説明

永久磁石、それを用いた永久磁石モータおよび発電機

【課題】 耐熱性の良好なSm−Co磁石において磁化を高めながら、保磁力を発現させることで高性能な永久磁石、それを用いた永久磁石モータおよび発電機を提供する
【解決手段】 本発明の永久磁石は、組成式:(Sm1−x100−z(FeCuCo1−p−q−r(RはNd,Prから選ばれる1種以上の元素、MはTi,Zr,Hfから選ばれる1種以上の元素、0.05≦x<0.5,7≦z≦9、0.22≦p≦0.45、0.005≦q≦0.05、0.01≦r≦0.1)で表され、ThZn17型構造を有する相を主相とし、粉末X線回折による前記ThZn17型構造の(113)面からの回折ピーク強度をI(113),(300)面からの回折ピーク強度をI(300)とするとき、0.9≦I(113)/I(300)≦1.7の関係を満たすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施態様は、永久磁石、それを用いた永久磁石モータおよび発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能希土類磁石としてはSm−Co磁石、Nd−Fe−B磁石などが知られており、現在量産されているこれらの磁石にはFeやCoが多量に含まれ飽和磁化の増大に寄与している。
【0003】
また、これらの磁石にはNdやSm等の希土類元素が含まれており、結晶場中における希土類元素の4f電子の挙動に由来して大きな磁気異方性をもたらす。
【0004】
これにより大きな保磁力が得られ、高性能磁石が実現されている。
【0005】
そして、これら高性能磁石は、各種モータ、発電機、スピーカ、計測器などの電気機器に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平01−179302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、耐熱性の良好なSm−Co磁石において磁化を高めながら、保磁力を発現させることで高性能な永久磁石、それを用いた永久磁石モータおよび発電機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態の永久磁石は、
組成式:Sm1−x(FeCuCo1−p−q−r
(RはNd,Prから選ばれる1種以上の元素、MはTi,Zr,Hfから選ばれる1種以上の元素、0.05≦x<0.5,7≦z≦9、0.22≦p≦0.45、0.005≦q≦0.05、0.01≦r≦0.1)
で表され、ThZn17型構造を有する相を主相とし、粉末X線回折による前記ThZn17型構造の(113)面からの回折ピーク強度をI(113),(300)面からの回折ピーク強度をI(300)とするとき、0.9≦I(113)/I(300)≦1.7の関係を満たすことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の実施形態の永久磁石モータは、前記永久磁石を永久磁石モータに用いることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の実施形態の発電機は、前記永久磁石を発電機の用いることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態のX線回折パターンを示す図である。
【図2】実施形態の永久磁石モータを示す図である。
【図3】実施形態の発電機を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて実施の形態を説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
近年、各種電気機器の小型軽量化、低消費電力化の要求が高まり、これに対応するために永久磁石の最大磁気エネルギー積(BHmax)を向上させた、より高性能の永久磁石が求められている。
【0014】
また、最近ではハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)のモータに使用される耐熱性の高い永久磁石が求められている。
【0015】
HEVやEV用モータには、現在、主としてNd−Fe−B磁石が用いられているが、高い耐熱性の要求からNdの一部をDyで置換して保磁力を高めた材質が選択されている。Dyは希少元素の一つであり、HEVやEV用モータの本格的普及に際してはDyを全く使用しない永久磁石が強く求められている。Dyを使用せず耐熱性の良好な永久磁石としてはSm−Co磁石が知られているが、Nd−Fe−B磁石と比べて磁化が小さいという課題があり、より磁化の高いSm−Co磁石が求められている。
【0016】
