説明

水質自動測定装置及びその方法

【課題】
高頻度に迅速に微生物の自動測定を行う。
【解決手段】
本発明では、検出対象試料の濁度を測定する濁度計110と、セラミック膜を用いて検出対象試料を分離濃縮する試料濃縮部211と、ろ過膜と、洗浄手段と、回収手段とを有するろ過部200と、濁度に基づいて、検出対象試料を、試料濃縮部211及びろ過部200のいずれかに注入する、切換え部112と、蛍光標識された抗体を、検出対象微生物に結合させる蛍光標識部214と、蛍光微粒子計測機を用いて検出対象微生物を測定する微生物測定部216とを備える、水質自動測定装置100を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を計測する水質自動測定装置及びその方法に関し、特に、河川及び湖沼等の環境水や上下水道の各処理プロセスの処理水等に存在する原虫、細菌、ウイルスといった耐塩素性病原虫を自動計測する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境中には多種多様な化学物質が存在するため、水道原水となる河川や湖沼等の環境水も様々な化学物質で汚染されていると考えられる。しかし、このような水環境の水質問題の他にクリプトスポリジウム等の原虫類、腸管出血性大腸菌O157やレジオネラ菌等の細菌、ウイルス等による水系感染症の発生が大きな社会問題となっている。
【0003】
これらの水系感染症の集団発生を防ぐためには水処理プロセスにおける原因微生物を高頻度にモニタリングすることが必要不可欠である。そして、そのモニタリングの結果を処理プロセスにフィードバックし、環境中に存在する水系感染性微生物を適切に除去、殺菌又は消毒する必要がある。しかし、試料中から微生物を効率よく検出する技術が確立されておらず、環境中にわずかにしか含まれていない病原微生物を検出するために高度な熟練と時間が必要とされている。
【0004】
これに対して、例えば、特許文献1(特開平7−140148号公報)では、測定の高頻度化、自動化、省力化のために、検出対象微生物を選択的に蛍光標識し、試料をフローサイトメーターに連続的に送液し、粒子の蛍光強度から検出対象微生物を検出する方法が開示されている。検出対象微生物を蛍光標識する手段には、検出対象微生物に選択的に結合し、かつ蛍光物質が結合した抗体が用いられる。フローサイトメーターは、粒子の蛍光強度及び粒子の粒径を示す前方散乱光強度、粒子の内部構造を示す側方散乱光強度を測定する分析装置である。蛍光標識した検出対象微生物を検出するとき、検出対象微生物の蛍光強度及び粒径を示す前方散乱光強度の領域をあらかじめ設定しておき、測定した粒子がこの領域に含まれるときには検出対象微生物としてカウントすることによって測定できる。さらに、検出精度を高めるには前述の領域に加え、夾雑物特有の蛍光強度よりも小さいという判定基準を設定することが有効である。
【0005】
しかしながら、環境水中には、地域の特性や降雨等の天候により大きく変動するが、ウイルス、細菌、線虫等の微生物や藻類、フミン酸等の土壌有機物、砂等の無機物といった夾雑物が大量に存在する。このような夾雑物に、前記抗体が非選択的に結合あるいは吸着し、検出対象微生物と同等の蛍光強度及び粒径を示す場合、フローサイトメーターにおいて、このような夾雑物を検出対象微生物として誤ってカウントする恐れがある。特に、測定試料中の粒子(検出対象微生物及び夾雑物)の個数濃度が高くなると、より顕著に現れる恐れがある。
【0006】
また、飲料水中に病原虫が、1Lあたり0.02個以上あると集団感染を引き起こす。通常の凝集沈殿、砂ろ過での除去能力は、3log程度ある。したがって、この除去能力を超えるような個数濃度の病原虫が原水中に混入しているとき、水系感染を引き起こす危険がある。
ここで、この濃度は、20個/L程度と高濃度であるため、少ない検水量でも検査が可能である。よって、高頻度に迅速に自動測定を行うことができれば、浄水プロセスへの反映が可能であり、水系感染を引き起こす危険性を低下させることができる。
【0007】
【特許文献1】特開平7−140148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
