説明

水電解システム

【課題】コンパクト且つ経済的な構成で、電力の削減を図るとともに、システム効率の向上を図ることを可能にする。
【解決手段】水電解システム10は、水を電気分解することによって高圧水素を製造する高圧水素製造装置12と、前記水から純水を製造する純水製造装置22と、前記純水製造装置22から導出される純水を前記高圧水素製造装置12に導入する水補給配管20と、前記純水製造装置22に並列して前記水補給配管20に配置され、前記水から陽イオンを除去して脱陽イオン水を製造する第1陽イオン除去装置86と、前記高圧水素製造装置12に対して前記純水製造装置22と前記第1陽イオン除去装置86とを選択的に接続させる切替装置80とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を電気分解して酸素と前記酸素よりも高圧な高圧水素とを発生させる高圧水素製造装置と、前記水から純水を製造する純水製造装置とを備える水電解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、アノード電極に燃料ガス(主に水素を含有するガス、例えば、水素ガス)が供給される一方、カソード電極に酸化剤ガス(主に酸素を含有するガス、例えば、空気)が供給されることにより、直流の電気エネルギを得ている。
【0003】
一般的に、燃料ガスである水素ガスを製造するために、水電解装置が採用されている。この水電解装置は、水を分解して水素(及び酸素)を発生させるため、固体高分子電解質膜(イオン交換膜)を用いている。固体高分子電解質膜の両面には、電極触媒層が設けられて電解質膜・電極構造体が構成されるとともに、前記電解質膜・電極構造体の両側には、給電体を配設してユニットが構成されている。
【0004】
そこで、複数のユニットが積層された電解スタックでは、積層方向両端に電圧が付与されるとともに、アノード給電体に水が供給される。このため、電解質膜・電極構造体のアノードでは、水が分解されて水素イオン(プロトン)が生成され、この水素イオンが固体高分子電解質膜を透過してカソードに移動し、電子と結合して水素が製造される。一方、アノードでは、水素イオン(プロトン)と共に生成された酸素が、余剰の水を伴ってユニットから排出される。
【0005】
この種の水電解システムでは、アノード給電体に供給される水は、不純物含有量を抑制する必要があり、電解用の水として純水が使用されている。例えば、特許文献1に開示されている水素・酸素発生装置では、一定量の純水を貯留するための純水タンクと、純水タンクから純水を水電解セルの陽極側に供給するための陽極側純水供給経路と、電解質膜を隔膜として用いて、陽極側と陰極側とに分離して、純水タンクから陽極側純水供給経路を介して、純水を陽極側に供給しながら純水を電気分解して、陽極側から酸素ガスを、陰極側から水素ガスをそれぞれ発生するように構成した水電解セルと、水電解セルより排出される純水を純水タンクに環流するための純水環流経路と、水電解セルにて電気分解することによって消耗した水量に相当する純水を純水タンクに供給するための純水発生装置とから構成している。
【0006】
また、特許文献2は、高分子電解質膜を用いて水を電解し、陽極に酸素、陰極に水素を発生させる水電解槽と、水電解槽の陰極にて発生した水素と水とを分離する水素気液分離器と、水電解槽の陽極にて発生した酸素と水とを分離する酸素気液分離器と、酸素気液分離器から水電解槽へ水を供給することにより水を循環させる循環ポンプを含む水循環ラインとを備えている固体高分子型水電解装置が開示されている。
【0007】
この固体高分子型水電解装置では、水循環ラインに、水電解槽に供給される循環水の一部を取り出し且つイオン交換器による処理後に酸素気液分離器に供給する分岐ラインを設けている。さらに、水電解槽へ新規に供給される供給水処理用イオン交換器と処理後の水を蓄える純水タンクとが設けられており、分岐ラインの下流端を純水タンクに接続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−170189号公報
【特許文献2】特開2002−173788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記の特許文献1では、純水発生装置により高純度の純水を製造する必要があるため、種々のフィルタ等を用いている。従って、水電解システム全体が相当に大型化するという問題がある。
【0010】
また、上記の特許文献2では、供給水処理用イオン交換器を備えており、この供給水処理用イオン交換器内には、イオン交換樹脂が充填されている。このため、イオン交換樹脂が破過(不純物が吸着されずに、そのまま排出される状態)した際には、水電解システムの運転を停止して前記イオン交換樹脂の交換作業を行わなければならない。これにより、システム効率が低下するという問題がある。
