説明

永久磁石とそれを用いたモータおよび発電機

【課題】高鉄濃度組成を有するSm−Co系磁石で大きな保磁力を発現させることを可能にした永久磁石を提供する。
【解決手段】実施形態の永久磁石は、組成式:RpFeqZrrsCutCo100-p-q-r-s-t(R:希土類元素、M:TiおよびHfから選ばれる少なくとも1種、10≦p≦15、24≦q≦40.5、1.5≦r≦4.5、0≦s≦2.3、1.5≦r+s≦4.5、0.8≦t≦13.5(原子%))で表される組成を有する。永久磁石は、Th2Zn17型結晶相からなる主相と、主相の結晶粒界に存在し、Zr濃度が4原子%以上35原子%以下の結晶相を有する粒界相とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、永久磁石とそれを用いたモータおよび発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能な永久磁石としては、Sm−Co系磁石やNd−Fe−B系磁石等の希土類磁石が知られており、モータや発電機等の電気機器に使用されている。永久磁石を用いた電気機器に対する小型軽量化や低消費電力化の要求が高まり、それらに対応するために永久磁石のより一層の高性能化が求められている。
【0003】
ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)のモータに永久磁石を使用する場合、永久磁石には耐熱性が求められる。HEVやEV用モータには、Nd−Fe−B系磁石のNdの一部をDyで置換して耐熱性を高めた永久磁石が用いられている。Dyは希少元素の一つであるため、Dyを使用しない永久磁石が求められている。また、高効率のモータや発電機として、可変磁石と固定磁石の2種類の磁石を使用した可変磁束モータや可変磁束発電機が知られている。可変磁石には、Al−Ni−Co系磁石やFe−Cr−Co系磁石が用いられている。可変磁束モータや可変磁束発電機の高性能化や高効率化のために、可変磁石や固定磁石の保磁力や磁束密度を高めることが求められている。
【0004】
Sm−Co系磁石はキュリー温度が高いため、Dyを使用しない系で優れた耐熱性を示すことが知られており、高温で良好なモータ特性等を実現することができる。また、Sm−Co系磁石のうちSm2Co17型磁石は、その保磁力発現機構等に基づいて、可変磁石として使用することが可能である。Sm−Co系磁石においても、保磁力や磁束密度を高めることが求められている。Sm−Co系磁石の高磁束密度化にはFe濃度を高めることが有効であるものの、高Fe濃度の組成領域では保磁力が減少する傾向にある。そこで、高Fe濃度のSm−Co系磁石で大きな保磁力を発現させる技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−195711号公報
【特許文献2】米国特許第4746378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高Fe濃度の組成を有するSm−Co系磁石で大きな保磁力を発現させることを可能にした永久磁石と、それを用いたモータおよび発電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の永久磁石は、
組成式:RpFeqZrrsCutCo100-p-q-r-s-t
(式中、Rは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素、MはTiおよびHfから選ばれる少なくとも1種の元素であり、p、q、r、sおよびtはそれぞれ原子%で、10≦p≦15、24≦q≦40.5、1.5≦r≦4.5、0≦s≦3、1.5≦r+s≦4.5、0.8≦t≦13.5を満足する数である)
で表される組成を有する。永久磁石は、Th2Zn17型結晶相からなる主相と、主相の結晶粒界に存在し、Zr濃度が4原子%以上35原子%以下の結晶相を有する粒界相とを備えている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態の永久磁石の組織を拡大して示すSEM像である。
【図2】実施形態の永久磁石の磁化曲線の一例を示す図である。
【図3】従来のSm−Co系磁石の磁化曲線の一例を示す図である。
【図4】実施形態で永久磁石の作製に用いる合金粉末の示唆熱分析の結果の一例を示す図である。
【図5】実施形態に係る可変磁束モータを示す図である。
【図6】実施形態に係る可変磁束発電機を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の永久磁石について説明する。この実施形態の永久磁石は、