耐塩素性病原虫の検査は、大量の試料を用い、前処理に時間と手間が掛かり、さらに顕微鏡での目視検査に時間と労力を要し、検査結果を迅速に水質管理、水処理プロセス管理に適用することが難しい。本発明は、上述の問題点を鑑み、検出対象試料に大量の夾雑物が混入しても、フローサイトメーターにおける検出対象微生物の誤カウントを低減し、検出対象微生物を容易に高精度で検出、計数することができる微生物計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、検出対象微生物を測定する水質自動測定装置であって、該水質自動測定装置は、検出対象試料の濁度を測定する濁度計と、セラミック膜を用いて検出対象試料を分離濃縮する試料濃縮部と、試料濃縮部に接続されたろ過部と、切換え部と、蛍光標識された抗体を検出対象微生物に特異的に結合させる蛍光標識部と、蛍光微粒子計測機を用いて検出対象微生物を測定する微生物測定部とを備える。ここで、ろ過部は、検出対象試料から、検出対象微生物を分離するろ過膜と、ろ過膜上に捕捉された検出対象微生物を、洗浄液を用いて洗浄する洗浄手段と、検出対象微生物を、ろ過側から分散液を注入することによって回収する回収手段とを有する。また、切換え部は、前記濁度に基づいて、試料濃縮部及びろ過器のいずれかに検出対象試料を注入する。
【0010】
さらに、本発明は、別の側面で、検出対象微生物を測定する水質自動測定方法であり、該水質自動測定方法は、検出対象試料の濁度を測定するステップと、濁度に基づいて、試料濃縮部及びろ過部のいずれかに検出対処試料を注入するステップと、セラミック膜を用いて検出対象試料を分離濃縮するステップと、試料濃縮部によって濃縮された試料及び検出対象試料のいずれかから、検出対象微生物を分離するステップと、検出対象微生物に対して特異的に結合する、蛍光標識された抗体を、検出対象微生物に結合させるステップと、ろ過膜上に捕捉された検出対象微生物を洗浄するステップと、ろ過側から分散液を注入することによって、検出対象微生物を回収するステップと、蛍光微粒子計測機を用いて検出対象微生物を測定するステップとを含む。なお、本発明に係る水質自動測定方法は、上記手順で行うことが好ましいが、上記手順に限定されるものではない。
【0011】
また、洗浄液は、蛍光色素を分解しないものであり、蛍光色素と検出対象微生物との結合を解離せず、蛍光色素と検出対象試料に含まれる夾雑物との結合を解離することが好ましい。分散液は、塩濃度が低く、蛍光色素を分解しないものであり、蛍光色素と検出対象微生物との結合を解離せず、蛍光色素と検出対象試料に含まれる夾雑物との結合を解離することが好ましい。ろ過膜は、前記検出対象微生物の粒径よりも小さい孔径を有し、親水性かつ表面が平滑な平膜であることが好ましい。さらに、蛍光微粒子計測機は、フローサイトメトリ法を用いることが好ましい。検出対象試料は、河川や湖沼等から採水されたものであることが好適であり、検出対象微生物及び/又は夾雑物を含むものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水質自動測定装置により、高頻度で迅速に自動測定を行うことができるため、凝集剤注入率の変更や、ろ過濁度の管理強化などの浄水プロセスへの反応が可能となる。また、水系感染リスクを低減させることができる。
【0013】
さらに、本発明の水質自動測定装置は、浄水施設に既設の原水用濁度計の計測情報を受けて、検出対象試料の濁度が20度以上である場合、採水ポートを切り替えて沈殿処理水を採水することができる機能を有する。
【0014】
本発明の水質自動測定装置は、孔径0.1μm〜1μmのセラミック膜を用いて、検出対象試料を分離濃縮し、続いて、PET等の界面活性剤を含む溶液を用いてセラミック膜を逆洗浄することによって、検出対象微生物を回収して後段の測定に供することができる。なお、セラミック膜は、短時間に10L程度の検水を処理することができる。
【0015】
さらに、本発明の水質自動測定装置は、抗体標識後の濃縮試料をろ過部に再度戻す手段を有している。これによって、さらに、洗浄を行うことによって夾雑物に吸着した抗体を除去することができ、測定精度を向上させることが可能である。
【0016】
加えて、本発明の水質自動測定装置は、専用フローサイトメーターにてクリプトが検出されたときは、フローサイトメータ出口の排水流路を切り替えて試料を分取し、後で、精密検査が出来るようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る水質自動測定装置の実施形態について説明する。
