説明

水酸化物イオン粉末

【課題】
酸素を貯蔵し輸送するには、圧力容器が必要であるという問題があった。化学薬品による殺菌は、中和塩を生じたり副作用があるという問題があった。水酸化物イオン粉末は、これまでに製造されたことがなかった。
【解決手段】
水又は純水を電気分解することにより得られたアルカリ水から水分を除去し、乾燥させて得たことを特徴とする水酸化物イオンOH-粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
水又は純水の電気分解により得られたアルカリ水から水分を除去し、乾燥させて得た水酸化物イオン粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸素の貯蔵や輸送には加圧容器が必要であるという問題があった。
【0003】
従来、木屑からリグニンを分離するには、木屑とアルカリを混合し、リグニンを溶かし、漉過して得られたろ液と酸を混合し、中和することにより、リグニンを沈澱させて、リグニンを分離していた。このためアルカリと酸の中和にもとづく中和塩が生じる問題があった。(たとえば非特許文献1参照。)。
【0004】
この問題を検討し、発明者らはアルカリと酸のかわりに、水を電気分解して得られるアルカリ水と酸性水を用いる方法を開発した。(特許文献1参照。)。この方法によれば、アルカリ水を酸性水で中和すると水になるので、問題となっていた中和塩が発生しなくなった。
【0005】
しかし、この方法で得られたリグニンの純度は、電気分解される水の純度に依存することがわかった。すなわち、純水を電気分解して得られるアルカリ水と酸性水を使うのが最も高純度のリグニンが得られることに気が付いた。これより、電解質を添加しないで、純水を電気分解する方法を検討した。その結果、電極を近付けて、電圧を高く限定することで、その方法を実現できた。(特許文献2参照。)。この方法によれば、電解質が排水に含まれなくなるので、環境にもよいことがわかった。
【0006】
一般に、純水もわずかであるが、次のように電離して、電離平衡に達している。H2O<->H+ + OH- このとき、それぞれの間には次の関係がある。[H+][OH-]/[H2O]=K(mol/l) ここで、[H+]は水素イオンのモル濃度、[OH-]は水酸化物イオンのモル濃度、[H2O]は水分子のモル濃度である。水はごくわずかしか電離していないから、[H2O]は一定と見なせるので、次式が成り立つ。[H+][OH-]=K[H2O]=Kw このKwを水のイオン積といい、一定温度では一定値をとる。たとえば、25℃では1.0e-14(mol/l)2である。
【0007】
水の中では[H+]と[OH-]は等しく、25℃では[H+]=[OH-]=1.0e-7(mol/l)である。水のイオン積が一定であることは、水溶液中の[H+]と[OH-]が異なっていても成立する。水素イオン指数pHはpH=-log[H+]で与えられる。純水の電気抵抗率は1.0e+5(Ωm)であり、絶縁体(ρ>1.0e+4(Ωm))の範囲にある。
【0008】
有隔膜電解槽を用いて、純水を電気分解する際に、白金陽極及び陰極の表面では次のような現象が起こると考えられる。
【0009】
電源の正極に接続された白金陽極表面の近くで水分子H2Oは、水素イオンH+と水酸化物イオンOH-に分かれる。水酸化物イオンOH-は酸素イオンO2-と水素イオンH+に分離する。水素イオンH+は静電的クーロン斥力を感じて陽極から遠ざかる。酸素イオンO2-は静電的クーロン引力を感じて陽極に近付く。酸素イオンO2-が白金表面から50(オングストローム)以下の距離に近づくと、酸素イオンO2-の最外殻電子軌道の電子e-は、白金原子Ptの最外殻電子軌道へと量子力学的トンネル効果により遷移する。同時に、酸素イオンO2-は原子状酸素Oとなり、白金陽極表面に、吸着されて、白金と活性錯体を作る。白金表面の原子状酸素同志は電子e-のスピン磁気モーメントにより磁気的クーロン引力を生じて互いに引き合い、近づいて結合し、酸素分子O2になり白金表面から離脱する。
【0010】
