説明

水質評価方法及び水質評価装置

【課題】低コストで的確な水質評価が可能な水質評価方法を提供する。
【解決手段】本実施形態に係る水質評価方法は、試料水中に含まれる蛍光トレーサーの濃度を測定することで前記試料水の水質を評価する水質評価方法において、励起光を試料水に照射する励起光照射工程と、励起光によって試料水から発せられる蛍光の強度を測定する蛍光強度測定工程(S1)と、励起光によって試料水から発せられる蛍光のうち、蛍光トレーサーの蛍光スペクトルにおける所定の補正用波長領域での蛍光の強度を測定する補正用蛍光強度測定工程(S2)と、補正用蛍光強度測定工程の測定値に基づいて、蛍光トレーサー以外の物質から発せられるバックグラウンド蛍光値を算出することで、蛍光強度測定工程の測定値の補正を行う補正工程(S5〜S7)と、を備える

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料水の水質を評価する水質評価方法に関し、特に、蛍光物質を用いて水質を評価する水質評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場等で用いられる水の水質を管理するために、水に含まれる所定物質の濃度を測定して水質を評価する方法が提供されている。例えば、下記特許文献1には、試料水中に含まれる蛍光物質(LAS:直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩)の蛍光強度を測定することで、水質を測定する装置が開示されている。
【0003】
特許文献1では、波長の異なる第1の励起光及び第2の励起光を試料水に照射し、各励起光によって試料水が発する、波長の異なる第1の蛍光及び第2の蛍光の強度を測定し、試料水の水質を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−30839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、蛍光物質は、特定波長の励起光を吸収して蛍光としてエネルギーを放出する物質であり、蛍光物質によって蛍光を発生するのに適した励起光の波長が異なる。したがって、励起光として波長の異なる励起光を用いると、異なる蛍光物質が各励起光に反応して蛍光を発している場合も発生しうるため、的確な水質評価が困難になってしまう。また、励起光源として、励起波長の異なる二種類の光源を準備する必要があるため、コストも上昇してしまう。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、低コストで的確な水質評価が可能な水質評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る水質評価方法は、試料水中に含まれる蛍光トレーサーの濃度を測定することで試料水の水質を評価する水質評価方法において、励起光を試料水に照射する励起光照射工程と、励起光によって試料水から発せられる蛍光の強度を測定する蛍光強度測定工程と、励起光によって試料水から発せられる蛍光のうち、蛍光トレーサーの蛍光スペクトルにおける所定の補正用波長領域での蛍光の強度を測定する補正用蛍光強度測定工程と、補正用蛍光強度測定工程の測定値に基づいて、蛍光トレーサー以外の物質から発せられるバックグラウンド蛍光値を算出することで、蛍光強度測定工程の測定値の補正を行う補正工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る水質評価装置は、試料水中に含まれる蛍光トレーサーの濃度を測定することで試料水の水質を評価する水質評価装置において、励起光を照射する光源と、励起光によって試料水から発せられる蛍光の強度を測定する蛍光センサと、励起光によって試料水から発せられる蛍光のうち、蛍光トレーサーの蛍光スペクトルにおける所定の補正用波長領域での蛍光の強度を測定する補正用蛍光センサと、補正用蛍光センサの測定値に基づいて、蛍光トレーサー以外の物質から発せられるバックグラウンド蛍光値を算出することで、蛍光センサの測定値の補正を行う制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る水質評価方法によれば、同じ励起光を用いて蛍光強度と補正用蛍光強度を測定することで、低コストで的確な水質評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る水質評価装置の構成を概略的に示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係るバックグラウンド蛍光値を算出する際に用いるバックグラウンド補正用検量線を示す図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態に係る水質評価の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】図4は、本発明の実施形態に係る冷却塔循環水の蛍光スペクトルを示す図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態に係る蛍光トレーサーの入っていない循環水及び蛍光トレーサー入り循環水の蛍光スペクトルを対比して示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施形態に係るバックグラウンド補正用検量線の求め方を示すフローチャートである。