図1は、本発明に係る水質自動測定装置の一実施形態を示す。本実施形態の装置は、濁度計110と、試料タンク111と、切換え部112と、試料濃縮部211と、ろ過部200と、洗浄液タンク212と、分散液タンク213と、蛍光標識部214と、廃液タンク215と、微生物測定部216、試料回収タンク217と、ポンプ208と、負圧圧力計221と、正圧圧力計222、バルブ(231〜244)とを備える。
ここで、ろ過部200は、試料タンク111及び試料濃縮部211に接続されている。また、ろ過部200は、ラインL21によって試料タンク111、試料濃縮部211と、洗浄液タンク212と、ラインL22によって洗浄液タンク212及び分散液タンク213と、ラインL23によって廃液タンク215と、ラインL24によって蛍光標識部214と、ラインL25によって微生物測定部216とそれぞれ接続されている。
【0018】
また、上記水質自動測定装置は、測定部分と、計測部分とを切り離して使用することが可能である。測定部分は、濁度計110、試料タンク111、切換え部112、試料濃縮部211、ろ過部200、洗浄液タンク212、分散液タンク213、蛍光標識部214等を備える。計測部分は、微生物測定部216、試料回収タンク217等を備える。
図1の上記構成要素を初めとする装置構成要素の相互の関係は、引き続く図4についての説明で明らかとなる。
なお、本発明に係る水質自動測定装置では、様々な微生物を計測することができる。本実施の形態では、その一例として、クリプトスポリジウムを計測する。
【0019】
濁度計
濁度計110は、検出対象試料の濁度を計測する。濁度計100として、浄水施設に既設の原水用濁度計、例えば、表面散乱光計測方式や透過散乱光計測方式の濁度計を用いる。
【0020】
切換え部
切換え部112は、濁度計が計測した濁度値に基づいて、試料濃縮部211及びろ過部200のいずれかに検出対処試料を注入する。例えば、検出対象試料の濁度が20度以上である場合、当該試料を試料濃縮部211に注入する。これによって、検出対象試料の濁度を、2度以下として、ろ過部200に注入することができる。また、検出対象試料の濁度が20度未満である場合、検出対象試料をろ過部200に直接注入する。
【0021】
試料濃縮部
試料濃縮部211は、セラミック膜を用いて検出対象試料を濃縮する。試料濃縮部211は、検出対象試料の濁度を2度以下とすることができる。なお、濃縮処理時間は、15分程度である。
【0022】
以下、試料濃縮部211の構成について説明する。
図2は、本発明に係る水質自動計測装置に用いる試料濃縮部211について一実施の形態を示す構成図である。
試料濃縮部211は、セラミック膜301と、試料水タンク303と、逆洗回収液タンク305と、エアポンプ307とを備える。セラミック膜301は、孔径0.1μm〜1μmであり、短時間に10L程度の検水を処理することができる。逆洗回収液タンク305は、PET等の界面活性剤を含む溶液を有する。
まず、検出対象試料をセラミック膜301に導入し、検出対象試料を分離濃縮する。ろ過水は廃液処理する。続いて、PET等の界面活性剤を含む溶液を、逆洗回収液タンク305からセラミック膜301に導入して検出対象微生物を回収する。
【0023】
ろ過部
ろ過部は、ろ過膜を用いて検出対象試料から微生物を分離する。ろ過部は、ろ過膜と、洗浄手段と、回収手段とを備える。ろ過膜は、試料濃縮部によって濃縮された試料又は検出対象試料から、検出対象微生物を分離する。洗浄手段は、ろ過膜上に捕捉された検出対象微生物を、洗浄液を用いて洗浄する。回収手段は、ろ過側から分散液を注入することによって、検出対象微生物を回収する。図3に、このようなろ過部200の一実施の形態を説明する。
【0024】
図3に示すように、本実施の形態に係るろ過部200は、その本来の機能を果たすトラックエッチ膜101(以下、ろ過膜101)を備えている。ろ過膜101は、メッシュクロス102を支持体とし、膜固定パッキン103で固定されている。この全体をフローセル上部104とフォローセル下部105とで挟み込んでいる。これによって、膜101を介して試料水とろ液が分離できる構造となる。膜は、試料中のクリプトスポリジウムを捕捉するための親水性でかつ表面が平滑な平膜として孔径2あるいは3μmのトラックエッチフィルター(ワットマン社、商品名ニュークレポアフィルターあるいはミリポア社、アイソポアメンブレンフィルター)を用いることが好適である。クリプトスポリジウム・オーシストの粒径は4〜6μmであり、またトラックエッチフィルターの孔径はプラス0%、マイナス10%の精度を有するため、ほぼ100%でクリプトスポリジウムを平膜上に捕捉することができる。
