説明

水質浄化材

【課題】繊維表面に固着された有機物吸着性粒子の脱落を防止し、かつ有機物吸着性粒子の比表面積の減少を抑制することができる水質浄化材を提供する。
【解決手段】本発明の水質浄化材は、繊維と、その表面のバインダー樹脂と、前記バインダー樹脂に固着された有機物吸着性粒子とを含み、前記バインダー樹脂は、湿熱ゲル化樹脂であり、前記有機物吸着性粒子は、前記湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されている。例えば、熱可塑性合成繊維成分としてポリプロピレンを芯成分(2)とし、湿熱ゲル化繊維成分としてエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を鞘成分(1)とした複合繊維(5)の鞘成分(1)に有機物吸着性粒子(3)を有効に固着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物吸着性粒子を繊維表面に固着させた粒子固着繊維を有する水質浄化材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、工場廃水等を浄化する水質浄化材として、繊維状の活性炭、すなわち活性炭素繊維を用いた様々な水質浄化材が提案されている(例えば特許文献1等)。しかし、活性炭素繊維を用いた水質浄化材では、使用中に活性炭素繊維を構成する活性炭が脱落して、浄化性能が劣化するおそれがある。更に、浄化後の液体中に脱落した活性炭が混入するおそれがある。
【0003】
他方、活性炭粒子等の有機物吸着性粒子を、不溶性のバインダーを介してシート状部材に固着させた水質浄化フィルターが、特許文献2に提案されている。
【特許文献1】特開平9−234365号公報
【特許文献2】特開平9−201583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2に提案された水質浄化フィルターでは、有機物吸着性粒子がバインダーに埋没してしまい、有機物吸着性粒子の比表面積が減少して、充分な浄化性能が得られなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、有機物吸着性粒子の脱落を防止し、かつ有機物吸着性粒子の比表面積の減少を抑制することができる水質浄化材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水質浄化材は、繊維と、その表面のバインダー樹脂と、前記バインダー樹脂に固着された有機物吸着性粒子とを含む粒子固着繊維を有する水質浄化材であって、前記バインダー樹脂は、湿熱ゲル化樹脂であり、前記有機物吸着性粒子は、前記湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水質浄化材によれば、有機物吸着性粒子が、繊維の表面に固定された湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されているため、有機物吸着性粒子を表面に露出させた状態で固着することができる。これにより、繊維表面に固着された有機物吸着性粒子の脱落を防止し、かつ有機物吸着性粒子の比表面積の減少を抑制することができるため、従来の水質浄化材に比べて、浄化性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の水質浄化材においては、水分存在下で加熱することによってゲル化するバインダー樹脂として、湿熱ゲル化樹脂を用いるか、又は湿熱ゲル化繊維成分と他の熱可塑性合成繊維成分とを含む複合繊維(以下、「湿熱ゲル化複合繊維」という。)を用いる。湿熱ゲル化樹脂の形態は、パウダー状、チップ状、繊維状等が挙げられる。特に、湿熱ゲル化樹脂は、繊維状であることが好ましい。これにより、他の繊維又は少なくとも他の熱可塑性合成繊維成分は繊維の形態を保ち、かつ湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化繊維成分がゲル化されて有機物吸着性粒子を固着させるバインダーとしての作用機能を発揮する。また、不織布等に加工する際、収縮を伴わずに加工できる。そして、本発明の水質浄化材における粒子固着繊維は、有機物吸着性粒子が、繊維の表面に固定された湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化繊維成分が湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されている。これにより、繊維表面に固着された有機物吸着性粒子の脱落を防止することができる。更に、有機物吸着性粒子が表面に露出した状態で固着することができるため、有機物吸着性粒子の比表面積の減少を抑制し、従来の水質浄化材に比べて、浄化性能を向上させることができる。また、活性炭素繊維を使用する場合に比べ、安価な材料で製造することができる。