電源の負極に接続された白金陰極表面の近くで、水分子H2Oは水酸化物イオンOH-と水素イオンH+に分離する。水酸化物イオンOH-は静電的クーロン斥力を感じて陰極から遠ざかる。水素イオンH+は静電的クーロン引力を感じて陰極に近付く。白金陰極表面から50(オングストローム)以下の距離に水素イオンH+が近付くと、白金原子Ptの最外殻電子軌道にある電子e-は量子力学的トンネル効果により、水素イオンH+の最外殻電子軌道へと遷移する。電子e-を受けとった水素イオンH+は原子状水素Hになり、白金表面に吸着されて、白金と活性錯体を作る。白金陰極表面にある2つの原子状水素Hは電子のスピン磁気モーメントにより磁気的クーロン引力を生じて互いに引き合い、近付いて結合し、水素分子H2になり白金表面から離脱する。
【0011】
電気分解の途中では、陽極表面の近くに水素イオンH+が多く存在し、陰極表面の近くには水酸化物イオンOH-が多く存在する。従って、陽極表面の近くでは強いアルカリの14pHとなり、陰極表面の近くでは強い酸の0pHとなり、陽極と陰極の中央にある隔膜の近くでは中性の7pHというようなpHの分布が存在している。pHの分布は電位分布に対応している。
【0012】
電解質を添加しないで純水を電気分解した場合には、陽極近くには水酸化物イオンOH-と水分子H2Oからなるアルカリ水が得られ、陰極付近には水素イオンH+と水分子H2Oからなる酸性水が得られる。
【0013】
従来、水の電気分解により得られたアルカリ水中には水酸化物イオンOH-が存在していることは知られていた。しかし、水酸化物イオン粉末は、これまでに製造されたことがなかった。
【0014】
一般に、細菌は5pH〜9pHが生息域であり、カビは2pH〜8pHが生息域であることが知られている。(たとえば非特許文献2参照。)。従って、強い酸やアルカリは殺菌剤または防カビ剤として利用できることがわかる。
【0015】
最近の研究によれば、電解還元水(アルカリ水)が強い活性酸素消去能力を持ち、活性酸素によるDNA損傷を顕著に抑制すること、電解還元水(アルカリ水)を含む培地では肺ガン細胞および子宮頸部ガン細胞の増殖が抑制されること、電解還元水(アルカリ水)によってガン細胞が死滅することが報告されている。(たとえば非特許文献3参照。)。
【特許文献1】特願2004-053534
【特許文献2】特願2004-049052
【非特許文献1】ウッドケミカルスの最新技術、飯塚尭介 監修、シーエムシー、2000年、8P
【非特許文献2】http://www.mokk.co.jp/tyou/tyou3.html
【非特許文献3】http://www.dosukoi.com/oxygenradical/index.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
酸素を貯蔵し輸送するには、圧力容器が必要であるという問題があった。化学薬品による殺菌は、中和塩を生じたり副作用があるという問題があった。水酸化物イオン粉末は、これまでに製造されたことがなかった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
水を電気分解してアルカリ水を作り、アルカリ水から水分を除去し、乾燥させることにより水酸化物イオンの粉末を得る。
水酸化物イオン粉末とは水酸化物イオンOH-を含む粉末のことをいう。
水素イオン粉末とは水素イオンH+を含む粉末のことをいう。
アルカリ水とは水を電気分解するときに陰極付近に生じるアルカリ性の水のことをいう。
酸性水とは水を電気分解するときに陽極付近に生じる酸性の水のことをいう。
【0018】
水酸化物イオン粉末の純度は、アルカリ水の純度に比例することから、電解質を入れないで水又は純水を電気分解することによりアルカリ水を得ることが望ましい。
アルカリ水の水酸化物イオンの濃度は、pH値が高いほど大きな値となるので、アルカリ水のpH値は8以上であればよく、9以上が望ましく、10以上がさらに望ましい。
アルカリ水から水分を除去する方法としては、加熱することが望ましいが、冷凍乾燥や真空乾燥も利用できる。
