説明

永久磁石回転電機の制御装置

【課題】永久磁石回転電機において、減磁を防止するために設けられた出力の制限値を変更可能にして、より広範囲で高い出力を得られるようにする。
【解決手段】永久磁石の温度の代わりになるコイル温度を検出するコイル温度検出器52と、コイルエンド28に送られ冷却を行う冷却液の流量を検出する流量検出器54を設ける。出力上限設定部56は、予め保持されたコイル温度と冷却液流量の組と出力上限値の関係を参照して、検出されたコイル温度と検出された冷却液流量に基づき出力上限値を設定する。制御部36は、設定された出力上限値を超えない範囲で回転電機10を駆動制御する。冷却液の流量に応じて出力上限値が変化することで、より広範囲において高い出力を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータに永久磁石を配置した永久磁石回転電機の制御装置に関し、特に、回転電機の出力を制限する制御に関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギを回転の運動エネルギに変換する電動機、回転の運動エネルギを電気エネルギに変換する発電機、さらに電動機と発電機どちらにも機能する電気機器が知られている。以下において、これらの電気機器を回転電機と記す。
【0003】
回転電機は、同軸に配置されて相対的に回転する二つの部材を有する。通常は、一方が固定され、他方が回転する。固定された部材(ステータ)にコイルを配置し、このコイルに電力を供給することにより回転する磁界を形成する。この磁界との相互作用により他方の部材(ロータ)が回転する。
【0004】
ロータに永久磁石を配置し、ステータにより形成された回転磁界と前記の永久磁石の相互作用によりロータが回転する永久磁石回転電機が知られている。永久磁石は減磁、すなわち磁束密度の減少を起こすことがある。減磁の原因として、温度や外部磁界が知られている。永久磁石の発生する磁束に対し、逆向きの外部磁界を永久磁石に作用させると、永久磁石の磁束密度は低下する。外部磁界の磁束密度が小さければ、外部磁界を除去すれば永久磁石の磁束密度は元の値に復帰する。しかし、外部磁界の磁束密度がある値以上となると、外部磁界を除去しても永久磁石の磁束密度は元の値に戻らず、元の値より小さな値となる。つまり、減磁が発生する。
【0005】
このような減磁の起こらない外部磁界の上限値は、保持力と呼ばれている。つまり、永久磁石はこの保持力以上の外部磁界が加わると、減磁が発生する。また、この保持力は温度によって変化する。例えば、フェライト磁石は、低温域において保持力が低下することが知られている。また、ネオジム磁石は高温域において保持力が低下することが知られている。
【0006】
永久磁石回転電機において、その永久磁石が減磁すると、この回転電機は所定の性能を発揮できなくなる。よって、永久磁石回転電機は、永久磁石の減磁が起こらない領域で運転する必要がある。このために、永久磁石の保持力が低下して減磁が生じる運転条件においては、ステータにより形成される回転磁界の磁束密度が保持力を上回らないようにするために、回転電機の出力を抑制する制御が行われる場合がある。下記特許文献1には、永久磁石の温度を検出し、検出された温度に応じて減磁が生じないように回転電機のトルク指令の上限値を設定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−289799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
永久磁石回転電機において、永久磁石はロータ、すなわち回転する部材に配置され、この温度を直接検出することは難しい。そこで、回転電機の他の部位の温度から永久磁石の温度を推定すること、例えば他の部位の温度により永久磁石の温度を代用することが行われている。しかし、この他の部位の温度が永久磁石の温度と必ずしも一対一の関係となっていないため、大きな余裕をみて回転電機の出力上限値が設定されている。つまり、条件によっては、出力の制限が過剰となっており、より高い出力上限値を設定できる余地がある。
【0009】
本発明は、減磁に対応した出力制限を抑制し、より広い領域で高い出力を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る永久磁石回転電機は、回転電機の所定部位に冷却液を送って、回転電機の冷却を行う。この永久磁石回転電機の制御装置は、永久磁石の温度の代わりとするために、回転電機の他の部分の温度を検出する温度検出器を有する。また、冷却液の流量を検出する流量検出器を有する。さらに、検出された温度と、流量に基づき、回転電機の出力上限値を設定する出力上限設定部を有し、設定された上限値以下となるように出力を制限して回転電機を制御する。
【0011】
