説明

汚染土壌の掘削の際における臭気低減方法及び汚染土壌採取装置

【課題】油や揮発性有機化合物(VOCs)を含有する汚染土壌を掘削する際に、土壌に含まれている土壌汚染物質から発生する臭気(悪臭)を低減するための方法と汚染土壌採取装置を提供すること。
【解決手段】消臭液または消臭懸濁液によって形成される液体カーテンで掘削領域を区画する第1工程と、土壌採取装置の掘削採取部を液体カーテンの外側から液体カーテンを通過させて液体カーテンの内側にある掘削領域に至らせて汚染土壌を掘削し掘削採取部に採取する第2工程と、第2工程で掘削採取部内に保持された汚染土壌を液体カーテンを通過させて他の場所へ移す第3工程と、を有することにより、汚染土壌を掘削する際に発生する臭気を液体カーテンと気液接触させることにより、臭気の拡散を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌、例えば、油や揮発性有機化合物(VOCs)を含有する土壌を掘削する際に、土壌に含まれている土壌汚染物質(油、VOCs等)から発生する臭気を低減するための方法と前記汚染土壌を掘削するための汚染土壌採取装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、土壌を掘削する際にはバックホー等の重機を用いて土壌を掘削しているが、土壌が土壌汚染物質を含有する汚染土壌である場合は、掘削中に土壌中に含まれる土壌汚染物質を原因とする悪臭が発生する。このため、近隣に住居等がある場合は、掘削作業する場所を密閉式テントで覆い悪臭の拡散を防止していた。また、掘削する際には埃も舞い上がるため、これを防止するために掘削する土壌に散水しながら掘削作業が行われていた。
【0003】
しかし、汚染土壌の掘削作業を行う際に、上述した方法では、悪臭等が存在している密閉式テント内で作業する作業者の安全性の問題やテントのリース費用にコストがかかってしまう問題等が生じていた。
【0004】
そこで、特許文献1では、密閉式テントを用いることなく、汚染土壌から発生する悪臭を防止し掘削時の粉塵の飛散も防止するとともに、作業の安全性をも向上させた汚染土壌の掘削回収方法の技術が提案されている。
【0005】
具体的には、汚染土壌を掘削する前に、汚染土壌に吸着剤を混合した水を散布し汚染土壌を湿潤状態とした後、バックホー等の重機で汚染土壌を掘削回収する方法が提案されている。また、汚染土壌を掘削回収する際、吸着剤を混合した水を更に汚染土壌に散布しながら掘削回収する方法も提案されている。
【0006】
特許文献1の図1では、バックホー等の重機に吸着剤と水を混合した溶液を入れるタンクを設置し、タンクからバックホー等の重機の掘削アタッチメント部までホースを配管して、その先端に噴霧器を設け、この噴霧器から汚染土壌に向けて吸着剤を混合した水を散布して、汚染土壌を掘削回収する態様が開示されている。
【0007】
しかし、特許文献1で提案された汚染土壌の掘削回収方法では、以下のような欠点や問題点が生じていた。
特許文献1の図1に記載された態様では、バックホー等の重機の掘削アタッチメント部までホースを配管して、その先端に噴霧器が設けられているので、吸着剤を混合した水溶液を散布しながら掘削を行うと、掘削動作と連動して噴霧器が動いてしまい所定の場所に正確に噴霧できなかったり、噴霧器が土壌と接触して破損してしまうおそれがあるため、吸着剤を混合した水溶液を散布する作業と掘削する作業を別々に行わなければならず、手間がかかる状況となっていた。
【0008】
また、汚染土壌表面に散布した吸着剤を混合した水溶液の効果は、土壌深度が深くなればなるほど薄らいでゆくことになる。ここで、例えば掘削する際に、ある程度深い部分まで一気に掘削した時などは、吸着剤を混合した水溶液の効果が薄らいでいる深い部分の汚染土壌も一気に掘削し採取してしまう場合もある。
このような場合、採取した土壌は吸着剤を混合した水溶液の効果が薄らいでいる部分の汚染土壌を含んでいるために、掘削してバックホー等の重機に回収した汚染土壌、例えばバックホーのバケットに回収されている汚染土壌からは土壌汚染物質を原因とする悪臭が発生するという問題が生じていた。
【0009】