【0025】
ろ過部200内の圧力変化により、膜101が変形して伸びることがある。これによって、膜101の孔径が広がることがある。したがって、本実施の形態では、試料水の供給圧による膜101の変形を防ぐため、ろ液が流下でき、膜101の形状を保持できる支持体の上に膜101を固定する。支持体としてはメッシュクロス102を用いることができる。例えば、ポリプロピレン製の目開き30メッシュクロス(NBC社)を用いることができる。
【0026】
フローセル上部104には、試料水供給口111と、試料回収口112、蛍光標識口114、試料水から分離された微生物を含む懸濁液を空気圧により回収するための加圧及び/又は吸気口113とが設けられている。フローセル下部105には、ろ液排出口114と、洗浄水供給口115とが設けられている。試料水から分離された微生物を回収するため、試料回収口112及び蛍光標識口114は、下側に傾けた構造であることが望ましい。これにより、クリプトスポリジウムを含む液を試料回収口112及び蛍光標識口114に流下させ、効率よく回収することができる。
【0027】
蛍光標識部
蛍光標識部214は、検出対象微生物に対して特異的に結合する、蛍光標識された抗体を、検出対象微生物に結合させる。蛍光標識部214では、抗原抗体反応を37度で30分行う。
【0028】
微生物測定部
微生物測定部217では、蛍光微粒子計測機を用いて検出対象微生物を測定する。ここで、蛍光微粒子計測機は、例えば、フローサイトメトリを使用することができる。
【0029】
試料回収タンク
試料回収タンクは、検出時において、試料を分取する機能を有する。これによって、例えば、検出した粒子がクリプトスポリジウム・オーシストであるか否かを顕微鏡等で再確認したり、感染性の有無を調べたり、DNA分析により、ウシ型、ヒト型などクリプトの詳細な分析による発生源の推定等が可能となる。
【0030】
続いて、図4に従って、本発明に係る水質自動測定装置を用いた、水質自動測定方法の一実施の形態について説明する。なお、装置の構成要素は図1、図3のものである。
【0031】
まず、濁度計が検出対象試料の濁度を計測する(ステップ401)。次に、切換え部112が、この濁度に基づいて、試料濃縮部211又はろ過部200に検出対象試料を注入する。濁度が20度以上である場合、バルブ242、243、231、234を開き濃縮試料供給流路を形成し、バルブ221を開きエアポンプを作動する(ステップ402)。廃液タンク215内は減圧され、試料濃縮部211も減圧されるため、検出対象試料は、試料濃縮部211に吸引される。セラミック膜が検出対象試料を分離濃縮する(ステップ403)。続いて、濃縮された検出対象試料は、ろ過部200に吸引される。
【0032】
一方で、濁度が20度未満である場合、バルブ241、231、234を開き試料供給流路を形成し、バルブ221を開きエアポンプ208を作動する(ステップ404)。廃液タンク215内は減圧され、ろ過部200も減圧されるため、検出対象試料はろ過部200内に吸引される。
【0033】
ろ液は膜101を透過し、ろ液排出口114から廃液タンク215内に排出される。ここで、廃液タンク215は耐圧性のものを使用することが望ましい。このとき、エアポンプ208による吸引圧力は負圧圧力計PS1で測定される。膜の破断圧力は、69kPaである。したがって、安全をみて、吸引圧力が45〜50kPaになるようにエアポンプの運転を制御する。これにより試料水は一定圧力でろ過される。また、例えば、試料中の鋭利な粒子が膜を傷つけて膜が破断した場合、45〜50kPaに制御されていた吸引圧力が正圧側に急激に変化するため、この圧力変動をモニタすることで試料調整の運転中止を判断することができる。
【0034】
検出対象試料のろ過が終了したら、エアポンプ208を停止し、バルブ221、234、231、241を閉じ、バルブ235を開き、配管内を大気開放として残圧を除く(ステップ405)。大気に開放した後、バルブを初期の状態に戻す。
【0035】
