説明

水質汚染監視装置及びその方法

【目的】 微生物濃度が希薄な水域内の微生物状態をオンライン計測し、水質汚染状況を的確に把握すると共に、水質汚染の変動を予知し、浄化対策を推定することにある。
【構成】 湖沼水、海水、河川水、ダム水等の水質を自動的にサンプルする手段と、サンプル中の浮遊物質を濃縮する手段と、濃縮液中の濁質を撮像する手段と、撮像画像を画像処理し、濁質を抽出する手段と、該抽出濁質の特徴を計算する手段と、該特徴から浮遊物質を複数の形状に分類する手段を具備し、浮遊物質の形状分類毎に出現量を計測する。また、対象水域を複数の監視ブロックに分割し、監視ブロック毎の流速、水温、水域への流入・流出情報に基づいて水域全体の対流を計算し、水質情報が監視ブロック間で拡散する状態をモデル化し、次いで、現在を初期値として一定時間後の水質情報とプランクトン発生量を計算し、一定時間後の水域全体の状態をシミュレ−ションし、水質変動を予知する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、湖沼水、海水、河川水、ダム水などの水圏の汚染を監視する水質汚染監視装置及びその方法に関する。
【0002】
【従来の技術】湖沼や内湾などの閉鎖性水域に窒素、りん等の栄養塩類が流入すると、これらは水域に蓄積され、藻類やその他の水性生物が増殖し、富栄養化に至る。富栄養化は、都市下水や食品工場排水などが流れ込むとそれだけ早く進行する。湖沼、内湾などの閉鎖性水域の状態は、水温、容存酸素濃度、PH、透明度、COD等の水質分析値やプランクトンをはじめとする生物の生態等で表すことができ、特に、水域に生息するプランクトン等の微生物は水質の変化を最も正確に反映する。たとえば、湖ではプランクトンの量は富栄養化の一つの指標であり、植物性プランクトンの容積が3〜5cm/m3になるかどうかが貧栄養湖と富栄養湖とのおよその境目とされている。従って、汚染監視対象となる水域では、微生物の種類やその出現量を定量的に計測し、水圏監視に反映させる必要がある。閉鎖性水域の監視方法としては、水域内に設置した水質、気象計測器やプランクトンの顕微鏡観察が実施されている。プランクトンの出現種やその量の計測は、顕微鏡観察に依存しており、赤潮などプランクトンの異常繁殖の監視対策は後手にならざるをえない。顕微鏡観察の場合、一般には定期的に船上からサンプリングした特定個所の水を持ち帰り、顕微鏡で目視観察しており、人手と労力を要する。また、種類を見分ける専門家が必要なため、常時監視が困難である。一方、微生物の常時監視のため、水中カメラと画像処理装置を組み合わせた装置(特願平02−182630)で微生物を定量化する方式が考案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】通常、湖沼や河川のプランクトン数は高々数万個/mlと希薄である。プランクトンを形状から分類可能な倍率(対物レンズ4倍以上)で撮影すると、撮影画面内にプランクトンの存在する確率は非常に小さい。水中カメラと画像処理装置を組み合わせた装置(特願平02−182630)は、微生物を出来るだけ自然な状態で撮影する方法で、微生物濃度が高い液体中で使用可能である。即ち、培養槽や富栄養価化が既に進行した水域など微生物濃度が高い状態では有効であるが、貧又は中栄養湖など現状汚染がさほど進んでおらず、微生物濃度が希薄な水域の常時監視には適さない。また、従来の装置では、湖沼や河川の現状汚染を監視できるが、現状汚染が将来どのように変動するかを予知し、この予知変動に対する浄化対策を推定することに配慮がなされていない。本発明の目的は、微生物濃度が希薄な水域内の微生物状態をオンライン計測し、汚染状況を連続監視し、水質汚染状況を的確に把握すると共に、水質汚染の変動を予知し、浄化対策を推定するに好適な水質汚染監視装置及びその方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記目的は、湖沼水、海水、河川水、ダム水等の水質を自動的にサンプルする手段と、サンプル中の浮遊物質を濃縮する手段と、濃縮液中の濁質を撮像する手段と、撮像画像を画像処理し、濁質を抽出する手段と、該抽出濁質の特徴を計算する手段と、該特徴から浮遊物質を複数の形状に分類する手段を具備し、浮遊物質の形状分類毎に出現量を計測することによって、達成される。