このSm―Co磁石においては、Smの一部を磁気モーメントの大きなNdやPrで置換することにより、磁化を向上させることが可能である。しかし、Nd、PrでSmを置換すると、その4f電子軌道の形態から磁気異方性が低下し、保磁力の発現が困難になるという問題がある。そのため、Nd、Prの置換量を増やしながら、保磁力を発現させる技術が必要となる。
【0017】
Sm−Co磁石の中で、高性能な磁石であるSm2Co17磁石は、2相分離で生じた結晶粒界における磁壁のピンニングによって保磁力が発現すると言われており、金属組織が特性に与える影響が極めて大きい磁石である。
【0018】
本発明者らは、前記課題を解決するために、Smの一部をNdあるいはPrで置換した合金組成において金属組織を検討した結果、高い磁化を維持しながら保磁力を発現させ、高特性な永久磁石を実現可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
本発明の永久磁石は、
組成式:Sm1−x(FeCuCo1−p−q−r
(RはNd,Prから選ばれる1種以上の元素、MはTi,Zr,Hfから選ばれる1種以上の元素、0.05≦x<0.5,7≦z≦9、0.22≦p≦0.45、0.005≦q≦0.05、0.01≦r≦0.1)
で表され、ThZn17型構造型構造を有する相を主相とし、粉末X線回折による前記Th2Zn17型構造の(113)面からの回折ピーク強度をI(113),(300)面からの回折ピーク強度をI(300)とするとき、0.9≦I(113)/I(300)≦1.7の関係であることを特徴とする。
【0020】
すなわち、この実施形態の永久磁石は、本発明で規定する組成式を満足した上で、ThZn17型構造を有する相を主相とする組織を有しており、そのThZn17型構造型構造の特定の面でのピーク強度比は本発明で規定する範囲を満足するものである。
【0021】
本発明における各元素について以下に説明する。
【0022】
(SmおよびR元素)
Sm(サマリウム)は、永久磁石に大きな磁気異方性をもたらし、高い保磁力を付与するために有効な元素である。SmとR元素の総量があまり少ないと多量のα−Fe相が析出して意図する高い保磁力を得ることができない。逆にSmとR元素の総量があまり多いと飽和磁化が低下する。このため、SmとR元素の総量は、Fe(鉄)、M元素、Cu(銅)およびCo(コバルト)との原子比を示すz値が7≦z≦9の範囲とすることが好ましい。z値は、7.3≦z≦9の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは7.5≦z≦8.6の範囲である。
【0023】
R元素は、Nd(ネオジム)およびPr(プラセオジム)から選ばれる1種以上の元素が使用される。R元素は磁化の向上のために有効な元素である。SmとR元素の総量に対し、R元素量があまり少ないと磁化の向上の効果を得ることが期待できない。逆にR元素量が増加することにより飽和磁化を向上することができるが、あまりR元素量が多いと磁気異方性さらには保磁力を低下させる恐れがある。このため、R元素量は、SmとR元素の総量に対する原子比を示すx値が0.05≦x<0.5の範囲とすることが好ましい。x値は、0.1≦x≦0.45の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは0.2≦x≦0.4の範囲である。
【0024】
ここで、Smの一部が、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Er(ユウロピウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)から選ばれる1種以上の元素で置換されることが可能であり、これにより精製時のコストを低下させることができ、工業上有利である。これら元素は、Smに対し、あまり多いと磁気特性が低下する恐れがあるため、50原子%以下の量で添加されることが好ましい。好ましくは40原子%以下、より好ましくは30原子%以下である。
【0025】
(Fe)
Feは、主として永久磁石の磁化を担うための元素である。Fe量があまり少ないと永久磁石の磁化の向上の効果を得ることが期待できない。逆にFe量が増加することにより永久磁石の飽和磁化を向上することができるが、あまりFe量が多いとα−Fe相の析出などにより保磁力を低下させる恐れがある。このため、Fe量は、Fe、M元素、CuおよびCoの総量に対する原子比を示すp値が0.22≦p≦0.45の範囲とすることが好ましい。p値は、0.26≦p≦0.45の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは0.28≦p≦0.45の範囲である。
【0026】
(M元素)
