説明

永久磁石、分割永久磁石、分割永久磁石の製造方法及びロータ

【課題】磁石材料の歩留まりを低下させることなく磁石渦損を低減でき、安価で生産性の良い分割永久磁石を提供すること。
【解決手段】分割永久磁石16は、一つの永久磁石塊31が割断により複数の分割片32に分割されている。隣り合う分割片32の対向する割断面32aの少なくとも一方には、レーザを照射することにより、盛り上がったレーザ照射痕33が形成される。そして、隣り合う分割片32の対向する割断面32aがレーザ照射痕33を介して突き合わされることにより、一塊の分割永久磁石16が構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ロータ等に使用される永久磁石、分割永久磁石、分割永久磁石の製造方法及び分割永久磁石を用いたロータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ハイブリッド(HV)自動車等には、高出力のモータが使用されている。このモータを構成するロータの内部では、磁気変動が大きく、そのロータに使用される永久磁石に渦損が発生する。そこで、この渦損の低減を狙って、一塊りの希土類磁石を複数の分割片に分割した分割永久磁石とすることが考えられる。下記の特許文献1〜3には、その分割永久磁石の一例が開示されている。
【0003】
ここで、特許文献1〜3に記載の分割永久磁石を構成する分割片は、それぞれ別体で製造されたものであるか、一塊の永久磁石を複数の分割片に機械的に切断したものである。製造効率や製造コストの観点からすれば、後者の切断したものが有効である。切断には、例えば、ダイヤモンドチップが付着した高価な切断刃具が必要となる。この切断刃具は消耗品であることから、頻繁に交換が必要となり、その分だけ製造コストが高騰する。また、切断時には、磁石材料が多量に切削されるので、切断後の分割永久磁石としては、磁石材料の歩留まりが低下することとなる。
【0004】
そこで、下記の特許文献4に記載の技術では、一塊の永久磁石を割ることで、すなわち割断することで複数の分割片に分割することにより分割永久磁石を製造し、製造コストの低減と磁石材料の歩留まり向上を図るようにしている。
【0005】
しかしながら、割断により分割された分割永久磁石では、渦損の残存率が比較的大きくなる傾向があった。図21に、分割永久磁石の分割数と磁石渦損の残存率との関係をグラフにより示す。このグラフにおいて、白抜きの菱形印で示す曲線は、切断により分割された分割永久磁石(切断型)の特性を示し、黒塗りの菱形印は、割断により分割された分割永久磁石(割断型)の特性を示す。このグラフから、割断による分割永久磁石の特性は、切断による分割永久磁石の特性に対し、同一分割数での磁石渦損の残存率が大きいことが分かる。このようになる原因として、以下のことが考えられる。すなわち、割断による分割永久磁石では、隣り合う分割片につき、そのまま割断面が突き合わされるので、図22に拡大断面図に示すように、破面が噛み合って接触面が増加し、割断面の表面にできる酸化膜50が薄くなってしまう。この酸化膜50は、絶縁機能を有するが、充分な厚さがないことから、有効な絶縁機能を発揮することができない。
【0006】
そこで、分割片の割断面に絶縁処理を施すことで磁石渦損の低減を図ることが考えられる。特許文献5には、この種の絶縁処理の一例が開示されている。この絶縁処理は、隣り合う分割片の断面の間に断面形状相当の形状を有するシートをスペーサとして挿入している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−198365号公報
【特許文献2】特開2004−96868号公報
【特許文献3】特開2006−238565号公報
【特許文献4】特開2009−142081号公報
【特許文献5】特開2003−164083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献5に記載の絶縁処理では、隣り合う分割片の間にシートを挿入しているので、そのシートを設ける分だけ製造コストが高騰し、生産性が悪化するおそれがある。そこで、分割永久磁石を構成するために、製造コストの高騰と生産性の悪化を招くことのない技術の開発が望まれる。
【0009】
