説明

水解性衛生薄葉紙

【課題】水解性薄葉紙における見栄えと水解性を改善する。
【解決手段】2枚以上の薄葉紙を重ねてなる水解性衛生薄葉紙において、少なくとも一枚の薄葉紙がエンボスを有し、そのエンボスの凸部の頂部に塗布された接着剤によって隣接する薄葉紙に接着されおり、その薄葉紙同士の接着に用いられる接着剤が、水性接着基剤を水性の着色剤によって着色したものである水解性衛生薄葉紙により解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛生薄葉紙、特に意匠性及び風合いに優れた水解性衛生薄葉紙に関する。
【背景技術】
【0002】
トイレットペーパー等の衛生薄葉紙においては、裏抜け防止や拭き取り時の手肉感を得るべく複数枚を積層してプライ構造とすることがよく行われる。
また、衛生薄葉紙においては、エンボスの付与や模様の印刷をして意匠性を高めることもよく行われ、特に上述のようにプライ構造を有するものについては、プライを構成する一枚の薄葉紙にエンボスを付与し、その凸部頂面に顔料インキを塗ってそのインキによって複数枚を積層接着することで、着色されたエンボス模様を形成して意匠性を高める技術が知られる(特許文献1)。
このエンボスの凸部頂面に顔料インキを塗って、薄葉紙同士を接着した衛生薄葉紙は、エンボスの凹凸と顔料インキによる着色との相乗効果によって極めて意匠性に優れる。しかもエンボスの凹凸によって風合い、手肉感にも優れる。
【0003】
しかし、この着色されたエンボス模様を有する衛生薄葉紙(以下、着色エンボス衛生薄葉紙ともいう)は、顔料インキ中の油性樹脂成分を接着成分としているため水解性に関しては一般的なエンボス模様を有するものより劣る。
しかも、エンボスの凹凸部分は紙の密度が高く元来水解し難い部分であり、その部分がさらに樹脂で固められているためなおさらである。
【0004】
そして、近年、シャワートイレ等の普及によって衛生薄葉紙の厚さが厚手となる傾向があり、さらに高級感を付与して顧客訴求のためにエンボス面積や着色面積が増大する傾向もある。従って、水解性を悪化する要因の改善は極めて望まれる技術である。
さらに、衛生薄葉紙の製造においては、製造工程で発生した損紙をパルパーにて再度溶解させるが、顔料インキを用いた衛生薄葉紙は水解性に劣るため解離に長時間を要する。特に、着色エンボス衛生薄葉紙では、エンボスの凹凸部分が溶解せずに粒子状に残り、損紙再生の妨げとなることがあった。
ここで、衛生薄葉紙の水解性を改善する技術としては種々あり、例えば、プライを構成する各層の薄葉紙の縦方向強度や乾燥引張強度を適宜調整する技術(特許文献2)が知られるが、エンボスの凸部頂面に顔料インキを付与することによって生ずる水解性の低下を根本的に解決するものではない。
【特許文献1】特開2007−75510
【特許文献2】特開2007−75523
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の主たる課題は、着色されたエンボス模様を有する極めて意匠性に優れ、しかも水解性に難のない衛生薄葉紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決した本発明およびその作用効果は次記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
2枚以上の薄葉紙を重ねてなる水解性衛生薄葉紙において、
少なくとも一枚の薄葉紙がエンボスを有し、そのエンボスの凸部の頂部に塗布された接着剤によって隣接する薄葉紙に接着されおり、
その薄葉紙同士の接着に用いられる接着剤は、水性接着基剤を水性の着色剤によって着色したものであることを特徴とする水解性衛生薄葉紙。
【0007】
(作用効果)
本発明の水解性衛生薄葉紙は、エンボスの凸部頂面に着色された接着剤が付与されるために、エンボスの凹凸部分と着色とが一体となって、周辺領域と区画化されることにより、明りょうなエンボス模様として現出するものとなり、極めて意匠性に優れる。
そして、その薄葉紙同士を接着する接着剤が、水性接着基剤を水性の着色剤で着色したものとしたので、水解性が高く、例えば、トイレットペーパーとしたときの廃棄性能のほか、損紙再生における溶解作業効率が極めて改善される。
