のフレーム31,31’を有している。そして、これらのフレーム31,31’における上下に延びるストレートな部分に前記ベッド2が挟まれた状態で、当該ベッド2がフレーム31,31’に保持されている。なお、ドーム3のその他の構成については、後述にて詳細に説明する。
【0028】
前記ベッド2に溜められた養液4には、図4に示すように、複数のフロート体5がベッド2の長手方向に並んで浮かべられるようになっている。そして、これらのフロート体5に育苗ポット6Aが保持されるようになっている。
【0029】
前記育苗ポット6Aは、植物を支持する培地7が内部に装填されて、この培地7を養液4に浸した状態で保持するためのものであり、合成樹脂等で一体に成形されて、図5(a),(b)に示すように、水平方向の断面形状は略正方形状のままで上方に向かうほど外側に広がる形状をなしている。
【0030】
具体的には、育苗ポット6Aは、平面視で略正方形をなす容器状の培地保持部61と、この培地保持部61よりも上側に位置し、平面視で培地保持部61よりも一回り大きな略正方形をなす枠状の鍔部62と、この鍔部62の下面の内側端部と前記培地保持部61の上端部とを連結する連結部63とからなっている。そして、培地保持部61と連結部63には、適所に窓65が設けられており、この窓65を通じて育苗ポット6Aの内外での空気や養液4の流通が可能となっている。
【0031】
前記フロート体5は、前記ベッド2の長手方向と直交する幅方向に沿って延びるとともに水平方向に扁平な略直方体状をなしている。このフロート体5の長さ寸法は、ベッド2の幅方向における内側面同士の間の寸法よりも僅かに小さく設定されていて、ベッド2内に嵌め込まれたときには、ベッド2の開口をその幅方向に亘って全面的に塞いだ状態で養液4に浮かぶようになっている。このフロート体5には、所定数の育苗ポット6Aが一列に並んだ状態で嵌り込み可能な挿入口51が設けられている。
【0032】
前記挿入口51は、フロート体5の長手方向に沿って延びる平面視で長方形状をなしているとともに、フロート体5を上下方向に貫通している。そして、この挿入口51に育苗ポット6Aが嵌め込まれたときには、図6に示すように、育苗ポット6Aの鍔部62がフロート体5の上面に載置されることにより、培地保持部61が養液4に浸された状態で育苗ポット6Aがフロート体5に保持されるようになる。
【0033】
次に、前記ドーム3の詳細な構造について、図2及び図3に加え、図7(a),(b)を参照して説明する。
【0034】
前記フレーム31,31’のうちベッド2の長手方向の両端のフレーム31’は、ベッド2の長手方向の両端部と合致する位置に配置されている。そして、前記フレーム31’におけるベッド2の長手方向の外側面には、当該フレーム31’とベッド2とで囲まれて形成される開口を塞ぐように固定シート34が取り付けられている。この固定シート34は、透明なビニル等で構成されている。
【0035】
また、前記各フレーム31,31’の間には、連結材32が配設されていて、この連結材32によって隣り合うフレーム31の上端部同士が相互に連結されている。
【0036】
前記フレーム31,31’には、前記ベッド2の略全長に亘ってシート33が被せられている。このシート33は、透明なビニル等で構成されており、ベッド2の長手方向に延びる長方形状をなしている。このシート33の長手方向の寸法は、ベッド2の長手方向の寸法と略同程度に設定されており、短手方向の寸法は、フレーム31,31’に沿って、ベッド2の幅方向における一方の側面の上端部から他方の側面の上端部に至るまでの寸法よりも大きく設定されている。そして、シート33の短手方向の中央部がフレーム31,31’の頂部に固定されて、その中央部から両側がフレーム31,31’の形状に沿って垂れ下がっている。すなわち、ドーム3は、固定シート34とシート33とでベッド2の上方空間を平面視で当該ベッド2の大きさと略同一の大きさで覆っている。
【0037】
また、ドーム3には、前記シート33を開閉操作する巻上装置35(開閉手段)が設けられている。本実施形態では、巻上装置35は、シート33の短手方向の中央部から両側をそれぞれ独立して巻き上げるものであり、一方側(図7(b)では右側)を巻き上げる右側巻上部35Aと、他方側(図7(b)では左側)を巻き上げる左側巻上部35Bとからなっている。