この発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、磁石材料の歩留まりを低下させることなく磁石渦損を低減できる分割永久磁石を構成し得る永久磁石を提供することにある。この発明の別の目的は、磁石材料の歩留まりを低下させることなく磁石渦損を低減でき、安価で生産性の良い分割永久磁石を提供することにある。この発明の他の目的は、上記分割永久磁石を安価で生産性良く製造することのできる分割永久磁石の製造方法を提供することにある。この発明の更に別の目的は、分割永久磁石における渦損を低減できるロータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明の永久磁石は、表面にレーザを照射することにより、盛り上がったレーザ照射痕を形成したことを趣旨とする。
【0011】
上記発明の構成によれば、複数の永久磁石につき、レーザ照射痕が形成された表面同士を、レーザ照射痕を介して突き合わせることで、一組の分割永久磁石が構成される。従って、この場合は、分割永久磁石において、隣り合う永久磁石の間でレーザ照射痕が絶縁機能を有するスペーサとして作用する。
【0012】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、レーザ照射痕は、磁石材料が加熱溶融して盛り上がった酸化物であることを趣旨とする。
【0013】
上記発明の構成によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、盛り上がった酸化物が絶縁物として機能することとなる。
【0014】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、一つの永久磁石塊を割断により複数の分割片に分割してなる分割永久磁石において、隣り合う分割片の対向する割断面の少なくとも一方に盛り上がったレーザ照射痕が形成され、隣り合う分割片の対向する割断面がレーザ照射痕を介して突き合わされたことを趣旨とする。
【0015】
上記発明の構成によれば、分割永久磁石において、隣り合う分割片の対向する割断面の間でレーザ照射痕が絶縁機能を有するスペーサとして作用する。
【0016】
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、レーザ照射痕は、磁石材料が加熱溶融して盛り上がった酸化物であることを趣旨とする。
【0017】
上記発明の構成によれば、請求項3に記載の発明の作用に加え、盛り上がった酸化物が絶縁物として機能することとなる。
【0018】
上記目的を達成するために、請求項5に記載の発明の分割永久磁石の製造方法は、一つの永久磁石塊を割断により複数の分割片に順次分割しながら、隣り合う二つの分割片の対向する割断面の少なくとも一方にレーザを照射することにより、盛り上がったレーザ照射痕を形成し、その後、隣り合う分割片の対向する割断面をレーザ照射痕を介して突き合わせることにより、一塊の分割永久磁石を製造することを趣旨とする。
【0019】
上記発明の構成によれば、請求項3又は4に記載の分割永久磁石が得られる。ここで、分割永久磁石を製造するために、永久磁石塊を切断しないので、高価な切断刃具が不要となり、磁石材料を切削することがない。
【0020】
上記目的を達成するために、請求項6に記載の発明の分割永久磁石の製造方法は、一つの永久磁石塊を割断により複数の分割片に分割し、次に、分割された隣り合う分割片の対向する割断面の少なくとも一方にレーザを照射することにより、盛り上がったレーザ照射痕を形成し、その後、隣り合う分割片の対向する割断面をレーザ照射痕を介して突き合わせることにより、一塊の分割永久磁石を製造することを趣旨とする。
【0021】
上記発明の構成によれば、請求項3又は4に記載の分割永久磁石が得られる。ここで、分割永久磁石を製造するために、永久磁石塊を切断しないので、高価な切断刃具が不要となり、磁石材料を切削することがない。
【0022】
上記目的を達成するために、請求項7に記載の発明は、略円柱形をなすロータコアと、ロータコアの外周縁部にて軸線方向に貫通する複数のスロットと、複数のスロットのそれぞれに組み付けられた永久磁石とを備えたロータにおいて、永久磁石として、請求項3又は4に記載の分割永久磁石を備えたことを趣旨とする。
【0023】
上記発明の構成によれば、ロータコアの各スロットに分割永久磁石が組み付けられるので、集中巻モータのロータとして使用した場合に、分割永久磁石での渦損の発生が低減される。
【発明の効果】
【0024】