M元素は、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)から選ばれる1種以上の元素が使用される。M元素は、高いFe量の組成で大きな保磁力を発現させるために有効な元素である。M元素があまり少ないと保磁力向上の効果を得ることが期待できない。逆に、M元素量があまり多いと磁化を低下させる恐れがある。このため、M元素量は、Fe、M元素、CuおよびCoの総量に対する原子比を示すq値が、0.005≦q≦0.05の範囲とすることが好ましい。q値は、0.015≦q≦0.04の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは0.015≦p≦0.035の範囲である。
【0027】
ここで、M元素のうち、M元素の総量に対し、50原子%以上をZrに置換することによって保磁力を高める効果をさらに向上することができる。
【0028】
なお、M元素の中でHfは高価であるため、M元素の総量に対し20原子%未満とすることが工業上望ましい。
【0029】
(Cu)
Cuは、永久磁石の高い保磁力を発現させるために必須の元素である。Cu量があまり少ないと高い保磁力を得ることが困難となる。逆に、Cu量があまり多いと磁化を低下させる恐れがある。このため、Cu量は、Fe、M元素、CuおよびCoの総量に対する原子比を示すr値が、0.01≦r≦0.1の範囲とすることが好ましい。r値は、0.02≦r≦0.1の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは0.03≦r≦0.08の範囲である。
【0030】
(Co)
Coは永久磁石の磁化を担うとともに、高い保磁力を発現させるために有効な元素である。また、Coを多く含むことにより永久磁石は高いキュリー温度が得られ、磁石特性の熱安定性を高める効果も有している。Co量があまり少ないと前記効果を得ることが期待できない。逆に、Co量があまり多いと相対的にFe量が減少することになり、磁化の低下を招く恐れがある。
【0031】
ここで、Co量に対し20原子%以下をNi(ニッケル)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)、Si(シリコン)、Ga(ガリウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、W(タングステン)で置換することによって磁石特性、例えば保磁力を向上することが可能となる。これら元素の過剰の置換は磁化の低下を招く恐れがあるため、その置換量はCo量に対し20原子%以下とすることが好ましい。その置換量は、18原子%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは15原子%以下の範囲である。
【0032】
なお、本発明の永久磁石の組成は、ICP(Inductively Coupled Plasma:高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法により測定することができる。
【0033】
さらに、ThZn17型構造を有する相を主相とする組織を有している。
【0034】
ThZn17型構造を有する相を主相とする組織とすることにより、高保磁力など、高い磁石特性が得られる。
【0035】
ここで、前記主相とは永久磁石を構成する各結晶相および非晶質相などの構成相のうち体積比が最大の相を意味するものであり、具体的には体積比が50%以上であることが好ましい。
【0036】
主相であるThZn17型構造を有する相以外には、CaCu型構造を有する相が存在する。なお、これら2相以外の相が含まれることを除外するものではない。
【0037】
本発明においては、Th2Zn17型構造を有する相(2−17相)とCaCu5型構造を有する相(1−5相)とが二相分離した微細組織であることが、高い磁石特性を得る上で好ましい。
【0038】
この合金相の体積比率は電子顕微鏡や光学顕微鏡による観察、X線回折等を併用して総合的に判断されるが、永久磁石断面(磁化困難軸面)を撮影した透過型電子顕微鏡写真の面積分析法により求めることができる。永久磁石断面は、製品の表面の最大面積を有する面の実質的に中央部の断面を用いる。
【0039】
本発明の磁石材料は酸化物などの不可避的不純物を含有することを許容する。
【0040】
さらに、本発明は、粉末X線回折による前記Th2Zn17型構造の(113)面からの回折ピーク強度をI(113),(300)面からの回折ピーク強度をI(300)とするとき、0.9≦I(113)/I(300)≦1.7の関係を満足する。
【0041】
前記、本発明の範囲とすることによって、本発明で規定する組成おいて、大きな保磁力を発現させることが可能となり、磁化の高い、高性能な永久磁石を得ることができる。
【0042】
I(113)/I(300)の値があまり低いと、永久磁石として十分な保磁力が発現しない。逆に、I(113)/I(300)の値があまり大きいと磁化の低下を招く。I(113)/I(300)の値は、0.95≦I(113)/I(300)≦1.6の関係が好ましく、さらに好ましくは1≦I(113)/I(300)≦1.5の関係である。