一方、汚染土壌表面から深いところまで吸着剤を混合した水溶液の効果を維持させようとすれば、吸着剤を混合した水溶液を大量に使用して土壌表面から深いところまで吸着剤を混合した水溶液を浸み込ませる必要があるため、吸着剤として使用する薬品が大量に必要となり、コストがかかる問題も生じていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような背景技術及び背景技術が抱える問題の存在を踏まえてなされたものであって、その課題は、汚染土壌、例えば、油や揮発性有機化合物(VOCs)を含有する土壌を掘削する際に、土壌に含まれている土壌汚染物質(油、VOCs等)から発生する臭気(悪臭)を低減するための方法と前記汚染土壌を掘削するための汚染土壌採取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る臭気低減方法の第1の態様は、汚染土壌を土壌採取装置によって掘削して採取する際に発生する臭気を低減するための臭気低減方法であって、散布装置により散布される消臭液または消臭懸濁液によって形成される液体カーテンで掘削領域を区画する第1工程と、前記土壌採取装置の掘削採取部を前記液体カーテンの外側から該液体カーテンを通過させて液体カーテンの内側にある前記掘削領域に至らせて前記汚染土壌を掘削し前記掘削採取部に採取する第2工程と、前記第2工程で前記掘削採取部内に保持された汚染土壌を前記液体カーテンを通過させて他の場所へ移す第3工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の第1の態様によれば、消臭液または消臭懸濁液によって形成される液体カーテンで掘削領域を区画しているため、液体カーテンの内側の掘削領域で汚染土壌を掘削して採取した時に発生する臭気(気体)は、液体カーテン(消臭液または消臭懸濁液)と気液接触することにより低減させられる。このため、外部への臭気の拡散を防止することができる。
【0013】
また、土壌採取装置の掘削採取部を液体カーテンの外側から液体カーテンを通過させて液体カーテンの内側にある掘削領域に至らせて掘削領域内の汚染土壌を掘削し掘削採取部に採取するので、あらかじめ掘削採取部に消臭液または消臭懸濁液が付着した状態で汚染土壌を掘削し採取するため、掘削採取部と接触する汚染土壌に対しては、汚染土壌を掘削しつつ悪臭を低減することができる。
【0014】
さらに、掘削採取部内に保持された汚染土壌を前記液体カーテンを通過させて他の場所へ移すため、掘削採取部内に保持された汚染土壌が臭気を発生させる性状であっても、液体カーテンを通過する際に、該汚染土壌と消臭液または消臭懸濁液とを充分に接触させることができるので、臭気を低減させた状態で他の場所に採取した汚染土壌を移すことができる。
【0015】
本発明に係る臭気低減方法の第2の態様は、第1の態様において、前記第2工程では前記液体カーテンを形成する消臭液または消臭懸濁液が前記掘削領域上に降りかかる状態で前記汚染土壌を掘削し前記採取部に採取することを特徴とする。
【0016】
本発明の第2の態様によれば、第1の態様の効果に加え、消臭液または消臭懸濁液が掘削する汚染土壌に降りかかっている状態で該汚染土壌を掘削し採取するので、掘削して新しい土壌面が現れても、その土壌面にまた消臭液または消臭懸濁液が降りかかるので、新しい土壌面から発生する臭気を低減させながら、汚染土壌の掘削及び採取作業をおこなうことができる。
また、液体カーテンで掘削領域を区画しているため、掘削した汚染土壌から臭気が発生しても気液接触により臭気が低減されることから、汚染土壌に散布する消臭液または消臭懸濁液の量は土壌表面に消臭液または消臭懸濁液が浸透する程度の少量で済み、従来のように汚染土壌の深度の深い部分にまで吸着剤を浸透させるために、わざわざ吸着材を混合した消臭液を大量に散布するような必要がなくなる。このため、汚染土壌を掘削し採取する際のコスト等を削減することができる。
【0017】
本発明に係る臭気低減方法の第3の態様は、第1または第2の態様において、土留め壁および/または支保工が設けられている場合に、前記第1工程における消臭液または消臭懸濁液は土留め壁および/または支保工に設けられたノズルから散布されることを特徴とする
【0018】