【図7】図7は、本発明の実施形態に係るバックグラウンド補正用検量線を算出するためのデータ表である。
【図8】図8は、本発明の実施形態に係るバックグラウンド補正の検証結果を示すデータ表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る水質評価方法及び水質評価装置について説明する。まず、図1及び図2を参照しながら、水質評価装置の構成について説明する。本実施形態では、熱交換器の一種である冷却塔の循環水の水質を、蛍光トレーサーを用いて評価する水質評価装置を例に挙げて説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る水質評価装置の構成を概略的に示す模式図である。図2は、本実施形態に係るバックグラウンド蛍光値を算出する際に用いるバックグラウンド補正用検量線を示す図である。
【0013】
図1に示すように、水質評価装置1は、蛍光センサ20、補正用蛍光センサ30、ガラス40、制御装置42、及び配線45を備えている。この水質評価装置1は、冷却塔の循環水が循環する流路50上に設置され、循環水の水質を評価する。
【0014】
具体的には、冷却塔の循環水中に入れられる薬品の中に予め蛍光トレーサーを入れておき、水質評価装置1により循環水中の蛍光トレーサーの濃度を測定する。このトレーサーの濃度から、薬品濃度を算出することができ、算出結果に基づきながら薬品を加えることで、循環水中の薬品濃度を管理することができる。なお、本実施形態では、蛍光トレーサーとして、PTSA(1,3,6,8−ピレンテトラスルホン酸)を用いる。
【0015】
蛍光センサ20及び補正用蛍光センサ30は、蛍光センサ20を上流側にして流路50上に直列に設置されており、流路50内を流れる循環水の蛍光強度を測定する。なお、補正用蛍光センサ30が上流側に設置されても良い。蛍光センサ20は、励起光源21、受光素子23及び光学フィルターA25を備えている。
【0016】
励起光源21は、蛍光トレーサーから蛍光を発生させるための励起光を発する光源であり、本実施形態では、発光素子としてピーク波長が355nmの発光特性を有するLED(Light Emitting Diode)が用いられている。励起光源21は、流路50に面して設置されており、流路50内を流れる循環水に対して励起光を照射する。
【0017】
受光素子23は、蛍光トレーサーが発する蛍光を受光するための素子であり、流路50に面して設置されている。また、受光素子23は、受光領域が360〜440nm、ピーク波長が400nmの受光特性を有する受光素子(Photodiode)が使用されている。
【0018】
光学フィルターA25は、特定の波長成分をカットする光学フィルターであり、短波長及び長波長の両方の波長領域の波長をカットする機能を有している。このような構成の受光素子23からは、受光した蛍光の強度に応じた電流が蛍光強度として出力される。
【0019】
補正用蛍光センサ30は、励起光源31、受光素子33及び光学フィルターB35を備えており、励起光源31は、上記蛍光センサ20と同じ構成であり、受光素子33及び光学フィルターB35は、上記蛍光センサ20より長波長領域の蛍光を受光する点が異なる。受光素子33は、受光領域が400〜560nmの受光特性を有し、光学フィルターB35は、450nmより短い波長領域の波長をカットする機能を有している。
【0020】
もちろん、補正用蛍光センサ30の励起光源31の特性と、蛍光センサ20の励起光源21の特性は、全く同一である必要はなく、略同一であれば良い。例えば、ピーク波長が数nmずれていても、本実施形態では同じ構成として扱われる。
【0021】
ガラス40は、蛍光センサ20及び補正用蛍光センサ30の先端部において、上述した励起光や蛍光を透過させる。
【0022】
制御装置42は、蛍光センサ20及び補正用蛍光センサ30を制御するための装置であり、種々の演算を行う演算装置43と、種々の情報を記録しておく記憶装置44を備えている。制御装置42は、配線45によって、蛍光センサ20の励起光源21及び受光素子23や、補正用蛍光センサ30の励起光源31及び受光素子33と接続されている。
【0023】
