説明

汎用的抗癌薬及びワクチンの開発

本発明は一般にマイクロRNA(miRNA)及びその小ヘアピンRNA(shRNA)相同体/誘導体を用いて、新しい抗腫瘍/抗癌薬、ワクチン及び治療を開発させる設計と方法に関する。具体的に、本発明は、核酸組成物を使用し、該核酸組成物がヒト細胞内に送達されると、mir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターを発現させることで、mir−302の標的となる細胞周期調節因子及び発癌遺伝子をサイレンシングさせることができ、腫瘍/癌細胞の成長と転移を抑制する効果を奏する。Mir−302はヒト胚性幹(hES)細胞と誘導多能性幹(iPS)細胞で発見された最も主要なマイクロRNA(miRNA)であるが、その機能についてはまだ明らかではない。本発明は、ヒト細胞においては、mir−302がcyclin−E−CDK2及びcyclin−D−CDK4/6経路の両方を同時に抑制し、最終的にG1−S期の細胞周期の移行を70%より多く阻止したことを証明した。同時に、mir−302は腫瘍幹細胞マーカーであるBMI−1をサイレンシングし、続いてCDK4/6により媒介される細胞増殖を抑制する際にpl6Ink4とpl4/pl9Arfの腫瘍抑制機能を促進する。従って、本発明はヒト細胞におけるmir−302の腫瘍抑制機能を初めて公表した。この新しい発見は、新規抗癌薬、ワクチン及び各種のヒト腫瘍と癌症治療の設計及び方法における開発を促進した。ここで言う癌症は、特に悪性皮膚癌、前立腺癌、乳癌、肝癌及び各種の腫瘍を含むが、これらに限らない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に治療機能を有するDNA/RNA薬剤の癌治療における設計と利用に関する。より詳細には、本発明は核酸組成物を設計及び使用する方法に関しており、該核酸組成物はヒト細胞において小型RNA(small RNA)遺伝子サイレンシングエフェクターを生成/発現させることで、mir−302の標的となる細胞周期調節因子及び発癌遺伝子をサイレンシングさせることができ、腫瘍/癌細胞の成長と転移に対する抑制効果を奏する。小型RNA遺伝子サイレンシングエフェクターは、mir−302a、mir−302b、mir−302c、mir−302d、mir−302e、マイクロRNA前駆体(プレマイクロRNA、pre−miRNAs)、及び手動で再設計した小ヘアピンRNA/小干渉RNA(shRNA/siRNA)の相同体/誘導体、並びにそれらの組み合わせのようなマイクロRNA(microRNA、miRNA)を含むことが好ましい。興味を示す該ヒト細胞は、インビトロ、エクスビボ及び/又はインビボの体細胞又は腫瘍/癌細胞を含む。
【背景技術】
【0002】
Mir−302はヒト胚性幹細胞(human embryonic stem、hES cell)と誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem、iPS cell)において発見された最も主要なマイクロRNA(micro RNA、miRNA)であるが、その機能はまだ明らかではない。従来の研究ではmir−302の異所性発現が、著しく遅い細胞周期速度と休眠細胞様の細胞形態を有しているhES様多能性細胞にヒト癌細胞を再プログラムできることを示した(Lin氏ら,2008)。相対静止はmir−302の再プログラム化された多能性幹細胞(mirPS)の明確な特徴の一つであるが、一方、ほかの3/4個の因子(即ち、Oct4−Sox2−Klf4−c−Myc又はOct4−Sox2−Nanog−Lin28)により誘発された多能性幹細胞(iPS)は目覚ましい増殖能力と容赦のない腫瘍形成傾向を有している(Takahashi氏ら,2006;Yu氏ら,2007;Wernig氏ら,2007)。mirPS細胞の抗増殖特性を裏付けるメカニズムのほとんどはまだ解明されてないが、mir−302の標的となる2つのG1チェックポイント調節因子(G1−checkpoint regulators)が関与している可能性を発見した。これらは、サイクリン依存性キナーゼ2(cyclin−dependent kinase 2、CDK2)とサイクリンD(cyclin D)である(Lin氏ら,2008)。真核細胞の細胞周期の進行はサイクリン依存性キナーゼ(cyclin−dependent kinases、CDKs)の活性により駆動され、サイクリン依存性キナーゼは、正の調節サブユニット(subunits)であるサイクリン及び負の調節因子(regulators)であるサイクリン依存性キナーゼ抑制剤(CDK inhibitors、CKI、例えば、p14/p19Arf、p15Ink4b、p16Ink4a、p18Ink4c、p21Cip1/Waf1及びp27Kip1)と機能性複合体を形成する。ほ乳類動物細胞においては、異なるサイクリン−サイクリン依存性キナーゼ複合体(cyclin−CDK complexes)が異なる細胞周期の移行の調節に関与し、例えば、G1期進行に関与するCyclin−D−CDK4/6、G1−S期の移行に関与するcyclin−E−CDK2、S期進行に関与するcyclin−A−CDK2及びM期進入に関与するcyclinA/B−CDC2(cyclin−A/B−CDK1)。これにより、mir−302の抗増殖機能はG1−S期移行期間においてCDK2とcyclin Dが共抑制された結果であると推測される。
【0003】
しかし、ヒトmir−302相同体であるマウスmir−291/294/295ファミリーに関する研究では、ヒトのmirPS細胞におけるmir−302と機能が全く違う結果が示された。マウス胚性幹細胞(mES)においては、mir−291/294/295の異所性発現はp21Cip1(又はCDKN1Aと言う)とセリン/スレオニンプロテインキナーゼLats2(Wang氏ら,2008)を直接サイレンシングすることによって、細胞の急速な増殖とG1−S期移行を誘発した。該腫瘍傾向(tumor−prone)の結果はp21Cip1とLats2腫瘍抑制因子の本来の特性によるものだと考えられる。p21Cip1/Waf1遺伝子が欠損した遺伝子導入マウスはG1チェックポイントによる制御が欠けている場合、正常の成長を示した(Deng氏ら,1995)。しかし、Lats2は、有糸分裂開始時にλ−チューブリン(gamma−tubulin)を動員する機能及び紡錘体の形成に関与する機能を有しているため、その役割はまだ解明されていない。また、マウス胚におけるLats2の欠損は、有糸分裂の重度な欠陥を引き起こし、致命的であると発見されたことも、Lats2のサイレンシングは細胞分裂の促進ではなく、それを阻害することを示している(Yabuta氏ら,2007)。以上により、p21Cip1のサイレンシングはmir−291/294/295により誘発された腫瘍形成の裏にある主要なメカニズムのように思われる。それにもかかわらず、最近我々がヒトp21Cip1遺伝子のmir−302の標的部位をスクリーニングした結果は陰性であった。同様な陰性の結果はオンライン演算プログラム「TARGETSCAN」(http://www.targetscan.org/)及び「PICTAR−VERT」(http://pictar.mdc−berlin.de/)によっても予測できた。従って、mir−302及びその相同体であるmir−291/294/295はhESとmES細胞においてそれぞれ異なる機能を果たす可能性が大きいことから、ヒトiPS及びマウスiPS細胞に違う特性を持たせたと考えられる。上記の発見より、我々は、mES細胞におけるmir−291/294/295の役割を、hES及びiPS細胞におけるmir−302の機能を評価するための等価モデルとみなすことができないと理解した。
【0004】
MiRNAは細胞質中の抑制因子(inhibitor)であり、その通常の機能は高度相補的な標的遺伝子転写物(mRNAs)の翻訳を抑制することである。MiRNAとその標的遺伝子との結合の厳密度によって該miRNA本来の機能が決められる。細胞条件の違いによって、遺伝子標的におけるmiRNAの嗜好も異なってくる。しかしながら、今までmir−302の濃度効果、又はmir−302の標的遺伝子との相互作用の厳密度に関連する報告はなかった。この疑問を解決するために、本発明はその重要な詳細を開示するとともに、mir−302がヒトとマウス細胞における機能が大きく異なることを初めて披露した。mir−302は、ヒト細胞において、CDK2、cyclins D1/D2、及びBMI−1を標的として強く狙うが、興味深いことに、p21Cip1が含まれていない。マウスのp21Cip1と違って、ヒトのp21Cip1にはmir−302の標的部位がいずれも含まれていない。この遺伝子標的の相違は両者の細胞周期調節における重要な分岐を招いた。マウス胚性幹細胞(mES)において、mir−302はp21Cip1をサイレンシングするとともに、腫瘍様(tumor−like)細胞の増殖を促進するが(Wang氏ら,2008;Judson氏,2009)、ヒトmirPS細胞中では、p21Cip1の発現が維持されるとともに、比較的遅い細胞増殖と比較的低い腫瘍形成能力をもたらす。さらに、マウスのBMI−1も、適切な標的部位を欠いているためmir−302の標的遺伝子とならない。我々は、mirPS細胞において、ヒトBMI−1をサイレンシングすることによって、p16Ink4a/p14ARF発現を刺激し、細胞増殖を減弱させるが、mir−302でマウスBMI−1をサイレンシングすることによって、マウス細胞に同様な効果を引き起こすことができないことを発見した。ヒトmirPS細胞において、p16Ink4a/p14ARFの発現が増加し、p21Cip1が影響を受けないため、ヒト細胞中でmir−302はcyclin−E−CDK2及びcyclin−D−CDK4/6経路を共抑制するほか、p16Ink4a−Rb及び/又はp14/19ARF−p53経路を通じて抗増殖機能を発揮する可能性が最も大きい。Mir−302がヒト及びマウス遺伝子を標的とする際の嗜好における顕著な違いは、両者の細胞周期調節機構に根本的な相違があったことを示している。
【0005】
要するに、先行技術はマイクロRNA(miRNA)とその標的遺伝子の相互作用の厳密度を見過ごしたため、ヒトmir−302の機能に対して間違った仮説を立てた。この誤解を解くため、本発明は誘導性のmir−302発現系を採用することで、ヒト腫瘍/癌細胞形成の抑制におけるmir−302の新しい機能を明らかにした。我々の新しい発見は、癌の治療と予防に対する汎用的な抗腫瘍/抗癌症薬及び/又はワクチンの開発に応用できる。従って、薬/ワクチンの開発及びその癌治療において、mir−302を有効且つ安全な設計と方法で使用する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した懸案を鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、治療効果を有するDNA/RNA薬剤及び/又はワクチンの癌治療における設計及び使用に関する。詳細には、本発明は、組換え核酸組成物を使用し、該組換え核酸組成物がヒト細胞に送達されると、小型RNA遺伝子サイレンシングエフェクター(small RNA gene silencing effector)を発現させることで、mir−302の標的となる細胞周期調節因子及び発癌遺伝子の活性を抑制することができ、ヒト腫瘍/癌細胞の成長及び転移に対する腫瘍抑制効果をもたらす。小型RNA遺伝子サイレンシングエフェクターは、例えば、mir−302a、mir−302b、mir−302c、mir−302d、そのヘアピン様マイクロRNA前駆体(hairpin−like microRNA precursors、pre−miRNAs)、手動で再設計した小ヘアピンRNA(small hairpin RNA、shRNA)相同体/誘導体及びこれらの組み合わせのようなマイクロRNA(microRNA、miRNA)を含むことが好ましい。小ヘアピンRNA相同体/誘導体の設計は、小ヘアピンRNA(shRNA)及び小干渉RNA(small interfering RNA、siRNA)の構造における単一ユニット又は複合クラスター(cluster)内のミスマッチ(mismatched)及び完全にマッチした(perfectly matched)核酸組成物を含む。それらは標的特異性を促進するとともに、送達及び治療に必要なmir−302の数量(コピー数、copy number)を低減することができる。
【0008】
天然マイクロRNA(miRNA)は、長さが約18〜27個のヌクレオチド(nucleotides、nt)で、マイクロRNA(miRNA)とその標的との間の相補性によって、その標的となるメッセンジャーRNA(messenger RNA、mRNA)を直接分解し、又はその標的となるメッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳を抑制することができる。Mir−302ファミリー(mir−302s)は高度な相同性を有し、数多くのほ乳類動物に保存(conserved)されているマイクロRNA(miRNAs)である。Mir−302ファミリー(mir−302s)は4つのファミリーメンバーを含み、それらは5’から3’への順番で、mir−302b、mir−302c、mir−302a、mir−302d及びmir−367を含む非コードRNAクラスター(non−coding RNA cluster)に転写される(Suh氏ら、2004)。最近、科学者は本来のクラスターのほかに、5つ目のmir−302メンバーであるmir−302eを発見した。Mir−367とmir−302sは共発現されるが、これらの機能は実際に互いに異なっており、そのため、我々はmir−302sのみを発現させるようにmir−302クラスターを再設計する。また、我々は、容易に送達及び発現するために、5’−GCTAAGCCAG GC−3’(SEQ.ID.NO.1)と5’−GCCTGGCTTA GC−3’(SEQ.ID.NO.2)のような手動で再設計したヘアピンループを用いて、本来のmir−302前駆体(pre−mir−302)の環配列を代替することによって、より緊密なクラスターを形成する。通常、mir−302はマウス以外のほ乳類動物胚性幹細胞(embryonic stem(ES) cell)のみにおいて大量に発現され、そして、細胞分化及び/又は増殖後速やかに減少する(Tang氏ら,2007;Suh氏ら,2004)。miRNAの特徴はそれに高度に相補的な標的となる遺伝子の小型抑制性RNA(small inhibitory RNAs)をサイレンシングすることができるので(Bartel,D.P.,2004)、mir−302sは、ES細胞が初期胚発生における不規則な成長と早熟な成長を防ぐための重要な抑制因子であり、幹細胞の腫瘍形成も防止する可能性がある。実際に、桑実胚期(morula stage、32〜64細胞期)前のES細胞は、通常、非常に遅い細胞周期速度を示す。これらの発見は、mir−302が正常幹細胞の維持と再生を制御することにあたって、重要な役割を果たすとともに、腫瘍/癌細胞の形成を抑制するのに有益であることを示唆した。
【0009】
全てのmir−302メンバーは、5’末端配列の最初にある17個のヌクレオチドにおいて完全一致な配列を共有し、そのうち、シードモチーフ(seed motif)である5’−UAAGUGCUUC CAUGUUU−3’(SEQ.ID.NO.3)を含み、また、同様に、23個のヌクレオチドを有する成熟したマイクロRNA(miRNA)において、85%以上の配列相同性(homology)を有する。オンライン演算方程式「TARGETSCAN」(http://www.targetscan.org/)及び「PICTAR−VERT」(http://pictar.mdc−berlin.de/)による現在の予測結果に基づき、これらのメンバーは同時にほぼ同じ細胞遺伝子を標的とし、そのうちに、607個を超えるヒト遺伝子が含まれている。さらに、mir−302は機能上においてある程度似ているかもしれないmir−93、mir−367、mir−371、mir−372、mir−373及びmir−520ファミリーとも、多数の標的遺伝子を共有している。これらの標的遺伝子の多くは、初期胚発生中の系列特異的な細胞分化(lineage−specific cell differentiation)の開始及び/又は確立に関与する発生シグナル(developmental signals)及び転写因子である(Lin氏ら,2008)。そして、標的遺伝子の多くは既知の発癌遺伝子(oncogenes)でもある。従って、mir−302の機能は、従来の誘導多能性幹細胞(iPS)方法のように特定の胚シグナル伝達経路に転写作用を刺激するよりも、むしろ発生シグナル及び分化関連転写因子の全体的発生を抑制する可能性が高い。また、標的となる発生シグナルと分化関連転写因子の多くは発癌遺伝子であるため、mir−302は腫瘍抑制機能も有しており、正常hES細胞の成長が腫瘍/癌細胞の形成へ進行することを防止することができる。
【0010】
ある好ましい実施例において、本発明者は既に誘導性pTet−On−tTS−miR302s発現ベクター(図1A)を設計、開発しており、ウィルス感染法、電気穿孔法又はリポソーム/ポリソーム(polysomal)形質移入法によって正常及び/又は癌性のヒト細胞中にmir−302を送達する。再設計されたmir−302構造は同じクラスター中のmir−302a、mir−302b、mir−302c及びmir−302d という4つの小非コードRNAメンバー(small non−coding RNA members)を含む(mir−302s、図1B)。ドキシサイクリン(Doxycycline、Dox)による刺激において、該mir−302s構造は、テトラサイクリン応答要素(tetracycline−responsive element、TRE)に制御されるサイトメガロウィルス(CMV)プロモーターによって駆動され、発現される。感染/形質移入後、mir−302の発現は天然マイクロRNA(miRNA)生合成経路に沿って行われる。そのうち、mir−302s構造は、赤方偏移蛍光タンパク質(red−shifted fluorescent protein、RGFP)のようなレポーター遺伝子とともに共転写され、そして、更にスプライセオソーム複合体(spliceosomal components)及び/又は細胞質内のRNAエンドリボヌクレアーゼ(RNaseIII)ダイサー(Dicers)(図2A)(Lin氏ら,2003)によって、単独のmir−302メンバーにプロセシングされる。この施策による結果は、miRNAマイクロアレイRNA分析(実施例3)において、センス(sense)mir−302メンバーの全てがドキシサイクリンによる刺激後、形質移入された細胞で有効的に発現された(図1C)。mir−302発現ベクターをヒト細胞に形質導入する手順は図2B−Cに説明される。
【0011】
本発明者は、天然のイントロンマイクロRNA(intronic miRNA)の生合成経路を模倣して(図2A)、組換えRGFP遺伝子を転写するように、イントロンマイクロRNA(miRNA)発現系、即ち、SpRNAi−RGFPを設計した。SpRNAi−RGFPは、人造/人工のスプライシング可能なイントロン(splicing competent intron、SpRNAi)を含有し、該イントロンはイントロンマイクロRNA(intronic miRNA)及び/又は小ヘアピンRNA様(shRNA−like)遺伝子サイレンシングエフェクターを生成することができる(Lin氏ら,2003;Lin氏ら,(2006)Methods Mol Biol.342:295−312)。SpRNAiとRGFPはII型RNAポリメラーゼ(Pol−II RNA polymerase)によって共転写されてSpRNAi−RGFP遺伝子のメッセンジャーRNA前駆体(pre−mRNA)中に包含され、しかも、RGFPはRNAスプライシング複合体(RNA splicing components)によって切り出される。そして、スプライス済みのSpRNAiは更に天然マイクロRNA(miRNA)及び人工小ペアピンRNA(shRNAs)のような成熟した遺伝子サイレンシングエフェクターにプロセシングされることで、標的遺伝子に対する特定的なRNA干渉効果(RNA interference、RNAi)を誘発する。同時に、イントロンスプライシング(intro splicing)後、SpRNAi−RGFP遺伝子転写物(transcript)のエクソン(exons)が連結されることによって、成熟したメッセンジャーRNA(mRNA)を形成し、その後、miRNA/shRNAの発現を識別するために用いるRGFPレポータータンパク質に翻訳される。定量上では、1倍のRGFP濃度は4倍のmir−302濃度に相当する。また、RGFPの代わりに機能性タンパク質エクソンを選択的に用いて、付加的な遺伝子機能を提供してもよく、例えば、体細胞再プログラム(somatic cell reprogramming、SCR)中のhES遺伝子マーカー。現在、脊椎動物において、機能不明の天然マイクロRNA(miRNA)が1000種類以上発見され、また、更に新しいマイクロRNAも相次ぎ識別されているため、我々のイントロンマイクロRNA発現系はインビトロ及びインビボでのマイクロRNA機能を測定するための有力なツ−ルとなる。
【0012】