【0009】
湿熱ゲル化樹脂の好ましいゲル化温度の下限は、50℃である。より好ましいゲル化温度の下限は、80℃である。50℃未満でゲル化し得る樹脂を用いるとゲル加工の際、ロール等への粘着により繊維集合物の生産が難しくなったり、夏場や高温環境下での使用ができなくなったりする場合がある。なお、「ゲル加工」とは、湿熱ゲル化樹脂をゲル化させる加工のことをいう。
【0010】
湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化繊維成分は、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂であることが好ましい。湿熱によってゲル化でき、他の熱可塑性合成繊維成分を変質させないからである。
【0011】
エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂とは、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂を鹸化することによって得られる樹脂であり、その鹸化度は95%以上が好ましい。より好ましい鹸化度は、98%以上である。また、エチレン含有率の好ましい下限は、20モル%である。エチレン含有率の好ましい上限は、50モル%である。より好ましいエチレン含有率の下限は、25モル%である。より好ましいエチレン含有率の上限は、45モル%である。鹸化度が95%未満ではゲル加工の際、ロール等への粘着により繊維集合物の生産が難しくなる場合がある。また、エチレン含有率が20モル%未満の場合も同様に、ゲル加工の際、ロール等への粘着により繊維集合物の生産が難しくなる場合がある。一方、エチレン含有率が50モル%を超えると、湿熱ゲル化温度が高くなり、加工温度を融点近傍まで上げざるを得なくなり、その結果、繊維集合物の寸法安定性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0012】
前記繊維及び前記バインダー樹脂の好ましい組み合わせとしては、
(I)湿熱ゲル化樹脂成分と他の熱可塑性合成繊維成分とを含む複合繊維、
(II)前記複合繊維と他の繊維を混合したもの、
(III)前記複合繊維と湿熱ゲル化樹脂を混合したもの、及び
(IV)湿熱ゲル化樹脂と他の繊維を混合したもの
から選ばれる少なくとも一つが挙げられる(以下、「形態(I)〜(IV)」という。)。前記形態(I)は、「バインダー樹脂」を湿熱ゲル化樹脂成分とし、「繊維」を他の熱可塑性合成繊維成分とした湿熱ゲル化複合繊維である。前記形態(II)は、「バインダー樹脂」を湿熱ゲル化複合繊維とし、「繊維」を他の繊維としこれを混合したものである。前記形態(III)は、「繊維」を湿熱ゲル化複合繊維とし、さらに「バインダー樹脂」を湿熱ゲル化樹脂としこれを混合したものである。前記形態(IV)は、「バインダー樹脂」を前記湿熱ゲル化複合繊維以外の形態を採る湿熱ゲル化樹脂(例えば、湿熱ゲル化樹脂単独繊維)とし、「繊維」を他の繊維としこれを混合したものである。
【0013】
前記形態(I)〜(III)に用いられる前記湿熱ゲル化複合繊維は、湿熱ゲル化樹脂成分が露出しているかまたは部分的に区分されている複合繊維であることが好ましい。その複合形状は、同心円型、偏心芯鞘型、並列型、分割型、海島型等を指す。特に同心円型が有機物吸着性粒子の固着性がよく、好ましい。また、その断面形状が円形、中空、異型、楕円形、星形、偏平形等いずれであってもよいが、繊維製造の容易さから円形であることが好ましい。分割繊維はあらかじめ加圧水流等を噴射して部分的に分割しておくのが好ましい。このようにすると、分割された湿熱ゲル化樹脂成分は、湿熱処理によりゲル化し、ゲル化物を形成して他の繊維の表面に付着し、有機物吸着性粒子を固着する。すなわち、バインダーとして機能する。
【0014】
前記湿熱ゲル化複合繊維に占める湿熱ゲル化樹脂成分の割合は、10mass%以上90mass%以下の範囲内であることが好ましい。より好ましい含有量は、30mass%以上である。より好ましい含有量は、70mass%以下である。湿熱ゲル化繊維成分の含有量が10mass%未満であると、有機物吸着性粒子の固着性が低下する傾向にある。湿熱ゲル化繊維成分の含有量が90mass%を超えると、複合繊維の繊維形成性が低下する傾向にある。
【0015】
前記湿熱ゲル化複合繊維における他の熱可塑性合成繊維成分は、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等いかなるものであってもよいが、好ましくはポリオレフィンである。湿熱ゲル化樹脂成分としてエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を使用した場合、溶融紡糸による複合繊維(コンジュゲート繊維)を形成しやすいからである。