【0011】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、コンパクト且つ経済的な構成で、電力の削減を図るとともに、システム効率の向上を図ることが可能な水電解システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、水を電気分解して酸素と前記酸素よりも高圧な高圧水素とを発生させる高圧水素製造装置と、前記水から純水を製造する純水製造装置と、前記純水製造装置が配置され、該純水製造装置から導出される前記純水を前記高圧水素製造装置に導入する電解水供給配管とを備える水電解システムに関するものである。
【0013】
この水電解システムは、純水製造装置に並列して電解水供給配管に配置され、水から陽イオンを除去して脱陽イオン水を製造する陽イオン除去装置と、高圧水素製造装置に対して前記純水製造装置と前記陽イオン除去装置とを選択的に接続させる切替装置とを備えている。
【0014】
また、この水電解システムでは、陽イオン除去装置は、陽イオン交換樹脂が充填された陽イオン交換器であり、前記陽イオン交換器と高圧水素製造装置との間には、該陽イオン交換器を陽イオンが通過したことを検知する破過検知装置が配設されるとともに、切替装置は、前記破過検知装置により前記陽イオン交換器の破過が検知された際、前記高圧水素製造装置と純水製造装置とを接続させることが好ましい。
【0015】
さらに、この水電解システムでは、破過検知装置は、少なくとも硬度計、導電率計又は比抵抗計のいずれかを備えることが好ましい。
【0016】
さらにまた、本発明は、水を電気分解して酸素と前記酸素よりも高圧な高圧水素とを発生させる高圧水素製造装置と、前記高圧水素製造装置に一端が接続され、該高圧水素製造装置から排出されるガス成分を含む未反応の水を通流させる導出配管と、前記導出配管の他端に接続され、前記ガス成分を含む未反応の水を気液分離して水を貯留する水貯留装置と、前記水貯留装置に貯留された水を、前記高圧水素製造装置に導入させる導入配管と、前記水貯留装置に前記水を補給する水補給配管と、前記水補給配管に配設され、前記水から純水を製造する純水製造装置とを備える水電解システムに関するものである。
【0017】
この水電解システムは、純水製造装置に並列して水補給配管に配置され、水から陽イオンを除去して脱陽イオン水を製造する陽イオン除去装置と、水貯留装置に対して前記純水製造装置と前記陽イオン除去装置とを選択的に接続させる切替装置とを備えている。
【0018】
また、この水電解システムでは、陽イオン除去装置の下流に陽イオン検出装置が配置されるとともに、切替装置は、前記陽イオン検出装置により閾値以上の陽イオンを検出した際、水貯留装置と純水製造装置とを接続させることが好ましい。
【0019】
さらに、この水電解システムでは、導入配管には、陽イオン除去装置の下流に他の陽イオン除去装置が配置されるとともに、前記他の陽イオン除去装置と高圧水素製造装置との間には、他の陽イオン検出装置が設けられることが好ましい。
【0020】
さらにまた、この水電解システムでは、陽イオン検出装置は、硬度計又は導電率計を備える一方、他の陽イオン検出装置は、比抵抗計を備え、前記硬度計又は前記導電率計の検出値が所定の閾値以下であり、且つ前記比抵抗計の検出値が所定値以下である際、水貯留装置と純水製造装置とを接続させることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、水を電気分解して酸素と前記酸素よりも高圧な高圧水素とを発生させる高圧水素製造装置と、前記高圧水素製造装置に一端が接続され、該高圧水素製造装置から排出されるガス成分を含む未反応の水を通流させる導出配管と、前記導出配管の他端に接続され、前記ガス成分を含む未反応の水を気液分離して水を貯留する水貯留装置と、前記水貯留装置に貯留された水を、前記高圧水素製造装置に導入させる導入配管と、前記水貯留装置に前記水を補給する水補給配管と、前記水補給配管に配設され、前記水から純水を製造する純水製造装置とを備える水電解システムに関するものである。
【0022】
この水電解システムは、純水製造装置に並列して水補給配管に配置され、水から陽イオンを除去して脱陽イオン水を製造する陽イオン除去装置と、水貯留装置に対して前記純水製造装置と前記陽イオン除去装置とを選択的に接続させる切替装置と、導入配管を通流する前記水の比抵抗値を検出する比抵抗値検出装置とを備えている。そして、切替装置は、水貯留装置内に一定量の水が供給されることにより、比抵抗値検出装置によって検出された比抵抗値が所定値以下になった際、前記水貯留装置と純水製造装置とを接続させている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、純水製造装置から導出される純水を高圧水素製造装置に導入する電解水供給配管には、前記純水製造装置に並列して陽イオン除去装置が配置されている。このため、必要に応じて、陽イオン除去装置により電解用の水を製造することができ、システム運転の電力削減を図ることが可能になり、システム効率の向上が容易に図られる。