次に、洗浄液をろ過部200内に通水し、ろ過部200及び膜101上に捕捉された夾雑物を洗い流す。バルブ232、234を開き洗浄水供給流路を形成し、バルブ221を開きエアポンプ208を作動させる(ステップ406)。廃液タンク213内は減圧され、ろ過部内も減圧されるため洗浄水タンク212の洗浄水はろ過部200内に吸収される。洗浄水は膜101を透過し、ろ液排出口114から廃液タンク214内に排出される。同様に、エアポンプ208による吸引圧力は負圧圧力計PS1で測定される。膜の破断圧力は69kPaであるので安全をみて、吸引圧力が45〜50kPaになるようにエアポンプ208の運転を制御する。
【0036】
上記洗浄液は、蛍光色素を分解しないものであり、蛍光色素と検出対象微生物との結合を解離せず、蛍光色素と夾雑物との結合を解離するものである必要がある。
すなわち、洗浄液は、弱アルカリ性であって、界面活性剤及び高濃度塩を含むものであることが最も好適である。
【0037】
一定の洗浄時間が経過した後、エアポンプ208を停止し、バルブ232、234、221を閉じ、バルブ235を開き、配管内を大気開放とし残圧を除く(ステップ407)。大気に開放した後、バルブを初期の状態に戻す。一定の洗浄時間は、廃液のpHが中性付近になるまでの時間を予め測定することによって決定される。
【0038】
続いて、バルブ244、238を開き蛍光標識流路を形成し、バルブ222を開きエアポンプ208を作動させる(ステップ408)。これにより、ろ過部200の加圧及び/又は吸気口からエアが供給され、ろ過部200は加圧され、ろ過部200内に溜まったクリプトスポリジウムを含む溶液は、蛍光標識部214に圧送される。このとき試料回収口のチューブは膜101上の直上まで接近し、ろ過部200も試料回収口側に傾いており、溶液が試料回収口に溜まっていることが望ましい。
【0039】
蛍光標識部214では、検出対象微生物に対して特異的に結合する、蛍光標識された抗体を、検出対象微生物に結合させる(ステップ409)。抗原抗体反応は、37℃において30分以上、あるいは室温において1時間以上で行われる。抗体は、クリプトスポリジウム標識抗体を用いる。クリプトスポリジウム標識抗体は、例えば、イージーステインFITC(和光純薬)等を用いることが好適である。
【0040】
蛍光色素は、フルオレセントイソチオシアネート(FITC)が好適である。FITCは、pH9〜10で最も蛍光強度が高く、酸性になると蛍光強度が低下する。また、極性有機溶媒とカオトロピック試薬は反応性が高く、FITCを変性あるいは分解する恐れがある。このため、本発明では、洗浄液はpH10付近であり、極性有機溶媒とカオトロピック試薬を用いないことが好ましい。
【0041】
また、界面活性剤は、標識抗体の非特異結合を防ぐために用いられる。さらに、界面活性剤は、測定試料の微粒子の分散性を向上させるためにも用いられる。
採用することができる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤等を挙げることができる。具体的には、例えば、Tween80、ポリエチレングリコールモノ−p−イソオクチルフェニルエーテル(Triton X−100)、ポリオキシエチレンソスビタンモノラウレート(Tween20)、ノニデットP−40(Nonidet P−40)、n−テトラデシル−N、N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルフォネート(ZWITTERGENT3−40)、3−((3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ))プロパンスルホン酸(CHAPS)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)から選択される少なくとも一を使用することが好ましいが、これに限定されない。
採用することができる塩としては、抗体の疎水的結合を弱める塩が好適である。例えば、NaCl,MgCl等を用いることが好ましい。濃度は、1M〜3Mの高濃度で含まれることが好ましい。
また、弱アルカリ性の数値範囲としては、pH9〜10が好適である。
後の実施例で確認されるように、洗浄液として、pH10の100mMグリシン緩衝液に、0.01%のTween80及び2MのNaClを添加したものを使用することが好ましい。
【0042】
次に、バルブ244、234を開き再洗浄回路を形成し、バルブ221を開きエアポンプ208を作動させ、再び検出対象試料をろ過する(ステップ410)。その後、エアポンプ208を停止し、バルブ244、234、221を閉じ、バルブ235を開き、配管内を大気開放とし残圧を除く(ステップ411)。
