説明

汚染土壌の処理方法及びケーソン

【課題】放射能の除染のために回収された、汚染土壌の処理方法を提供する。
【解決手段】海底設置型のケーソン100において、ケーソン100内に形成された空洞部140に汚染土壌150を投入、収容し、ケーソン100の材料であるコンクリートと、そのケーソン100を取り巻く海水という、ガンマ線を遮蔽する効果のある2つの物質で、汚染土壌からのガンマ線の放出を二重に防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌、特に放射能汚染された土壌の処理方法及びケーソンに関する。なお、本明細書でいう汚染土壌には、放射能汚染された下水処理場の汚泥、ごみ焼却施設、最終処分場などで生じる放射能汚染された焼却灰、更には、これらから取り出した放射性物質なども含むものとする。
【背景技術】
【0002】
東京電力福島第一原子力発電所爆発事故に端を発して、土壌の放射能汚染が問題となっている。放射能汚染された土壌を除染するには、土壌表面から4cm程度の深さまでの土壌を回収することで、特に問題とされている、土壌中の放射性のセシウム137を約99%除去できることが明らかとなっている。
【0003】
他方、防波堤や橋梁など、海中の基礎部分に用いられるコンクリート構造物としてケーソンがある。かかるケーソンのうち、海底をならして据え付けられる海底設置型の設置ケーソンでは、海底に据え付けた後、中空となっているケーソンの空洞部内に、浮力に対する錘となる砂を入れて重量を増やすことで、波や海流による影響を受けないようにすることが一般的である。
【0004】
また、陸上構造物にもケーソンは用いられており、例えば以下の特許文献1から3に開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−347510号公報
【特許文献2】特開2006−116373号公報
【特許文献3】特開2009−112932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、除染のために回収される汚染土壌は、それに含まれるセシウム137が放射線(ガンマ線)を放出し、かつ極めて多量にわたることから、その処分方法が問題となっている。
【0007】
また、ケーソンの空洞部内に収容される砂には主に海砂が用いられるところ、近年環境に対する影響への配慮から、海砂の採掘を禁止する地方自治体が増加しており、それゆえ外国からの輸入に頼らざるを得ない等、その入手が困難となっている。
【0008】
他方、ケーソンの材料として用いられるコンクリートには、海水などの水中環境は、ガンマ線の遮蔽効果があるとされている。
【0009】
そこで、本発明は、放射能の除染のために回収された、汚染土壌の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の汚染土壌の処理方法は、設置箇所にケーソン内に形成された空洞部内に、汚染土壌を収容する。
【0011】
また、ケーソンの空洞側側面に遮蔽シートを被覆し、空洞内に収容された汚染土壌とケーソンとが直接接しないようにする。
【0012】
ケーソンの底部及び外壁は、例えば、厚さ35cm以上の水密性鉄筋コンクリートで構成するとよい。
【0013】
ケーソンの空洞部は、例えば、表面積50平方メートル未満又は容積250立方メートル未満で形成するとよい。
【発明の実施の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る汚染土壌の処理方法に使用するケーソンの模式的な構成を示す断面図である。汚染土壌の処理方法に使用するケーソン100は、底部110と、外壁120と、内壁部130とにより構成され、鉄筋の組み立て後にコンクリート、好ましくは水密性コンクリートを打設することで、一体に成形される。例えば、水密性コンクリートを用いる場合には、その厚さは、汚染土壌の流出防止に十分な強度を備えるように、例えば35cm以上とするとよい。
【0016】
さらには、約1kg当たり10万ベクレルの放射線量が計測される汚染土壌の場合には、その半減期と元々自然界に存在しているガンマ線量とを考慮すると、汚染土壌が人体等に悪影響を及ぼさなくなるまでには、約270年が必要といわれている。コンクリートの風化が進行する速度は、建築的にみれば1cmにつき20年程度と考えられている。したがって、水密性コンクリートの厚さは、風化分を考慮して、更に20cm程度加えて、55cm以上とすると好ましい。
【0017】
なお、ケーソン100の製作方法は一般的なケーソン製作方法の一例を示したものであり、製法は特に限定されるものではない。また、図1に示すケーソン100の形状も例示であり、これに限定されるものではない。したがって、例えば、底部110下に作業室を形成し、かつ、内壁部130などに図面上下に延びる円筒状となる貫通孔を設けるタイプのものとしてもよい。
【0018】
このタイプのケーソンを用いる場合には、海底等にケーソンを着底させた後に、作業室内で海底を掘削し、所要の大きさの穴を形成してから、その穴及び作業室内に、所定厚のコンクリートを打設し、その空間内にも汚染土壌150を収容させるとよい。
【0019】
ケーソン100は、底部110、外壁120、内壁部130によって囲われることにより空洞部140が形成された中空の函体であり、空洞部140には、海底に設置する際に錘となる汚染土壌150が収容される。
【0020】