【0024】
本発明では、水から陽イオンを除去して電解用の水を製造しているが、この水中には、陰イオンが残存し易い。その際、陽イオンは、水素イオンと同様に印加されて固体高分子電解質膜中に混入し、水電解性能に影響を与える一方、陰イオンは、電解に寄与することがなく、水電解性能に影響を与えることがない。従って、電解用の水は、脱陽イオン水を使用することができる。
【0025】
しかも、陽イオン除去装置の交換時にも、純水製造装置を用いてシステム運転を継続することができる。従って、システム効率の向上を図ることが可能になる。
【0026】
また、本発明によれば、水貯留装置に水を補給する水補給配管には、純水製造装置に並列して陽イオン除去装置が配置されている。このため、必要に応じて、陽イオン除去装置により電解用の水を製造することができ、システム運転の電力削減を図ることが可能になり、システム効率の向上が容易に図られる。
【0027】
しかも、陽イオン除去装置の交換時にも、純水製造装置を用いてシステム運転を継続することができる。従って、システム効率の向上を図ることが可能になる。
【0028】
さらに、本発明では、水貯留装置内に一定量の水が供給された際に低下する比抵抗値を予め検出している。そして、比抵抗値が、所定値以下まで低下すると推定される場合には、水貯留装置と純水製造装置とを接続させ、前記水貯留装置に陽イオン及び陰イオンを含まない純水が供給されている。これにより、高圧水素製造装置に供給される水の水質が悪化して電解性能に影響を及ぼすことを可及的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る水電解システムの概略構成説明図である。
【図2】前記水電解システムの短絡検知時の動作を説明するフローチャートである。
【図3】前記水電解システムの第1陽イオン除去装置の交換時の動作を説明するフローチャートである。
【図4】前記水電解システムの第2陽イオン除去装置の交換時の動作を説明するフローチャートである。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る水電解システムの概略構成説明図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る水電解システムの概略構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る水電解システム10は、水(純水)を電気分解することによって酸素及び高圧水素(常圧である酸素圧力よりも高圧、例えば、1MPa〜70MPaの水素)を製造する高圧水素製造装置(差圧式水電解装置)12と、前記高圧水素製造装置12に一端が接続され、該高圧水素製造装置12から排出されるガス成分(酸素及び水素)を含む未反応の水を通流させる導出配管14と、前記導出配管14の他端に接続され、前記ガス成分を含む未反応の水を気液分離して水を貯留する水貯留装置16と、前記水貯留装置16に貯留された水を、前記高圧水素製造装置12に導入させる導入配管18と、前記水貯留装置16に前記水を補給する水補給配管(電解水供給配管)20と、前記水補給配管20に配設され、前記水から純水を製造する純水製造装置22と、制御部(ECU)23とを備える。
【0031】
高圧水素製造装置12は、複数の単位セル24を積層して構成される。単位セル24の積層方向一端には、ターミナルプレート26a、絶縁プレート28a及びエンドプレート30aが外方に向かって、順次、配設される。単位セル24の積層方向他端には、同様にターミナルプレート26b、絶縁プレート28b及びエンドプレート30bが外方に向かって、順次、配設される。エンドプレート30a、30b間は、一体的に締め付け保持される。
【0032】
ターミナルプレート26a、26bの側部には、端子部34a、34bが外方に突出して設けられる。端子部34a、34bは、配線36a、36bを介して電解電源38に電気的に接続される。
【0033】
単位セル24は、円盤状の電解質膜・電極構造体42と、この電解質膜・電極構造体42を挟持するアノードセパレータ44及びカソードセパレータ46とを備える。アノードセパレータ44及びカソードセパレータ46は、円盤状を有するとともに、例えば、カーボン部材等で構成され、又は、鋼板、ステンレス鋼板、チタン板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、あるいはその金属表面に防食用の表面処理を施した金属板をプレス成形して、あるいは切削加工した後に防食用の表面処理を施して構成される。
【0034】
