説明

汚染土壌の不溶化材

【課題】PS灰やEP灰をそのまま不溶化材の一原料として使用したものが存在しない。
【解決手段】PS灰及び/又はEP灰と、高炉スラグ微粉末と、水硬性若しくは気硬性固化材とを混合した不溶化材を汚染土壌に添加混合することで鉛や砒素を不溶化処理することによって、製紙業界や製鉄業界から排出される廃棄物副産物を不溶化材として有効活用することを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛・砒素に汚染された土壌に添加、混合して、鉛、砒素の溶出量を減少させる様にした汚染土壌の不溶化材。
【背景技術】
【0002】
従来、重金属類等で汚染された土壌の処理方法としては、汚染土壌に不溶化材を添加、混合して難溶化・固定化することで、汚染物質の溶出を抑制する「不溶化技術」があり、具体的には、掘削した汚染土壌に地上で不溶化材を添加・混合したり、あるいは汚染土壌に原位置で深層機械攪拌工法などによって不溶化材を混入・攪拌して、汚染物質を不溶化することが行なわれている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0003】
そして、上記不溶化材としては、セメント(特許文献1)であったり、スラグ含有量が31〜60%の高炉セメント、水及び塩化第二鉄からなり、水セメント比(W/C)が80〜120%とされ、前記高炉セメントが、前記汚染土壌1m3 あたり100kg以上とされ、前記塩化第二鉄が前記汚染土壌1m3 あたり0.73kg以上とされているもの(特許文献2)であったり、700〜1000°Cで焼成され、粉末度7000cm2 /g以上に調整されているもの(特許文献3)がある。
【0004】
製紙工場から排出されるペーパースラッジの焼却灰(以降、PS灰と称する)にあっては、地盤材料としての使用が有望視されている廃棄物であり、実際に、セメント(高炉B種)及び水を混合してスラリー化し、このスラリーに洗浄粘土を添加することで、所望の流動性を確保して、廃棄物であるPS灰と洗浄粘土との用途を拡大する効果を発揮する埋め戻し材料として使用する技術が見受けられる(例えば、特許文献4参照)。
又、酸性土壌を改良するための土壌改良材、建設工事の盛土や埋め戻し材として使用可能にすべく、PS灰を、酸化カルシウム類及び/又は水酸化カルシウム類、アルミナセメント、硫酸水溶液を加えて混合処理することにより、PS灰中に含まれるフッ素及びホウ素を、平成15年環境庁告示18号に基づく溶出試験方法で溶出させた場合のフッ素溶出量が0.8mg/L以下、ホウ素溶出量が1.0mg/L以下となるように不溶化したり、或いは石炭、RPF及び製紙スラッジなどを燃焼した際の排ガスを電気集塵器やバグフィルターなどで処理して得られる燃焼灰(以下、EP灰と称する)を、カルシウム化合物及び硫酸アルミニウム類、必要に応じてアルミナセメントを追加した上で、水を加えて混合処理することにより、EP灰中に含まれるフッ素を、平成15年環境庁告示第18号に基づく溶出試験方法で溶出させた場合のフッ素溶出量が0.8mg/L以下となるように不溶化することによって、セメント固化や溶融といった複雑で手間のかかる方法や、効果が発現するまでに時間のかかる方法に替わる簡便でかつ安価な方法が見受けられる(例えば、特許文献5、6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−31955号公報
【特許文献2】特許第3560285号公報
【特許文献3】特許第4109017号公報
【特許文献4】特開2003−40666号公報
【特許文献5】特開2006−198505号公報
