説明

汚染物質含有廃水の処理方法および処理装置

【課題】化学薬品や触媒を用いずに、安価で環境に悪影響を与えることがない汚染物質含有廃水の処理方法および処理装置をえることにある。
【解決手段】汚染物質含有廃水を貯える処理槽2と、この処理槽2内の汚染物質含有廃水Aに超音波を照射する超音波照射装置3と、上記処理槽2に多孔質粒子粉末を添加する多孔質粒子粉末供給装置4を備えた処理装置を用い、汚染物質含有廃水に、細孔の平均内径が0.5〜10μmである多孔質粒子粉末を加え、これに超音波を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機性や還元性の汚染物質が含まれた廃水を浄化する処理方法および処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような廃水の処理方法として、廃水に超音波を照射して汚染物質を分解して浄化する方法が知られている。この処理方法は、超音波照射によって水中の汚染物質がキャビティーション効果により分解されることを利用したものであり、このような方法に関しては、多数の特許出願がなされている。
【0003】
キャビティーション効果とは、超音波を水中に照射することで音圧の低いところで溶存ガスや蒸気の気泡が発生、膨張し、音圧の高いことろではその気泡が圧縮される。この膨張と圧縮を繰り返していくうちに、気泡が臨界径に達し、ついには気泡が圧壊される。この圧壊時の断熱圧縮により数千度、数百気圧という高温高圧反応場が発生し、水酸基ラジカルが発生し、これによって水中の汚染物質が分解されるものである。
【0004】
さらに、汚染物質の分解を促進する目的のために、オゾン、過酸化水素などの酸化剤、酸化チタン光触媒などの触媒を添加して共存させた状態で超音波を照射する複合型超音波利用技術が開発され、多くの特許出願がなされている。
【0005】
しかしながら、これらの複合型超音波利用技術にあっては、毒性の高い強酸化性の化学薬品や高価な触媒を大量に使用するため、環境に悪影響を与える恐れがあり、処理コストが嵩む問題があった。
【特許文献1】特開平2−212275号公報
【特許文献2】特開平3−295497号公報
【特許文献3】特開平5−228480号公報
【特許文献4】特開平8−503252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、本発明における課題は、化学薬品や触媒を用いずに、安価で環境に悪影響を与えることがない汚染物質含有廃水の処理方法および処理装置を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、汚染物質含有廃水に、細孔の平均内径が0.5〜10μmである多孔質粒子粉末を加え、これに超音波を照射することを特徴とする汚染物質含有廃水の処理方法である。
【0008】
請求項2にかかる発明は、多孔質粒子粉末の添加量が0.4〜0.6wt%であることを特徴とする請求項1記載の汚染物質含有廃水の処理方法である。
請求項3にかかる発明は、多孔質粒子粉末が石炭灰であることを特徴とする請求項1記載の汚染物質含有廃水の処理方法である。
請求項4にかかる発明は、超音波の周波数が100〜500kHzであることを特徴とする請求項1記載の汚染物質含有廃水の処理方法である。
【0009】
請求項5にかかる発明は、汚染物質含有廃水を貯える処理槽と、この処理槽内の汚染物質含有廃水に超音波を照射する超音波照射装置と、上記処理槽に多孔質粒子粉末を添加する多孔質粒子粉末供給装置を備えたことを特徴とする汚染物質含有廃水の処理装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明にあっては、排水中に石炭灰などの多孔質粒子を分散させて超音波を照射することにより、多孔質粒子の細孔内に保持されたガスがキャビティーションバブルの核となって、大量の水酸基ラジカルが生成する。この大量の水酸基ラジカルによって、汚染物質が分解される。このため、処理効率が大きく向上する。
【0011】
また、石炭灰などの多孔質粒子粉末は、化学的に不活性であって、かつ安価であるので、環境に悪影響を与えることがなく、処理コストも安価となる。
特に、石炭灰は、火力発電所から大量に排出され、その多くが管理型産業廃棄物処分場で埋立処分されているが、この石炭灰の有効利用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の処理装置の一例を示すものである。