前記出力上限設定部は、前記検出された流量が少ない場合、多い場合に比べて出力上限値を高く設定するようにできる。
【0012】
また、本発明の他の態様の永久磁石回転電機の制御装置は、回転電機の所定部位に冷却液を送って、回転電機の冷却を行う。この永久磁石回転電機の制御装置は、永久磁石の温度を推定するために、回転電機の他の部分の温度を検出する温度検出器を有する。また、冷却液の流量を検出する流量検出器を有する。当該制御装置は、この検出された温度に基づき、回転電機の出力上限値を設定する出力上限設定部を有し、さらにこの出力上限値を検出された冷却液の流量に応じて変更する出力上限変更部を有する。設定された出力上限値、または出力上限値が変更された場合は変更された出力上限値以下となるように出力を制限して回転電機を制御する。
【発明の効果】
【0013】
冷却液の流量により影響を受ける永久磁石の温度と回転電機の他の部分の温度との関係を考慮して出力上限値を設定することにより、より広範囲で高い出力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態の回転電機およびその制御装置の概略構成図である。
【図2】永久磁石の温度、コイル温度、冷却液流量の関係を示す図である。
【図3】コイル温度と出力上限値の関係を示す図である。
【図4】二つの回転電機を備えた装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。図1は、永久磁石回転電機10(以下、回転電機10と記す。)と、この回転電機の制御装置12の概略構成を示す図である。以下において、回転電機10が、自動車の変速機、または変速機と最終減速機を一体としたトランスアクスル内に収められた形態を例として説明する。
【0016】
回転電機10は、ロータ軸14を軸として回転するロータ16と、ロータ16の周囲を囲むように配置されたステータ18を有する。ロータ16は、磁性鋼板を積層して形成された略円柱形状のロータコア20を含む。ロータコア20の円柱形状の軸と同軸にロータ軸14が配置されている。ロータコア20の外周部分には、永久磁石22が周方向に配列されている。永久磁石22は、ロータコア20の外周部分の内部に埋め込まれている。または、永久磁石22は、ロータコア20の外周面に固定されてもよい。
【0017】
ステータ18は、円環または円筒形状の概形を有し、電磁鋼板を積層して形成したステータコア24を含む。ステータコア24は、概略円環または円筒形状を有し、その内周面から径方向内側に突出した複数のティース(不図示)を有する。このティースは、周方向に配列され、ティースの間の部分にスロットと呼ばれる空間が形成されている。このスロットを利用してコイル導線がステータに巻回され、コイル26が形成されている。コイル26の内、スロットから出た部分、すなわちステータコア24の端面から出て、外部に露出している部分は、コイルエンドと呼ばれる。コイルエンドを符号28で示す。
【0018】
回転電機10は、液冷式である。回転電機10を収めるケース内に冷却液が入れられており、この冷却液によって冷却が行われる。この例のように、自動車の変速機等に収められる場合には、変速機等の各部の潤滑および変速機等の液圧アクチュエータの作動液として用いられる流体を、前述の冷却液として用いることができる。冷却液は、液圧ポンプ30により変速機内の所定の部位に送られる。この液圧ポンプ30は、変速機に備えられる液圧ポンプを利用することができる。液圧ポンプ30から吐出された冷却液を冷却液配管32により、冷却が必要な部位に送り冷却を行う。この実施形態においては、コイル26、特にコイルエンド28に、冷却液配管32のパイプ側面に開けられた穴34から冷却液を送る。
【0019】
制御装置12は制御部36を含み、制御部36は、入力された要求および運転状況に応じて回転電機10に供給する電力を制御し、回転電機10を駆動する。例えば、自動車の運転者のアクセルペダルの操作量38、ブレーキペダルの操作量40などの運転者の要求、さらに自動車が搭載し回転電機10の駆動電力の供給源となるバッテリ50の蓄電量42、自動車の速度44などの運転状況から必要な回転電機10の駆動出力または回生出力を算出し、これに応じた制御を行う。制御部36は、指令値演算部46において、運転者の要求(アクセル操作量、ブレーキ操作量など)を表す信号、および車両の運転状況(バッテリ蓄電量、車速など)を表す信号を受信し、回転電機10を駆動するための指令値を算出する。駆動部48において、算出された指令値に基づき駆動信号が生成される。駆動信号は例えば、PWM制御信号であり、この信号に基づき、バッテリ50からの直流電力がパルス幅変調され、また三相交流電力に変換されて駆動電力として回転電機10に供給される。指令値演算部46および駆動部48は、制御部36が所定の演算を行うときの機能を表すものであり、独立した物理的な構成を有するものでなくてよい。