【0008】
<請求項2記載の発明>
前記水性接着基剤は、セルロース系接着剤である請求項1記載の水解性衛生薄葉紙。
【0009】
(作用効果)
セルロース系の接着剤としたので、パルプ繊維と親和性が高く、繊維の接着性を良好にできるとともに、水に対して溶解しやすく、乾燥時の接着性と水解性が効果的に確保される。
【0010】
<請求項3記載の発明>
前記水解性衛生薄葉紙は、その紙厚が100〜450μmであり、各薄葉紙の米坪が11〜25g/m2である、請求項1又は2記載の水解性衛生薄葉紙。
【0011】
(作用効果)
水解性がより高まる。
【0012】
<請求項4記載の発明>
前記薄葉紙1枚あたりの縦方向の乾燥引張強度が100〜800cN/25mm、横方向の乾燥引張強度が50〜350cN/25mmである請求項1〜3の何れか1項に記載の水解性衛生薄葉紙。
【0013】
(作用効果)
使用時における破れ、破断などのおそれが格段に小さいものとなる。
【0014】
<請求項5記載の発明>
前記水性の着色剤が水性染料であり、前記水性接着基剤は、その水性染料を10重量%以下含む請求項1〜4の何れか1項に記載の水解性衛生薄葉紙。
【0015】
(作用効果)
水性染料であれば、従来と比較して10重量%以下の低濃度でも十分に発色して、好ましい意匠性を呈する。これによりコスト安に製造できる。また、低濃度であっても顔料と比較してムラなく着色できる。
【0016】
<請求項6記載の発明>
水性接着基剤が、ポリビニルアルコール又はカルボキシメチルセルロース であり、塗布量が固形分量で0.001〜0.02g/m2である請求項1〜5の何れか1項に記載の水解性衛生薄葉紙。
【0017】
(作用効果)
これらの水性接着基剤の使用により特に水解性に優れるようになる。
【発明の効果】
【0018】
以上のとおり、本発明によれば、着色されたエンボス模様を有し、極めて意匠性に優れ、しかも水解性に難のない衛生薄葉紙が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳説する。
〔構造〕
本発明に係る水解性衛生薄葉紙は、少なくとも2枚以上の薄葉紙(以下、原紙シートともいう)が重ねられた形態を採る。重ねられる原紙シートの枚数は特に限定されるものではなく、例えば2枚、3枚、4枚、又はそれ以上の複数枚と適宜変更することができる。特に、2枚又は3枚がエンボス加工した場合の効果が顕著であり望ましい。
【0020】
以下、2枚の原紙シートを重ねた例で構造をより詳述する。ただし、本発明は、この形態に限定されるわけではない。
この本形態の水解性薄葉紙は、重ねられた2枚の原紙シートのそれぞれに、所定の図柄を描くように配された図案エンボスが付与されている。なお、図案エンボスの具体的な図案、大きさ、形状などは特に限定されるものではなく、ロゴマーク、数字、文字、幾何学模様など図案、適宜の大きさを選択することができる。また、各原紙シートに配される図案エンボスの模様は必ずしも同一である必要はない。
【0021】
また、図案エンボスを構成する単位エンボス一つあたりの面積は、0.002〜0.05cm2程度が望ましい。0.05cm2を超えると水解性が悪化し、0.002cm2未満であると着色が認識し難い。また、図案エンボスは、エンボス密度が、3〜20個/cm2、であるのがよい。3個/cm2、未満であると薄葉紙同士の接着が十分ではなく、20個/cm2、を超えると、水解性が低下するおそれが高まる。
【0022】
この水解性衛生薄葉紙の各原紙シートは、各原紙シートの図案エンボスの凸面同士が対面するように配され、そのエンボスの凸部頂面に付与された原紙シートの地色とは異なる色の接着剤によって、両原紙シートが接着されている。接着剤の詳細は後述するが、この接着剤は、水性接着基剤を水性染料や水性顔料によって着色したものであり、油性顔料及び油性染料、さらにこれを分散、溶解するための油性分散剤や油性溶媒を含まないものが使用される。
【0023】
各原紙シートに付与された図案エンボスの模様が同一であり、それぞれ対応するエンボスの凸部頂面同士が接着された所謂Tip to Tipの形態となっている。ただし、本発明の水解性衛生薄葉紙は、このTip to Tipの形態に限らず、一方の原紙シートの凸部頂面が他方の原紙シートのエンボス凸部以外の部分に接着される形態であってもよい。