また、湖沼水、海水、河川水、ダム水等の対象水域を複数の監視ブロックに分割し、監視ブロック毎の流速、水温、水域への流入・流出情報に基づいて水域全体の対流を計算し、この対流計算値から、水質情報が監視ブロック間で拡散する状態をモデル化し、次いで、現在を初期値として一定時間後の水質情報とプランクトン発生量を計算し、これらの計算値を基に栄養塩指標、有機物指標、プランクトン指標を計算し、一定時間後の水域全体の状態をシミュレ−ション計算し、水質変動を予知することによって、達成される。
【0005】
【作用】湖沼や河川中のプランクトン数は、通常、高々数万(細胞数/ml)と希薄である。そのため、サンプリング手段、濃縮手段及び移送手段により、希薄な懸濁浮遊物質を濃縮し、画像認識の効率を高める。また、拡大手段と照明手段及び撮像手段により構成される撮像装置は、移送流動する液中の浮遊物質を完全に保持し、静止画面を得る。この撮像装置において、プランクトン抽出手段は、形状認識画像を基に、画像間の座標や形状の特徴量などを考慮してプランクトンの種類や個数、浮遊物質の面積や粒径を計測し、さらに形状毎に分類してプランクトンの分布やその質量を計測する。これらの画像計測情報と水質情報を連続計測し、情報の時系列変化、気象情報及び水域の地形情報から水質の汚染状態とその範囲、原因を判定し、表示する。さらに、シミュレーション手段により汚染状況を推定し、汚染水域の浄化対策を推定する。このように、連続計測情報から水質汚染地域の同定、及び、事前にその予測を行なうことができると共に汚染水域の浄化対策を講ずることが可能になる。
【0006】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面により説明する、図1は、本発明の一実施例であり、水質監視装置の全体構成のブロック図を示す。本実施例の水質監視装置は、サンプリング装置2、濃縮装置3、撮像装置4、画像処理装置5、水質計測装置6、気象情報計測装置7、計算機8、表示装置9から構成する。
【0007】次に、これら装置の詳細を説明する。サンプリング装置2は、湖沼等の閉鎖水域1の貯溜水をサンプリングする。水域1内の懸濁浮遊物質、特に植物プランクトンは、位置、時間、季節により時々刻々変化するため、この変化に対処したサンプリングを実施する必要がある。図2において、貯溜水をサンプリングするには、位置調節装置202により導通管203を上下方向に操作し、導入口204の水深位置を変化させ、サンプリングポンプ201がサンプル液を導入口204から吸引、取水して、濃縮装置3に送る。ここで、水深位置操作は、時間帯、季節等を考慮して自動的あるいは遠隔地より調節する。導入口204を水面付近にすると、アオコ、赤潮の原因とされる浮上性の植物性プランクトンのサンプリングが可能になる。サンプリング装置2からのサンプル液は濃縮装置3に導かれ、懸濁浮遊物質が濃縮される。湖沼やダムの水域1は、雨天時には数千ppmの濁質となる場合もあるが、通常は数十ppm以下と清澄である。また、植物プランクトンは、大量発生でも数万(細胞数/ml)であり、平均数百(細胞数/ml)とされている。これを対物レンズ4倍の顕微鏡によって観察しても、1画面(観察容積約0.2mm3)に1細胞あるか否かであり、効率的な監視とは云えない。そこで、効率的な監視を行うにはサンプル液を濃縮することが必要となる。図3に、濃縮装置3の一例を示す。サンプル液は、導管302により散水され、網状の分離膜303において懸濁物質が濃縮分離され、濃縮槽304に貯溜する。サンプル液量と濃縮液量の比で濃縮倍率が決まる。懸濁物質が分離された濾過液は排水される。また、濃縮液は濃縮槽304から引抜き管306を介してポンプ305により採取する。