本発明の第3の態様によれば、土留め壁および/または支保工が設けられている場合に、土留め壁および/または支保工に消臭液または消臭懸濁液を散布するためのノズルを設けることにより、第1または第2の態様と同様の効果を土留め壁および/または支保工を利用して達成することができる。
【0019】
本発明に係る臭気低減方法の第4の態様は、第1または第2の態様において、仕切り用の柵が設けられている場合に、前記第1工程における消臭液または消臭懸濁液は柵に設けられたノズルから散布されることを特徴とする。
【0020】
本発明の第4の態様によれば、仕切り用の柵が設けられている場合に、仕切り用の柵に消臭液または消臭懸濁液を散布するためのノズルを設けることにより、第1または第2の態様と同様の効果を仕切り用の柵を利用して達成することができる。
【0021】
本発明に係る臭気低減方法の第5の態様は、第4の態様において、前記柵の隙間に前記液体カーテンが形成されていることを特徴とする。
【0022】
本発明の第5の態様によれば、第4の態様の効果に加え、柵の隙間の部分にも消臭液または消臭懸濁液を散布することにより液体カーテンが形成されるので、柵の隙間から柵の外部へ拡散しようとする汚染土壌から発生する臭気は、液体カーテンとの気液接触により低減させられることとなり、柵の外部への臭気の拡散を防止することができる。
【0023】
本発明に係る汚染土壌採取装置は、汚染土壌を掘削し採取する土壌採取装置であって、消臭液または消臭懸濁液を散布する第1の散布用ノズルと第2の散布用ノズルと、を備え、第1の散布用ノズルは掘削する汚染土壌面に消臭液または消臭懸濁液を散布するように構成され、第2の散布用ノズルは掘削採取部により掘削した汚染土壌を該掘削採取部内に保持した状態で、該汚染土壌に消臭液または消臭懸濁液を散布するように構成されていることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、汚染土壌を掘削して採取するときに、第1のノズルから掘削する汚染土壌に消臭液または消臭懸濁液を散布することにより、汚染土壌から発生する臭気を低減できるとともに、掘削した汚染土壌を掘削採取部内に保持した状態で、第2のノズルから該汚染土壌に消臭液または消臭懸濁液を散布するため、掘削採取部内に保持された汚染土壌に臭気を発生させる部分があっても、臭気を低減させた状態で他の場所に採取した汚染土壌を移すことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、汚染土壌を掘削して採取する際に、土壌に含まれている土壌汚染物質から発生する臭気(悪臭)を効率よく低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1の実施態様の工程別断面図
【図2】第1の実施態様の上面図
【図3】第2の実施態様の断面図および上面図
【図4】第3の実施態様の断面図および上面図
【図5】第3の実施態様の一部拡大斜視図
【図6】第4の実施態様の断面図および上面図
【図7】消臭懸濁液の散布状況における臭気強度試験の結果と臭気強度の内容を表した図
【図8】土壌採取装置の一部拡大図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本願発明に係る汚染土壌の掘削および採取の際における臭気低減方法を実施するための最良の形態を説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0028】
[第1の実施形態]
図1、図2には本発明の第1の実施形態が記載されている。第1の実施形態では土留め壁を設けて、汚染土壌を掘削して採取する際に本発明を適用した態様であり、図1(A)〜(C)はその断面図である。図2は、土留め壁を設けて、汚染土壌を掘削して採取する際に本発明を適用した態様の平面図である。
【0029】
汚染土壌については、例えば土壌中に油や揮発性有機化合物(VOCs)を含有する土壌が挙げられるが、これら物質を含有する土壌に限定されるものではない。一般に臭気を発生する土壌汚染物質を含んでいる土壌であれば良い。
【0030】