【0024】
接着剤の塗布量は、水解性衛生薄葉紙の用途に応じて適宜増減することができるが、0.01〜2.0g/m2とするのが望ましい。2.0g/m2を超えると、ごわつくようになり、0.01g/m2未満であると原紙シート同士の接着が不十分となる。
【0025】
この本形態の水解性衛生薄葉紙では、前記接着剤が、原紙シートを透して水解性衛生薄葉紙の表裏面から視覚認識されることにより、図案エンボスに彩色が施された図案として視認される。
【0026】
ここで、本発明では、前記接着剤が、水解性衛生薄葉紙の表裏面から視認されることにより、図案を構成することとなるので、接着剤が十分に水解性衛生薄葉紙の表裏面から明りょうに視認できるように、原紙シートのJIS P 8149に基づく不透明度は30〜80%、望ましくは60〜70%とするのが好適である。この程度の不透明度であれば、十分に水解性衛生薄葉紙の表裏面から接着剤の色彩が明りょうに視識可能となる。
【0027】
ここで、本発明及び本明細書において「原紙シートの地色と異なる色」とは、色相が異なる場合はもちろん、彩度、明度のみが異なり、原紙シートの地色と着色糊付与部分の色とがグラデーション模様を構成する場合をも含む。
【0028】
他方、接着剤付与部分と接着剤非付与部分とのL*a*b*表色系におけるL*値の差ΔL*は3.0以上あるのが望ましい。なお、このL*値の測定は、例えば日本電色工業製の測定装置「PF−10」を用いて行うことができる。測定は、接着剤非付与原紙シートを10枚以上重ねたシート上に、一枚の接着剤付与部分を備える原紙シートを当該接着剤付与部分が内面となるようにして載せたものを試験片とし、この試験片の接着剤付与シートを載せた面から接着剤付与部分と接着剤非付与部分のL*値をそれぞれ測定する。
【0029】
他方、本形態の水解性衛生薄葉紙では、各原紙シートに、図柄として認識されず、また各シートの接着に実質的には寄与しない、前記図案エンボスより密度が密でありエンボス深さの浅いマイクロエンボスが形成されている。なお、ここでの実質的にとは、マイクロエンボス上に図案エンボスが重畳的に配されている部位では、結果的にマイクロエンボス同士が接着されることがあるがこれを考慮しないという意味である。
本形態では好ましい形態として、各原紙シートのマイクロエンボスの凸部同士が近接して向い合っている。
【0030】
マイクロエンボスは、単位エンボス一つあたりの面積は、0.002〜0.004cm2程度が望ましい。エンボス密度30〜100個/cm2、エンボス深さ0.05〜2.0mmとするのがよい。マイクロエンボスの単位エンボスの形状については、適宜の形状とすることができる。
【0031】
〔製造方法〕
以上説明の本形態の水解性衛生薄葉紙を製造するにあたっては、例えば、次記のようにして行うことができる。まず、予め原紙シートに、肌触り性の向上という観点から好ましくは60%以上、より好ましくは90%以上の実質的に全領域にわたって、それぞれ既知のマイクロエンボス加工ロール装置によってマイクロエンボス加工を施す。
【0032】
次いで、各原紙シートを、図案エンボスを付与するための、表面に模様柄が形成された金属製凸エンボスロールとゴム製抑えロールとの一対でニップする図案エンボスロールに通して図案エンボスを付与する。
原紙シートは、図案エンボスロール間を通り抜けてエンボスが付与された後には、ゴム製抑えロールから離間し、金属製凸エンボスロールに沿ってガイドされて移動し、エンボス凸部頂面部に対して、予め染料を溶解した接着剤が、ドクターチャンバー方式を用いたグルーユニットによって塗布され、最終的に転写ロールにより転写塗布される。
【0033】
次いで、重ね合せロールにて、図案エンボスの凸面が対面するようにして両原紙シートが重ねられて接着される。
かくして、水解性衛生薄葉紙の表裏面から接着剤の色が視認されて、図案エンボスを備えた、接着剤の彩色とエンボスパターンによる図案が形成された従来にはない意匠性を備える水解性衛生薄葉紙が製造される。
【0034】