組成式:RpFeqZrrsCutCo100-p-q-r-s-t …(1)
(式中、Rは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素、MはTiおよびHfから選ばれる少なくとも1種の元素であり、p、q、r、sおよびtはそれぞれ原子%で、10≦p≦15、24≦q≦40.5、1.5≦r≦4.5、0≦s≦3、1.5≦r+s≦4.5、0.8≦t≦13.5を満足する数である)
で表される組成を有し、Th2Zn17型結晶相からなる主相と、主相の結晶粒界に存在し、Zr濃度が4原子%以上35原子%以下の結晶相を有する粒界相とを備えている。
【0010】
Sm−Co系磁石の保磁力発現機構は、一般に磁壁ピニング型であることが知られている。磁壁ピニング型の保磁力発現機構においては、熱処理により生成するピニングサイト、例えばSmCo5相が磁壁の移動を妨げることで、保磁力が発現すると考えられている。しかし、Sm−Co系磁石のFe濃度が高くなると、そのような保磁力が発現しにくくなる傾向にある。この原因としては、例えばFe濃度が高くなるとピニングサイトが生成しにくくなり、磁壁ピニング型による高保磁力化が困難になることが考えられる。
【0011】
保磁力発現機構としては、磁壁ピニング型とは別にニュークリエーション型が知られている。ニュークリエーション型の保磁力発現機構とは、結晶粒の一部分等で生じやすい、逆磁区の核となるようなサイト(欠陥)をなくし、逆磁区の発生を抑えることで保磁力を発現させるものである。Nd−Fe−B系磁石は、主相の周囲をNdリッチ相で囲むことで逆磁区の発生を抑制し、これによりニュークリエーション型の保磁力を得ている。一方、従来のSm−Co系磁石では、上記したように磁壁ピニング型の保磁力発現機構により保磁力が発現すると考えられており、第2相によるニュークリエーション型の保磁力発現機構が働くとは考えられていなかった。
【0012】
この実施形態の永久磁石は、Sm−Co系磁石における主相の結晶粒界に、Zrリッチの第2相(Zr濃度が4〜35原子%の結晶相)を生成した組織とすることによって、ニュークリエーション型による保磁力が発現することを見出したことに基づいて実現されたものである。Zrリッチの第2相に基づくニュークリエーション型の保磁力は、高Fe濃度の組成を有するSm−Co系磁石においても発現させることができる。従って、高磁束密度と高保磁力とを両立させたSm−Co系永久磁石を実現することが可能となる。以下に、この実施形態の永久磁石の構成について詳述する。
【0013】
組成式(1)において、元素Rとしてはイットリウム(Y)を含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素が使用される。元素Rはいずれも永久磁石に大きな磁気異方性をもたらし、高い保磁力を付与するものである。元素Rとしては、サマリウム(Sm)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、およびプラセオジム(Pr)から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、特にSmを使用することが望ましい。元素Rの50原子%以上をSmとすることで、永久磁石の性能、とりわけ保磁力を再現性よく高めることができる。さらに、元素Rの70原子%以上がSmであることが望ましい。
【0014】
元素Rの含有量pは10原子%以上15原子%以下の範囲とする。元素Rの含有量pが10原子%未満であると、多量のα−Fe相が析出して十分な保磁力を得ることができない。一方、元素Rの含有量が15原子%を超えると、飽和磁化の低下が著しくなる。元素Rの含有量pは10.3〜13原子%の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは10.5〜12.5原子%の範囲である。
【0015】
鉄(Fe)は、主として永久磁石の磁化を担う元素である。Feを多量に含有させることによって、永久磁石の飽和磁化を高めることができる。ただし、Feをあまり過剰に含有させると、α−Fe相が析出したり、また所望の結晶組織が得られにくくなるため、保磁力が低下するおそれがある。このため、Feの含有量qは24原子%以上40.5原子%以下の範囲とする。Feの含有量qは28〜38原子%の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは30〜36原子%の範囲である。