【特許文献6】特開2005−313147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1〜3は、PS灰又はEP灰が使用されておらず、上記特許文献4には、PS灰及びセメント(高炉B種)が含まれる埋め戻し材が記載されているが、あくまでもポンプ圧送し易くするためにスラリー化されているものであり、上記特許文献5、6に記載されているのはPS灰又はEP灰を利用したものであるが、あくまでも土壌改良材や埋戻し材として使用した場合に、PS灰又はEP灰に含有されたフッ素及びホウ素の土壌側への溶出を防止する様にしたものであり、よって特許文献4〜6のどれもが汚染土壌中の汚染物質を固化・不溶化するものではないなど、解決せねばならない課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記従来技術に基づく、PS灰やEP灰をそのまま不溶化材の一原料として使用したものが存在しない課題に鑑み、PS灰及び/又はEP灰と、高炉スラグ微粉末と、水硬性若しくは気硬性固化材とを混合した不溶化材を汚染土壌に添加混合することで鉛や砒素を不溶化処理することによって、製紙業界や製鉄業界から排出される廃棄物副産物を不溶化材として有効活用することを可能にして、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
要するに本発明は、PS灰及び/又はEP灰と、高炉スラグ微粉末と、水硬性若しくは気硬性固化材とを混合したので、かかる不溶化材を鉛又は砒素に汚染された土壌に添加混合すれば、鉛又は砒素が不溶化されるため、処理後の鉛、砒素の溶出量を土壌環境基準以下に抑えることが出来、又汚染土壌の処理に当っては、掘削した汚染土壌に地上で不溶化材を混入したり、汚染土壌に原位置で深層機械攪拌工法など従来の地盤改良技術等を用いることが可能であるため、低コストで汚染土壌の不溶化処理を実施することが出来る。
又、高炉スラグ微粉末を用いているので、その特性であるOH- などによる刺激作用によって水と反応し水和物を生成し、この水和生成物がスラグの粒間を埋める結合材となって凝結、固化が長期間にわたり進行し、この水和過程においてOH- を消費するため、セメントの欠点である長期間にわたるpH12を超える強アルカリ性を水硬性の進展と共に改善することが出来る。
セメント等の固化材を用いているので、該固化材の量により処理後土壌の強度を、例えば構造物が構築出来る様に調整することを可能にすることが出来る。
尚、固化材をセメントとした場合高炉スラグ微粉末とセメントを同量の高炉セメントB種(JIS R 5211では高炉スラグ微粉末の分量30〜60重量%と定められているが、通常、セメントとスラグの比率は概ね1:1)で代用しても良い。
よって、主要材料が製紙・製鉄工場からの廃棄物で、それらを有効活用した、コストパフォーマンスに優れた不溶化材を提供することが出来る等その実用的効果甚だ大である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の汚染土壌の不溶化材は、PS灰及び/又はEP灰と、高炉スラグ微粉末と、水硬性若しくは気硬性固化材とを混合したもので、この不溶化材を汚染土壌に添加混合することにより、鉛又は砒素を不溶化処理することを特徴とするものである。
固化材は、セメント、酸化マグネシウム又は貝殻粉末のいずれか1種又は2種以上の複合材としている。
これらにより構成された不溶化材を、対象汚染土壌1m3に対して50〜300kg添加することが好ましく、その理由は、50kg未満では不溶化材料が均一に混練し難く効果が得られ難く、一方300kgを越えると、不経済で、而も処理土壌の強度発現が大きくなって固化された汚染土壌の掘り起こし等に難がある場合もあるためである。
【0010】
汚染土壌を不溶化するために用いる不溶化材として、どのようなものが好適であるか選定するため、種々の廃棄物副産物を選定して実験を行った。
実験のため選定した廃棄物副産物は、I:ガラス用製品珪砂の製造過程で廃棄される珪砂残渣粘土、II:貝殻粉末、III:廃石膏ボード、IV:下水汚泥焼却灰、V:EP灰、VI:PS灰、VII:高炉スラグ微粉末であり、その化学組成の一例を表1に示す。
【0011】
【表1】