図1(A)において、土留め壁1は地盤Tの崩壊を防止するためのものであり、本態様においては互いに対向するように設けられている。土留め壁1には管2’が配設されその先端にはノズル2が設けられている。消臭液または消臭懸濁液は図示しない消臭液または消臭懸濁液タンクから管2’に供給されノズル2から散布される。なお、土留め壁1と土留め壁1の間に支保工を設けて、支保工に管を配設し管にノズルを設けるようにしてもよい。また、消臭液または消臭懸濁液中の消臭剤の濃度は、消臭剤の消臭能力や土壌の汚染状況によって適宜設定すればよい。
【0031】
ここで、本発明で使用する消臭液または消臭懸濁液とは、消臭剤を含む溶液または懸濁液である。本発明で使用する消臭剤は、土壌汚染物質(油、VOCs等)から発生する臭気(悪臭)を低減する作用があればよく特に制限はない。市販の消臭剤を水に溶解して散布する方法、活性炭や固体の吸着剤を水に懸濁して散布する方法、いずれの方法を採ることも可能である。特に、後述する実施例で使用した固体の吸着剤ユトラスエース(三菱瓦斯化学株式会社製)は、その強力な吸着力により、特に高い消臭効果を示すことから好適に使用することができる。消臭剤の濃度は、使用する消臭剤の消臭能力によって異なり一概に規定することはできないが、例えば、上述したユトラスエースの場合、0.1〜20重量%の濃度が好ましく、1〜10重量%の濃度が特に好ましい。濃度が0.1重量%より低い場合、十分な消臭効果を得るためには、散布量が多くなり、一方20重量%より高い場合は、ノズルから散布する際にノズルが詰まりやすくなるなど操作上の問題が発生する場合がある。
【0032】
以下各工程を図1および図2を参照にしながら説明する。
【0033】
[第1工程]
図1(A)において、土留め壁1のノズル2から散布された消臭液または消臭懸濁液Xは、消臭液または消臭懸濁液Xより外側にある空間Yと内側にある領域Zとを区画している。さらに、領域Zはその下部に掘削領域Rを含んでいる。よって、消臭液または消臭懸濁液Xにより掘削領域Rが消臭液または消臭懸濁液Xの外側の空間Yと区画されている状態になっている。つまり、消臭液または消臭懸濁液Xは掘削領域Rを区画している。
【0034】
一方、図2では、消臭液または消臭懸濁液Xがノズル2から散布されカーテン状になって領域Zを覆っている状態が示されている。
【0035】
ここで、図1および図2より、ノズル2から散布される消臭液または消臭懸濁液Xは、該消臭液または消臭懸濁液Xより外側にある空間Yと内側にある領域Zとを区画していることから、この消臭液または消臭懸濁液Xを「液体カーテン」と定義する。なお、使用する消臭液または消臭懸濁液については既知のものでよい。
【0036】
また、図2において記載されている土留め壁1の水平方向に設けられているノズル2の数は、掘削する汚染土壌の範囲によって適宜設定することができる。ノズル2から散布される消臭液または消臭懸濁液の散布量及び液圧についても同様に、掘削領域を区画することができる液体カーテンを形成できる量であれば、現場の状況に応じて適宜設定することが可能である。
【0037】
更に、図2(A)では、ノズル2は、それぞれが対向する土留め壁1に設けられたノズル2に対して互い違いに設けられているが、図2(B)のように、ノズル2同士がそれぞれ相向かいになるように設けても良い。
【0038】
第1工程は上述したように、液体カーテンXが掘削領域Rを区画する工程である。
【0039】
この液体カーテンXの存在により、液体カーテンXの内側の空間Zの下部にある掘削領域Rで汚染土壌を掘削して採取した時に発生する臭気(気体)は、液体カーテンX(消臭液または消臭懸濁液)と気液接触することにより低減させられる。よって、外部への臭気の拡散を防止することができる。
【0040】
なお、本態様では、図1および図2に示したようにノズル2は土留め壁の上端部に1つしか設けられていないが、鉛直方向に複数設ける事としてもよい。深くまで汚染土壌を掘削するような場合には(例えば帯水層まで掘削するような場合)、ノズル2を土留め壁の鉛直方向に複数設け、土留め壁の下方部からも消臭液または消臭懸濁液を散布できるような構造としてもよい。
【0041】
[第2工程]
第2工程は、図1(A)に記載された空間Y側にある、土壌採取装置の一部である掘削採取部3を、液体カーテンXを通過させて領域Zの掘削領域Rに至らせて、図1(B)に示したように、掘削採取部3で汚染土壌を掘削し採取して掘削採取部3内に保持するまでの工程である。