SpRNAiイントロンは、5’スプライス部位(5’−splice site)、分岐点モチーフ(Branch−Point、BrP)、ポリピリミジントラクト(poly−pyrimidine tract)、及び3’スプライス部位(3’−splice site)を有する幾つかの共通ヌクレオチド組成分を含む。また、5’スプライス部位とBrPモチ−フとの間に挿入されるヘアピンマイクロRNA(miRNA)又は小ヘアピンRNA(shRNA)前駆体も含む。イントロンのこの部分は、通常RNAスプライシングとプロセシング中に投げ縄(lariat)構造を形成する。さらに、SpRNAiの3’末端は、イントロンRNAスプライシング(intronic RNA splicing)とプロセシングの正確度を増すために、様々な翻訳終止コードン領域(translational stop codon region、T codon)を含む。このT codonは細胞質内のメッセンジャーRNA(mRNA)に現れると、ナンセンス仲介減衰(nonsense−mediated decay、NMD)システムの活性化シグナルを生じさせ、細胞毒性の発生を防ぐために細胞内に蓄積したあらゆる非構造化のRNAを分解する。しかし、高度に構造化された小ヘアピンRNA(shRNA)及びマイクロRNA前駆体(pre−miRNA)が保留され、更にダイサー(Dicer)によって切断され、それぞれ成熟した小干渉RNA(siRNA)及びマイクロRNA(miRNA)を形成する。我々は、イントロンmiRNA/shRNAを発現させるために、SpRNAiを手動でRGFP遺伝子のDraII制限部位に組み込んで(Lin氏ら、2006と2008)、組換えSpRNAi−RGFP遺伝子を形成した。DraII制限酵素によるRGFPの開裂によって、各末端に3個の陥凹ヌクレオチドをもつAG−GNヌクレオチド切断が生じ、SpRNAi挿入後にそれぞれ5’及び3’スプライス部位を形成する。このイントロン挿入は、機能性RGFPタンパク質の完全性を破壊するが、これはイントロンのスプライシングによって完全性を回復できるので、我々は形質移入された細胞中に現れる赤色の赤方偏移蛍光タンパク質(RGFP)によって、成熟のmiRNA/shRNAの発現を測定することができる。RGFP遺伝子は、RNAスプライシングの正確性と効率を向上させるように、複数のエクソンスプライシングエンハンサー(exonic splicing enhancers、ESE)も備えている。
【0013】
詳細には、SpRNAiイントロンは、5’−GTAAGAGK−3’(SEQ.ID.NO.4)又はGU(A/G)AGUモチーフ(即ち、5’−GTAAGAGGAT−3’、5’−GTAAGAGT−3’、5’−GTAGAGT−3’、及び5’−GTAAGT−3’)のいずれかと相同である5’スプライス部位(5’−splicing site)を含み、SpRNAiイントロンの3’末端は、GWKSCYRCAG(SEQ.ID.NO.5)又はCT(A/G)A(C/T)NGモチーフ(即ち、5’−GATATCCTGCAG−3’、5’−GGCTGCAG−3’、及び5’−CCACAG−3’)と相同な3’受容スプライス部位である。また、分岐点配列(branch point sequence)は、5’末端と3’末端のスプライス部位の間に位置し、5’−TACTAAC−3’及び5’−TACTTAT−3’のような5’−TACTWAY−3’(SEQ.ID.NO.6)モチーフと高度相同である。分岐点配列のアデノシンヌクレオチドである「A」ヌクレオチドは、ほぼ全てのスプライセオソームイントロン(spliceosomal introns)において細胞の2’−5’−オリゴアデニル酸合成酵素((2’−5’)−oligoadenylate synthetases)とスプライセオソーム(spliceosomes)によって、(2’−5’)結合型の投げ縄イントロンRNA(intron RNA)の一部を形成する。さらに、ポリピリミジントラクト(poly−pyrimidine tract)が分岐点配列と3’スプライス部位との間に近接して位置し、高T(チミンヌクレオチド)含量又は高C(シトシンヌクレオチド)含量の配列であって、5’−(TY)m(C/−)(T)nS(C/−)−3’(SEQ.ID.NO.7)又は5’−(TC)nNCTAG(G/−)−3’(SEQ.ID.NO.8)モチーフのいずれかと相同である。そのうち、符号「m」及び「n」は複数の重複を示し、≧1であり、最も好ましくは、mは1〜3、nは7〜12である。符号「−」は、該配列内にスキップしてよい1個のヌクレオチドがあることを示す。また、これらの全ての合成イントロン構成要素を連結するために、配列には幾つかのリンカーヌクレオチド配列も含まれる。米国特許法施行規則(37 CFR)第1.822条のヌクレオチド及び/又はアミノ酸配列データに使用する符号及び書式に関するガイドラインに基づき、符号Wはアデニン(A)又はチミン(T)/ウラシル(U)、符号Kはグアニン(G)又はチミン(T)/ウラシル(U)、符号Sはシトシン(C)又はグアニン(G)、符号Yはシトシン(C)又はチミン(T)/ウラシル(U)、符号Rはアデニン(A)又はグアニン(G)、符号Nはアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)又はチミン(T)/ウラシル(U)を示す。
【0014】
他の好ましい実施例において、本発明は直接の(エクソン型)mir−302 miRNA/shRNA発現系であって、細胞内のRNAスプライシング及び/又はNMD機構を経ず、mir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターを直接に生成することができる。しかし、この方法の欠点はmir−302遺伝子サイレンシングエフェクターの発現が、ナンセンス仲介減衰(NMD)のようないずれかの細胞内監視システム(surveillance system)にも制御されないため、天然miRNA生合成経路の過飽和によって細胞毒性を生成するおそれがある(Grimm氏ら,2006)。この方法に用いられる発現系は、直鎖状又は環状の核酸組成物であって、プラスミド(plasmid)、ウィルスベクター(viral vector)、レンチウィルスベクター(lentiviral vector)、トランスポゾン(transposon)、レトロトランスポゾン(retrotransposon)、ジャンピング遺伝子(jumping gene)、タンパク質コード遺伝子(protein−coding gene)、非コード遺伝子(non−coding gene)、人工組換え導入遺伝子(artificially recombinant transgene)及びこれらの組み合わせから選ばれる。マイクロRNA、小ヘアピンRNA、小干渉RNA、及びこれらの前駆体と相同体/誘導体を含むMir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターは、組織特異的または非特異的なRNAプロモーターの制御により発現される。RNAプロモーターはII型RNAポリメラーゼ(Pol−II)、ウィルスポリメラーゼ(viral polymerase)、III型RNAポリメラーゼ(Pol−III)、I型RNAポリメラーゼ(Pol−I)、及びテトラサイクリン応答要素に制御されるRNAポリメラーゼ(TRE)プロモーターから選ばれる。ウィルスプロモーターは、Pol−II様RNAプロモーターであり、サイトメガロウィルス(cytomegalovirus、CMV)、レトロウィルス末端反復配列(retrovirus long−terminal region、LTR)、B型肝炎ウィルス(hepatitis B virus、HBV)、アデノウイルス(adenovirus、AMV)、及びアデノ関連ウィルス(adeno−associated virus、AAV)から単離されるが、これらに限らない。例として、レンチウィルスLTRプロモーターは、1つの細胞において、五十万ものpre−mRNA転写物(pre−mRNA transcript)(コピー)を生産することができる。また、薬剤感受性抑制体(drug−sensitive repressor、即ち、tTS)をRNAポリメラーゼプロモーターの前に挿入することによって、遺伝子サイレンシングエフェクターの転写速度を制御することも可能である。抑制因子は、化学薬剤、又は、G418、ネオマイシン(neomycin)、テトラサイクリン(tetracycline)、ドキシサイクリン(doxycycline)、アンピシリン(ampicillin)、カナマイシン(kanamycin)、ピューロマイシン(puromycin)及びこれらの誘導体などから選ばれる抗生物質により抑制される。
【0015】
また、幾つかのイントロン遺伝子サイレンシングエフェクターを発現する複数の導入遺伝子(transgenes)及び/又はベクターを用いて、mir−302の標的遺伝子に対して遺伝子サイレンシング効果を実現してもよい。また、複数の遺伝子サイレンシングエフェクターは、1つのイントロンインサート(intronic insert)によって生成することができる。例えば、ゼブラフィッシュ中のマイクロRNA前駆体(pre−miRNA)を含有する抗EGFP(anti−EGFP)イントロンの異所性発現(ectopic expression)で、2種類の異なるサイズのmiRNA、即ち、mir−EGFP(282/300)及びmirR−EGFP(280/302)が生成されるとの報告があった。これは、1つのSpRNAiインサートが複数の遺伝子サイレンシングエフェクターを生成できることを示している(Lin氏ら,(2005)Gene356:32−38)。ある場合では、イントロン遺伝子サイレンシングエフェクターは標的遺伝子転写物(即ち、メッセンジャーRNA、mRNA)とハイブリダイゼーションすることで、2本鎖小干渉RNA(siRNAs)を形成してRNA干渉(RNAi)二次効果を引き起こすことができる。これらの遺伝子サイレンシングエフェクターは導入遺伝子ベクターによって絶えず生成されるので、RNAのインビボにおける素早い分解の懸念が軽減される。この方策の利点は、ベクターによる形質移入又はウィルス感染の安定性によって、確実で長期的な遺伝子サイレンシング効果を提供することができることである。
【0016】
一部の天然マイクロRNA前駆体(pre−miRNAs)のステムループ(stem−loop)構造が過大及び/又は複雑でマイクロRNA発現系/ベクターに適合しないため、本発明者は、天然マイクロRNA前駆体のループに代わって、手動で再設計したメチオニルtRNAループ(tRNAmetループ、即ち5’−(A/U)UCCAAGGGGG−3’)を用いる場合が多い。tRNAmetループは、天然miRNAと同様な輸送メカニズムによって、Ran−GTP及びエクスポーチン−5(Exportin−5)を介して、手動で再設計したmiRNAを細胞核から細胞質への輸送を有効的に実行できる(Lin氏ら,2005)。本発明の利点は、5’−GCTAAGCCAG GC−3’(SEQ.ID.NO.1)と5’GCCTGGCTTA GC−3’(SEQ.ID.NO.2)を含む人工改良した1対のマイクロRNA前駆体ループを使用することにより、手動で再設計したマイクロRNAに天然pre−miRNAと同じ核外への輸送(nucleus export)効率をあげるとともに、tRNA輸出には干渉しないことができる。また、この改良は、mir−302a−mir−302a*のデュプレックスとmir−302c−mir−302c*のデュプレックスの形成を促進し、mir−302s全体的機能及び安定性を向上させることができる。これらの新しいマイクロRNA前駆体ループの設計はtRNAmetループとmir−302b/mir−302aの短鎖ステムループの組み合わせを修飾することによって完成され、そのうち、mir−302b/mir−302aの短鎖ステムループはヒトES細胞では高度に発現しているが、他の分化した組織細胞ではそうでない。従って、mir−302構造内のこれらの組換え/人造/人工ヘアピンループの使用は、人体での天然miRNA経路に干渉しないため、細胞毒性を低減させ、安全性を向上させる。
【0017】
mir−302マイクロRNA前駆体ファミリークラスターは、合成されたmir−302相同体のハイブリダイゼーション及び連鎖/ライゲーションによって形成され、5’末端から3’末端に向けてmir−302a、mir−302b、mir−302c、及びmir−302d のmiRNA前駆体(pre−miRNAs、図1B)の4つの部分を含む。これら全ての手動で再設計したmir−302 miRNA/shRNA分子は、その5’末端配列の最初に、同じ17ヌクレオチド[例えば、5’−UAAGUGCUUC CAUGUUU−3’(SEQ.ID.NO.3)]がある。Mir−302のマイクロRNA前駆体クラスターに使用される合成オリゴヌクレオチドとして、mir−302a−センス:5’−GTCACGCGTT CCCACCACTT AAACGTGGAT GTACTTGCTT TGAAACTAAA GAAGTAAGTG CTTCCATGTT TTGGTGATGG ATAGATCTCT C−3’(SEQ.ID.NO.9)、mir−302a−アンチセンス:5’−GAGAGATCTA TCCATCACCA AAACATGGAA GCACTTACTT CTTTAGTTTC AAAGCAAGTA CATCCACGTT TAAGTGGTGG GAACGCGTGA C−3’(SEQ.ID.NO.10)、mir−302b−センス:5’−ATAGATCTCT CGCTCCCTTC AACTTTAACA TGGAAGTGCT TTCTGTGACT TTGAAAGTAA GTGCTTCCAT GTTTTAGTAG GAGTCGCTCA TATGA−3’(SEQ.ID.NO.11)、mir−302b−アンチセンス:5’−TCATATGAGC GACTCCTACT AAAACATGGA AGCACTTACT TTCAAAGTCA CAGAAAGCAC TTCCATGTTA AAGTTGAAGG GAGCGAGAGA TCTAT−3’(SEQ.ID.NO.12)、mir−302c−センス:5’−CCATATGGCT ACCTTTGCTT TAACATGGAG GTACCTGCTG TGTGAAACAG AAGTAAGTGC TTCCATGTTT CAGTGGAGGC GTCTAGACAT−3’(SEQ.ID.NO.13)、mir−302c−アンチセンス:5’−ATGTCTAGAC GCCTCCACTG AAACATGGAA GCACTTACTT CTGTTTCACA CAGCAGGTAC CTCCATGTTA AAGCAAAGGT AGCCATATGG−3’(SEQ.ID.NO.14)、mir−302d−センス:5’−CGTCTAGACA TAACACTCAA ACATGGAAGC ACTTAGCTAA GCCAGGCTAA GTGCTTCCAT GTTTGAGTGT TCGCGATCGC AT−3’(SEQ.ID.NO.15)、及びmir−302d−アンチセンス,5’−ATGCGATCGC GAACACTCAA ACATGGAAGC ACTTAGCCTG GCTTAGCTAA GTGCTTCCAT GTTTGAGTGT TATGTCTAGA CG−3’(SEQ.ID.NO.16)を含む。また、手動で再設計した小ヘアピンRNA(shRNA)を使用してもよい。該手動で再設計した小ヘアピンRNAは合成mir−302s−センス:5’−GCAGATCTCG AGGTACCGAC GCGTCCTCTT TACTTTAACA TGGAAATTAA GTGCTTCCAT GTTTGAGTGG TGTGGCGCGA TCGATATCTC TAGAGGATCC ACATC−3’(SEQ.ID.NO.17) 及びmir−302s−アンチセンス:5’−GATGTGGATC CTCTAGAGAT ATCGATCGCG CCACACCACT CAAACATGGA AGCACTTAAT TTCCATGTTA AAGTAAAGAG GACGCGTCGG TACCTCGAGA TCTGC−3’(SEQ.ID.NO.18)のハイブリダイゼーションによって形成され、mir−302 マイクロRNA前駆体クラスター(mir−302 pre−miRNA cluster)に代わって、簡単なイントロン挿入を行う。Mir−302小ヘアピンRNA(mir−302 shRNA)は、全ての天然mir−302メンバーと85%よりも高い相同性を有し、同じヒト細胞遺伝子を標的とする。mir−302相同体の設計に当たって、ウラシルの代わりにチミンを使ってもよく、逆の場合も同様である。
【0018】
mir−302のmiRNA/shRNA前駆体のイントロン挿入(ingronic insertion)については、組換えSpRNAi−RGFP導入遺伝子の挿入部位の側面において、それぞれ5’ 末端にPvuI及び3’末端にMluI制限/クローニング部位があることから、最初のインサートを除去し、mir−302miRNA/shRNA前駆体のような様々なmiRNA/shRNA前駆体インサートで置き換えることできる。miRNA/shRNA前駆体インサートはPvuI及びMluI制限部位とマッチする付着末端(cohesive ends)を有する。異なる遺伝子転写物を標的とするイントロンインサートを変えることで、本発明のイントロンmir−302s(intronic mir−302s)発現系は、インビトロ、エクスビボ及びインビボで標的遺伝子サイレンシングを誘発する強力なツールとして使用できる。イントロン挿入後、イントロン挿入部位にmir−302を含有するこのSpRNAi−RGFP導入遺伝子は更にドキシサイクリンにより誘導されるpSingle−tTS−shRNAベクターの制限/クローニング部位(即ち、XhoI−HinDIII制限/クローニング部位)に挿入され、細胞内で発現できるpTet−On−tTS−miR302s発現ベクターを形成する(図1A)。
【0019】
mir−302を発現する核酸組成物をヒト細胞に送達させる方法として、リポソーム/ポリソーム/化学的形質移入(liposomal/polysomal/chemical transfection)、DNA組換え(DNA recombination)、電気穿孔法(electroporation)、遺伝子銃による貫入(gene gun penetration)、トランスポゾン/レトロトランスポゾン挿入(transposon/retrotransposon insertion)、ジャンピング遺伝子組み込み(jumping gene integration)、マイクロインジェクション(micro−injection)、ウィルス感染(viral infection)、レトロウィルス/レンチウィルス感染(retroviral/lentiviral infection)、及びこれらの組み合わせから選ばれる非遺伝子組換え方法又は遺伝子組換え方法が用いられる。ランダムな導入遺伝子挿入及び細胞の突然変異のリスクを防ぐために、本発明は、リポソーム又はポリソーム形質移入法を用いて、pTet−On−tTS−mir302sベクターを標的ヒト細胞(即ち、腫瘍/癌細胞)に送達することが好ましい。Mir−302sの発現は、各濃度のドキシサイクリンにおいて、pTet−On−tTS−miR302sベクターにおけるTREに制御されるCMVプロモーターの活性化によって決められる。従って、本発明は、明確な薬剤(即ち、ドキシサイクリン)により行われる誘導性機構を提供することによって、mir−302sのインビトロ、エクスビボ、インビボでの発現を制御し、これも細胞内NMDシステム以外の第2の保護手段である。ドキシサイクリンによる制御の結果、我々は被験細胞において、RNA蓄積又は過飽和による細胞毒性を検出しなかった。また、本発明は、所定の期間内にmir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターを持続的に発現することができる持続的(constitutive)mir−302発現系を提供する。mir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターの発現は、CMVプロモーターにより駆動されることが好ましい。該CMVプロモーターは通常、ヒト細胞内で1ヶ月の活性化状態を経てDNAメチル化によってサイレンシングされる。その1ヶ月の活性化機構は、処理された細胞におけるRNA蓄積又は過飽和による細胞毒性を防止できるため、癌の治療に有益である。
【0020】
要するに、本発明は新規設計及び施策を採用し、形質移入した細胞に誘導的又は持続的にmir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターを発現することができる。mir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターは、mir−302a、mir−302b、mir−302c、mir−302dとこれらのヘアピン様マイクロRNA前駆体(pre−miRNAs)、手動で再設計した小ヘアピンRNA(shRNA)相同体/誘導体、及びこれらの組み合わせを含む。好ましい実施例では、本発明は標的細胞において、mir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターに送達、転写及びプロセシングされることで、mir−302の標的となる細胞周期調節因子及び発癌遺伝子の特定遺伝子サイレンシング効果を誘発する組換え核酸組成物の設計及び方法を提供し、a)少なくとも1つの遺伝子サイレンシングエフェクターに送達、転写及びプロセシングされることで、mir−302の標的となる複数の細胞遺伝子を干渉する組換え核酸組成物を提供する工程、とb)該組換え核酸組成物で細胞基質を処理する工程を含む。mir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターの転写は持続的プロモーター(即ち、CMV)又は薬剤誘導性プロモーター(即ち、TRE−CMV)によって駆動される。該薬剤誘導性組換え核酸組成物は、Tet−Onベクターであって、組換えmir−302フミリークラスター(mir−302s、SEQ.ID.NOs.9〜16の雑種)又は手動で再設計したmir−302小ヘアピンRNA相同体(shRNA、即ち、SEQ.ID.NOs.17と18との雑種)が挿入された組換え遺伝子を含むことが好ましい。該細胞基質はインビトロ、エクスビボ又はインビボでmir−302の標的遺伝子を発現させることができる。本発明は、mir−302の標的となる細胞周期調節因子及び発癌遺伝子をサイレンシングすることによって、細胞腫瘍形成能力を抑制することができ、処理された細胞を非腫瘍/癌細胞に再プログラムすることができる。