【0016】
ジルコニウム(Zr)は、永久磁石の性能、とりわけ保磁力を高めるのに有効な元素である。Zrの含有量rは1.5原子%以上4.5原子%以下の範囲とする。Zrの含有量rを1.5原子%以上とすることによって、永久磁石の組織中にZrリッチの第2相が出現しやすくなる。これによって、高Fe濃度の組成を有する永久磁石に大きな保磁力を発現させることが可能となる。一方、Zrの含有量rが4.5原子%を超えると、磁化の低下が著しくなる。Zrの含有量rは1.7〜4原子%の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは2〜3.5原子%の範囲である。
【0017】
元素Mとしては、チタン(Ti)およびハフニウム(Hf)から選ばれる少なくとも1種の元素が用いられる。元素Mは任意成分であり、Zrの一部を置換することにより含有させることができる。このような元素Mを配合することによって、磁気異方性が大きくなるため、高Fe濃度の組成を有する永久磁石に安定して大きな保磁力を発現させることができる。ただし、元素Mを過剰に含有させると磁化の低下が著しくなるため、元素Mの含有量sは3原子%以下とする。元素MはZrの置換元素であるため、Zrの含有量rと元素Mの含有量sとの合計量(r+s)が4.5原子%以下となるように含有させる。
【0018】
元素Mの含有量sは2.3原子%以下とすることが好ましい。また、元素Mの含有量sは、Zrの含有量rと元素Mの含有量sとの合計量(r+s)に対して、50原子%未満とすることが好ましく、より好ましくは40原子%以下、さらに好ましくは35原子%以下である。元素MはTiおよびHfのいずれであってもよいが、元素Mの50原子%以上をTiとすることによって、永久磁石の保磁力を高める効果が向上する。一方、元素Mの中でHfはとりわけ高価であるため、Hfを使用する場合においても、その使用量は少なくすることが好ましい。Hfの含有量は元素Mの20原子%未満とすることが好ましい。
【0019】
銅(Cu)は、永久磁石に高い保磁力を発現させるための元素である。Cuの配合量tは0.8原子%以上13.5原子%以下の範囲とする。Cuの配合量tが0.8原子%未満であると、高い保磁力を得ることが困難となる。一方、Cuの配合量tが13.5原子%を超えると、磁化の低下が著しくなる。Cuの配合量tは3〜10.6原子%の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは4〜7.1原子%の範囲である。
【0020】
コバルト(Co)は、永久磁石の磁化を担うと共に、高い保磁力を発現させるために必要な元素である。さらに、Coを多く含有させるとキュリー温度が高くなり、永久磁石の熱安定性が向上する。Coの含有量が少なすぎると、これらの効果を十分に得ることができない。ただし、Coの含有量が過剰になると、相対的にFeの含有割合が下がって磁化が低下する。従って、Coの含有量は元素R、Zr、元素M、およびCuの含有量を考慮した上で、Feの含有量が上記範囲を満足するように設定される。
【0021】
Coの一部は、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、およびタングステン(W)から選ばれる少なくとも1種の元素Aで置換してもよい。これらの置換元素は磁石特性、例えば保磁力の向上に寄与する。ただし、元素AによるCoの過剰な置換は磁化の低下を招くおそれがあるため、元素Aによる置換量はCoの20原子%以下とすることが好ましい。
【0022】
この実施形態の永久磁石は、Th2Zn17型結晶相(Th2Zn17型構造を有する結晶相/2−17相)を主相とする組織を有している。2−17相を主相とする永久磁石によれば、高保磁力等の高い磁石特性を得ることができる。主相とは、永久磁石を構成する結晶相や非晶質相等の構成相のうち、体積比が最大の相を意味する。2−17相(主相)の体積比は50%以上であることが好ましい。なお、永久磁石の組織を構成する各相(合金相)の体積比率は、電子顕微鏡や光学顕微鏡等による観察、X線回折等を併用して総合的に判断される。
【0023】
図1のSEM(走査型電子顕微鏡)による反射電子像に示すように、2−17相からなる主相(図中、Aで示す)の結晶粒界には、Zr濃度が4〜35原子%の結晶相を有する粒界相(Zrリッチの粒界相/図中、Bで示す)が存在している。このように、主相Aの結晶粒界にZrリッチの粒界相(非磁性相)を存在させることによって、主相内の反転核生成による逆磁区の発生を抑制することができる。従って、(1)式で表される組成を有する永久磁石において、従来のSm−Co系磁石では発現すると考えられていなかった、ニュークリエーション型による保磁力を発現させることが可能となる。