なお、懸濁物質を濃縮分離する方式として、遠心力を利用して分離する遠心濾過方式、密度差や重量差を利用した遠心分離方式あるいは遠心沈降方式を採用してもよい。濃縮装置3からの濃縮液は撮像装置4に導かれる。図4に、撮像装置4の一例を示す。撮像装置4は、濃縮液の導入管409に対して第1筐体401と第2筐体402から構成される。各々の筐体が対向する導入管409の一部に透明ガラス製の接液窓405と406を配置する。接液窓405、406はその一方を平型に、他方を凹形にし、両者が接したときに形成される空間部をサンプル室とし、濃縮液の一部を保持する。第1筐体401にはサンプル室に焦点を合わせた拡大光学レンズ404とITV(テレビカメラ)403を内蔵し、一方、第2筐体402には集光レンズを有する照明装置402と、接液窓406の位置を調節する駆動装置408を設置する。このような構成において、駆動装置408は後述の画像処理装置5からの指令あるいは外部からのタイマ−により制御され、接液窓406を上下動操作する。図4は、サンプル室開放時に接液窓406を下降させた状態であり、サンプル室の液は濃縮液の流れにより入れ替えらる。そして接液窓406を再び上昇させることにより、新たな濃縮液がサンプル室に保持される。すなわち、サンプル室は接液窓406上昇動作時に形成される。サンプル室内の濃縮液は、透過光方式で照明され、拡大光学レンズ404を介してITV403が受光し、電気信号に変換される。この時、サンプル室内の保持液は、導入管409内を流通する濃縮液の影響を受けずに静止状態にある。これらの操作は連続的に行われ、自動的に画面が更新される。なお、接液窓406を下降させた状態で、導入管409内にワイパ−(図示せず)を設置し、両接液窓面の洗浄と、サンプル室保持液の強制的入れ替えを実行することもできる。撮像装置4において電気信号(映像信号)に変換された画像は、画像処理装置5に入力され、懸濁浮遊物質と植物プランクトンの形状を画像処理抽出する。また、画像処理装置5からの情報に基づいて画像の取り込み指令を行い、撮像装置4の動作制御を実施する。
【0008】図5に、画像処理装置5の一実施例を示す。画像処理装置5は、CPU(中央処理装置)501、主メモリ502、記憶装置503、通信インタフェース504、システムバス505、画像処理部506から構成する。CPU501は、主メモリ502に格納されているプログラムを実行し、画像処理装置5全体を制御する。記憶装置503には、画像処理装置5を制御するプログラムと画像処理結果が格納される。プログラムは、画像処理装置のイニシャルスタート時にCPU501のマイクロプログラムによって主メモリ502に転送される。通信インタフェース504は他計算機、計測装置とのデータ送受信機能を持ち、CPU501から通信インタフェース504を介して、計算機8への画像計測情報の送信及び撮像装置4の駆動装置408への制御信号の送信を実施する。画像処理部506は、画像メモリ507、画像処理プロセッサ508、映像インタフェース509からなる。画像メモリ508には、縦方向256画素、横方向256画素で輝度階調が256(8ビット)の濃淡画像メモリと、縦方向256画素、横方向256画素で輝度階調が2(1ビット)の2値メモリがそれぞれ複数個配されている。画像処理プロセッサ508は、画像メモリ508の濃淡画像並びに2値画像に対して、濃淡画像処理演算、2値化処理、形状特徴量抽出などを高速に実施する複数のLSIから構成されている。映像インタフェース509は、複数の入力と出力を有し、入力にはA/D変換器、出力にはD/A変換器を配しており、アナログの映像信号をデジタル信号に変換する。画像処理装置5内部ではデジタル信号を用いて処理する。撮像装置4からの映像信号は、映像インタフェース509においてデジタル信号に変換され、1つの濃淡画像として画像メモリ507にリアルタイムで格納され、画像処理プロセッサ508は画像メモリ507に格納される該濃淡画像に対して各種画像処理を実行する。なお、画像処理のタイミングはCPU501が制御する。映像インタフェース509に接続したモニタテレビ510では、画像メモリ507に格納されている画像や撮像装置4の映像信号を表示する。画像処理プロセッサ508は駆動装置408を駆動させて接液窓409を下降、上昇動作させる。この下降、上昇動作によりサンプル室の濃縮液が交換されて、新たな画像が撮像装置4に取り込まれる。