【0021】
本発明は、6つの分野でmir−302媒介の腫瘍/癌の治療が成功したことを証明した。第1に、mir−302を正常ヒト細胞(mirPS−hHFC)に形質移入することにより、細胞周期が減衰するが、アポトーシス又は細胞死を引き起こさない(図1D−Fと図3A−C)。第2に、mir−302を正常ヒト細胞に形質移入することにより、細胞を幹細胞様状態へ再プログラムすることができ、損傷組織の治療に有益である(図4A−Bと図5A−D)。第3に、mir−302を腫瘍/癌細胞(mirPS−MCF7、mirPS−HepG2及びmirPS−NTera2)に形質移入することにより、腫瘍/癌細胞の腫瘍形成能力を強力に抑制し、>98%のアポトーシス又は細胞死を引き起こすことができる(図6A−E)。第4に、mir−302は、サイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)、サイクリンD1/D2(cyclin D1/D2)とBMI−1のような複数の細胞周期調節因子を共抑制するのみならず、腫瘍抑制因子であるp16INK4a及びp14/p19Arfを活性化することによっても、腫瘍/癌細胞の形成を抑制できる(図7A−D)。第5に、インビボでmir−302を腫瘍に送達することによって、>90%の腫瘍細胞の成長を抑制することができる(図8A−C)。最後に、mir−302はテロメア短縮(telomere shortening)による細胞老化(cell senescence)を引き起こすことはない(図9A−C)。また、本発明者は、ポリソーム/リポソーム(polysome/liposome)を用いて、mir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターをインビボの標的腫瘍細胞に形質移入するに成功し、レトロウィルス感染及び組換え遺伝子突然変異というリスクを予防することができた(図8A−C)。これらの知見は、mir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターを腫瘍/癌治療の治療薬及び/又はワクチンとして使用できる強力な証拠を提供した。また、mir−302はヒト細胞の幹細胞性(stemness)を回復させる機能をも有しているため(Lin氏ら,2008)、本発明は幹細胞及び癌治療の両方への適用に有益である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1A】図1A〜Fは誘導性のmir−302発現及び正常ヒト毛嚢細胞(hHFC)を増殖する効果を示す。(A)ドキシサイクリン(Dox)により誘導可能なpTet−On−tTs−miR302sベクターの構造。
【図1B】図1A〜Fは誘導性のmir−302発現及び正常ヒト毛嚢細胞(hHFC)を増殖する効果を示す。(B)mir−302ファミリー(mir−302s)の構造。
【図1C】図1A〜Fは誘導性のmir−302発現及び正常ヒト毛嚢細胞(hHFC)を増殖する効果を示す。(C)10μMドキシサイクリン(Dox)により処理され(n=3、p<0.01)、6時間経過後、誘導発現されたmir−302をマイクロRNAマイクロアレイ分析した結果。
【図1D】図1A〜Fは誘導性のmir−302発現及び正常ヒト毛嚢細胞(hHFC)を増殖する効果を示す。(D)コア再プログラム転写因子Oct3/4−Sox2−Nanogとメラニン細胞(melanocytic)のマーカー遺伝子TRP1のタンパク質産物、サイトケラチン(cytokeratin 16)の発現パターンに対するmir−302の用量依存的な効果をノーザン及びウェスタンブロット分析法で分析した(n=5、p<0.01)。
【図1E】図1A〜Fは誘導性のmir−302発現及び正常ヒト毛嚢細胞(hHFC)を増殖する効果を示す。(E)mirPS−hHFC細胞集団の有糸分裂期(M期)と休眠期(G0/G1期)の変化に対するmir−302の用量依存的な効果を示すフローサイトメトリー分析結果の棒グラフ。
【図1F】図1A〜Fは誘導性のmir−302発現及び正常ヒト毛嚢細胞(hHFC)を増殖する効果を示す。(F)10μMドキシサイクリン(Dox)による処理後、各mirPS細胞株におけるmir−302の誘導によるアポトーシスDNA断裂のDNAラダーリング(DNA laddering)の特徴。
【図2A】図2A〜Cはmir−302sの生合成及びmir−PS細胞の生成を示す。(A)イントロンmir−302の生合成機構。mir−302ファミリーは、赤色蛍光タンパク質(RGFP)とともに転写され、更にスプライソーム複合体(spliceosomal components)及び細胞質酵素であるエンドリボヌクレアーゼ(RNaseIII)ダイサー(Dicers)によって、単独のmir−302メンバーにスプライスされる。そのうち、赤色蛍光タンパク質をmir−302生成量の指標とする。1倍の赤色蛍光タンパク質濃度は4倍のmir−302生産量濃度に相当する。
【図2B】図2A〜Cはmir−302sの生合成及びmir−PS細胞の生成を示す。(B)はリポソーム/ポリソーム/電気穿孔法により、mir−302を形質移入する工程を示す。誘導性のmir−302発現ベクターpTet−On−tTs−miR302s(図1A)は低浸透圧pH緩衝液(200μl、Eppendorf)において、300〜400Vで150μsecの電気穿孔法によって、成熟(adult)hHFC細胞に導入された。試験毎に10μgのpTet−On−tTs−miR302sを用いて、2つのヒト毛嚢(真皮乳頭)由来の培養された200,000個のhHFC細胞に形質移入した。ドキシサイクリン(doxycline,Dox)により誘導されて、発現された後、mir−302の生合成は天然のイントロンマイクロRNA(intronic miRNA)経路に基づいた。
【図2C】図2A〜Cはmir−302sの生合成及びmir−PS細胞の生成を示す。
【図3A】図3A〜Cは、ドキシサイクリン(Dox=5又は10μg)により誘導された後に発現されたmir−302がmirPS−hHFC細胞特性に対して起こした変化を示す。(A)はドキシサイクリンにより細胞の再プログラムを誘導する前後、細胞形態と細胞周期の速度の変化である。各細胞周期段階に対応するDNA含量のフローサイトメトリー分析結果を細胞形態学の上方にグラフで示す(n=3、p<0.01)。グラフにおいて、第1(左)と第2(右)のピークは、それぞれ全ての被験細胞集団に対する休止期(G0/G1)細胞及び有糸分裂期(M)細胞の比率を示す。目盛尺=100μm。
【図3B】図3A〜Cは、ドキシサイクリン(Dox=5又は10μg)により誘導された後に発現されたmir−302がmirPS−hHFC細胞特性に対して起こした変化を示す。(B)は限界希釈後、単一のmirPS−hHFC細胞が胚性様体(EB)を形成する時間経過である。細胞周期は、最初では20〜24時間であったが、72時間後に徐々に加速したと推測される。目盛尺=100μm。
【図3C】図3A〜Cは、ドキシサイクリン(Dox=5又は10μg)により誘導された後に発現されたmir−302がmirPS−hHFC細胞特性に対して起こした変化を示す。
【図4A】図4A〜Bは、多能性マーカーの発現の分析及びインビボでの多能性分化と同化を示す。(A)ヒト胚性幹細胞(hES)マーカー遺伝子がmirPS細胞において高濃度のmir−302により誘導された後の発現パターンと、ヒト胚性幹細胞(hES)マーカー遺伝子がヒト胚性幹細胞であるWA01−H1(H1)及びWA09−H9(H9)における発現パターンとのノーザンブロット分析による比較の結果(n=5、p<0.01)。7.5μMドキシサイクリン(Dox)処理後のmirPS細胞におけるmir−302の濃度は、H1とH9細胞における濃度より30%高くなり(未処理のhHFCの>30倍)、主要な多能性マーカーであるOct3/4、Sox2、Nanog、Lin28及び未分化胚性細胞転写因子1(UTF1)の共発現を誘発し始めた。
【図4B】図4A〜Bは、多能性マーカーの発現の分析及びインビボでの多能性分化と同化を示す。(B)mirPS細胞を免疫不全SCID−beigeマウスに移植してから1週間経過後、mirPS細胞により分化された組織が注射部位付近の周辺組織に同化された。白い矢印は注射の方向を示す。境界板(intercalated disks)の位置は黄色い三角形で標記する。mirPS−hHFC由来の組織腫瘍はマウスの子宮及び腹膜腔以外の器官/組織で成長することはない。更に、我々は移植後1週間経過時、解剖を行い、注射部位の周辺の組織形成を検査した。解剖の前日にマウスに尾静脈から10μgドキシサイクリンをマウスに与えた。腹腔内注射後に形成された腸上皮組織、心臓注射後の心筋、及び背側脇腹(dorsal flank)に注射後に形成された骨格筋を含み、RGFP陽性を呈するmirPS細胞が注射部位の周辺組織の細胞と同じ種類の細胞に分化したことが我々に観察された。また、同化されたmirPS細胞も、例えば、腸上皮のMUC2、心筋のトロポニンT2(troponin T type 2、cTnT)、及び骨格筋のミオシン重鎖(myosin heavy chain、MHC)という周辺組織と同様な組織特異性マーカーを発現した。
【図5A】図5A〜Dは、ドキシサイクリン(Dox=10μM)の誘導によりmirPS−hHFCsがヒト胚性様幹細胞(hES−like)の特性を得たことを示す。(A)ヒトゲノム遺伝子チップ(Human genome GeneChip U133 plus 2.0 array、Affymetrix)を用いて、mir−302により誘導される体細胞の再プログラム(SCR)前後の全遺伝子発現パターンを分析した結果(n=5、p<0.01〜0.05)。
【図5B】図5A〜Dは、ドキシサイクリン(Dox=10μM)の誘導によりmirPS−hHFCsがヒト胚性様幹細胞(hES−like)の特性を得たことを示す。(B)制限酵素HpaIIにより切断された後、比較的小さいDNA断片の存在と増加は、5μMではなく10μMのドキシサイクリン(Dox)による処理後、mirPS細胞におけるゲノム全体範囲の全CpGメチル化の大幅減少を証明した。
【図5C】図5A〜Dは、ドキシサイクリン(Dox=10μM)の誘導によりmirPS−hHFCsがヒト胚性様幹細胞(hES−like)の特性を得たことを示す。(C)重亜硫酸塩DNA配列決定法によりOct3/4とNanogのプロモーター領域の配列を決定して得られた詳細なメチル化地図である。黒い円形と白い円形は、それぞれメチル化と非メチル化のシトシン部位を表している。
【図5D】図5A〜Dは、ドキシサイクリン(Dox=10μM)の誘導によりmirPS−hHFCsがヒト胚性様幹細胞(hES−like)の特性を得たことを示す。(D)mirPS−hHFCsにより多能性分化された奇形腫様組織嚢腫(teratoma−like tissue cysts)は3つの胚性細胞層(embryonic germ layers)に由来する各種の組織を含む。
【図6A】図6A〜Eは、10μMドキシサイクリン(Dox)がmir−302を誘導して発現させた後、各種の腫瘍/癌細胞に由来するmirPS細胞のインビトロ腫瘍形成能力の分析を示す。(A)は、ドキシサイクリン(Dox)により細胞の再プログラムを誘導する前後、細胞形態と細胞周期の速度の変化である。各細胞周期段階に対応するDNA含量のフローサイトメトリー分析結果を細胞形態学の上方にグラフで示す(n=3、p<0.01)。
【図6B】図6A〜Eは、10μMドキシサイクリン(Dox)がmir−302を誘導して発現させた後、各種の腫瘍/癌細胞に由来するmirPS細胞のインビトロ腫瘍形成能力の分析を示す。(B)mirPS細胞集団の有糸分裂(M期)と休眠(G0/G1期)の変化に対するmir−302の用量依存的な効果を示すフローサイトメトリー分析結果の棒グラフ。
【図6C】図6A〜Eは、10μMドキシサイクリン(Dox)がmir−302を誘導して発現させた後、各種の腫瘍/癌細胞に由来するmirPS細胞のインビトロ腫瘍形成能力の分析を示す。(C)Mir−302の腫瘍(及び/又は癌細胞)の抑制はMatrigelチャンバー中で現れた侵入行為の機能性の分析(n=4、p<0.05)。
【図6D】図6A〜Eは、10μMドキシサイクリン(Dox)がmir−302を誘導して発現させた後、各種の腫瘍/癌細胞に由来するmirPS細胞のインビトロ腫瘍形成能力の分析を示す。(D)ドキシサイクリン誘導のmir−302の発現前と発現後、細胞がヒト骨髄内皮細胞(hBMECs)単層に接着する比率の比較結果(n=4、p<0.05)。
【図6E】図6A〜Eは、10μMドキシサイクリン(Dox)がmir−302を誘導して発現させた後、各種の腫瘍/癌細胞に由来するmirPS細胞のインビトロ腫瘍形成能力の分析を示す。
【図7A】図7A〜Dはルシフェラーゼ3’末端非翻訳レポーター遺伝子アッセイ(luciferase 3’−UTR reporter gene assay)により、標的となるG1チェックポイント調節因子(G1−checkpoint regulators)においてmir−302が誘発した遺伝子サイレンシング効果を示す。(A)ルシフェラーゼ3’末端非翻訳レポーター遺伝子の構造は3’末端非翻訳領域に2つの正常(T1+T2)の、2つの突然変異(M1+M2)の、又は正常と突然変異による混合(T1+M2又はM1+T2)のmir−302の標的部位がある。突然変異部位は、正常の標的部位と一致する3’−CTT末端の代わりに、ミスマッチ(mismatched)するTCCモチーフを含有する。
【図7B】図7A〜Dはルシフェラーゼ3’末端非翻訳レポーター遺伝子アッセイ(luciferase 3’−UTR reporter gene assay)により、標的となるG1チェックポイント調節因子(G1−checkpoint regulators)においてmir−302が誘発した遺伝子サイレンシング効果を示す。(B)ドキシサイクリン(Dox)が誘導したmir−302の発現はルシフェラーゼの発現に対する影響(n=5、p<0.01)。Dox濃度=5又は10μM。CCND1とCCND2は、それぞれサイクリンD1とサイクリンD2を示す。
【図7C】図7A〜Dはルシフェラーゼ3’末端非翻訳レポーター遺伝子アッセイ(luciferase 3’−UTR reporter gene assay)により、標的となるG1チェックポイント調節因子(G1−checkpoint regulators)においてmir−302が誘発した遺伝子サイレンシング効果を示す。(C)と(D)はウェスタンブロット分析法で高濃度(10μM Dox)と低濃度(5μM Dox)のmir−302誘導において、mir−302の主要な標的となるG1チェックポイント調節因子がmirPS細胞、及びヒト胚性幹細胞であるWA01−H1(H1)とWA09−H9(H9)における変化の比較結果(n=4、p<0.01)。
【図7D】図7A〜Dはルシフェラーゼ3’末端非翻訳レポーター遺伝子アッセイ(luciferase 3’−UTR reporter gene assay)により、標的となるG1チェックポイント調節因子(G1−checkpoint regulators)においてmir−302が誘発した遺伝子サイレンシング効果を示す。(C)と(D)はウェスタンブロット分析法で高濃度(10μM Dox)と低濃度(5μM Dox)のmir−302誘導において、mir−302の主要な標的となるG1チェックポイント調節因子がmirPS細胞、及びヒト胚性幹細胞であるWA01−H1(H1)とWA09−H9(H9)における変化の比較結果(n=4、p<0.01)。
【図8】図8A〜Cはインビボでの腫瘍形成能力の分析は、mirPS−NTera2細胞が持続的発現のmir−302s(NTera2+mir−302s)又はmir−302d*(NTera2+mir−302d*)(n=3、p<0.05)に対する反応を示す。形質移入された腫瘍細胞NTera−2中のmir−302sとmir−302d*は、それぞれpCMV−miR302sベクター及びpCMV−miR302d*ベクターから転写された。(A)インサイチュー注射(post−is)を実施して3週間経過後、平均の腫瘍サイズに対して形態学評価を行った。全ての腫瘍は本来の移入部位に位置した(黒い矢印が指す所)。いずれの被験マウス(雄性、BALB/c−nu/nu品種)でも、悪液質又は腫瘍転移の徴候は観察されなかった。(B)ノーザンブロット分析とウェスタンブロット分析及び(C)免疫組織化学染色分析の図により、インビボでmir−302がコア再プログラム転写因子Oct3/4−Sox−Nanogとmir−302の標的となるG1チェックポイント調節因子であるサイクリン依存キナーゼ2(CDK2)、サイクリンD1/D2(cyclins D1/D2)、BMI−1、及びp16Ink4aとp14Arfの発現パターンに対する効果を示す。
【図8C】図8A〜Cはインビボでの腫瘍形成能力の分析は、mirPS−NTera2細胞が持続的発現のmir−302s(NTera2+mir−302s)又はmir−302d*(NTera2+mir−302d*)(n=3、p<0.05)に対する反応を示す。形質移入された腫瘍細胞NTera−2中のmir−302sとmir−302d*は、それぞれpCMV−miR302sベクター及びpCMV−miR302d*ベクターから転写された。(B)ノーザンブロット分析とウェスタンブロット分析及び(C)免疫組織化学染色分析の図により、インビボでmir−302がコア再プログラム転写因子Oct3/4−Sox−Nanogとmir−302の標的となるG1チェックポイント調節因子であるサイクリン依存キナーゼ2(CDK2)、サイクリンD1/D2(cyclins D1/D2)、BMI−1、及びp16Ink4aとp14Arfの発現パターンに対する効果を示す。
【図9A】図9A〜Cは10μMドキシサイクリンにより誘導されるmir−302の発現において、mirPS−hHFCと各種腫瘍/癌細胞に由来するmirPS細胞株のテロメラーゼの活性分析を示す。(A)テロメアリピート増幅プロトコル(TRAP)法でテロメラーゼの活性を分析した(n=5、p<0.01)。テロメラーゼの活性はRNase処理に影響される(hHFC+RNase)。
【図9B】図9A〜Cは10μMドキシサイクリンにより誘導されるmir−302の発現において、mirPS−hHFCと各種腫瘍/癌細胞に由来するmirPS細胞株のテロメラーゼの活性分析を示す。(B)ウェスタンブロット法により、各種mirPS細胞株におけるヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)の発現は一致的に増加するが、AOF2とHDAC2の発現は減少することを証明した(n=5、p<0.01)。
【図9C】図9A〜Cは10μMドキシサイクリンにより誘導されるmir−302の発現において、mirPS−hHFCと各種腫瘍/癌細胞に由来するmirPS細胞株のテロメラーゼの活性分析を示す。(C)テロメラーゼPCR ELISA試験でテロメラーゼの活性を測定した(OD470−OD680;n=3、p<0.01)。
【図10A】図10A〜Dの分析結果により、標的となる後成的遺伝子(epigenetic gene)に対するmir−302のサイレンシング効果を示した。(A)ルシフェラーゼ3’末端非翻訳領域レポーター遺伝子の構造は、3’末端非翻訳領域に2つの正常の(T1+T2)、2つの突然変異の(M1+M2)、又は正常と突然変異混合の(T1+M2又はM1+T2)mir−302の標的部位がある。突然変異部位は正常の標的部位と一致する3’−CTT末端の代わりに、ミスマッチTCCモチーフを含有する。
【図10B】図10A〜Dの分析結果により、標的となる後成的遺伝子(epigenetic gene)に対するmir−302のサイレンシング効果を示した。(B)ドキシサイクリン(Dox)により誘導して発現されたmir−302はルシフェラーゼの発現に対する影響(n=5、p<0.01)。
【図10C】図10A〜Dの分析結果により、標的となる後成的遺伝子(epigenetic gene)に対するmir−302のサイレンシング効果を示した。(C)と(D)はウェスタンブロット分析法で、高濃度(10μM Dox)と低濃度(5μM Dox)のmir−302の誘導で、mir−302の主要な標的外遺伝子はmirPS細胞、及びヒト胚性幹細胞であるWA01−H1(H1)及びWA09−H9(H9)における変化の比較結果(n=4、p<0.01)。