なお、コンクリートは酸性の物質に触れると劣化するため、収容される汚染土壌150が酸性土壌である場合、空洞部140に酸性土壌150を直接収容すると、ケーソン100の構成材料であるコンクリートを劣化させるため、空洞部140の内壁には酸性成分の遮蔽シート160を貼付するとよい。
【0021】
遮蔽シート160は、空洞部140を形成する底部110、外壁120、内壁部130の空洞部140側側面を被覆するよう貼付される。これにより、汚染土壌150とケーソン100の構成材料であるコンクリートとの接触が遮断され、コンクリートの劣化を防止できる。遮蔽シート160は、本実施形態における目的から一般的にはビニールシートといったプラスチック製のシート等、汚染土壌150とコンクリートとの接触を回避できるものであれば、材質等は特に限定されるものではない。
【0022】
また、汚染土壌150とコンクリートとの接触を回避するだけではなく、積極的にセシウムなどを吸着する効果のあるベントナイトなどの粘性鉱物を用いることもできる。
【0023】
さらに、例えば、鉄材、鉛材などのように高比重のものを、少なくとも比重が5以上、好ましくは7以上のものを、空洞部140の内壁に設けたり、ケーソン100自体の製造時に少なくとも空洞部140の内壁表面に鉄鉱石を多量に含ませるような高比重コンクリートを採用したり、或いは、水密性コンクリートでケーソン100を製造後に、空洞部140の内壁表面に高比重コンクリートを更に打設したりして、万が一、ケーソン100に亀裂等が生じたときにも、汚染土壌150からの放射線がケーソン100外部に漏れることがないようにするとよい。
【0024】
なお、空洞部140の大きさは、汚染土壌150を収容するのに十分なものとすればよいが、一例を示すと、表面積50平方メートル未満又は容積250立方メートル未満で形成するとよい。
【0025】
また、ケーソン100においては、内壁部130を設けることなく、底部110と外壁120のみにより空洞部140を形成した中空の函体とすることも可能である。しかし、収容する汚染土壌150を密封して閉じ込め、管理する必要性から、空洞部140は表面積50平方メートル未満又は容積250立方メートル未満とすることが好適であるため、内壁部130を設けることで、前記数値範囲内に空洞部140を仕切ることが好ましい。
【0026】
また、汚染土壌150は、空洞部140に空隙がなく収容できるように、また、収容時の利便性等のために、水などと混合してペースト状にしてから、空洞部140に収容させることも一法である。特に、汚染土壌150が焼却灰である場合には、空洞部140への収容時のハンドリングを良くするために、ペースト状とすることが好ましい。
【0027】
係る場合には、その後に、選択的に、汚染土壌150に含まれる水分を蒸発等させてから、空洞部140の天面部にコンクリートを打設すればよい。なお、汚染土壌150が下水処理場の汚泥の場合にも、水分を蒸発等させてから、空洞部140の天面部にコンクリートを打設すればよい。また、ペースト状に代えて、汚染土壌150を固化された状態或いは減容化された状態として、空洞部140に収容させてもよい。
【0028】
以下、本実施形態の汚染土壌の処理方法を、時系列に沿って順を追って説明する。
【0029】
まず、ケーソン100は、陸上、ドライドッグ又は浮きドッグ(フローティングドッグ)等、一般的なケーソンの製作方法にて、あらかじめ製作される。
【0030】
なお、空洞部140に対して収容する汚染土壌150が酸性である場合には、この段階で、遮蔽シート160も設けておく必要がある点に留意されたい。これに加えて、汚染土壌150が酸性である場合には、遮蔽シート160の破損等によってケーソン100に悪影響を及ぼさないように、汚染土壌150にマグネシウム、カリウム、石灰などのアルカリ剤を混入することによって汚染土壌150を中性化して、アルカリ骨材反応を防止させるとよい。
【0031】
更には、汚染土壌150が酸性の場合はもとより、汚染土壌150が中性の場合であっても、アルカリ剤を混入させるとよい。アルカリ剤を混入させて、汚染土壌150をアルカリ性にすれば、そこに含まれる粘土等にセシウム、重金属などが吸着されるため、万が一、ケーソン100に亀裂等が生じたときにも、汚染土壌150に含まれるセシウムが水中に流出しにくいという効果が得られるからである。
【0032】
なお、汚染土壌150の処理量が非常に多い場合、汚染土壌150に対して所定量の濃硝酸水、濃塩酸水などに浸けてから、90℃以上の加熱処理をして、セシウム等を離脱させるとよい。そして、離脱させたセシウムは、プルシアンブルーナノ粒子吸着材などで回収し、その回収物をケーソン100への収容対象としてもよい。
【0033】
完成後のケーソン100は、台船に載せ又は海上に進水、浮上させて船舶により曳航し、所定の設置箇所まで運搬される。所定の設置箇所までの運搬は、起重機船(クレーン船)により吊り上げた状態で設置箇所まで運搬することも可能であり、ケーソン100の運搬方法は特に限定されない。海底設置型の設置ケーソンにおいて用いられる一般的な運搬方法にて設置箇所まで運搬すれば良い。
【0034】
設置箇所まで運搬されたケーソン100は、起重機船(クレーン船)等により吊り上げられ、海底に据え付けられる。設置方法についても特に限定されるものではなく、海底設置型の設置ケーソンにおいて用いられる一般的な設置方法にて据え付けられる。
【0035】