【0043】
本発明において、I(113)及びI(300)は、ThZn17型構造の(113)面と(300)面からの粉末X線回折による回折ピーク強度によって定義される。
【0044】
本発明における粉末X線回折の具体的な測定方法を以下に示す。
【0045】
まず、永久磁石(製品に使用されている場合には、その製品から分離したもの)を、交流磁場により消磁し、消磁状態にあるものを粉砕し、平均粒径が10μm程度の粉末を得る。得られた粉末はX線の入射する試料面が平面となるように試料ホルダーに十分な量を充填する。
【0046】
測定は粉末X線回折(X-ray diffraction)のθ−2θ法により行い、X線にはCuKα線を用いる。サンプリング角度は0.04度以下で、スキャンスピードは1分間に2度以下のペースで測定する。得られた積分強度から、測定データの両端に接する直線で近似した線でバックグラウンドを差し引いたものを所望の回折ピーク強度とする。
【0047】
得られた回折ピーク強度のうち、図1に示す回折パターンに示すように、回折角2θが30度の付近に現れる、ThZn17型構造の(113)面からの回折ピーク強度I(113)と、2θが37度の付近に現れる、ThZn17型構造の(300)面からの回折ピーク強度I(300)の比を以ってI(113)/I(300)を算出する。
【0048】
次に、本発明に係わる永久磁石の製造方法の一例について説明する。
【0049】
まず、各元素を所定量含む合金粉末を作製する。合金粉末は本発明で規定される組成式の組成を満足するように調合される。
【0050】
合金粉末はストリップキャスト法等でフレーク状の合金薄帯を作製し、これを粉砕することにより調製される。ストリップキャスト法においては、例えば合金溶湯を周速0.1〜20m/秒で回転する冷却ロールに射出することによって、連続的に厚さ1mm以下に凝固させた薄帯を得ることができる。冷却ロールの周速が0.1m/秒未満の場合、薄帯中に組成のばらつきが生じる。冷却ロールの周速が20m/秒を超えると、結晶粒が単磁区サイズ以下に微細化して良好な磁気特性が得られない。冷却ロールのより好ましい周速は0.3〜15m/秒であり、さらに好ましくは0.5〜12m/秒である。
【0051】
また、合金原料をアーク溶解や高周波溶解した後に鋳造して得られる合金インゴットを粉砕することによって、本発明で規定される組成式の組成を満足する合金粉末を調製してもよい。
【0052】
合金粉末の他の調製方法としては、メカニカルアロイング法、メカニカルグラインディング法、ガスアトマイズ法、還元拡散法等が挙げられる。
【0053】
合金の粉砕はジェットミル、ボールミル等を用いて実施される。合金の粉砕は合金粉末の酸化を防止するために、不活性ガス雰囲気中もしくはエタノール中で行うことが好ましい。
【0054】
このようにして得られる合金粉末または粉砕前の合金に対して、必要に応じて熱処理を施して均質化してもよい。
【0055】
次いで、電磁石等による磁場中に設置した金型内に合金粉末を充填し、磁場を印加しながら加圧成形することによって、合金粉末の結晶軸を配向させた圧粉体を作製する。
【0056】
この圧粉体を1100℃〜1300℃の温度で0.5時間〜15時間の条件で焼結することによって、緻密な焼結体が得られる。焼結は酸化等を防止するために、真空中やアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で実施されることが好ましい。
【0057】
この焼結温度は、あまり低いと焼結体の密度が低下し、逆にあまり高いと合金粉末中のSm等が蒸発して良好な磁気特性が得られないため、前記範囲が好ましい。焼結温度は1150〜1250℃とすることが好ましく、さらに好ましくは1180℃〜1230℃である。焼結時間があまり短いと焼結体の密度が不均一となり、逆にあまり長いと合金粉末中のSm等が蒸発して良好な磁気特性が得られない。焼結時間は1時間〜10時間とすることがより好ましく、さらに好ましくは1時間〜4時間である。
【0058】
次に、焼結体に溶体化熱処理および時効熱処理を施して結晶組織を制御する。
【0059】
溶体化熱処理はTh2Zn17型構造を有する相(2−17相)を主相とするために行われ、具体的には、2−17相とCaCu5型構造を有する相(1−5相)とに相分離させる前駆体であるTbCu7型構造を有する相(1−7相)を得るために、1130〜1230℃の範囲の温度で実施する。溶体化熱処理時間は0.5〜8時間の範囲とすることが好ましい。
【0060】