電気分解に用いる水に含まれている不純物は、水酸化物イオン粉末の純度を低下させる原因になる。たとえば、水道水には水質基準を満たす0.2g/l以下の不純物が含まれており、この不純物はそのまま水酸化物イオン粉末の不純物になる。従って、電気分解に用いる水は、不純物を含まない純水が望ましい。
【発明の効果】
【0019】
酸素の貯蔵や輸送に利用できる。電池に利用できる。木屑からリグニンを分離することに利用できる。殺菌剤や防カビ剤として利用できる。加熱剤として利用できる。酸の中和剤として利用できる。薬剤合成に利用できる。触媒として利用できる。実験室ベースで簡易に、極限での効能が確認できる。粉末であるので持ち運びも保管も楽である。粉末を水に溶かすだけの簡単な操作でアルカリ水を作ることができる。加える水の量により、容易にpH調節ができる。有害物質を含んでいないので環境によい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
電解質を添加しないで水を電気分解してアルカリ水を得て、このアルカリ水から水分を除去し、乾燥させることにより、水酸化物イオン粉末を製造することができた。
【実施例1】
【0021】
電解質を添加しないで純水を電気分解することにより、アルカリ水と酸性水を得た。容積500ccのガラス容器に300ccのアルカリ水を注ぎ、ヒーターの上において加熱し煮沸した。アルカリ水が100ccだけ減少するごとに、アルカリ水を継ぎ足した。蒸発したアルカリ水は、9.581pH+-0.15pHで29℃のアルカリ水735ccと9.342pH+-0.15pHで29.5℃のアルカリ水780ccであった。その後ガラス容器の底に白い粉が残った。
【0022】
蒸発残留物の重さは、16.67mg+-1mgであった。OH-水酸化物イオンの1molの重さを17gと仮定すると、9.581pHで29℃のアルカリ水735ccと9.342pHで29.5℃のアルカリ水780ccの中には0.767mgの水酸化物イオンが入っていると推定される。従って、水酸化物イオンの粉末の純度は4.6 wt%であり、95.4 wt%の不純物を含んでいることが分かる。
【0023】
ガラス容器の底白い粉の上に一滴の純水を垂らしてから、その上に8x8mmに切り取ったpH試験紙(ADVANTEC、WHOLE RANGE 0-14pH試験紙)を置くと試験紙の色が青色になったので、14pHであることがわかった。1日後、同様にしてpHを測定すると14pHを示した。
【実施例2】
【0024】
大気圧において100℃で水酸化物イオン粉末は蒸発しないで、ガラス容器の底にくっついたままであり、占有体積も小さいことから、圧力容器を用いなくても、酸素の貯蔵が可能となる。
【実施例3】
【0025】
水素イオンH+と水酸化物イオンOH-の中和熱は、1mol当り H+ + OH- -> H2O + 35 kcal であるから、この中和熱を利用して物を加熱することもできる。
【実施例4】
【0026】
強いアルカリである水酸化物イオン粉末は殺菌剤または防カビ剤として利用できる。さらに強い酸であると考えられる水素イオン粉末と組み合わせれば、殺菌した後に直ちに中和することにより、水分子が発生するだけであり、従来の酸とアルカリを用いる薬剤のような副作用は生じることがないと言う長所があるために、農薬として、または人体内部の殺菌にも使用できる。
【0027】
農地に水酸化物イオン粉末(または水素イオン粉末)を散布して土壌を消毒し、水素イオン粉末(または水酸化物イオン粉末)を散布して中和することにより、水ができるだけであるから、従来の化学薬品に伴う副作用のような薬害のない消毒が可能となる。
【0028】
腎臓透析において、血液中の病原性ウイルスを水酸化物イオン粉末(または水素イオン粉末)で殺菌し、水素イオン粉末(または水酸化物イオン粉末)で中和し、中和熱を外部から冷却することで、従来の化学薬品とは異なり、副作用のない治療を行うことができる。ただし、蒸留水中では赤血球が破裂するので、0.9%食塩水(生理食塩水)の投与と等しくなるように、中和時に食塩を添加する必要がある。