【0038】
前記右側巻上部35Aは、シート33の短手方向の一方の端部に接続される2本の巻上パイプ35bと、これらの巻上パイプ35bを軸心周りに回転させる一対の巻上モータ35aと、この一対の巻上モータ35aをそれぞれ支持するアーム35cとを有している。
【0039】
前記2本の巻上パイプ35bは、前記ベッド2の長手方向に沿って、ベッド2の中央近傍から互いに逆方向にベッド2の長手方向の端部を越える位置まで延びており、これらの巻上パイプ35bにおけるベッド2の長手方向の外側端部が前記巻上モータ35aの回転軸に連結されている。なお、ドーム3の背面図は省略するが、図7(b)と同様となっている。
【0040】
前記巻上モータ35aは、棒状のアーム35cの一端に連結されている。このアーム35cは、例えば二重管構造によってその軸方向に伸縮自在に構成されたものであり、他端を支持部31cに枢結されて、ベッド2の長手方向に延びる軸周りに回動可能となっている。
【0041】
前記支持部31cは、正面視で下向きに開口する略コ字状をなしており、この支持部31cにおけるベッド2の長手方向の内側面に前記アーム35cの他端が枢結されている。この支持部31cは、ベッド2の長手方向に延びる一対のはり材31bの先端に連設されており、前記はり材31bは、ベッド2の長手方向の両端のフレーム31’におけるストレートな部分同士をベッド2の下方で連結する連結パイプ31aに連設されている。
【0042】
このように構成された右側巻上部35Aでは、巻上モータ35aを駆動させて、巻上パイプ35bを正面から見て左回りに回転させると、巻上パイプ35bがシート33を巻き込むことにより巻上パイプ35b及び巻上モータ35aがフレーム31,31’の形状に沿って上昇し、これに伴いアーム35cが自動的に伸びて、シート33の一方側の巻き上げが行われる。そして、巻上パイプ35bがフレーム31,31’の頂部近傍に到達したときに、シート33の一方側の巻上が完了し、ドーム3内の空間がハウス1内の空間と連通され、シート33が開状態とされる。
【0043】
一方、前記開状態から、巻上モータ35aによって巻上パイプ35bを逆回転させると、巻上パイプ35bがシート33を巻き戻すことにより巻上パイプ35b及び巻上モータ35aが自重によってフレーム31,31’の形状に沿って下降し、これに伴いアーム35cが自動的に縮んで、シート33の一方側の巻き下ろしが行われる。そして、巻上パイプ35bがベッド2と重なり合う高さ位置に到達したときに、ドーム3内の空間がハウス1内の空間から遮断され、シート33が閉状態とされる。
【0044】
前記左側巻上部35Bは、前記右側巻上部35Aと基本的な構成は同じであり、アーム35cの他端が支持部31cにおけるベッド2の長手方向の外側面に枢結されている点が相違するだけであるため、その説明は省略する。
【0045】
さらに、本実施形態に係る水耕栽培装置では、前記ドーム3内を冷却する冷却手段8が設けられている。この冷却手段8は、ハウス1内に設置され、空気を冷却する冷風機82(図8参照)と、この冷風機82に接続され、当該冷風機82から冷却された空気が供給されるダクト81とを有している。
【0046】
前記ダクト81は、前記固定シート34のうちの一方の固定シート34を貫通してドーム3外からドーム3内に延びている。このダクト81は、ドーム3内ではベッド2の長手方向に沿ってベッド2の略全長に亘って延びており、このドーム3内で延びる部分には、所定ピッチで送風口81aが設けられている。そして、ダクト81に冷風機82から冷却された空気が供給されると、この空気が各送風口81aからドーム3内に流れ出すことにより、当該ドーム3内が冷却されるようになる。また、ダクト81は、適所をバンド83で前記連結材32から吊り下げられている。
【0047】
さらには、本実施形態に係る水耕栽培装置では、図8に示すように、前記巻上装置35及び冷却手段8を制御する制御手段9が設けられている。この制御手段9は、ハウス1内の気温を検知する温度センサ92と、ドーム3内の温度を検知する温度センサ85(図3参照)と、シート閉時間及びシート開時間がセットされるタイマ91と、巻上モータ35a及び冷風機82を駆動させる制御部93とを有している。