溶体化熱処理温度があまり低いと、1−7相の割合を十分に高めることができず、良好な磁気特性が得られない。逆に溶体化熱処理温度があまり高いと、1−7相の割合が減少し、良好な磁気特性が得られない。このため、前記範囲の温度とした。溶体化熱処理温度は1150〜1210℃の範囲とすることがより好ましく、さらに好ましくは1160℃〜1190℃の範囲である。このような溶体化熱処理温度を適用することによって、高Fe濃度の1−7相をより一層効率よく得ることが可能となる。
【0061】
溶体化熱処理時間があまり短いと、構成相の不均一性が生じるおそれがある。逆に溶体化熱処理時間があまり長いと、焼結体中のSm等が蒸発して良好な磁気特性が得られない。このため、前記範囲の時間とした。溶体化熱処理時間は、1〜8時間の範囲とすることがより好ましく、さらに好ましくは1〜4時間の範囲である。
【0062】
この溶体化熱処理は酸化防止のために、通空中またはアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で実施されることが好ましい。
【0063】
次に、時効熱処理は、前駆体である1−7相を主相である2−17相と1−5相とに相分離させるために、例えば700〜900℃の範囲の温度で0.5〜20時間保持した後に400℃まで徐冷し、引き続き室温まで炉冷することにより実施する。
【0064】
時効熱処理温度があまり低くても、逆にあまり高くても均質な2−17相と1−5相との混合相が得られない。時効熱処理温度は750〜900℃とすることがより好ましく、さらに好ましくは800〜850℃である。
【0065】
時効熱処理時間があまり短いと1−7相から2−17相と1−5相への相分離を完了させることができない。逆にあまり長いと結晶粒の粗大化等により磁気特性が低下する。このため、前記範囲の時間とした。時効熱処理時間は1〜15時間とすることが好ましく、さらに好ましくは5〜10時間である。
【0066】
この時効熱処理は酸化防止のため、真空中またはアルゴンガス等の等の不活性ガス雰囲気中で実施されることが好ましい。
【0067】
また、時効熱処理後の徐冷は0.5〜5℃/分の範囲の冷却速度で実施することが好ましい。
【0068】
本発明の永久磁石の特徴の一つは、I(113)/I(300)の値が高いことである。I(113)/I(300)の値は、時効後の組織状態によって変化する。例えば、1−5型結晶相に代表される粒界相の存在比率が増大すると、I(113)/I(300)の値は大きくなる。粒界相の存在比率を高めるためには、Cu量を増やす、溶体化処理温度を下げるなどの手法が選択される。I(113)/I(300)の値は合金組成によっても変化し、M元素の配合割合を高めることによってその値を高めることも可能である。
【0069】
本発明に係わる永久磁石は、例えば主として永久磁石モータおよび発電機に用いられる。
【0070】
永久磁石モータ(発電機)は従来の誘導モータ(発電機)と比較して効率に優れ、小型化や低騒音化などのメリットから鉄道車両やハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(EV)の駆動モータ、発電機などで普及が進んでいる。
【0071】
永久磁石モータまたは発電機に本発明の永久磁石を搭載することによって、さらなる高効率化、小型化、低コスト化が可能となる。また、本発明の永久磁石はSm−Co系をベースとしていることから耐熱性も良好である。
【0072】
(第2の実施形態)
次に本発明の永久磁石を用いた永久磁石モータについて説明する。
【0073】
本発明の永久磁石は、各種永久磁石モータに使用される。
【0074】
図2は、永久磁石モータの一実施形態としての可変磁束モータ1を示す断面図である。
【0075】
可変磁束モータ1は、大きなトルクを小さい装置サイズにて出力可能であり、モータの高出力小型化が求められるハイブリッド車や電気自動車等に好適である。
【0076】
固定子(ステータ)2内には、回転子(ロータ)3が配置され、回転子3内の鉄心中に、本発明の永久磁石を用いた固定磁石4と、本発明の固定磁石より低保磁力の永久磁石を用いた可変磁石5を組み合わせて配置した構成である。可変磁石5の磁束密度(磁束量)は可変することが可能である。可変磁石5は、Q軸方向とその磁化方向が直交するためQ軸電流の影響を受けず、D軸電流によって磁化することができる。また、回転子3には磁化巻線(図示せず)が設けられ、この磁化巻線に磁化回路から電流を流すことでその磁界が直接に可変磁石6に作用する構造となっている。
【0077】
本発明においては、前述の製造方法の各種条件を変更することにより、例えば、保磁力が2.5kOe以上の固定磁石と、保磁力が2.0kOe以下の可変磁石を得ることが可能である。
【0078】
なお、図2においては、固定磁石4および可変磁石5のいずれにも本発明の永久磁石を用いたが、いずれか一方の磁石について本発明の永久磁石を用いても良い。
本発明の永久磁石モータは、第1の実施形態に示すような永久磁石を固定磁石5に使用することにより、さらなる高効率化、小型化、低コスト化が可能となる。