汚染物質として、例えばフェノール、ベンゼンなどの炭化水素化合物およびそのハロゲン化物、メチレンブルーなどの染料系有機化合物、シアン化カリウムなどのシアン化合物、パラチオンなどの有機リン化合物、チウラム、シマジンなどの有機系農薬、ヒドラジン、ジチオン酸、クエン酸などのCOD成分等の有機性または還元性の化合物を含む廃水Aが管1から処理槽2に送り込まれ、ここに貯えられる。
【0013】
処理槽2は、ここに貯められた汚染物質含有廃水Aを浄化処理するものであって、金属、強化プラスチック、コンクリートなどからなる水槽である。
この処理槽2の内部の底部には、超音波照射装置3が設けられ、処理槽2内の廃水Aに超音波が照射されるようになっている。超音波照射装置3には、周知のものが用いられる。
【0014】
処理槽2の上方には、多孔質粒子粉末(以下、粉末と略記することがある)を処理槽2内の廃水Aに添加するための多孔質粒子粉末供給装置4が設けられている。
この多孔質粒子粉末供給装置4は、粉末を貯蔵するサイロ部4aと、このサイロ部4aの底部に設けられた計量投下部4bとから構成され、サイロ部4aに貯蔵された粉末を、別途設置された制御装置等からの添加の指示信号等によって所定量落下させて処理槽2内に投入できるようになっている。
【0015】
そして、処理槽2内に処理すべき廃水Aが所定量貯えられたならば、多孔質粒子粉末供給装置4から所定量の粉末が廃水Aに投入され、さらに超音波照射装置3が動作して超音波が廃水Aに照射される。
【0016】
ここで使用される粉末としては、石炭灰、火山礫粒子などが挙げられ、粒子の平均粒径が10〜500μm、好ましくは50〜100μmのものが用いられる。粒子の平均粒径が10μm未満では内部の細孔が小さくなり、キャビティーションバブルの核生成の効果が小さくなり、500μmを越えると水中での多孔質粒子の撹拌、対流が悪くなり、音響場に分散する粒子が減少し、キャビティーションの核が生成しなくなる。
【0017】
また、多孔質粒子の細孔の内径は、0.5〜10μm、好ましくは1〜5μmとされ、内径が0.5μm未満では細孔内のガスが放出されにくくなり、核が生成しない。10μmを越えると細孔が大きすぎてキャビティーションが生成しない。
このため、多孔質粒子であっても、0.5μm未満の微細孔を有する粒子、例えばゼオライトなどでは効果が得られない。
【0018】
また、粉末の添加量は、廃水量に対して、0.4〜0.6wt%とされ、0.4wt%未満、0.6wt%を越えると、後述の実験例からも汚染物質の分解率が低下する。これは、0.4wt%未満では、キャビティーション効果の増大が得られず、0.6wt%を越えると超音波が多孔質粒子に吸収、分散されてキャビティーションの生成が抑制されるものと考えられ、この濃度範囲では、大量の水酸基ラジカルが生成する。この添加量は、汚染物質の種類、濃度には無関係である。
【0019】
超音波の周波数は、100〜500kHzの範囲が好適であり、100kHz未満ではキャビティーションの衝撃波は大きいものの断熱圧縮が小さいことからラジカルの生成量が少ない。500kHzを越えるとキャビティーション自体の生成が困難となる。
超音波の出力は、処理槽2の容量によって左右されるが、容量10mでは、出力3〜30kWの範囲が好ましい。
処理時間は、30〜60分とすることが好ましい。
処理温度は、常温で十分である。超音波照射にともなって液温が30〜50℃に上昇するので、敢えて加熱する必要はない。
【0020】
これにより廃水の処理が行われ、廃水に含まれている汚染物質が分解される。
処理後の廃水は、管5を通って、処理槽2の下流に配置された沈殿槽6に送られここで静置されて、分散している多孔質粒子を沈降させて分離する。上澄液は、処理水として管7から系外に排出される。
【0021】
沈殿槽6の底部に堆積した多孔質粒子粉末は、必要に応じて、管8から抜き出され、弁9を介して多孔質粒子粉末供給装置4へ返送されるようになっており、さらには弁10、管11を介して系外に排出されるようにもなっている。
【0022】
このような汚染物質含有廃水の処理方法にあっては、水中への超音波照射によって発生するキャビティーションの核が、多孔質粒子の存在によって大幅に増加し、これによって大量の水酸基ラジカルが生成し、汚染物質の分解効率が大きく向上する。
【0023】
また、多孔質粒子粉末は化学的に不活性であるので、環境に悪影響を与えることがない。また、多孔質粒子粉末は安価に入手できるので、処理コストも安価に抑えられ、特に石炭灰を用いれば、これをほとんど無料で入手でき、極めて安価に処理を実施できる。