【0048】
前記タイマ91では、前記シート閉時間として、日が沈んで暗くなる時間、すなわち日没から約40分経過後の時間がセットされているとともに、前記シート開時間として、日が昇って薄明るくなる前の時間、すなわち日出よりも約40分前の時間がセットされている。なお、これらのシート開時間及びシート閉時間は、日々の日没時間及び日出時間に合わせてセットされていることが好ましいが、数日もしくは数週間あるいは数ヶ月を通してその間で平均となる時間に合わせてセットされていてもよい。
【0049】
前記制御部93は、シーケンサやCPU等で構成されており、この制御部93には、シート33を開閉するときの基準となる設定温度と、この設定温度以下の温度域である設定温度範囲とが記録されている。前記設定温度は、20〜23℃の範囲内で設定された温度であり、より好ましくは20℃である。また、前記設定温度範囲は、18〜20℃の範囲内で設定された範囲である。
【0050】
そして、制御部93は、時刻がタイマ91にセットされたシート開時間になったときに巻上モータ35aを駆動して、昼間すなわちシート開時間からシート閉時間の間、シート33を開状態とする。
【0051】
一方、制御部93は、時刻がタイマ91にセットされたシート閉時間になったときに温度センサ92によって検知されるハウス1内の気温と前記設定温度とを比較し、ハウス1内の気温の方が大きい場合に、巻上モータ35aを駆動して、夜間すなわちシート閉時間からシート開時間の間、シート33を閉状態とする。さらに、制御部93は、冷風機82の駆動を開始して、ドーム3内に冷気を供給するとともに、温度センサ85が検知するドーム3内の温度が前記設定温度範囲内に保たれるように冷風機82の駆動を制御する。前記ハウス1内の気温が前記設定温度よりも大きくなる場合は、例えば6月から9月頃までの夏場である。なお、時刻がシート閉時間になったときに、温度センサ92によって検知されるハウス1内の気温が前記設定温度以下の場合には、制御部93は、シート閉時間になったときの巻上モータ35aの駆動を行わずに、夜間でもシート33を開状態とする。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係る水耕栽培装置では、夜間は、ハウス1内の気温が高い場合に、自動的にシート33が閉状態にされてドーム3内の空間がハウス1内の空間から遮断され、その空間内の温度が設定温度範囲内に保たれるため、育苗ポット6Aで軟弱野菜等を栽培する場合には夜間における軟弱野菜等の呼吸を助けることができる。また、昼間は、自動的にシート33が開状態にされてドーム3内の空間がハウス1内の空間に連通されるため、軟弱野菜等の光合成蒸散作用によるドーム3内の湿度の上昇を抑えるとともに、新鮮な空気を軟弱野菜等に供給することができる。そして、このようにすることにより、地域及び季節を問わずに軟弱野菜を栽培することが可能になる。
【0053】
ここで、昼間にドーム3内を冷却しなくてもよいのは、昼間は軟弱野菜等が光合成することにより、18〜20℃に保たれた養液4が根から吸い上げられて葉から大気中に発散されるため、植物自体の温度が低く保たれるからである。
【0054】
また、ドーム3を設けずに夜間にハウス1内全体を冷却して当該ハウス1内の温度を前記設定温度範囲内に保つことも考えられるが、ハウス1内にドーム3を設けることにより、ハウス1内におけるベッド2の上方空間を局所的に冷却することが可能となり、ハウス1内全体を冷却するよりもコストを抑えることができる。
【0055】
さらに、夜間におけるドーム3内の設定温度範囲を18〜20℃の範囲内で設定された範囲とすることにより、夜間における軟弱野菜等の呼吸に最も好ましい環境とすることができる。
【0056】
なお、前記実施形態では、巻上装置35を用いてシート33を開閉操作しているが、シート33を開閉操作する開閉手段はこれに限らず、例えばシャッター式のものであってもよいし、あるいはシート33を複数枚のシート片で構成して、これらのシート片をスライドしてシート33を開状態とするものであってもよい。