【0079】
(第3の実施形態)
次に本発明の永久磁石を用いた発電機について説明する。
【0080】
本発明の永久磁石は、各種発電機に用いられる永久磁石に使用される。
【0081】
図3は、一実施形態としての本発明の永久磁石を固定子(ステータ)14に用いた発電機10を示す概略図である。
【0082】
発電機10の一端には外部から供給される流体によって回転されるよう構成されるタービン11を有し、タービン11は軸12により回転子(ロータ)13と接続されている。なお、ここで流体によって回転されるタービン11に代え、自動車の回生エネルギーなどの動的な回転を伝達することで軸12を回転させることも可能である。前記タービン11と軸12により接続された回転子(ロータ)13およびその外部に配置された固定子(ステータ)14は、公知の永久磁石モータを使用することができる。そして、軸12の回転子13に対しタービン11との反対側に配置された整流子(図示せず)と接触し、回転子13の回転により発生した起電力を発電機10の出力として相分離母線15および主変圧器(図示せず)を介して系統電圧に昇圧され送電される。回転子13には、タービン11からの静電気による帯電や発電に伴う軸電流による帯電等が発生するため、回転子13の帯電を放電させるためにブラシ15を有している。
【0083】
本発明の発電機は、第1の実施形態に示すような永久磁石を固定磁石5に使用することにより、さらなる高効率化、小型化、低コスト化が可能となる。
【0084】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0085】
(実施例1乃至4)
表1の実施例1乃至4に示す組成になるよう各種原料を調整し、Ar(アルゴン)雰囲気においてアーク溶解して合金インゴットを得る。得られる合金インゴットに、真空中、1170℃で1時間の熱処理を施す。この合金インゴットを乳鉢粉砕により粗粉砕した後、ジェットミルにより粉砕して、粒径10μm以下の合金粉末を得る。この合金粉末を2T(テスラ)の磁界中で、圧力30kgf/cmでプレスすることで圧縮成型体を得る。この圧縮成型体をAr雰囲気中、1190℃で3時間の焼結を行い、引き続いてAr雰囲気中、1150℃で3時間の熱処理を施すことで焼結体が製造される。得られた焼結体をAr雰囲気中、830℃で4時間保持し、1.2℃/minの冷却速度で600℃まで徐冷を行い、永久磁石を得る。
【0086】
(実施例5乃至9)
表1の実施例5乃至9に示す組成になるよう各種原料を調整し、Ar雰囲気においてアーク溶解して合金インゴットを得る。得られる合金インゴットを石英製のノズルに装填し、高周波誘導加熱で溶融した後、溶湯を周速0.6m/秒で回転する冷却ロールに傾注し、連続的に凝固させた合金薄帯を作製する。この合金薄帯を粗粉砕した後、ジェットミルにより粉砕して粒径10μm以下の合金粉末を得る。この合金粉末を2Tの磁界中で、圧力30kgf/cmでプレスすることで圧縮成型体を得る。この圧縮成型体をAr雰囲気中、1200℃で1時間の焼結を行い、引き続いてAr雰囲気中、1160℃で4時間の熱処理を施すことで焼結体が製造される。得られた焼結体をAr雰囲気中、850℃で1.5時間保持し、引き続き875℃で4時間保持し、1.3℃/minの冷却速度で450℃まで徐冷を行い、永久磁石を得る。
【0087】
(比較例1)
実施例1の組成に対し、Cu量を表1に示す組成になるよう各種原料を調整し、実施例1と同様の方法、条件により圧縮成型体を得る。この圧縮成型体をAr雰囲気中、1200℃で3時間の焼結を行い、引き続いてAr雰囲気中、1180℃で3時間の熱処理を施すことで焼結体が製造される。得られた焼結体をAr雰囲気中、850℃で4時間保持し、1.2℃/minの冷却速度で600℃まで徐冷を行い、永久磁石を得る。
【0088】
(比較例2)
実施例5の組成に対し、Zr量を表1に示す組成になるよう各種原料を調整し、実施例5と、同様の方法、条件により圧縮成型体を得る。この圧縮成型体をAr雰囲気中、1210℃で1時間の焼結を行い、引き続いて1180℃で4時間の熱処理を施すことで焼結体が製造される。得られた焼結体をAr雰囲気中、830℃で1.5時間保持し、引き続き870℃で4時間保持し、1.3℃/minの冷却速度で450℃まで徐冷を行い、永久磁石を得る。
【0089】
(比較例3、4)
表1に示す比較例3,4に示す組成になるように各種原料を調整し、Ar雰囲気においてアーク溶解して合金インゴットを得る。得られる合金インゴットをジェットミルにより粉砕して、粒径10μm以下の合金粉末を得る。この合金粉末を2Tの磁界中で、圧力30kgf/cmでプレスすることで圧縮成型体を得る。この圧縮成型体をAr雰囲気中、1190℃で3時間の焼結を行い、引き続いてAr雰囲気中、1150℃で3時間の熱処理を施すことで焼結体が製造される。得られた焼結体をAr雰囲気中、830℃で4時間保持し、1.2℃/minの冷却速度で600℃まで徐冷を行い、永久磁石を得る。