電解質膜・電極構造体42は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜48と、前記固体高分子電解質膜48の両面に設けられるアノード給電体50及びカソード給電体52とを備える。
【0035】
固体高分子電解質膜48の両面には、アノード電極触媒層50a及びカソード電極触媒層52aが形成される。アノード電極触媒層50aは、例えば、Ru(ルテニウム)系触媒を使用する一方、カソード電極触媒層52aは、例えば、白金触媒を使用する。
【0036】
アノード給電体50及びカソード給電体52は、例えば、球状アトマイズチタン粉末の焼結体(多孔質導電体)により構成される。アノード給電体50及びカソード給電体52は、研削加工後にエッチング処理される平滑表面部を設けるとともに、空隙率が10%〜50%、より好ましくは、20%〜40%の範囲内に設定される。
【0037】
単位セル24の外周縁部には、積層方向に互いに連通して、水(純水)を供給するための水供給連通孔56と、反応により生成された酸素及び未反応の水(混合流体)を排出するための排出連通孔58と、反応により生成された水素を流すための水素連通孔60とが設けられる。
【0038】
アノードセパレータ44の電解質膜・電極構造体42に向かう面には、水供給連通孔56に連通する第1流路64が設けられる。この第1流路64は、アノード給電体50の表面積に対応する範囲内に設けられるとともに、複数の流路溝や複数のエンボス等で構成される。
【0039】
カソードセパレータ46の電解質膜・電極構造体42に向かう面には、水素連通孔60に連通する第2流路68が形成される。この第2流路68は、カソード給電体52の表面積に対応する範囲内に設けられるとともに、複数の流路溝や複数のエンボス等で構成される。
【0040】
水貯留装置16は、タンク部70を備える。タンク部70には、導出配管14、導入配管18、水補給配管20、希釈用ブロア72及びガス排気配管74が接続される。導出配管14は、高圧水素製造装置12の排出連通孔58に接続される一方、導入配管18は、前記高圧水素製造装置12の水供給連通孔56に接続される。ガス排気配管74は、タンク部70で純水から分離された酸素及び水素を排出する機能を有する。
【0041】
水補給配管20には、市水に含まれる塩素等を除去するためのプレフィルタ(活性炭等)76が配置され、前記プレフィルタ76の下流にバイパス配管78が分岐及び合流する。水補給配管20のバイパス配管78との分岐部及び合流部の間には、切替装置80を構成する第1開閉弁82a、純水製造装置22及び第1逆止弁84aが配設される。
【0042】
バイパス配管78には、切替装置80を構成する第2開閉弁82b、第1陽イオン除去装置86及び第2逆止弁84bが配設される。第1陽イオン除去装置86は、水から陽イオンを除去して脱陽イオン水を製造するため、陽イオン交換樹脂(例えば、オルガノ社製アンバーライト等)が充填されたイオン交換器により構成される。切替装置80は、水貯留装置16に対して純水製造装置22と第1陽イオン除去装置86とを選択的に接続させる。
【0043】
タンク部70の底部に接続される導入配管18には、循環ポンプ90及び第2陽イオン除去装置92が配設される。第2陽イオン除去装置92の上流と循環ポンプ90との間には、第1陽イオン検出装置94が配置されるとともに、前記第2陽イオン除去装置92の下流と高圧水素製造装置12との間には、第2陽イオン検出装置96が配置される。
【0044】
第2陽イオン除去装置92は、高圧水素製造装置12から溶出した陽イオンを除去する機能を有しており、第1陽イオン除去装置86と同様に構成される。なお、第2陽イオン除去装置92は、第1陽イオン除去装置86よりも小さな容量に設定可能である。
【0045】
第1陽イオン検出装置94は、第1陽イオン除去装置86の破過(不純物である陽イオンが吸着されずに、そのまま排出される状態)を検知する破過検知装置を構成する一方、第2陽イオン検出装置96は、第2陽イオン除去装置92の破過を検知する破過検知装置を構成する。第1陽イオン検出装置94としては、好適には導電率計又は硬度計が使用され、第2陽イオン検出装置96としては、好適には比抵抗計が用いられる。
【0046】
硬度計は、水中に含まれるカルシウムとマグネシウムの量をそれに相当する炭酸カルシウムに換算して全硬度を表示する機能を有する。導電率計及び硬度計は、陰イオンの飽和状態から不純物(陽イオン)の混在による変化を読み取って陽イオンを検出する機能を有し、それぞれ互いに逆数で表示する。なお、第1陽イオン検出装置94は、比抵抗計を採用してもよく、第2陽イオン検出装置96は、導電率計又は硬度計を用いてもよい。
【0047】
このように構成される水電解システム10の動作について、図2に示すフローチャートに沿って、以下に説明する。この図2では、短絡を検知して対処する工程が示されている。短絡防止の要件としては、例えば、固体高分子電解質膜48の膜抵抗<循環水の比抵抗である。