【図10D】図10A〜Dの分析結果により、標的となる後成的遺伝子(epigenetic gene)に対するmir−302のサイレンシング効果を示した。(C)と(D)はウェスタンブロット分析法で、高濃度(10μM Dox)と低濃度(5μM Dox)のmir−302の誘導で、mir−302の主要な標的外遺伝子はmirPS細胞、及びヒト胚性幹細胞であるWA01−H1(H1)及びWA09−H9(H9)における変化の比較結果(n=4、p<0.01)。
【図11】図11はmir−302媒介の体細胞再プログラム(somatic cell reprogramming、SCR)と細胞周期調節機能の概略図である。現在までの研究に基づき、我々は平行する2つの事象を発見した。第1に、mir−302は、多種の後成的遺伝子調節因子(epigenetic regulators)であるAOF1/2、MECP1/2及びHDAC2に対する強力なサイレンシング作用によって再プログラムを開始するとともに、全ゲノムDNAの脱メチル化を引き起こすことで、さらにSCRを誘発するのに必要とする(灰色標識)ヒト胚性幹細胞の細胞マーカー遺伝子を活性化する。第2に、G1チェックポイント調節因子サイクリン依存キナーゼ(CDK2)、サイクリンD1/D2(cyclins D1/D2)とBMI−1の共抑制及びp16Ink4aとp14/p18Arfの活性化によって、細胞周期の減衰を引き起こすることで、SCRに備える(黒色標識)ように全細胞活動を抑制する。休眠期(G0/G1)の静止も可能なランダム成長(random growth)及び/又は再プログラムされた多能性幹細胞の腫瘍様形質転換(transformation)を防止することができる。要するに、これら2つの事象の協同効果の結果は、より精確且つ安全な再プログラムプロセスと、早熟(pre−mature)及び腫瘍の形成も抑制できるという結果をもたらした。
【発明を実施するための形態】
【0023】
下記の図面は挙げた例の説明のみに使用され、本発明を制限するものではない。
図を参考しながら本発明の特定の具体的実施形態を説明するが、これらの具体的実施形態は例示に過ぎず、本発明の原理の応用を代表する例であることを理解すべきである。当技術分野を熟知しているものであれば、簡単に種々の変更や修飾ができるので、これらの変更や修飾は特許請求の範囲に含むと見なすべきである。
【0024】
本発明は、新しい核酸組成物、及び組換えのmir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターを利用してヒト腫瘍細胞/癌細胞の増殖と腫瘍形成を抑制する方法を提供する。従来の小ヘアピンRNA(shRNA)の設計と異なり、本発明に係る小ヘアピンRNAは、天然mir−302sの前駆体(pre−mir−302s)に類似するミスマッチステムアーム(mismatched stem−arm)を含む。また、本発明に係る小ヘアピンRNAは、改良されたpre−mir−302ステムループである5’−GCTAAGCCAG GC−3’(SEQ.ID.NO.1)及び5’−GCCTGGCTTA GC−3’(SEQ.ID.NO.2)を含み、該pre−mir−302ステムループはトランスファーRNA(tRNA)の輸送に干渉せずに天然マイクロRNA前駆体(pre−miRNA)と同様な核外への輸送効率を提供できる。いかなる特定の理論に制限されず、本発明の抗増殖性と抗腫瘍形成の効果は、新たに発見されたmir−302ファミリークラスター(mir−302s)又はmir−302と相同な小ヘアピンRNA(shRNA)を発現できる組換え核酸組成物を形質移入することによって引き起こされるmir−302媒介の遺伝子サイレンシングメカニズムを示す。全ての手動で再設計したmiRNA/shRNA分子は、その5’末端配列の最初の17個のヌクレオチドに、同様な配列である5’−UAAGUGCUUCCAUGUUU−3’(SEQ.ID.NO.3)を有する。mir−302様遺伝子サイレンシングエフェクター、及びmir−302を発現する核酸組成物を構築する工程は実施例2及び3において記述する。mir−302と相同な配列を設計する際、ウラシル(U)に代わってチミン(T)を用いてもよい。
【0025】
ヒト細胞周期においてmir−302の役割を位置づけるために、我々は誘導性のpTet−On−tTs−miR302s発現ベクターを設計し(図1A、実施例2)、正常のヒト癌細胞中に形質移入した。Mir−302sはhES特有のマイクロRNA(miRNA)ファミリーであり、ファミリークラスターにmir−302b、mir−302c、mir−302a及びmir−302d(mir−302s、図1B)という4つの小型非コードRNAメンバーが含まれる(Suh氏ら,2004)。本発明では、mir−302sの発現は、ドキシサイクリン(Dox)の刺激下で、テトラサイクリン応答要素(tetracycline−response−element、TRE)により制御されるサイトメガロウィルスプロモーター(cytomegaloviral (CMV)promoter)によって駆動される。形質移入後、mir−302の生合成は天然のイントロンマイクロRNA生合成の経路に基づいて行われ、その内、mir−302が赤色蛍光タンパク質をコードするレポーター遺伝子(RGFP)とともに転写され、スプライセオソーム(spliceosomal)及び細胞質のエンドヌクレオチドRNaseIIIダイサー(Dicer)によって単独のmir−302メンバーにスプライスされる(図2A)(Lin氏ら,2008)。定量上では、1倍のRGFP濃度が4倍のmir−302濃度に相当する。マイクロRNAのマイクロアレイ分析によって、ドキシサイクリン(Dox)の刺激下、mir−302b*以外の全てのmir−302メンバーが形質移入された細胞において有効的に発現することを確認した(図1C、実施例3)。pTet−On−tTS−miR302s発現ベクターで細胞を形質移入する工程については図2B−Cにおいて概略に記述する。
【0026】
例えば、pTet−On−tTs−miR302sのようなmir−302を発現する核酸組成物は、真核細胞における翻訳効率を向上させるKozak翻訳開始共通配列(Kozak consensus translation initiation site)、mir−302を発現させる構造物(mir−302 construt)の下流側に位置する複数のSV40ポリアデニル化シグナル(SV40 polyadenylation signals)、原核細胞増殖のためのpUC複製起点、mir−302を発現させる構造物(即ち、SpRNAi−RGFP)を該核酸組成物に組み込むための少なくとも2箇所の制限部位、SV40 T抗原を発現させるほ乳類細胞において複製に必要とする選択的SV40複製起点、及び複製可能な原核細胞で抗生物質耐性遺伝子を発現させるための選択的SV40初期プロモーターを含む。抗生物質耐性遺伝子の発現は、導入遺伝子発現で陽性クローニングを単離するための選択的マーカーとして用いられる。これらの抗生物質は、G418、ネオマイシン(neomycin)、ピューロマイシン(puromycin)、ペニシリンG(penicillin G)、アンピシリン(ampicillin)、カナマイシン(kanamycin)、ストレプトマイシン(streptomycin)、エリスロマイシン(erythromycin)、スペクトロマイシン(spectromycin)、フォフォマイシン(phophomycin)、テトラサイクリン(tetracycline)、ドキシサイクリン(doxycycline)、リファピシン(rifapicin)、アンホテリシンB(amphotericin B)、ゲンタマイシン(gentamycin)、クロラムフェニコール(chloramphenicol)、セファロチン(cephalothin)、チロシン(tylosin)、及びこれらの組み合わせから選ばれる。
【0027】
Mir−302はアポトーシスを起こさずに正常細胞の細胞周期を減衰させる
我々の過去の研究では、ヒト黒色腫細胞Colo−829及び前立腺癌細胞PC3において、mir−302発現の増加はこれらの悪性癌細胞をhES様の多能性の(pluripotent)状態に再プログラムができることを示した(Lin氏ら, 2008)。体細胞の再プログラム(SCR)の過程において、mir−302が98%より多くの(>98%)癌細胞のアポトーシスを引き起こすとともに、さらに、残りの(<2%)再プログラム細胞の増殖速度を大幅に低減した。確かにこれらの特性は癌治療に有益だが、mir−302が正常ヒト細胞における機能はまだ確実ではない。その効果を評価するために、我々は誘導性pTet−On−tTs−miR302s発現ベクターを正常ヒト毛嚢細胞(hHFCs)中に導入させた。hHFCsを選んだ理由は、量が十分で、到達性を有し、且つ成長が速いことにある。我々は、ドキシサイクリン(Dox)の濃度が10μMまで増加することにつれ、ドキシサイクリン濃度が7.5μMより濃い(>7.5μM)(図1D、実施例5)閾値において、コア再プログラム因子(core reprogramming factors)Oct4−Sox2−Nanogが一斉に促進されるとともに、増殖性の細胞クラスターが70%減少し、即ち、本来の37%±2%から11%±2%まで減少した(図1E、M期、実施例7)ことを観察できた。それに応じて、休眠細胞クラスターが41%増加し、即ち、本来の56%±3%から79%±5%までに増加し(図1E、G0/G1期、実施例7)、我々が以前、mir−302によって再プログラムされた多能性幹細胞(mir−302−reprogrammed pluripotent stem cells)において発見された(mirPS cells,Lin氏ら,2008)強力な抗増殖作用と相似することを示唆した。しかし、mir−302により再プログラムされたhHFC細胞(mirPS−hHFC)はアポトーシスを測定できるDNAラダーリング(DNA laddering)又は細胞死のいずれの徴候も示さない(図1F、実施例6)ことから、腫瘍/癌細胞と比較して、正常細胞のほうがよりmir−302による抗増殖作用を耐えられることを示した。腫瘍/癌細胞はその旺盛な新陳代謝及び急速な成長拡張に伴い、このような休眠状態における生存が極めて困難となると考えられる。
【0028】
注意すべきなのは、7.5μMより高い濃度のドキシサイクリンで処理した後、mirPS−hHFCの形態は、紡錘状から休眠細胞様の球状に変わったことである(図3A−B、赤色RGFP陽性細胞)。7.5μMドキシサイクリンの刺激下で生成された細胞のmir−302濃度はヒト胚性幹細胞H1及びH9細胞中のmir−302濃度水準の約1.3倍である(図4A、実施例4)。このより高い濃度水準下で、mirPS−hHFCsはOct3/4、Sox2、Nanog、及びその他の標準ヒト胚性幹細胞(hES)マーカーを強く発現した(図4A)。全遺伝子発現のマイクロアレイ分析では、約半分のトランスクリプトーム(transcriptome)がhHFC体細胞のパターンからhES様の発現パターンに変化し、且つ、H1/H9細胞と93%よりも高い相似性を有することが更に示された(図5A、実施例8)。体細胞の再プログラム(SCR)開始の最初の徴候である全ゲノムDNAの脱メチル化は、これらのmirPS−hHFCsにおいても明確に測定でき、脱メチル化のパターンもH1/H9細胞中のと同じである(図5B及び5C、実施例9)。また、個々のmirPS−hHFC細胞は胚様体と類似する単一のコロニーに成長するとともに、1サイクルあたり20〜24時間の細胞分裂速度もmir−302の抗増殖効果に一致している(図3C)。我々はこれらのmirPS−hHFCsは多能性(pluripotent)であるが、腫瘍形成能力(tumoregenetic)を有しないことについて特筆した理由は、これらのmirPS−hHFCsは偽妊娠免疫不全のSCID−beigeマウスの子宮及び腹腔中にのみ、奇形腫様組織嚢腫を形成することである。これらの奇形腫様組織嚢腫は、外胚葉、中胚葉及び内胚葉という3つの胚葉(embryonic germ layer)の組織に由来する種々組織を含む(図5D、実施例10)。また、mirPS−hHFCsが正常の雄性マウスの体内に異種移植されると、mirPS−hHFCsが周辺組織に同化され、それらと同様な組織マーカーを呈するようになった。このことは、mir−302が損傷細胞の治癒に用いられる可能性を示した(図4B)。以上の発見をまとめると、mir−302は体細胞hHFCsをhES様のiPS細胞(誘導多能性幹細胞)に再プログラムできることを示唆する。Oct3/4とSox2らの転写因子はmir−302の発現にとって重要であり(Marson氏ら,2008;Card氏ら,2008)、mir−302はOct3/4−Sox2に代わって、体細胞再プログラム(SCR)の発生を誘導できるかもしれない。
【0029】
Mir−302に誘導されるSCRと細胞周期の減衰と平行に行われることは、mir−302の濃度によって決まる。mir−302の濃度がヒト胚性幹細胞H1/H9における濃度の1.3倍を超えると、それらはほぼ同時に起こることを我々が発見したことから、この特殊な濃度は前記2つの事象を開始させる最小閾値であることが示された。過去の実験では、単一のmir−302メンバー、又はH1/H9細胞中の比較的低濃度に相当する濃度のmir−302を使用した場合、前記の事象を誘発することができなかった。また、我々は比較的低濃度の5μMドキシサイクリンにより誘導されたmir−302の濃度ではレポーター遺伝子の標的部位又は標的となるG1チェックポイント調節因子をサイレンシングできないことを証明した。自然の発育と比較して、桑実胚期(morula stage、32〜64細胞期)以前の胚性細胞はmirPS細胞の状態と相似な非常に遅い細胞周期速度を示している場合が多いが、このような細胞周期調節作用は胚盤胞由来の(blastocyst−derived)hES細胞では見つからなかった。これより、hES細胞質において比較的低濃度のmir−302では、標的となるG1チェックポイント調節因子及び発癌遺伝子をサイレンシングするのに足りないことが推測できる。これは、胚盤胞由来のhESはなぜ劇的な増殖能力及び腫瘍形成傾向を有する理由を解釈できるかもしれない。従って、本発明は幹細胞治療においてhES細胞の腫瘍形成能力(tumorigenecity)を低減させるためにも適用できる。
【0030】
Mir−302が腫瘍形成能力を抑制するとともに、様々腫瘍/癌細胞のアポトーシスを誘導する
mir−302は癌細胞のアポトーシス及び細胞周期の減衰を引き起こす機能を有することに鑑みて、我々は引き続きmir−302を汎用性ヒト腫瘍/癌細胞の治療薬として使用する可能性を検討した。我々の過去の研究では、黒色腫(melanoma)と前立腺癌細胞における可能性を既に示したが(Lin氏ら,2008)、現行の研究で、乳癌細胞MCF7、肝癌細胞Hep G2、及び胚性奇形腫細胞NTera−2における可能性を更に試した。図6A−Bに示すように、3種類の腫瘍/癌細胞はpTet−On−tTS−miR302sベクターによって形質移入され、且つ、10μMドキシサイクリンの刺激下で、全てが休眠mirPS細胞に再プログラムされ、且つ、胚性体様コロニー(embryoid body−like colonoes)を形成した。3種類の腫瘍/癌細胞の全てにおいて、該濃度水準のmir−302は顕著なアポトーシスも引き起こした(>95%)(図1F、実施例6)。更に、フローサイトメトリーによって、細胞周期の各時期のDNA含量を分析した結果、全てのmirPS細胞中の有糸分裂細胞集団が著しく減少したことを示した(図6C、実施例7)。有糸分裂細胞集団(M期)は、mirPS−MCF7細胞中では49%±3%から11%±2%まで78%低減し、mirPS−HepG2細胞中では46%±4%から17%±2%まで63%低減し、mirPS−NTera2細胞中では50%±6%から19%±4%まで62%低減した。一方、休止/休眠の細胞集団(G0/G1期)は、mirPS−MCF7細胞、mirPS−HepG2細胞及びmirPS−NTera2細胞では、それぞれ80%、65%及び72%増加し、mirPS−MCF7細胞では41%±4%から74%±5%まで、mirPS−HepG2細胞では、43%±3%から71%±4%まで、またmirPS−NTera2細胞では、40%±7%から69%±8%まで増加した。これらの結果は、mir−302がこれらの腫瘍/癌細胞の速い細胞周期速度を有効的に低減し、顕著なアポトーシスを誘発することができたことを示唆している。
【0031】
細胞侵入試験(マトリゲルチャンバー使用)及び細胞接着試験(細胞がヒト骨髄内皮細胞(hBMEC)の単細胞層に接着する)などのインビトロでの腫瘍形成能力試験(In vitro tumorigenecity assay)では、mir−302が抗増殖特性を有するほか、更に2種類の抗腫瘍形成の効果も示された。細胞侵入試験(cell invasion assay)は、全ての3種類の休眠mirPS−腫瘍/癌細胞がその移動能力を失ったが(<1%まで低下)、本来の腫瘍/癌細胞がより高い栄養物で補充された区画エリアに強引的に侵入し、MCF7細胞では9%±3%より多くの、Hep G2細胞では16%±4%の、またNTera−2細胞では3%±2%の細胞集団を占めることを示した(図6D、実施例11)。細胞接着試験(Cell adhesion assay)も一貫して、これらのmirPS−腫瘍/癌細胞もhBMEC単細胞層に接着できないことを示したが、本来のMCF7、Hep G2細胞が50分間の培養を経た後、そのうちのかなりの細胞集団(MCF7 7%±3%、Hep G2 20%±2%)は速やかにhBMEC単細胞層に転移した(図6E、実施例12)。総括すれば、これまで全ての発見は、mir−302がヒト腫瘍抑制因子であり、細胞の速い成長を減速させ、腫瘍/癌細胞のアポトーシスを誘発でき、腫瘍/癌細胞の侵入(invasion)及び転移(metastasis)を抑制できることを、再々に強く示した。最も重要なのは、このmir−302の新しい機能は、悪性の皮膚癌(Colo−829)、前立腺癌(PC−3)、乳癌(MCF7)及び肝癌(HepG2)に限らない多様なヒト腫瘍/癌に対抗でき、且つ奇形腫(NTera−2)に様々な異なる組織が含まれる観点から、各種の腫瘍治療への汎用的な治療を提供できる。
【0032】
Mir−302媒介の抗増殖機能は、CDK2、cyclin−D1/D2及びBMI−1に対する共抑制によって達成される
mir−302とその標的となるG1チェックポイント調節因子との間の実際の相互作用を確認するために、我々は3’末端非翻訳領域のルシフェラーゼレポーター(luciferase 3’UTR region reporter)アッセイを行った(図7A、実施例15)。その結果、種々の濃度のmir−302による処理は、サイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)、サイクリンD1/D2(cyclins−D1/D2)とBMI−1 ポリコームリングフィンガー発癌遺伝子(BMI1 polycomb ring finger oncogene)を含む標的となるG1チェックポイント調節因子に対して、大く異なる抑制効果を引き起こすこととなった。10μMドキシサイクリンの存在下で、mir−302はCDK2、cyclins D1/D2、及びBMI−1転写物の標的部位に効果的に結合し、80%より多く(>80%)のレポータールシフェラーゼの発現をサイレンシングすることに成功した(図7B、実施例15)。mirPS細胞中で真の標的遺伝子に対するmir−302の抑制効果をウェスタンブロット分析法によって確認した結果は、3’末端非翻訳領域のルシフェラーゼレポーターアッセイ(図7C、実施例5)による結果と一致する。これに反して、5μMのドキシサイクリンにより誘導されるmir−302の比較的少量の発現では、レポーター遺伝子の標的部位、又はサイクリンD2以外の標的となるG1チェックポイント調節因子のいずれに対しても顕著なサイレンシング効果を誘発できない(図7B及び7D)。これはmir−302が現れた用量依存性(dose−dependent manner)及びmir−302が用量依存性に基づいて細胞周期の速度を微調整する能力を示している。ほ乳類動物の細胞周期では、G1−S期の移行は通常、代償性の2つのサイクリン−サイクリン依存性キナーゼ複合体(cyclin−CDK complexes)であるcyclin−D−CDK4/6及びcyclin−E−CDK2によって制御される(Berthet氏ら,2006)。そこで、我々は、高濃度のmir−302がCDK2及びcyclins D1/D2の共抑制を通じて両複合体を失活させることで、G1−S期移行を制御する2つの経路を阻害するとともに、再プログラムされたmirPSの細胞周期速度を低下することを発見した。hHFCs及びmirPS細胞において、cyclin D3の有限な発現量は、mirPS細胞におけるcyclins D1/D2損失の代償に及ばない。
【0033】