【0042】
第2工程では、土壌採取装置の掘削採取部3を液体カーテンXの外側から液体カーテンを通過させることにより、消臭液または消臭懸濁液を掘削採取部3にあらかじめ付着させて、汚染土壌を掘削し採取して掘削採取部3に保持するので、掘削採取部3と接触する汚染土壌に対しては、汚染土壌を掘削しつつ悪臭を低減することができる。
【0043】
[第3工程]
第3工程は、図1(B)で示したように掘削採取した汚染土壌R’を保持した掘削採取部3を、図1(c)に示したように、領域Zを経て液体カーテンXを通過させ空間Y側に移動させて、汚染土壌を他の場所に移す工程である。
【0044】
第3工程では、汚染土壌R’を保持した掘削採取部3を前記液体カーテンXを通過させてから、汚染土壌R’を他の場所へ移すため、掘削採取部3内に保持された汚染土壌R’が臭気を発生させる性状であっても(消臭液または消臭懸濁液と非接触の部分があっても)、液体カーテンXを通過する際に消臭液または消臭懸濁液と汚染土壌R’を充分に接触させることができるので、臭気を低減させた状態で他の場所に採取した汚染土壌R’を移すことができる。
【0045】
ここで、掘削採取部3が液体カーテンXを通過する速度については、臭気を十分に低減できる量の消臭液または消臭懸濁液Xを掘削採取部3に保持された汚染土壌R’に散布できる速度であればよく、任意に設定できる。
【0046】
また、掘削し採取した汚染土壌R’を一旦領域Z内の他の場所に移しておき、ある程度集まった状態にした後、掘削採取部3により保持して液体カーテンXを通過させ、他の場所に移すようにしてもよい。
【0047】
以上、第1の実施態様を参考にして本発明の第1工程から第3工程までを説明した。
【0048】
本態様においては、液体カーテンXを形成する消臭液または消臭懸濁液が掘削領域R上に降りかかる態様になっている。このような態様とすることで、掘削して新しい土壌面が現れても、そこに消臭液または消臭懸濁液が降りかかるので新しい土壌面から発生する臭気を低減させながら、汚染土壌の掘削及び採取作業をおこなうことができる。また、掘削し採取した汚染土壌R’を一旦領域Z内の他の場所に移した場合でも、該汚染土壌R’に消臭液または消臭懸濁液が降りかかることにより臭気を低減することができる。
【0049】
本発明では、液体カーテンXで掘削領域を区画しているため、掘削した汚染土壌R’から臭気が発生しても消臭液または消臭懸濁液との気液接触により臭気が低減されることから、汚染土壌Rに散布する消臭液または消臭懸濁液の量は土壌表面に消臭液または消臭懸濁液が浸透する程度の量、つまり少量で済むこととなり、汚染土壌を掘削し採取する際のコストを低減することができる。
【0050】
更に、掘削する汚染土壌の面積が広い場合は、第1の実施態様を、掘削する汚染土壌の一部の範囲に対して行って、それを順次繰り返し行うことにより、汚染土壌の全範囲を掘削し採取することが可能である。
【0051】
[第2の実施態様]
図3には、本発明の第2の実施態様が記載されている。本態様は、土留め壁1を第1の実施態様の場合と異なり、一方にのみ設けた態様である。図3(A)は本態様の断面図であるが、本態様であっても消臭液または消臭懸濁液Xは、図3(A)に示すように、空間Yと領域Zを区画している。従って、掘削採取部3を用いて汚染土壌を掘削し採取した場合でも、第1の実施態様と同様に汚染土壌の臭気を低減することができる。なお、図3(B)は第2の実施態様の平面図であるが、ノズル2の数やノズル2から散布される消臭液または消臭懸濁液の量、液圧は第1の実施態様と同様に適宜設定することが可能である。
【0052】
なお、掘削する汚染土壌の面積が広い場合は、第2の実施態様を、掘削する汚染土壌の一部の範囲に対して行って、それを順次繰り返し行うことにより、汚染土壌の全範囲を掘削し採取することが可能である。
【0053】
[第3の実施態様]
図4には、本発明の第3の実施態様が記載されている。本態様は、法面Sを造成する際に、汚染土壌Rを仕切るための仕切り用柵10を法面Sを造成する場所の両側に設けた場合に本発明を適用した場合である。
【0054】
図4(A)には本態様の断面図が、図4(B)には平面図が、図5には一部拡大斜視図が記載されている。