請求項1及び2に記載の発明によれば、磁石材料の歩留まりを低下させることなく磁石渦損を低減できる分割永久磁石を構成することができる。
【0025】
請求項3及び4に記載の発明によれば、分割永久磁石につき、磁石材料の歩留まりを低下させることなく磁石渦損を低減させることができ、安価に製造することができ、生産性を向上させることができる。
【0026】
請求項5及び6に記載の発明によれば、磁石材料の歩留まりがよく、磁石渦損を低減させることのできる分割永久磁石を安価に生産性良く製造することができる。
【0027】
請求項7に記載の発明によれば、モータに使用されるロータにつき、その構成要素である分割永久磁石における渦損を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】一実施形態に係り、ロータを示す平面図。
【図2】同実施形態に係り、ロータを示す図1の2−2線断面図。
【図3】同実施形態に係り、ロータにつき、図1の鎖線楕円で囲んだ分割永久磁石の部分を拡大して示す平面図。
【図4】同実施形態に係り、分割永久磁石を組み付ける前のロータコアを示す平面図。
【図5】同実施形態に係り、ロータコアにつき、図4の鎖線楕円で囲んだスロットの部分を拡大して示す平面図。
【図6】同実施形態に係り、ロータコアの一つのスロットの部分を示す図5の6−6線断面図。
【図7】同実施形態に係り、ロータの製造方法を示すフローチャート。
【図8】同実施形態に係り、成形された1枚の電磁鋼板を示す平面図。
【図9】同実施形態に係り、「分割永久磁石作製工程」の内容を示すフローチャート。
【図10】同実施形態に係り、焼成された一つの永久磁石塊を示す斜視図。
【図11】同実施形態に係り、「割断及びレーザ照射の過程」における永久磁石塊等を示す斜視図。
【図12】同実施形態に係り、割断面にレーザ照射痕を付した一組の分割永久磁石を示す斜視図。
【図13】同実施形態に係り、分割片の割断面の一部を拡大して示す断面図。
【図14】同実施形態に係り、レーザを生成するパルス周波数とドロス高さとの関係を示すグラフ。
【図15】同実施形態に係り、一塊の分割永久磁石を示す斜視図。
【図16】同実施形態に係り、「分割永久磁石組付工程」を示す断面図。
【図17】同実施形態に係り、「分割永久磁石組付工程」を示す断面図。
【図18】別の実施形態に係り、「分割永久磁石作製工程」の内容を示すフローチャート。
【図19】一実施形態に係り、分割片の割断面におけるレーザ照射痕を示す正面図。
【図20】別の実施形態に係り、分割片の割断面におけるレーザ照射痕を示す正面図。
【図21】従来例に係り、分割永久磁石の分割数と磁石渦損の残存率との関係を示すグラフ。
【図22】従来例に係り、分割片の割断面を示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明における分割永久磁石、分割永久磁石の製造方法及びロータを具体化した一実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
図1に、この実施形態のロータ11を平面図により示す。図2に、ロータ11を図1の2−2線断面図により示す。図1,2に示すように、このロータ11は、略円柱形状をなすロータコア12と、ロータコア12の中心に形成された一つのシャフト締付孔13と、シャフト締付孔13に組み付けられたロータシャフト14とを備える。
【0031】
この実施形態で、図2に示すように、ロータコア12は、複数の電磁鋼板22を積層することにより構成される。図1に示すように、ロータコア12の外周部には、等角度間隔に配置され、ロータコア12の軸方向に貫通する複数のスロット15が形成される。複数のスロット15は、ロータコア12の外周縁に沿って配列され、隣り合う2つのスロット15が「ハの字状」又は「逆ハの字状」をなすように配置される。各スロット15には、それぞれ界磁用の分割永久磁石16が組み付けられて固定される。ロータコア12には、シャフト締付孔13と複数のスロット15との間にて、シャフト締付孔13の周囲に、複数の肉抜き孔17が形成される。これらの肉抜き孔17は、平面視で略台形状をなし、ロータコア12を軸方向に貫通する。
【0032】
図1,2に示すように、ロータシャフト14は、筒形をなし、その外周には、ロータコア12に係合するフランジ14aが形成される。この実施形態で、ロータシャフト14は、金属材料を鍛造することにより成形される。ロータシャフト14は、ロータコア12のシャフト締付孔13に中間ばめ又は圧入により組み付けられる。