我々は、BMI−1のサイレンシングに伴って、p16Ink4a及びp14Arfの発現は微増する(hHFCsにおける上昇比率はそれぞれ63%±17%及び57%±13%である)ことを検知したが、p21Cip1の発現の変化は見られなかった(図7C)。発癌性の癌症幹細胞(oncogenic cancer stem cell)マーカーであるBMI−1の欠乏は、p16Ink4a及びp14Arfなどの腫瘍抑制因子の活性を増加させることによって、G1−S期移行を抑制する(Jacobs氏ら,1999)。このような状況では、16Ink4aは、cyclin−Dに依存するCDK4/6(cyclin−D−dependent CDK4/6)が網膜芽細胞腫タンパク質(retinoblastoma protein、Rb)をリン酸化する活性を直接抑制することで、RbがS期に入るために必要とするE2Fを放出することを防止し、さらにE2F依存性転写(E2F−dependent transcription)を行う(Parry氏ら,1995;Quelle氏ら,1995)。また、p14ArfはHDM2とp53との結合を防止しながら、G1期の停止又はアポトーシスの役割を担うp53依存性転写(p53−dependent transcription)を許容する(Kamijio氏ら,1997)。しかし、現在知られている限りでは、胚性幹細胞はcyclin−D依存性のCDK(cyclin−D−dependent CDK)による制御を受けない(Burdon氏ら,2002;Jirmanova氏ら,2002;Stead氏ら,2002)ことから、hES細胞の細胞周期調節については、CDK2はG1−S期移行を誘発するために主要な決定因子であると認知されている。そのため、CDK2のサイレンシングがmirPS細胞のG1期の停止(G1−arrest)に最も影響を与える可能性は最も大きく、cyclin−DとBMI−1の共抑制及びp16Ink4aとp14Arfの共活性化は、腫瘍の生成シグナルにより誘発される細胞増殖(tumorigenetic signal−induced)を付加的に抑制する。更に、cyclin−Dの損失及びp16Ink4aの活性化は、胚性幹細胞においてcyclin−D依存性(cyclin−D−dependent)のCDKの活性不足についても解釈できる。
【0034】
従って、マイクロRNA(miRNA)と標的遺伝子との相互作用の厳密度はマイクロRNA本来の機能を決定できる。異なる細胞条件によって、マイクロRNAは遺伝子標的の異なる嗜好を表す。本発明はその重要な詳細を開示するとともに、mir−302がヒトとマウス細胞における機能が大いに異なることを初めて開示した。mir−302は、ヒト細胞において、CDK2、cyclins D1/D2、及びBMI−1を標的として強く狙うが、興味深いことに、p21Cip1が含まれていない。マウスp21Cip1と違って、ヒトp21Cip1にはmir−302の標的部位がいずれも含まれていない。この遺伝子標的の相違は両者の細胞周期調節における重要な分岐を招いた。マウス胚性幹細胞(mES)において、mir−302はp21Cip1をサイレンシングするとともに、腫瘍様(tumor−like)の細胞増殖を促進するが(Wang氏ら,2008;Judson氏,2009)、ヒトmirPS細胞中では、p21Cip1の発現が維持されるとともに、比較的遅い細胞増殖と比較的低い腫瘍形成能力をもたらす。
【0035】
また、マウスのBMI−1も、適切な標的部位を欠けているためmir−302の標的遺伝子とならない。我々は、mirPS細胞において、ヒトBMI−1のサイレンシングは、p16Ink4a/p14ARFの発現をわずかに刺激し、細胞増殖を減弱させるが、一方、mir−302はマウスBMI−1をサイレンシングすることによって、マウス細胞において同様な効果を引き起こすことができないことを発見した。mirPS細胞において、p16Ink4a/p14ARFの発現が増加し、p21Cip1が影響を受けないことから、ヒトmirPS細胞における抗増殖の効果及び抗腫瘍生成の効果は、cyclin−E−CDK2及びcyclin−D−CDK4/6を共抑制する経路以外、p16Ink4a−Rb及び/又はp14/19ARF−p53経路を通じて発揮する可能性が最も大きいと理解されるべきである。Mir−302の標的となるヒト及びマウス遺伝子の嗜好における顕著な違いは、両者の細胞周期調節機構に根本的な相違があることを示唆している。
【0036】
Mir−302の処理は、幹細胞の多能性を変えずにインビボでの腫瘍細胞の成長を90%よりも多く減少させる
我々は、mir−302の腫瘍抑制機能及びその正常と腫瘍/癌細胞との間における異なる作用を確認した後、8週齢の雄性胸腺欠損マウス(BALB/c−nu/nu 種)のインビボNTera2由来の奇形腫を治療する薬物としてmir−302が使用可能か否かの試験を行った(実施例13)。腫瘍Tera−2細胞株(neoplastic Tera−2、NTera−2)は多能性ヒト胚性奇形腫細胞株(human embryonal teratocarcinoma cell line)であって、特に、原始的腺組織及び原始的神経組織のようなインビボで多種の原始的体細胞組織(primitive somatic tissue)に分化することができる(Andrews氏ら,1984)。その多能性のため、NTera−2由来の奇形腫はインビボでの種々の腫瘍を治療するモデルになることができる。薬剤の投与において、インサイチュー(in situ)注射によってポリエチレンイミン(polyethylenimine、PEI)で調製されたpCMV−miR302s発現ベクターを腫瘍にできるだけ近い部位に注射した。pCMV−miR302sベクターはテトラサイクリン応答要素により制御される(TRE−controlled)CMVプロモーターを一般のCMVプロモーターに変えることで構成させたが(実施例2)、DNAメチル化のため、pCMV−miR302sのヒト細胞における発現は1ヶ月くらい期間に続く。上限値の10μg/マウス体重(g)(一回の注射の最大量)のpCMV−miR302sベクターを注射した後、マウスに疾患又は悪液質(cachexia)の徴候が観察されなかったため、この方法の安全性が証明された。組織学的検査においても、脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、及び脾臓に組織損傷(lesion)が検出されなかったことが示された。
【0037】
本発明の実施例では、2μg/マウス体重(g)のpCMV−miR302sで5回の処理(3日置きに処理する)を行ったところ、奇形腫の成長に対して顕著な抑制作用があることを見出した。図8A(実施例13)に示すように、pCMV−miR302sベクターで処理した後、NTera2由来の奇形腫の平均サイズ(11±5mm、n=6)は未処理のグループ(104±23mm、n=4)と比較して、89%より多く(>89%)減少した。これに反して、PEIで調製した等量のアンチセンス−mir−302d(antisense−mir−302d)発現ベクター(pCMV−miR302d*)の投与は、奇形腫のサイズ本来の140%(250±73mm、n=3)に増大させた。以上の結果により、本発明はNTera−2細胞が中程度のmir−302を発現することが発見された(図8B)。ノーザンブロック分析の結果も、これらの異なる処理を受けた奇形腫細胞において、mir−302の発現は腫瘍の大きさ(図8B)と負の相関関係であることを示した。つまり、mir−302の発現を調節することでインビボの奇形腫の成長を有効に制御することができることを示唆している。過去のインビトロでの発見を証明するために、我々はウエスタンブロック分析を用いて、mir−302で処理した奇形腫において、G1チェックポイント調節因子CDK2−cyclins−D1/D2−BMI−1の共抑制及びコア再プログラム因子Oct3/4−Sox2−Nanogの共活性化を確認した(図8B)。免疫組織化学(immunochemical、IHC)染色法で奇形腫組織におけるこれらのタンパク質を分析したところ、同様な結果が証明された(図8C、実施例14)。最も注目すべきなのは、我々は自然分化能力に影響せずにmir−302が奇形腫細胞の成長を抑制できることを発見した。このことから、高濃度のmir−302が腫瘍抑制因子と再プログラム因子の両役を担うことをも示唆した。Mir−302の二重機能及インビトロとインビボにおいて得られた一致した結果に基づき、我々はインビトロで発見されたmir−302の抗増殖機能はインビボの奇形腫成長の抑制に適用することができ、そのため、各種腫瘍に対して潜在的な治療法としての可能性があると推測した。
【0038】
Mir−302はテロメアを短縮させるのではなく、p16Ink4a/p14ARFの活性化によって、細胞老化(cell senescence)を誘発する
人工誘導多能性幹細胞(iPS)には老化を加速し、拡張を制限する可能性があるという問題が報告された(Banito氏ら,2009;Feng氏ら,2010)。正常の成熟細胞は、有限回数の分裂を行い、最終的に複製老化(replecative senescence)と呼ばれる静止状態(quiescence state)に至る。複製老化を回避した細胞は大抵腫瘍/癌細胞のような不死化細胞(immortal cells)となるため、複製老化は腫瘍/癌細胞の形成に対抗する正常な防御機構である。本発明では、我々は、mir−302はBMI−1を直接サイレンシングすることによって、p16Ink4a/p14ART関連の細胞周期調節を引き起こすことができることを発見した。他の研究では、BMI−1によってヒトテロメラーゼ逆転写酵素(human telomerase reverse transcriptase、hTERT)の転写作用が活性化され、テロメラーゼの活性化が高められることによって複製老化が回避されて、細胞寿命が増長されるとのことが更に指摘された(Dimri氏ら,2002)。このことから、mir−302の過剰発現はmirPS細胞のhTERT随伴性老化(hTERT−associated senescence)を引き起こすことが分かる。これを解明するために、我々はテロメアリピート増幅プロトコル法(telomeric repeat amplification protocol、TRAP)(実施例16)を用いて、テロメラーゼの活性を測定した。図9Aに示すように、10μMのドキシサイクリンで処理した全てのmirPS細胞は、意外にもその本来の腫瘍/癌細胞及びH1/H9細胞に相似し、強烈なテロメラーゼ活性を示した。また、ウエスタンブロック分析は、これらmirPS細胞において、hTERTの発現は減少ではなく、増加したことが示された(図9B)。テロメラーゼPCR ELISA試験によって、テロメラーゼの相対活性が増加したことが証明された(図9C)。更に、我々はmirPS細胞中のリジン特異的ヒストンデメチラーゼ(lysine−specific histone demethylase AOF2、又はKDM1/LSD1とも言う)及びヒストンデアセチラーゼ(histone deacetylase HDAC2)のサイレンシングも検出できた(図9B)。hTERT転写の抑制にAOF2が必要であり、AOF2とHDAC2の両者の欠乏がhTERTの過剰発現を引き起こすことは過去の研究で指摘された(Won氏ら,2002;Zhu氏ら,2008)。我々はまた、本発明において、AOF2とHDAC2はmir−302の強い標的であり、且つmirPS細胞中ではいずれもサイレンシングされたことを発見した(図10)。そのため、mirPS細胞中では、mir−302は実際に、hTERT随伴性老化を誘発するのではなく、mirPS細胞のテロメラーゼの活性を増強させる。しかしながら、hTERT活性増大の効果はmir−302により引き起こされたBMI−1の抑制とp16Ink4a/p14ARFの活性化で中和され、mir−302細胞中で腫瘍/癌細胞の形成を防ぐバランスに達している。
【0039】
要するに、本発明では癌治療薬として新しい腫瘍抑制機能のあるmir−302を使用する。我々は、mir−302媒介性の細胞周期調節は、G1チェックポイント調節因子の共抑制とCDK抑制因子の活性化との間にある高度協調的なメカニズムを含むことを発見した。G1−S進行中にいかなるミスを防ぐために、これらの事象は同時に起こる必要がある。細胞周期中のG0/G1期の静止quiescenceが体細胞の再プログラム(SCR)の開始にとって極めて重要である。該休眠状態において、体細胞遺伝子が大量にメチル化され、且つ91%より多くの細胞トランスクリプトームがhES様の遺伝子発現パターンに再プログラムされる。我々は、mir−302とその標的遺伝子との間の相互作用を解明することによって、SCR期間におけるmir−302が関連する細胞周期調節の複雑なメカニズムを認識することができた(図11)。我々の過去の研究では、mir−302はその標的となる後成的な調節因子(epigenetic regulators)をサイレンシングする一方、Oct3/4−Sox2−Nanogを活性化させて共発現させ、続いてこれらのコア再プログラム転写因子はSCRを引き起こすことを証明した(Lin氏ら,2008)。本発明はさらに、mir−302がSCR期間中にCDK2、cyclins D1/D2、及びBMI−1を同時にサイレンシングすることで、細胞分裂を減弱させることを率先的に明らかにした。細胞周期の速度を適度に制御することは、SCR期でよく活性化される発癌遺伝子の腫瘍形成能力を防止することにおいて、生物学上の重要性を有している。これについて、mir−302はCDK2及びcyclins D1/D2をサイレンシングさせるとともに、G1−S期移行を阻害する。同時に、BMI−1の抑制はp16Ink4aとp19Arfの腫瘍抑制活性を更に増大させる。これらの細胞周期経路の協調的な調節を介して、mir−302は細胞を腫瘍形成能力(tumorigenecity)具備へ悪化せずに、体細胞の再プログラム(SCR)の進行を開始させることができる。
【0040】
本発明は、少なくとも5つの重大な革新がある。第1に、mir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターは4つのコア再プログラム転写因子Oct−Sox2−Klf−c−Myc及びOct4−Sox2−Nanog−Lin28の全てを代替することで、ヒト細胞をhES様幹細胞に再プログラムすることができる。これらの再プログラム細胞は幹細胞治療法に有益である。第2に、mir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターは小さいサイズ(約23個のリボヌクレオチドを含む)を有するため、このようなサイズの小さいmir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターを発現するベクターは構造上よりコンパクトであることで、インビボでの形質移入効率を向上させることができる。第3に、細胞内のナンセンス仲介減衰(NMD)システム及び誘導性の発現系はRNAと関連する細胞毒性を防止することができる。第4に、mir−302媒介のアポトーシスは腫瘍/癌細胞のみで起こり、正常ヒト細胞では起こらない。最後に、本発明はレトロウィルス/レンチウィルス感染の代わりに、ポリソーム(polysomal)、リポソーム(liposomal)、及び電気穿孔法形質移入法を用いて、mir−302を発現する核酸組成物を腫瘍/癌細胞中に送達させることによって、安全性及びインビトロとインビボでの治療におけるmir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターの治療的使用を確証させる。総括すると、これらの革新はmir−302様遺伝子サイレンシングエフェクター及び該mir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターを発現する組成物を使用することによって、腫瘍/癌を治療する可能性を示し、汎用性癌治療薬及び/又はワクチンに開発できる新しい設計を提供した。
【0041】
A.定義
本発明をより理解しやすくするために、下記のように、幾つかの用語を定義する。
ヌクレオチド:糖成分(五炭糖、pentose)、リン酸基(phosphate)及び窒素複素環塩基(nitrogenous heteroyclic base)を含み、デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)の単量体単位である。該塩基はグリコシド連結した炭素(glycosidic carbon、該五炭糖の1’炭素)によって該糖成分と結合し、該塩基と糖の組み合わせがヌクレオシドである。該五炭糖の3’又は5’の位置に少なくとも1つのリン酸基が結合しているヌクレオシドはヌクレオチドである。
【0042】
オリゴヌクレオチド:2個以上、好ましくは3個以上、通常は10個以上のデオキシリボヌクレオチド(DNA)又はリボヌクレオチド(RNA)を含む分子である。正確なサイズは多くの要因によって決まり、さらに該オリゴヌクレオチドの最良の機能又は用途によって決まる。オリゴヌクレオチドは化学合成、DNA複製、逆転写、又はこれらの組み合わせを含む如何なる方法で生成してもよい。
【0043】
核酸:1本鎖又は2本鎖のヌクレオチドの重合体である。
ヌクレオチド類似体:プリン又はピリミジンヌクレオチドであって、構造において、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)又はU(ウラシル)ヌクレオチドは異なるが、十分に類似しており、核酸分子中で通常のヌクレオチドと置換できる。
【0044】
核酸組成物:1本鎖又は2本鎖分子構造の形式で存在するデオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)のようなポリヌクレオチドを指す。
遺伝子:核酸であって、そのヌクレオチド配列はRNA及び/又はポリペプチド(タンパク質)のためにコードする。遺伝子はRNA又はDNAである。
【0045】
塩基対(bp):2本鎖DNA分子中のアデニン(A)とチミン(T)、又はシトシン(C)とグアニン(G)の連携(partnership)である。RNAでは、チミン(T)の代わりにウラシル(U)となる。一般に、この連携は水素結合を介して連結される。
【0046】
メッセンジャーRNA前駆体(pre−mRNA):真核細胞において、遺伝子が転写と呼ばれる細胞内メカニズムによって、II型RNAポリメラーゼ(Pol−II)によって生成されるリボヌクレオチド一次転写物である。メッセンジャーRNA前駆体配列には、5’末端非翻訳領域(5’−end untranslated region)、3’末端非翻訳領域(3’−end untranslated region)、エクソン、及びイントロンが含まれる。
【0047】
イントロン:非タンパク質読み枠をコードする遺伝子転写物配列の一部分又は複数の部分である。例えば、インフレームイントロン、5’末端非翻訳領域(5’−UTR)及び3’末端非翻訳領域(3’−UTR)である。
【0048】
エクソン:タンパク質読み枠(cDNA)をコードする遺伝子転写配列の一部分又は複数の部分である。該cDNAは、例えば、細胞遺伝子、ほ乳類動物遺伝子、胚性幹細胞マーカー遺伝子、蛍光タンパク質マーカー遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、lac−Z乳糖レポーター遺伝子、ウィルス遺伝子、ジャンピング遺伝子、トランスポゾン、及びこれらの組み合わせである。
【0049】
メッセンジャーリボ核酸(Messenger RNA、mRNA):メッセンジャーRNA前駆体のエクソンによる組み合わせで形成される。メッセンジャーリボ核酸前駆体が核内スプライセオソーム機構(intranuclear spliceosomal machineries)によるイントロン除去後に形成されるとともに、タンパク質合成においてタンパク質をコードするRNAとして機能する。
【0050】
相補的デオキシリボ核酸(cDNA):mRNA配列と相補して、イントロン配列が全く含まれない1本鎖デオキシリボ核酸(DNA)である。
センス核酸:配列順及び組成が相同なmRNAと同じ核酸分子である。「+」、「s」又は「sense」の符号で該センス核酸構造を示す。
【0051】
アンチセンス核酸:個々のmRNA分子と相補的な核酸分子である。「−」符号でこのアンチセンス構造を示し、又は、「a」もしくは「antisense」をDNA又はRNAの前に付けて示し、例えば、「aDNA」又は「aRNA」。
【0052】
5’末端(5’−end):連続したヌクレオチドの5’位置で1つのヌクレオチドを欠く末端である。該連続したヌクレオチドにおいて、1つのヌクレオチドの5’ヒドロキシル基がリン酸ジエステル結合によって次のヌクレオチドの3’ヒドロキシル基に連結される。該末端に、1つ又は複数のリン酸のような他の基が存在してもよい。
【0053】
3’末端(3’−end):連続したヌクレオチドの3’位置で1つのヌクレオチドを欠く末端である。該連続したヌクレオチドにおいて、1つのヌクレオチドの5’ヒドロキシル基が次のヌクレオチドの3’ヒドロキシル基とリン酸ジエステル結合によって連結される。該末端に、他の基が存在してもよく、通常はヒドロキシル基である。
【0054】
鋳型:核酸ポリメラーゼによってコピーできる核酸分子である。異なるポリメラーゼにより、鋳型は1本鎖、2本鎖、又は部分的な2本鎖であってもよい。合成されたコピーはこの鋳型、2本鎖鋳型の少なくとも1本鎖、又は部分的な2本鎖鋳型と相補的である。RNA及びDNAの両者は5’から3’方向に合成される。核酸デュプレックス(duplex)の2本の鎖は常にアラインメントしているので、2本鎖の5’末端はデュプレックスの反対側の末端に位置する(必要があれば、これらの2本鎖の3’末端も同様)。
【0055】
核酸鋳型:2本鎖DNA分子、2本鎖RNA分子、雑種分子(例えば、DNA−RNAもしくはRNA−DNA雑種)、又は1本鎖のDNAもしくはRNA分子である。
保存性(Conserved):ヌクレオチド配列が予めて選択された配列(参照配列)に精確に相補するものと非無作為的にハイブリダイゼーションする場合、このヌクレオチド配列はこの予めて選択された配列の間に保存性を有する。
【0056】