【0024】
永久磁石の保磁力がニュークリエーション型であるかどうかは、初磁化曲線により確認することができる。すなわち、永久磁石の保磁力がニュークリエーション型である場合には、図2に示すように、初磁化状態の磁石に対して磁化容易軸方向と平行な方向に外部磁場を与えると、初磁化曲線が急峻な立ち上がりを示す。一方、永久磁石の保磁力が磁壁ピニング型ある場合には、図3に示すように、ある一定の外部磁場を与えるまでほとんど磁化が発現せず、その磁化曲線は磁化がほぼ零のところで横ばいとなっており、ある程度の外部磁界を与えたところで急激に磁化曲線が立ち上がる。なお、図2はこの実施形態の永久磁石の磁化曲線であり、図3は従来のSm−Co系磁石の磁化曲線である。図2と図3との比較から明らかなように、永久磁石の初磁化曲線から永久磁石の保磁力がニュークリエーション型であるかどうかを判定することができる。
【0025】
Zrリッチの粒界相は、主相のFe濃度が高濃度であっても、後述する製造条件等を適用することで生成されるため、主相の高Fe濃度に基づく高磁束密度とニュークリエーション型による高保磁力とを両立させた永久磁石を実現することが可能となる。さらに、この実施形態の永久磁石はその組成や結晶組織に基づいて耐熱性にも優れている。従って、高保磁力と高磁束密度とを両立させ、かつDy等の希少元素を用いることなく、耐熱性を向上させた永久磁石を提供することが可能となる。また、この実施形態の永久磁石は従来のSm−Co系磁石と同様に、保磁力の値により可変磁石として適用可能であるため、可変磁束モータ等に対して有効な永久磁石を提供することができる。
【0026】
ニュークリエーション型の保磁力を発現させる粒界相は、Zr濃度が4〜35原子%の範囲とされている。粒界相を構成するZrリッチの結晶相のZr濃度が4原子%未満であると、主相内の反転核生成の抑制効果が小さく、十分な保磁力を得ることができない。一方、粒界相のZr濃度が35原子%を超えると、主相内のZr濃度が減少して2−17相が不安定になり、これにより保磁力が低下する。Zrリッチの結晶相のZr濃度は4〜20原子%の範囲が好ましく、さらに好ましくは4.5〜15原子%の範囲である。
【0027】
さらに、Zrリッチの粒界相は20〜500nmの範囲の厚さを有することが好ましい。Zrリッチの粒界相の厚さが20nm未満であると反転核生成の抑制効果が不十分になる。一方、厚さが500nmを超えると主相の体積分率が減少するため、十分な磁化を得ることができないおそれがある。Zrリッチの粒界相の厚さは25〜400nmの範囲が好ましく、さらに好ましくは30〜300nmの範囲である。また、Zrリッチの粒界相は、主相の周囲全体を取り囲むように存在させることが好ましい。これによって、主相内での反転核生成とそれに基づく逆磁区の発生をより効果的に抑制することができる。
【0028】
Zrリッチの粒界相は、元素Rの濃度が5〜35原子%の範囲であることが好ましい。さらに、元素Rの少なくとも一部としてSmを使用し、Zrリッチの粒界相のSm濃度が5〜35原子%の範囲であることが望ましい。このような粒界相は磁気異方性が高いため、永久磁石により大きな保磁力を付与することができる。Zrリッチの粒界相の元素Rの濃度(Sm濃度等)が5原子%未満であると、磁気異方性の増大効果が十分に得られない。一方、元素Rの濃度(Sm濃度等)が35原子%を超えると、主相内のSm濃度が減少して2−17相が不安定になる。Zrリッチの粒界相の元素Rの濃度(Sm濃度等)は5〜20原子%の範囲が好ましく、さらに好ましくは6〜15原子%の範囲である。
【0029】
この実施形態の永久磁石において、主相および粒界相のZr濃度や元素Rの濃度(Sm濃度等)は、SEM−EDX(エネルギー分散型X線分光法)により測定することができる。例えば、図1のSEMによる反射電子像において、A部のZr濃度をSEM−EDXで測定することによって、主相のZr濃度を特定することができる。また、B部のZr濃度やSm濃度等をSEM−EDXで測定することによって、粒界相のZr濃度やSm濃度等を特定することができる。SEM−EDX以外にTEM−EDXによって、主相および粒界相のZr濃度やSm濃度等を測定することも可能である。
【0030】