【0043】
再び、洗浄水供給流路を形成し、バルブ221を開きエアポンプ208を作動させる(ステップ412)。洗浄水が膜101を透過し、膜101上のフリーの蛍光色素等の不要物を廃液タンク214に排出する。
【0044】
一定の洗浄時間が経過した後、エアポンプ208を停止し、バルブ232、234、221を閉じ、バルブ235を開き、配管内を大気開放とし残圧を除く(ステップ413)。大気に開放した後、バルブを初期の状態に戻す。一定の洗浄時間は、廃液のpHが中性付近になるまでの時間を予め測定することによって決定される。
【0045】
次に、バルブ239、237を開き分散液供給流路を形成し、バルブ221を開きエアポンプ208を作動させる(ステップ414)。これにより、膜101上に捕捉されていた検出対象微生物を、分散液中に分散させる。その後、エアポンプ208を停止し、バルブ239、237、221を閉じ、バルブ238を開き、配管内を大気開放とし残圧を除く(ステップ415)。大気に開放した後、バルブを初期の状態に戻す。
採用することができる分散液は、塩濃度が低く、蛍光色素を分解しないものであり、当該蛍光色素と前記検出対象微生物との結合を解離せず、当該蛍光色素と夾雑物との結合を解離するものである必要がある。組成は、上記洗浄液に対し、金属塩が含まれていないか、含まれていたとしても低濃度(好適には、検出限界以下)である必要がある。
採用することができる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤等を挙げることができる。具体的には、例えば、Tween80、ポリエチレングリコールモノ−p−イソオクチルフェニルエーテル(Triton X−100)、ポリオキシエチレンソスビタンモノラウレート(Tween20)、ノニデットP−40(Nonidet P−40)、n−テトラデシル−N、N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルフォネート(ZWITTERGENT3−40)、3−((3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ))プロパンスルホン酸(CHAPS)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)から選択される少なくとも一を使用することが好ましいが、これに限定されない。
また、弱アルカリ性の数値範囲としては、pH9〜10が好適である。
後の実施例で確認されるように、分散液として、pH10の100mMグリシン緩衝液に、0.01%のTween80を添加したものを使用することが好ましい。
【0046】
続いて、バルブ236、238を開き試料回収流路を形成し、バルブ222を開きエアポンプ208を作動させる(ステップ416)。これにより、ろ過部の加圧及び/又は吸気口からエアが供給され、ろ過部200は加圧され、ろ過部内に溜まったクリプトスポリジウムを含む溶液は、微生物測定部216に圧送される。このとき試料回収口のチューブは膜101上の直上まで接近し、ろ過部200も試料回収口側に傾いており、溶液が試料回収口に溜まっていることが望ましい。
【0047】
クリプトスポリジウムを含む溶液を回収したら、エアポンプ208を停止し、バルブ238、236、222を閉じ、バルブ238を開き、配管内を大気開放とし残圧を除く(ステップ417)。大気開放した後、バルブを初期の状態に戻す。続いて、微生物測定部216が、検出対象微生物を計測する(ステップ418)。
【実施例1】
【0048】
本発明者らは、図1〜3に示した装置を用い、図4に示す手順に従って、蛍光標識したクリプトスポリジウムに対し、使用した洗浄液が蛍光強度に及ぼす影響について検証した。
【0049】
図5(a)は、洗浄を行わずに、蛍光標識したクリプトスポリジウムを計測したときの2次元プロットを示すグラフである。縦軸は、FITCの蛍光強度、横軸は前方散乱光強度である。また、図中の囲みは、蛍光標識したクリプトスポリジウムが分布する領域を示す。図5(b)は、1%PETを用いて洗浄した後、蛍光標識したクリプトスポリジウムを蛍光微粒子計測したときの2次元プロットである。同様に、図5(c)は、pH10の100mMグリシン緩衝液に、0.01%Tween80を添加した洗浄液を用いた2次元プロットグラフであり、図5(d)は、pH10の100mMグリシン緩衝液に、0.01%Tween80及び2MのNaClを添加した洗浄液を用いた2次元プロットグラフである。