【0016】
また、他の熱可塑性合成繊維成分として、湿熱ゲル化樹脂成分をゲル化させる温度よりも高い融点を有する熱可塑性合成繊維成分を用いることが好ましい。他の熱可塑性合成繊維成分がゲル化物を形成させる温度よりも低い融点を有する熱可塑性合成繊維成分であると、他の熱可塑性合成繊維成分自体が溶融して硬くなり、ひいては成形体にしたときに収縮を伴って不均一になることがある。
【0017】
前記湿熱ゲル化複合繊維が繊維集合物に占める割合は、有機物吸着性粒子を固着することのできる量であれば特に限定されないが、ゲル化物によって繊維を固定し、または有機物吸着性粒子を有効に固着するのに要する複合繊維の割合は、10mass%以上であることが好ましい。より好ましい複合繊維の割合は、30mass%以上である。さらに好ましい複合繊維の割合は、50mass%以上である。
【0018】
前記形態(III)では、前記湿熱ゲル化複合繊維に、さらに湿熱ゲル化樹脂を含有させて複合繊維の表面にゲル化物を形成させることも可能である。有機物吸着性粒子の固着効果をより向上させることができる。
【0019】
前記形態(II)または前記形態(IV)に用いられる他の繊維としては、レーヨン等の化学繊維、コットン、麻、ウール等の天然繊維等、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等の合成樹脂を単独又は複数成分とする合成繊維等、任意なものを選択して使用できる。
【0020】
前記形態(II)または前記形態(IV)において、湿熱ゲル化樹脂は、繊維集合物に対して1mass%以上90mass%以下の範囲内で含有させるのが好ましい。より好ましい含有量は、3mass%以上である。より好ましい含有量は、70mass%以下である。湿熱ゲル化樹脂の含有量が1mass%未満であると、ゲル化物によって他の繊維を固定することが困難となったり、有機物吸着性粒子の固着性が低下したりする傾向にある。湿熱ゲル化樹脂の含有量が90mass%を超えると、繊維形状が消失してフィルム状になったり、有機物吸着性粒子がゲル化物に埋没したりすることがある。
【0021】
前記有機物吸着性粒子は、液体中の有機物を吸着する機能を有するものであれば特に限定されないが、活性炭粒子、ゼオライト、シリカゲル、活性白土、層状リン酸塩等の多孔質粒子、これらの多孔質粒子に有機物吸着剤を担持させた多孔質粒子等が好ましい。多孔質粒子の中では、活性炭粒子が特に好ましい。
【0022】
前記有機物吸着性粒子の平均粒子径は、0.01〜100μmの範囲であることが好ましい。より好ましい平均粒子径の下限は0.5μmであり、更に好ましい下限は1μmである。より好ましい平均粒子径の上限は80μmである。0.01μm未満では、有機物吸着性粒子がゲル化物に埋没することがある。一方、100μmを超える場合は、有機物吸着性粒子の比表面積が小さくなり、充分な浄化性能が得られなくなる場合がある。
【0023】
本発明の水質浄化材は、前記粒子固着繊維を少なくとも一表面に備えた不織布が好ましい。不織布は加工性が高いため、様々な用途へ適用することができる。また、前記不織布は、効率良く有機物を吸着させるために、前記有機物吸着性粒子の固着量が不織布1m2あたり2g以上であることが好ましく、20g以上であることがより好ましい。
【0024】
本発明において湿熱処理とは、バインダー樹脂を付与した繊維、湿熱ゲル化繊維成分を含む繊維、又はこれらの繊維を含む繊維集合物に、例えば有機物吸着性粒子を含む水系液を付与した後に加熱する処理や、前記水系液を付与しながら加熱する処理のことを示す。加熱の方法は、加熱雰囲気中へ晒す方法、加熱空気中を貫通させる方法、加熱体へ接触させる方法等が挙げられる。
【0025】
前記水系液を付与した後に加熱する場合は、湿熱処理における繊維または繊維集合物に付与する水分の割合が(以下、水分率という)、20mass%〜800mass%であることが好ましい。より好ましい水分率の下限は、30mass%である。より好ましい水分率の上限は、700mass%である。さらに好ましい水分率の下限は、40mass%である。さらに好ましい水分率の上限は、600mass%である。水分率が20mass%未満であると、湿熱ゲル化が充分に起こらないことがある。一方、水分率が800mass%を超えると、湿熱処理が繊維集合物の表面と内部との間で均一に行われず、湿熱ゲル化の度合いが不均一となる傾向にある。なお、水分の付与方法としては、スプレー、水槽への浸漬等公知の方法で行うことができる。水分が付与された繊維又は繊維集合物は、絞りロール等で圧搾する等の方法で所定の水分率に調整することができる。
【0026】