【0009】ここに、画像処理装置5の処理手順の詳細を図6、図7、図8を用いて説明する。本発明者らの観察によれば、透過照明方式の撮像装置4の拡大画像では、植物プランクトンは一部光が透過して輝度が高いものの、液相部よりは暗い。また、ゴミ状の物質はプランクトンより輝度が低い。図6の濃淡画像(a)は、濃縮液の植物プランクトン画像の一例である。濃淡画像は、同図(a)に示すように、明るい液相部Zの領域と、液相部より暗い植物性プランクトンA、B、Cと、ゴミ状の物質Dを含んでいる。このように濃淡画像は、輝度(明るさ)に応じた濃淡情報を持っており、該濃淡画像を2値化処理して、植物性プランクトンのみを分離抽出する。すなわち、特定の輝度レベルh1を基準にして、輝度レベルh1より低輝度の領域を1、h1より高輝度の領域を0にする2値化処理を実行する。この0、1の2値情報に変換された2値画像を図6(b)に示す。まず、液相部輝度と懸濁物質(プランクトンとゴミ状の物質)の輝度間に2値化の輝度レベルh1を設定し、懸濁物質を1に、液相部を0にした懸濁物質の2値画像を得る。次に、ゴミ状物質部輝度とプランクトンの輝度間に2値化の輝度レベルh2を設定し、ゴミ状物質を1に、他を0にしたゴミ状物質の2値画像を作成し、前記懸濁物質の2値画像と差分することで図6(b)の2値画像を得る。図7に、この2値化処理の手順を示す。まず、内部のシステム時刻を読み出し、予め設定した起動時刻あるいは起動周期と一致した場合画像処理を実行する(540)。画像処理プロセッサ508は、映像インタフェース509を介して得られたプランクトン映像を画像メモリ507内の濃淡画像メモリに格納後、濃淡画像処理演算、2値化処理を施し、2値メモリに格納する(541)。2値化処理の詳細については、図8において説明する。さらに、この2値メモリに対し、ラべリング処理を実行し、画像全体の物体総個数、全面積を計算し(542)、続いて、粒径分布、平均粒径等(543)を計算する。次に、プランクトン個々について、面積、周囲長、形状係数、2次モーメント、端点数、交点数、穴の数などの形状特徴量を計算し、主メモリ502に格納する(544)。CPU501は、これら各種画像処理計測値を通信インタフェース504を介して計算機8へ送信する(545)。さらに図8に、2値化処理の詳細な手順を示す。撮像装置4のプランクトン映像信号は、濃淡画像メモリG1に格納(550)後、輝度情報を輝度−画素のヒストグラムとして抽出する(551)。輝度−画素ヒストグラムは、横軸に輝度(0〜255)、縦軸に画素数をとると画素数の曲線として表現できる。この曲線から、例えば、曲線の最大値からある固定定数を減算する方式を用いて植物性プランクトンのみを分離抽出する特定の輝度レベルh1を計算し(552)、輝度レベルh1を基準にして、輝度レベルh1より低輝度の領域を1、h1より高輝度の領域を0にする2値化処理を実行、2値メモリB1に格納する(553)。2値抽出されたプランクトンのみの輝度情報を計算するため、濃淡画像メモリG1と2値メモリB1とAND演算を実行(マスク処理)し、背景液相部の輝度を0にした画像を濃淡画像メモリG2に格納する(554)。濃淡画像メモリG2に対し、先のステップ551、552と同様の方法で、輝度−画素ヒストグラム抽出し(555)、ゴミ状物質部とプランクトンを分離する2値化の輝度レベルh2の計算(556)を行い、輝度レベルh2による2値化を実行し、2値メモリB2に格納する(557)。なお、上記2値化処理手順において、濃淡画像(a)を直接処理したが、各画像の背景画像(液相部のみの画像)を予め撮像し、その画像と差分処理した画像を対象に画像処理を実行しても良い。この前処理を実行することにより、画像全体の輝度ムラ、すなわち、照明光による明るさの影響をなくし、良好な抽出画像を得ることができる。また、2値化処理のための輝度レベルの設定は固定値並びに各画像の輝度分布(ヒストグラム)を考慮して変化させる自動2値化法を用いることができる。