【0055】
図4(A)、図5に示すように、仕切り用柵10は格子上に構成され、法面Sを造成する汚染土壌Rを挟んで、その両側に設けられている。
【0056】
図5において、仕切り用柵10を構成する部材のうち、地面に対して垂直方向の部材(以下「垂直方向部材」)の内部には管2’が配設され、その先端にはノズル2が設けられ、垂直方向部材の上部から消臭液または消臭懸濁液が散布できるようになっている。消臭液または消臭懸濁液は図示しない消臭液タンクから管2’に供給されノズル2から散布される。
【0057】
一方、仕切り用柵10を構成する部材のうち、地面に対して水平方向の部材(以下「水平方向部材」)の内部には管21’が配設され、垂直方向部材と垂直方向部材とで挟まれた水平方向部材の一部に、管21’から供給される消臭液または消臭懸濁液が散布できるように、ノズル21が下方に向けて設けられている。消臭液または消臭懸濁液は図示しない消臭液タンクから管21’に供給されノズル21から散布される。なお、図5においては、管2’、21’は省略して記載している。
【0058】
上述した、水平方向部材の一部に下方に向けてノズル21を設けることにより、ノズル21から下方に向かって散布される消臭液または消臭懸濁液によって、仕切り用柵10の格子部分に液体カーテンX’が形成されることになる。
【0059】
よって、法面Sを造成する際に、汚染土壌Rを掘削し採取した時に発生する臭気は、液体カーテンX’と気液接触して、その臭気が低減させられ、仕切り用柵10の外部に臭気が拡散することを防止することが出来る。
【0060】
図4(B)には、本態様の平面図が示されている。法面を造成する時などは、比較的柵同士の距離Lが大きくなる場合がある。そのような時には、双方の仕切り用柵10から消臭液または消臭懸濁液を散布した場合、図4(A)(B)のPの部分のように、消臭液または消臭懸濁液の届く範囲が限定され、液体カーテンXの中心の部分Pがノズル面よりも下がる現象が生じる。しかし、このような状態であっても、液体カーテンXが空間Yと領域Zを(空間Z下方にある掘削領域R)を区画していれば、汚染土壌Rを掘削し採取した時に発生する臭気は、液体カーテンXと気液接触して、その臭気が低減させられ、仕切り用柵10の外部、すなわち空間Yに臭気が拡散することを防止することが出来る。
【0061】
なお、液体カーテンXの中心の部分がノズル面よりも下がるような現象を起こさないように消臭液または消臭懸濁液の散布量や散布する際の液圧を調整することは可能である。
【0062】
[第4の実施態様]
図6(A)には、第4の実施態様として法面Sを一面しか造成しない場合の断面図が示されている。法面Sを一面しか造成しないような場合には、仕切り用柵10を法面Sの造成方向と同一方向に設ければよい。
【0063】
本態様では、消臭液または消臭懸濁液は図6(B)に示すように一方向からの散布になるが、このような散布の仕方であっても、液体カーテンXを形成することは可能であり、掘削した際に発生する汚染土壌からの臭気の拡大を防止するという本発明の効果は得ることができる。
【0064】
[他の実施態様]
仕切り用柵10を図4(A)のように法面Sを造成する両側に設けるだけでなく、さらに前後方向に設ける態様としてもよい。この態様により、前後方向に拡がろうとする臭気を低減することができ、一層汚染土壌Rを掘削し採取した時に発生する臭気を防止することができる。
【0065】
また、所定の距離の仕切り用柵10を作成し、所定の範囲の法面Sの造成を行った後、仕切り用柵10を移動させて、順次法面の造成を行うような場合でも、その際に汚染土壌Rを掘削し採取した時に発生する臭気を防止することができる。
【0066】
以下実施例に基づき本発明の効果を説明する。
【0067】
[実施例]
消臭剤(三菱瓦斯化学株式会社:ユトラスエース)を水に懸濁し5重量%の消臭懸濁液を調整した。調整した消臭懸濁液を油含有の汚染土壌に散布した後に掘削した場合と該消臭懸濁液を散布しながら土壌を掘削した場合について、作業者4人(A〜D)で臭気強度を確認し、その平均値を算出した。結果を図7に示す。