なお、Zrリッチの粒界相の厚さが薄い場合には、SEM−EDXによる粒界相のZr濃度やSm濃度等の測定が困難になるおそれがある。そのような場合、図1に示すように、Zrリッチの粒界相(図中B)と連続した、粒界相と同じ色を示す結晶三重点に存在する相(図中、Cで示す)におけるZr濃度を、粒界相のZr濃度と定義することができる。なぜなら、反射電子像におけるコントラストは組成比を反映しており、粒界相と結晶三重点の色(コントラスト)が同様であれば、三重点が粒界相の組成を代表していると解釈できるからである。このような測定を1つの試料に対し、任意の粒界相の20点で実施し、その平均値を粒界相のZr濃度やSm濃度等とする。
【0031】
また、Zrリッチの粒界相の厚さは、SEM観察により測定することができる。まず、焼結体のSEM観察を行う。焼結体を1〜3mm角程度に粉砕し、観察面を研磨して平滑にした後、倍率3000倍で観察する。この際に観察される結晶粒界の厚さが粒界相の厚さと見なされる。粒界相の厚さが薄い場合には、5000倍で観察してもよい。また、粒界相が明瞭になるため、SEM観察はSEM反射電子像で観察することが好ましい。粒界相の厚さが非常に薄い場合には、TEM観察を行って粒界相の厚さを測定してもよい。
【0032】
この実施形態の永久磁石は、例えば以下のようにして作製される。まず、所定量の元素を含む合金粉末を作製する。合金粉末は、例えばストリップキャスト法でフレーク状の合金薄帯を作製した後に粉砕して調製される。ストリップキャスト法では、合金溶湯を周速0.1〜20m/秒で回転する冷却ロールに傾注し、連続的に厚さ1mm以下に凝固させた薄帯を得ることが好ましい。冷却ロールの周速が0.1m/秒未満であると薄帯中に組成のばらつきが生じやすく、周速が20m/秒を超えると結晶粒が単磁区サイズ以下に微細化し、良好な磁気特性が得られない。冷却ロールの周速は0.3〜15m/秒の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは0.5〜12m/秒の範囲である。
【0033】
合金粉末はアーク溶解法や高周波溶解法による溶湯を鋳造して得られた合金インゴットを粉砕して調製してもよい。合金粉末の他の調製方法としては、メカニカルアロイング法やメカニカルグラインディング法、ガスアトマイズ法、還元拡散法等が挙げられ、これらの方法で調製した合金粉末を用いてもよい。このようにして得られた合金粉末または粉砕前の合金に対し、必要に応じて熱処理を施して均質化してもよい。フレークやインゴットの粉砕はジェットミルやボールミル等を用いて実施される。粉砕は合金粉末の酸化を防止するために、不活性ガス雰囲気中や有機溶媒中で行うことが好ましい。
【0034】
次に、電磁石等の中に設置した金型内に合金粉末を充填し、磁場を印加しながら加圧成形することによって、結晶軸を配向させた圧粉体を作製する。この圧粉体を適切な条件下で焼結することによって、大きな保磁力を有する焼結体を得ることができる。すなわち、低融点のZrリッチ相(粒界を構成する相)の融解開始温度TL以上で、かつ主相粉末が十分に液相とならない温度TP以下の温度条件下で焼結を行うことで、主相の周囲をZrリッチの粒界相が取り囲むような組織を得ることができる。
【0035】
ここで、Zrリッチ相の融解開始温度TL、および主相粉末が十分に液相とならない温度TPは、示差熱分析により求めることができる。示差熱分析に用いる試料形状は、必ずしも粉末形状でなくともよい。すなわち、低融点のZrリッチ相および主相は合金作製時に生成されると考えられるため、ストリップキャスト法により得られたフレーク状合金薄帯やアーク溶解により作製された合金インゴットを用いてもよい。また、焼結に用いる粉末は、融点の異なる2種類以上の粉末を別々に準備し、混合して用いてもよい。
【0036】
図4に、この実施形態で永久磁石の作製に用いる合金粉末の示唆熱分析の結果の一例を示す。図4において、最も大きな吸熱ピークが主相の融解による吸熱ピークであり、このピーク頂点温度を主相粉末が十分に液相とならない温度TPとする。一方、主相の吸熱反応によるピークよりも低温側に、主相の吸熱反応のピークよりも小さいピークが観察される。これがZrリッチ相の融解による吸熱ピークである。このピークの立ち上がりの接線(L1とバックグラウンドの接線L2との交点)を融解開始温度TLとする。これらの温度を用いて、適切な焼結温度T(℃)は以下のように表すことができる。
L−10(℃)<T<TP+10(℃)…(2)
【0037】