【0048】
先ず、水電解システム10が通常運転される際(ステップS1)、第1開閉弁82aが開放される一方、第2開閉弁82bが閉塞される。このため、プレフィルタ76を通って塩素等が除去された水は、純水製造装置22に送られて不純物(陰イオン及び陽イオン等を含む)が除去されることにより純水が生成される。この純水は、水貯留装置16を構成するタンク部70に供給される。
【0049】
一方、循環ポンプ90の作用下に、タンク部70内の水が導入配管18を介して高圧水素製造装置12の水供給連通孔56に供給される。また、ターミナルプレート26a、26bの端子部34a、34bには、電気的に接続されている電解電源38を介して電圧(電解電流)が印加される。
【0050】
このため、各単位セル24では、水供給連通孔56からアノードセパレータ44の第1流路64に水が供給され、この水がアノード給電体50内に沿って移動する。従って、水は、アノード電極触媒層50aで電気により分解され、水素イオン、電子及び酸素が生成される。この陽極反応により生成された水素イオンは、固体高分子電解質膜48を透過してカソード電極触媒層52a側に移動し、電子と結合して水素が得られる。
【0051】
これにより、カソードセパレータ46とカソード給電体52との間に形成される第2流路68に沿って水素が流動する。この水素は、水供給連通孔56よりも高圧に維持されており、水素連通孔60を流れて高圧水素製造装置12の外部に高圧水素配管88を介して取り出し可能となる。
【0052】
一方、第1流路64には、反応により生成した酸素、未反応の水及び透過した水素が流動しており、これらの混合流体が排出連通孔58に沿って導出配管14に排出される。この混合流体は、タンク部70に導入されて気液分離された後、水は、循環ポンプ90を介して導入配管18から第2陽イオン除去装置92を通って陽イオンが除去された後、水供給連通孔56に導入される。水から分離された酸素及び水素は、ガス排気配管74を通って外部に排出される。
【0053】
次いで、純水製造装置22に代えて、第1陽イオン除去装置86により電解用の水が製造される。具体的には、第1開閉弁82aが閉塞される一方、第2開閉弁82bが開放される(ステップS2)。このため、市水は、バイパス配管78から第1陽イオン除去装置86を通って陽イオンが除去された後、脱陽イオン水としてタンク部70に供給される。
【0054】
タンク部70には、高圧水素製造装置12から排出される水及び第1陽イオン除去装置86により陽イオンが除去された水が供給されている。そして、タンク部70から導入配管18を通って高圧水素製造装置12に供給される水は、第1陽イオン検出装置94により不純物濃度(陽イオン濃度)が検出される。
【0055】
第1陽イオン検出装置94は、検出された不純物濃度が、例えば、不純物により短絡が発生し得る不純物の閾値濃度xを超えると判断すると(ステップS3中、YES)、ステップS4に進む。このステップS4では、第1開閉弁82aが開放される一方、第2開閉弁82bが閉塞される。従って、市水は、第1陽イオン除去装置86に供給されることがなく、純水製造装置22に送られて不純物が除去された純水が、タンク部70に供給される。
【0056】
タンク部70には、純水製造装置22により不純物が除去された純水が供給されており、第1陽イオン検出装置94は、このタンク部70から導入配管18に導入される水中の陽イオン濃度(不純物濃度)を検出する。
【0057】
そして、検出された不純物濃度が、短絡が惹起される閾値濃度xと同等以下となると(ステップS5中、YES)、ステップS6に進む。このステップS6では、第1開閉弁82aが閉塞される一方、第2開閉弁82bが開放される。これにより、純水製造装置22が停止されるとともに、第1陽イオン除去装置86により、電解用の水が製造される。
【0058】
上記の処理は、運転終了まで継続され(ステップS7中、YES)、純水製造装置22と第1陽イオン除去装置86とによる電解用水の製造が選択的に行われる。
【0059】
この場合、第1の実施形態では、水補給配管20には、純水製造装置22と第1陽イオン除去装置86とが並列して設けられるとともに、切替装置80の作用下にタンク部70に対してそれぞれ選択的に接続自在である。このため、純水製造装置22に代えて、第1陽イオン除去装置86により電解用の水を製造することができ、システム運転の電力削減を図ることが可能になり、システム効率の向上が容易に図られるという効果が得られる。
【0060】
ここで、純水製造装置22では、水中の不純物、すなわち、陽イオン及び陰イオンを除去して純水を製造するのに対し、第1陽イオン除去装置86では、水中の陽イオンのみを除去している。従って、タンク部70に供給される電解用の水には、陰イオンが残存し易い。
【0061】