【0010】計算機6は、画像処理装置5からの画像情報と、気象情報計測装置7からの気象情報と、水質計測装置6からの水質情報を連続的に受信し、水域の汚染状態を監視する。ここで、水質情報とは、水温、濁度、pH、DO(容存酸素濃度)、電気伝導度、化学的酸素要求量COD、流速、水位などであり、気象情報とは、気温、風向、風力、日射量、雨量などである。画像処理装置5、気象情報計測装置7、水質計測装置6は、監視対象水域の地理的条件を考慮し、監視に最適な位置に設置する。水域を複数の監視ブロックに分割し、各ブロックの代表地点に各計測装置を配置することが望ましい。ここで、図9に、計算機6の構成例を示す。CPU(中央処理装置)805は、プログラム記憶装置803に格納されている各種プログラムを主メモリ806に転送して実行する。実行タイミングは、映像インタフェース808に接続した表示装置9からの起動指令信号、タイマー、入出力インタフェース807からの情報などによる。計測値データーベース801には入出力インタフェース807を介して受信した画像情報、水質情報、気象情報及びシミュレーション結果が格納され、地形データーベース802には水域の形状、流入水量、流入箇所、流出水量、流出箇所等のデータが格納される。プログラム記憶装置803には、異常診断プログラム、水質シミュレーションプログラム、データ送受信プログラム、表示装置操作プログラム等が格納されている。知識ベース809には、過去の現象に基づくルール群など知識工学、ファジー、ニューラルネットに必要な情報が格納される。異常診断プログラムは、各種計測情報並びに知識ベ−ス809の格納ル−ルに基づいて水域の汚染状況とその要因及び浄化対策を診断する。まず、プランクトン総体積、個数などを用いて植物プランクトン増減傾向を把握し、植物プランクトンが影響要因であれば、その種類を同定し、知識ベ−ス809のル−ルから増殖要因を診断する。種類の同定は、形状の特徴から求める。例えば、アオコや赤潮の原因となるミクロキスチスやウロゲレナは円形状係数や粒径、さらに細胞と中空(穴)部の面積比等の計測情報を用いて同定する。また、糸状や矩形状のプランクトンは長軸・短軸長比、面積と周囲長比、端点や交点数等から同定する。さらに、星形状や連環状のプランクトンは端点や交点数、細胞と中空(穴)部の面積比、穴数、細胞と中空(穴)部の面積比、面積と周囲長比等から判定する。これらの判定には、クリスプル−ルやファジ−ル−ルによる知識工学的手法、並びに、各種計測情報を入力層に、計測情報に対応する特徴値を教師デ−タとするニュ−ラルネットワ−ク手法を用いることもできる。各種ル−ルや特徴値及びそれに対応するプランクトン名等は知識ベ−ス809に格納し、必要に応じて呼出して推論を実行する。このように、水域の汚染状態をプランクトンの出現量やその出現種を連続計測して監視する。
【0011】図10に、この異常診断プログラムの処理の一例を示す。CPU805は、計算機8の起動と同時に異常診断プログラムを主メモリ806にロードし、実行する。まず、異常診断プログラムは、システム時刻を読みだし、予め登録した時刻または周期と比較し、起動時刻と判定した場合、ステップ851に移行する(850)。続いて、水域の監視ブロック毎に、栄養塩指標Ik、有機物指標Ic、プランクトンIp指標を計算する(851)。計算手順は後述する図11、図12において説明する。次に、水質情報、画像情報及び該3つの指標を初期値として、今後1カ月の水質情報、画像情報及び該3つの指標をシミュレーションする(852)。シミュレーションの手順は後述する図13において説明する。現状値またはシミュレーション値が基準範囲を超えた場合、水質情報や出現プランクトンの種類及び量が年間変動と一致しないときに異常発生と判定し(853)、異常発生場所、異常要因となる流入水をシミュレーション結果もしくは過去の経験則から推定する(854)。異常要因に対する対策は、知識ベースに格納しておき、発生場所、発生要因、季節、気象などから推論する(855)。図11に、栄養塩指標Ik、有機物指標Icの計算方法の一例を示す。水質情報からDO、濁度Tu、リンP、窒素TN、化学的酸素要求量COD、pHを読み出し(861)、栄養塩指標Ik、有機物指標Icをそれぞれ(1)式、(2)式により計算する(862)。