上記した式(2)を満たすような温度で焼結を行うことによって、主相の周囲をZrリッチ相が取り囲んだような金属組織が形成される。焼結温度が(TL−10℃)以下であると、十分な液相を得ることができず、ニュークリエーション型となる組織が得られない。一方、焼結温度が(TP+10℃)以上であると、主相も液相となることで、主相の構成元素とZrリッチ相構成元素とが拡散し、粒界でのZr濃度が低くなる。このため、明瞭なZrリッチの粒界相を得ることができない。さらに、合金粉末中のSm等が蒸発するため、保磁力等の磁気特性を十分に高めることができない。
【0038】
上記温度による焼結時間は0.5〜15時間とすることが好ましい。これによって、より緻密な焼結体が得られる。焼結時間が0.5時間未満の場合、焼結体の密度に不均一性が生じる。また、焼結時間が15時間を超えると、合金粉末中のSm等が蒸発することによって、良好な磁気特性を得ることができない。より好ましい焼結時間は1〜10時間であり、さらに好ましくは1〜4時間である。圧粉体の焼結は酸化を防止するために、真空中やアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0039】
得られた焼結体は、そのまま永久磁石として使用してもよいし、また焼結後に適切な温度で熱処理した後に永久磁石として使用してもよい。例えば、1100〜1200℃の温度による熱処理を施したり、この高温での熱処理とそれより低温での熱処理とを組合せて施すことによって、結晶中の欠陥が少なくなる等の理由に基づいて、永久磁石の保磁力のさらなる向上が期待される。なお、この実施形態の永久磁石を構成する磁石材料(合金粉末、焼結体、それを粉砕した粉末等)は、ボンド磁石として利用することも可能である。
【0040】
この実施形態の永久磁石は、各種モータや発電機の固定磁石や可変磁石として使用することができる。可変磁石として使用する場合、永久磁石の保磁力は500kA/m以下であることが好ましい。この実施形態の永久磁石を固定磁石や可変磁石として用いることによって、可変磁束モータや可変磁束発電機が構成される。可変磁束モータの構成やドライブシステムには、特開2008−29148号公報や特開2008−43172号公報に開示されている技術を適用することができる。この実施形態の永久磁石を可変磁束ドライブシステムにおける固定磁石や可変磁石として用いることによって、システムのより一層の高効率化、小型化、低コスト化等を図ることができる。
【0041】
次に、実施形態のモータと発電機について、図面を参照して説明する。図5は実施形態による可変磁束モータを示しており、図6は実施形態による可変磁束発電機を示している。実施形態の永久磁石の使用用途は、可変磁束モータや可変磁束発電機に限られるものではない。実施形態の永久磁石は、通常の永久磁石モータや発電機に適用することも可能であり、この場合にも高効率化、小型化、低コスト化等を図ることができる。
【0042】
図5に示す可変磁束モータ1において、ステータ(固定子)2内にはロータ(回転子)3が配置されている。ロータ3内の鉄心4中には、実施形態の永久磁石を用いた固定磁石5と、固定磁石5より低保磁力の永久磁石を用いた可変磁石6とが配置されている。可変磁石6の磁束密度(磁束量)は可変することが可能とされている。可変磁石6はその磁化方向がQ軸方向と直交するため、Q軸電流の影響を受けず、D軸電流により磁化することができる。ロータ3には磁化巻線(図示せず)が設けられ、この磁化巻線に磁化回路から電流を流すことで、その磁界が直接に可変磁石6に作用する構造となっている。
【0043】
実施形態の永久磁石によれば、前述した製造方法の各種条件を変更することによって、例えば保磁力が500kA/mを超える固定磁石5と保磁力が500kA/m以下の可変磁石6とを得ることができる。なお、図5に示す可変磁束モータ1おいては、固定磁石5および可変磁石6のいずれにも実施形態の永久磁石を用いることが可能であるが、いずれか一方の磁石に実施形態の永久磁石を用いてもよい。可変磁束モータ1は、大きなトルクを小さい装置サイズで出力可能であるため、モータの高出力・小型化が求められるハイブリッド車や電気自動車等のモータに好適である。
【0044】
図6に示す可変磁束発電機11は、実施形態の永久磁石を用いたステータ(固定子)12を備えている。ステータ(固定子)12の内側に配置されたロータ(回転子)13は、可変磁束発電機11の一端に設けられたタービン14とシャフト15により接続されている。タービン14は、例えば外部から供給される流体により回転されるように構成されている。なお、流体により回転されるタービン14に代えて、自動車の回生エネルギー等の動的な回転を伝達することによって、シャフト15を回転させることも可能である。ステータ12とロータ13には、各種公知の構成を採用することができる。
【0045】