以上から、洗浄液による標識したクリプトスポリジウムの蛍光強度への影響がないことが明らかとなった。
【実施例2】
【0050】
次に、本発明者らは、図1〜3に示した装置を用い、図4に示す手順に従って、多摩川、相模川、津田川から採水した試料を測定した。なお、濃縮試料の個数濃度を1×10個/mlに調節した。
図6は、多摩川から採水した試料をフローサイトメーター217で計測したときの2次元プロットグラフを示す。図6(a)は、未標識の濃縮試料を測定したものであり、図6(b)は、蛍光標識したクリプトスポリジウムを含む濃縮試料を測定したものである。また、図6(c)は、蛍光標識したクリプトスポリジウムを含む濃縮試料を1%PETを用いて洗浄したものである。洗浄により夾雑物のベースが未標識レベルまで低減していることが確認できた。また、図6(d)は、蛍光標識したクリプトスポリジウムを含む濃縮試料をpH10の100mMグリシン緩衝液に、0.01%Tween80を添加した洗浄液を用いた2次元プロットグラフであり、図6(d)は、蛍光標識したクリプトスポリジウムを含む濃縮試料をpH10の100mMグリシン緩衝液に、0.01%Tween80及び2MのNaClを添加した洗浄液を用いた2次元プロットグラフである。
【0051】
同様に、図7(a)〜(d)は、相模川から採水した試料をフローサイトメーター217で計測したときの2次元プロットグラフである。また、図8(a)〜(d)は、中津川から採水した試料を計測したときの2次元プロットグラフである。
【0052】
以上の結果より、蛍光抗体標識を行わない濃縮試料では、クリプトスポリジウムと判定される粒子の領域、すなわち、横軸(前方散乱光強度)と縦軸(蛍光散乱光強度(緑))の四角で囲まれた領域において、蛍光粒子が存在していなかった(図7(a)、図8(a))。
また、蛍光標識抗体にて標識操作を行った濃縮試料では、濃縮試料中に含まれるクリプト以外の夾雑粒子に蛍光標識抗体が非特異的に吸着し、クリプトスポリジウムと判定される粒子の領域入り込む粒子が存在していた(図7(a)、図8(b))。
蛍光標識抗体が非特異的に吸着する夾雑粒子はクリプトスポリジウム計数上、プラスの誤差を与える原因となるが、クリプトスポリジウムと抗体の結合力と比較して、夾雑粒子と抗体との吸着力は弱い。このため、クリプトスポリジウムを含む濃縮試料を蛍光抗体標識後、再度、分離濃縮部にて洗浄することにより、夾雑粒子に非特異的に吸着した蛍光標識抗体が遊離して洗浄、除去されるので、クリプトスポリジウムと判定される領域に入り込む粒子が無くなり、クリプトスポリジウムの測定精度を向上させることができた(図7(c)〜(e)、図8(c)〜(e))。さらに、以上の結果より、(d)または(e)の洗浄液組成が好ましいことがわかった。
よって、本発明に係る水質自動測定装置は、多摩川以外の河川水を用いても同様の結果を得ることができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る水質自動計測装置について一実施の形態を示す構成図である。
【図2】本発明に係る水質自動計測装置に用いる試料濃縮部について一実施の形態を示す構成図である。
【図3】本発明に係る水質自動計測装置に用いるろ過器について一実施の形態を示す概略図である。
【図4】本発明に係る水質自動計測方法の実施を示すフローチャートである。
【図5】本発明に係る微生物計測装置を用いて、蛍光標識クリプトスポリジウムを計測したときの2次元プロットで示したグラフである。
【図6】本発明に係る微生物計測装置を用いて、多摩川から採取された試料から蛍光標識クリプトスポリジウムを計測したときの2次元プロットで示したグラフである。
【図7】本発明に係る微生物計測装置を用いて、相模川から採取された試料から蛍光標識クリプトスポリジウムを計測したときの2次元プロットで示したグラフである。
【図8】本発明に係る微生物計測装置を用いて、中津川から採取された試料から蛍光標識クリプトスポリジウムを計測したときの2次元プロットで示したグラフである。
【符号の説明】
【0054】
110 濁度計
111 試料タンク
112 切換え部
211 試料濃縮部
200 ろ過部
212 洗浄液タンク
213 分散液タンク