【0024】
以下、実験例を示す。
(例1)
汚染物質含有廃水として、濃度10ppmのフェノール水溶液を用いた。この水溶液1リットルをガラスビーカーに入れた。ビーカーの外側底部に超音波照射装置を置き、水溶液に対して周波数200kHzの超音波を出力300Wで照射した。また、平均粒径75μm、細孔の平均径3.0μmの石炭灰を0.5wt%となるように添加した。超音波照射時間を60分とした。フェノール水溶液の水温は25℃とした。
【0025】
以上の条件で処理を行い、フェノールの分解速度定数を求めた。
比較のために、超音波を照射しただけの場合、石炭灰を添加して単に撹拌しただけの場合についても分解速度定数を求めた。
結果を図2に示す。
【0026】
図2に示したように、超音波の照射のみでも分解は起こるが、石炭灰を添加すると、その分解速度定数は2倍以上になった。石炭灰の添加のみでは全く効果がないこと明らかになった。
【0027】
(例2)
例1において、石炭灰の添加量を0.0〜1.5wt%の範囲で変化させた。この場合の分解速度定数の変化を図3に示す。
図3の結果から、石炭灰の添加量が0.0〜0.4wt%までは添加量の増加に比例して分解速度定数は上昇したが、0.4〜0.6wt%の添加量をピークにそれ以上添加しても分解速度定数は増加せず、逆に減少していった。これは、過剰な石炭灰の添加により、超音波が石炭灰に吸収、分散され、キャビティーションの生成が抑制されたものと考えられる。これより、石炭灰の最適添加量は0.4〜0.6wt%であることが明らかになった。
【0028】
(例3)
例1において、石炭灰以外の粒子粉末として、鉄粒、ガラスビーズ、アルミナ、ゼオライト、カオリンをそれぞれ0.5wt%添加して、それぞれの分解速度定数を求めた。
結果を図4に示す。
【0029】
図4の結果から、石炭灰の効果が最も大きいことがわかる。これは石炭灰の適度の多孔性によるものである。ゼオライトは代表的に多孔質粒子であるが、細孔の内径がサブミクロンオーダーであり、キャビティーションの核生成には、狭すぎるものと思われる。
【0030】
これに対して、石炭灰は、その細孔の内径が0.5〜10μmであるので、細孔に十分な空気が保持され、この空気が音圧の変動で容易に水中に放出されることから、キャビティーションの核生成に適していると思われる。
【0031】
(例4)
例1において、汚染物質含有廃水として、濃度6.4ppmのメチレンブルー水溶液を用いた以外は、同様にして処理を行って分解速度定数を求めた。比較のため、超音波照射のみの場合、石炭灰を添加して機械撹拌を行った場合についても分解速度定数を求めた。
結果を図5に示す。
【0032】
図5の結果から、超音波の照射のみでも分解が起こるが、石炭灰を添加すると分解速度定数は2倍以上になった。石炭灰の添加のみではほとんど分解がなされなかった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の汚染物質含有廃水の処理装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】実験例1の結果を示す図表である。
【図3】実験例2の結果を示す図表である。
【図4】実験例3の結果を示す図表である。
【図5】実験例4の結果を示す図表である。
【符号の説明】
【0034】
2・・処理槽、3・・超音波照射装置、4・・多孔質粒子粉末供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染物質含有廃水に、細孔の平均内径が0.5〜10μmである多孔質粒子粉末を加え、これに超音波を照射することを特徴とする汚染物質含有廃水の処理方法。
【請求項2】
多孔質粒子粉末の添加量が0.4〜0.6wt%であることを特徴とする請求項1記載の汚染物質含有廃水の処理方法。
【請求項3】
多孔質粒子粉末が石炭灰であることを特徴とする請求項1記載の汚染物質含有廃水の処理方法。
【請求項4】
超音波の周波数が100〜500kHzであることを特徴とする請求項1記載の汚染物質含有廃水の処理方法。
【請求項5】
汚染物質含有廃水を貯える処理槽と、この処理槽内の汚染物質含有廃水に超音波を照射する超音波照射装置と、上記処理槽に多孔質粒子粉末を添加する多孔質粒子粉末供給装置を備えたことを特徴とする汚染物質含有廃水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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