図7(A)は試験状況ごとに(試験NO.1〜7)、作業者が確認した臭気強度の値とその平均値を記載したものである。図7(B)は、臭気強度の値とそれに対応する臭気の内容を表したものである。
【0068】
試験No.1は、土壌中に油が含有されている汚染土壌の掘削前の臭気強度を確認した結果である。この状態での汚染土壌の平均臭気強度は2.8である。
【0069】
試験No2は、汚染土壌に何の処理も施さないで掘削を行った場合の臭気強度を確認した結果である。消臭懸濁液が散布されていないため、掘削面から臭気が発生するので、臭気強度は大きくなる。よって、平均臭気強度は4.0と高くなった。
【0070】
試験No.3、No.4は、事前に消臭懸濁液を散布する点は同じであるが、No.3は掘削中には消臭懸濁液は散布していない。一方、No.4の方は掘削中にも消臭懸濁液を散布している。
【0071】
No.4は掘削中にも消臭懸濁液を散布しているため、前述したように消臭懸濁液が「液体カーテン」を形成し、消臭懸濁液が汚染土壌から発生する臭気と気液接触を行うことで臭気を低減させている。よって、平均臭気強度はNo.3よりも小さく0.5となっており本発明の効果が現れている。
【0072】
試験No.5〜No.7は事前(前日)に汚染土壌に消臭懸濁液を散布しておき、翌日に掘削中に消臭懸濁液を散布しながら掘削を行った場合の臭気強度を、作業者2人(C、D)で確認しその平均値を算出したものである。
【0073】
試験No.5は、前日に汚染土壌に消臭懸濁液を散布しておき、翌日の朝に臭気強度を確認した結果である。また、試験No.6は掘削中にも消臭懸濁液を散布しながら掘削した場合の臭気強度を確認した場合である。
双方とも本発明の効果が現れており、平均臭気強度は0.5である。
【0074】
また、試験No.7は、地下水の層より下の層(帯水層)を掘削した場合である。本実施例では掘削した層に油分が多く含まれていたため、臭気強度が高くなっている。このような場合には消臭懸濁液の濃度を上げるなり、あるいは、土留め壁の下方にノズルを設けてそこから消臭懸濁液を散布するようにして対処すれば本発明の効果は得られる。
【0075】
つぎに、汚染土壌採取装置について説明する。
図8には、汚染土壌採取装置の実施形態の一例である、バックホウのアーム部の先端部分周辺の状態が示されている。
【0076】
土壌採取装置を構成するアーム33の外側の一部に第1の散布用ノズル31が設けられ、内側には第2の散布用ノズル32が設けられている。各ノズル31、32は管31’、32’によって図示しない消臭液または消臭懸濁液を供給するタンクと通じている。
【0077】
各ノズル31、32は、図8の点線で図示したように、掘削採取部(バケット)3が回動する範囲外、すなわち、掘削採取部3に接触しないようにアーム33の一部に設けられている。これにより、各ノズル31、32が、汚染土壌を掘削し採取する際に掘削採取部3と連動して動くことがないので、アーム33を動かして掘削し採取しながら消臭液または消臭懸濁液を散布したい場所あるいは掘削採取部3に採取された汚染土壌R’に各ノズル31、32から散布することが可能となり、さらに各ノズル31、32が汚染土壌の掘削中に破損することもない。
【0078】
以下、汚染土壌装置を使用して、汚染土壌を掘削し採取する過程を説明する。
汚染土壌を掘削し採取する前に、掘削して採取する汚染土壌Rに対して第1の散布用ノズル31から消臭液または消臭懸濁液Wを散布する。なお、この際、一緒に第2の散布用ノズル32からも消臭液または消臭懸濁液Wを散布しても良い。これにより、表面からある一定の深さの範囲Uまでは消臭液または消臭懸濁液Wが浸透しているので、汚染土壌から発生する臭気は抑えられる。
【0079】
次に、掘削採取部3で消臭液または消臭懸濁液Wが浸透している部分Uの汚染土壌を採取する。この時、掘削採取部3の大きさにより、消臭液または消臭懸濁液Wが浸透している部分Uの深さより深く掘削を行う場合がある。その場合は、消臭液または消臭懸濁液が浸透していない新たな汚染土壌面Vが現れ、臭気の発生原因となる。そこで、第1の散布用ノズル31から新たな汚染土壌面Vに向けて消臭液または消臭懸濁液Wを散布し臭気を低減させる。これにより、新たな汚染土壌面Vから発生する臭気を低減させることができる。
【0080】