214 蛍光標識部
215 廃液タンク
216 微生物測定部
217 試料回収タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象試料の濁度を測定する濁度計と、
セラミック膜を用いて、前記検出対象試料を分離濃縮する試料濃縮部と、
前記試料濃縮部に接続されたろ過部であって、前記検出対象試料から、検出対象微生物を分離するろ過膜と、該ろ過膜上に捕捉された当該検出対象微生物を、洗浄液を用いて洗浄する洗浄手段と、当該検出対象微生物を、ろ過側から分散液を注入することによって回収する回収手段とを有する、ろ過部と、
前記濁度に基づいて、前記試料濃縮部及び前記ろ過部のいずれかに前記検出対象試料を注入する、切換え部と、
前記検出対象微生物に対して特異的に結合する、蛍光標識された抗体を、前記検出対象微生物に結合させる蛍光標識部と、
蛍光微粒子計測機を用いて前記検出対象微生物を測定する微生物測定部と
を備える、水質自動測定装置。
【請求項2】
前記洗浄液は、前記蛍光色素を分解しないものであり、当該蛍光色素と前記検出対象微生物との結合を解離せず、当該蛍光色素と前記検出対象試料に含まれる夾雑物との結合を解離するものである請求項1に記載の水質自動測定装置。
【請求項3】
前記分散液は、塩濃度が低く、蛍光色素を分解しないものであり、当該蛍光色素と前記検出対象微生物との結合を解離せず、当該蛍光色素と前記検出対象試料に含まれる夾雑物との結合を解離するものである請求項1に記載の水質自動測定装置。
【請求項4】
前記ろ過膜が、前記検出対象微生物の粒径よりも小さい孔径を有することを特徴とする請求項1に記載の水質自動測定装置。
【請求項5】
前記ろ過膜が、親水性かつ表面が平滑な平膜であることを特徴とする請求項1に記載の水質自動測定装置。
【請求項6】
前記蛍光微粒子計測機が、フローサイトメトリ法を用いることを特徴とする請求項1に記載の水質自動測定装置。
【請求項7】
前記検出対象微生物が、クリプトスポリジウムである請求項1に記載の水質自動測定装置。
【請求項8】
濁度計が検出対象試料の濁度を測定するステップと、
切換え部が、前記濁度に基づいて、試料濃縮部及びろ過部のいずれかに前記検出対処試料を注入するステップと、
前記試料濃縮部が、セラミック膜を用いて前記検出対象試料を分離濃縮するステップと、
ろ過膜が、前記試料濃縮部によって濃縮された試料及び前記検出対象試料のいずれかから、検出対象微生物を分離するステップと、
蛍光標識部が、前記検出対象微生物に対して特異的に結合する、蛍光標識された抗体を、前記検出対象微生物に結合させるステップと、
洗浄手段が、前記ろ過膜上に捕捉された前記検出対象微生物を、洗浄液を用いて洗浄するステップと、
回収手段が、ろ過側から分散液を注入することによって、前記検出対象微生物を回収するステップと、
微生物測定部が、前記検出対象微生物を測定するステップと
を含む、水質自動測定方法。
【請求項9】
前記洗浄液は、前記蛍光色素を分解しないものであり、当該蛍光色素と前記検出対象微生物との結合を解離せず、当該蛍光色素と前記検出対象試料に含まれる夾雑物との結合を解離するものである請求項7に記載の水質自動測定方法。
【請求項10】
前記分散液は、塩濃度が低く、蛍光色素を分解しないものであり、当該蛍光色素と前記検出対象微生物との結合を解離せず、当該蛍光色素と前記検出対象試料に含まれる夾雑物との結合を解離するものである請求項7に記載の水質自動測定方法。
【請求項11】
前記ろ過膜が、前記検出対象微生物の粒径よりも小さい孔径を有することを特徴とする請求項7に記載の水質自動測定方法。
【請求項12】
前記ろ過膜が、親水性かつ表面が平滑な平膜であることを特徴とする請求項7に記載の水質自動測定方法。
【請求項13】
前記蛍光微粒子計測機が、フローサイトメトリ法を用いることを特徴とする請求項7に記載の水質自動測定方法。
【請求項14】
前記微生物が、クリプトスポリジウムである請求項7に記載の水質自動測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−236861(P2010−236861A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81792(P2009−81792)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】