前記水系液を付与しながら加熱する場合は、湿熱ゲル化樹脂のゲル化が水分の付与と同時に進行するので、前記水系液中の有機物吸着性粒子の濃度と、前記水系液の温度を調整して、有機物吸着性粒子の固着量を調整すればよい。具体的には、有機物吸着性粒子を含む熱水中(90℃以上)に繊維又は繊維集合物を含浸することにより、水質浄化材を得ることができる。
【0027】
湿熱処理温度は、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化繊維成分(以下、両者を併せて「バインダー樹脂」ともいう。)のゲル化温度以上融点−20℃以下である。好ましい湿熱処理温度の下限は、50℃である。より好ましい湿熱処理温度の下限は、80℃である。また、好ましい湿熱処理温度の上限は、バインダー樹脂の融点−30℃である。より好ましい湿熱処理温度の上限は、バインダー樹脂の融点−40℃である。湿熱処理温度がバインダー樹脂のゲル化温度未満であると、有機物吸着性粒子を有効に固着することができない場合がある。湿熱処理温度がバインダー樹脂の融点−20℃を超えると、湿熱ゲル化成分の融点に近くなるため、不織布にしたときに収縮を引き起こすことがある。
【0028】
次に、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態においては、水質浄化材として不織布を用いた場合について説明する。
【0029】
図1A〜Cは本発明の一実施形態における不織布を構成する粒子固着繊維の断面図である。図1Aはポリプロピレンを芯成分2とし、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を鞘成分1とした複合繊維5であって、鞘成分1に有機物吸着性粒子3を固着させた例である。図1Bはポリプロピレンを芯成分2とし、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を鞘成分1とした複合繊維6であって、鞘成分6の外側にエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂をバインダー4として付着させ、このバインダー4に有機物吸着性粒子3を固着させた例である。図1Cはポリプロピレン8とエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂7を多分割に配置した複合繊維9とし、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂7の周辺部に有機物吸着性粒子3を固着させた例である。
【0030】
図2は本発明の一実施形態における不織布(水質浄化材)の製造方法の一例工程図である。不織布原反31を、槽32内の有機物吸着性粒子を含む水系液又は有機物吸着性粒子とエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂とを含む溶液33に含浸し、絞りロール34で絞り、スチーマー35とサクション36の間で湿熱処理し、そのまま巻き取るか、又は一対の加熱ロール37,37にかけたパターニング用キャンバスロール38,38により圧縮成形し、不織布表面に所定のパターン模様を付与し、その後、巻き取り機39に巻き取る方法もある。
【0031】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態には限定されない。例えば、前記実施形態では、水質浄化材として不織布を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されず、前記粒子固着繊維を複数束ねて形成された繊維束を有機物吸着部とする水質浄化モジュールとしてもよい。また、前記粒子固着繊維の集合物を円筒状に巻きつけたものや、プリーツ状に成型したものを、水質浄化フィルターとして用いることもできる。
【実施例】
【0032】
[実施例1]
(不織布原反の作製)
鞘成分がエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH、エチレン含有量38モル%、融点176℃)であり、芯成分がポリプロピレン(PP、融点161℃)であり、EVOH:PPが50:50の割合(容積比)である芯鞘型複合繊維(繊度2.8dtex、繊維長51mm)を準備した。
【0033】
前記芯鞘型複合繊維をセミランダムカード機で開繊し、目付101g/m2のカードウェブを作製した。次いで、前記カードウェブを90メッシュの平織り支持体に載置し、前記カードウェブの幅方向に一列にオリフィス(径:0.12mm、ピッチ:0.6mm)が配置されたノズルから前記カードウェブに向けて水流を水圧3MPaで噴射した後、更に水圧4MPaで噴射した。続いて、前記カードウェブを裏返して、前記ノズルから水圧4MPaで水流を噴射して、実施例1に使用される水流交絡不織布原反を作製した。
【0034】
(有機物吸着性粒子)
有機物吸着性粒子としては、活性炭粒子:「クラレコール PL−D」(クラレケミカル製、ヤシガラ炭、平均粒子径40〜50μm)を使用した。