制御装置42は、補正用蛍光センサ30で測定された補正用蛍光センサ測定値に基づいて、蛍光センサ20で測定された蛍光センサ測定値を補正(バックグラウンド補正)する機能を有している。制御装置42の補正処理においては、図2に示す検量線が用いられ、このバックグラウンド補正用検量線の回帰式が記憶装置44に記録されている。
【0024】
このバックグラウンド補正用検量線は、後述する補正用波長領域(450〜560nm)での蛍光の強度と、バックグラウンド蛍光値との相関を示しており、補正用蛍光センサ30で測定された補正用蛍光センサ測定値(補正用測定蛍光強度)をx、蛍光センサ20で測定された蛍光センサ測定値(測定蛍光強度)を補正するための補正値(算出バックグラウンド蛍光値)をyとして、下記式(1)によって表される。
y=0.5414x−0.1575 式(1)
【0025】
なお、この補正値yは、循環水中に含まれる蛍光トレーサー以外の物質から発せられる蛍光の強度(バックグラウンド蛍光値)であり、蛍光センサ20で測定された蛍光センサ測定値(測定蛍光強度)から上述の算出バックグラウンド蛍光値を減算する補正を行うことで、循環水中の蛍光トレーサーの濃度を的確に求めることができる。
【0026】
以上、水質評価装置1の構成について説明したが、続いて、水質評価装置1における水質評価方法について詳細に説明する。図3は、本実施形態に係る水質評価の処理手順を示すフローチャートである。
【0027】
同図に示すように、まず、S1及びS2において、蛍光センサ20及び補正用蛍光センサ30により、蛍光強度の測定をそれぞれ行う。蛍光センサ20で測定された蛍光センサ測定値は、S3において、蛍光センサ20から制御装置42へと送られる。補正用蛍光センサ30で測定された補正用蛍光センサ測定値は、S4において、補正用蛍光センサ30から制御装置42へと送られる。
【0028】
続いて、S5に進み、制御装置42において、演算装置43が、S4で取得した補正用蛍光センサ測定値を上記式(1)に算入して、補正値である算出バックグラウンド蛍光値を求める(S6)。S7では、S3で取得した蛍光センサ測定値から上記補正値である算出バックグラウンド蛍光値を減算し、補正済み測定蛍光強度を算出する。
【0029】
そして、S8では、蛍光トレーサーのみから発せられる蛍光強度である補正済み測定蛍光強度から蛍光トレーサーの濃度を算出する。このように、循環水中に含まれる蛍光トレーサーの濃度を検出することで、循環水に加えられた薬品濃度を把握することができる。なお、薬品濃度の管理にあたっては、S8のように蛍光トレーサーの濃度に変換することなく、補正済み測定蛍光強度の値に基づいて水質管理を行うようにしても良い。
【0030】
以上、本実施形態に係る水質評価装置1によれば、循環水中の蛍光トレーサーの濃度測定において、蛍光トレーサー以外の物質から発せられるバックグラウンド蛍光値を精度良く算出することができ、蛍光センサ20で測定された蛍光センサ測定値から、算出されたバックグラウンド蛍光値を減算することで、蛍光トレーサーの蛍光強度(濃度)を正確に測定することが可能となる。
【0031】
また、本実施形態においては、蛍光センサ20と補正用蛍光センサ30とで同じ波長の励起光源21,31を用いており、同じ蛍光物質に両光源21,31の励起光を当てた場合には、同じ蛍光反応を示すため、両センサ20,30で異なる波長の光源を使用する場合と比較して、高精度な蛍光強度の測定やバックグラウンド補正が可能となる。
【0032】
なお、本実施形態では、蛍光センサ20及び補正用蛍光センサ30は、それぞれ独立した励起光源21,31を備えるが、両センサ20,30で同一の励起光源を共用するように構成しても良い。
【0033】
次に、上述したバックグラウンド補正用検量線によってバックグラウンド蛍光値の算出ができる理由について、図4及び図5を参照しながら、説明する。図4は、蛍光トレーサーを入れていない状態の10種類の循環水サンプルに対して蛍光強度の測定を行った結果を実線で示している。同図に示すように、蛍光トレーサーを入れていない状態の循環水の蛍光強度(バックグラウンド蛍光値)は、蛍光強度の大小に関係なく、全てのサンプルで相似したスペクトルを示している。
【0034】
図5は、所定のサンプルについて、蛍光トレーサーを入れる前と後の循環水の蛍光スペクトルを示している。同図では、蛍光トレーサーの入っていない循環水の蛍光スペクトルを二点鎖線、蛍光トレーサー入り循環水の蛍光スペクトルを実線で示している。
【0035】
ここで、実線で示す蛍光トレーサー入り循環水の蛍光スペクトルは、水や微生物等の蛍光トレーサー以外の物質の蛍光スペクトルと、蛍光トレーサーの蛍光スペクトルとが合わさった蛍光スペクトルとなっている。
【0036】
したがって、蛍光トレーサーのみの蛍光スペクトルは、実線で示す蛍光トレーサー入り循環水の蛍光スペクトルから二点鎖線で示す蛍光トレーサーの入っていない循環水の蛍光スペクトルを減算したスペクトルとなる。図5では、この蛍光トレーサーのみの蛍光スペクトルを一点鎖線で示している。
