説明

水質測定装置及びろ過ユニット

【課題】微生物を精度高く検出,計数すること。
【解決手段】水質測定装置1は、ろ過膜を用いて試料水中に含まれる微生物を濃縮、回収する小容量試料濃縮部2と、小容量試料濃縮部2によって回収された微生物に蛍光標識された抗体を結合させる蛍光標識部4aと、光学検出器43を用いて蛍光強度を測定することによって微生物を検出、計数する測定部4bと、を備えている。蛍光標識部4aと測定部4bは、温度制御装置49によって常に同じ温度に制御されている。これにより、蛍光強度が測定時の外部温度の影響で変化することによってSN比が悪化することを抑制できるので、微生物を精度高く検出,計数することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川や湖沼等の環境水や上下水道の各処理プロセスにおける処理水等の原水中に含まれる微生物を検出,計数する水質測定装置及びろ過ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クリプトスポリジウム等の原虫類,腸管出血性大腸菌O157やレジオネラ菌等の細菌,及びウィルス等の微生物による水系感染症の発生が大きな社会問題となっている。水系感染症の発生を防ぐためには、水処理プロセスにおいて微生物をモニタリングすることが重要である。このような背景から、特許出願人は、試料水中に含まれる微生物を膜ろ過によって濃縮し、洗浄液をろ過ユニットに通水することによって膜上に捕捉された微生物を回収し、回収した微生物に蛍光標識された抗体を結合し、蛍光検出器を用いて微生物を検出,計数する水質測定装置を提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−236861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の水質測定装置では、微生物の標識(蛍光)強度が測定時の外部温度の影響で変化することによってSN比が悪化し、微生物を精度高く検出,計数できないことがあった。また、従来の水質測定装置では、試料水を貯留する試料水タンクと洗浄液を貯留する洗浄水タンクとがろ過ユニットより低い位置に設置されている。このため、従来の水質測定装置によれば、ろ過時に必要な圧力が大きくなり、膜に掛かる圧力が変動しやすくなることで、微生物の回収率が変動しやすい。また、従来のろ過ユニットの構成によれば、ろ過膜を逆洗浄する際、逆洗浄時に発生する通常時とは逆方向の洗浄圧力によってろ過膜が損傷、変形することがあった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、微生物を精度高く検出,計数可能な水質測定装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、ろ過膜が損傷、変形することを抑制可能なろ過ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る水質測定装置は、ろ過膜を用いて試料水中に含まれる微生物を回収するろ過部と、前記ろ過部によって回収された微生物に蛍光標識された抗体を結合させる蛍光標識部と、蛍光検出器を用いて蛍光強度を測定することによって前記微生物を検出、計数する測定部と、を備え、前記標識部と前記測定部は、温度制御装置によって常に同じ温度に制御されている。
【0007】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るろ過ユニットは、試料水を供給する配管と、試料水から分離された懸濁液を空気圧によって回収するための加圧及び/又は吸気用の配管と、試料水を回収する配管とが接続される上部フローセルと、洗浄液を供給する配管と、排液を排出する配管とが接続される下部フローセルと、前記上部フローセルと前記下部フローセルとによって挟持された、前記試料水をろ過するろ過膜と、前記上部フローセルと前記ろ過膜との間に配設された、ろ過膜保護用のメッシュを有する封止部材と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る水質測定装置によれば、微生物を精度高く検出,計数することができる。また、本発明に係るろ過ユニットによれば、ろ過膜が損傷、変形することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である水質測定装置の内部構成を示す図である。