そして、シャフト15はロータ13に対してタービン14とは反対側に配置された整流子(図示せず)と接触しており、ロータ13の回転により発生した起電力が可変磁束発電機11の出力として相分離母線および主変圧器(図示せず)を介して、系統電圧に昇圧されて送電される。なお、ロータ13にはタービン14からの静電気による帯電や発電に伴う軸電流による帯電等が発生する。このため、可変磁束発電機11はロータ13の帯電を放電させるためのブラシ16を備えている。
【実施例】
【0046】
次に、実施例およびその評価結果について述べる。
【0047】
(実施例1〜3)
各原料を表1に示す組成となるように秤量した後、Arガス雰囲気中でアーク溶解して合金インゴットを作製した。合金インゴットに対して示唆熱分析を行い、前述した方法にしたがってZrリッチ相の融解開始温度TLと主相粉末が十分に液相とならない温度TPとを求めた。測定にはアルバック理工社製の示唆熱分析装置・TGD7000型を使用し、測定温度範囲は室温から1650℃、加熱速度は10℃/分とし、雰囲気はArガス(流量:100mL/分)とした。試料の量はおよそ300mgとし、容器にアルミナを使用し、リファレンスにアルミナを用いた。このようにして求めた各合金インゴットの温度TLと温度TPを表2に示す。
【0048】
次に、上記した合金インゴットを粗粉砕し、さらにジェットミルで微粉砕して合金粉末を調製した。合金粉末を磁界中でプレスして圧粉体とした後、Arガス雰囲気中にて表2に示す温度で3時間焼結し、引き続いて1170℃で3時間熱処理して焼結体を作製した。焼結体を850℃で4時間保持した後、室温まで冷却することによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。各磁石の組成はICP法により確認した。また、前述した方法にしたがって粒界相中のZr濃度、Sm濃度、厚さを測定した。さらに、焼結磁石の磁気特性をBHトレーサで評価して保磁力を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0049】
(比較例1〜2)
焼結温度を表2に示す温度に変更する以外は、実施例1と同組成の合金粉末を用いると共に、同一条件で焼結磁石を作製した。また、前述した方法にしたがって粒界相中のZr濃度、Sm濃度、厚さを測定した。さらに、焼結磁石の磁気特性をBHトレーサで評価して保磁力を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0050】
(実施例4〜6)
各原料を表1に示す組成となるように秤量した後、Arガス雰囲気中でアーク溶解して合金インゴットを作製した。合金インゴットを石英製のノズルに装填し、高周波誘導加熱して溶融した後、溶湯を周速0.6m/秒で回転する冷却ロールに傾注し、連続的に凝固させて薄帯を作製した。この薄帯を粗粉砕した後、ジェットミルにより微粉砕して合金粉末を調製した。この合金粉末を磁界中でプレスして圧粉体とした後、Arガス雰囲気中にて表2に示す温度で1時間焼結した後、室温まで急冷して焼結体を作製した。焼結体を850℃で4時間保持した後、室温まで冷却することによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。また、前述した方法にしたがって粒界相中のZr濃度、Sm濃度、厚さを測定した。さらに、焼結磁石の磁気特性をBHトレーサで評価して保磁力を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0051】
(比較例3〜4)
焼結温度を表2に示す温度に変更する以外は、実施例4と同組成の合金粉末を用いると共に、同一条件で焼結磁石を作製した。また、前述した方法にしたがって粒界相中のZr濃度、Sm濃度、厚さを測定した。さらに、焼結磁石の磁気特性をBHトレーサで評価して保磁力を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0052】
(実施例7〜10)
表1に組成を示す合金粉末を用いる以外は、それぞれ実施例1と同様にして圧粉体を作製した。次いで、圧粉体をArガス雰囲気中にて表2に示す温度で3時間焼結した後、室温まで急冷して焼結体を作製した。焼結体を830℃で8時間保持した後、室温まで冷却することによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。また、前述した方法にしたがって粒界相中のZr濃度、Sm濃度、厚さを測定した。さらに、焼結磁石の磁気特性をBHトレーサで評価して保磁力を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0053】