【0057】
また、前記実施形態では自動的にシート33が開閉操作される形態を示したが、シート33を手動で開閉操作するようにしてもよい。
【0058】
また、制御手段9においては、タイマ91に代えて照度計等を採用することも可能である。
【0059】
さらに、前記実施形態では、ベッド2がハウス1内に設置されている形態を示したが、ハウス1を省略して、ベッド2を屋外に設置してもよい。この場合には、シート33は、ドーム3内の空間を外部に開放する開状態とドーム3内の空間を閉鎖する閉状態とに開閉操作されることになる。ただし、前記実施形態のようにベッド2をハウス1内に設置すれば、冬場でも軟弱野菜等を栽培することが可能となる。
【0060】
また、前記実施形態では、ドーム3がベッド2を上方から覆っているが、ドーム3は、少なくともベッド2の上方の空間であって育苗ポット6Aが臨む空間を覆っていればよく、ハウス1の床面からベッド2の全体を覆う形状であってもよい。
【0061】
さらに、ドーム3を全てのベッド2に設けるのではなく、一部のベッド2に対して設けることも可能である。このようにすれば、ドーム3で覆われるベッド2では軟弱野菜等を栽培し、他のベッド2では軟弱野菜等以外の植物を栽培することができるため、季節及び時期を問わずに同一のハウス内で各種の植物が栽培可能となる。
【0062】
さらには、ドーム3に代えて、側面や上面に開閉可能な窓が設けられた他の形状の開閉部材でベッド2を覆うことも可能である。
【0063】
また、育苗ポット6Aに代えて、図9に示すような平面視で略長方形状の育苗ポット6Bを用いてもよい。この育苗ポット6Bは、フロート体5の挿入口51の大きさに合わせて育苗ポット6Aを一方向に延ばしたものであり、挿入口51に1つだけ嵌り込むようになっている。
【0064】
さらには、育苗ポット6Aを保持する保持部材としては、フロート体5に代えて、図10に示すようなベッド2に取り付けられるパネル部材50を用いてもよい。このパネル部材50には、育苗ポット6Aが個別に嵌り込み可能な挿入口501が適所に設けられている。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態に係る水耕栽培装置のハウスの正面図である。
【図2】図1に示すハウス内に設置されるベッド及びこのベッドを覆うドームの側面図である。
【図3】図2におけるIII−III線断面図である。
【図4】図2に示すベッドにフロート体を浮かべたときの斜視図である。
【図5】育苗ポットを示す図であり、(a)は平面図、(b)は一部断面側面図である。
【図6】育苗ポットをフロート体に保持させたときの断面側面図である。
【図7】(a)はドームの平面図、(b)はドームの正面図である。
【図8】水耕栽培装置のブロック図である。
【図9】変形例の育苗ポットを示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図10】図に示すベッドにパネル部材を取り付けたときの斜視図である。
【符号の説明】
【0066】
1 ハウス
2 ベッド(栽培槽)
3 ドーム
31 フレーム
33 シート
35 巻上装置(開閉手段)
35a 巻上モータ
35b 巻上パイプ
35c アーム
4 養液
5 フロート体
6A,6B 育苗ポット
7 培地
8 冷却手段
81 ダクト
81a 送風口
82 冷風機
85 温度センサ
9 制御手段
91 タイマ
92 温度センサ
93 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を支持する培地が装填された育苗ポットを栽培槽に溜められた養液に浸して前記植物の水耕栽培を行う方法において、
少なくとも前記栽培槽の上方の空間であって前記育苗ポットが臨む空間を、開閉可能に構成された開閉部材で覆い、
昼間は、前記開閉部材を開いて当該開閉部材で覆われる空間を外部に開放する一方、夜間は、前記栽培槽の周囲の気温が所定温度より大きい場合に、前記開閉部材を閉じて当該開閉部材で覆われる空間を閉鎖するとともに、この閉鎖された空間内の温度を前記所定温度以下の温度域である所定温度範囲内に保つことを特徴とする水耕栽培方法。
【請求項2】