海底に着底されたケーソン100には、中空の空洞部140に汚染土壌150が収容され、中詰めされる。この中詰め作業では、ケーソン100内に形成された空洞部140へ、ガット船、ポンプ船、ベルトコンベアなどにより汚染土壌150を収容する。この収容方法は、一般的なものであるが、収容方法も特に他の方法を排除するものではない。
【0036】
空洞部140に対する汚染土壌150の中詰め作業完了後には、波や海流によって中詰めした汚染土壌150が流出しないよう、汚染土壌150に蓋をする形で、空洞部140にコンクリート(蓋コンクリート)が収容される。
【0037】
最後に、波や海流による浸食を防止するべく、ケーソン100の天面部に上部コンクリートを打設する。
【0038】
なお、空洞部140へのコンクリートの収容や、前記上部コンクリートの打設は、コンクリートプラント船を用いて直接施工するほか、陸上から台船でミキサー車を搬入してコンクリートを打設するなど、一般的な海底設置型ケーソンの施工方法を採用すれば良く、特にその方法は限定されない。
【0039】
以上の汚染土壌の処理方法によれば、ケーソンの材料であるコンクリートと、そのケーソンを取り巻く海水などの水中という、ガンマ線を遮蔽する効果のある2つの物質で、ケーソンからのガンマ線の放出を二重以上に防ぐことが可能である。また、ケーソンの製品寿命を延ばすことによって、セシウム137が人体等に悪影響を及ぼす間、これを含む汚染土壌をケーソン内への閉じ込めすることが可能である。
【0040】
もっとも、ケーソン100の材料は、放射線を遮蔽できさえすればよいので、コンクリートに限定されず、鉄、鉛など、或いはこれらを主材料とした高比重材料を用いることもできる。また、遮蔽シート160に代えて、例えば1cm〜10cmの遮蔽板といった相対的に厚みのあるものを用いてもよい。
【0041】
さらに、既述のように、ケーソン100の形状は、図1に示すものに限定されず、ケーソン100自体を例えば円筒状として、海底に寝かせた状態で着底させてもよい。こうすれば、仮に、今後、津波などが生じてもケーソン100自体は海底に固定されず、海流に逆らわずに移動することができるので、ケーソン100に局所的な外力が加わることでケーソン100が破損することを防止することができる。
【0042】
或いは、例えば円筒状のケーソン100の底面を含む下側を1/3程度の位置まで、海底に埋設させることもできる。この場合には、ケーソン100が円筒状であることから、海流による外力を受けにくい半面、ケーソン100自体をうまく配列すれば、複数のケーソンが防波堤として機能することにもなる。
【0043】
また、本実施形態では、ケーソン100の設置場所が、主として、海中である場合を例に説明したが、ケーソン100は、湖、川、池、沼、ダムなどにおける水中に設置するようにしてもよい。
【0044】
さらに、海底等を掘削して、その穴及び作業室内に、所定厚のコンクリートを打設し、その空間内にも汚染土壌150を収容させることに代えて、ケーソン100全体が掘削した海底等の下に埋まる態様で設置してもよい。海底の場合には、地震、海流による地殻変動の影響を相対的に受けにくい場所と評価できる、深海平原などの平坦地形を掘削対象とするとよい。同様の理由により、高み地形であっても、海膨、海台については掘削対象としてもよい。
【0045】
こうすると、放射性セシウムは、土壌、とりわけ、泥に吸着されるといわれていることから、万が一、ケーソン100が破損して、ケーソン100からセシウムが流出するといった事態となっても、海底下に埋められているケーソン100は、その周辺を覆っている海底土壌、海底泥によって拡散することが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る汚染土壌の処理方法に使用するケーソンの模式的な構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0047】
100 ケーソン
110 底部
120 外壁
130 内壁
140 空洞部
150 汚染土壌
160 遮蔽シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底上設置型又は水底内設置型のケーソン内に形成された空洞部に汚染土壌をしたことを特徴とする、汚染土壌の処理方法。
【請求項2】
前記空洞部の内壁には、遮蔽シートが被覆されている、請求項1記載の汚染土壌の処理方法。
【請求項3】
前記ケーソンの底部及び外壁は、厚さ35cm以上のコンクリートで構成されている、請求項1記載の汚染土壌の処理方法。
【請求項4】
前記ケーソン内に形成された空洞部は、表面積50平方メートル未満又は容積250立方メートル未満で形成されている、請求項1記載の汚染土壌の処理方法。
【請求項5】
前記汚染土壌は、ペースト状、固化された状態、減容化された状態で空洞部に収容される、請求項1記載の汚染土壌の処理方法。
【請求項6】
汚染土壌を収容する空洞部が形成されている水底上設置型又は水底内設置型のケーソン。

【図1】
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【公開番号】特開2013−83641(P2013−83641A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−213807(P2012−213807)
【出願日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【出願人】(511237254)
【Fターム(参考)】