一方、掘削採取部3によって採取された汚染土壌R’中には消臭液または消臭懸濁液Wが浸透していない部分の汚染土壌が存在し、その部分が臭気を発生させる場合がある。しかし、第2の散布用ノズル32から消臭液または消臭懸濁液Wを散布することにより、その臭気を低減させることができる。
【0081】
以上のように、本発明の汚染土壌採取装置は、そのアーム33の外側の一部に第1の散布用ノズル31、内側に第2の散布用ノズル32を設けることにより、汚染土壌を掘削し採取する際に発生する臭気を低減し、また臭気の拡散を防止しながら、掘削採取作業を行うことができる装置である。
【符号の説明】
【0082】
1 土留め壁、 2、21 ノズル、 2’、21’ 管、 3 掘削採取部、 31 第1の散布用ノズル、 32 第2の散布用ノズル、 33 アーム、 10 仕切り用柵、 R 掘削汚染土壌、 R’ 採取された汚染土壌、 S 法面、 T土壌、 U 消臭液が浸透している部分、 V 新しい汚染土壌面、 W 消臭液または消臭懸濁液、 X 液体カーテン(消臭液または消臭懸濁液)、 Y 空間、 Z 領域
【先行技術文献】
【特許文献】
【0083】
【特許文献1】特開2006−75799号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染土壌を土壌採取装置によって掘削して採取する際に発生する臭気を低減するための臭気低減方法であって、
散布装置により散布される消臭液または消臭懸濁液によって形成される液体カーテンで掘削領域を区画する第1工程と、
前記土壌採取装置の掘削採取部を前記液体カーテンの外側から該液体カーテンを通過させて液体カーテンの内側にある前記掘削領域に至らせて前記汚染土壌を掘削し前記掘削採取部に採取する第2工程と、
前記第2工程で前記掘削採取部内に保持された汚染土壌を前記液体カーテンを通過させて他の場所へ移す第3工程と、を有することを特徴とする汚染土壌の掘削の際における臭気低減方法。
【請求項2】
請求項1に記載された臭気低減方法において、前記第2工程では前記液体カーテンを形成する消臭液または消臭懸濁液が前記掘削領域上に降りかかる状態で前記汚染土壌を掘削し前記採取部に採取することを特徴とする汚染土壌の掘削の際における臭気低減方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された臭気低減方法であって、土留め壁および/または支保工が設けられている場合に、前記第1工程における消臭液または消臭懸濁液は土留め壁および/または支保工に設けられたノズルから散布されることを特徴とする汚染土壌の掘削の際における臭気低減方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載された臭気低減方法であって、仕切り用の柵が設けられている場合に、前記第1工程における消臭液または消臭懸濁液は柵に設けられたノズルから散布されることを特徴とする汚染土壌の掘削の際における臭気低減方法。
【請求項5】
請求項4に記載された臭気低減方法において、前記柵の隙間に前記液体カーテンが形成されていることを特徴とする汚染土壌の掘削の際における臭気低減方法。
【請求項6】
掘削採取部により汚染土壌を掘削し採取する土壌採取装置であって、
消臭液または消臭懸濁液を散布する第1の散布用ノズルと第2の散布用ノズルと、を備え、
第1の散布用ノズルは掘削する汚染土壌面に消臭液または消臭懸濁液を散布するように構成され、
第2の散布用ノズルは掘削採取部により掘削した汚染土壌を該掘削採取部内に保持した状態で、該汚染土壌に消臭液または消臭懸濁液を散布するように構成されていることを特徴とする汚染土壌採取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−188261(P2010−188261A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34160(P2009−34160)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000148346)株式会社錢高組 (67)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】