その際、陽イオンは、水素イオンと同様に印加されて高圧水素製造装置12を構成する固体高分子電解質膜48中に導入し、水電解性能に影響を与える。一方、陰イオンは、電解に寄与することがなく、水電解性能に影響を与えることがない。これにより、電解用の水として、脱陽イオン水を使用することが可能になる。
【0062】
また、導出配管14、タンク部70及び導入配管18を含む循環ラインでは、第2陽イオン除去装置92により水中の陽イオンのみが除去されている。これにより、循環ラインには、陰イオンが残存し、陰イオン濃度が上昇し易い。
【0063】
そこで、比抵抗計を備える第2陽イオン検出装置96により、水中の比抵抗値が検出されている。このため、比抵抗値が低下して短絡する前に、タンク部70を純水製造装置22に接続することができ、陰イオンによる短絡を良好に阻止することが可能になる。
【0064】
さらに、第1の実施形態では、水貯留装置16を構成するタンク部70内の水位が所定水位以下となった場合に、一定量の純水又は水が純水製造装置22又は第1陽イオン除去装置86から前記タンク部70に供給されている。
【0065】
その際、水電解システム10では、タンク部70内に一定量の水が供給された際に低下する比抵抗値を予め検出している。そして、第2陽イオン検出装置96を介して検出された比抵抗値が、所定値以下まで低下すると推定される場合には、前記タンク部70と純水製造装置22とを接続させている。従って、タンク部70には、陽イオン及び陰イオンを含まない純水が供給され、高圧水素製造装置12に供給される水の水質が悪化して電解性能に影響を及ぼすことを可及的に抑制することができる。
【0066】
次いで、第1陽イオン除去装置86を交換する際の動作について、図3に示すフローチャートに沿って、以下に説明する。なお、図2に示すフローチャートと同一の工程については、その詳細な説明は省略する。
【0067】
先ず、通常運転が開始されて(ステップS11)、第1陽イオン除去装置86による電解用の水の供給が行われると(ステップS12)、ステップS13に進む。このステップS13では、第1陽イオン検出装置94により、水中の陽イオン(又は不純物)濃度が所定の閾値yを超えているか否かが判断される。
【0068】
検出された陽イオン濃度が、閾値濃度yを超えていると、すなわち、破過が生じていると判断されると(ステップS13中、YES)、ステップS14に進んで、タンク部70は、第1陽イオン除去装置86から純水製造装置22に切り替え接続される。そして、第1陽イオン除去装置86に破過が生じていると判断されたため、ステップS15では、前記第1陽イオン除去装置86を、新たな第1陽イオン除去装置86と交換する作業が行われる。
【0069】
上記の交換作業が行われた後、ステップS16に進んで、タンク部70には、新たな第1陽イオン除去装置86が接続される。この新たな第1陽イオン除去装置86を通って陽イオンが除去された水は、タンク部70に供給される。
【0070】
第1陽イオン検出装置94では、高圧水素製造装置12に供給される水中の陽イオン濃度を検出しており、検出された陽イオン濃度が、閾値濃度y以下であると判断されると(ステップS17中、YES)、ステップS18に進んで、通常運転が行われる。
【0071】
この場合、第1陽イオン除去装置86に破過が発生したことが検出され、前記第1陽イオン除去装置86を交換する際にも、純水製造装置22を用いてタンク部70への純水の供給が継続されている。従って、システム運転を継続することができ、システム効率の向上を図ることが可能になる。
【0072】
ところで、タンク部70に所定量の水を補給する際に、第1陽イオン除去装置86を通過した水が使用される場合がある。その際、第1陽イオン検出装置94が硬度計により構成されていると、所定値以上の変化量を検出することにより、陽イオンの漏出が検知される。このため、第1陽イオン除去装置86に破過が発生していることが検出され、前記第1陽イオン除去装置86の交換が必要であると判断される。
【0073】
また、第1陽イオン検出装置94の検出変化量が所定値以下である一方、比抵抗計である第2陽イオン検出装置96により検出される比抵抗値が、所定値以下であると、規定量以上の陰イオンが溶出されていると判断される。従って、電解用の水の水質が低下していることが検出され、純水製造装置22からタンク部70への純水の供給を行う必要があると判断される。
【0074】
一方、第1陽イオン検出装置94が比抵抗計により構成されている場合、第2陽イオン検出装置96の検出値が、前記第1陽イオン検出装置94の検出値よりも大きくなると、第2陽イオン除去装置92により陽イオンが吸着されていると判断される。すなわち、第1陽イオン除去装置86では、破過により陽イオンの吸着ができず、導入配管18に陽イオンが流出していることが検出され、第1陽イオン除去装置86を交換する必要があると判断される。