【図2】図2は、図1に示す標識/測定ユニットの内部構成を示す図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態である水質測定装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図4】図4は、図3に示すろ過ユニットの構成を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である水質測定装置の構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態である水質測定装置の内部構成を示す図である。図2は、図1に示す標識/測定ユニット4の内部構成を示す図である。図3は、本発明の一実施形態である水質測定装置の構成を示す機能ブロック図である。図4は、図3に示すろ過ユニットの構成を示す分解斜視図である。
【0011】
図1に示すように、本発明の一実施形態である水質測定装置1は、小容量試料濃縮部(1L,平膜ろ過)2,大容量試料濃縮部(10L,セラミック膜ろ過)3,及び標識/測定部4を主な構成要素として備えている。図2に示すように、標識/測定部4は、標識部4aと測定部4bとを備えている。小容量試料濃縮部2は、平膜を用いて試料水から微生物を分離及び濃縮するものである。小容量試料濃縮部2は、図3に示すように、試料水を貯留する小容量試料水タンク21,洗浄液を貯留する洗浄液タンク22,ろ過膜を備えるろ過ユニット23,及び排液を貯留する排液タンク24を備えている。
【0012】
ろ過ユニット23は、図4に示すように、試料水や洗浄液を攪拌する攪拌子230,膜保護と機密性を保つためのメッシュ231aを有する平パッキン231,平膜232,サポート板233,径方向に形成された複数のスリット234aを有する液量調整用部材234,及びOリング235を上部フローセル236a及び下部フローセル236bによって挟持した構成となっている。上部フローセル236aには、小容量試料水タンク21内の試料水を供給する配管237aと、試料水から分離された微生物を含む懸濁液を空気圧によって回収するための加圧及び/又は吸気用の配管237bと、試料水を回収する配管237cとが接続される。下部フローセル236bには、洗浄液タンク22内の洗浄液を供給する配管237dと、排液タンク24に排液を排出する配管237eが接続される。ろ過ユニット23は、小容量試料水タンク21内に貯留されている試料水から微生物を分離する。平膜232上に捕捉された微生物は、洗浄液タンク22内に貯留されている洗浄液を用いて平膜232を逆洗浄することによって回収される。
【0013】
攪拌子230と平膜232との間に介在する平パッキン231には、メッシュ231aが張設されている。このような構成によれば、攪拌子230が平膜232に直接接触することを抑制できるので、逆洗浄の際に攪拌子230の攪拌強度を上げても攪拌子230との接触による平膜232の損傷を防ぐことが可能となり、平膜232上に捕捉された微生物の回収効率を上げることができる。また、逆洗浄時に発生する通常時とは逆方向の洗浄圧力によって平膜232が損傷、変形することを抑制し、システムの安全性を向上できる。また、メッシュ231aは平パッキン231と一体に設けられているので、メッシュ231aと平パッキン231とを別体で設けた場合と比較して、ろ過ユニット23の組み付け作業が容易になる。
【0014】
サポート板233とOリング235との間に介在する液量調整用部材234は、サポート板233と下部フローセル236bとの間に形成される空間を小さくする。また、この液量調整用部材234は、複数のスリット234aを介して洗浄液を供給することによって逆洗浄時に平膜232に供給される洗浄液の液量を一定に制御する。これにより、平膜232上に捕捉された微生物の回収率の再現性を向上させることができる。また、複数のスリット234aは径方向に形成されているので、平膜232の全面に洗浄液が供給され、平膜232上に捕捉された微生物の回収効率を上げることができる。
【0015】
なお、ろ過ユニット23は、平膜232が水平面に対して傾きを有するように配置することが望ましい。ろ過ユニット23を斜めに配置することにより、逆洗浄後、ろ過ユニット23内の洗浄水を全量回収できるので、微生物の回収率及び回収率の再現性を向上させることができる。
【0016】
大容量試料濃縮部3は、セラミック膜31を用いて大容量試料水タンク32内に貯留されている試料水を濃縮して、回収した試料水を小容量試料水タンク21内に注入するものである。図示しない制御装置は、図示しない濁度計によって計測された試料水の濁度値に基づいて、小容量試料濃縮部2又は大容量試料濃縮部3のいずれかに試料水を注入する。例えば、試料水の濁度が20度以上である場合、制御装置は、試料水(沈殿処理水、10L)を大容量試料濃縮部3に注入する。大容量試料濃縮部3によって濁度が所定値以下に処理された試料水を小容量試料濃縮部2に注入することができる。一方、試料水の濁度が所定値(例えば20度)未満である場合には、制御装置は、1Lの試料水を小容量試料濃縮部2に直接注入する。