なお、エンボス深さ(高さでもある)の異なる二種類以上のエンボスパターンを有する金属エンボスロールを用いれば、高さの異なる二種類以上のエンボスが一度に付与することが可能である。この場合においては、転写方式から直ちに判るように、エンボス高さの高いエンボスにのみ接着剤を付与することができ、接着剤が塗布されたエンボス凸部頭頂部と接着剤が塗布されていないエンボス凸部頭頂部を形成することができる。
【0035】
上記形態では、二枚の原紙シートの各図案エンボスが同一の図案であって各図案エンボスが重なるように両原紙シートを重ね合わせる形態であるが、各原紙シートに異なる図案の図案エンボスを付与し、当該図案エンボス同士が重ならないようにして、原紙シート同士を接着した水解性衛生薄葉紙の形態とすることもできる。
【0036】
〔接着剤に関して〕
次いで、本発明の特徴的な接着剤について説明する。ここでの接着剤とは原紙シートの図案エンボスの凸部頂面に付与して、両原紙シートを接着するための着色されている接着剤のことである。
【0037】
この本発明の接着剤は、特徴的に、水性の接着基剤を水性の着色剤で着色したものである。具体的には、水性接着基剤に水性染料や水性顔料を溶解又は分散させて着色したものである。
前記水性接着基材の具体例としては、PVA(ポリビニルアルコール)、CMC(カルボキシメチルセルロース)等が挙げられる。特に好ましい水性接着基剤は、セルロース系の水性接着基剤であり、具体例としてCMCが挙げられる。
【0038】
他方、水性染料としては、既知の水性染料が使用できる。例えば、染料ではフタロシアニン染料やアゾ系金属錯塩染料などが挙げられる。また、水性顔料としては、既知の水性顔料が使用できる。例えば、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタン、クレー、酸化亜鉛等を挙げることができる。
これら水性染料及び水性顔料の具体的な色は図案エンボスによる模様との関係で適宜定めればよく、特に限定されるものではない。
なお、水性染料と水性顔料とは、適宜可能な範囲内で併用することもできる。例えば、接着基剤中に同時に混入させて接着基剤を着色する併用方法のほか、複数色の接着剤を用いて原紙シートを接着するのであれば、一方を水性顔料によって着色した接着剤、他方を水性染料で着色した接着剤というように接着部分に応じて使い分けてもよい。この場合、模様と染料のコスト、色の発色性等を考慮して適宜選択することができる。
【0039】
なお、本発明の接着剤は、分散・溶解のために水と不溶な溶媒、分散剤を用いる油性顔料、油性染料は用いない。これらは接着剤としたときに水解性を悪化させる。当然に顔料インキそのものは本発明の接着剤ではない。
【0040】
本発明の水解性衛生薄葉紙は、接着剤を水性材料で構成することで、これまでの油性顔料等、特に油性インキを使用したものと比較して水解性に優れ、損紙の再利用性が極めて向上される。
【0041】
なお、シャワートイレなどが想定されるトイレットペーパーへの利用に関して、意図しない溶解性や着色剤の流出は、後述する原紙シートの設計とともに、接着基剤に対する水性染料の含有割合を、15重量%以下、好ましくは10重量%以下、特に好ましくは2〜10重量%とするのが望ましい。2重量%未満であると色が薄くなり良好な見栄えを発現させがたくなる。
【0042】
さらに、本発明の接着剤として、特に適するのは、水性顔料を用いたものよりも水性染料を用いたものである。水性顔料と水性染料とも水解性の点では油性顔料等を利用する場合と比較してメリットを有し、その点において差はない。
【0043】
しかし、以下の点で水性染料が優れる。まず、損紙再生の際の漂白性等の点において不溶性の顔料よりも可溶性の染料が優れる。そして、可溶性の染料に対して不溶性の顔料は発色性に優れるとされるが、水解性衛生薄葉紙のように比較的、坪量が低い紙では、単位面積あたりの顔料付与量が多くすることができないため、顔料の発色性の良さは染料を使用する場合と比較してあまり利点とならない。これに関しては、水性染料と最も発色性の高い油性インキとを比較しても差違がない。むしろ、顔料は基材に溶解していないため、単位面積あたりの顔料含有量が少ないと、図案エンボスの色が部分的にまだらとなり、ひいては部分的な接着性にも影響が生ずる。染料を用いた場合には、このような問題は生じない。従って、極めて淡い色に着色したエンボス図案を形成することも可能である。