【0029】
ガン細胞に対して、強い薬品を投与できれば、ガン細胞は死滅すると考えられるが、従来まで人体内部に強い薬品を投与することはできなかった。しかし、水酸化物イオン粉末(または水素イオン粉末)を人体内部のガン細胞に局所的に投与した後、ただちに水素イオン粉末(または水酸化物イオン粉末)で中和し、水を生成させることにより、副作用のない安全な治療を行うことができる。ただし、蒸留水中では赤血球が破裂するので、0.9%食塩水(生理食塩水)の投与と等しくなるように、中和時に食塩を添加する必要がある。
【実施例5】
【0030】
電解質を添加しないで純水を電気分解して得られたアルカリ水の中で、水酸化物イオン同志に働く力としては、電気的クーロン力、万有引力、重力の3つがあると考えられるが、この中で万有引力と重力は、電気的クーロン力に比べて十分に小さく無視できる。電気的クーロン力は反発力となるので、水酸化物イオン同志は水中で互いに遠ざかると考えられる。水分子H2Oは弱く分極しており、水分子の酸素原子Oはマイナスの電気を帯びており、水分子の水素原子Hはプラスの電気を帯びている。このため水酸化物イオンOH-には水分子が近づいてくる。従って、水酸化物イオンOH-を水分子H2Oの水素原子Hが取り囲み、水分子H2Oが水酸化物イオンOH-の周りに集まってクラスターを形成すると考えられる。
【0031】
分子の重さに着目すると、水酸化物イオンOH-の分子量は17、水H2Oは18、酸素分子は32である。比重の軽いものは水に浮くと考えられることから、煮沸をすれば、ただちに水酸化物イオンは蒸発するのではないかと、初め発明者らは考えていた。一般に分子量の小さな物質は沸点が低いといわれていることや、水酸化物イオン同志は電気的クーロン斥力により、互いに反発していると考えられるので、水酸化物イオンの集合体は沸点が低いものと考えた。
【0032】
しかし、アルカリ水の煮沸によりアルカリ水のpH値が大きくなり、水酸化物イオンの濃度が高くなることと、煮沸中の水蒸気にpH試験紙をさらして、濡らすと7pH(中性)を示すことから、水酸化物イオンは蒸発していないことがわかった。このことは、水酸化物イオンの集合体の沸点が100℃以上であることを示していると思われる。
【0033】
この事実は、比重による説明と一致しなかったので、水の表面張力が水酸化物イオンの蒸散を妨げているのではないかと発明者らは考えた。この考え方に従えば、水がまったくなくなると、水の表面張力も消滅し、水酸化物イオンは蒸散してしまうはずである。従って、水酸化物イオンがなくなれば、pH試験紙は7pHの中性を示すものと考えた。
【0034】
これを確かめるために、アルカリ水を煮沸した後、十分に乾燥させた。ビーカーの底に純水を一滴垂らしてからpH試験紙を置くと、中性でなくてアルカリ性を示した。従って、水酸化物イオンは水がまったくなくなっても、ビーカーの底に残留したままであることがわかった。この事実は、表面張力による説明と一致しなかった。しかし、確かにアルカリ性を示しており、また逆にアルカリ性を示す要因は水酸化物イオンの他になかった。
【0035】
水酸化物イオンの粉末が得られたという現象は、理論的に説明することができなかった。また、発明者らが調べた範囲ではどの文献にも記載がなかったので、一つの発見である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水又は純水を電気分解することにより得られたアルカリ水から水分を除去し、乾燥させて得たことを特徴とする水酸化物イオンOH-粉末。

【公開番号】特開2006−83028(P2006−83028A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270771(P2004−270771)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(597066360)
【出願人】(502166411)
【出願人】(396013972)
【Fターム(参考)】