相補的、相補又は相補性(Complementary、又はcomplementarity又はcomplementation):塩基対規則(base−pairing rule)によって関連付けられたポリヌクレオチド(即ち、ヌクレオチド配列)である。例えば、配列「A−G−T」は配列「T−C−A」と「T−C−U」とそれぞれ相補している。相補は、2本のDNA鎖間、1本のDNA鎖と1本のRNA鎖間、又は2本のRNA鎖間で生じてよい。相補は「部分」又は「完全」又は「全体」であってもよい。幾つかの核酸塩基のみが塩基対規則に従って適合する場合は、部分相補(partial complementarity 又は complementation)となる。核酸鎖間で塩基が完全に適合する場合は、完全又は全体相補(complete or total complementarity or complementation)となる。核酸鎖間の相補の程度は核酸鎖間のハイブリダイゼーションにおける効率と強度に大きく影響する。これは、増幅反応、さらに核酸間の結合に依存する検出方法にとって非常に重要である。相補率(Percent complementarity 又はcomplementation)とは、核酸の1本鎖におけるミスマッチを示した塩基数と全塩基との比のことである。従って、50%の相補率とは、塩基の半分がミスマッチで、半分が適合していることを意味する。核酸の2本鎖は、この2本鎖の塩基数が異なっても相補することができる。この場合、短い方の鎖の塩基とペアを成している比較的長い方の鎖に相補が生じる。
【0057】
相同又は相同性(homologous又はhomology):遺伝子又はメッセンジャーRNA(mRNA)の配列と類似するポリヌクレオチド配列である。例えば、核酸配列は特定の遺伝子又はmRNA配列と完全又は部分的に相同である可能性がある。また、相同性は、類似したヌクレオチドの数と全ヌクレオチド数の比率(パーセンテージ)で表すことができる。
【0058】
相補的塩基:DNA又はRNAが2本鎖の形状をとる場合に、通常のペアを形成するヌクレオチドである。
相補的ヌクレオチド配列:1本鎖分子のDNA又はRNAにおけるヌクレオチド配列がもう一方の1本鎖のヌクレオチド配列と十分に相補しており、水素結合によって、2本鎖間で特異的にハイブリダイゼーションする。
【0059】
ハイブリダイゼーション(Hybridize及びHybridization):塩基対形成によって複合体を形成するのに十分相補的なヌクレオチド配列間のデュプレックスの形成である。プライマー(又はスプライス鋳型)が標的(鋳型)と「ハイブリダイゼーション」する場合、ハイブリダイゼーションで形成された複合体(又は雑種、hybrids)は十分に安定しているので、DNAポリメラーゼによってDNA合成を開始するために必要なプライミング機能が提供される。2つの相補的ヌクレオチド間には、競合的に抑制(competitively inhibited)できる特異的な相互作用がある(即ち、非ランダムである)。
【0060】
転写後遺伝子サイレンシング(Posttranscriptional Gene Silencing):mRNA分解又は翻訳抑制における標的遺伝子ノックアウト(knockout)又はノックダウン(knockdown)の効果であって、一般的に外来/ウィルスDNA導入遺伝子又は小型抑制性RNAのいずれかによって引き起こされる。
【0061】
RNA干渉(RNA interference、RNAi):真核細胞における転写後の遺伝子サイレンシングメカニズムであって、マイクロRNA(miRNA)、小ヘアピンRNA(shRNA)及び小干渉RNA(siRNA)のような小型抑制性RNA分子によって誘発することができる。これらの小型RNA分子は一般的に遺伝子サイレンサーとして機能し、細胞内のこれらの小型RNAに完全又は部分的に相補的な遺伝子の発現を干渉する。
【0062】
非コードRNA(Non−coding RNA):細胞内翻訳機構によってペプチド又はタンパク質の合成に用いることができないRNA転写物である。
マイクロRNA(Micro RNA、miRNA):該マイクロRNA(miRNA)に部分的に相補な標的遺伝子転写物に結合できる1本鎖RNAである。MiRNAは通常長さが約17〜27個のオリゴヌクレオチドで、該miRNAとその標的mRNAとの相補性によって、細胞内のmRNA標的を直接分解するか、又はその標的mRNAのタンパク質翻訳を抑制する。天然のmiRNAはほぼ全ての真核細胞で発見され、その役割はウィルス感染に対抗する防御物のようなものであるとともに、動植物の発育期間における遺伝子発現を制御するものとして機能している。
【0063】
マイクロRNA前駆体(Pre−miRNA):細胞内エンドリボヌクレアーゼRNaseIIIと相互作用するステムアーム(stem−arm)及びステムループ(stme−loop)領域を含むヘアピン様の1本鎖RNAであって、1つ又は複数のマイクロRNA(miRNAs)を産生し、このマイクロRNAの標的遺伝子又はこのマイクロRNA配列と相補的な遺伝子をサイレンシングできる。マイクロRNA前駆体(pre−miRNA)のステムアームは完全(100%)又は部分的(ミスマッチ)にハイブリダイゼーションしたデュプレックス構造を形成し、ステムループ領域はステムアームデュプレックスの1端と連結して、円形又はヘアピンループ状の環状構造を形成する。
【0064】
小干渉RNA(small interfering RNA、siRNA):短鎖の2本鎖RNAであって、約18〜25個の完全な塩基対を有するリボヌクレオチドデュプレックスであって、それにほぼ完全相補的である標的遺伝子転写物を分解できる。
【0065】
小ヘアピン又は短鎖ヘアピンRNA(small hairpin 又は short hairpin RNA、shRNA):部分的又は完全にマッチする1対のステムアームヌクレオチド配列を含む1本鎖RNAであって、該ステムアーム配列はマッチしないループ状オリゴヌクレオチドによって分けられ、ヘアピン様構造を形成する。多くの天然マイクロRNA(miRNAs)はヘアピン様RNA前駆体、即ち、マイクロRNA前駆体(pre−miRNA)に由来する。
【0066】
ベクター:異なる遺伝子環境において移動及び定着が可能な組換え核酸組成物であって、例えば、組換えDNA(rDNA)である。一般に、他の核酸はこれに操作的に連結される。該ベクターは細胞内で自己複製が可能であり、この場合、ベクターとその連結した部位も複製される。好ましいベクターとして、エピソーム(episome)、すなわち、染色体外で複製可能な核酸分子が挙げられる。好ましいベクターは自己複製及び発現可能な核酸である。1つ又は複数のポリペプチド及び/又は非コード(non−coding)RNAをコードする遺伝子の発現を誘導できるベクターを、ここでは「発現ベクター」と呼ぶ。特に重要なベクターは、逆転写酵素を用いてmRNAsからcDNAをクローニングできる。ベクターの内容物は、ウィルスプロモーター、II型RNAポリメラーゼ(Pol−II)プロモーターもしくははこれらの両者、Kozak共通翻訳開始配列(Kozak consensus translation initiation site)、ポリアデニル化シグナル(polyadenylation signals)、複数の制限/クローニング部位(restriction/cloning site)、pUC複製起点(pUC origin of replication)、複製可能な原核細胞で抗生物質耐性遺伝子を少なくとも1つ発現させるためのSV40初期プロモーター(SV40 early promoter)、ほ乳類動物細胞の選択的SV40複製起点(SV40 origin)、及び/又はテトラサイクリン応答要素を含む。
【0067】
シストロン:DNA分子中のヌクレオチド配列であって、アミノ酸残基配列をコードし、上流及び下流にDNA発現制御要素を含む。
プロモーター:ポリメラーゼ分子により認識され(おそらく結合し)、合成を誘発する核酸である。本発明の目的に対して、プロモーターは、既知のポリメラーゼ結合部位、エンハンサーとその類似物、又は必要なポリメラーゼを用いて合成を誘発する如何なる配列であってもよい。
【0068】
抗体:予め選択した保存領域構造をもつペプチド又はタンパク質分子であって、該構造は予め選択したリガンドと結合できる受容体をコードする。
RNA一次転写物:リボヌクレオチド配列であって、メッセンジャーRNA(mRNA)、ヘテロ核RNA(hnRNA)、リボソームRNA(rRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、核小体低分子RNA(snoRNA)、核内低分子RNA(snRNA)、マイクロRNA前駆体(pre−microRNA)、ウィルスRNA(viral RNA)、及びその前駆体と誘導体から選ばれる。
【0069】
イントロン切除(Intron Excision):RNAプロセッシング、成熟、及び分解を担当する細胞機構であって、RNAスプライシング(RNA splicing)、エキソソーム消化(exosome difestion)、ナンセンス仲介減衰(nonsense−mediated decay,NMD)、及びこれらの組み合わせを含む。
【0070】
供与スプライス部位(Donor Splice Site):SEQ.ID.NO.4配列、SEQ.ID.NO.4に相同な配列、又は5’−GTAAG−3’配列を含む核酸配列である。
【0071】
受容スプライス部位(Acceptor Splice Site):SEQ.ID.NO.5配列、SEQ.ID.NO.5に相同な配列、又は5’−CTGCAG−3’配列を含む核酸配列である。
【0072】
分岐点モチーフ(Branch Point):核酸配列におけるアデニンヌクレオチドであって、該核酸配列はSEQ.ID.NO.6配列、SEQ.ID.NO.6に相同な核酸配列、又は5’−TACTAAC−3’配列を含む。
【0073】
ポリピリミジントラクト(Poly−Pyrimidine Tract):高割合のチミンヌクレオチドとシトシンヌクレオチドを含有する核酸配列であって、該核酸配列はSEQ.ID.NO.7配列、SEQ.ID.NO.8配列、又はこれらに相同な配列を含む。
【0074】
標的細胞:1個又は複数個のヒト細胞であって、該ヒト細胞は体細胞、組織、幹細胞、生殖細胞、奇形腫細胞、腫瘍細胞、癌細胞、及びこれらの組み合わせから選ばれる。
癌組織(Cancerous Tissue):皮膚癌、前立腺癌、乳癌、肝癌、肺癌、脳腫瘍/癌、リンパ癌、白血病及びこれらの組み合わせから選ばれる腫瘍組織である。
【0075】
発現可能ベクター(Expression−Competent Vector):直鎖状又は環状の1本鎖又は2本鎖のDNAであって、プラスミド、ウィルスベクター、トランスポゾン、レトロトランスポゾン、DNA組換え遺伝子、ジャンピング遺伝子、及びこれらの組み合わせから選ばれる。
【0076】
抗生物質耐性遺伝子(Antibiotic Resistance Gene):抗生物質を分解する能力を備えるように発現する遺伝子であって、該抗生物質はペニシリンG、アンピシリン、ネオマイシン、G418、パロマイシン(paromycin)、カナマイシン、ストレプトマイシン、エリスロマイシン、スペクトロマイシン、フォフォマイシン、テトラサイクリン、リファンピシン、アンホテリシンB、ゲンタマイシン、クロランフェニコ−ル、セファロチン、タイロシン、及びこれらの組み合わせから選ばれる。
【0077】
II型RNAポリメラーゼ等価物(Type−IIRNA Polymerase Equivalent):転写機構であり、II型(Pol−II)、III型(Pol−III)、I型(Pol−I)及びウィルス型RNAポリメラーゼから選ばれる。
【0078】
制限/クローニング部位:制限酵素の開裂部位であるDNAモチーフ(DNA motif)であって、該制限/クローニング部位はAatII、AccI、AflII/III、AgeI、ApaI/LI、AseI、Asp718I、BamHI、BbeI、BclI/II、BglII、BsmI、Bsp120I、BspHI/LU11I/120I、BsrI/BI/GI、BssHII/SI、BstBI/U1/XI、ClaI、Csp6I、DpnI、DraI/II、EagI、Ecl136II、EcoRI/RII/47III/RV、EheI、FspI、HaeIII、HhaI、HinPI、HindIII、HinfI、HpaI/II、KasI、KpnI、MaeII/III、MfeI、MluI、MscI、MseI、NaeI、NarI、NcoI、NdeI、NgoMI、NotI、NruI、NsiI、PmlI、Ppu10I、PStI、PvuI/II、RsaI、SacI/II、SalI、Sau3AI、SmaI、SnaBI、SphI、SspI、StuI、TaiI、TaqI、XbaI、XhoI、XmaIの開裂部位を含むが、これらに限らない。
【0079】
遺伝子送達:遺伝子工学手法であって、ポリソーム形質移入、リポソーム形質移入、化学的形質移入、電気穿孔法、ウィルス感染、DNA組換え、トランスポゾン挿入、ジャンピング遺伝子挿入、マイクロインジェクション、遺伝子銃による貫入、及びこれらの組み合わせから選ばれる。
【0080】
遺伝子工学:DNA組換え方法であって、DNA制限酵素反応とライゲーション、相同組換え、導入遺伝子の組み込み、トランスポゾンの挿入、ジャンピング遺伝子の挿入、レトロウィルスの感染、及びこれらの組み合わせから選ばれる。
【0081】
細胞周期調節因子(Cell Cycle Regulator):細胞分裂及び細胞増殖の速度を制御することに関与する細胞遺伝子であって、サイクリン依存キナーゼ2(CDK2)、サイクリン依存キナーゼ4(CDK4)、サイクリン依存キナーゼ6(CDK6)、サイクリン(cyclins)、BMI−1、p14/p19Arf、p15Ink4b、p16Ink4a、p18Ink4c、p21Cip1/Waf1、p27Kip1及びこれらの組み合わせを含むが、これらに限らない。
【0082】
腫瘍抑制(Tumor Suppression):細胞の抗腫瘍及び抗癌メカニズムであって、細胞周期の減衰、G0/G1チェックポイントの停止、腫瘍の抑制、抗腫瘍形成、癌細胞のアポトーシス及びこれらの組み合わせを含むが、これらに限らない。
【0083】
遺伝子サイレンシング効果:遺伝子機能が抑制された後の細胞反応であって、細胞周期の減衰、G0/G1チェックポイントの停止、腫瘍の抑制、抗腫瘍形成、癌細胞のアポトーシス及びこれらの組み合わせを含むが、これらに限らない。
【0084】
B.組成物
本発明は組換え核酸組成物を使用する設計と方法に関する。該組換え核酸組成物は標的ヒト細胞に送達され、mir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターに転写及びプロセシングされ、細胞におけるmir−302の標的細胞周期調節因子及び発癌遺伝子の特定遺伝子のサイレンシング効果を誘発する。下記の手順を含む。
【0085】
a)mir−302の標的となる複数の細胞遺伝子を干渉する少なくとも1つの遺伝子サイレンシングエフェクターになるように、組換え核酸組成物を提供して、送達、転写及びプロセシングされる工程、及び
b)該組換え核酸組成物で細胞基質を処理する工程。
【0086】
上記組換え核酸組成物は:
a)必要な機能をもつ遺伝子転写物を形成するように連結可能な複数のエクソンと;
b)組換えmir−302相同体を含み、細胞内RNAスプライシング及びプロセシング機構によって切断されることでエクソンから切り離し可能な少なくとも1つイントロンと;
を更に含む。
【0087】
上記組換え遺伝子組成物のイントロンは:
a)スプライセオソーム結合のための5’末端供与スプライス部位と;
b)該mir−302ファミリーメンバーと相同な遺伝子サイレンシングエフェクターインサートと;
c)スプライセオソーム認識のための分岐点モチーフと;
d)スプライセオソーム相互作用のためのポリピリミジントラクトと;
e)スプライセオソーム結合のための3’受容スプライス部位と;
f)5’から3’の方向に上記各成分のそれぞれを連結する複数のリンカーと;
を更に含む。
【0088】
本発明は、新しい設計と方法を採用して、形質移入された細胞においてmir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターを誘導的又は持続的に発現させることが好ましい。Mir−302様遺伝子サイレンシングエフェクターはmir−302a、mir−302b、mir−302c、mir−302d及びこれらのヘアピン様(haripin−like)マイクロRNA前駆体(pre−miRNAs)と手動で再設計した小ヘアピンRNA(shRNA)相同体/誘導体、及びこれらの組み合わせを含む。Mir−302遺伝子サイレンシングエフェクターの転写は持続的発現の(即ち、CMV)又は薬剤誘導性の(即ち、TRE−CMV)プロモーターにより駆動される。該薬剤誘導式の組換え核酸組成物は、組換えmir−302フミリークラスター(mir−302s、SEQ.ID.NOs.9−16の雑種)又は手動で再設計したmir−302 shRNA相同体(即ち、SEQ.ID.NOs.17と18の雑種)が挿入された組換え導入遺伝子を含むTet−Onベクターであることが好ましい。該細胞基質はインビトロ(in vitro)、エクスビボ(ex vivo)、又はインビボ(in vivo)でmir−302の標的となる遺伝子を発現する。該mir−302の標的となる細胞周期調節因子及び発癌遺伝子をサイレンシングすることによって、本発明は細胞の腫瘍形成能力を抑制でき、且つ処理された細胞を非腫瘍/非癌細胞に再プログラムすることができる。
【0089】
実施例
以下の実施例は、本発明の特定の好ましい具体的実施例と形態を示すものであるが、本発明の範囲を制限するものではない。
【0090】
以下の実験に関する開示において、次の略語を適用する。M(モーラー、molar)、mM(ミリモーラー、millimolar)、μM(マイクロモーラー、micromolar)、mol(モル、moles)、pmol(ピコモル、picomole)、gm(グラム、grams)、mg(ミリグラム、milligrams)、μg(マイクログラム、micrograms)、ng(ナノグラム、nanograms)、L(リットル、liters)、ml(ミリリットル、milliliters)、μl(マイクロリットル、microliters)、℃(摂氏温度、degrees Centigrade)、cDNA(コピー又は相補的DNA、copy or complementary DNA)、DNA(デオキシリボ核酸、deoxyribonucleic acid)、ssDNA(1本鎖DNA、single stranded DNA)、dsDNA(2本鎖DNA、double−stranded DNA)、dNTP(デオキシリボヌクレオチド−3リン酸、deoxyribonucleotide triphosphate)、RNA(リボ核酸、ribonucleic acid)、PBS(リン酸緩衝生理食塩水、phosphate buffered saline)、NaCl(塩化ナトリウム、sodium chloride)、HEPES(N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N−2−エタンスルホン酸、N−2−hydroxyethylpiperazine−N−2−ethanesulfonic acid)、HBS(HEPES緩衝生理食塩水、HEPES buffered saline)、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム、sodium dodecyl sulfate)、Tris−HCl(トリス−ヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩、tris−hydroxymethylaminomethane−hydrochloride)、ATCC(アメリカ培養細胞系統保存機関、American Type Culture Collection, Rockville,MD)、hES(ヒト胚性幹細胞、human embryonic stem cells)、iPS(誘導多能性幹細胞、induced pluripotent stem cells)、及びSCR(体細胞再プログラム、somatic cell reprogramming)。
【実施例1】
【0091】
細胞培養及び形質移入