このことから、本発明の水解性衛生薄葉紙では、水性の着色剤のなかでも、顔料より染料を用いるのがよい。
【0044】
他方、本発明の接着剤の粘度としては、1〜100mpa・s、特に5〜30mpa・sが望ましい。
【0045】
〔原紙シートに関して〕
本発明に係る水解性衛生紙を構成する原紙シートの原料パルプは、特に限定されない。水解性衛生薄葉紙の用途に応じて適宜の原料パルプを選択して使用することができる。原料パルプとしては、例えば、木材パルプ、非木材パルプ、合成パルプ、古紙パルプなどから、より具体的には、砕木パルプ(GP)、ストーングランドパルプ(SGP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、加圧式砕木パルプ(PGW)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ブリーチケミサーモメカニカルパルプ(BCTMP)等の機械パルプ(MP)、化学的機械パルプ(CGP)、半化学的パルプ(SCP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等のクラフトパルプ(KP)、ソーダパルプ(AP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)等の化学的パルプ(CP)、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)等を原料とする合成パルプ、脱墨パルプ(DIP)、ウエストパルプ(WP)等の古紙パルプ、かすパルプ(TP)、木綿、アマ、麻、黄麻、マニラ麻、ラミー等を原料とするぼろパルプ、わらパルプ、エスパルトパルプ、バガスパルプ、竹パルプ、ケナフパルプ等の茎稈パルプ、靭皮パルプ等の補助パルプなどから、一種又は数種を適宜選択して使用することができる。
【0046】
特には、原料パルプは、トイレットペーパー、ティシュペーパーとするのであれば、NBKPとLBKPとを配合したものが好ましい。適宜古紙パルプが配合されていてもよいが、風合いなどの点で、NBKPとLBKPのみから構成されているのがよく、その場合配合割合としては、NBKP:LBKP=30:70〜50:50がよく、特に、NBKP:LBKP=40:60が望ましい。
【0047】
パルプ繊維等の原料は、例えば、公知の抄紙工程、具体的には、ワイヤパート、プレスパート、ドライヤパート、サイズプレス、カレンダパート等を経るなどして、基紙とする。
【0048】
この抄紙に際しては、例えば、分散剤、苛性ソーダ、アンモニア水等のpH調整剤、消泡剤、防腐剤、蛍光染料、離型剤、耐水化剤、流動変性剤、歩留まり向上剤などの適宜の薬品を添加することができる。
【0049】
他方、原紙シートはたとえば前記図案エンボスを明瞭に見せる効果、あるいは全体として高級感等のあるように見せる効果を得るために、地色が白色に限らず薄いピンクやブルーであってもよい。着色されないパルプ自体の色が現出したものでもよい。
原紙シートの地色の調整は、技術に従って着色した抄紙原料を用いて抄紙するなど既知の技術により達成できる。
【0050】
〔米坪〕
他方、本発明に係る水解性衛生紙の米坪は、その用途によって適宜調整することができるが、好適には、各層あたり11〜25g/m2。好ましくは、11〜20g/m2である。なぜなら、11g/m2未満では、柔らかさの向上の観点からは好ましいものの、強度を適正に確保することができないためである。また、25g/m2超では、硬くなりすぎて、肌触りが悪いものとなるからである。この範囲は、水解性衛生薄葉紙の用途として、トイレットペーパー、ティシュペーパーとする場合に、特に適する。なお、米坪は、JIS P 8124の米坪測定方法による。
【0051】
〔紙厚〕
紙厚が50〜450μm。紙厚もまた、水解性衛生薄葉紙の用途にもよるがトイレットペーパーの場合、100〜300μmとなるのが好ましい。なお、ここでいう紙厚は原紙シートの紙厚ではなく、水解性衛生薄葉紙の紙厚である。紙厚が50μm未満では、柔らかさの向上の観点からは好ましいものの、トイレットペーパーとしての強度を適正に確保することができないためである。また、450μm超では、トイレットペーパーが硬くなりすぎて、トイレットペーパーの肌触りが悪化するだけでなく、使用時にゴワツキ感が生じるためである。なお、各層を構成する原紙シートの紙厚は、すべて統一する必要はない。