【0020】
制御装置12は、さらにコイル26の温度を検出するコイル温度検出器52、冷却液配管32を流れる冷却液の流量を検出する冷却液流量検出器54、およびこれらの検出器52,54の出力値に基づき回転電機の出力上限値を算出し、設定する出力上限設定部56を有する。出力上限設定部56についても、指令値演算部46および駆動部48と同様、制御部36が所定の演算を行う時の機能を表すものであり、独立した物理的な構成を有するものでなくてよい。出力上限設定部56については、後に詳述する。
【0021】
永久磁石22の減磁を防止するためには、永久磁石の温度を監視することが重要である。しかし、永久磁石22は、回転するロータ16に設けられており、ここに検出器を取り付け、信号を得ることは特別な構成が必要となる。例えば、無線を用いた信号の送受信、スリップリング等の摺動接点を利用する必要があり、コスト面、スペース面から不利である。この回転電機10および制御装置12においては、永久磁石22の温度とある程度の相関があるコイル26の温度をもって、永久磁石22の温度を代用している。この温度を検出するのが、前記のコイル温度検出器52である。コイル温度検出器52は、コイル26を形成する導線に接して設置される。スロット内の導線に対し設置されることもできるが、スロット内にスペースが不足する場合、コイルエンド28の導線に対し設置されてもよい。回転電機10においては、コイルエンド28の導線に対し設置されている。
【0022】
コイル26には、前述のように冷却液配管32により送られる冷却液が掛けられ、これによりコイル26が冷却される。このため、冷却液の流量が多く、多くの冷却液がコイル26に掛けられるときは、コイルはよく冷やされ、その温度は低くなる。逆に、冷却液の流量が少ないときには、検出されたコイル温度は高くなる。一方で、永久磁石22には、直接冷却液は供給されないため、冷却液による冷却効果は、コイル26に比べて小さくなる。したがって、冷却液の流量によって、永久磁石22とコイル26の温度の関係が変化する。
【0023】
図2は、永久磁石22の温度とコイル26の温度の関係が冷却液の流量により変化する様子を示す概略図である。永久磁石の温度とコイルの温度は正の相関を有するが、前述のように冷却液の流量が変化することによって関係が変化する。つまり、冷却液の流量が多い場合、コイル26がより冷却されるために、永久磁石の温度に対してコイル温度が低めとなる。このときの相関を示すのが図2中の線A1である。流量が少なくなると、磁石温度に対してコイル温度が高めとなり、線A2、線A3と変化する。
【0024】
ネオジム磁石のように、高温において減磁が生じる特性を有する永久磁石の場合、永久磁石温度が上限値Tcを超えないように運転する必要がある。永久磁石温度が上限値Tcとなるときのコイル温度は、冷却液の流量によって異なる。コイル温度のみにより上限値を決定する場合には、冷却液の流量が最も多いときのコイル温度と永久磁石温度の関係(線A1)に基づき回転電機10の出力を制限する必要がある。つまり、コイル温度が、線A1上の永久磁石温度が上限値Tcとなる温度T1を超えないように回転電機10の制御を行う必要がある。
【0025】
図3は、永久磁石の代用温度(回転電機10ではコイル温度)と回転電機の出力の上限値との関係を示す概略図である。図2に示す温度T1を超えないように、回転電機の出力が線B1により制限される。コイル温度がT1に達するより低い温度から徐々に上限値を低下させる制御が行われている。出力の制限は、例えばトルクの制限、回転速度の制限により実行される。
【0026】
コイル温度、永久磁石温度および冷却液流量の関係が図2に示す関係による場合、冷却液の流量が少ない場合には、コイル温度が高くても、永久磁石の温度はそれほどには高くない。つまり、冷却液の流量が少ない場合には、前述のコイル温度T1より高い温度、例えば図2中の温度T2,T3においても、永久磁石の温度が上限値Tcを超えない。したがって、図3に示すように、流量が少ない場合には、出力制限を緩和して上限値を線B2,B3とすることができる。これにより、より広い範囲で回転電機10の出力を有効に利用することができる。
【0027】
冷却液の流量を検出するために、冷却液配管32に冷却液流量検知器54が配置されている。冷却液流量検知器54を配置する位置は、コイル26の冷却に供される冷却液の量を検出可能な位置とする。好適には、この位置より下流に分岐、合流がなく、この位置を通過した冷却液の全量によってコイルが冷却される位置が望ましい。しかし、下流に分岐があったとしても、分岐後の各枝に分配される比率に大きな変化がなければ、このような位置に配置することもできる。
【0028】