【0075】
一方、第2陽イオン検出装置96により検出された比抵抗値が大きくならないと、陰イオンが多過ぎると判断される。これにより、純水製造装置22からタンク部70への水の補給が必要であると判断される。
【0076】
次に、第2陽イオン除去装置92の交換時の動作について、図4に示すフローチャートに沿って、以下に説明する。
【0077】
水電解システム10が通常運転を開始して(ステップS21)、高圧水電解が行われると(ステップS22)、第1陽イオン検出装置94及び第2陽イオン検出装置96により水中の陽イオンが検出される。
【0078】
第1陽イオン検出装置94及び第2陽イオン検出装置96が、導電率計又は硬度計で構成される際には、前記第2陽イオン検出装置96の検出値WS2が、前記第1陽イオン検出装置94の検出値WS1以上であると判断されると(ステップS23中、YES)、ステップS24に進んで、水電解システム10の運転が停止される。第2陽イオン除去装置92により陽イオンが除去されず、破過していると判断されるからである。
【0079】
そして、ステップS25に進んで、第2陽イオン除去装置92の交換が行われ、運転再開の有無が判断される(ステップS26)。なお、第1陽イオン検出装置94及び第2陽イオン検出装置96が、比抵抗計により構成される際には、ステップS23での判断基準は、逆、すなわち、WS1≧WS2となる。
【0080】
このように、第2陽イオン除去装置92の破過を容易に判断することができ、高圧水素製造装置12の電解性能を良好に維持することができるという効果が得られる。
【0081】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る水電解システム100の概略構成説明図である。なお、第1の実施形態に係る水電解システム10と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。また、以下に説明する第3の実施形態においても同様に、その詳細な説明は省略する。
【0082】
水電解システム100は、第2陽イオン除去装置102を備えるとともに、この第2陽イオン除去装置102は、電気再生式純水装置(EDI)により構成される。電気再生式純水装置は、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とを交互に配列し、その間にイオン交換樹脂を挟むとともに、両端から直流電流を流すことにより、電気的にイオンを除去すると同時に、イオン交換樹脂を再生する機能を有している。
【0083】
従って、第2陽イオン除去装置102では、イオン交換樹脂の交換が不要になるとともに、前記第2陽イオン除去装置102の破過を検出する手段が不要になるという利点が得られる。なお、第1陽イオン除去装置86は、同様に、電気再生式純水装置により構成してもよい。
【0084】
図6は、本発明の第3の実施形態に係る水電解システム110の概略構成説明図である。
【0085】
水電解システム110は、純水製造装置22が配置され、前記純水製造装置22から導出される純水を高圧水素製造装置12の水供給連通孔56に導入する電解水供給配管(水補給配管)112を備える。電解水供給配管112には、バイパス配管78を介して陽イオン除去装置86aが純水製造装置22に並列して配置される。電解水供給配管112には、陽イオン除去装置86aと高圧水素製造装置12との間に位置し、前記陽イオン除去装置86aを陽イオンが通過したことを検知する破過検知装置である陽イオン検出装置94aが配設される。
【0086】
このように構成される第3の実施形態では、電解水供給配管112に純水製造装置22と陽イオン除去装置86aとが並列して配置されている。このため、必要に応じて、陽イオン除去装置86aにより電解用の水を製造することができ、システム運転の電力削減を図るとともに、システム効率の向上が容易に図られる等、上記の第1及び第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0087】
10、100、110…水電解システム
12…高圧水素製造装置 14…導出配管
16…水貯留装置 18…導入配管
20…水補給配管 22…純水製造装置
23…制御部 24…単位セル
38…電解電源 42…電解質膜・電極構造体
44…アノードセパレータ 46…カソードセパレータ
56…水供給連通孔 58…排出連通孔
60…水素連通孔 64、68…流路
70…タンク部 76…プレフィルタ
78…バイパス配管 80…切替装置
82a、82b…開閉弁 84a、84b…逆止弁
86、86a、92、102…陽イオン除去装置
90…循環ポンプ
94、94a、96…陽イオン検出装置
112…電解水供給配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を電気分解して酸素と前記酸素よりも高圧な高圧水素とを発生させる高圧水素製造装置と、