【0052】
前記紙厚の測定方法としては、JIS P 8111の条件下で、ダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器)「PEACOCK G型」(尾崎製作所製)を用いて測定するものとする。具体的には、プランジャーと測定台の間にゴミ、チリ等がないことを確認してプランジャーを測定台の上におろし、前記ダイヤルシックネスゲージのメモリを移動させてゼロ点を合わせ、次いで、プランジャーを上げて試料(例えば、トイレットペーパー。)を試験台の上におき、プランジャーをゆっくりと下ろしそのときのゲージを読み取る。このとき、プランジャーをのせるだけとする。なお、紙厚は測定を10回行って得られる平均値とする。
【0053】
本発明に係る水解性衛生薄葉紙の引張強度は、JIS P 8113の引張試験方法に準じて行う。その中でJIS P 8111に規定された標準条件下で、縦方向及び横方向に幅25mmに裁断するものとする。
【0054】
〔水解性〕
本発明に係る水解性衛生薄葉紙の水解性は、少なくともJIS P 4501で規定される、ほぐれやすさの試験方法における結果が80秒以下を確保できる。通常は80秒を超えると、水解性が遅く、例えば水洗トイレ等に廃棄したときに排水管に詰まるおそれがある。特に、本発明にかかる水解性衛生薄葉紙では、顔料使用では困難であった、35秒以下を達成することが可能である。
【0055】
〔プライ剥離強度〕
接着剤によって接着される。原紙シートのプライ剥離強度[cN/50mm]としては5〜100cN/50mmであることが好ましい。下限を5cN/50mmと規定したのは、5cN/50mmを下回ると、原紙シートS1,S2どうしの貼り合わせを適正に行うことができないためである。また、上限を100cN/50mmと規定したのは、100cN/50mmを上回ると、水解性衛生薄葉紙として硬くなりすぎて肌触りが悪化するためである。プライ剥離強度の測定方法は、JIS P 8113の引張試験方法に準じて行う。その中でJIS P 8111に規定された標準条件下で、縦方向に幅50mmに裁断するものとする。裁断した後、試料を縦方向に剥離し、剥離試験用ロードセル(TG200N、ミネビア社製)に対して、剥離した一方を上側のつかみ具に、他方を下側のつかみ具にそれぞれ固定し、その間隔を8cmとする。次に、垂直方向に100mm/分の速度で引張り、さらに5cm剥離させて、その時の強度を測定するものである。
【実施例】
【0056】
次いで、本発明の実施例、比較例及び従来例について水解性、漂白性および見栄えについて評価した結果について説明する。
本発明の実施例は、接着剤としてセルロール系水性接着剤(積水フーラー株式会社製JW−5612)を用い、水性染料としてアニオン性液体染料(日本化薬株式会社製 カヤフェクトターコイズGTリキッド)を表中の割合で混合したものを用いた。
【0057】
また、薄葉紙は2枚重ね(2プライ)とし、エンボスの凸部同士を上記接着剤により貼り合わせて試料を形成した。
試料における図案エンボスの密度は、16個/cm2とし、接着剤の塗布量は、0.05g/m2とした。また、薄葉紙は、バージンパルプ100%(LBKP:NBKP=3:7)で構成した。
【0058】
比較例は、セルロール系接着基剤に油性顔料インク(疎水性有機溶剤中に銅フタロシアニンを主とする発色成分が分散されもの)を表中の割合で混合した接着剤を用い、エンボスの態様及び薄葉紙の原料等に関しては実施例と同様とした。
従来例は、油性顔料インク(疎水性有機溶剤中に銅フタロシアニンを主とする発色成分が分散されもの)を接着剤として使用したものである。
【0059】
これらの実施例、比較例及び従来例において、薄葉紙の坪量、接着基剤に対する染料又は顔料の割合を変化させ、それぞれについて、水解性、漂白性、見栄えについて評価した。各例における坪量等の組成と評価の結果は下記表1に示すとおりである。