【0033】
図3に、ロータ11につき、図1の鎖線楕円S1で囲んだ分割永久磁石16の部分を拡大して平面図により示す。「逆ハの字状」をなす隣り合う二つのスロット15の間には、両スロット15を区画する肉部分としての第1のブリッジ部18が形成される。また、各スロット15からロータコア12の外周縁までの間には、肉部分としての第2のブリッジ部19が形成される。モータを構成するために、このロータ11がステータ(図示略)に組み付けられた状態で、各スロット15の中の分割永久磁石16を、ロータ11の周囲に位置するステータに近付けるためには、第2のブリッジ部19の幅を極力小さくする必要がある。分割永久磁石16は、各スロット15の中に挿入され、接着剤等により固定される。
【0034】
図4に、ロータシャフト14と分割永久磁石16を組み付ける前のロータコア12を平面図により示す。図5に、ロータコア12につき、図4の鎖線楕円S2で囲んだスロット15の部分を拡大して平面図により示す。図6に、ロータコア12の一つのスロット15の部分を図5の6−6線断面図により示す。
【0035】
次に、この実施形態におけるロータ11の製造方法について説明する。図7に、この製造方法をフローチャートにより示す。
【0036】
図7(1)に示す「電磁鋼板成形工程」では、複数の電磁鋼板22を互いに同一形状に成形する。図8に、成形された1枚の電磁鋼板22を平面図により示す。この電磁鋼板22は、「0.3(mm)」程度の薄板材をプレスすることにより成形される。図8に示すように、この電磁鋼板22は、円形の外形をなし、複数のスロット15を構成する複数のスロット用孔25が外周部に等角度間隔に形成される。電磁鋼板22の中心には、シャフト締付孔13に対応する一つの中心孔23が形成される。また、電磁鋼板22において、中心孔23と複数のスロット用孔25との間には、複数の肉抜き孔17に対応する複数の中間孔27が形成される。
【0037】
次に、図7(2)に示す「ロータコア作製工程」では、上記工程で成形された複数の電磁鋼板22を積層することによりロータコア12を作製する。このとき、複数の電磁鋼板22を、隣接する上下の電磁鋼板22の間で、中心孔23、スロット用孔25及び中間孔27が整合するように積層する。
【0038】
また、図7(3)に示す「分割永久磁石作製工程」では、複数の分割永久磁石16を作製する。この工程の内容を図9のフローチャートを参照して説明する。
【0039】
最初に、図9(1)に示す「成形過程」では、周知の方法により、磁石材料を直方体形状に成形する。この場合、一度に複数の成形体を作ることもできる。次に、図9(2)に示す「焼成過程」では、複数の成形体を焼成することにより、複数の永久磁石塊を作製する。図10に、焼成された一つの永久磁石塊31を斜視図により示す。
【0040】
次に、図9(3)に示す「割断及びレーザ照射の過程」では、図11に斜視図で示すように、一つの永久磁石塊31を割断により複数の分割片32に順次分割しながら、隣り合う二つの分割片32の対向する割断面32aの少なくとも一方に対しレーザ装置41によりレーザを照射することにより、盛り上がったレーザ照射痕33を形成する。ここで、レーザの照射は、割断面32aの全面に対してレーザを連続的にスキャンすることにより行われる。レーザ装置41として、例えば、グリーンファイバーレーザが使用される。このようにして、図12に斜視図で示すように、複数の分割片32に分割され、割断面32aにレーザ照射痕33を形成した一組の分割永久磁石34を作製する。
【0041】
図13に、分割片32の割断面32aの一部を拡大して断面図により示す。分割面32aには、レーザを照射することで所定量αだけ盛り上がったレーザ照射痕33が形成される。このレーザ照射痕33は、レーザの高熱により基材が溶けて酸化物状となって盛り上がったものである。この盛り上がり部分(ドロス)の高さαは「10(μm)」程度が想定される。
【0042】
ここで、レーザ照射痕33の盛り上がり部分(ドロス)の生成条件について説明する。図14に、レーザを生成するパルス周波数とドロス高さとの関係をグラフにより示す。ここでは、グリーンファイバーレーザ(出力6W)により、レーザをスキャン照射することにより形成されるドロスの高さを測定した。グラフ中、白丸及び破線は、レーザを「100(%)」の出力で、「100(mm/sec)」の速度でスキャンした場合を示す。グラフ中、黒丸及び実線は、レーザを「100(%)」の出力で、「10(mm/sec)」の速度でスキャンした場合を示す。このグラフから明らかなように、レーザのパルス周波数を「40〜50(nsec)」とし、レーザの出力を「100(%)」とし、レーザのスキャン速度を「10(mm/sec)」とした場合に、「10(μm)」程度のドロス高さが得られることが分かる。