前記水から純水を製造する純水製造装置と、
前記純水製造装置が配置され、該純水製造装置から導出される前記純水を前記高圧水素製造装置に導入する電解水供給配管と、
を備える水電解システムであって、
前記純水製造装置に並列して前記電解水供給配管に配置され、前記水から陽イオンを除去して脱陽イオン水を製造する陽イオン除去装置と、
前記高圧水素製造装置に対して前記純水製造装置と前記陽イオン除去装置とを選択的に接続させる切替装置と、
を備えることを特徴とする水電解システム。
【請求項2】
請求項1記載の水電解システムにおいて、前記陽イオン除去装置は、陽イオン交換樹脂が充填された陽イオン交換器であり、
前記陽イオン交換器と前記高圧水素製造装置との間には、該陽イオン交換器を前記陽イオンが通過したことを検知する破過検知装置が配設されるとともに、
前記切替装置は、前記破過検知装置により前記陽イオン交換器の破過が検知された際、前記高圧水素製造装置と前記純水製造装置とを接続させることを特徴とする水電解システム。
【請求項3】
請求項2記載の水電解システムにおいて、前記破過検知装置は、少なくとも硬度計、導電率計又は比抵抗計のいずれかを備えることを特徴とする水電解システム。
【請求項4】
水を電気分解して酸素と前記酸素よりも高圧な高圧水素とを発生させる高圧水素製造装置と、
前記高圧水素製造装置に一端が接続され、該高圧水素製造装置から排出されるガス成分を含む未反応の水を通流させる導出配管と、
前記導出配管の他端に接続され、前記ガス成分を含む未反応の水を気液分離して水を貯留する水貯留装置と、
前記水貯留装置に貯留された水を、前記高圧水素製造装置に導入させる導入配管と、
前記水貯留装置に前記水を補給する水補給配管と、
前記水補給配管に配設され、前記水から純水を製造する純水製造装置と、
を備える水電解システムであって、
前記純水製造装置に並列して前記水補給配管に配置され、前記水から陽イオンを除去して脱陽イオン水を製造する陽イオン除去装置と、
前記水貯留装置に対して前記純水製造装置と前記陽イオン除去装置とを選択的に接続させる切替装置と、
を備えることを特徴とする水電解システム。
【請求項5】
請求項4記載の水電解システムにおいて、前記陽イオン除去装置の下流に陽イオン検出装置が配置されるとともに、
前記切替装置は、前記陽イオン検出装置により閾値以上の前記陽イオンを検出した際、前記水貯留装置と前記純水製造装置とを接続させることを特徴とする水電解システム。
【請求項6】
請求項5記載の水電解システムにおいて、前記導入配管には、陽イオン除去装置の下流に他の陽イオン除去装置が配置されるとともに、
前記他の陽イオン除去装置と前記高圧水素製造装置との間には、他の陽イオン検出装置が設けられることを特徴とする水電解システム。
【請求項7】
請求項6記載の水電解システムにおいて、前記陽イオン検出装置は、硬度計又は導電率計を備える一方、前記他の陽イオン検出装置は、比抵抗計を備え、
前記硬度計又は前記導電率計の検出値が所定の閾値以下であり、且つ前記比抵抗計の検出値が所定値以下である際、前記水貯留装置と前記純水製造装置とを接続させることを特徴とする水電解システム。
【請求項8】
水を電気分解して酸素と前記酸素よりも高圧な高圧水素とを発生させる高圧水素製造装置と、
前記高圧水素製造装置に一端が接続され、該高圧水素製造装置から排出されるガス成分を含む未反応の水を通流させる導出配管と、
前記導出配管の他端に接続され、前記ガス成分を含む未反応の水を気液分離して水を貯留する水貯留装置と、
前記水貯留装置に貯留された水を、前記高圧水素製造装置に導入させる導入配管と、
前記水貯留装置に前記水を補給する水補給配管と、
前記水補給配管に配設され、前記水から純水を製造する純水製造装置と、
を備える水電解システムであって、
前記純水製造装置に並列して前記水補給配管に配置され、前記水から陽イオンを除去して脱陽イオン水を製造する陽イオン除去装置と、
前記水貯留装置に対して前記純水製造装置と前記陽イオン除去装置とを選択的に接続させる切替装置と、
前記導入配管を通流する前記水の比抵抗値を検出する比抵抗値検出装置と、
を備えるとともに、
前記切替装置は、前記水貯留装置内に一定量の前記水が供給されることにより、前記比抵抗値検出装置によって検出された前記比抵抗値が所定値以下になった際、前記水貯留装置と前記純水製造装置とを接続させることを特徴とする水電解システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−49907(P2013−49907A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188818(P2011−188818)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】