なお、水解性は、JIS P 4501で規定される、ほぐれやすさの試験方法に基づいて測定した。「従来例より劣る:−1」、「従来例と同様:±0」、「従来例より優れる:+1」の3段階で得点化し評価した。表中、得点が+となったものを◎、±0のものを○、−となったものを×で表した。
漂白性は、所定時間水解処理したのち次亜塩素酸を用いて漂白操作を行い、漂白性について観察した。
見栄え及び使用感については、従来例との比較により行った。「従来例より劣る:−1」、「従来例と同様:±0」、「従来例より優れる:+1」の3段階で得点化し、被験者20人の合計により評価した。表中、得点が+となったものを◎、±0のものを○、−となったものを×で表した。なお、被験者において、見栄えについては目視による美粧性、発色性、使用感については肌触り、柔らかさの点から総合的に評価した。
【0060】
【表1】

【0061】
表1の結果より、本願発明の実施例は、水解性に関して、比較例及び従来例おりも格段に良好な結果となっている。特に、坪量の25g/m2においても35秒未満となっており、インク顔料を用いた従来例の概ね半分程度の時間で水解する結果が得られた。
さらに、実施例では基剤に対する着色剤の使用量が低いにもかかわらず見栄えの点で、従来例や比較例以上の評価が得られている。基剤への分散により発色機能を発揮する顔料と、基剤に溶解することで着色機能を発揮する染料との差が現れたものと推測される。
また、使用感についても、実施例の米坪の範囲において従来例と差がないか、それ以上の結果が得られた。
さらに漂白性については、実施例に関しては、水解性に優れ繊維等が容易に分散するため、少量の漂白剤(次亜塩素酸)で漂白できたのに対して、比較例及び従来例は、接着部分が玉状に残り、その部分において十分に漂白されていないことが観察された。算出するに、本発明の実施例の水解性を考慮すれば、従来の1/50〜1/10倍の低濃度でも漂白作業が可能と考えられる。
以上の実施例、比較例及び従来例の評価から、本発明によれば、着色されたエンボス模様を有し、極めて意匠性に優れ、しかも水解性に難のない衛生薄葉紙が提供される。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の薄葉紙は、衛生用途に用いられる水解性の衛生薄葉紙として、特には、トイレットペーパー、ティシュペーパーとして使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚以上の薄葉紙を重ねてなる水解性衛生薄葉紙において、
少なくとも一枚の薄葉紙がエンボスを有し、そのエンボスの凸部の頂部に塗布された接着剤によって隣接する薄葉紙に接着されおり、
その薄葉紙同士の接着に用いられる接着剤は、水性接着基剤を水性の着色剤によって着色したものであることを特徴とする水解性衛生薄葉紙。
【請求項2】
前記水性接着基剤は、セルロース系接着剤である請求項1記載の水解性衛生薄葉紙。
【請求項3】
前記水解性衛生薄葉紙は、その紙厚が100〜450μmであり、各薄葉紙の米坪が11〜25g/m2である、請求項1又は2記載の水解性衛生薄葉紙。
【請求項4】
前記薄葉紙1枚あたりの縦方向の乾燥引張強度が100〜800cN/25mm、横方向の乾燥引張強度が50〜350cN/25mmである請求項1〜3の何れか1項に記載の水解性衛生薄葉紙。
【請求項5】
前記水性の着色剤が水性染料であり、前記水性接着基剤は、その水性染料を10重量%以下含む請求項1〜4の何れか1項に記載の水解性衛生薄葉紙。
【請求項6】
水性接着基剤が、ポリビニルアルコール又はカルボキシメチルセルロース であり、塗布量が固形分量で0.001〜0.02g/m2ある請求項1〜5の何れか1項に記載の水解性衛生薄葉紙。

【公開番号】特開2013−13746(P2013−13746A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−193064(P2012−193064)
【出願日】平成24年9月3日(2012.9.3)
【分割の表示】特願2008−21949(P2008−21949)の分割
【原出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】