Ik=w1×P+w2×TN (1)
Ic=w3×DO+w4×COD+w5×pH (2)
ただし、w1,w234,w5は重み係数。
降雨、台風などの要因では、水質の変動が予想されるので、降雨量、水域への流入量、濁度Tuを変数に持つ係数w6,w7を用いて(3)、(4)式により補正する(863)。
Ik = w6× Ik (3)
Ic = w7× Ic (4)
以上のように計算した指標は、主メモリ806と計測値データベース801に格納する(864)。図12に、プランクトン指標Ipの計算手順の一例を示す。まず、画像情報を基にプランクトンの分類を形状の特徴から数個(N)に分類した(870)後、分類毎にプランクトンの体積PV(i)、個数PN(i)を計算(871)する。糸状や矩形状のプランクトンは、長軸・短軸長比、面積と周囲長比、端点や交点数等から同定できる。さらに、星形状や連環状のプランクトンは、端点や交点数、細胞と中空(穴)部の面積比、穴数、細胞と中空(穴)部の面積比、面積と周囲長比等から判定できる。次に、アオコや赤潮の原因となる特定種のプランクトンの存在有無は形状特徴から判定する(872)。例えば、アオコや赤潮の原因となるミクロキスチスやウロゲレナは円形状係数や粒径、さらに細胞と中空(穴)部の面積比等の情報を用いて同定する。存在を確認した場合、異常指標のプランクトン発生を主メモリ806及び計測値データベースに格納する(874)。プランクトン発生量VVとプランクトン指標Ipを(5)、(6)式により計算し、主メモリ806及び計測値データベース801に格納する(874、876)。


ただし、w8(i):体積計算時のプランクトン分類iの重み係数C :係数
【0012】図13に、シミュレ−ション手順の詳細を示す。まず、水域への流入・流出情報、監視ブロック毎の水質情報、気象情報、地形データベース802から水域の地形情報を読み出し(880)、監視ブロック毎の、流速、水温、水域への流入・流出情報に基づき水域全体の対流を計算する(881)。この対流計算値と水温から、水質情報が監視ブロック間で拡散する状態をモデル化する。次に、現在の水質情報を初期値として一定時間後のDO、濁度Tu、リンP、窒素TN、化学的酸素要求量COD、pHを計算し、続いて、画像情報と栄養塩、水温、DO、CODを初期値とし、プランクトン繁殖モデルを用いてプランクトン発生量を計算する(882)。これらの計算値を基に栄養塩指標Ik、有機物指標Ic、プランクトン指標Ipを計算する(883)。ステップ882、883を監視ブロック数分繰返す(884)と一定時間後の水域全体の状態が計算できる。さらに、時間を更新し、1カ月間程度の計算を繰り返し(885)、結果を主メモリ806及び計測値データベース801に格納する(886)。このように、水質シミュレ−ションプログラムは、当日の画像情報、水質情報、気象情報及び水域に流入する河川等の流入量、水質並びに水圏固有の地形、大きさなどの地理情報を基にシミュレ−ション計算を行い、汚染発生の原因となる場所の推定や翌日の水域内対流、拡散、反応などの水質変動を解析する。すなわち、翌日の水質変動を予知することにより、その対策を早期に行うことができる。診断、シミュレーションにより異常を検知した場合、空気又は酸素吹き込みによる曝気操作、撹拌操作、紫外線照射などの浄化手段を起動する。浄化手段は、水域内複数箇所に固定設置する方式と汚染箇所に移動する方式がある。表示装置9は、計算機8内の情報を表示し、計測データ、汚染状態、シミュレーション結果などを水域の水平方向と垂直方向について表示する。また、マウス、ライトペン、キーボードなどの信号を計算機8に送信する。
【0013】