【0090】
得られる実施例1乃至9および比較例1乃至4の永久磁石におけるThZn17型構造のI(113)/I(300)、保磁力(Hcj)、残留磁化(Mr)を測定する。その結果を表1に示す。
【0091】
なお、得られる永久磁石の合金相を、永久磁石断面(磁化困難軸面)を撮影した透過型電子顕微鏡写真の面積分析法により確認した結果、いずれもThZn17型構造が主相であることを確認した。
【0092】
ThZn17型構造I(113)/I(300)の値は粉末X線回折による回折ピーク強度から計算した。具体的には、試料を粉砕し、平均粒径が10μm程度の粉末とした後、XRD装置(装置名:RIGAKU社製、型番:RINT-1000)にて、回折ピークを測定した。その際、管球にはCuを用い、管電圧40kV、管電流40mAにてCuKα線を用いた。また、サンプリング角度は0.020度であり、スキャンスピードは1分間に2度のペースであった。図1に実施例1のX線回折パターンを示す。また、保磁力、残留磁化についてはBHトレーサ(装置名:YOKOGAWA社製、型番:3257 MAGNETIC HYSTERESISLOOP TRACER)で測定した。

【表1】

【0093】

表1に示すように、I(113)/I(300)の値が本発明の範囲を満たす実施例1乃至9は、いずれも保磁力が300kA/m以上で、かつ、残留磁化が1.15T以上である。これに対して、I(113)/I(300)の値が本発明の範囲を満たさない、比較例1乃至4は、保磁力が実施例に比較し低い。
【0094】
このように、本発明は、高保磁力で、かつ残留磁化も優れており、高性能な永久磁石を得ることができる。
【0095】
(実施例10)
実施例1乃至9の永久磁石を図2に示す永久磁石モータ(可変磁束モータ)に使用したところ、従来に比較し、さらなる高効率化、小型化、低コスト化が可能となる。
【0096】
(実施例11)
実施例1乃至9の永久磁石を図3に示す発電機に使用したところ、従来に比較し、さらなる高効率化、小型化、低コスト化が可能となる。
【0097】
なお、本実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。本実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。こ本実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0098】
1 可変磁束モータ
2 固定子(ステータ)
3 回転子(ロータ)
4 固定磁石
5 可変磁石
10 発電機
11 タービン
12 軸
13 回転子(ロータ)
14 固定子(ステータ)
15 相分離母線
16 ブラシ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:(Sm1−x100−z(FeCuCo1−p−q−r
(RはNd,Prから選ばれる1種以上の元素、MはTi,Zr,Hfから選ばれる1種以上の元素、0.05≦x<0.5,7≦z≦9、0.22≦p≦0.45、0.005≦q≦0.05、0.01≦r≦0.1)
で表され、ThZn17型構造を有する相を主相とし、粉末X線回折による前記ThZn17型構造の(113)面からの回折ピーク強度をI(113),(300)面からの回折ピーク強度をI(300)とするとき、0.9≦I(113)/I(300)≦1.7の関係を満たすことを特徴とする永久磁石。
【請求項2】
Smの一部が、Y、La、Ce、Er、Tb、Dyから選ばれる1種以上の元素で置換されていることを特徴とする請求項1に記載の永久磁石。
【請求項3】
Coの20原子%以下を、Ni、V、Cr、Mn、Al、Ga、Nb、Ta、Wで置換されることを特徴とする請求項1乃至請求項3いずれか1項に記載の永久磁石。
【請求項4】
Mの総量の50原子%以上がZrで置換されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4いずれか1項に記載の永久磁石。
【請求項5】
請求項1乃至5いずれか1項に記載の永久磁石を用いることを特徴とする永久磁石モータ。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか1項に記載の永久磁石を用いることを特徴とする発電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−69819(P2012−69819A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214425(P2010−214425)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】