【0035】
(粒子固着処理)
前記不織布原反を、10mass%の前記活性炭粒子を含む水分散液(20℃)に浸漬し、マングルロールの絞り圧力でピックアップ率を調整して、前記活性炭粒子の固着量を表1に示す数値となるように調整した。なお、ピックアップ率とは、不織布原反の質量に対する水分量と活性炭粒子量との和に100を乗じた値である。次いで、水分散液を含浸させた前記不織布原反を、線径:0.3mm、メッシュ数:縦30本/inch×横25本/inchの2枚の平織りのプラスチックネット(縦40cm×横40cm)で挟持して、150℃に加熱したホットプレートに載置し、更に、上側の前記プラスチックネットをアルミニウムシート(1g/cm2)で覆って15分間湿熱処理をした。得られた不織布を水洗し、熱風ドライヤー(100℃)で乾燥して、実施例1の不織布(水質浄化材)を得た。
【0036】
[実施例2]
目付40g/m2のカードウェブを用い、前記活性炭粒子を固着させる際における水分散液中の前記活性炭粒子の濃度を5mass%とし、マングルロールでピックアップ率を調整して前記活性炭粒子の固着量を表1に示す数値となるように調整したこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の不織布(水質浄化材)を得た。
【0037】
表1に、実施例1及び実施例2の不織布(水質浄化材)について、不織布原反の目付、活性炭粒子の固着量、活性炭粒子の固着率及び不織布(水質浄化材)の目付を示した。なお、実施例1,2の不織布は、繊維形状を保持しており、ゲル加工時に不織布が収縮することはなかった。
【0038】
【表1】

【0039】
[比較例1]
自己架橋型アクリル酸エステルエマルジョン(日本カーバイド工業製、商品名「ニカゾールFX−555A」)を15mass%と、前記活性炭粒子を10mass%含有した配合液を準備した。次に、前記配合液に前述した実施例1に使用される水流交絡不織布原反と同じ不織布原反を浸漬し、マングルロールで絞り、熱風乾燥機を用いて温度140℃、処理時間15分で乾燥させるとともに硬化させ、活性炭粒子の固着量が38g/m2のケミカルボンド不織布(比較例1)を得た。
【0040】
[比較例2]
比較例2として、活性炭素繊維不織布(クラレケミカル(株)製、商品名「クラクティブ」、目付約180g/m2)を用意した。
【0041】
[水質浄化性能試験方法]
実施例1,2及び比較例1,2について、図3に示す水循環式簡易試験機にて水質浄化性能試験を行った。図3に示すように、水循環式簡易試験機40は、スタンド41と、スタンド41に取り付けられた固定治具42a,42bと、固定治具42aによりスタンド41に固定された有底円筒状の容器43と、容器43内の水を循環するポンプ44とを備えている。そして、ポンプ44は、容器43の底部の開口43aに取り付けられた管44aと、固定治具42bによりスタンド41に固定された管44bとを備え、容器43の開口43aから管44aにより容器43内の水を吸引し、吸引した水を管44bにより、容器43の上部へ排出する。なお、本試験において、実施例1及び比較例2については、容器43内に化学的酸素要求量(COD)が40ppmとなる工場廃水を入れて行い、実施例2及び比較例1については、CODが20ppmとなる工場廃水を入れて行った。また、ポンプ44に接続したスライダック(図示せず)により、水の循環流量を6リットル/分とし、試験中において、容器43内の前記工場廃水の液量を1リットルに維持した。
【0042】
[試験用サンプルの作製方法]
実施例1,2及び比較例1,2のそれぞれの不織布を、3cm×3cmの小片50(図3参照)に切断した。次に、実施例1,2及び比較例1,2のそれぞれについて、活性炭量が10gとなるように、小片50を秤量し、秤量した小片50を市販の茶パック51(図3参照)に入れて試験用サンプル52(図3参照)を作製した。なお、水質浄化性能試験の際は、図3に示すように、試験用サンプル52を、容器43内の前記工場廃水に浸漬し、ワイヤー53により固定治具42bに固定した。
【0043】
[COD濃度の測定方法]
COD濃度は、測定時間毎に容器43内の前記工場廃水をスポイトでビーカーに採取し、共立理化学研究所製の簡易水質分析製品「パックテスト」(WAK−COD、測定範囲0〜100mg/リットル)にて標準色と比色して測定した。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
[結果]