【0017】
標識部4aは、標識抗体タンク41内に貯留されている蛍光標識された抗体を原虫に結合させる標識装置42を備えている。測定部4bは、蛍光検出器43を用いて試料水中に含まれている微生物を検出,計数し、検出した微生物を回収タンク44内に分取する。光学検出器43は、光源45,フローセル46,及び検出器47を備え、フローセル46内を流れる試料水に例えば波長488nmのレーザー光を照射し、蛍光強度と散乱光とを検出器47で測定することによって、試料水中に含まれている微生物を検出,計数する。
【0018】
このような構成を有する水質測定装置1では、標識部4aと測定部4bとの温度が温度制御装置49によって常に所定の温度に保たれている。このような構成によれば、蛍光強度が測定時の外部温度の影響で変化することによってSN比が悪化することを抑制できるので、微生物を精度高く検出,計数することができる。また、このような構成を有する水質測定装置1では、試料水を貯留する小容量試料水タンク21と洗浄液を貯留する洗浄水タンク22とがろ過ユニット23より高い位置に設置されている。このため、従来の原虫測定装置によれば、ろ過時に必要な圧力が大きくなり、膜に掛かる圧力が変動しやすくなることで、原虫の回収率が変動することを抑制できる。
【0019】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0020】
1 水質測定装置
2 ろ過部
3 試料濃縮部
4 標識/測定部
4a 標識部
4b 測定部
21 小容量試料水タンク
22 洗浄液タンク
23 ろ過ユニット
24 排液タンク
31 セラミック膜
32 大容量試料水タンク
41 標識抗体タンク
42 標識装置
43 光学検出器
44 回収タンク
45 光源
46 フローセル
47 検出器
49 温度制御装置
230 攪拌子
231 平パッキン
231a メッシュ
232 平膜
233 サポート板
234 液量調整用部材
234a スリット
235 Oリング
236a 上部フローセル
236b 下部フローセル
237a〜237e 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過膜を用いて試料水中に含まれる微生物を濃縮、回収する小容量試料濃縮部と、
前記小容量試料濃縮部によって回収された微生物に蛍光標識された抗体を結合させる蛍光標識部と、
光学検出器を用いて蛍光強度を測定することによって前記微生物を検出、計数する測定部と、
を備え、
前記標識部及び前記測定部は、温度制御装置によって常に同じ温度に制御されていること
を特徴とする水質測定装置。
【請求項2】
前記小容量試料濃縮部は、
前記試料水を貯留する小容量試料水タンクと、
前記ろ過膜を用いて前記試料水中に含まれる微生物を回収するろ過ユニットと、
前記ろ過膜を洗浄する洗浄液を貯留する洗浄液タンクと
を備え、
前記小容量試料水タンク及び前記洗浄液タンクは、前記ろ過ユニットよりも高い位置に配置されていること
を特徴とする請求項1に記載の水質測定装置。
【請求項3】
試料水を供給する配管と、試料水から分離された懸濁液を空気圧によって回収するための加圧及び/又は吸気用の配管と、試料水を回収する配管とが接続される上部フローセルと、
洗浄液を供給する配管と、排液を排出する配管とが接続される下部フローセルと、
前記上部フローセルと前記下部フローセルとによって挟持された、前記試料水をろ過するろ過膜と、
前記上部フローセルと前記ろ過膜との間に配設された、ろ過膜保護用のメッシュを有する封止部材と、
を備えることを特徴とするろ過ユニット。
【請求項4】
前記ろ過膜と前記下部フローセルとの間に配設された、前記ろ過膜に供給される洗浄液の流量を調整する液量調整用部材を備えることを特徴とする請求項3に記載のろ過ユニット。
【請求項5】
前記上部フローセル及び前記下部フローセルが、ろ過膜が水平方向に対して傾きを有するように配置されていることを特徴とする請求項3又は4に記載のろ過ユニット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−15512(P2013−15512A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−108183(P2012−108183)
【出願日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】