【0043】
その後、図9(4)に示す「突き合わせ過程」では、隣り合う分割片32をレーザ照射痕33を介して割断面32aを突き合わせることにより、図15に斜視図で示すように、一塊の分割永久磁石16とする。この一塊となった分割永久磁石16の寸法は、上記したロータコア12のスロット15のそれに適合する。この「分割永久磁石作製工程」は、ロータ製造に係る上記した各工程と並行して行うことができる。
【0044】
上記したように、この実施形態では、一つの永久磁石塊31を割断により複数の分割片32に順次分割しながら、隣り合う二つの分割片32の対向する割断面32aの少なくとも一方にレーザを照射することにより、盛り上がったレーザ照射痕33を形成し、その後、隣り合う分割片32の対向する割断面32aをレーザ照射痕33を介して突き合わせることにより、一塊の分割永久磁石16を製造するようにした分割永久磁石の製造方法を採用している。
【0045】
その後、図7(4)に示す「分割永久磁石組付工程」では、上記工程で作製されたロータコア12の各スロット15の中に、分割永久磁石16を組み付けて固定する。すなわち、図16,17に断面図で示すように、ロータコア12の各スロット15に分割永久磁石16を挿入して固定する。このとき、分割永久磁石16とスロット15の内壁との間に接着剤等を介在させることができる。
【0046】
また、図7(5)に示す「ロータシャフト作製工程」では、周知の方法によりロータシャフト14を作製する。この工程は、ロータ製造に係る上記した各工程と並行して行うことができる。
【0047】
そして、図7(6)に示す「ロータシャフト組付工程」では、ロータコア12のシャフト締付孔13に、ロータシャフト14を中間ばめ又は圧入して組み付ける。このようにして、図1,2に示すロータ11を製造することができる。
【0048】
以上説明したこの実施形態のロータ11によれば、ロータコア12の各スロット15に、複数の分割片32からなる分割永久磁石16が組み付けられる。従って、このロータ11を、集中巻モータのロータとして使用した場合に、分割永久磁石16での渦損の発生が低減される。この結果、モータの効率を向上させることができる。
【0049】
この実施形態のロータ11に使用される分割永久磁石16によれば、隣り合う分割片32の対向する割断面32aの間でレーザ照射痕33が絶縁機能を有するスペーサとして作用することになる。すなわち、レーザ照射痕33の盛り上がった酸化物が絶縁物として機能することとなる。このため、隣り合う分割片32の間に、別部材をスペーサとして設けることなく、モータにおける永久磁石16の渦損を低減させることができる。また、別部材のスペーサを設けない分だけ、分割永久磁石16につき、製造コストを低減することができ、その生産性を向上させることができ、分割永久磁石16の量産性を向上させることができる。
【0050】
この実施形態では、分割永久磁石16を得るために、図9にフローチャートで示すような製造方法を採用している。そのため、分割永久磁石16を製造するために、永久磁石塊31を切断しないので、高価な切断刃具が不要となり、磁石材料を切削することがない。このため、分割永久磁石16の製造コストの高騰を抑えることができ、分割永久磁石16として磁石材料の歩留まり低下を抑えることができる。
【0051】
なお、この発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜に変更して実施することができる。
【0052】
前記実施形態では、分割永久磁石16の製造に際して、図9に示すように、(1)の「成形過程」及び(2)の「焼成過程」の後に、永久磁石塊31を割断するたびにレーザを照射する(3)の「割断及びレーザ照射の過程」を行い、その後、(4)の「突き合わせ過程」を行うように構成した。これに対し、図18に示すように、(1)の「成形過程」及び(2)の「焼成過程」の後に、永久磁石塊を複数の分割片に割断する(3)の「割断過程」を行い、その後、分割片のそれぞれにつき、割断面にレーザを照射する(4)の「レーザ照射過程」を行い、その後、(5)の「突き合わせ過程」を行うようにしてもよい。すなわち、一つの永久磁石塊を割断により複数の分割片に分割し、次に、分割された隣り合う分割片の対向する割断面の少なくとも一方にレーザを照射することにより、盛り上がったレーザ照射痕を形成し、その後、隣り合う分割片の対向する割断面をレーザ照射痕を介して突き合わせることにより、一塊の分割永久磁石を製造する製造方法を採用する。この場合も、前記実施形態と同等の作用効果を得ることができる。