【0037】
図5に示すように、この蛍光トレーサーのみの蛍光スペクトルは、450nmよりも長波長領域では極端に蛍光強度が低下しており、この長波長領域では、蛍光トレーサー以外の物質による蛍光スペクトルが大部分を占めている。すなわち、実線で示される蛍光トレーサー入り循環水の蛍光スペクトルは、450nmよりも長波長領域(以下、補正用波長領域とする)では、二点鎖線で示される循環水の蛍光スペクトルと略一致している。
【0038】
したがって、蛍光トレーサー入り循環水の補正用波長領域における蛍光強度を測定すれば、蛍光トレーサーの入っていない循環水の補正用波長領域における蛍光強度と略同じ測定値を得ることができる。なお、補正用蛍光センサ30においては、受光素子33の受光特性により、蛍光強度の測定上限波長が560nmである。よって、本実施形態における実質的な補正用波長領域は、450〜560nmとなる。
【0039】
一方、図4に示したように、蛍光トレーサーの入っていない循環水の蛍光スペクトルは、サンプルが異なってもスペクトル形状が相似している。したがって、蛍光トレーサー入り循環水の蛍光スペクトルのうち補正用波長領域(450〜560nm)における蛍光強度の値と、蛍光トレーサーの入っていない循環水の380〜560nmにおける蛍光強度の値とを予め対応付けておくことで、蛍光トレーサーの入っていない循環水における蛍光強度の値、すなわち、蛍光トレーサー以外の物質から発せられる蛍光強度の値(バックグラウンド蛍光値)を高精度に算出することが可能である。
【0040】
続いて、上述したバックグラウンド補正において用いられる図2に示したバックグラウンド補正用検量線の求め方について図6及び図7を参照しながら説明する。図6は、本実施形態に係るバックグラウンド補正用検量線の求め方を示すフローチャートである。図7は、バックグラウンド補正用検量線を算出するためのデータ表を示している。
【0041】
まず、S10において、蛍光トレーサー濃度[μg/kg]が既知の循環水のサンプルを準備する。図7に示すように、本実施形態では、蛍光トレーサーの濃度が7種類のサンプルA〜Gを用いた。
【0042】
続いて、S11では、蛍光トレーサー標準液を蒸留水で希釈することにより数種類の蛍光トレーサー濃度に調整した蛍光トレーサー標準溶液を準備し、これら蛍光トレーサー標準溶液の標準蛍光強度[V]を測定する。そして、この標準蛍光強度[V]から蛍光トレーサー濃度を判定するための検量線Aを作成しておく。
【0043】
次に、S12では、上記サンプルA〜Gの測定蛍光強度[V]を蛍光センサ20により測定する。引き続き、S13では、これらサンプルの補正用波長領域での蛍光の強度である補正用測定蛍光強度[V]を補正用蛍光センサ30により測定する。
【0044】
S14では、各サンプルの蛍光トレーサーの濃度から上述の検量線Aに基づいて各サンプルの計算蛍光強度[V]を算出する。続いて、S15では、S12で測定した測定蛍光強度から、S14で算出した計算蛍光強度を減算し、計算バックグラウンド蛍光値[V]を算出する。
【0045】
検量線Aから求められる計算蛍光強度は、バックグラウンド蛍光を発する物質が無い状態の計算上の蛍光強度であり、測定蛍光強度は、バックグラウンド蛍光物質がある状態の実測の蛍光強度である。よって、S15で求める計算バックグラウンド蛍光値は、各サンプルのバックグラウンド蛍光値を高精度に算出した値となる。
【0046】
このようにして、各サンプルについて測定又は計算により算出した測定蛍光強度、補正用測定蛍光強度、計算蛍光強度及び計算バックグランド蛍光値について、図7に示す。そして、S16では、各サンプルの補正用測定蛍光強度と計算バックグラウンド蛍光値とを対応付けることにより図2に示すバックグラウンド補正用検量線を作成することができる。
【0047】
このバックグラウンド補正用検量線を用いることで、補正用波長領域における補正用蛍光強度の測定値から、蛍光トレーサー以外の物質から発せられるバックグラウンド蛍光強度の算出値を高精度に求めることが可能となる。
【0048】
次に、本実施形態に係るバックグラウンド補正用検量線を利用して測定蛍光強度を補正した補正済み測定蛍光強度が、どの程度正確に蛍光トレーサーの濃度を表しているかを、上記サンプルA〜Gの蛍光トレーサー濃度との対比により検証した。
【0049】
まず、各サンプルについて、バックグラウンド補正用検量線を用いて、補正用測定蛍光強度[V]から算出バックグラウンド蛍光値[V]を求めた。そして、この算出バックグラウンド蛍光値を測定蛍光強度[V]の値から減算して、補正済み測定蛍光強度[V]を算出した。さらに、この補正済み測定蛍光強度から検量線Aを用いて、各サンプルの計算蛍光トレーサー濃度を求めた。結果を図8に示す。
【0050】