ヒト癌細胞株NTera−2、HepG2、MCF7、PC3及びColo829はアメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC、Rockville、MD)から入手し、ヒト毛嚢細胞(hHFCs)は、少なくとも2つの毛嚢真皮乳頭(hair dermal papillae)を4mg/mlのコラゲナーゼで分解することによって得られ、そのうち、コラゲナーゼの消化は、20%胎児ウシ血清(FBS)が補充されている新鮮なRPMI 1640培養液中で45分作用させた。メラニン細胞(melanocytes)は、37℃、5%COで、ヒトメラニン細胞成長補充剤−2(HMGS−2、Invitrogen、Carlsbad、CA)が添加されており、抗生物質が含まれていない254培養液(Medium 254)中で培養された。細胞が70%〜80%の密集度(confluency)までに成長した時に、細胞をtrypsin−EDTA溶液中で1分間暴露することで単離させ、フェノールレッドフリーのDMEM培養液(phenol red−free DMEM medium、Invitrogen)で1回すすいだ後、これらの単離された細胞を1:10に希釈し、HMGS−2補助剤を含有する新鮮な254培養液中で培養し続けた。電気穿孔法で遺伝子形質移入を行う工程については、pTet−On−tTS−miR302sベクター(10μg)とpTet−On−Adv−Neo(−)ベクター(50μg)の混合物を、低浸透圧緩衝溶液(200μl、Eppendorf、Westbury、NY)における単離された細胞(20,000〜50,000個)中に投入し、また、電気穿孔は電気穿孔機を用いて、300〜400Vで150μsec実施し、これらのベクターを相応な細胞内に送達した。電気穿孔を経た細胞はまずフェノールレッドフリーで、20%ノックアウト血清(Knockout serum)、1%MEM非必須アミノ酸、10ng/ml塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、1mM GlutaMax及び1mMピルビン酸ナトリウムを含有するDMEM培養液(Invitrogen)中で、37℃、5%COの条件下で24時間培養した。続いて、850μg/mlのG418及び3.75μg/mlより高い濃度のドキシサイクリン(Dox)を追加し、毎日入れ替えるように、細胞が強烈の赤色蛍光(RGFP)を発現するまで3から5日間継続した。次に、TE200倒立顕微鏡システム(Nikon、Melville、NY)で個々の赤色蛍光細胞(mirPS)を監視し、MO−188NE 3D顕微操作装置(Nikon)で96穴プレートに個別的に収集した。ドキシサイクリン(Dox)欠乏条件下で、20%ノックアウト血清(Knockout serum)、1%MEM非必須アミノ酸、100μMのβ−メルカプトエタノール、1mMのGlutaMax、1mMのピルビン酸ナトリウム、10 ng/mlの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、100 IU/mlのペニシリン/100μg/mlのステレプトマイシン/250μg/mlのG418、0.1μMのA83−01及び0.1μMのバルプロ酸(Stemgent、San Diego、CA)を含有するDMEM/F−12培地でmirPS細胞を37℃、5%COの条件下で培養した。一方、ドキシサイクリン(Dox、3.75〜5μg/ml、Sigma−Aldrich、St.Louis、MO)存在下で、mirPS細胞を同様なフィーダーフリー(feeder−free)の培養条件下で培養し、更に0.05μMのGSK抑制剤SB216763(Stemgent)を添加した。GSK抑制剤の添加はmirPSの増殖を促進したが、神経分化を引き起こす傾向がわずかに見られた。神経細胞誘導の面では、mirPS細胞を0.05μM SB216763を含有し、ドキシサイクリン(Dox)を含有しない上記フィードフリー層の培養条件で培養する。
【実施例2】
【0092】
mir−302sを発現する組換えベクターの構築
Mir−302ファミリークラスター(mir−302s)の生成は前記の通りである(Lin氏ら、2008)。Mir−302sクラスターは、mir−302a、mir−302b、mir−302c、及びmir−302dのマイクロRNA前駆体(pre−miRNAs)という4つの部分を含有する。mir−302sクラスターを構築するために使用される合成オリゴヌクレオチド(Sigma−Genosys,St.Louis,MO)は下記のように挙げられる。発現ベクターの構成において、我々は等量(1:1)のmir−302sと予め作られたSpRNAi−RGFP組換え遺伝子を混合させ(Lin氏ら,2006と2008)、そしてMluI/PvuI制限酵素によって37℃でこの混合物を4時間消化させた。次に、ゲル抽出フィルター(Qiagen、CA)で該消化された混合物を純化させるとともに、30μlの再蒸留水(ddHO)に収集し、T4DNAリガーゼ(T4 ligase)を用いて8℃で16時間作用し、該混合物をライゲーションさせた。該工程では、mir−302を発現する組換えSpRNAi−RGFP遺伝子が形成され、更にXhoI/HindIII制限酵素によって切断された後、ドキシサイクリンにより誘導できるpSingle−tTS−shRNAベクター(Clontech、Palo Alto、CA)中に挿入されたことで、誘導性のpTet−On−tTS−miR302s発現ベクターが形成された。その後、我々はpTet−On−tTS−miR302sベクターを更に修正し、即ち、pTRE−Tightプラスミド(Clontech)から単離されたTRE−CMVプロモーターを用いて、pTEt−On−tTS−miR302sベクター本来のU6プロモーターを置換した。非誘導性のpCMV−miR302sの持続的発現ベクターを生成するために、我々はEcoRI制限酵素で該修飾したpTEt−On−tTS−miR302sベクターを切断し、ゲル電気泳動によりtTS−TREの上流配列(1.5kb)を除去するとともに、切断されたベクターを改めて該ゲルから得ることによって、DNAライゲーション工程を行い、非誘導性のpCMV−miR302sベクターの構築を完成させた。
【0093】
mir−302ファミリーマイクロRNA前駆体(pre−miRNA)クラスターのDNA組換えに使用される合成オリゴヌクレオチドとして、次のように、mir−302a−センス:5’−GTCACGCGTT CCCACCACTT AAACGTGGAT GTACTTGCTT TGAAACTAAA GAAGTAAGTG CTTCCATGTT TTGGTGATGG ATAGATCTCT C−3’(SEQ.ID.NO.9)、mir−302a−アンチセンス:5’−GAGAGATCTA TCCATCACCA AAACATGGAA GCACTTACTT CTTTAGTTTC AAAGCAAGTA CATCCACGTT TAAGTGGTGG GAACGCGTGA C−3’(SEQ.ID.NO.10)、mir−302b−センス:5’−ATAGATCTCT CGCTCCCTTC AACTTTAACA TGGAAGTGCT TTCTGTGACT TTGAAAGTAA GTGCTTCCAT GTTTTAGTAG GAGTCGCTCA TATGA−3’(SEQ.ID.NO.11)、mir−302b−アンチセンス:5’−TCATATGAGC GACTCCTACT AAAACATGGA AGCACTTACT TTCAAAGTCA CAGAAAGCAC TTCCATGTTA AAGTTGAAGG GAGCGAGAGA TCTAT−3’(SEQ.ID.NO.12)、mir−302c−センス:5’−CCATATGGCT ACCTTTGCTT TAACATGGAG GTACCTGCTG TGTGAAACAG AAGTAAGTGC TTCCATGTTT CAGTGGAGGC GTCTAGACAT−3’(SEQ.ID.NO.13)、mir−302c−アンチセンス:5’−ATGTCTAGAC GCCTCCACTG AAACATGGAA GCACTTACTT CTGTTTCACA CAGCAGGTAC CTCCATGTTA AAGCAAAGGT AGCCATATGG−3’(SEQ.ID.NO.14)、mir−302d−センス:5’−CGTCTAGACA TAACACTCAA ACATGGAAGC ACTTAGCTAA GCCAGGCTAA GTGCTTCCAT GTTTGAGTGT TCGCGATCGC AT−3’(SEQ.ID.NO.15)、及びmir−302d−アンチセンス:5’−ATGCGATCGC GAACACTCAA ACATGGAAGC ACTTAGCCTG GCTTAGCTAA GTGCTTCCAT GTTTGAGTGT TATGTCTAGA CG−3’(SEQ.ID.NO.16)が挙げられる。また,我々はmir−302マイクロRNA前駆体(pre−miRNA)クラスターの代わりに、合成されたmiR−302s−センス:5’−GCAGATCTCG AGGTACCGAC GCGTCCTCTT TACTTTAACA TGGAAATTAA GTGCTTCCAT GTTTGAGTGG TGTGGCGCGA TCGATATCTC TAGAGGATCC ACATC−3’(SEQ.ID.NO.17) 及びmir−302s−アンチセンス:5’−GATGTGGATC CTCTAGAGAT ATCGATCGCG CCACACCACT CAAACATGGA AGCACTTAAT TTCCATGTTA AAGTAAAGAG GACGCGTCGG TACCTCGAGA TCTGC−3’(SEQ.ID.NO.18)のハイブリダイゼーションによって形成された手動で再設計のshRNAを用いることで、簡易なイントロ挿入を行った。mir−302相同体を設計する際、ウラシル(U)の代わりにチミン(T)を用いてもよく、逆も同様である。これらの合成配列の全ては、ライゲーション(ligation)を行う前にポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)ゲル抽出法によって精製されている。
【0094】
組換えられたmir−302ファミリーマイクロRNA(mir−302s)前駆体クラスターは、mir−302a−センスとmir−302a−アンチセンス、mir−302b−センスとmir−302b−アンチセンス、mir−302c−センスとmir−302c−アンチセンス、及びmir−302d−センスとmir−302d−アンチセンスを含む4つのmir−302a〜d雑種を連結することによって形成された。これらのmir−302a、mir−302b、mir−302c、及びmir−302d雑種は、それぞれPvuI/XhoI、XhoI/NheI、NheI/XbaI及びXbaI/MluI制限酵素によって消化された後、ゲルで抽出され、その後、濾過カラム(Qiagen、CA)で35μl滅菌された再蒸留水中に共に収集された。そして、T4 DNAリガーゼ(ligase)(Roche、20U)で混合雑種をライゲーションさせ、クラスターを形成した。最後にmir−302ファミリーのマイクロRNAクラスターをPvuI/MluI制限酵素直線化のSpRNAi−RGFP組換え遺伝子に挿入した。また、SEQ.ID.NO.17とSEQ.ID.NO.18をハイブリダイゼーションさせてから、PvuI/MluI制限酵素を用いて該雑種を切断し、切断された雑種をPvuI/MluI直線化のSpRNAi−RGFP中に挿入することによって、mir−302 shRNAを形成した。
【0095】
pTet−On−tTS−miR302s及びCMV−miR302sベクターを増殖させるために、濃度100μg/mlのアンピシリン(Sigma Chemical、St. Louis、MO)を含有するLB培地で大腸菌DH5αの菌株を培養した。そして、エンドトキシンフリーのマキシプレッププラスミド抽出キット(Endo−Free Maxi−Prep Plasmid Extraction Kit、Qiagen、CA)を用いて、増殖後のpTet−On−tTS−miR302s及びCMV−miR302sベクターを単離、精製した。
【実施例3】
【0096】
マイクロRNA(miRNA)のマイクロアレイ分析
細胞密集度70%で、mirVanaTMマイクロRNA単離キット(mirVanaTM miRNA isolation kit、Ambion)を用いて、各細胞培養物から小型RNAsを単離した。単離した小型RNAsの純度と含量を1%ホルムアルデヒド−アガロースゲル電気泳動及び分光光度計の測定(Bio−Rad)によって評価した後、直ちにドライアイスで凍結させ、RNAマイクロアレイ分析を行うためにLCSciences社(San Diego、CA)に送付した。各マイクロアレイチップは、それぞれCy3もしくはCy5で標識した単一のサンプルとハイブリダイゼーションされ、又はCy3及びCy5で標識した1対のサンプルとハイブリダイゼーションされた。次に、バックグラウンドの差し引き(background subtraction)及び正規化(normalization)を行った。二重分析において、p値を算出し、3倍より大きな差で発現した転写物を一覧表に示した。その結果は図1Cに示す。
【実施例4】
【0097】
ノーザンブロット分析法
mirVanaTMマイクロRNA単離キット(Ambion、Austin、TX)で全RNAs(10μg)を単離した後、15%のTBE−ウレアポリアクリルアミドゲル又は3.5%の低融点アガロース電気泳動によって該全RNAsを分画し、該分画された全RNAsを電気ブロッティングによってナイロンメンブラン(nylon membrane)上に移した。続いて、[LNA]−DNAプローブ(5’−[TCACTGAAAC]ATGGAAGCAC TTA−3’)(SEQ.ID.NO.19)でmir−302を検出した。その他の遺伝子を検出するプローブは更に合成され、その配列は表1に示す。全てのプローブは高速液体クロマトグラフィー法(HPLC)によって精製し、且つ[32P]−dATP(>3000 Ci/mM、Amersham International、Arlington Heights,IL)存在下で、末端転移酵素(terminal transferase、20 units)で末端標識を行った。ハイブリダイゼーションは、50%の新鮮な脱イオンホルムアミド(freshly deionized formamide、pH7.0)、5倍デンハート液、0.5%SDS、4倍SSPE、及び250mg/mLの変性サケ精子DNA断片の混合液中にて実施した(18時間、42℃)。次に、メンブランを2倍SSC、0.1%のSDSで連続2回洗浄し(15分間、25℃)、0.2倍SSC、0.1%のSDSで1回洗浄し(45分間、37℃)、そして、オートラジオグラフィーを実施した。その結果を、図1D、図4A及び8Bに示す。
【実施例5】
【0098】
ウェスタンブロット分析法
製造元の提案に基づき、プロテアーゼ抑制剤(protease inhibitor)、ロイペプチン(Leupeptin)、TLCK、TAME及びPMSFを補充したCelLytic−M溶解/抽出試薬(CelLytic−M lysis/extraction reagent、Sigma)で細胞(1,000,000個)を溶解した。該溶解液を12,000rpm、4℃で20分間遠心分離した後、上澄み液を取った。そして、E−maxマイクロプレートリーダー(microplate reader、Molecular Devices、CA)において、改良されたSOFTmaxプロテインアッセイパッケージでタンパク質濃度を測定した。還元(reducing、+50mM DTT)及び非還元(non−reducing、DTT無し)下において、各々30μgの細胞溶解物をSDS−PAGEサンプル用緩衝液に添加し、さらに3分間沸騰してから、6%〜8%ポリアクリルアミドゲルにロードした。次に、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)でタンパク質を解析した後、タンパク質をニトロセルロースメンブラン(nitrocellulose membrane)に電気ブロットし、Odysseyブロッキング試薬(Odyssey blocking reagent;Li−Cor Biosciences、Lincoln、 NB)でメンブランを室温で2時間培養した。その後、該試薬に一次抗体を加えて4℃で該混合物を培養した。使用した一次抗体は、Oct3/4(Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CA)、Sox2(Santa Cruz)、Nanog(Santa Cruz)、Lin28(Abcam Inc.,Cambridge,MA)、UTF1(Abcam)、Klf4(Santa Cruz)、TRP1(Santa Cruz)、keratin 16(Abcam)、CDK2(Santa Cruz)、cyclin D1(Santa Cruz)、cyclin D2(Abcam)、BMI−1(Santa Cruz)、AOF2(Sigma)、HDAC2(Abcam)、hTERT(Santa Cruz)、β−actin(Chemicon,Temecula,CA)、及びRGFP(Clontech)を含む。一晩経過後、TBS−Tで該膜を3回すすぎ、そして、ヤギ抗マウスIgG(goat anti−mouse IgG)中に室温で1時間暴露した。該ヤギ抗マウスIgGとAlexaFluor 680反応性染料(1:2,000;Invitrogen−Molecular Probes)が結合して二次抗体を形成した。更にTBS−Tで3回すすいだ後、Li−CorOdyssey Infrared Imager及びOdyssey SoftwareV.10(Li−Cor)を用いて免疫ブロットの蛍光スキャニング及び画像解析を行った。その結果を、図1D、図4B、図7C〜7D、図8B及び9Bに示す。
【実施例6】
【0099】
アポトーシスした細胞のDNAのラダーアッセイ
製造元の提案に基づき、アポトーシスのDNAラダーキット(Apoptotic DNA Ladder Kit、Roche Biochemicals、Indianapolis、IA)を用いて、約2,000,000個の細胞からゲノムDNAを単離し、そして単離されたDNAを2μg取り、2%アガロースゲル電気泳動法によって評価した。その結果を図1Fに示す。
【実施例7】
【0100】
DNA含量のフローサイトメトリー分析
必要な実験を終えた後、細胞をトリプシンで加水分解させ、塊状に遠心分離し、さらに予め冷却した1ml 70%メタノールを含有するPBS溶液中に浮遊させ、これらの細胞を−20℃で1時間固定した。そして、これらの細胞をペレット状に遠心分離し、1mlのPBSで1回洗浄した。再びこれらの細胞をペレット状に遠心分離し、37℃で、1mg/mlのヨウ化プロピジウム、0.5μg/mlのリボヌクレアーゼ(RNase)を含む1 mlのPBS溶液において30分間再浮遊させた。続いて、BD FACSCaliburフローサイトメトリー(San Jose、CA)で約15,000個の細胞を分析した。パルス幅対パルス面積の図を描き、単一細胞をゲーティングすることによって細胞ダブレットを除外した。収集したデータを「WatsonPragmatic」アルゴリズムでソフトウェアFlowjoを使用して解析した。その結果を図3A〜B、図6A−b及び6Cに示す。
【実施例8】
【0101】
ゲノム全体のマイクロアレイ分析
ヒトゲノムGeneChip U133 plus 2.0 アレイ(Affymetrix、Santa Clara、CA)を用いて、47,000個を超えたヒト遺伝子の発現パターンの変化を検出した。製造元の提案に基づき、mirVanaTMマイクロRNA単離キット(mirVanaTM miRNA Isolation Kit、Ambion)を用いて、各試験サンプルから全RNAを単離した。単離したRNAの純度と含量を1%ホルムアルデヒド−アガロースゲル電気泳動及び分光光度計の測定(Bio−Rad)によって評価した。完全マッチしたプローブ及びミスマッチプローブの全体的平均差を用いて、サンプルシグナルを正規化した。そして、AffymetrixMicroarray Suite 5.0版、ExpressionConsoleTM 1.1.1版(Affymetrix)、及びGenesprings(SiliconGenetics)ソフトウェアを用いて、ゲノム全体の遺伝子発現パターンの変化を分析した。遺伝子発現の変化が1倍より大きい場合は、陽性差異遺伝子と見なされた。遺伝子クラスター測定において、プラグインプログラムGenetrix(EpicenterSoftware)とAffymetrixソフトウェアを組み合わせて使用した。各マイクロアレイ内の対照群ハウスキーピング遺伝子の平均値で、該サンプルシグナルを正規化した。その結果を図5Aに示す。
【実施例9】
【0102】
DNA脱メチル化の測定
DNA単離キット(DNA isolation kit、Roche)によって、約2,000,000個の細胞中のゲノムDNAを単離した。1μgの単離されたDNAを取り、製造元の提案に基づき、重亜硫酸塩処理(CpGenome DNA modification kit、Chemicon、Temecula、CA)を行った。一方、2μgの単離されたDNAsを取り、CCGG切断制限酵素HpaIIで消化し、さらに1%アガロースゲル電気泳動によって、全ゲノムの脱メチル化を判別した(図5B)。重亜硫酸塩でDNAを処理することによって、全ての非メチル化シトシンをウラシルに変換させる一方、メチル化シトシンをシトシンのままに維持させた。重亜硫酸塩DNA配列決定分析においては、我々はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いてOct3/4とNanogプロモーター領域を更に増幅した。Oct3/4プロモーター領域を増幅するために使用されるプライマーは、5’−GAGGCTGGAG CAGAAGGATT GCTTTGG−3’(SEQ.ID.NO.20)及び 5’−CCCTCCTGAC CCATCACCTC CACCACC−3’(SEQ.ID.NO.21)を含み、また、Nanogプロモーター領域を増幅するために使用されるプライマーは、5’−TGGTTAGGTT GGTTTTAAAT TTTTG−3’(SEQ.ID.NO.22) 及び 5’−AACCCACCCT TATAAATTCT CAATTA−3’(SEQ.ID.NO.23)を含む。まず、重亜硫酸塩修飾後のDNAs(50ng)とこれらのプライマー(合計100 pmole)を1倍PCR緩衝液中にて混合し、94℃に加熱しながら2分間保ち、そして直ちに氷で冷却した。その後、高感度のPCR延長キット(Expand High Fidelity PCR kit、Roche)を用いて94℃で1分間、70℃で3分間のようなPCRを25サイクル行った。増幅反応終了後、3%アガロースゲル電気泳動法によって正確な大きさを有するDNA産物を更に分画し、続いて該DNA産物をゲル抽出キット(Qiagen)で精製し、DNA配列決定を行った。DNAメチル化部位の詳細なプロフィルは、重亜硫酸塩で修飾されたDNA配列内に変わっていないシトシンと重亜硫酸塩で修飾されていないDNA配列内の変わっていないシトシンとを比較することによって得られた。その結果を図5Cに示す。