前記栽培槽を、内部の温度が一定温度以上に保たれるハウス内に設置するとともに、このハウス内に前記開閉部材を設け、昼間は、前記開閉部材を開いて当該開閉部材で覆われる空間を前記ハウス内の空間と連通し、夜間は、前記ハウス内の気温が所定温度より大きい場合に、前記開閉部材を閉じて当該開閉部材で覆われる空間を前記ハウス内の空間から遮断することを特徴とする請求項1に記載の水耕栽培方法。
【請求項3】
前記栽培槽を、前記ハウス内に複数設置するとともに、これらの栽培槽のうちの一部の栽培槽に対して、前記開閉部材を設けることを特徴とする請求項2に記載の水耕栽培方法。
【請求項4】
前記所定温度は、20〜23℃の範囲内で設定された温度であり、前記所定温度範囲は18〜20℃の範囲内で設定された範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水耕栽培方法。
【請求項5】
養液が溜められる栽培槽と、植物を支持する培地が装填されて、前記栽培槽に溜められる養液に浸される育苗ポットとを備えた水耕栽培装置であって、
前記栽培槽を上方から覆うドームと、このドーム内を冷却する冷却手段とをさらに備え、前記ドームは、当該ドーム内の空間を外部に開放する開状態と当該ドーム内の空間を閉鎖する閉状態とに開閉操作されるシートと、このシートを開閉操作する開閉手段とを有し、
昼間は、前記開閉手段を駆動して前記シートを開状態にし、夜間は、前記栽培槽の周囲の気温が所定温度より大きい場合に、前記開閉手段を駆動して前記シートを閉状態にするとともに、前記冷却手段を駆動して前記ドーム内の温度を前記所定温度以下の温度域である所定温度範囲内に保つ制御手段が設けられていることを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項6】
前記栽培槽及び前記ドームは、内部の温度が一定温度以上に保たれるハウス内に設置されており、前記シートは、前記ドーム内の空間を前記ハウス内の空間と連通する開状態と、前記ドーム内の空間を前記ハウス内の空間から遮断する閉状態とに開閉操作されるものであることを特徴とする請求項5に記載の水耕栽培装置。
【請求項7】
前記栽培槽は、特定方向に延びる形状をなしているとともに、前記ハウス内に前記特定方向と直交する方向に並んで複数列設置されており、前記ドームは、前記栽培槽のうちの一部の列を列ごとに覆うものであることを特徴とする請求項6に記載の水耕栽培装置。
【請求項8】
前記ドームは、前記栽培槽の長手方向に沿って並んで配置された、前記栽培槽の長手方向から見たときに上向きに凸となる複数のフレームを有しており、前記シートは前記栽培槽の略全長に亘って前記フレームに被せられた状態でその中央部が前記フレームの頂部に固定されており、
前記開閉手段は、前記シートにおける前記栽培槽の配列方向の両端部に接続された巻上パイプを回転させることにより、当該シートを巻き上げて開状態とするとともに、その状態から前記巻上パイプを逆回転させることにより、前記シートを巻き下ろして閉状態とする巻上装置であることを特徴とする請求項7に記載の水耕栽培装置。
【請求項9】
前記冷却手段は、前記ドーム外からドーム内に延びるとともに、当該ドーム内に送風口を有するダクトと、このダクトに前記所定温度よりも低い温度の空気を供給する冷風機とを有していることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の水耕栽培装置。
【請求項10】
前記所定温度は、20〜23℃の範囲内で設定された温度であり、前記所定温度範囲は、18〜20℃の範囲内で設定された範囲であることを特徴とする請求項5〜9のいずれか1項に記載の水耕栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−105001(P2007−105001A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301190(P2005−301190)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(595053375)
【Fターム(参考)】