出力上限設定部56は、コイル温度および冷却液流量の組に対応して定められている回転電機の出力上限値を予め保持している。検出されたコイル温度および冷却液流量を取得すると、これらの値に対応付けられている出力上限値を読み出し、これを指令値演算部46に送出する。指令値演算部46では、運転者の要求、自動車の運転状況から回転電機10の出すべき出力を算出し、この出力が前記の出力上限値を超える場合には、回転電機10の出力をこの出力上限値に変更する。または、指令値演算部46は、運転者の要求、運転状況および算出された出力上限値に基づき、出力上限値を超えないような出力を算出するようにしてもよい。指令値演算部46は、出力上限設定部56で設定された上限値を超えない出力指令を駆動部48に送出する。この出力指令に従って駆動部48は、回転電機10を駆動する。
【0029】
図4は、一つの変速機またはトランスアクスルに二つの回転電機を備えた構成を示す図である。回転電機の各構成要素については、図1に示した実施形態と同じ符号に、AまたはBを付けて示し、詳細な説明は省略する。図4中、左側の回転電機の各構成要素には「A」を付し、右側の回転電機の各要素については「B」を付す。冷却液配管32は、配管32Aと、配管32Bに分岐して各回転電機10A,10Bに冷却液を送る。配管32A,32Bの分岐点より下流に冷却液流量検出器54A,54Bが配置される。また、これらの検出器54A,54Bが配置された位置から下流において、分岐および合流がなく、それぞれの位置を通過した冷却液が過不足なく回転電機10A,10Bの冷却を行う。また、図示はしないが、制御装置についても、各回転電機10A,10Bのそれぞれに対応して設けられている。二つの回転電機10A,10Bのそれぞれに対し、冷却液流量とコイル温度に基づく出力上限値の設定を行う。また、いずれか一方の回転電機に対して、冷却液流量とコイル温度に基づく出力上限値の設定を行ってもよい。
【0030】
以上においては、永久磁石の温度の代わりとして、コイル、特にコイルエンドの温度を用いたが、回転電機の他の部分の温度で代用してもよい。また、ロータ内に冷却液を送り、永久磁石を直接冷却する場合には、永久磁石温度とコイル温度の関係が逆転することが考えられる。つまり、同じコイル温度に対して、冷却液の流量が多い場合の方が、永久磁石の温度が低くなることも起こりうる。したがって、適用される回転電機の冷却系の構成、および永久磁石温度の代用温度を得る部分などの構成に対応して、代用温度、冷却液流量と、出力上限値の関係を予め求めておき、この関係に従った出力上限値の設定を行うようにする。
【0031】
さらに、上述の出力上限値は、コイル温度(代用温度)、冷却液流量に基づき設定されたが、コイル温度に基づき、一旦、出力上限値を設定し、この上限値に対して冷却液流量に基づき補正を行って、出力上限値の変更を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0032】
10 永久磁石回転電機、12 制御装置、16 ロータ、18 ステータ、22 永久磁石、26 コイル、28 コイルエンド、30 液圧ポンプ、32 冷却液配管、36 制御部、46 指令値演算部、48 駆動部、52 コイル温度検出器、54 冷却液温度検出器、56 出力上限設定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石回転電機の制御装置であって、
永久磁石の温度の代わりになる当該回転電機の他の部分の温度を検出する温度検出器と、
当該回転電機の所定部位に送られ冷却を行う冷却液の流量を検出する流量検出器と、
前記検出された温度と、前記検出された流量に基づき当該回転電機の出力上限値を設定する出力上限設定部と、
を有する、永久磁石回転電機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の永久磁石回転電機の制御装置であって、前記出力上限設定部は、前記検出された流量が少ない場合、出力上限値を高く設定する、永久磁石回転電機の制御装置。
【請求項3】
永久磁石回転電機の制御装置であって、
永久磁石の温度の代わりになる当該回転電機の他の部分の温度を検出する温度検出器と、
当該回転電機の所定部位に送られ冷却を行う冷却液の流量を検出する流量検出器と、
前記検出された温度に基づきモータの出力上限値を設定する出力上限設定部と、
前記検出された流量に基づき、前記設定された出力上限を変更する出力上限変更部と、
を有す永久磁石回転電機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−93929(P2013−93929A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233230(P2011−233230)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】