【0012】
上記I〜VIIの不溶化性能の把握を目的として実施した溶液試験の手順を以下に示す。
(1)試験液の作製
試薬を用いて、鉛、砒素、フッ素の濃度が各々10mg/Lになる様に調整して試験液を作製する。
(2)試験液に不溶化材を添加
溶器に不溶化材と試験液を固液比1:100で投入する。
(3)振とう攪拌
6時間(200回/分)連続して振とうを行う。
(4)静置・遠心分離
試験液を所定時間静置した後、試験液を3000回/分で20分間遠心分離する。
(5)上澄液濾過・濾液濃度測定
分離された上澄み液を、孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過して検液とし、この検液中の鉛又は砒素の濃度を測定する。

尚、試験操作は他の元素の影響を排除するために、元素ごと単独で実施し、試験結果を表2に示す。
【0013】
【表2】

【0014】
表2より、選定した7種類の廃棄物はいずれも鉛に対して90%以上の低減率と高い効果を示し、特に上記Vが、鉛及び砒素に対する低減率が99%以上と特に大きく効果的であることが確認出来、又上記VIも鉛及び砒素に対する低減率が90%以上となり、効果的であることが確認出来た。
以上の結果より、鉛や砒素の汚染に対してEP灰、PS灰が効果的であることを見出したのである。
【0015】
次に、本発明に係る不溶化材による汚染土壌中の鉛、砒素の不溶化処理実験を下記の工程で行うこととする。
(1)試料と不溶化材を混合攪拌
鉛、砒素の汚染土壌を500g量り取り、不溶化材を任意重量比で添加した後、汚染土壌と不溶化材をホバートミキサーにより5分間(2.5分で掻き落とし)練り混ぜる。
(2)養生
撹拌終了後、バットに入れ直射日光の当らない室内で7日間密閉養生を行う。
(3)風乾・篩分け
養生後の試料を風乾し、中小礫、木片等を除き、土塊、団粒を粗砕した後、非金属製の2mmの目のふるいを通過させてた後十分混合する。
(4)溶媒混合
試料(単位g)と溶媒(純水に塩酸を加え、pHが5.8以上6.3以下となる様にしたもの)(単位ml)とを重量体積比10%の割合で混合する。
(5)振とう攪拌
調製した試料液を常温常圧で振とう機(予め振とう回数を毎分約200回に、振とう幅を4cm以上5cm以下に調整したもの)を用いて、6時間連続して振とうする。
(6)静置
振とう後、試料液を10分から30分程度静置する。
(7)遠心分離
静置後、試料液を毎分約3、000回転で20分間遠心分離する。
(8)上澄液濾過・濾液濃度測定
分離した上澄み液を孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過してろ液を取り、定量に必要な量を正確に計り取ってこれを検液と、この検液中の鉛又は砒素の濃度を測定する。
【実施例1】
【0016】
EP灰、PS灰及び高炉スラグ微粉末と、固化材としてセメントを選定して作製した不溶化材Aと、鉛、砒素で汚染された土壌(a)を用いて上記不溶化処理実験を実施した。
具体的には、不溶化材Aは、EP灰:40%、PS灰:40%、高炉スラグ微粉末:10%、セメント:10%の割合で混合され、鉛汚染土壌(a)は鉛濃度0.038mg/L、pH8.2、砒素汚染土壌(a)は砒素濃度0.043mg/L、pH8.3であった。
汚染土壌(a)の汚染濃度、不溶化材添加率並びに試験結果を表3に示す。
【0017】
【表3】

【0018】
結果より、不溶化材Aは鉛及び砒素の汚染土壌(a)に対して環境基準値(0.01mg/L)以下に汚染物質を不溶化出来ていることが確認出来た。
よって、鉛、砒素の汚染土壌に対しては、PS灰、EP灰、高炉スラグ微粉末及びセメントを混合した不溶化材を用いることにより、鉛、砒素を不溶化出来る効果があると判断された。
【実施例2】
【0019】
上記実施例1と材料の組合せを変えて、PS灰及び高炉スラグ微粉と、固化材としてセメントと酸化マグネシウム、貝殻粉末を選定して作製した不溶化材B、C、Dと、鉛、又は砒素単体で汚染された土壌(b)を用いて上記不溶化処理実験を実施した。
具体的には、不溶化材Bは、PS灰:50%、高炉スラグ微粉末:20%、セメント:20%、酸化マグネシウム:20%の割合で、不溶化材Cは、PS灰:50%、高炉スラグ微粉末:17.5%、セメント:17.5%、酸化マグネシウム:15%の割合で、不溶化材Dは、PS灰:50%、高炉スラグ微粉末:15%、セメント:15%、酸化マグネシウム:15%、貝殻粉末:5%の割合で夫々混合され、鉛汚染土壌(b)は鉛濃度0.027mg/L、pH8.2、砒素汚染土壌(a)は砒素濃度0.033mg/L、pH8.3であった。
汚染土壌(b)の汚染濃度、不溶化材添加率並びに試験結果を表4に示す。
【0020】
【表4】

【0021】
結果より、不溶化材B及びDを汚染土壌に対して重量比5%添加したものは鉛に対して環境基準値以下に汚染物質を不溶化出来ていることが確認出来、不溶化材C及びDを汚染土壌に対して重量比で10%添加したものは砒素に対して環境基準値以下に汚染物質を不溶化出来ていることが確認出来た。
尚、不溶化材C及びDを汚染土壌に対して10%添加したものは鉛に対しては環境基準値を上回っているが、これはpH11を上回ると溶出率が増加するためであり、対策としてはpH調整材を適宜添加してpHを低下させればよい。
よって、鉛及び砒素の汚染土壌に対しては、PS灰及び高炉スラグ微粉末と、セメント、酸化マグネシウム又は貝殻粉末の複合材である固化材を混合して用いることにより汚染物質を不溶化出来る効果があると判断された。
【0022】
以上、本発明の汚染土壌の不溶化方法について複数の実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PS灰及び/又はEP灰と、高炉スラグ微粉末と、水硬性若しくは気硬性固化材とを混合したことを特徴とする汚染土壌の不溶化材。
【請求項2】
固化材を、セメント、酸化マグネシウム、貝殻粉末のどれか1種又は複合材としたことを特徴とする請求項1記載の汚染土壌の不溶化材。

【公開番号】特開2011−74331(P2011−74331A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230082(P2009−230082)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000245852)矢作建設工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】