【発明の効果】本発明によれば、湖沼や河川中のプランクトン数が希薄であっても、懸濁浮遊物質を濃縮することにより、画像認識の効率を高めことができる。また、閉鎖性水域の汚染状態をプランクトン出現量と水質情報から連続的かつ定量的に計測できるので、水域の水質監視及び浄化を効率的に実行することが可能となる。また、シミュレーションにより、汚染状況を事前に予測することができると共に汚染水域の浄化対策を講ずることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す図。
【図2】サンプル装置の構成を示す図。
【図3】濃縮装置の構成を示す図。
【図4】撮像装置の構成を示す図。
【図5】画像処理装置のを示す図。
【図6】プランクトン画像の一例を示す図。
【図7】2値化処理の手順を示す図。
【図8】2値化処理の詳細な手順を示す図。
【図9】計算機の構成を示す図。
【図10】異常診断プログラムの処理を示す図。
【図11】計算方法の一例を示す図。
【図12】計算方法の一例を示す図。
【図13】シミュレ−ション手順の詳細を示す図。
【符号の説明】
1 水域
2 サンプリング装置
3 濃縮装置
4 撮像装置
5 画像処理装置
6 水質計測装置
7 気象情報計測装置
8 計算機
9 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 湖沼水、海水、河川水、ダム水等の水質を自動的にサンプルする手段と、サンプル中の浮遊物質を濃縮する手段と、濃縮液中の濁質を撮像する手段と、撮像画像を画像処理し、濁質を抽出する手段と、該抽出濁質の特徴を計算する手段と、該特徴から浮遊物質を複数の形状に分類する手段を具備し、浮遊物質の形状分類毎に出現量を計測することを特徴とする水質汚染監視装置。
【請求項2】 請求項1において、分類毎の出現量分布と、水質、季節、気象データから汚染状態を判定することを特徴とする水質汚染監視装置。
【請求項3】 請求項1または請求項2において、分類毎の出現量分布計測は、水域の水平方向及び水深方向について実施することを特徴とする水質汚染監視装置。
【請求項4】 請求項1、請求項2または請求項3において、対象水域の地形、面積等の地理情報を記憶する手段と、汚染状況をシミュレーションする手段を具備し、汚染箇所を推定することを特徴とする水質汚染監視装置。
【請求項5】 請求項4において、シミュレーション結果に基づいて汚染領域を判定し、該領域を浄化する手段を具備することを特徴とする水質汚染監視装置。
【請求項6】 請求項1から請求項5のいずれかにおいて、それぞれの結果を表示する手段を具備することを特徴とする水質汚染監視装置。
【請求項7】 湖沼水、海水、河川水、ダム水等の対象水域を複数の監視ブロックに分割し、該監視ブロック毎に栄養塩指標、有機物指標、プランクトン指標を計算し、これらの指標と水質情報及び浮遊物質の濁質を画像処理した画像情報を基にシミュレーションし、該シミュレーション値が基準範囲を超えた場合、出現プランクトンの種類及び量が異常発生したと判定し、異常診断することを特徴とする水質汚染監視方法。
【請求項8】 請求項7において、異常診断の結果から異常発生場所、異常要因となる流入水を推定し、該異常要因に対する対策を推論することを特徴とする水質汚染監視方法。
【請求項9】 湖沼水、海水、河川水、ダム水等の対象水域を複数の監視ブロックに分割し、監視ブロック毎の流速、水温、水域への流入・流出情報に基づいて水域全体の対流を計算し、該対流計算値から水質情報が監視ブロック間で拡散する状態をモデル化し、次いで、現在を初期値として一定時間後の水質情報とプランクトン発生量を計算し、これらの計算値を基に栄養塩指標、有機物指標、プランクトン指標を計算し、一定時間後の水域全体の状態をシミュレ−ション計算し、水質変動を予知することを特徴とする水質汚染監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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