【0053】
前記実施形態では、図19に示すように、分割片32の割断面32aの全面に対して、レーザを連続的にスキャンすることにより、レーザ照射痕33を形成した。これに対し、図20に示すように、分割片32の割断面32aに対して、レーザを適宜スポット的に照射することにより、レーザ照射痕33を形成するようにしてもよい。この場合、レーザのスポットの配置と数は、必要に応じて適宜変更することができる。
【0054】
前記実施形態では、焼成された永久磁石塊31を複数の分割片32に割断することで分割永久磁石を構成し、分割片32の割断面32aにレーザ照射痕33を形成した。これに対し、複数の永久磁石をそれぞれ焼成し、それら永久磁石を分割片として複数組み合わせることで分割永久磁石を構成し、隣り合う永久磁石の対向面の少なくとも一方にレーザ照射痕を形成するように構成してもよい。この場合は、永久磁石の表面にレーザを照射することにより、盛り上がったレーザ照射痕を形成することになる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
この発明は、例えば、ハイブリッド(HV)自動車等に使用されるモータのロータに利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
11 ロータ
12 ロータコア
15 スロット
16 分割永久磁石
31 永久磁石塊
32 分割片
32a 割断面
33 レーザ照射痕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にレーザを照射することにより、盛り上がったレーザ照射痕を形成したことを特徴とする永久磁石。
【請求項2】
前記レーザ照射痕は、磁石材料が加熱溶融して盛り上がった酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の永久磁石。
【請求項3】
一つの永久磁石塊を割断により複数の分割片に分割してなる分割永久磁石において、
隣り合う分割片の対向する割断面の少なくとも一方に盛り上がったレーザ照射痕が形成され、前記隣り合う分割片の対向する割断面が前記レーザ照射痕を介して突き合わされたことを特徴とする分割永久磁石。
【請求項4】
前記レーザ照射痕は、磁石材料が加熱溶融して盛り上がった酸化物であることを特徴とする請求項3に記載の分割永久磁石。
【請求項5】
一つの永久磁石塊を割断により複数の分割片に順次分割しながら、隣り合う二つの分割片の対向する割断面の少なくとも一方にレーザを照射することにより、盛り上がったレーザ照射痕を形成し、
その後、隣り合う分割片の対向する割断面を前記レーザ照射痕を介して突き合わせることにより、一塊の分割永久磁石を製造する
ことを特徴とする分割永久磁石の製造方法。
【請求項6】
一つの永久磁石塊を割断により複数の分割片に分割し、
次に、前記分割された隣り合う分割片の対向する割断面の少なくとも一方にレーザを照射することにより、盛り上がったレーザ照射痕を形成し、
その後、隣り合う分割片の対向する割断面を前記レーザ照射痕を介して突き合わせることにより、一塊の分割永久磁石を製造する
ことを特徴とする分割永久磁石の製造方法。
【請求項7】
略円柱形をなすロータコアと、
前記ロータコアの外周縁部にて軸線方向に貫通する複数のスロットと、
前記複数のスロットのそれぞれに組み付けられた永久磁石と
を備えたロータにおいて、
前記永久磁石として、請求項3又は4に記載の分割永久磁石を備えたことを特徴とするロータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公開番号】特開2012−138975(P2012−138975A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287649(P2010−287649)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】