図8によると、バックグラウンド補正用検量線を用いてバックグラウンド補正を行った場合の各計算蛍光トレーサー濃度は、S10で準備した蛍光トレーサー濃度と比較した場合の誤差が±5%程度であり、高精度に蛍光トレーサー濃度を算出できていることが分かる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の実施形態は上述した形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、水質評価の対象である試料水として、冷却塔の循環水を用いているが、もちろんこれに限定されるものでなく、蛍光物質を入れて水質評価を行うことができる水であれば、種々の水を試料水として用いることができる。
【0052】
また、上記実施形態では、蛍光トレーサーとして、PTSAを用いているが、他の蛍光物質を蛍光トレーサーとして用いることができるのは言うまでもない。但し、他の蛍光トレーサーを用いる場合には、適宜、使用する蛍光トレーサーに合わせて上記補正用波長領域等を変更する必要がある。
【0053】
また、補正用波長領域の範囲は適宜変更可能であり、光学フィルターや受光素子の特性を変えることで、例えば、430〜600nmとしても良い。但し、補正用波長領域において蛍光トレーサーの蛍光強度が強くなると、精度良くバックグラウンド補正を行うことができなくなるため、補正用波長領域は、蛍光トレーサーの蛍光強度が、ピーク強度よりも1/4以下、好ましくは1/5以下、より好ましくは1/10以下の強度となる波長領域に含まれる領域とすることが望ましい。
【符号の説明】
【0054】
1 水質評価装置
20 蛍光センサ
21,31 励起光源
23,33 受光素子
25 光学フィルターA
30 補正用蛍光センサ
35 光学フィルターB
42 制御装置
50 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水中に含まれる蛍光トレーサーの濃度を測定することで前記試料水の水質を評価する水質評価方法において、
励起光を前記試料水に照射する励起光照射工程と、
前記励起光によって前記試料水から発せられる蛍光の強度を測定する蛍光強度測定工程と、
前記励起光によって前記試料水から発せられる蛍光のうち、前記蛍光トレーサーの蛍光スペクトルにおける所定の補正用波長領域での蛍光の強度を測定する補正用蛍光強度測定工程と、
前記補正用蛍光強度測定工程の測定値に基づいて、前記蛍光トレーサー以外の物質から発せられるバックグラウンド蛍光値を算出することで、前記蛍光強度測定工程の測定値の補正を行う補正工程と、を備えることを特徴とする水質評価方法。
【請求項2】
前記補正工程は、前記補正用蛍光強度測定工程の測定値と、前記バックグラウンド蛍光値との関係を作成した検量線に基づいて、前記バックグラウンド蛍光値を算出し、前記蛍光強度測定工程の測定値から当該算出バックグラウンド蛍光値を減算することで補正を行う工程であることを特徴とする請求項1記載の水質評価方法。
【請求項3】
前記検量線は、前記蛍光トレーサーの濃度が既知の複数の試料水サンプルを準備し、
前記複数の試料水サンプルに対して計算蛍光強度を算出する工程と、
前記複数の試料水サンプルに対して測定蛍光強度を測定する工程と、
前記複数の試料水サンプルに対して、前記所定の補正用波長領域での蛍光の強度である補正用測定蛍光強度を測定する工程と、
前記計算蛍光強度と前記測定蛍光強度との差である計算バックグラウンド蛍光値と、前記補正用測定蛍光強度とを対応付ける工程と、
により作成されることを特徴とする請求項2記載の水質評価方法。
【請求項4】
前記所定の補正用波長領域は、前記蛍光トレーサーの蛍光強度が、ピーク強度よりも1/4以下の強度となる波長領域に含まれる領域であることを特徴とする請求項1から3何れか1項に記載の水質評価方法。
【請求項5】
試料水中に含まれる蛍光トレーサーの濃度を測定することで前記試料水の水質を評価する水質評価装置において、
励起光を照射する光源と、
前記励起光によって前記試料水から発せられる蛍光の強度を測定する蛍光センサと、
前記励起光によって前記試料水から発せられる蛍光のうち、前記蛍光トレーサーの蛍光スペクトルにおける所定の補正用波長領域での蛍光の強度を測定する補正用蛍光センサと、
前記補正用蛍光センサの測定値に基づいて、前記蛍光トレーサー以外の物質から発せられるバックグラウンド蛍光値を算出することで、前記蛍光センサの測定値の補正を行う制御手段と、を備えることを特徴とする水質評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−72741(P2013−72741A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211759(P2011−211759)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】