(比較例5)
焼結温度を表1に示す温度に変更する以外は、実施例7と同組成の合金粉末を用いると共に、同一条件で焼結磁石を作製した。また、前述した方法にしたがって粒界相中のZr濃度、Sm濃度、厚さを測定した。さらに、焼結磁石の磁気特性をBHトレーサで評価して保磁力を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0054】
(比較例6〜10)
表1に組成を示す合金粉末を用いる以外は、それぞれ実施例1と同様にして圧粉体を作製した。次いで、圧粉体をArガス雰囲気中にて表2に示す温度で2時間焼結した後、室温まで急冷して焼結体を作製した。焼結体を800℃で4時間保持した後、室温まで冷却することによって、目的とする焼結磁石を得た。焼結磁石の組成は表1に示す通りである。また、前述した方法にしたがって粒界相中のZr濃度、Sm濃度、厚さを測定した。さらに、焼結磁石の磁気特性をBHトレーサで評価して保磁力を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
表2から明らかなように、実施例1〜10の焼結磁石はいずれも高保磁力であり、磁石特性に優れていることが分かる。これに対して、比較例1〜5の焼結磁石は粒界相のZr濃度が低く、また厚さも薄いため、十分な保磁力が得られていない。また、比較例6〜10の焼結磁石は組成がずれているため、十分な保磁力が得られていない。
【0058】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1…可変磁束モータ、2…ステータ、3…ロータ、4…鉄心、5…固定磁石、6…可変磁石、11…可変磁束発電機、12…ステータ、13…ロータ、14…タービン、15…シャフト、16…ブラシ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:RpFeqZrrsCutCo100-p-q-r-s-t
(式中、Rは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素、MはTiおよびHfから選ばれる少なくとも1種の元素であり、p、q、r、sおよびtはそれぞれ原子%で、10≦p≦15、24≦q≦40.5、1.5≦r≦4.5、0≦s≦3、1.5≦r+s≦4.5、0.8≦t≦13.5を満足する数である)
で表される組成を有する永久磁石であって、
Th2Zn17型結晶相からなる主相と、前記主相の結晶粒界に存在し、Zr濃度が4原子%以上35原子%以下の結晶相を有する粒界相とを備えることを特徴とする永久磁石。
【請求項2】
請求項1記載の永久磁石において、
前記粒界相の厚さが20nm以上500nm以下の範囲であることを特徴とする永久磁石。
【請求項3】
請求項2記載の永久磁石において、
前記粒界相の前記元素Rの濃度が5原子%以上30原子%以下であることを特徴とする永久磁石。
【請求項4】
請求項3記載の永久磁石において、
前記元素Rは少なくともSmを含有し、かつ前記粒界相のSm濃度が5原子%以上30原子%以下であることを特徴とする永久磁石。
【請求項5】
請求項4記載の永久磁石において、
初磁化曲線がニュークリエーション型を示すことを特徴とする永久磁石。
【請求項6】
請求項5記載の永久磁石において、
前記元素Mの含有量は、前記Zrの含有量と前記元素Mの含有量との合計量に対して50原子%未満であることを特徴とする永久磁石。
【請求項7】
請求項6記載の永久磁石において、
前記元素Rの50原子%以上がSmであることを特徴とする永久磁石。
【請求項8】
請求項7記載の永久磁石において、
前記Coの20原子%以下が、Ni、V、Cr、Mn、Al、Ga、Nb、Ta、およびWから選ばれる少なくとも1種の元素Aで置換されていることを特徴とする永久磁石。
【請求項9】
請求項1記載の永久磁石を具備することを特徴とするモータ。
【請求項10】
請求項1記載の永久磁石を具備することを特徴とする発電機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−204599(P2012−204599A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67761(P2011−67761)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】