表2に示すとおり、実施例1,2の不織布を使用した場合は、比較例1,2に比べ、COD濃度の減少速度が速く、良好な水質浄化性能を示した。特に、測定開始から120分後において、実施例2のCOD濃度は、比較例1のCOD濃度の半分となり、水質浄化性能が向上した。これは、実施例2の不織布中の活性炭粒子(有機物吸着性粒子)が、繊維の表面に固定された湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されているため、有機物吸着性粒子が表面に露出した状態で固着され、比較例1に比べ、有機物吸着性粒子の比表面積の減少が抑制されたことによるものと考えられる。
【0046】
[活性炭脱落率]
実施例2及び比較例2について、以下に示す方法で活性炭脱落率を測定した。
【0047】
実施例2及び比較例2のそれぞれの不織布を、活性炭量が1.21gとなるようにカットした。カットしたサンプルのサイズは、実施例2が30cm×20cmで、比較例2が6.6cm×10cmであった。次に、3リットルのビーカーに2リットルの水を入れ、実施例2及び比較例2の前記サンプルをそれぞれビーカー内の水に入れて、マグネットスターラーで4時間攪拌した。その後、サンプルを取り出して、ビーカー内の残存液を、予め質量を測定しておいたガラス濾紙(東洋濾紙社製、商品名「アドバンテック」、型番「GLASS FIBER GS25」、直径47mm)を用いて吸引濾過し、濾過したガラス濾紙を乾燥した後、乾燥後のガラス濾紙の質量を測定した。そして、得られたガラス濾紙の質量から、活性炭の脱落量及び脱落率を求めた。なお、活性炭の脱落量は、乾燥後のガラス濾紙の質量から濾過前のガラス濾紙の質量を減じた値とした。また、活性炭の脱落率は、前記活性炭の脱落量を試験前の活性炭量(1.21g)で除した値に100を乗じた値とした。結果を表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
[結果]
表3に示すとおり、実施例2の不織布は、比較例2に比べ活性炭の脱落量及び脱落率を抑えることができた。これは、実施例2の不織布中の活性炭(活性炭粒子)が、繊維の表面に固定された湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されているため、比較例2に比べ、活性炭をより強固に保持できるからであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態における不織布(水質浄化材)を構成する粒子固着繊維の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態における不織布(水質浄化材)の製造方法の一例工程図である。
【図3】水循環式簡易試験機の概略斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
1 鞘成分
2 芯成分
3 有機物吸着性粒子
4 バインダー
5,6,9 複合繊維
7 エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂
8 ポリプロピレン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と、その表面のバインダー樹脂と、前記バインダー樹脂に固着された有機物吸着性粒子とを含む粒子固着繊維を有する水質浄化材であって、
前記バインダー樹脂は、湿熱ゲル化樹脂であり、
前記有機物吸着性粒子は、前記湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されていることを特徴とする水質浄化材。
【請求項2】
前記湿熱ゲル化樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂である請求項1に記載の水質浄化材。
【請求項3】
前記有機物吸着性粒子は、多孔質粒子を含む請求項1に記載の水質浄化材。
【請求項4】
前記多孔質粒子は、活性炭粒子である請求項3に記載の水質浄化材。
【請求項5】
前記有機物吸着性粒子の平均粒子径は、0.01〜100μmの範囲である請求項1又は請求項3に記載の水質浄化材。
【請求項6】
前記繊維及び前記バインダー樹脂は、
(I)湿熱ゲル化樹脂成分と他の熱可塑性合成繊維成分とを含む複合繊維、
(II)前記複合繊維と他の繊維を混合したもの、
(III)前記複合繊維と湿熱ゲル化樹脂を混合したもの、及び
(IV)湿熱ゲル化樹脂と他の繊維を混合したもの
から選ばれる少なくとも一つの組み合わせを有する請求項1に記載の水質浄化材。
【請求項7】
前記水質浄化材は不織布であり、
前記粒子固着繊維は、前記不織布の少なくとも一表面に存在している請求項1に記載の水質浄化材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−7002(P2006−7002A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183709(P2004−183709)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】