【実施例10】
【0103】
移植及び奇形腫の形成
約5〜10個のmirPS細胞由来の胚様体(4〜8細胞段階)を50μlのDMEM培養液とマトリゲル(Matrigel)の2:1混合液中に浮遊させた後、これらのmirPS細胞由来の胚様体を6週齢の雌性偽妊娠の免疫不全SCIDベージュ(SCID−beige)マウスの子宮に移植した。偽妊娠マウスを作る方法は、1IUのヒト閉経期ゴナドトロピン(human menopausal gonadotrophin、HMG)を2日間腹膜内注射し、そしてヒト絨毛性ゴナドトロピン(humanchorionic gonadotrophin、hCG)をもう1日間注射した。該細胞及び該マウスは、移植前又は移植後において、ドキシサイクリン(Dox)処理を行わない。移植期間では、2.5%トリブロモエタノール(Avertin)溶液で、1匹のマウスに0.4mlの量でマウスを麻酔した。移植後又は移植細胞集団が100mmより大きいサイズに成長した後、移植細胞集団(Xenografted masses)を3から4週間監視した。該腫瘍/奇形腫を切り離した後、数式(長さ×幅2)/2を用いて、その体積を計算し、且つ計数、秤量、及び、更なる組織学的解析を行った。奇形腫様組織嚢腫の形成(teratoma−like tissue cysts)は、通常移植して約2.5週間後に観察できる。その結果を図5Dに示す。
【実施例11】
【0104】
細胞侵入試験
まず、200μg/mlのMatrigelを単独使用し、又は20%FBS及び1%L−グルタミン(L−Glutamine)のフェノールレッドフリーのDMEM培養液を追加したMatrigelを用いて、チャンバーインサート(chamber inserts、穴径12μm、Chemicon)を塗布し、無菌環境下において翌日まで乾燥させた。フェノールレッドフリーDMEM培養液を使用して、最終的に100,000個細胞/mlの細胞密度になるように細胞を収集、すすぎ、及び浮遊させた。該細胞懸濁液を500μl取ってトップチャンバー(top chamber)内に分配させ、1.5mlのDMEMならし培養液をボトムチャンバーに追加することで、走化性勾配(chemotactic gradient)を作り出した。37℃で一晩置き、16時間培養した後、侵入状況について測定を行った。まず、脱脂綿でトップチャンバーを拭き、そして100%メタノールを用いてメンブランの下側に位置する侵入細胞を10分間固定し、風乾させ、クレシルバイオレット(cresyl violet)で20分間染色した後、水で緩やかに洗浄した。乾燥後、1:1の100%エタノールと0.2Mクエン酸ナトリウム(NaCitrate)の洗浄液でメンブラン上のクレシルバイオレット染色を20分間洗い出し、Precisionマイクロプレートリーダー(Precision Microplate Reader、Molecular Dynamics)で波長570nmの吸光度を読み取った。細胞の侵入率の表示法は、試験サンプルの吸光度対メンブランインサート層未乾燥の場合(総細胞数)に得られた吸光度の百分比とした。その結果を図6Dに示す。
【実施例12】
【0105】
細胞接着試験
細胞接着試験は過去の報告に述べられた通りに行われた(Lin氏ら,2007)。ヒト骨髄内皮細胞(hBMECs)を100,000個細胞/mlの密度で96穴プレートに植え、試験前に接着培養液(adhesion medium)[RPMI 1640/0.1%BSA/20mM HEPES(pH7.4)]ですすいだ。トリプシン(腫瘍/癌細胞に使用する)又はコラゲナーゼ(mirPS細胞に使用する)を用いて、被験細胞を単離させ、無菌生理塩水で細胞をすすいだ後、10μM fura−4アセトキシメチルエステル蛍光プローブ(acetoxymethyl ester,fluorescent probe,Sigma)を含有するPBS中で、再び細胞を1,000,000個細胞/mlの密度で浮遊させたまま、37℃の暗黒環境下で1時間経過した。続いて、該細胞を遠心分離させ、1%(v/v)プロベネシド(probenecid、100mM)を含む無血清の培養液で細胞をすすいだ後、該細胞を接着培養液に37℃の暗黒環境下で20分間培養することで、細胞内の蛍光プローブを活性化した。その後、該100,000個の細胞(300μlの細胞懸濁液/well)をコンフルエント(confluent)なhBMEC内皮細胞単層に投入し、37℃で50分間培養した。250μlの接着培地を用いて2回すすいで、未接着の細胞を洗い流した。蛍光プレートリーダー(fluorescent plate reader、Molecular Dynamics)を用いて、37℃で励起波長485nm及び発光波長530nmで蛍光を読み取った。その結果を図6Eに示す。
【実施例13】
【0106】
インビボでの腫瘍形成試験
我々はNTera−2細胞(総体積が100μlであるMatrigel−PBS中の2,000,000個細胞)を8週齢の雄性マウス(BALB/c−nu/nu種)の脇腹部(即ち、後右肢)に異種移植した。該腫瘍に対して毎週監視し、NTera−2異種移植してから1週間後、pCMV−miR302sベクター又はpCMV−miR302d*ベクターをインサイチュー注射で導入した。マウス体重の1gあたり2μgのポリエチレンイミン(polyethylenimine、PEI)により調製されたpCMV−miR302s又はpCMV−miR302d*ベクターで、3日置きに5回の処理を行った。(合計10μg)。製造元の提案に基づき、インビボ−jetPEI送達試薬(Polyplus−transfection Inc.、New York、NY)を使用した。注射してから3週間後又はベクター非処理の腫瘍が平均サイズで約100mmに成長した時点、サンプリングし始めた。腫瘍の組織学的評価及び免疫反応細胞毒性試験を行うために、血液、脳、心臓、肺臓、肝臓、腎臓又は脾臓のような主要な器官及び異種移植腫瘍は全て摘出された。そのうち、触診で腫瘍形成を監視し、数式(長さ×幅)/2で腫瘍体積を計算した。また、腫瘍に対して計数、解剖及び秤量を行い、ヘマトキシリン・エオシン染色(H&E)及び免疫染色試験で組織学的な検査を行った。組織学的な検査では、脳、心臓、肺臓、肝臓、腎臓及び脾臓における検査可能な組織的病変が検出されなかった。その結果を図8Aに示す。
【実施例14】
【0107】
免疫染色試験
組織サンプルを4℃で4%のパラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)に一晩固定させた。該サンプルをパラフィンワックスに包埋する前に、1倍のPBS、メタノール、イソプロパノール、及びテトラヒドロナフタレン(tetrahydronaphthalene)の順で洗浄した。次に、包埋したサンプルをミクロトーム(microtome)で7〜10μmの厚さに切断し、TESPAでコートした清潔なスライドガラス上に固定した。次に、キシレン(xylene)を用いてスライドガラスを脱ろうし、取付け媒体(mounting media、Richard Allan Scientific、Kalamazoo、MI)を用いてカバーガラスの下に取り付け、そして、ヘマトキシリン(hematoxylin)及びエオシン(eosin)(H&E、Sigma)で染色して形態を観察した。免疫組織化学(IHC)染色キットは、Imgenex(SanDiego、CA)から購入した。製造元の提案に基づき、抗体の希釈及び免疫染色工程を行った。用いられた一次抗体は、Oct3/4(Santa Cruz)、Sox2(Santa Cruz)、Nanog(Santa Cruz)、CDK2(Santa Cruz)、cyclin D1(Santa Cruz)、cyclin D2(Abcam)、BMI−1(Santa Cruz)、及びRGFP(Clontech)を含む。二次抗体としては、ビオチン標識のヤギ抗ウサギ(goat anti−rabbit)又はビオチン標識のウマ抗マウス(horse anti−mouse)抗体(Chemicon、Temecula、CA)を用いた。三次抗体としてのストレプトアビジン−HRP(Streptavidin−HRP)を追加した。スライドガラスをPBTで3回洗浄した後、DAB基質(DAB substrate)で、結合された抗体の検出を行った。全視野スキャニングを備える100倍の顕微鏡で、陽性結果が観察され、Metamorphイメージングプログラム(Nikon 80i顕微鏡定量分析システム)によって、200倍の拡大倍率で計測して、定量分析を行った。その結果を図8Cに示す。
【実施例15】
【0108】
ルシフェラーゼ 3’末端非翻訳領域レポーターアッセイ
ルシフェラーゼアッセイは、修飾されたpMir−Report miRNA発現レポーターベクターシステム(pMir−Report miRNA Expression Reporter Vector System、Ambion)を用いて行った。Mir−302の標的部位(正常及び/又は変異)がpMir−Report Luciferase Reporterレポーターベクターの3’末端非翻訳領域(3’−UTR)のクローニングサイトに挿入された。合成された2つの標的部位を12個の−CAGT−重複配列で区切った。もう1つのpMir−Reportβ−gal Controlベクターはレポーターなし(no reporter)の制御ベクターとして使用された。ドキシサイクリンによって処理し、または処理せずに、FuGene HD試薬(Roche)を使用して、製造元の提案に基づき、200 ngのレポーターベクターで、50,000個のmirPS細胞を形質移入した。形質移入して48時間経過後に、細胞溶解液を収集した。ルシフェラーゼのノックダウンレベルは正規化(normalize)され、相対的なルシフェラーゼ活性(relative luciferase activity、RLA)で表示され、その計算方法は、ドキシサイクリンによって処理された(Dox−on)mirPS細胞のルシフェラーゼ活性レベルをドキシサイクリンによって処理されなかった(Dox−off)mirPS細胞のルシフェラーゼ活性レベルで割ることによって計算される。また、mir−434を発現する細胞は電気穿孔法によってpTet−On−tTS−miR434−5pをhHFCsに導入することで生成され、ネガティブコントロールとした。その結果を図7B及び図10Bに示す。
【実施例16】
【0109】
TRAP(テロメアリピート増幅プロトコル)法
製造元の提案に基づき、プロテアーゼ抑制剤、ロイペプチン(Leupeptin)、TLCK、TAME及びPMSFを追加した細胞分解/抽出試薬(CelLytic−M lysis/extraction reagent、Sigma)で約1,000,000個の細胞を溶解した。12,000rpmの回転速度で、4℃において該分解液を20分間遠心分離させ、分解液(上澄み液)を収集した。続いて、E−maxマイクロプレートリーダー(microplate reader、Molecular Devices、CA)上で、改良されたSOFTmaxタンパク質アッセイソフトでタンパク質濃度を測定した。赤外アレクサフルオロ680(infrared Alexa Fluor 680 dye、TS Primer、Sigma−Genosys)標識のオリゴヌクレオチド5’−AATCCGTCGAGCAGAGTT−3’(SEQ.ID.NO.24)及び 5’−GTGTAACCCTAACCCTAACCC−3’(CX primer,30μM)(SEQ.ID.NO.25)を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の産物を測定した。テロメラーゼ抑制剤は主要な混合液に直接に追加された。全ての被験細胞株に対して、反応ごとに50ngのタンパク質を使用することで、最良な結果に達した。30℃で30分間培養後、サンプルをポリメラーゼ連鎖反応器に入れ、94℃まで加熱し、2分間保持した後、94℃で変性反応(denuturation)を30秒間、57℃で合成反応(synthesis)を30秒間のPCRを35サイクル、最後に57℃で単一合成後を30秒間行った。次に、6%の非変性ポリアクリルアミドゲル(Nondenaturing polyacrylamide gel)電気泳動法でPCR産物を分画させ、Li−Corオディセ赤外イメージャー(Odyssey Infrared Imager)及びOdyssey Software V.10(Li−Cor)を用いて画像のスキャニング及び分析を行った。その結果を図9Aに示す。
【実施例17】
【0110】
統計解析
免疫染色、ウェスタンブロット及びノーザンブロット法による分析において、75%より大きいシグナル強度の変化のいずれも陽性の結果とみなされ、これらの結果が解析された後、平均値±標準誤差(means±SE)で表示された。資料の統計解析は、一元配置分散分析(one−way ANOVA)によって計算された。主効果が有意な場合、Dunnett’sポストホックテスト(Dunnett’s post−hoc test)で対照群と有意に異なる群を判定した。2処理群間の対での比較には、両側スチューデントt検定(two−tailed student t test)を用いた。2群より多い処理群を含む実験では、ANOVAを行った後に、ポストホック多重範囲検定(post−hoc multiple range test)を行った。確率p<0.05を統計上において有意とみなした。両側検定から全p値を決定した。
【0111】
参考文献
以下の参考文献は、参照として本明細書に完全に記載されたものとして援用される。
【0112】
【表1】




本明細書に記載されている実施例及び実施形態は例示のみの目的であり、種々の修正又は変更が当業者に提案されること、そして添付された特許請求の範囲に記載された本発明の精神及び範囲内に含まれるべきであることは理解される。本明細書にて引用された全ての刊行物及び特許は、その全体が本明細書において援用される。
【0113】
表1.実施例4に係る配列
【0114】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え核酸組成物を用いて標的細胞において特定の遺伝子サイレンシング効果を誘発する方法であって、
(a)mir−302の標的となる複数の細胞遺伝子を干渉するための少なくとも1つの遺伝子サイレンシングエフェクターになるように、該組換え核酸組成物を提供して、送達、転写及びプロセシングされる工程と、
(b)該標的細胞を含み、且つmir−302の標的となる細胞周期調節因子遺伝子及び発癌遺伝子を発現する細胞基質を、該組換え核酸組成物で処理する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
該標的細胞は、奇形腫において見つかった腫瘍細胞類に属するヒト細胞を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該標的細胞は、癌組織に由来するヒト細胞を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
該組換え核酸組成物は、発現可能ベクターを含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
該組換え核酸組成物は、薬剤誘導性遺伝子発現プロモーターを含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該薬剤誘導性遺伝子発現プロモーターがテトラサイクリン誘導体、またはその等価物によって制御される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
該組換え核酸組成物は、持続的遺伝子発現プロモーターを含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
該持続的遺伝子発現プロモーターは、II型RNAポリメラーゼ、またはその等価物によって駆動される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
該持続的遺伝子発現プロモーターは、ウィルスプロモーターである請求項7に記載の方法。
【請求項10】
該細胞基質は、mir−302の標的となる複数の細胞遺伝子を発現する請求項1に記載の方法。
【請求項11】
該細胞基質を処理する工程は、mir−302がmir−302の標的となる細胞遺伝子を抑制する条件下で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項12】
該組換え核酸組成物は、5’末端供与スプライス供与部位、イントロン挿入部位、分岐点モチーフ、ポリピリミジントラクト、及び3’末端受容スプライス部位を含む請求項1に記載の方法。
【請求項13】
該イントロン挿入部位は、mir−302と相同性を有する該遺伝子サイレンシングエフェクターを含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
該組換え核酸組成物は、さらに複数のエクソンを含む請求項1に記載の方法。
【請求項15】
該遺伝子サイレンシングエフェクターは、SEQ.ID.NO.1配列またはSEQ.ID.NO.2配列に対して相同性を有する配列を含む請求項1に記載の方法。
【請求項16】
該遺伝子サイレンシングエフェクターは、SEQ.ID.NO.3配列に対して相同、または/及び相補的である請求項1の記載の方法。
【請求項17】
該遺伝子サイレンシングエフェクターは、SEQ.ID.NO.9配列、SEQ.ID.NO.10配列、SEQ.ID.NO.11配列、SEQ.ID.NO.12配列、SEQ.ID.NO.13配列、SEQ.ID.NO.14配列、SEQ.ID.NO.15配列、及びSEQ.ID.NO.16配列の雑種をライゲーションにより連結されて形成される請求項1に記載の方法。
【請求項18】
該遺伝子サイレンシングエフェクターは、SEQ.ID.NO.17配列及びSEQ.ID.NO.18配列の雑種から形成される組換え核酸配列である請求項1に記載の方法。
【請求項19】
該組換え核酸組成物は、遺伝子送達法によって該細胞基質中に送達される請求項1に記載の方法。
【請求項20】
該mir−302の標的となる細胞周期調節子遺伝子及び発癌遺伝子は、CDK2、CDK4、CDK6、cylcin D、BMI−1、及びこれらの組み合わせから選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項21】
該特定の遺伝子サイレンシング効果は、細胞周期の減衰、G0/G1チェックポイントの停止、抗腫瘍形成、及び癌細胞のアポトーシスの中の少なくとも1つを含む請求項1に記載の方法。
【請求項22】
該特定の遺伝子サイレンシング効果は、RNA干渉に起因にする請求項1に記載の方法。
【請求項23】
該組換え核酸組成物は、遺伝子工学手法により生成される請求項1に記載の方法。

【図1C】
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【図6B】
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【図8C】
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【図10B】
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【図1A】
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【図1B】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10A】
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【図10C】
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【図10D】
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【図11】
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【公表番号】特表2013−503164(P2013−503164A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526745(P2012−526745)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/037252
【国際公開番号】WO2011/025566
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(510087807)
【氏名又は名称原語表記】LIN,Shi−Lung
【出願人】(510087999)
【氏名又は名称原語表記】WU,David TS
【Fターム(参考)】